説明

車両用サーモビューワ装置

【課題】狭くて雰囲気温度が高いエンジンコンパートメントの内部に設けられた車両構造物の表面の温度分布を測定することが可能な車両用サーモビューワ装置を提供する。
【解決手段】本発明の車両用サーモビューワ装置10は、車両に形成されたエンジンコンパートメントの内部に配置され、側壁部24に冷却水を流通可能な流通路46が形成された冷却箱12と、冷却箱12の内部に収容され、エンジンコンパートメントの内部に設けられた車両構造物の温度に応じた信号を出力する赤外線カメラ14と、流通路46と接続され、流通路46との間で冷却水を循環させる送水機16と、エンジンコンパートメントの外部に配置され、赤外線カメラ14から出力された信号に基づいて測定結果を表示するパソコン18と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用サーモビューワ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、赤外線カメラとパソコンを備えた温度計測装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−83643号公報
【特許文献2】特開2003−65855号公報
【特許文献3】実開平3−65927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に、赤外線カメラは、常温での使用が前提とされており、耐熱性が低い場合がある。そして、この場合には、高温となるエンジンコンパートメントの内部で赤外線カメラを使用することは困難となる。
【0005】
また、一般に、エンジンコンパートメントの内部には、多数の部品が詰まった状態で収容されている。従って、エンジンコンパートメントの内部に設けられた車両構造物の温度分布を測定する場合には、この狭いエンジンコンパートメントの内部に配置される機器が小型化されていることが望まれる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、狭くて雰囲気温度が高いエンジンコンパートメントの内部に設けられた車両構造物の温度分布を測定することが可能な車両用サーモビューワ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の車両用サーモビューワ装置は、車両に形成されたエンジンコンパートメントの内部に配置され、外壁部に冷却水を流通可能な流通路が形成された冷却箱と、前記冷却箱の内部に収容され、前記エンジンコンパートメントの内部に設けられた車両構造物の温度に応じた信号を出力する赤外線カメラと、前記流通路と接続され、前記流通路との間で前記冷却水を循環させる送水機と、前記エンジンコンパートメントの外部に配置され、前記赤外線カメラから出力された信号に基づいて測定結果を表示する表示部と、を備えている。
【0008】
この車両用サーモビューワ装置によれば、表示部は、赤外線カメラを収容した冷却箱と別体に構成されており、エンジンコンパートメントの外部に配置される。従って、エンジンコンパートメントの内部に配置される機器を、赤外線カメラを収容した冷却箱だけの小型化したものとすることができる。
【0009】
しかも、冷却箱の外壁部には、流通路が形成されており、この流通路と送水機と間では冷却水が循環され、これにより、冷却箱の内部が冷却される。従って、エンジンコンパートメントの内部の雰囲気温度が高くなっても、冷却箱の内部の温度上昇を抑制することができるので、赤外線カメラの耐熱性を確保することができる。
【0010】
以上より、狭くて雰囲気温度が高いエンジンコンパートメントの内部に設けられた車両構造物の温度分布を測定することが可能となる。
【0011】
請求項2に記載の車両用サーモビューワ装置は、請求項1に記載の車両用サーモビューワ装置において、前記送水機が、前記流通路との間で循環させる前記冷却水の流量及び温度の少なくとも一方を調節可能とされ、前記冷却箱の内部に配置され、前記冷却箱の内部の温度に応じた信号を出力する温度センサと、前記冷却箱の内部の温度が予め規定された規定値以下に維持されるように、前記温度センサから出力された信号に基づいて前記送水機に前記冷却水の流量及び温度の少なくとも一方を調節させる制御部と、をさらに備えている。
【0012】
この車両用サーモビューワ装置によれば、冷却箱の内部の温度が予め規定された規定値以下に維持されるように、送水機において冷却水の流量及び温度の少なくとも一方が調節される。これにより、赤外線カメラの耐熱性をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上詳述したように、本発明によれば、狭くて雰囲気温度が高いエンジンコンパートメントの内部に設けられた車両構造物の温度分布を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用サーモビューワ装置を車両にセットした状態を説明する図である。
【図2】図1に示される冷却箱を斜め前方から見た斜視図である。
【図3】図1に示される冷却箱を斜め後方から見た斜視図である。
【図4】図1に示される冷却箱から外側パネル及び前側壁部を取り外した状態を示す図2に対応する斜視図である。
【図5】図1に示される冷却箱から外側パネル及び前側壁部を取り外した状態を示す図2に対応する斜視図である。
【図6】図1に示される冷却箱に対する赤外線カメラの取付位置を示す図2に対応する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
【0016】
図1に示されるように、車両80には、車体前部にエンジンコンパートメント82が形成されており、このエンジンコンパートメント82の内部には、図示しないエンジンや排気管などの車両構造物が設けられている。
【0017】
本発明の一実施形態に係る車両用サーモビューワ装置10は、この車両構造物の表面の温度分布を測定するためのものであり、冷却箱12と、赤外線カメラ14と、送水機16と、表示部及び制御部としてのパーソナルコンピュータ18(以下、略してパソコン18と称する)とを備えている。
【0018】
冷却箱12は、赤外線カメラ14を冷却するためのものであり、図2,図3に示されるように、前壁部20と、後壁部22と、4枚の外壁部としての側壁部24とを有する直方体により構成されている。
【0019】
前壁部20には、窓ガラス26が設けられており、後壁部22には、図3に示されるように、流入側接続部材28と流出側接続部材30が設けられている。また、後壁部22には、流入側接続部材28と流出側接続部材30との間に貫通孔32が形成されており、この貫通孔32からは後述する赤外線カメラ14(図6参照)と接続されたケーブル34が導出されている。
【0020】
一方、各側壁部24は、図2,図3に示される外側パネル36と、図4,図5に示される内側パネル38とを有して構成されている。この各外側パネル36と各内側パネル38とは、互いの板厚方向に重ね合わされた状態で結合されている。
【0021】
図4に示されるように、複数の内側パネル38の一つには、流入路40及び流出路42が形成されている。一方、図4,図5に示されるように、残りの内側パネル38には、U字状の連通路44が形成されている。この流入路40及び流出路42と、連通路44とは、冷却水を流通させるための流通路46を構成しており、複数の連通口48により互いに連通されると共に、内側パネル38の略全体に亘って形成されている。
【0022】
また、図4に示される流入路40及び流出路42は、連通口43及び連通口45を介して図5に示される後壁部22に形成された流入口50及び流出口52とそれぞれ連通されており、この流入口50及び流出口52には、図3に示される流入側接続部材28及び流出側接続部材30が取り付けられるようになっている。
【0023】
図1に示される赤外線カメラ14は、上述の車両構造物の表面の温度分布を検出するためのものであり、図6に示されるように、基板54と素子56を有して構成されている。この赤外線カメラ14は、冷却箱12の内部に収容されると共に、側壁部24の内側に接した状態で固定されている。
【0024】
また、この赤外線カメラ14は、窓ガラス26を通じて、冷却箱12の外側に位置された測定対象である車両構造物の表面の温度分布を検出し、この温度分布に応じた信号を出力する構成とされている。また、基板54には、冷却箱12の内部の温度に応じた信号を出力する温度センサ58が設けられている。さらに、この温度センサ58を含む赤外線カメラ14には、上述のケーブル34が接続されている。
【0025】
図1に示される送水機16は、上述の流通路46(図4,図5参照)との間で冷却水を循環させるためのものであり、吸入口60、吐出口62、ポンプ64、冷却ファン66、排気管68を有して構成されている。
【0026】
ポンプ64は、吸入口60から冷却水を吸入すると共に吐出口62から冷却水を吐出する構成とされており、冷却ファン66は、送水機16の内部を流れる冷却水に向けて送風する構成とされている。このポンプ64及び冷却ファン66は、いずれも供給される電圧等を変化させることにより回転数を増減させることが可能となっている。
【0027】
排気管68は、送水機16の内部と連通されており、この送水機16の内部の余分な熱を含んだ空気を送水機16の外部に排出する構成とされている。
【0028】
パソコン18は、赤外線カメラ14による測定結果を表示したり、送水機16を制御したりするためのものであり、本体部70と表示器72とを備えている。本体部70には、上述の車両構造物の表面の温度分布を測定するためのプログラムが予めインストールされている。
【0029】
このプログラムは、赤外線カメラ14から出力された信号に基づいて測定結果を算出し、この測定結果を表示器72に表示させるプログラムや、ポンプ64及び冷却ファン66を作動させるプログラムや、冷却箱12の内部の温度が予め規定された規定値以下に維持されるように、ポンプ64及び冷却ファン66の回転数を制御するプログラム等により構成されている。
【0030】
なお、冷却箱12の内部温度の規定値については、パソコン18に任意の値を入力することができるようになっている。
【0031】
次に、この車両用サーモビューワ装置10を用いてエンジンコンパートメント82の内部に設けられた車両構造物の表面の温度分布を測定する方法について説明する。
【0032】
先ず、図1に示されるように、車両用サーモビューワ装置10を車両80にセットする。すなわち、冷却箱12の内部に赤外線カメラ14を収容した状態で、この冷却箱12をエンジンコンパートメント82の内部に配置する。
【0033】
このとき、赤外線カメラ14が測定対象物である車両構造物(例えば、エンジンや、排気管など)を向くように冷却箱12を配置する。また、図3に示される流入側接続部材28及び流出側接続部材30を、図5に示される流入口50及び流出口52に取り付ける。
【0034】
また、図1に示される送水機16を車室84内に配置する。このとき、車室84内を空調装置によって適温に管理する。また、排気管68の先端側の排出口を車室84外に配置する。そして、上述の流入側接続部材28及び流出側接続部材30(図3参照)に一対の接続管74,76の一端を接続し、この一対の接続管74,76の他端を送水機16の吸入口60及び吐出口62に接続する。
【0035】
続いて、パソコン18をエンジンコンパートメント82の外部に配置する。なお、パソコン18は、車室84内でも車室84外でも良い。また、ケーブル34をパソコン18に接続すると共に、パソコン18と送水機16とをケーブル78で接続する。さらに、パソコン18及び送水機16を家庭用の100V電源86に接続して、このパソコン18及び送水機16の電源スイッチをオンにする。
【0036】
以上の要領で、車両用サーモビューワ装置10の車両80へのセットが完了する。
【0037】
なお、上記手順は、一例であり、その順序は適宜変更可能であることは勿論である。また、送水機16は、車室84外の実験室内に配置することも可能である。ところが、実験室内が車室84内よりも雰囲気温度が高い場合には、冷却水の熱交換がしにくくなり、冷却箱12を冷却するには、冷却水の水量を増加させる必要がある。従って、送水機16は、空調装置によって適温に管理された車室84内に配置するのが好適である。
【0038】
また、測定は、実験室内で行っても良く、また、車両80を屋外で実際に走行させて行っても良い。また、車両80を屋外で実際に走行させて測定を行う場合には、パソコン18を車室84内に配置すれば良い。また、この場合には、車両80の12V電源をコンバータによって100V電源に変換し、この100V電源に送水機16及びパソコン18を接続すれば良い。
【0039】
続いて、この車両用サーモビューワ装置10を用いて、エンジンコンパートメント82の内部に設けられた車両構造物の表面の温度分布を測定する。
【0040】
すなわち、車両80を走行状態とする。そして、パソコン18に上記プログラムを実行させる。
【0041】
これにより、この車両構造物の表面の温度に応じた信号が赤外線カメラ14から出力され、この信号がパソコン18に入力される。そして、この信号に基づいて測定結果がパソコン18において算出され、この測定結果がパソコン18の表示器72に表示される。
【0042】
また、このときには、ポンプ64が作動されて送水機16と流通路46との間で冷却水が循環される。そして、これにより、冷却箱12の内部が冷却され、冷却箱12の内部の温度上昇が抑制される。
【0043】
また、このときには、冷却ファン66が作動されて送水機16の内部を流れる冷却水に向けて送風される。そして、これにより、エンジンコンパートメント82の熱で温められた冷却水が送水機16に吸入されても、この送水機16の内部で冷却水が冷却される。また、このときには、送水機16の内部の余分な熱を含んだ空気が送水機16の外部に排出される。
【0044】
さらに、このときには、冷却箱12の内部の温度に応じた信号が温度センサ58から出力され、この信号がパソコン18に入力される。そして、この温度センサ58から出力された信号に基づいて送水機16における冷却水の吐出流量及び吐出時の温度がパソコン18において算出され、この算出結果に対応するようにポンプ64及び冷却ファン66の回転数がパソコン18によって制御される。これにより、冷却水の流量及び温度が調節され、冷却箱12の内部の温度が予め規定された規定値以下に維持される。
【0045】
以上の要領で、エンジンコンパートメント82の内部に設けられた車両構造物の表面の温度分布が車両用サーモビューワ装置10を用いて測定される。
【0046】
次に、本発明の一実施形態の作用及び効果について説明する。
【0047】
以上詳述したように、この車両用サーモビューワ装置10によれば、測定結果を表示する表示部であるパソコン18は、赤外線カメラ14を収容した冷却箱12と別体に構成されており、エンジンコンパートメント82の外部に配置される。従って、エンジンコンパートメント82の内部に配置される機器を、赤外線カメラ14を収容した冷却箱12だけの小型化したものとすることができる。
【0048】
しかも、冷却箱12の側壁部24には、流通路46が形成されており、この流通路46と送水機16と間では冷却水が循環され、これにより、冷却箱12の内部が冷却される。従って、エンジンコンパートメント82の内部の雰囲気温度が高くなっても、冷却箱12の内部の温度上昇を抑制することができるので、赤外線カメラ14の耐熱性を確保することができる。
【0049】
以上より、狭くて雰囲気温度が高いエンジンコンパートメント82の内部に設けられた車両構造物の表面の温度分布を測定することが可能となる。
【0050】
また、この車両用サーモビューワ装置10によれば、冷却箱12の内部の温度が予め規定された規定値以下に維持されるように、送水機16において冷却水の流量及び温度が調節される。これにより、赤外線カメラ14の耐熱性をより向上させることができる。
【0051】
次に、本発明の一実施形態の変形例について説明する。
【0052】
上記実施形態において、パソコン18は、赤外線カメラ14から出力された信号に基づいて測定結果を表示する機能と、温度センサ58から出力された信号に基づいて送水機16に冷却水の流量及び温度を調節させる機能とを備えていたが、これらの機能が別々のパソコンに備えられていても良い。
【0053】
また、上記実施形態では、冷却箱12の内部の温度が予め規定された規定値以下に維持されるように、送水機16において冷却水の流量及び温度が調節されるように構成されていたが、冷却水の流量及び温度のどちらか一方のみが調節されるように構成されていても良い。
【0054】
また、上記実施形態において、冷却箱12の内部を流れる冷却水の温度を直接測定し、この冷却水の水温が予め規定された規定値以下に維持されるように、温度センサ58から出力された信号に基づいて送水機16における冷却水の流量及び温度の少なくとも一方が調節されても良い。
【0055】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0056】
10 車両用サーモビューワ装置
12 冷却箱
14 赤外線カメラ
16 送水機
18 パーソナルコンピュータ(表示部、制御部)
46 流通路
58 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に形成されたエンジンコンパートメントの内部に配置され、外壁部に冷却水を流通可能な流通路が形成された冷却箱と、
前記冷却箱の内部に収容され、前記エンジンコンパートメントの内部に設けられた車両構造物の温度に応じた信号を出力する赤外線カメラと、
前記流通路と接続され、前記流通路との間で前記冷却水を循環させる送水機と、
前記エンジンコンパートメントの外部に配置され、前記赤外線カメラから出力された信号に基づいて測定結果を表示する表示部と、
を備えた車両用サーモビューワ装置。
【請求項2】
前記送水機は、前記流通路との間で循環させる前記冷却水の流量及び温度の少なくとも一方を調節可能とされ、
前記冷却箱の内部に配置され、前記冷却箱の内部の温度に応じた信号を出力する温度センサと、
前記冷却箱の内部の温度が予め規定された規定値以下に維持されるように、前記温度センサから出力された信号に基づいて前記送水機に前記冷却水の流量及び温度の少なくとも一方を調節させる制御部と、
を備えた請求項1に記載の車両用サーモビューワ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−215071(P2011−215071A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85174(P2010−85174)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(510091402)株式会社アイ・アール・システム (1)
【Fターム(参考)】