説明

車両用の後写鏡

【課題】高温や光に対する長期耐久性及び光線反射性能に優れ、しかも反射光によるぎらつきや、映り込みを低減して視認性を向上できる車両用の後写鏡を提供すること。
【解決手段】本発明の車両用の後写鏡(100)は、所定方向に延在して設けられた複数の金属ワイヤ(102a)を有するワイヤグリッド偏光子(102)を具備し、金属ワイヤ(102a)は、延在方向が水平基準面に対し略直交するように設けられ、無偏光光に対する反射率が35%以上であり、反射光が偏光度15%以上の直線偏光であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無偏光光を反射して直線偏光を作り出す車両用の後写鏡に関し、例えば、車両用の室内後写鏡として好適に用いられる車両用の後写鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の後写鏡は、後方及び後側方の交通状況の確認のため重要な部品である。車両用の後写鏡においては、古くから多くの発明がなされており、その多くが後方車両の灯火に基づく防眩を目的としたものである(例えば、特許文献1参照)。また、車両用の窓や灯火、鏡に偏光特性を付与することにより、防眩機能を発現することも古くから知られている(例えば、特許文献2、特許文献3、及び特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭57−102602号公報
【特許文献2】特開昭47−14828号公報
【特許文献3】特開2002−36876号公報
【特許文献4】特開2009−8882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、いずれの発明も灯火に基づく防眩を目的としたものであり、偏光の反射光を利用して反射像を得るものではない。また、偏光特性を利用するものにあっては良好な偏光子が存在しなかったことから、光線の透過率や偏光度といった光学性能及び高温や光に対する長期耐久性などに問題を生じ、多くは実用化には至っていない。また、車両用の後写鏡においては、車両後方及び後側方の視認性を向上して車両運転時の安全性を向上する観点から、後写鏡に映る後方車両などからの反射光によるぎらつきや、後方の窓への車室内への映り込みを低減することも望まれている。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、高温や光に対する長期耐久性及び光線反射性能に優れ、しかも反射光によるぎらつきや、映り込みを低減して視認性を向上できる車両用の後写鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両用の後写鏡は、所定方向に延在して設けられた複数の金属ワイヤを有するワイヤグリッド偏光子を具備し、前記金属ワイヤは、延在方向が水平基準面に対し略直交するように設けられ、無偏光光に対する反射率が35%以上であり、反射光が偏光度15%以上の直線偏光であることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、延在方向が水平基準面に対し略直交するように金属ワイヤを設けたことから、水平基準面に対し略直交する方向が反射軸となると共に、水平基準面の面内方向が透過軸となる。この水平基準面の面内方向の透過光成分を取り除くことにより、水平基準面に対し略直交する直線偏光成分がワイヤグリッド偏光子によって反射される。この結果、水平基準面に対し略直交する直線偏光成分によって後方を観察できるので、反射光によるぎらつきや、映り込みを低減して視認性を向上することが可能となる。
【0008】
本発明の車両用の後写鏡においては、波長380nm〜780nmの可視光領域における入射光の最大反射率と最少反射率との差が、最大反射率の15%以下であることが好ましい。
【0009】
本発明の車両用の後写鏡においては、表面に設けられた反射防止層を有することが好ましい。
【0010】
本発明の車両用の後写鏡においては、無偏光光に対する反射率が40%以上であり、反射光が偏光度30%以上の直線偏光であることが好ましい。
【0011】
本発明の車両用の後写鏡においては、防眩層を備えたことが好ましい。
【0012】
本発明の車両用の後写鏡においては、画像表示装置を備えたことが好ましい。
【0013】
本発明のワイヤグリッド偏光子は、上記車両用の後写鏡に用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高温や光に対する長期耐久性及び光線反射性能に優れ、しかも反射光によるぎらつきや、映り込みを低減して視認性を向上できる車両用の後写鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施の形態に係る車両用の後写鏡の模式図である。
【図2】本実施の形態に係る車両用の室内後写鏡の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、車両などの乗り物から外を観察する際に、視認性を低下させるぎらつきの主な原因が、自然光などの無偏光光のうち水平基準面の面内方向(以下、「横方向ともいう」)の振動面を持つ直線偏光成分(以下、「横偏光」ともいう)であることに着目した。そして、本発明者らは、視認性を向上するためには、できるだけ横偏光を除去し、水平基準面に対し略直交する方向(以下、単に「縦方向」ともいう)の振動面を持つ直線偏光成分(以下、「縦偏光」ともいう)のみで観察すれば良いことを着想した。さらに、本発明者らは、十分な反射率を維持しながら横偏光を選択的に取り除くことを検討した結果、ワイヤグリッド偏光子の持つ高い反射性能、偏光度、耐久性を活かすことにより、車両などの乗り物に使用する後写鏡に要求される十分な反射率を有すると共に、高い耐久性を実現できる高性能の反射鏡が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
図1Aは、本発明の一実施の形態に係る車両用の後写鏡100の断面模式図であり、図1Bは、車両用の後写鏡100の平面模式図である。図1A及び図1Bに示すように、本実施の形態に係る車両用の後写鏡100は、硬質透明板101と、この硬質透明板101上に略平行に配置されるワイヤグリッド偏光子102と、ワイヤグリッド偏光子102上に略平行に配置される光吸収層103とを具備する。ワイヤグリッド偏光子102は、所定方向(紙面手前−奥行き方向)に延在する複数の金属ワイヤ102aを備える。なお、硬質透明板101及び光吸収層103は、必ずしも設けなくともよい。
【0018】
ワイヤグリッド偏光子102は、金属ワイヤ102aの延在方向と同一方向(以下、「反射軸」ともいう)の直線偏光成分を反射し、金属ワイヤ102aの延在方向に対して直交する直交方向(以下、「透過軸」ともいう)の直線偏光成分を透過する。本実施の形態に係る車両用の後写鏡100においては、ワイヤグリッド偏光子102は、金属ワイヤ102aの延在方向(反射軸)が水平基準面に対し略直交するように設けられ、金属ワイヤ102aの延在方向に直交する直交方向(透過軸)が水平基準面の面内方向と略一致するように設けられる。なお、水平基準面とは、地面と平行な水平面をいう。
【0019】
この車両用の後写鏡100は、表面が水平基準面に対し略直交するよう設置される。この車両用の後写鏡100おいては、自然光などの無偏光光が、硬質透明板101からワイヤグリッド偏光子102に入光する。そして、ワイヤグリッド偏光子102の透過軸と略一致する水平基準面の面内方向の(横方向)の直線偏光成分(横偏光)が、ワイヤグリッド偏光子102を透過する透過偏光として光吸収層103に吸収されると共に、反射軸と略一致する水平基準面に対し略直交する縦方向の直線偏光成分(縦偏光)が、ワイヤグリッド偏光子102によって反射される反射偏光として硬質透明板101から出光する。この結果、ワイヤグリッド偏光子102で反射されて硬質透明板101から出光する反射光が、縦偏光となるので、反射光によるぎらつきの原因となる横偏光を低減でき、反射光によるぎらつきや、映り込みを低減することが可能となる。
【0020】
本実施の形態に係る車両用の後写鏡100においては、ワイヤグリッド偏光子102の無偏光光に対する反射率が35%以上であり、反射光が偏光度15%以上の直線偏光である。無偏光光に対する反射率が35%以上であれば、車両用の後写鏡100として用いた場合に十分な視認性を確保できる。また、反射光が偏光度15%以上の直線偏光であれば、後方車両などからの反射光のぎらつきや車両後方の窓への車室内の映り込みを十分に抑制できる。入射光の反射率としては、夕方や薄暮など反射光の光量が低下する条件おいても視認性を向上する観点から40%以上が好ましい。また、反射光のぎらつきや後方窓への車室内の映り込みを更に低減する観点から、反射光が30%以上の直線偏光であれることが好ましい。なお、ワイヤグリッド偏光子102の反射率及び偏光度は、金属ワイヤ102aの材質や、金属ワイヤ102aの断面形状、ピッチPなどにより適宜変更することが可能である。
【0021】
本実施の形態に係る車両用の後写鏡100においては、ワイヤグリッド偏光子102の持つ高い反射性能、偏光度といった光学性能と、原理的に無機物である金属ワイヤ102aにより偏光を得ることに基づく高い耐久性とを活かすことにより、車両などの乗り物に使用する鏡に要求される十分な反射率と共に、高い耐久性、信頼性を実現できる高性能の自動車用の室内後写鏡を得ることができる。
【0022】
この車両用の後写鏡100においては、ワイヤグリッド偏光子102の波長380nm〜780nmの可視光領域における入射光の最大反射率と最少反射率との差が、最大反射率の15%以下であることが好ましい。これにより、可視光領域の全域における反射率の差を低減できるので、反射に基づく色差を抑制でき反射光が自然な色合いとなる。
【0023】
また、車両用の後写鏡100においては、表面に反射防止層を設けてもよい。反射防止層としては、例えば、シリコーン系樹脂などを主成分とするハードコート層や誘電体多層膜、低屈折率膜やモスアイ構造などの微細凹凸構造を硬質透明板101の表面に設けたものが挙げられる。これにより、耐擦傷性を向上させることができると共に、入射光の入光面における多重反射を低減することもできる。
【0024】
本実施の形態に係る車両用の後写鏡100は、車両用の室内後写鏡として好適に用いることができる。この場合においては、ワイヤグリッド偏光子102の金属ワイヤ102aの延在方向が水平基準面に対して略直交するように配置する。これにより、車両の後方及び後側方から入射する入射光のうち横偏光がワイヤグリッド偏光子102を透過して光吸収層103に吸収されると共に、縦偏光が、ワイヤグリッド偏光子102によって反射されるので、反射光のぎらつきを抑制でき、視認性を向上できる。
【0025】
また、本実施の形態に係る車両用の後写鏡100においては、必要に応じて反射光を低減する防眩層を設けることにより、さらに防眩性を向上できる。防眩層としては、例えば、硬質透明板101上に着色剤を含む透明板を配設したものや、硬質透明板101上にエレクトロクロミック素子を設けたものが挙げられる。
【0026】
また、本実施の形態に係る車両用の後写鏡100においては、画像表示装置を備えることにより、例えば、自動車の後方や後側方の視界を後写鏡に表示させることや、各種交通情報などを車両用の室内後写鏡に表示させることも可能となる。
【0027】
図2は、画像表示装置を備えた車両用の室内後写鏡200の一例を示す断面模式図である。この車両用の室内後写鏡200においては、硬質透明板101の背面側に画像表示装置300が設けられる。車両用の室内後写鏡200は、硬質透明板101と、この硬質透明板101上に設けられたワイヤグリッド偏光子102とを備える。ワイヤグリッド偏光子102上の中央部の領域には、光透過部材104が設けられ、光透過部材104の周囲には、光吸収層103が設けられる。光透過部材104上には、画像表示装置300が設けられる。
【0028】
画像表示装置300は、アクティブマトリックス透明電極が配線された液晶セル301と、この液晶セル301の背面側に配置される偏光バックライト302とを具備する。液晶セル301は、アクティブマトリックスの透明電極が形成された一対のガラス基板301A,301Bと、一対のガラス基板301A,301B間に形成された空間に封入される液晶301Cとを備える。一対のガラス基板301A,301Bの間には、一対のガラス基板301A,301B間の空間を封止するシール材301Dが配置される。また、液晶セル301は、アクティブマトリックスに応じた画素を形成するブラックマトリックス(不図示)やカラーフィルター(不図示)を有する。
【0029】
画像表示装置300は、光透過部材104とワイヤグリッド偏光子102とを透過可能な偏光成分の画像光を射出し、光透過部材104、ワイヤグリッド偏光子102及び硬質透明板101を介して、車両用の室内後写鏡200に画像を表示する。この画像表示装置300においては、表示する画像データに従って、アクティブマトリックスの画素に対応する透明電極をオン・オフして画素ごとの透過率を設定する。そして、偏光バックライト302からの光を液晶セル301に透過させることによって画像を表示する。画像表示装置300には、図示しない制御回路基板を介して画像データが入力される。画像データは、どのような機器から取得するようにしてもよい。例えば、車両の後方や前方等の死角の画像を撮影するカメラ(不図示)から画像データを取得してもよい。また、DVD等の各種機器から映像信号を入力するようにしてもよい。また、いわゆるワンセグ放送データを受信して表示するようにしてもよい。
【0030】
[硬質透明板]
硬質透明板101の材質としては、ガラスや透明樹脂のシートやフィルムが挙げられる。透明樹脂としては、可視光領域で実質的に透明な樹脂であればよく、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、環状オレフィン樹脂、トリアセテート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂などの非晶性熱可塑性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などの結晶性熱可塑性樹脂や、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系などの紫外線(UV)硬化性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0031】
硬質透明板101に要求される光学性能としては、可視光領域に対して実質的に透明であること以外に、硬質透明板101表面からワイヤグリッド偏光子102までの部分のワイヤグリッド偏光子102の透過軸の直線偏光(横偏光)に対するレターデーションが少ないことが重要である。これは、観察する景色、物体からの光線のうち特定方向の偏光、例えば、水平基準面の面内方向の振動面を持つ横偏光を効率的に除去するために必要であり、レターデーションが大きいとワイヤグリッド偏光子102からの反射光において除くべき横偏光が多く含まれ視認性が低下する。レターデーションの値は少ないほど好ましく、100nm以下が必要であり、好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。レターデーションを低減するには、硬質透明板101の複屈折を小さくすることや、硬質透明板101の複屈折の光学軸とワイヤグリッド偏光子102の透過軸をできるだけ一致させることが重要である。
【0032】
[ワイヤグリッド偏光子]
ワイヤグリッド偏光子102は、金属ワイヤ102aと、この金属ワイヤ102aを固定する基材から構成される。金属ワイヤ102aとしては、一般に可視光用のワイヤグリッド偏光子として使用される構造や、材料であれば使用できる。これらの中でも、十分な強度、かつ着色の少ない反射光を得る観点から、光線反射率の高いAl、及びAg又はこれらうち少なくとも一つを主成分とする合金などの金属を選択することが好ましい。
【0033】
また、金属ワイヤ102aとしては、反射光量が多く、眩しさを低減する必要がある場合には、反射率の比較的低い金属として、W、V、Cr、Co、Mo、Ge、Ir、Ni、Os、Ti、Fe、Nb、Hf、Mn、Ta及びこれらのうち少なくとも一つを主成分とする合金を使用することもできる。これらの反射率の比較的低い金属の使い方としては、これらの金属だけで金属ワイヤ102aを形成してもよく、AlやAgの上にこれらの金属を薄く積層して金属ワイヤ102aを形成してもよい。また、光線反射率の高いワイヤグリッド偏光子と光線反射率の低いワイヤグリッド偏光子とを重ねて用いてもよい。
【0034】
ワイヤグリッド偏光子102の構造は、金属ワイヤ102aのピッチPと金属ワイヤ102aの断面形状によって決まる。ワイヤグリッド偏光子102の構造は、要求される光線反射率や偏光性能に応じて適宜選択する。ワイヤグリッド偏光子102の金属ワイヤ102aのピッチPとしては、小さい方が高い光学性能を得られるが、実用的には80nm〜200nmの範囲が好ましい。金属ワイヤ102aのピッチPが80nm以上であれば、現実的な方法で製造することができる。また、金属ワイヤ102aのピッチPが200nm以下であれば、金属ワイヤ102aの周囲の屈折率にもよるが、反射率の波長依存性が小さくなるため、反射光の着色を抑制でき、幅広い用途に適用することができる。また、金属ワイヤ102aのピッチPが150nm以下であれば、反射光の偏光度が80%程度となるため、十分な視認性が得られると共に、比較的容易に製造することができる。
【0035】
一般的なワイヤグリッド偏光子は、透過光よりも反射光の偏光度が低く、車両用の後写鏡のように、反射光の偏光光を利用する場合には、十分な偏光度を得ることが困難な場合がある。このため、本実施の形態においては、反射光の偏光度を高める観点から、金属ワイヤ102aのピッチPを80nm〜120nmの範囲とすることがより好ましく、80nm〜100nmの範囲とすることがさらに好ましい。
【0036】
延在方向に対する垂直断面における金属ワイヤ102aの断面形状としては、高い反射率と偏光性能を満たす観点から、垂直断面における幅が、ピッチPの30%〜70%であることが好ましい。また、特に高い偏光度が求められる場合は、垂直断面における幅が、ピッチPの40%〜55%であることが好ましい。ここで、金属ワイヤ102aの垂直断面の幅とは幅の平均値であり、垂直断面における金属ワイヤ102aの断面積を高さで割った値である。金属ワイヤ102aの垂直断面における断面形状としては、高さ方向に細長い矩形形状や、矩形形状の上下が丸みをおびた形状、高さ方向における上下の幅が徐々に減少する薄い両凸レンズ形状などが挙げられる。金属ワイヤ102aの垂直断面における断面形状としては、高い反射率と偏光性能を満たす形状であれば種々の形状が使用できる。
【0037】
また、金属ワイヤ102aの垂直断面における高さとしては、ピッチPの15%〜150%の範囲であればよく、要求性能に応じ適宜選択できる。高い反射率が求められる場合には、ピッチPの50%〜150%の範囲であることが好ましく、80%〜150%の範囲であることがより好ましい。なお、鏡として左右の光学対称性を要求される場合には、格子状凹凸形状を有する基材の凸部の一方向側の側面に接し、上部が基材の凸部頂部より上方に伸びるよう設けられた構造を用いてもよい(特開2011−22493号公報参照)。このように、金属ワイヤ102aを、格子状凹凸形状を有する凸部頂部より上方に伸びるよう設けることで、偏光特性が向上し、光の損失を減らすことができる。
【0038】
ワイヤグリッド偏光子102の金属ワイヤ102a間の空間は、使用環境に応じて適宜選択した材料を充填する。水分や汚れの少ない環境では、中空とすることもできるが、金属ワイヤ102aの耐食性を向上させ、ワイヤグリッド偏光子102としての耐久性を向上させる観点から、金属ワイヤ102a間の空間に樹脂などを充填することが好ましい。
【0039】
なお、ワイヤグリッド偏光子102においては、金属ワイヤ102aと基材との間の密着性を向上する観点から、金属ワイヤ102aと基材との間に、金属ワイヤ102aと基材との間密着性が高い誘電体材料を含んでなる誘電体層を設けてもよい。誘電体層を構成する誘電体材料としては、二酸化珪素などの珪素(Si)の酸化物、窒化物、ハロゲン化物、炭化物の単体またはその複合物(誘電体単体に他の元素、単体または化合物が混じった誘電体)や、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、イットリウム(Y)、ジルコニア(Zr)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、バリウム(Ba)、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、セリウム(Ce)、銅(Cu)などの金属の酸化物、窒化物、ハロゲン化物、炭化物の単体またはそれらの複合物を用いることができる。誘電体材料は、透過偏光性能を得ようとする波長領域において実質的に透明であればよい。誘電体材料の積層方法には特に限定は無く、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理的蒸着法を好適に用いることができる。
【0040】
[光吸収層]
光吸収層103は、ワイヤグリッド偏光子102を透過した光を吸収する層である。光吸収層103の材料としては、光を吸収するものであればよく、黒色に着色した樹脂フィルムや塗膜のほか、エレクトロクロミック素子、非動作状態の液晶表示素子などが挙げられる。
【0041】
光吸収層103とワイヤグリッド偏光子102の接合は、光学的、機械的に接合していればよく、例えば、黒色フィルムを粘着剤や接着剤で張り合わせる、または黒色の樹脂を塗布するなどの方法があげられる。
【0042】
[偏光反射率]
視認性を向上させるためには、ぎらつきの原因となる入射光に含まれる横偏光を除去し、縦偏光のみの反射光を用いることが好ましい。ワイヤグリッド偏光子102においては、横偏光に対する反射率(以下、「横偏光反射率」という)が1%〜15%程度であり、縦偏光に対する反射率(縦偏光反射率)70%〜90%程度であることから、十分な視認性を得ることができる。また、視認性をさらに向上させるためには、反射光に含まれる縦偏光と横偏光との比を大きくすることが重要となり、横偏光の比率を縦偏光の75%以下にすることが好ましく、50%以下にすることがより好ましい。さらに、観察に必要な反射光の光量を確保する観点から、縦偏光反射率として70%以上が必要である。横偏光反射率を縦偏光反射率の75%とすると、反射光の偏光度は約14%となる。また、横偏光反射率を縦偏光反射率の50%とすると、反射光の偏光度は約33%となる。
【0043】
以上説明したように、上記実施の形態に係る車両用の後写鏡100によれば、光線反射性能及び高温や光に対する長期耐久性に優れるワイヤグリッド偏光子102を備えたことから、光線の透過率や偏光度といった光学特性、及び高温や光に対する長期耐久性が必要とされる車両用の後写鏡100においても、無偏光光を反射した直線偏光で観察できる実用的な車両用の後写鏡100を実現できる。さらに、上記実施の形態に係る後写鏡100においては、反射光に含まれる視認性を低下させる原因となる直線偏光成分(横偏光)を低減できるので、十分な防眩性能が得られると共に、後方車両からの灯火によるぎらつきや、後方の窓への車室内の映り込みを低減することができる。これにより、車両後方の視認性が向上するので、車両運転時の安全性を向上できる。
【0044】
また、上記実施の形態に係る車両用の後写鏡100によれば、従来の反射型偏光フィルムと比較して可視領域(380nmから780nm)における反射率の差を低減できるので、ワイヤグリッド偏光子102による反射に伴う反射光の着色を抑制できる。
【0045】
さらに、ワイヤグリッド偏光子102は、単層で十分な反射率及び偏光度が得られることから、車両光の後写鏡100として用いた場合に、従来の複数の樹脂フィルムを積層してなる多層膜構造の反射型偏光フィルムに対して、高い平坦性を得られると共に、構成の簡素化を図ることもできる。
【0046】
なお、本実施の形態に係る車両用の後写鏡100は、車両などの乗り物の後写鏡に使用する以外にも、姿見など使用してもよい。この場合には、間接照明を用いて姿見を使用した場合のように、ぎらつきが低減された反射像を得ることができる。
【実施例】
【0047】
以下本発明の効果を明確にするために行った実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、本実施例では、特開2011−22493に示される方法を用いて、ワイヤグリッド偏光子および反射鏡を作製し、その光学特性を測定した。
【0048】
(実施例1)
・紫外線硬化樹脂を用いた格子状凸部転写フィルムの作製
格子状凸部転写フィルムの作製には、格子状凸部のピッチPが130nmであり、高さが160nmであり、格子状凸部の延在する方向に垂直な断面における凹部形状が略矩形で凸部高さの半分の高さにおける凸部の幅が約40nmであり、凸部の頂部がとがった形状が転写できるNi製金型を用いた。Ni製金型にはフッ素系単分子膜による離型処理をした。表面反射率1.0%の反射防止コートを片面に施した厚み100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)・フィルムの非反射防止コート面に、複屈折の光学軸と格子状凸部の延在する方向が直角になるように、格子状凸部を転写した。転写においては、フィルム表面に紫外線硬化性樹脂を約3μm塗布し、塗布面を下にし、金型とフィルム間に空気が入らないように乗せ、フィルム側から中心波長365nmの紫外線ランプを用いて紫外線を1000mJ/cm照射し、格子状凸部を転写した。フィルムを金型から剥離し、縦300mm、横200mmの格子状凸部を転写したフィルムを作製した。紫外線硬化性樹脂としては、三官能以上のアクリレート化合物である単量体としてトリメチロールプロパントリアクリレートを32重量%、N−ビニル化合物である単量体としてN−ビニル−2−ピロリドン(NVP)を33重量%、その他の単量体として1,9ノナンジオールジアクリレートを33重量%、光重合開始剤としてダロキュアTPO(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)を2重量%配合した光硬化性樹脂組成物を使用した。
【0049】
・スパッタリング法を用いた誘電体層の形成
次に転写フィルムの格子状凹凸形状転写表面に、スパッタリング法により誘電体層として二酸化珪素を成膜した。スパッタリング装置条件は、Arガス圧力0.2Pa、スパッタリングパワー770W/cm、被覆速度0.1nm/sとし、転写フィルム上の誘電体平均厚みが3nmとなるように成膜した。
【0050】
・真空蒸着法を用いた金属の蒸着
格子状凸部転写フィルムに電子ビーム真空蒸着法を用いて金属の積層を行った。本実施例では、金属としてアルミニウムを用いた場合について説明する。真空度2.0×10−3Pa、蒸着速度20nm/s、常温下においてアルミニウムの蒸着を行った。金属厚み測定用に表面が平滑なガラス基板を格子状凸部転写フィルム近傍にフィルムと平行になるよう設置し、平滑基板へのアルミニウム蒸着厚みが100nmとなるように蒸着を行った。このときアルミニウムの蒸着は、斜め蒸着法を用い、格子状凸部の延在する方向に垂直な平面内で、基材面の法線と蒸着源のなす入射角度θを15°とした。
【0051】
・不要Alの除去
次にAlを蒸着した転写フィルムをアルカリ水溶液に浸漬し不要なAlを除去した。不要Alの除去としては、Al蒸着した転写フィルムを室温下で、0.1重量%水酸化ナトリウム水溶液に60秒間浸漬することで行った。
【0052】
・反射鏡の作成
得られたワイヤグリッド偏光子のアルミニウム蒸着面に黒色のウレタン塗料を30μm塗布、乾燥して反射鏡(車両用の後写鏡)とした。
【0053】
・分光光度計による光学特性評価
得られたPETフィルムを基材とする鏡を平滑なガラス板に張り付け、分光光度計を用い全光線反射率、縦偏光反射率および横偏光反射率として平行ニコルと直行ニコルの直線偏光に対する反射率を測定した。なお、反射率の測定は入射角を30度とした。その結果、視感度補正をした縦偏光反射率および横偏光反射率が84.4%、2.1%で、自然光に対する反射率が43.2%、偏光度が95.1%であった。
【0054】
(実施例2)
実施例1と同様に、格子状凸部のピッチPが130nm、高さが20nmで、格子状凸部の延在する方向に垂直な断面における凹部形状が略矩形で凸部高さの半分の高さにおける凸部の幅が約15nmの形状が転写できるNi製金型を用い、アルミニウムの蒸着を、入射角度θを60°として、平滑基板へのアルミニウム蒸着厚みが20nmとなるように蒸着を行い、不要Alの除去処理をせずに黒色塗料を塗った。得られた鏡の反射特性は、視感度補正をした縦偏光反射率および横偏光反射率が83.4%、42.6%で、自然光に対する反射率が63.0%、偏光度が32.5%であった。
【0055】
(比較例)
実施例と同様に、格子状凸部のピッチPが130nm、高さが20nmで、格子状凸部の延在する方向に垂直な断面における凹部形状が略矩形で凸部高さの半分の高さにおける凸部の幅が約15nmの形状が転写できるNi製金型を用い、アルミニウムの蒸着を、入射角度θを60°として、平滑基板へのアルミニウム蒸着厚みが10nmとなるように蒸着を行い、不要Alの除去処理をせずに黒色塗料を塗った。得られた鏡の反射特性は、視感度補正をした縦偏光反射率および横偏光反射率が80.2%、62.0%で、自然光に対する反射率が71.1%、偏光度が12.8%であった。
【0056】
実施例1、実施例2及び比較例の反射鏡を、自動車の室内後写鏡として取り付け、直射日光の当たる明るい車外の景色を、後写鏡を通して観察した。実施例1の反射鏡では、横偏光が十分に低減され車外の景色のぎらつきや、後ろの窓の周囲の映り込みもなく良好な視認性の向上効果が得られた。実施例2の反射鏡では、車外の景色のぎらつき、後ろの窓の周囲の映り込みは多少残るものの、視認性は明らかに向上した。一方、比較例の反射鏡では、車外の景色のぎらつき、後方の窓周囲の映り込みの低減効果が少なく、視認性の向上効果は十分ではなかった。
【0057】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することができる。また、上記実施の形態における材質、数量などについては一例であり、適宜変更することができる。その他、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、高温や光に対する長期耐久性及び光線反射性能に優れ、しかも反射光によるぎらつきや、映り込みを低減して視認性を向上できるという効果を有し、特に、自動車、自動二輪車などの車両や、船舶、航空機、などの乗り物の後写鏡、姿見などに適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
100 車両用の後写鏡
101 硬質透明板
102 ワイヤグリッド偏光子
102a 金属ワイヤ
103 光吸収層
104 光透過部材
200 車両用の室内後写鏡
300 画像表示装置
301 液晶セル
301A,301B ガラス基板
301C 液晶
301D シール部材
302 偏光バックライト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に延在して設けられた複数の金属ワイヤを有するワイヤグリッド偏光子を具備し、
前記金属ワイヤは、延在方向が水平基準面に対し略直交するように設けられ、無偏光光に対する反射率が35%以上であり、反射光が偏光度15%以上の直線偏光であることを特徴とする車両用の後写鏡。
【請求項2】
波長380nm〜780nmの可視光領域における入射光の最大反射率と最少反射率との差が、最大反射率の15%以下であることを特徴とする請求項1記載の車両用の後写鏡。
【請求項3】
表面に設けられた反射防止層を有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両用の後写鏡。
【請求項4】
無偏光光に対する反射率が40%以上であり、反射光が偏光度30%以上の直線偏光であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の車両用の後写鏡。
【請求項5】
防眩層を備えたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の車両用の後写鏡。
【請求項6】
画像表示装置を備えたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の車両用の後写鏡。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の車両用の後写鏡に用いられることを特徴とするワイヤグリッド偏光子。


【図1】
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【図2】
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