説明

車両接近通報装置

【課題】エンベロープを付加して歩行者が車両の接近に気付き易い音にしつつ、発音データのメモリ容量を小さくする。
【解決手段】基本発音データとエンベロープ・データとを別々とした発音データとしてメモリに記憶する。これにより、マイコン21を非常に小さなメモリ容量のものとしても、エンベロープを付加して歩行者が車両の接近に気付き易い音にしつつ、発音データのメモリ容量を小さくすることが可能な車両接近通報装置2とすることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両から音声を発生させることにより、車両が接近していることを周囲に通報する車両接近通報装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車(EV車)やハイブリッド車(HV車)などでは、その構造的に発生騒音が小さく、これらの車両の接近を歩行者が気付き難いということから、歩行者などの周囲に車両が近くにいるという認知度を上げるために擬似走行音を発生させる車両接近通報装置が搭載されつつある(例えば、特許文献1参照)。この車両接近通報装置では、発音方法として、マイコンのメモリに格納したPCM(パルス符号変調)などのデータ、つまり音声の大きさをデータコードに変換して符号化したものをそのサンプリング周期毎にD/A変換器やPWM出力器にセットして発音するという方法が用いられている。用いられる発音データは、擬似エンジン音や擬似モータ音が主流で、一定時間量のデータ(例えば、1.5秒分のデータ)を繰り返し出力することで擬似走行音を発音させる。この発音データは、複数の周波数成分を合成した和音となっており、音量を時間経過と共に上下させる「音頭部の強調、抑揚(揺らぎ)」、つまり音声や電気の波形のピークが描く曲線として表されるエンベロープを付加して、歩行者が車両の接近に気付き易い音としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−215544号公報
【特許文献2】特開2007−38937号公報
【特許文献3】特開2009−101895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エンベロープを付加した形で表現された発音データとされているため、メモリしなければならない発音データの時間量、つまり発音データの時間の長さが増大し、メモリ容量が増大してしまう。また、マイコンのメモリ容量から時間的制限を受け、発音させたい「音頭部の強調、抑揚(揺らぎ)」のエンベロープを十分に付加できないという問題があった。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、エンベロープを付加して歩行者が車両の接近に気付き易い音にしつつ、発音データのメモリ容量を小さくすることが可能な車両接近通報装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、繰返し周期毎に発音する基本発音データと、発音の音量を設定するエンベロープ・データとを別々に記憶するメモリ手段と、メモリ手段に記憶された基本発音データを読み出すと共に、基本発音データの発音出力を発生させる発音出力発生部(21、21b)と、発音出力発生部(21、21b)が出力する基本発音データの発音出力の出力波形の電圧値をエンベロープ・データに基づいて調整する電圧制御部(22)と、電圧制御部(22)で調整された後の出力波形と対応する電流を発音体(3)に流すことで、発音体(3)にて車両接近通報音の発音を行わせるアンプ(24)とを備えていることを特徴としている。
【0007】
このように、基本発音データとエンベロープ・データとを別々とした発音データとしてメモリ手段に記憶するようにしている。これにより、エンベロープ・データに基づいて、基本発音データの発音波形のピーク値がエンベロープ・データの示す音量となるように調整される。このようにすることで、エンベロープを付加して歩行者が車両の接近に気付き易い音にしつつ、発音データのメモリ容量を小さくすることが可能となる。
【0008】
具体的には、請求項2に記載したように、基本発音データは、単位時間で区画される各周波数成分を含む和音の基本発音波形、エンベロープ・データは、エンベロープ単位の1単位分の車両接近通報音を、単位時間で区画した基本発音データに1単位分の車両接近通報音のエンベロープのカーブをトレースする単位時間毎の減衰率を掛け合わせた波形にて表現するときの単位時間毎の減衰率を示すデータとされる。
【0009】
請求項3に記載の発明では、メモリ手段および発音出力発生部(21b)はマイコン(21)に備えられていると共に、該マイコン(21)には、マイコン(21)の外部に備えられた電圧制御部(22)に対して、エンベロープ・データに基づいて基本発音データの発音出力の出力波形の電圧値を調整させるための制御信号を出力する制御信号出力部(21a)が備えられ、電圧制御部(22)は、マイコンに備えられた発音出力発生部(21b)からの出力波形の電圧値を制御信号出力部(21a)から伝えられる制御信号に基づいて調整することで、エンベロープ単位の1単位分の車両接近通報音を表現することを特徴としている。
【0010】
このように、例えば、メモリ手段や発音出力発生部(21b)および制御信号出力部(21a)をマイコン(21)内に備え、マイコン(21)の外部に備えた電力制御部(22)にて基本発音データの発音出力の出力波形の電圧値を調整することができる。
【0011】
その場合、例えば、請求項4に記載したように、発音出力発生部として、基本発音データの発音出力としてPWM出力を発生させるPWM出力器(21b)を用いることができる。また、制御信号出力部(21a)としては、PWM出力器やデジタルアナログコンバータ(以下、DACという)を適用できる。
【0012】
請求項5に記載の発明では、メモリ手段および発音出力発生部および電圧制御部がマイコン(21)に備えられており、該マイコン内で、電圧制御部が発音出力発生部の出力波形の電圧値を調整することで、エンベロープ単位の1単位分の車両接近通報音を表現することを特徴としている。
【0013】
このように、メモリ手段や発音出力発生部および電圧制御部をマイコン(21)内に備え、マイコン(21)内で電圧制御部が発音出力発生部の出力波形の電圧値を調整することで、エンベロープ単位の1単位分の車両接近通報音を表現するようにしても良い。
【0014】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる車両接近通報装置を含む車両接近通報システムのブロック図である。
【図2】車両接近通報システムの作動を示したフローチャートである。
【図3】基本発音データが示す発音波形の振幅をエンベロープ・データに基づいて変更したときの波形図である。
【図4】(a)は、本実施形態にかかる車両接近通報システムによる発音波形を示した波形図、(b)は、(a)に示す発音波形の一部を拡大した図である。
【図5】エンベロープ単位の1単位分の車両接近通報音の生成イメージを示した図である。
【図6】(a)は、従来の発音データの波形図、(b)は、(a)の部分拡大図である。
【図7】従来の発音データのうちの一部を抜き出した波形図である。
【図8】他の実施形態で説明する車両接近通報装置を含む車両接近通報システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0017】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態にかかる車両接近通報装置を含む車両接近通報システムのブロック図である。この図を参照して、本実施形態にかかる車両用接近通報装置を含む車両接近通報システムについて説明する。
【0018】
図1に示すように、車両接近通報システムは、車速センサ1と車両接近通報装置2およびスピーカ3とを有した構成とされている。車両接近通報システムでは、車両接近通報装置2が車速センサ1から伝えられる車速検知信号に基づいて、ロードノイズが小さな低速走行中(例えば20km/h以下)に発音体であるスピーカ3から車両接近通報音として擬似エンジン音もしくは擬似モータ音などの擬似走行音を発音することで、車両の接近を周囲の歩行者などに通報する。なお、ここでは、車両接近通報装置2をスピーカ3と別体としているが、スピーカ3を車両接近通報装置2と一体化した構成としても良い。
【0019】
車速センサ1は、車両の走行状態検知信号として車速検知信号を出力している。このため、車両接近通報装置2は、車速センサ1より車速検知信号を入力し、車速を取得すると共に、車両が低速走行中に車速に応じた発音の制御を行う。なお、ここでは車速に応じた発音を行うようにしているが、車両の走行状態、例えばアクセル開度に応じて発音制御を行うようにすることもできる。
【0020】
車両接近通報装置2は、マイコン21と電圧制御部22とローパスフィルタ(以下、LPFという)23およびパワーアンプ(以下、AMPという)24を有している。
【0021】
マイコン21は、図示しないメモリ手段に相当するメモリや制御手段に相当する演算装置を有していると共に、PWM出力器21aおよび発音出力発生部に相当するPWM出力器21bを有した構成とされている。メモリには、発音の制御プログラムや擬似エンジン音や擬似モータ音などの車両接近通報音を表したPCMデータなどの発音データ、サンプリング周期や音量を設定するデータなどが記憶されている。マイコン21は、サンプリング周期毎に発音データを読み出し、PWM出力器21bにセットすることで、PWM出力器21bから発音させたい発音データに対応するPWM出力波形を出力する。また、PWM出力器21bによるPWM出力とは独立して、PWM出力器21aからは発音する音量(音圧レベル)に制御するための制御信号としてPWM出力波形を発生させる。
【0022】
例えば、マイコン21は、メモリに車速やアクセル開度等の車両の走行状態に対応付けた音程アップ量や音量のテーブルなどを記憶しており、演算装置にて、低速走行中の際に、車速やアクセル開度等の走行状態に対応する音程アップ量および音量を演算する。例えば、車速が大きいほど音程アップ量を大きくし、アクセル開度が大きいほど音量が大きくなるようにすることができる。そして、演算された音程アップ量に対応するサンプリング周期毎に発音データを読み込んでPWM出力器21bへセットしてPWM出力を発生させると共に、演算された音量と対応するPWM出力波形をPWM出力器21aから出力する。このような構成とすることで、車両の走行状態に応じて音程および音量を可変できるようになっている。
【0023】
電圧制御部22は、PWM出力器21aから伝えられるPWM出力波形に基づいてPWM出力器21bのPWM出力波形の電圧レベルを変化させるもので、制御信号となるPWM出力器21aのPWM出力波形が指示する電圧レベルにPWM出力器21bのPWM出力波形の電圧レベルを変化させる。したがって、例えば発音する音圧レベルが小さくなるほどPWM出力波形の電圧レベルが小さくされ、電圧制御部22から出力される。
【0024】
LPF23は、フィルタ手段に相当し、高周波のノイズ成分を除去して電圧制御部22を介して伝えられるPWM出力器21bの出力に対応する出力を発生させる。例えば、LPF23は、内蔵のコンデンサに電圧制御部22の出力に対応する電圧を蓄え、それをAMP24に出力している。
【0025】
AMP24は、図示しない定電圧源からの電圧印加に基づいてLPF23の出力と対応する電流をスピーカ3に流す。スピーカ3が発音する音圧は、AMP24から供給される電流の大きさ(振幅)に応じて決まり、AMP24から供給される電流の大きさは、PWM出力に対応するLPF23の出力波形によって決まる。このため、電圧制御部22での電圧レベルの調整に基づいてAMP24が流す電流を変化させられる。
【0026】
以上のような構成により、本実施形態にかかる車両接近通報装置を含む車両接近通報システムが構成されている。このように構成される車両接近通報システムでは、PCMデータ等の発音データを、繰り返しパターンとなる基本発音データと、発音させたい「音頭部の強調、抑揚(揺らぎ)」、つまり音量変化を示すエンベロープ・データとに分け、これらを別々にメモリに記憶させるようにしている。エンベロープ・データは、「音頭部の強調、抑揚(揺らぎ)」を十分付加できるもので、歩行者が車両の接近に気付き易い音量変化を表すデータとされている。
【0027】
具体的には、車両接近通報装置において発音する全体の車両接近通報音は、所定のエンベロープを有する車両接近通報音を1単位として、それを発音時間に対応した単位数繰り返すことで構成される。つまり、エンベロープ単位で車両接近通報音を繰り返すことで全体の車両接近通報音を構成している。従来は、このエンベロープ単位の1単位分の車両接近通報音を発音データとして記憶していため、マイコンのメモリ容量を増大させてしまったり、逆にメモリ容量から時間的制限を受けてエンベロープを十分に付加できなかった。
【0028】
これに対して、本発明者らは、車両接近通報音は、複数の周波数成分の和音からなり、エンベロープ単位の1単位分の車両接近通報音が更に「単位時間で区画される各周波数成分を含む和音の“基本発音波形”」に分解できる、または、近似できることを見出した。換言すれば、すべての擬似エンジン音や擬似モータ音等の車両接近通報音は、基本的には「単位時間で区画される各周波数成分を含む和音の“基本発音波形”」の繰り返しによって構成され、繰り返される各“基本発音波形”の音量を変化させることでエンベロープ単位の1単位分の車両接近通報音を表現でき、それを発音時間に対応した単位数繰り返すことで全体の車両接近通報音を表現できることが判った。
【0029】
このため、本実施形態では、「単位時間で区画される各周波数成分を含む和音の“基本発音波形”」を基本発音データとし、複数周期分の基本発音データを繰り返すと共に、各周期それぞれでの基本発音データの音量を変化させることで、エンベロープ単位の1単位分の車両接近通報音を表現する。基本発音データの音量を変化させるときには、基本発音データが表す“基本発音波形”に対してエンベロープのカーブに対応する減衰率を掛ければ良い。つまり、エンベロープ単位の1単位分の車両接近通報音を、単位時間で区画された基本発音データをベースとして、「音頭部の強調、抑揚(揺らぎ)」といったエンベロープのカーブをトレースする単位時間毎の減衰率を掛け合わせた波形を並べたものとして表すことができる。そして、全体の車両接近通報音は、エンベロープ単位の1単位分の車両接近通報音を発音時間に対応した単位数分繰り返すことで表すことができる。
【0030】
これを実現するために、ここでは1周期分の基本発音データのみを記憶しておくと共に、単位時間毎に繰り返される基本発音データの単位時間毎の減衰率を示すデータであるエンベロープ・データを記憶している。
【0031】
このような車両接近通報システムの作動について、図2を参照して説明する。図2は、車両接近通報システムの作動を示したフローチャートである。このフローチャートに示される各処理は、変動するキャリア周期(サンプリング周期)毎に実行される。このキャリア周期(サンプリング周期)は、発音する車両接近通報音の音程にて決まる。例えば、車速やアクセル開度等の走行状態に応じて音程アップ量が決められ、その音程アップ量を予め決められている基準音程に足すことで車両接近通報音の音程が決まる。この音程と対応する値としてキャリア周期が演算される。
【0032】
まず、ステップ100において発音データとして記憶してある基本発音データ(PWM出力器21bにセットする発音データ)を読み出したのち、ステップ105においてPWM出力器21bに読み込んだ基本発音データをセットし、基本発音出力として出力する。続いて、ステップ110では、基本発音データ・カウンタを1つインクリメントする。基本発音データ・カウンタとは、基本発音出力の繰り返し周期の1周期分出力するたびにカウントされるカウンタであり、繰り返しパターンとなる基本発音データの繰り返し周期の1周期分発音し切るまでに掛かる回数をカウントしている。
【0033】
そして、ステップ115に進み、エンベロープ更新タイミングであるか否かを判定する。エンベロープ更新タイミングであるか否かについては、基本発音データ・カウンタが最終値であるか否かに基づいて判定する。上記したように、基本発音データ・カウンタは、基本発音データの繰り返し周期の1周期分発音し切るまでに掛かる回数をカウントしている。この値の最終値とは、基本発音データの繰り返し周期の1周期分発音し切るまでに掛かる回数のことであり、基本発音データ・カウンタが最終値に達すると再び基本発音データを最初に戻って発音出力として出力することになる。したがって、本ステップで肯定判定されるとステップ120以降に進み、否定判定されるとそのまま処理を終了する。
【0034】
ステップ120では、最終値までカウントされている基本発音データ・カウンタを先頭値に戻す。そして、ステップ125に進み、発音データとして記憶してあるエンベロープ・データ(PWM出力器21aにセットする発音データ)を読み出したのち、ステップ130においてPWM出力器21aに読み込んだエンベロープ・データをセットし、基本発音データを表したPWM出力器21bのPWM出力波形の振幅(電圧レベル)を変化させる。これにより、エンベロープ・データが示す音量(音圧レベル)に制御するためのPWM出力波形が発生させられる。その後、ステップ135では、エンベロープ・データ・カウンタを1つインクリメントする。エンベロープ・データ・カウンタとは、エンベロープ・データの繰り返し周期の1周期分出力するたびにカウントされるカウンタであり、エンベロープ・データのパターンの繰り返し周期の1周期分(エンベロープ単位の1単位分)出力し切るまでに掛かる回数をカウントしている。
【0035】
そして、ステップ140に進み、エンベロープ・データ・カウンタが最終値であるか否かを判定する。エンベロープ・データ・カウンタは、エンベロープ・データの繰り返し周期の1周期分(エンベロープ単位の1単位分)出力し切るまでに掛かる回数をカウントしている。この値の最終値とは、エンベロープ・データの繰り返し周期の1周期分(エンベロープ単位の1単位分)出力し切るまでに掛かる回数のことであり、エンベロープ・データ・カウンタが最終値に達すると再びエンベロープ・データを最初に戻って繰り返し出力することになる。したがって、本ステップで肯定判定されるとステップ145に進んでエンベロープ・データ・カウンタを先頭値に戻して処理を終了し、否定判定されるとそのまま処理を終了する。
【0036】
このようにして、基本発音データに基づきPWM出力器21bから出力されたPWM出力波形の電圧値のピーク値が、エンベロープ・データに基づきPWM出力器21aから出力されたPWM出力により調整される。
【0037】
図3は、基本発音データが示す発音波形の振幅をエンベロープ・データに基づいて変更したときの波形図である。また、図4(a)は、本実施形態にかかる車両接近通報システムによる発音波形を示した波形図、図4(b)は、図4(a)に示す発音波形の一部を拡大した図である。
【0038】
メモリに記憶された基本発音データが図3の実線に示す発音波形であった場合に、エンベロープ・データに基づいて、発音波形のピーク値がエンベロープ・データが示す音量となるように発音波形が調整される。本実施形態の場合、電圧制御部22において、PWM出力器21bより基本発音データを示すPWM出力波形が入力されると、そのPWM出力波形の電圧値をエンベロープ・データに基づいてPWM出力器21aから出力されるPWM出力に応じて変化させるようにしている。これにより、基本発音データの発音波形のピーク値がエンベロープ・データが示す音量となるように、発音波形が調整されることになる。
【0039】
そして、図3に示した基本発音データの繰り返し周期の1周期分の出力が完了すると、図4(a)、(b)に示したように、次のエンベロープ・データに基づいて再び基本発音データの波形のピーク値がエンベロープ・データが示す音量となるように発音波形が調整される。このような動作が繰り返されることにより、所望のエンベロープが付加された発音波形を実現することが可能となる。
【0040】
このように、エンベロープ単位の1単位分の車両接近通報音は、基本発音データをベースとして、「音頭部の強調、抑揚(揺らぎ)」といったエンベロープのカーブをトレースする各時点の減衰率を掛け合わせた波形を並べたものとして表すことができる。このため、図5に示すように、エンベロープ単位の1単位分の車両接近通報音をA、基本発音データをBとすると、1単位分の車両接近通報音Aを、基本発音データBとエンベロープ・データに基づいて表現することができる。つまり、エンベロープ・データのサンプリング周期毎の各時点(エンベロープ・データ・カウンタの先頭値から最終値までの各時点)をt1〜tm(ただし、mは整数であり、エンベロープ・データ・カウンタの最終値に相当)とし、各時点t1〜tmそれぞれの減衰率(エンベロープ・データが示す音量にするための係数)をn1〜nmとして、次式のように、各時点t1〜tmごとに基本発音データBに対して減衰率n1〜nmを掛けた値を足した値にて1単位分の車両接近通報音Aを表現することができる。
【0041】
【数1】

【0042】
したがって、車両接近通報音Aは、1周期分の基本発音データとエンベロープ・データのみによって表現される。そして、本実施形態の場合、繰り返しパターンとなる基本発音データが例えば16kHzサンプリングの0.08秒間で0.128k、エンベロープ・データが例えば125Hzサンプリングの10秒間で1.250kとなるため、メモリ容量としては合計1.378kとなる。
【0043】
図6(a)は、従来の発音データの波形図、図6(b)は、図6(a)の部分拡大図である。また、図7は、従来の発音データのうちの一部(図6(b)の左半分に相当)を抜き出した波形図である。
【0044】
図6(a)に示すように、従来の発音データは、エンベロープ単位での繰返し周期を1周期として、その期間中のすべての発音データをメモリに記憶している。つまり、図6(b)や図7に示すように、各期間中の発音データはエンベロープを付加した状態のデータであり、長期間において異なっているデータがすべて記憶されている。このため、従来の発音データの場合、16kHzサンプリングの10秒間で160kがメモリ容量となる。
【0045】
したがって、本実施形態のように基本発音データとエンベロープ・データとを別々とした発音データとした場合には、従来のようにエンベロープを付加した発音データとした場合と比較して、メモリ容量を大幅に減少することが可能となる。
【0046】
このように、従来では、発音させたい「音頭部の強調、抑揚(揺らぎ)」、つまり音声や電気の波形のピークが描く曲線として表されるエンベロープを付加した長時間(例えば10秒間)の繰り返しパターンとなる発音データをメモリする必要があった。これに対して、本実施形態では、基本発音データとエンベロープ・データとを別々とした発音データとすることで、エンベロープを付加して歩行者が車両の接近に気付き易い音にしつつ、発音データのメモリ容量を小さくすることが可能となる。例えば、上記したように、従来の発音データでは160kのメモリ容量が必要となったが、本実施形態のような基本発音データとエンベロープ・データとを別々とした発音データでは1.250kとなり、1/116となった。このため、マイコン21を非常に小さなメモリ容量のものとしても、エンベロープを付加して歩行者が車両の接近に気付き易い音にしつつ、発音データのメモリ容量を小さくすることが可能な車両接近通報装置2とすることが可能となる。
【0047】
なお、ここでは、基本発音データとエンベロープ・データとを用いてエンベロープを付加した発音を行う場合について説明した。エンベロープを付けるためにPWM出力器21aから電力制御部22に制御信号を出力して、PWM出力器21bのPWM出力波形の電圧レベルをエンベロープ・データに応じた電圧レベルに調整するようにした。これに加えて、上記したようにアクセル開度などの走行状態に応じて音量を設定することもできる。この場合には、PWM出力器21bのPWM出力波形の電圧レベルについて、エンベロープ・データが示すエンベロープのカーブに対応する減衰率と走行状態に応じた音量の増加率を掛けたレベルに調整することになる。
【0048】
(他の実施形態)
上記実施形態では、アクセル開度に応じて音量(音圧レベル)を変化させ、車速に応じて音程を変化させるようにしているが、これらは単なる一例を示したに過ぎない。例えば、車速もしくはアクセル開度に応じて音量と音程の両方を変化させるようにしても良い。この場合、車速もしくはアクセル開度が大きくなるほど、音量や音程アップ量を大きくすることができる。
【0049】
また、マイコン21では、制御信号の出力を行う制御信号出力部としてPWM出力器21aを用い、PWM出力器21aから音圧を変化させるためのPWM出力を制御信号として発生させることで電圧制御部22の電圧制御を行うようにしているが、DACを用いて電圧制御部22の電圧制御を行うようにしても良い。同様に、マイコン21では、基本発音データに基づいて発音出力を発生させる発音出力発生部としてPWM出力器21bを用いているが、他のものによって発音出力を発生させるようにしても良い。
【0050】
さらに、第1実施形態では、マイコン21にメモリ手段および発音出力発生手段を構成するPWM出力器21bを備えると共に、マイコン21に備えた制御信号出力部を構成するPWM出力器21aやDACから出力する制御信号に基づいてマイコン21の外部に電力制御部22での電圧制御を行っている。これに対して、マイコン21のみで基本発音データとエンベロープ・データとを用いて車両接近通報音に対応する出力を発生させることもできる。例えば、図8に示すように、第1実施形態で備えていた電力制御部22の機能やPWM出器21bにて構成される発音出力発生部の機能をマイコン21内に備え、各周期毎に読み出して出力される基本発音データの音量制御(エンベロープ制御)までマイコン21内で実行し、その音量制御後の発音出力をPWM出力器21cより直接LPF23に入力する形態とすることもできる。
【0051】
また、上記の基本発音データの時間、つまり、「単位時間で区画される各周波数成分を含む和音の“基本発音波形”」の単位時間が長くなり、そのデータ量が期待するほど小さくできない場合には、このときの基本発音データをADPCM等のデータ圧縮アルゴリズムを使用してデータ圧縮し、マイコン21のメモリに記憶するようにしても良い。
【符号の説明】
【0052】
1 車速センサ
2 車両接近警報装置
3 スピーカ
21 マイコン
21a、21b PWM出力器
22 LPF
23 AMP

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された発音体(3)から車両接近通報音を発音することにより、前記車両の接近を通報する車両接近通報装置において、
繰返し周期毎に発音する基本発音データと、発音の音量を設定するエンベロープ・データとを別々に記憶するメモリ手段と、
前記メモリ手段に記憶された前記基本発音データを読み出すと共に、前記基本発音データの発音出力を発生させる発音出力発生部(21、21b)と、
前記発音出力発生部(21、21b)が出力する前記基本発音データの発音出力の出力波形の電圧値を前記エンベロープ・データに基づいて調整する電圧制御部(21、22)と、
前記電圧制御部(22)で調整された後の出力波形と対応する電流を前記発音体(3)に流すことで、前記発音体(3)にて前記車両接近通報音の発音を行わせるアンプ(24)とを備えていることを特徴とする車両接近通報装置。
【請求項2】
前記基本発音データは、単位時間で区画される各周波数成分を含む和音の基本発音波形であり、
前記エンベロープ・データは、エンベロープ単位の1単位分の車両接近通報音を、前記単位時間で区画した前記基本発音データに前記1単位分の車両接近通報音のエンベロープのカーブをトレースする前記単位時間毎の減衰率を掛け合わせた波形にて表現するときの前記単位時間毎の減衰率を示すデータであることを特徴とする請求項1に記載の車両接近通報装置。
【請求項3】
前記メモリ手段および前記発音出力発生部(21b)はマイコン(21)に備えられていると共に、該マイコンには、前記マイコンの外部に備えられた前記電圧制御部(22)に対して、前記エンベロープ・データに基づいて前記基本発音データの発音出力の出力波形の電圧値を調整させるための制御信号を出力する制御信号出力部(21a)が備えられ、
前記電圧制御部は、前記マイコンに備えられた前記発音出力発生部からの出力波形の電圧値を前記制御信号出力部から伝えられる制御信号に基づいて調整することで、エンベロープ単位の1単位分の車両接近通報音を表現することを特徴とする請求項1または2に記載の車両接近通報装置。
【請求項4】
前記発音出力発生部は、前記基本発音データの発音出力としてPWM出力を発生させるPWM出力器(21b)であることを特徴とする請求項3に記載の車両接近通報装置。
【請求項5】
前記メモリ手段および前記発音出力発生部および前記電圧制御部がマイコン(21)に備えられており、該マイコン内で、前記電圧制御部が前記発音出力発生部の出力波形の電圧値を調整することで、エンベロープ単位の1単位分の車両接近通報音を表現することを特徴とする請求項1または2に記載の車両接近通報装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−63763(P2013−63763A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−178227(P2012−178227)
【出願日】平成24年8月10日(2012.8.10)
【出願人】(390001812)アンデン株式会社 (97)