説明

車両水没防止具

【課題】車両水没防止具上において車両がハンドルを据え切りした場合においても損傷を生じることがなく、車両の水没を確実に防止する。
【解決手段】水密性のシートで車両の底部及び側面下部を包んで車両の水没を防止する車両水没防止具3において、当該内層筒状織物における少なくとも車両のタイヤ6が載置される箇所を、地面に接する下層5とタイヤ6に接する上層4とを有する多重層にし、当該多重層のうちの少なくとも一層が水密性を有する。
【効果】少なくとも車両のタイヤが載置される箇所を多重としているので、その上に車両を載置してハンドルを据え切りした場合には、上層はタイヤと共に回転するが、多重の層間においてすべりが生じることにより、下層は地面に対して動くことがなく、シートが摩耗したり穴が開いたりすることがなく、シートで車両を包んで車両の水没を確実に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洪水などにより河川が氾濫し、水位が上昇したときに、シートで車両を包んで水に浮上させ、車両が水没するのを防止して被害を軽減するための車両水没防止具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大雨などによる河川の氾濫などで洪水が発生した場合、自動車などの車両が水没することがある。車両が水没してエンジンに水が入ればオーバーホールが必要となり、また電装品は水により機能が損なわれて交換が必要となる。また車室内に泥水が浸入して内装材が汚損して車室内の清掃が必要となるなど、復旧に多大の費用を要し、多くの場合は復旧の費用が車両価格を上回り、ほとんどの場合は廃車となる。
【0003】
さらには例えば救急車のような特殊車両の場合には、内部に高価な医療機器などを搭載している場合が多く、これが水没した場合には、単なる車両自体の損失に止まらず、多大の経済的損害を生じることが少なくない。
【0004】
従来から車両の水没を防止する手段に関してはいくつかの公知例が存在する。例えば実開昭61−189866号公報や実開平5−46613号公報には、車両の前後にエアバッグを装備し、これを膨らませて水没を阻止することが示されている。
【0005】
しかしながらこれらのものは、車両が水中に転落した場合に搭乗者が脱出する時間を稼ぐためのものであり、洪水などの際に車室内への水の浸入を阻止して車両の水損を防止するには不十分である。また車両にエアバッグを装備するためには、車両自体に大規模な改造が必要となると共に、常時この設備を搭載した状態で走行しなければならず、現実的ではない。
【0006】
また特開2002−248946号公報には、巨大な筒状のシートで車両をすっぽりと包むことにより、車両の水没を防止する手段が記載されている。しかしながらこの方法では、筒状シートで車両を覆ってその開口部を閉じるため、筒状シート内に空気が封入され、その空気の逃げ場がない。そのため水嵩が増したときには、筒状シート自体が膨らみ、閉じていた開口部が開いたり最悪の場合には筒状シートがバーストして、車両の水没を防止できないことがある。
【0007】
またこの発明は、車両全体を筒状シートで覆い、その開口部を閉じるものであるため、筒状シートの開口部を車両の上部で閉じるためには、車両の上部の高い位置に作業位置を設定しておかなければならず、また筒状シートの側方から車両を入れる場合には、筒状シートを開いておくための特別の設備が必要であり、数年乃至数十年に一度の事態に備えるために、多大の費用を要し現実的でない。
【0008】
かかる事情に鑑み、洪水などにより浸水の恐れが生じたときに、車両の底部及び側面下部を水密性のシートで包み、水位が上昇したときには車両の内部空間による浮力によって車両を浮かせ、水没を防止する方法を発明し、先に特願2006−147606号として特許出願している。
【0009】
この発明は図1に示すように、洪水が予測されるときに水密性のシート1で車両2の下部及び側面下部を包むものであって、シート1によって車両2の車室内への水の侵入を阻止すると共に、水位が上昇したときにも車両2の内部空間を確保し、当該空間による浮力によって図2に示すように車両2を水8上に浮上させ、水没による損害を防止するものである。
【0010】
しかしながらこの方法においては、車両2の保管場所に前記シート1を広げ、そのシート1上に車両2を移動させ、シート1の周縁を車両2の側面に沿わせて車両2を包むのであるが、車両2をシート1上に移動させる際に、シート1上における車両2の位置を微調整するためには、シート1上において停止した状態でハンドルを回転させて据え切りすることが必要となることが少なくない。
【0011】
一般に自動車のタイヤは路面をグリップするために摩擦抵抗が大きく、シート1上で据え切りした場合には、シート1が地面に強く押し付けられた状態でタイヤと共に回転し、シート1が局部的に地面に擦り付けられて磨耗したり、極端な場合には穴が開いて水密性を確保できないことも起こり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実開昭61−189866号公報
【特許文献2】実開平5−46613号公報
【特許文献3】特開2002−248946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はかかる事情に鑑みなされたものであって、前記方法において使用する車両水没防止具であって、シート1上において車両2がハンドルを据え切りした場合においてもシート1に損傷を生じることがなく、車両2の水没を確実に防止することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
而して本発明は、水密性のシートで車両の底部及び側面下部を包んで車両の水没を防止する車両水没防止具において、当該車両水没防止具における少なくとも車両のタイヤが載置される箇所を、地面に接する下層とタイヤに接する上層とを有する多重層にし、当該多重層のうちの少なくとも一層が水密性を有すると共に、前記上層が下層に対して遊離していることを特徴とするものである。
【0015】
本発明においては、前記多重層間のうちの少なくとも一層間を遊離せしめると共に、当該遊離部分に滑剤を介在せしめることが好ましい。また前記多重層のうちの少なくとも一層間を遊離せしめると共に、当該遊離部分における層同士の対向面に、摩擦抵抗が小さい素材を使用し、又は摩擦抵抗が小さい表面加工を施すことも好ましいことである。
【0016】
本発明の車両水没防止具の具体的な構造としては、前記下層と上層との二層よりなり、当該下層又は上層のうちの少なくともいずれか一方が水密性であると共に、周縁部において上層と下層とを接合したものとすることができる。
【0017】
また本発明の車両水没防止具の他の構造としては、水密性の中間層の上下にそれぞれ上層及び下層を重ね、その上層及び下層の周縁部を中間層に対して一体に接合したものとすることもできる。この場合においては、前記上層又は下層を中間層から着脱可能に接合することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、少なくとも車両のタイヤが載置される箇所を多重とし、上層を下層に対して遊離しているので、その上に車両を載置してハンドルを据え切りした場合には、上層はタイヤと共に回転するが、多重の層間においてすべりが生じることにより、下層は地面に対して動くことがなく、シートが摩耗したり穴が開いたりすることがなく、シートで車両を包んで車両の水没を確実に防止することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】シートで車両を包んだ状態の斜視図
【図2】シートで包んだ車両が水に浮上した状態を示す側面図
【図3】本発明の車両水没防止具の一例を示す平面図
【図4】図3における車両水没防止具の一部の拡大断面図
【図5】本発明の車両水没防止具の他の例の一部の拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明を図面に基づいて説明する。図3及び図4は本発明の車両水没防止具3の一例を示すものであって、この車両水没防止具3は上層4と下層5とよりなる二層のシートよりなり、上層4又は下層5の少なくとも一方は水密性であって、上層4は下層5から遊離しており、上層4の周縁部において下層5に接着されている。
【0021】
本発明においては、この車両水没防止具3を地面に広げてその上に車両2を移動し、車両水没防止具3の中央に車両2を停止させ、この状態で車両水没防止具3の周囲を引き上げて車両2の側部を包む。
【0022】
このとき車両水没防止具3上において車両2の位置を微調整するために、車両水没防止具3上で車両2が停止した状態でハンドルを据え切りすると、車両2のタイヤ6に接した上層4はタイヤ6とともに回転し、上層4のシートは局部的に捻じれるが、上層4は下層5から分離しているため、上層4のみが回転して下層5は地面との摩擦抵抗により回転することなく、地面と強く擦れることがない。
【0023】
またハンドルを据え切りした後、車両を前後に移動させることにより、上層4のシートはその弾性により変形が回復し、シートの捩れは解消するので、そのシートを使用して車両2を円滑に包むことができる。
【0024】
上層4と下層5とは互いに滑り易いものであることが必要であるが、上層4とタイヤ6とはタイヤ6のグリップ性により摩擦抵抗が大きく、また下層5と地面とは地面が特別に滑らかである場合を除き概ねその摩擦抵抗は大きいので、上層4が下層5に対して滑り易くするための特段の手段を施す必要はない。
【0025】
しかしながら地面が濡れているなど特に滑りやすい状態である場合もあり、上層4と下層5との摩擦抵抗を軽減する手段を講じるのは好ましいことである。例えば上層4と下層5との間に滑石やカーボンなどの粉末や、粘度の高い液体などの滑剤を介在せしめるのが好ましい。また上層4の下面及び下層5の上面に摩擦抵抗を軽減する表面加工を施すこともできる。
【0026】
また車両水没防止具3における上層4と下層5とを重ねる範囲は、少なくとも車両水没防止具3の中央部の車両2が載置される範囲であるが、車両水没防止具3上において車両2の位置を調整するために前後左右に位置を変え、その位置でハンドルを据え切りすることもあるので、できるだけ広範囲とするべきである。
【0027】
また車両水没防止具3の周縁部においては、上層4と下層5とを接合することが好ましい。その接合の手段としては、上層4と下層5とを縫合することができ、また面ファスナー、スライドファスナー、ボタン、ホックなどの適宜の手段で着脱自在に結合することもできる。
【0028】
また図5は本発明の他の例を示すものであって、水密性の中間層7の両面にそれぞれ上層4及び下層5を重ね、三層としたものである。三層とすることにより、上層4と中間層7との間及び中間層7と下層5との間の二箇所で滑りが生じるので、上層4にタイヤ6に伴われて捩れが生じても、その捩れが下層5にまで伝達されることはなく、下層5が地面との摩擦で摩耗される可能性がより軽減される。
【0029】
またこの場合には、上層4及び下層5はタイヤ6や地面との摩擦により損傷を受ける可能性があるが、中間層7は上層4及び下層5で保護されていて損傷することが少ないので、上層4及び下層5を中間層7に対して着脱自在に結合することが好ましい。またこの場合には上層4及び下層5を不織布などの耐久性の低い素材とし、一度限りの使い捨てとすることも可能である。
【0030】
なお本発明においては、以上の例では上層4と下層5との二層の場合と、上層4、下層5及び中間層7の三層の場合を挙げているが、これに限られることはなく、四層以上の多層とすることも可能である。また二層以上のうちの少なくとも一層は水密性であることを要するが、他の層は水密性である必要はない。
【符号の説明】
【0031】
3 車両水没防止具
4 上層
5 下層
6 タイヤ
7 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水密性のシートで車両の底部及び側面下部を包んで車両の水没を防止する車両水没防止具(3)において、当該車両水没防止具(3)における少なくとも車両のタイヤ(6)が載置される箇所を、地面に接する下層(5)とタイヤ(6)に接する上層(4)とを有する多重層にし、当該多重層のうちの少なくとも一層が水密性を有すると共に、前記上層(4)が下層(5)に対して遊離していることを特徴とする、車両水没防止具
【請求項2】
前記多重層間のうちの少なくとも一層間を遊離せしめると共に、当該遊離部分に滑剤を介在せしめたことを特徴とする、請求項1に記載の車両水没防止具
【請求項3】
前記多重層のうちの少なくとも一層間を遊離せしめると共に、当該遊離部分における層同士の対向面に、摩擦抵抗が小さい素材を使用し、又は摩擦抵抗が小さい表面加工を施したことを特徴とする、請求項1又は2に記載の車両水没防止具
【請求項4】
前記下層(5)と上層(4)との二層よりなり、当該下層(5)又は上層(4)のうちの少なくともいずれか一方が水密性であると共に、周縁部において上層(4)と下層(5)とを接合したことを特徴とする、請求項1に記載の車両水没防止具
【請求項5】
水密性の中間層(7)の上下にそれぞれ上層(4)及び下層(5)を重ね、その上層(4)及び下層(5)の周縁部を中間層(7)に対して一体に接合したことを特徴とする、請求項1に記載の車両水没防止具
【請求項6】
前記上層(4)又は下層(5)を中間層(7)から着脱可能に接合したことを特徴とする、請求項5に記載の車両水没防止具

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−116480(P2012−116480A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−10594(P2012−10594)
【出願日】平成24年1月23日(2012.1.23)
【分割の表示】特願2007−141321(P2007−141321)の分割
【原出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)