説明

車両内装材用合成皮革及びその製造方法

【課題】天然皮革調の触感や風合いと、耐摩耗性などの耐久性に優れた合成皮革を、環境負荷の少ない工程で製造できるようにする。
【解決手段】繊維質基材に、ウレタンポリイソシアネートプレポリマーの湿気硬化反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる接着層、ウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤との反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる表皮層、およびポリウレタン樹脂からなる保護層が順に積層されてなる合成皮革である。表皮層に用いられるウレタンポリオールプレポリマーは、ポリエーテルポリオールを含むポリオールとポリイソシアネートを反応させてなるものであって、該ウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤との重量和に対するポリエーテルポリオールの重量の割合が40重量%以上である。表皮層を構成するポリウレタン樹脂の100%モジュラス値が5〜50N/cm、表皮層の発泡度が1.3〜2.0倍である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然皮革調の触感や風合いを有し、車両内装材として特に好適に用いられる合成皮革及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成皮革は天然皮革の代替品として、あるいは、天然皮革以上に良好な物性を備えた皮革素材として、車両内装材に用いられている。かかる合成皮革は、天然皮革調の触感や風合いを得るために、一般に、繊維質からなる基材(例えば、不織布、織物、編物など)にポリウレタン樹脂層を積層して形成される。
【0003】
天然皮革調の触感や風合いを有する合成皮革としては、例えば、繊維質基材にポリウレタン樹脂を含浸または塗布した後、ポリウレタン樹脂を湿式凝固させて湿式微多孔層を形成し、更に該湿式微多孔層表面にポリウレタン樹脂表皮層を形成したものや、ポリウレタン樹脂を湿式凝固させて得られた湿式銀層を接着剤を介して繊維質基材と接合したもの(ともに湿式合成皮革)が挙げられる(特許文献1〜3)。
【0004】
一方、耐摩耗性などの物性に優れた合成皮革としては、例えば、分子末端にイソシアネート基を有するホットメルトウレタンプレポリマー、いわゆる湿気硬化型ホットメルトポリウレタン樹脂を用いて表皮層を形成した合成皮革が挙げられる(特許文献4)。
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に挙げられる合成皮革は、湿式微多孔層があるために、車両内装材用合成皮革として十分な耐摩耗性が得られないという問題や、製造過程で溶剤を使用するため環境負荷が大きいという問題がある。
【0006】
一方、特許文献4に挙げられる合成皮革は、湿気硬化型ホットメルトポリウレタン樹脂からなる表皮層を直接繊維質基材と貼り合わせるため、ポリウレタン樹脂表皮層内に不均一な孔が形成されて、触感や風合いが粗硬になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−44173号公報
【特許文献2】特開平06−108368号公報
【特許文献3】特開平09−31859号公報
【特許文献4】特開2005−273131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、環境負荷が少なく、天然皮革調の触感や風合いと、車両内装材用合成皮革として十分な耐久性、特には耐摩耗性を兼ね備えた合成皮革及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車両内装材用合成皮革は、繊維質基材と、ウレタンポリイソシアネートプレポリマーの湿気硬化反応により形成されるポリウレタン樹脂からなり前記繊維質基材の一方面に形成された接着層と、ウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤との反応により形成されるポリウレタン樹脂からなり前記接着層上に形成された表皮層と、前記表皮層上に形成されたポリウレタン樹脂からなる保護層と、を備えてなる。前記表皮層の形成に用いられるウレタンポリオールプレポリマーは、ポリエーテルポリオールを含むポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させてなるものであって、前記ウレタンポリオールプレポリマーと前記ウレタン硬化剤との重量和に対するポリエーテルポリオールの重量の割合が40重量%以上である。そして、前記表皮層を構成するポリウレタン樹脂の100%モジュラス値が5〜50N/cmであり、前記表皮層の発泡度が1.3〜2.0倍である。
【0010】
また、本発明に係る車両内装材用合成皮革の製造方法は、
加熱状態にある前記ウレタンポリオールプレポリマーと前記ウレタン硬化剤とを混合してプレポリマー組成物を調製する工程と、
加熱状態の前記プレポリマー組成物を、離型性基材上に塗布して前記表皮層を形成する工程と、
加熱状態の前記ウレタンポリイソシアネートプレポリマーを、前記表皮層上に塗布して該塗布面に前記繊維質基材を貼り合わせる工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、天然皮革調の触感や風合いと、耐摩耗性などの耐久性に優れた合成皮革を、環境負荷の少ない工程で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両内装材用合成皮革の概略断面図である。
【図2】前記車両内装材用合成皮革の製造段階における概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る車両内装材用合成皮革は、繊維質基材の一方の面に、ウレタンポリイソシアネートプレポリマーの湿気硬化反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる接着層、ウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤との反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる表皮層、およびポリウレタン樹脂からなる保護層が順に積層されてなるものである。
【0014】
本発明に用いられる繊維質基材は特に限定されるものでなく、織物、編物、不織布などの繊維質布帛や、天然皮革などを挙げることができ、目的に応じて適宜選択すればよい。繊維質布帛において繊維の種類は特に限定されるものでなく、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維など、従来公知の繊維を挙げることができ、これらが2種以上組み合わされていてもよい。なかでも強度や加工性の点から、合成繊維からなる編物、特にポリエステル繊維からなる編物が好ましく用いられる。
【0015】
本発明に係る車両内装材用合成皮革は、図1にその一実施形態を示すように、上述の繊維質基材1の一方の面に、接着層2、表皮層3、および保護層4(これらはいずれもポリウレタン樹脂からなる)が順に積層されてなるものである。
【0016】
はじめに、表皮層について説明する。
【0017】
本発明において表皮層は、ウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤の反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる。ここで、ウレタンポリオールプレポリマーは、分子末端に水酸基を有するウレタンプレポリマーのことである。ポリウレタン樹脂は、周知の通り、ウレタン結合(−NHCOO−)を有する高分子化合物の総称であり、一般にポリオールとポリイソシアネートを反応(架橋・硬化反応)させることによって製造される。ウレタンプレポリマーは、ポリオールとポリイソシアネートの反応を適当なところで止めたものであり、主鎖中にウレタン結合を有し、ポリウレタン樹脂を形成する際の主剤として用いられる。ウレタンプレポリマーには、製造時のポリオールとポリイソシアネートの比率によって、分子末端に水酸基を有するウレタンポリオールプレポリマーと、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンポリイソシアネートプレポリマーの2つがある。そのうち、表皮層では、ウレタンポリオールプレポリマーを選択して用いるものとする。ウレタンポリオールプレポリマーの分子末端に存在する水酸基が、ウレタン硬化剤として用いられるポリイソシアネートのイソシアネート基と反応してウレタン結合を生成し、ポリウレタン樹脂が形成される。また、イソシアネート基は水酸基との反応以外に大気中の水分(湿気)と反応して炭酸ガスを発生する。こうして、表皮層は多数の孔が形成された発泡層となる。
【0018】
かかるウレタンポリオールプレポリマーは、ポリオールとポリイソシアネートとを、ポリオールが有する水酸基が、ポリイソシアネートが有するイソシアネート基に対して過剰となる条件で反応させることにより得ることができる。
【0019】
ウレタンポリオールプレポリマーを製造する際に使用するポリオールとしては、天然皮革調の触感や風合いを得るために、ポリエーテルポリオールを含んでいることが肝要である。また、ポリエーテルポリオールとともに従来公知の他のポリオールを併用することができ、このような他のポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール、ひまし油ポリオール、シリコーン変性ポリオールなどを挙げることができ、これらを組み合わせて用いることができる。
【0020】
一方、ウレタンポリオールプレポリマーを製造する際に使用可能なポリイソシアネートは特に限定されるものでなく、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートあるいは脂環族ジイソシアネート、および4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の2量体および3量体を含むポリメリックMDIなどを挙げることができる。なかでも、硬化反応のコントロールが容易であるという点で、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましい。
【0021】
ポリオールとポリイソシアネートを反応させる際の、水酸基/イソシアネート基の当量比は1.1〜3.5であることが好ましく、より好ましくは1.2〜2.5であり、更に好ましくは1.2〜1.8である。当量比が1.1未満であると、プレポリマーの両末端を水酸基とすることが難しく、プレポリマーに残存するイソシアネート基が周囲の湿気と反応することにより分子量が増加し、粘度が増加する結果、作業性が悪くなる虞がある。当量比が3.5を超えると、プレポリマーとウレタン硬化剤を反応させる際、未反応の水酸基が残り、硬化して得られるポリウレタン樹脂の物性が不良となる虞がある。
【0022】
ウレタンポリオールプレポリマーを製造するには、従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、水分を除去したポリオールとポリイソシアネートを所定の割合で混合後、加熱してバッチ方式で反応させる方法、あるいは水分を除去したポリオールとポリイソシアネートをそれぞれ加熱して、所定の割合で押出機に投入して連続押出反応方式で反応させる方法などを採用することができる。
【0023】
かくして得られるウレタンポリオールプレポリマーの軟化温度は、20〜100℃であることが好ましく、より好ましくは40〜70℃である。軟化温度が20℃未満であると、硬化して得られるポリウレタン樹脂の軟化温度が低く、耐熱性や強度全般が不良となる虞がある。軟化温度が100℃を超えると、加工に適した粘性を得るのに高温を要し、作業性が悪くなる虞がある。
【0024】
ウレタンポリオールプレポリマーには、必要に応じて、硬化して得られるポリウレタン樹脂の物性を損なわない範囲内で、ウレタン化触媒、架橋剤、シランカップリング剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、発泡剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、染料、顔料、難燃剤、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、結晶水含有化合物、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、不活性気体、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤、増粘剤などの任意成分を、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、工程負荷の軽減や合成皮革の物性向上のために、ウレタン化触媒を用いることが好ましい。
【0025】
ウレタンポリオールプレポリマーと反応させる上記ウレタン硬化剤としては、ポリイソシアネートが用いられる。ポリイソシアネートは特に限定されるものではなく、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、変性ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート(IPDI)、キシレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリフェニルポリメチレンポリイソシアネート、カルボジイミド基を含むポリイソシアネート、アルファネート基を含むポリイソシアネート、イソシアヌレート基を含むポリイソシアネートなどを挙げることができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、プレポリマーとの反応速度に比べて湿気との反応速度が高く、プレポリマーの硬化反応が完結する前に、炭酸ガスを発生させて良好な発泡状態の表皮層が得やすいという点では4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましい。
【0026】
本発明においては、ウレタン硬化剤として、上述のポリイソシアネート以外に、ポリオールとポリイソシアネートとを、ポリイソシアネートが有するイソシアネート基が、ポリオールが有する水酸基に対して過剰となる条件で反応させることにより得られる化合物を用いることができる。この化合物はウレタンポリイソシアネートプレポリマーとして、ポリウレタン樹脂を形成する際の主剤ともなり得るものである。かかるウレタンポリイソシアネートプレポリマーをウレタン硬化剤として用いることにより、ウレタン硬化剤としての働きに加えて、鎖伸長剤としての効果が得られるため、硬化して得られるポリウレタン樹脂の柔軟性を向上させることができる。
【0027】
ウレタン硬化剤として用いられる上記ウレタンポリイソシアネートプレポリマーを製造する際に使用可能なポリオールやポリイソシアネートは特に限定されるものでない。例えば、上述したウレタンポリオールプレポリマーの製造に用いられるものと同様のポリオールやポリイソシアネートを挙げることができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、ポリオールとしては、天然皮革調の触感や風合いの点からはポリエーテルポリオールが好ましく、耐光性および耐熱性の点からはポリカーボネートポリオールが好ましい。また、ポリイソシアネートとしては、硬化反応のコントロールが容易であるという点で、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましい。
【0028】
また、ポリオールとポリイソシアネートを反応させて上記ウレタンポリイソシアネートプレポリマーを製造する際の、イソシアネート基/水酸基の当量比は1.1〜10であることが好ましく、より好ましくは2〜5である。当量比が1.1未満であると、プレポリマーの両末端をイソシアネート基とすることが難しく、ウレタン硬化剤としての働きが不十分となるだけでなく、発泡性が低下する虞がある。当量比が10を超えると、硬化して得られるポリウレタン樹脂の柔軟性が悪くなる虞がある。
【0029】
本発明において表皮層は、上述のウレタンポリオールプレポリマーと上述のウレタン硬化剤の反応により形成される無溶剤系のポリウレタン樹脂からなる。ウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤を反応させる際のイソアシネート基/水酸基の当量比は1.0〜2.0であることが好ましく、より好ましくは1.1〜1.3である。当量比が1.0未満であると、未反応のプレポリマーが残り、硬化して得られるポリウレタン樹脂の物性が不良となったり、所望の発泡度が得られなかったりする虞がある。当量比が2.0を超えると、硬化反応が進みすぎて触感や風合いが粗硬になる虞がある。このとき、ウレタンポリオールプレポリマー100重量部に対するウレタン硬化剤の使用量は、プレポリマーやウレタン硬化剤の分子量にもよるが、通常3〜50重量部であり、好ましくは5〜40重量部であり、より好ましくは5〜20重量部である。
【0030】
また、ウレタンポリオールプレポリマー(ポリエーテルポリオールを含むポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させてなるものである)とウレタン硬化剤を反応させる際のウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤との重量和に対するポリエーテルポリオールの重量の割合は、40重量%以上であることが求められ、好ましくは40〜80重量%であり、より好ましくは40〜50重量%である。ここでいうポリエーテルポリオールとは、ウレタンポリオールプレポリマーを製造する際に必須の原料として用いられるポリオールをさす。さらに、ウレタン硬化剤として、ポリエーテルポリオールを用いて製造されたウレタンポリイソシアネートプレポリマーを用いる場合には、原料のポリエーテルポリオールも含まれる。ポリエーテルポリオールが40重量%未満であると、触感や風合いが粗硬になる虞がある。
【0031】
上述のポリウレタン樹脂からなる表皮層の発泡度は、1.3〜2.0倍であることが好ましく、より好ましくは1.4〜1.7倍である。発泡度が1.3倍未満であると、触感や風合いが粗硬になる虞がある。発泡度が2.0倍を超えると、耐摩耗性が不良となる虞がある。
【0032】
発泡度は、以下のように求められる。すなわち、合成皮革の厚さ方向断面の電顕写真(50倍)の表皮層部分のみをスキャナーでパソコン内に読み込み、発泡部を白く塗りつぶした後、発泡部と非発泡部の色を白と黒に2値化して白ドット部分を積分により集計する。発泡度は下記の式を用いて求められる。
発泡度=(発泡部の面積+非発泡部の面積)/非発泡部の面積
【0033】
表皮層の厚さは、100〜300μmであることが好ましく、より好ましくは150〜250μmである。厚さが100μm未満であると、触感や風合いが粗硬になる虞がある。厚さが300μmを超えると、耐摩耗性が不良となる虞がある。
【0034】
表皮層を構成するポリウレタン樹脂の100%モジュラス値は5〜50N/cmであることが求められ、好ましくは7〜40N/cmであり、より好ましくは20〜30N/cmである。100%モジュラス値が5N/cm未満であると、耐摩耗性が不良となる虞がある。100%モジュラス値が50N/cmを超えると、触感や風合いが粗硬になる虞がある。
【0035】
上述の表皮層は、接着層を介して、繊維質基材の一方の面に積層される。これにより、表皮層を繊維質基材に直接積層した場合に起こり得る、表皮層を構成するポリウレタン樹脂(プレポリマー組成物)の繊維質基材への過度の浸み込みや、表皮層内の不均一な孔の形成が抑制されて、天然皮革調の触感や風合いを具備することができる。
【0036】
本発明において接着層は、ウレタンポリイソシアネートプレポリマーの湿気硬化反応により形成されるポリウレタン樹脂からなる。ここで、ウレタンポリイソシアネートプレポリマーは、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーのことである。ウレタンポリイソシアネートプレポリマーの分子末端に存在するイソシアネート基が大気中の水分と反応することによってポリウレタン樹脂が形成される。
【0037】
ウレタンポリイソシアネートプレポリマーを製造する際に使用可能なポリオールやポリイソシアネートは特に限定されるものでない。例えば、上述した表皮層形成用のウレタンポリオールプレポリマーの製造に用いられるものと同様のポリオールやポリイソシアネートを挙げることができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでもポリオールとしては、耐加水分解性の点からポリエーテルポリオールまたはポリカーボネートポリオールが好ましく、耐光性および耐熱性の点からポリカーボネートポリオールがより好ましい。また、ポリイソシアネートとしては、硬化反応のコントロールが容易であるという点で、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましい。
【0038】
接着層の厚さは、10〜70μmであることが好ましく、より好ましくは10〜50μmであり、更に好ましくは15〜25μmである。厚さが10μm未満であると、耐摩耗性が不良となる虞がある。厚さが70μmを超えると、触感や風合いが粗硬になる虞がある。
【0039】
接着層と繊維質基材との間の剥離強度は、0.5〜5.0kg/cmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0kg/cmであり、更に好ましくは、1.0〜1.7kg/cmである。剥離強度が0.5kg/cm未満であると、耐摩耗性が不良となる虞がある。剥離強度が5.0kg/cmを超えると、触感や風合いが粗硬になる虞がある。
【0040】
本発明にかかる車両内装材用合成皮革は、繊維質基材の一方の面に、接着層を介して表皮層が積層され、さらにその表面に保護層が積層されたものである。これにより、耐摩耗性が向上する。なお、本発明において保護層は、表皮層の表面に形成されて当該表皮層を保護する最外層としての樹脂層の総称をいい、少なくとも1層の樹脂層からなるが、同一または異なる組成の2層以上の樹脂層からなることができる。
【0041】
本発明において保護層は、ポリウレタン樹脂からなる。かかるポリウレタン樹脂は特に限定されるものでなく、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂などを挙げることができ、これらを1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、耐久性および耐光性の点からポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。また、ポリウレタン樹脂の形態は、無溶剤系、ホットメルト系、溶剤系、水系を問わず、さらには、一液型、二液硬化型を問わず使用可能であり、その目的と用途に応じて適宜選択すればよい。
【0042】
ポリウレタン樹脂には、必要に応じて、ポリウレタン樹脂の物性を損なわない範囲内でウレタン化触媒、架橋剤、シランカップリング剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、発泡剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、染料、顔料、難燃剤、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、結晶水含有化合物、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、消泡剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、不活性気体、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤、艶消し剤、触感向上剤、スリップ改良剤、増粘剤などの任意成分を、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0043】
保護層の厚さは10〜150μmであることが好ましく、より好ましくは20〜80μmである。厚さが10μm未満であると、均一に保護層を形成することが困難で、部分的に保護層が欠如する虞がある。厚さが150μmを超えると、触感や風合いが粗硬になる虞がある。
【0044】
次に、本発明に係る車両内装材用合成皮革の製造方法について説明する。該製造方法は、
加熱状態にあるウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤とを混合してプレポリマー組成物を調製する工程と、
加熱状態の前記プレポリマー組成物を、離型性基材上に塗布して表皮層を形成する工程と、
加熱状態のウレタンポリイソシアネートプレポリマーを、前記表皮層上に塗布して該塗布面に繊維質基材を貼り合わせる工程、
とを含むものである。なお、表皮層を形成する工程においては、プレポリマー組成物を離型性基材上に塗布する限り、離型性基材上に直接塗布しても(下記(1)の態様)、あるいはまた、離型性基材上に保護層を形成してからその上にプレポリマー組成物を塗布してもよい(下記(2)の態様)。
【0045】
より詳細には、上記車両内装材用合成皮革は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0046】
(1)加熱状態にあるウレタンポリオールプレポリマーと、ウレタン硬化剤とを混合してなるプレポリマー組成物を離型性基材に塗布し、必要により、熱処理、エージング処理して表皮層を形成する。次いで、表皮層表面に、加熱状態にあるウレタンポリイソシアネートプレポリマーを塗布し、該ウレタンポリイソシアネートプレポリマーが粘稠性を有する状態のうちに、塗布面に繊維質基材を貼り合わせ、エージング処理する。次いで、離型性基材を剥離し、露出する表皮層表面にポリウレタン樹脂を含む組成物を塗布し、必要により、熱処理、エージング処理して保護層を形成する。
【0047】
(2)離型性基材にポリウレタン樹脂を含む組成物を塗布し、必要により、熱処理、エージング処理して保護層を形成する。次いで、保護層表面に、加熱状態にあるウレタンポリオールプレポリマーと、ウレタン硬化剤とを混合してなるプレポリマー組成物を塗布し、必要により、熱処理、エージング処理して表皮層を形成する。次いで、表皮層表面に、加熱状態にあるウレタンポリイソシアネートプレポリマーを塗布し、該ウレタンポリイソシアネートプレポリマーが粘稠性を有する状態のうちに、塗布面に繊維質基材を貼り合わせ、エージング処理する。最後に離型性基材を剥離する。
【0048】
上記(1)及び(2)のうち、保護層の厚さを容易に調整可能で、且つ均一な層形成が可能であることから、(2)の方法が好ましい。以下、(2)の方法に沿って説明するが、樹脂の塗布方法や熱処理など各種の説明事項は、基本的に(1)の方法を採用する場合にも共通する事項である。
【0049】
保護層を形成するために、ポリウレタン樹脂組成物を離型性基材に塗布する方法としては、従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、リバースロールコーター、スプレーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ナイフコーター、コンマコーター、T−ダイコーターなどの装置を用いた方法を挙げることができる。なかでも、均一な薄膜層の形成が可能であるという点で、ナイフコーターまたはコンマコーターによる塗布が好ましい。
【0050】
本発明に用いられる離型性基材は特に限定されるものでなく、ポリウレタン樹脂に対して離型性を有する樹脂(例えば、オレフィン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂など。以下、離型剤という)そのものからなるフィルム、離型剤からなる離型層を、紙、布帛、フィルムなどの基材に積層した離型紙、離型布、離型フィルムなどを挙げることができる。離型性基材は凹凸模様を有していてもよく、このような離型性基材を用いることにより、合成皮革の表面に意匠性を付与することができる。
【0051】
ポリウレタン樹脂組成物の塗布厚は、前記保護層の厚さに応じて適宜設定すればよい。
【0052】
次いで、必要により熱処理を行う。熱処理は、ポリウレタン樹脂組成物中の溶媒を蒸発させ、樹脂を乾燥させるために行われる。また、熱処理は、熱によって架橋反応を起こす架橋剤を用いる場合や、二液硬化型の樹脂を用いる場合にあっては、反応を促進し、十分な強度を有する皮膜を形成するために行われる。熱処理温度は50〜150℃であることが好ましく、より好ましくは60〜120℃である。熱処理温度が50℃未満であると、熱処理に時間がかかり、工程負荷が大きくなったり、樹脂の架橋が不十分となって耐摩耗性が不良となったりする虞がある。熱処理温度が150℃を超えると、合成皮革の風合いが粗硬になる虞がある。また、熱処理時間は2〜20分間であることが好ましく、より好ましくは2〜10分間である。熱処理時間が2分間未満であると、樹脂の架橋が不十分となって耐摩耗性が不良となる虞がある。熱処理時間が20分間を超えると、加工速度が遅くなり工程負荷が大きくなる虞がある。
【0053】
なお、ポリウレタン樹脂として、ホットメルト系の樹脂を用いる場合にあっては、加熱溶融した樹脂を離型性基材に塗布した後、冷却することにより形成することができ、熱処理は不要である。
【0054】
さらに、必要によりエージング処理を行い、上述の反応を完結させる。かくして、離型性基材上に保護層が形成される。
【0055】
次いで、離型性基材上に形成された保護層表面に、加熱状態にあるウレタンポリオールプレポリマーと、ウレタン硬化剤とを混合してなるプレポリマー組成物を塗布する。
【0056】
ウレタンポリオールプレポリマーの加熱温度は、ウレタンポリオールプレポリマーの軟化温度にあわせて適宜設定すればよく、軟化温度よりも好ましくは10〜80℃、より好ましくは20〜60℃高い温度に設定する。加熱温度がプレポリマーの軟化温度より10℃未満で高い温度であると、プレポリマーの粘度が高く、塗布時の作業性が悪くなる虞がある。加熱温度がプレポリマーの軟化温度よりも80℃を超えて高い温度であると、硬化反応のコントロールが不可能となる虞がある。加熱温度は通常、30〜150℃、好ましくは40〜120℃の範囲で設定する。なお、プレポリマーの加熱は、温度制御可能な原料タンクにて行われる。
【0057】
加熱状態にあるウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤との混合には、加熱保温できる構造のミキシングヘッドが用いられ、両者を所定の割合で混合、攪拌した後、塗布装置に供給される。
【0058】
保護層表面にプレポリマー組成物を塗布する方法としては、従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、スプレーコーター、ロールコーター、ナイフコーター、コンマコーター、またはT−ダイコーターなどの装置を用いた方法を挙げることができる。なかでも均一な薄膜層の形成が可能であるという点で、ナイフコーターまたはコンマコーターによる塗布が好ましい。
【0059】
プレポリマー組成物の塗布厚は50〜230μmであることが好ましく、より好ましくは100〜200μmである。塗布厚をこの範囲に設定することにより、塗布厚の好ましくは1.3〜2.0倍、より好ましくは1.4〜1.7倍の厚さを有する表皮層を得ることができ、好ましくは100〜300μm、より好ましくは150〜250μmの厚さを有する表皮層となる。
【0060】
プレポリマー組成物を離型性基材に塗布した後、好ましくは熱処理を行う。ウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤との硬化反応は常温で進行するため、熱処理は必ずしも要さないが、熱処理により硬化反応が促進されるため、生産効率の点では熱処理を行うことが好ましい。
【0061】
このときの熱処理温度としては、選択するプレポリマーやウレタン硬化剤、任意で用いられる添加剤、塗布厚などによって適宜選択可能であるが、90〜150℃であることが好ましく、より好ましくは100〜130℃である。熱処理温度が90℃未満であると、熱処理を行うことによる反応促進効果が十分に得られない虞がある。熱処理温度が150℃を超えると、硬化反応のコントロールができず加工安定性に欠ける虞がある。また、熱処理時間は30秒間〜5分間であることが好ましく、より好ましくは1〜3分間である。熱処理時間が30秒間未満であると、熱処理を行うことによる反応促進効果が十分に得られない虞がある。熱処理時間が5分間を超えると、工程負荷が大きくなる虞がある。
【0062】
さらに、必要によりエージング処理を行う。ウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤との反応速度は、選択するプレポリマーやウレタン硬化剤、任意で用いられる添加剤(特にウレタン化触媒)の種類や量によって大きく変動するため、選択する条件によってエージング処理条件を適宜設定する必要があるが、通常、室温で1日〜1週間程度行われる。この過程で、プレポリマーとウレタン硬化剤との硬化反応が完結する。最終的に、硬化反応が未完結であると、耐摩耗性などの物性が不良となる虞がある。なお、後述するように、ウレタンポリイソシアネートプレポリマーを介して表皮層と繊維質基材を貼り合わせ後も、プレポリマーを湿気硬化反応させるため、エージング処理が行われる。したがって、この時点において、ウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤との硬化反応は、必ずしも完結している必要はなく、後の工程に影響を及ぼさない程度に、進行していればよい。
【0063】
次いで、離型性基材上に形成された保護層および表皮層の表皮層表面に、加熱状態にあるウレタンポリイソシアネートプレポリマーを塗布する。ウレタンポリイソシアネートプレポリマーの加熱温度は、選択したウレタンポリイソシアネートプレポリマーにあわせて適宜設定すればよい。塗布方法としては、従来公知の種々の方法を採用することができ、特に限定されるものではない。例えば、スプレーコーター、ロールコーター、ナイフコーター、コンマコーターまたはT−ダイコーターなどの装置を用いた方法を挙げることができる。なかでも均一な薄膜層の形成が可能であるという点で、ナイフコーターまたはコンマコーターによる塗布が好ましい。
【0064】
ウレタンポリイソシアネートプレポリマーの塗布厚は、前記接着層の厚さに応じて適宜設定すればよい。
【0065】
次いで、ウレタンポリイソシアネートプレポリマー(その一部は湿気硬化反応が進み、ポリウレタン樹脂となっている)が粘稠性を有する状態のうちに、該ウレタンポリイソシアネートプレポリマーの表面に繊維質基材を貼り合わせ、室温まで冷却し、エージング処理する。
【0066】
ウレタンポリイソシアネートプレポリマーと大気中の水分との反応速度は、選択するプレポリマーや任意で用いられる添加剤(特にウレタン化触媒)の種類や量によって大きく変動するため、選択する条件によってエージング処理条件を適宜設定する必要があるが、通常、室温で1日〜1週間程度行われる。この過程で、プレポリマーの湿気硬化反応が完結する。硬化反応が未完結であると、耐摩耗性などの物性が不良となる虞がある。
【0067】
これにより、図2に示すように、保護層4の表面に離型性基材5を持つシート状物が得られ、最後に離型性基材5を剥離することにより、本発明の車両内装材用合成皮革を得ることができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例中の「部」は重量基準であるものとする。また、得られた合成皮革の評価は以下の方法に従った。
【0069】
[触感]
A4サイズ(幅210mm、長さ297mm)の試験片を1枚採取し、平板の上に置いた状態で、指の腹部分で合成皮革表面(保護層の表面)を押さえながら10cmゆっくり移動させたときの触感を、以下の基準に従って判定した。
○:表面が歪み、指の腹に合成皮革表面が吸い付くような感覚のあるもの
△:表面がわずかに歪むが、指の腹に合成皮革表面が吸い付くような感覚のないもの
×:表面が全く歪まず、指の腹に合成皮革表面が吸い付くような感覚のないもの
【0070】
[風合い]
150mm四方の試験片を1枚採取し、触感計測器(商品名「ST300 Leather Softness Tester」、BLC Leather Technology Center Ltd.製)を用いて、500gの荷重で押し込んだときの、歪み測定値(BLC値)を測定した。歪み測定値が大きいものほど柔らかい風合いであることを示す。
【0071】
[耐摩耗性]
幅70mm、長さ300mmの大きさの試験片を、タテ方向から1枚採取し、裏面に幅70mm、長さ300mm、厚さ10mmの大きさのウレタンフォームを添えた。ウレタンフォームの下面中央に直径4.5mmのワイヤーを設置し、ワイヤー上をワイヤーと平行に綿布をかぶせた摩擦子に荷重9.8Nを掛けて摩耗した。摩擦子は試験片の表面上140mmの間を60往復/分の速さで20000回往復摩耗した。摩耗後の試験片を目視で観察し、以下の基準に従って判定した。
○:摩耗の跡がほとんど確認できないもの
△:摩耗の跡が確認できるが、繊維質基材の露出のないもの
×:摩耗の跡が確認でき、繊維質基材の露出のあるもの
【0072】
[100%モジュラス値]
プレポリマー組成物をフラットな離型紙(商品名「EU130TPD」、リンテック株式会社製)上に、バーコーターを用いて、硬化膜の厚さが200μmとなるように塗布し、乾燥機にて120℃で2分間熱処理後、室温20±2℃、湿度65±5%RHの状況下で1日間エージング処理して硬化膜を作成した。該硬化膜から幅30mm(B)、長さ100mmの大きさの試験片を3枚採取し、室温20±2℃、湿度65±5%RHの状況下で、引張試験機(商品名「オートグラフAG−X」、株式会社島津製作所製)のつかみ具に、つかみ幅30mm、つかみ間隔50mmで取り付け、引張速度200mm/分で引っ張り、ストローク距離が50mmになったときの荷重(P)を測定し、下記式にて100%モジュラス値を算出した。結果は、3点の平均値で示した。100%モジュラス値が小さいほど柔軟であることを示す。
100%モジュラス値(N/cm)
=P(ストローク距離が50mmになったときの荷重・N)/B(硬化膜の幅・cm)
【0073】
[剥離強度]
幅30mm、長さ120mmの大きさの試験片を、タテ方向から3枚採取し、ポリウレタン樹脂層と繊維質基材を試験片の片端から40mm剥離した。室温20±2℃、湿度65±5%RHの状況下で、剥離したポリウレタン樹脂層と繊維質基材を、引張試験機(商品名「オートグラフAG−100A」、株式会社島津製作所製)のつかみ具に、つかみ幅30mmでたるみのないように取り付け、つかみ具の移動速度200m/分でポリウレタン樹脂層を剥離した。剥離時の最大荷重(kg/cm)を測定した。結果は、3点の平均値で示した。
【0074】
ウレタンポリオールプレポリマーは以下のように製造した。
【0075】
[製造例1]
60℃に保温した1リットルの4ツ口フラスコに、数平均分子量が2000のポリカーボネートポリオール(商品名「クラレポリオールC2090」、株式会社クラレ製)を100部、数平均分子量が2000のポリエーテルポリオール(商品名「PTMG2000」、三洋化成工業株式会社製)を100部入れて撹拌した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を19部入れてイソシアネート基が無くなるまで80℃にて撹拌し(当量比(水酸基/イソシアネート基)は1.3)、ウレタンポリオールプレポリマーを得た。
【0076】
[製造例2]
60℃に保温した1リットルの4ツ口フラスコに、数平均分子量が2000のポリエステルポリオール(商品名「クラレポリオールP2010」、株式会社クラレ製)を170部、数平均分子量が2000のポリエーテルポリオール(商品名「PTMG2000」、三洋化成工業株式会社製)を30部入れて撹拌した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を19部入れてイソシアネート基が無くなるまで80℃にて撹拌し(当量比(水酸基/イソシアネート基)は1.3)、ウレタンポリオールプレポリマーを得た。
【0077】
[製造例3]
60℃に保温した1リットルの4ツ口フラスコに、数平均分子量が2000のポリカーボネートポリオール(商品名「クラレポリオールC2090」、株式会社クラレ製)を200部入れて撹拌した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を15部入れてイソシアネート基が無くなるまで80℃にて撹拌し(当量比(水酸基/イソシアネート基)は1.7)、ウレタンポリオールプレポリマーを得た。
【0078】
[製造例4]
60℃に保温した1リットルの4ツ口フラスコに、数平均分子量が2000のポリカーボネートポリオール(商品名「クラレポリオールC2090」、株式会社クラレ製)を80部、数平均分子量が2000のポリエーテルポリオール(商品名「PTMG2000」、三洋化成工業株式会社製)を120部入れて撹拌した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を19部入れてイソシアネート基が無くなるまで80℃にて撹拌し(当量比(水酸基/イソシアネート基)は1.3)、ウレタンポリオールプレポリマーを得た。
【0079】
[製造例5]
60℃に保温した1リットルの4ツ口フラスコに、数平均分子量が2000のポリカーボネートポリオール(商品名「クラレポリオールC2090」、株式会社クラレ製)を30部、数平均分子量が2000のポリエーテルポリオール(商品名「PTMG2000」、三洋化成工業株式会社製)を170部入れて撹拌した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を19部入れてイソシアネート基が無くなるまで80℃にて撹拌し(当量比(水酸基/イソシアネート基)は1.3)、ウレタンポリオールプレポリマーを得た。
【0080】
[製造例6]
60℃に保温した1リットルの4ツ口フラスコに、数平均分子量が2000のポリカーボネートポリオール(商品名「クラレポリオールC2090」、株式会社クラレ製)を110部、数平均分子量が2000のポリエーテルポリオール(商品名「PTMG2000」、三洋化成工業株式会社製)を90部入れて撹拌した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を19部入れてイソシアネート基が無くなるまで80℃にて撹拌し(当量比(水酸基/イソシアネート基)は1.3)、ウレタンポリオールプレポリマーを得た。
【0081】
[製造例7]
60℃に保温した1リットルの4ツ口フラスコに、数平均分子量が2000のポリカーボネートポリオール(商品名「クラレポリオールC2090」、株式会社クラレ製)を130部、数平均分子量が2000のポリエーテルポリオール(商品名「PTMG2000」、三洋化成工業株式会社製)を70部入れて撹拌した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を19部入れてイソシアネート基が無くなるまで80℃にて撹拌し(当量比(水酸基/イソシアネート基)は1.3)、ウレタンポリオールプレポリマーを得た。
【0082】
[実施例1]
処方1(保護層処方)
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂 100部
(商品名「クリスボンNY−328」、DIC株式会社製)
ジメチルホルムアミド(DMF) 40部
カーボンブラック顔料 15部
(商品名「DIALAC BLACK L−1770S」、DIC株式会社製)
架橋剤 2部
(商品名「バーノックDN950」、DIC株式会社製)
粘度を2000cps(20±2℃)に調整した。
【0083】
処方2(表皮層処方)
製造例1のウレタンポリオールプレポリマー 100部
ウレタン硬化剤 5部
(カルボジイミド変性ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、商品名「コスモネートLL」、三井化学ポリウレタン株式会社製)
カーボンブラック顔料 2部
(商品名「ポリトンブラック」、DIC株式会社製)
アミン系ウレタン化触媒 1部
(商品名「TOYOCAT−DT」、TOSOH株式会社製)
処方2の調製法:100℃に加熱したウレタンポリオールプレポリマーに、カーボンブラック顔料、アミン系ウレタン化触媒を添加し撹拌、分散させる。次いで、40℃に加熱したウレタン硬化剤を添加し撹拌した後、直ちに、塗布操作に供する。
【0084】
上述の処方1に従い調製したポリウレタン樹脂組成物を、シボ調の凹凸模様を有する離型紙(商品名「R−8」、リンテック株式会社製)に、コンマコーターにて厚さが150μmになるようにシート状に塗布し、乾燥機にて100℃で3分間熱処理して、厚さ30μmの保護層を形成した。
【0085】
次いで、上述の処方2に従い調製したプレポリマー組成物を、離型紙上に形成された保護層表面に、コンマコーターにて厚さが150μmとなるようにシート状に塗布し、乾燥機にて100℃で5分間熱処理した。次いで、室温20±2℃、湿度65±5%RHの状況下で1日間エージング処理をして、厚さ210μmの表皮層を保護層の上に形成した。表皮層の発泡度は1.4であった。
【0086】
次いで、前記表皮層上にウレタンポリイソシアネートプレポリマー(商品名「NH230」、DIC株式会社製)を、コンマコーターにて厚さが20μmになるようにシート状に塗布した。次いで、該ウレタンポリイソシアネートプレポリマーが粘稠性を有する状態のうちにポリエステルトリコット布に貼り合わせ、マングルにて5kg/mの荷重で圧締し、室温20±2℃、湿度65±5%RHの状況下で3日間エージング処理した。次いで、離型紙を剥離して、本発明の車両内装材用合成皮革を得た。接着層の厚さは15μmであった。
【0087】
[実施例2〜6]、[比較例1〜5]
表1に従い、実施例1と同様の手順にて、合成皮革を得た。なお、実施例4〜6及び比較例5では、処方2のウレタン硬化剤として、「コスモネートLL」の代わりに、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を用いた。
【0088】
[比較例6]
接着層を形成しない以外は、実施例1とおおよそ同様の手順にて、合成皮革を得た。すなわち、実施例1と同様に離型紙上に保護層を形成した後、その表面に上述の処方2に従い調製したプレポリマー組成物をコンマコーターにて厚さが150μmとなるようにシート状に塗布し、乾燥機にて100℃で5分間熱処理した。次いで、該プレポリマー組成物が粘稠性を有する状態のうちにポリエステルトリコット布に貼り合わせ、マングルにて5kg/mの荷重で圧締し、室温20±2℃、湿度65±5%RHの状況下で1日間エージング処理をして、厚さ210μmの表皮層を保護層の上に形成した。次いで、離型紙を剥離して、合成皮革を得た。表皮層の発泡度は1.4であった。
【0089】
[比較例7]
接着層に下記の処方3に従い調製したポリウレタン樹脂組成物を用いた以外は、実施例1とおおよそ同様の手順にて、合成皮革を得た。すなわち、実施例1と同様に離型紙上に保護層と表皮層を形成した後、該表皮層上に下記の処方3に従い調製したポリウレタン樹脂組成物を、コンマコーターにて厚さが20μmになるようにシート状に塗布し、ポリエステルトリコット布に貼り合わせ、マングルにて5kg/mの荷重で圧締し、乾燥機にて120℃で2分間熱処理した。次いで、離型紙を剥離して、合成皮革を得た。接着層の厚さは15μmであった。
【0090】
処方3
ポリカーボネート系ウレタン樹脂 100部
(商品名「クリスボンTA−205−FT」、DIC株式会社製)
架橋剤 10部
(商品名「バーノックDN−950」、DIC株式会社製)
架橋促進剤 1部
(商品名「クリスボンアクセルT−81」、DIC株式会社製)
DMF/MEK(3/2) 60部
粘度を4500cps(20±2℃)に調整した。
【0091】
[比較例8]
表皮層に下記の処方4に従い調製したプレポリマー組成物を用いた以外は、実施例1と同様の手順にて、合成皮革を得た。すなわち、実施例1と同様に離型紙上に保護層を形成した後、その表面に下記の処方4に従い調製したプレポリマー組成物をコンマコーターにて厚さが150μmとなるようにシート状に塗布し、乾燥機にて100℃で5分間熱処理した。次いで、室温20±2℃、湿度65±5%RHの状況下で1日間エージング処理をして、厚さ225μmの表皮層を保護層の上に形成した。表皮層の発泡度は1.5であった。次いで、実施例1と同様に接着層を介してポリエステルトリコット布に貼り合わせることで、合成皮革を得た。接着層の厚さは15μmであった。
【0092】
処方4
ウレタンポリイソシアネートプレポリマー 100部
(商品名「NH230」、DIC株式会社製)
カーボンブラック顔料 2部
(商品名「ポリトンブラック」、DIC株式会社製)
【0093】
【表1】

【0094】
表1に示すように、実施例の合成皮革であると、天然皮革調の触感と風合いを有し、耐摩耗性にも優れていた。なお、実施例3および6では、表皮層の発泡度が他の実施例に比べて低いために、触感がやや劣っていたが、ほぼ天然皮革調の触感を有するものであった。
【0095】
これに対し、比較例1では、表皮層を構成するポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリオールの重量が規定範囲に満たないために触感がやや劣っており、また、前記ポリウレタン樹脂の100%モジュラス値が規定範囲に満たないために耐摩耗性が劣っていた。
【0096】
比較例2では、表皮層を構成するポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリオールの重量、および、表皮層の発泡度が規定範囲に満たず、加えて、前記ポリウレタン樹脂の100%モジュラス値が規定範囲を超えるために、触感が劣っていた。
【0097】
比較例3では、表皮層の発泡度が規定範囲を超え、加えて、表皮層の厚さが好適範囲を超えるために、耐摩耗性が劣っていた。
【0098】
比較例4では、表皮層の発泡度が規定範囲に満たず、加えて、表皮層の厚さが好適範囲に満たないために触感が劣っており、また、表皮層の厚さが極端に小さいために耐摩耗性が劣っていた。
【0099】
比較例5では、表皮層を構成するポリウレタン樹脂中のポリエーテルポリオールの重量が規定範囲に満たず、加えて、前記ポリウレタン樹脂の100%モジュラス値が規定範囲を超えるために、触感が劣っていた。
【0100】
比較例6では、接着層を別途設けることなく、表皮層が接着層を兼ねることにより、表皮層を構成するポリウレタン樹脂が繊維質基材に浸透し、表皮層に不均一な孔が形成されて、触感が劣っていた。
【0101】
比較例7では、接着層に溶剤系ポリウレタン樹脂を用いることにより、樹脂が繊維質基材に浸透して、触感が劣っていた。
【0102】
比較例8では、表皮層にウレタンポリイソシアネートプレポリマーを用いることにより、ポリウレタン樹脂の100%モジュラス値が規定範囲を超えるために、触感が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明に係る合成皮革は、その優れた触感、風合い、耐摩耗性に基づき、車両内装用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0104】
1…繊維質基材 2…接着層 3…表皮層 4…保護層 5…離型性基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維質基材と、
ウレタンポリイソシアネートプレポリマーの湿気硬化反応により形成されるポリウレタン樹脂からなり、前記繊維質基材の一方の面に形成された接着層と、
ウレタンポリオールプレポリマーとウレタン硬化剤との反応により形成されるポリウレタン樹脂からなり、前記接着層上に形成された表皮層と、
前記表皮層上に形成されたポリウレタン樹脂からなる保護層と、を備えてなり、
前記表皮層の形成に用いられるウレタンポリオールプレポリマーは、ポリエーテルポリオールを含むポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させてなるものであり、前記ウレタンポリオールプレポリマーと前記ウレタン硬化剤との重量和に対するポリエーテルポリオールの重量の割合が40重量%以上であり、
前記表皮層を構成するポリウレタン樹脂の100%モジュラス値が5〜50N/cmであり、
前記表皮層の発泡度が1.3〜2.0倍である
ことを特徴とする車両内装材用合成皮革。
【請求項2】
前記ウレタンポリオールプレポリマーは、前記ポリエーテルポリオールを含むポリオールと、前記ポリイソシアネートとを、水酸基/イソシアネート基の当量比で1.1〜3.5にて反応させてなるものである請求項1記載の車両内装材用合成皮革。
【請求項3】
前記表皮層の形成に用いられる前記ウレタンポリオールプレポリマーと前記ウレタン硬化剤とのイソシアネート基/水酸基の当量比が1.0〜2.0であり、かつ、前記ウレタンポリオールプレポリマー100重量部に対する前記ウレタン硬化剤の使用量が3〜50重量部であることを特徴とする請求項1又は2記載の車両内装材用合成皮革。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両内装材用合成皮革を製造する方法であって、
加熱状態にある前記ウレタンポリオールプレポリマーと前記ウレタン硬化剤とを混合してプレポリマー組成物を調製する工程と、
加熱状態の前記プレポリマー組成物を、離型性基材上に塗布して前記表皮層を形成する工程と、
加熱状態の前記ウレタンポリイソシアネートプレポリマーを、前記表皮層上に塗布して該塗布面に前記繊維質基材を貼り合わせる工程と、
を含む車両内装材用合成皮革の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−255163(P2010−255163A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70120(P2010−70120)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(591152698)株式会社加平 (5)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】