説明

車両用シートの表皮材及び車両用シート

【課題】表皮材の貫通孔又は非貫通孔に、より機能的な役割を持たせて有効利用することにある。
【解決手段】複数のピースSpをシート形状に縫合したのち、車両用シート1表面を覆うように張設される表皮材Sであって、表皮材Sを構成する複数のピースSpに、各々、表皮材Sの意匠面を構成する意匠部位32と、意匠部位32とは異なる縫い代部位30とを設け、表皮材Sの意匠部位32に、寸法の異なる貫通孔34又は非貫通孔を、一定の規則性を持たして配列形成した表皮材Sである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートの表皮材及び車両用シートに関し、詳しくは、貫通孔又は非貫通孔を設けた表皮材又はこの表皮材を張設した車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のシートとして、例えば、表皮材のシート中央部分に通気孔を設けた空調機能付き車両用シート(特許文献1)が公知である。また、意匠性を向上させるために表皮材に貫通孔を設けた家庭用シート(特許文献2)が公知である。
【0003】
ところで車両用シートは、家庭用シートと比較してより機能性を追及した形態とされている。例えば典型的な車両用シートは、車両運転時の着座者が安定してシート中央部に納まるように、着座者の着座するシート中央部に対してシート両側部が緩やかな突出状に形成されている。そしてシートバック両側部は、乗降時の着座者が擦るように接触する部位であることから、シートバック中央部よりも耐摩耗性に優れることが望ましい。
【0004】
また車両用シートの表皮材は、一般的に複数のピースをシート状に縫合した構成である。各ピースは、例えば図8を参照して、予めプレス型で画一的に(同径且つ均等ピッチに)貫通孔を設けた一枚の表皮材原反4より各々裁断されて製造される。そして各々のピースを縫い合わせてシート状の表皮材とするのであるが、車両用シートの表皮材には丈夫さが求められるので、表皮材を構成するピース間の縫合強度が高いことが望ましい。
【特許文献1】特開2005−253492号公報
【特許文献2】登録実用新案第3062117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような事情から、車両用シートの表皮材に意匠性向上のため貫通孔を設けるにしても、車両用シート自体の機能や物性等が確保されるよう配慮する必要がある。このため車両用シートの表皮材の貫通孔は、例えば通気孔として利用されることがあるにしても(特許文献1を参照)、車両用シートの機能や物性に合わせて十分に活用されているとはいいがたいものであった。
本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、表皮材の貫通孔又は非貫通孔に、より機能的な役割を持たせて有効利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、第1発明の車両用シートの表皮材は、シート本体に張設可能なシート形状を有するように、複数のピースが互いに縫合されて構成されてなる。そしてピース毎に、表皮材の意匠面を構成する意匠部位と、この意匠部位とは異なる縫い代部位を有する。そして表皮材の意匠部位に、寸法の異なる貫通孔又は非貫通孔(薄肉部)を、一定の規則性を持たして配置形成した。
そして第1発明によれば、表皮材の「意匠部位」に、寸法の異なる貫通孔又は非貫通孔を一定の規則性を持たして配置形成する(貫通孔又は非貫通孔の寸法の違いによるグラデーションを設ける)ことで、グラデーションによる意匠性を向上させながら、貫通孔又は非貫通孔の寸法の違いに由来する機能性を表皮材に付与することができる。一方、表皮材の「縫い代部位」を、貫通孔又は非貫通孔を形成しない無地状態とすることで、ピース同士の縫付強度を確保することができる。
【0007】
そして第2発明では、第1発明のピースの縫い代部位に、ピースとは異なる他のピースとを縫い合わせる際の縫合位置を決めるマーキングを形成する。マーキングは、ピース同士を縫い合わせてシート形状とする際、ピース毎に形成された貫通孔が一定の規則性にて配置形成されるように、ピースのマーキングと他のピースのマーキングを対応させつつ縫合するための目印である。そして、ピースのマーキングと他のピースのマーキングを対応させつつ縫合することで、表皮材における貫通孔又は非貫通孔の規則的配列がピース間でずれないようにシート状に縫合することができる。
【0008】
そして第3発明では、車両用シートのシート本体が、着座者の着座姿勢位置とされるシートバック中央部に対してシートバック両側部が突出凸状に形成されている。この車両用シートでは、シートバック中央部と比較して、シートバック両側部により高い耐摩耗性が求められる。
そこで第3発明では、第1発明又は第2発明の表皮材において、複数の貫通孔又は非貫通孔を、シートバック中央部からシートバック両側部に向かって連続的又は段階的に寸法が小さくなる規則性を持たして(貫通孔の寸法の違いによるグラデーションを設けて)配置形成した。これにより、比較的寸法の小さい貫通孔又は非貫通孔が配置形成されたシートバック両側部には、シートバック中央部よりも高い耐摩耗性が備わる。
【0009】
そして第4発明では、車両用シートのシート本体が、着座者の着座姿勢位置とされるシート中央部に対してシート端部が突出状に形成されている。この車両用シートでは、表皮材をうまくシート本体外形に対応させて張設するために、突出状に形成されたシート端部に張設する表皮材部分が伸びやすい(伸び特性に優れる)ことが求められる。
そこで第4発明では、第1発明又は第2発明の表皮材において、複数の貫通孔又は非貫通孔を、シート端部付近の表皮材に形成するとともに、シート端部側に向かって連続的又は段階的に寸法が大きくなる規則性を持たして(貫通孔の寸法の違いによるグラデーションを設けて)配置形成した。これにより、比較的寸法の大きい貫通孔又は非貫通孔が配置形成されたシート端部付近の表皮材が、シート中央部の表皮材よりも伸びやすくなる(伸び特性が向上する)。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、車両用シートの機能や物性に合わせて、より機能的な役割を有する貫通孔又は非貫通孔(薄肉部)を設けた表皮材を提供することができる。また第2発明によれば、貫通孔又は非貫通孔がより規則的に配置形成可能な表皮材を提供することができる。
そして第3発明によれば、シートバック両側部の耐摩耗性が優れた車両用シートを提供することができる。また第4発明によれば、より好適にシート本体外形に対応させて表皮材を張設した車両用シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しつつ説明する。図1〜図4は実施例1の車両用シートである。図5〜図7は、実施例2の車両用シートである。そして図8〜図10は従来の表皮材の構成を説明するための説明図である。
そして上記各図では、適宜「貫通孔又は非貫通孔(薄肉部)」を黒丸で図示する。また各図において、便宜上一部の貫通孔(又は非貫通孔)にのみ符号34を付すが、黒丸で図示された部分は全て貫通孔(又は非貫通孔)である。
【0012】
[実施例1]
(車両用シート)
図1を参照して、実施例1に係る車両用シート1には、シートクッション10、シートバック80及びシートヘッドレスト90からなるシート本体を覆うように、貫通孔34を設けた表皮材S(10S,80S,90S)が張設されてなる。なお表皮材S(10S,80S,90S)の材質は特に限定しないが一般的には皮革製である。
そして本実施例の車両用シート1は、着座者の着座姿勢位置となるシートバック80中央部Cに対してシートバック80の両側部L,Lが緩やかな突出凸状に形成されている。このシートバック80両側部L,Lは、上述の通り、乗降時の着座者が擦るように接触する部位である。このためシートバック80の両側部L,Lは、シートバック80中央部Cよりも耐摩耗性に優れることが望ましい。
【0013】
そこで本実施例では、シートバック80の両側部L,Lの耐摩耗性が保持されるよう、シートバック80を覆う表皮材80Sに複数の貫通孔34を設けた。すなわち、複数の貫通孔34を、シートバック80中央部Cからシートバック80両側部L,Lに向かって連続的(又は段階的)に径寸法が小さくなる規則性を持たして表皮材80Sに配置形成した(貫通孔34の径寸法の違いによるグラデーションを設けた)。より詳細には、表皮材80Sに設けられる貫通孔34は、シートバック80の側部L,Lの途中まで設けられており、その両端部E,Eは、貫通孔34が設けられていない無地状態とした。この貫通孔34が設けられていない無地状態のシート端部Eが、車両用シート1への着座者が乗降する際に擦れる部分であり、耐摩耗性が最も要求される部分である。
このため車両用シート1では、径寸法の小さい貫通孔34を配置形成したシートバック80両側部L,L(特に無地状態の両端部E,E)が、径寸法の大きい貫通孔34を配置形成したシートバック80中央部Cと比較して、より高い耐摩耗性を備えることとなる(換言すると、車両用シート1の乗降性能が高められている)。
【0014】
一方、本実施例では、シートバック80中央部Cの表皮材80S及びシートクッション10中央部Cの表皮材10S(いずれも着座者の着座姿勢位置)には比較的径寸法の大きい貫通孔34が形成されている。このため両中央部10C,80Cを覆う表皮材10S,80S部分は、着座者の荷重により適度に伸びる(良好な伸び特性を備える)構成を有する。よって本実施例の車両用シート1によれば、シートバック80中央部C及びシートクッション10中央部Cに、例えば車両運転時の着座者が適度に沈み込んで納まることとなる(換言すると、車両用シート1の拘束性能が高められている)。
【0015】
このように本実施例は、車両用シート1の乗降性能及び拘束性能をより高めるという機能的な役割を表皮材(10S,80S)の貫通孔34に持たせたものである。
さらに車両用シート1は、シートヘッドレスト90の表皮材90S(側面ピース92Sp)にも貫通孔34を設けてあって、その意匠性がより高められている。このように表皮材S(10S,80S,90S)に貫通孔34の径寸法の違いによるグラデーションが設けられることで、車両用シート1が優れた意匠性を有することとなる。
【0016】
ところで本実施例では、表皮材Sの貫通孔34(黒丸)が大きく強調して図示されているが、実際には目視で確認困難な程度の径寸法(例えば0.05mm)から1.7mm程度の径寸法の範囲であればよい。また本実施例では、意匠性を高めるために貫通孔34を形成した例を示したが、貫通孔34の代わりに非貫通孔(薄肉部)を表皮材S(10S,80S,90S)に形成してもよい。なお表皮材Sには、貫通孔34及び非貫通孔はいずれか一種のみを形成してもよく、それらを適宜組み合わせて形成してもよい。
そして表皮材Sの貫通孔34又は非貫通孔の形状は、本実施例に示す円形のほか、楕円形などの略円形状、ひし形,三角形,四角形,五角形又は星形等の多角形状でもよい。
【0017】
(表皮材の製造方法)
上述の表皮材S(10S,80S,90S)は、複数のピースを縫合してシート形状としたものである。そしてピースの製造工程は、図2を参照して、(a)「ピース区分け工程」及び(b)「貫通孔形成工程」を有している。
そして本実施例では、コンピュータ制御のレーザー光照射装置(図示しない)を使用することにより「ピース区分け工程」及び「貫通孔(又は非貫通孔)形成工程」を実質同時に行う。そしてコンピュータ制御のレーザー光照射装置を使用することで、「貫通孔形成工程」において、予め設定された大きさ、形状及び間隔でもって複数の貫通孔34をピースに正確に形成することができる。さらに本実施例の製造方法によれば、後述するように、従来のピース製造方法の問題点を同時に解消することができる。
【0018】
ところで従来のピース製造方法は、図8(a)に示すように、画一的な(同径且つ均等ピッチの)複数の貫通孔を設けた一枚の表皮材原反4に対して同図(b)の「ピース裁断工程」を行う製造方法である。
ここで均等ピッチとは、例えば図9を参照して、隣接する2つの貫通孔を結ぶ線の長さ寸法を常にaとし、直近の4つの貫通孔で四角形を形成したとき、その対角線の長さ寸法は常にbとすることである。そして従来の製造方法の問題点の一つは、ピースの縫い代部にまで貫通孔34が形成されることである。このように縫い代部位に貫通孔があることで、その強度が低下するとともに、表皮材を構成するピース間の縫合強度が低下する。
【0019】
さらに図10を参照して、シートバック80側部Lを覆うピース(側部ピース88Sp)を例にとり従来の製造法の別の問題点を説明する。
すなわち従来の製造法では、貫通孔34の配列がピース間でずれないうようにシート状に縫合する必要上、ピース区分け工程において貫通孔34の柄を揃えた状態で複数のピースを表皮材原反4より裁断する必要がある。具体的には図10(a)のように、基本となる柄の側部ピース{柄角度0°の側部ピース88Sp(1)}と同一の柄の関係にある側部ピース{柄角度90°の側部ピース88Sp(2)、180°の側部ピース88Sp(3)又は270°の側部ピース88Sp(4)}を表皮材原反4より裁断する必要がある。
【0020】
一方、図10(b)のように、表皮材原反から多くのピースを裁断しようとすると、側部ピース88Sp(1)、88Sp(2)、88Sp(4)は柄がほぼ同一となるが、側部ピース88Sp(5)、側部ピース88Sp(6)は柄が異なる(他のピースと縫合したときにピース間で貫通孔配置にずれが生じる)ため、不良品として使用できない。また、同図(c)を参照して、仮に表皮材原反4に傷部(例えば、裂け目、切れ目、ほつれ、擦り切れ、摩耗跡、損耗跡、汚れ跡)Xがある場合、この傷部X周囲の表皮材原反4部分が広範囲にわたって使用できなくなる。さらに、同図(d)を参照して、車両用シート1のデザインによっては、予め貫通孔34を設けた表皮材原反4と、貫通孔34を設けない無地の表皮材原反6の2種類を用意する必要がある。
【0021】
[ピース区分け工程]
そこで本実施例の「ピース区分け工程」では、上記問題点を解消すべく、図2(a)を参照して、貫通孔34を設ける前段階の(無地の)表皮材原反6をピース毎に区分けすることとした。
このように無地の表皮材原反6を使用すると、図3(a)を参照して、貫通孔34の柄角度とは無関係に側部ピース88Spを区分けすることができ、表皮材原反6から得られるピース枚数が極端に増加する(歩留まりが向上する)。そして本実施例によれば、後述の「貫通孔形成工程」においてピース毎に貫通孔34を設けるため、予め貫通孔34を設けた表皮材原反4と貫通孔34を設けない無地の表皮材原反6の2種類を用意する必要がない。このため、図3(b)を参照して、貫通孔34を形成した側部ピース88Sp(1)〜(4)と、無地状態のピース(後述するシートヘッドレスト用の側面ピース92Sp)を一枚の表皮材原反6に設けることができる。
なお「ピース毎に区分けする」とは、表皮材原反6よりピースを裁断することのほか、(ピースを裁断することなく)ピース外形を示す区分けラインPL(実線又はコンピュータ上に設定された仮想線)による線引きをすることを意味する。
【0022】
さらに「ピース区分け工程」{図2(a)を参照}では、区分けラインPLを底辺とした略V字状の切欠(マーキング36)を形成しつつ、ピースを区分けする(図面上では、各ピースに形成のマーキングの一つにのみ符号36を付す)。
このマーキング36は、ピース同士を縫い合わせてシート形状とする際、ピース毎に形成された貫通孔が一定の規則性にて配置形成されるように、ピースと他のピースとを縫い合わせる際の縫付位置を決める目印である。そして、ピースのマーキング36と他のピースのマーキング36を対応させつつピース同士を縫合することで、ピース毎に形成された貫通孔34がピース間でずれないようにシート形状とすることができる。このため、表皮材S(10S,80S,90S)縫合時の手間が省け、縫合作業が容易となる。
なおマーキング36の配置位置や形状は特に図示された略V字状に限定されるものではなく、ピースの大きさや張設位置によって適宜変更される。
【0023】
[貫通孔形成工程]
次に「貫通孔形成工程」では、図2(b)を参照して、上述のマーキング36が収まるよう区分けラインPLに沿って設けた「縫い代部位30」と、この縫い代部位30で囲まれた「意匠部位32」とを区別して形成する。なお「意匠部位32」とは、人が見たり触ったりできる表皮材S(10S,80S,90S)の外面(表皮材Sの意匠面を構成する部位)である。
【0024】
例えば図4(a)を参照して、側部ピース88Sp(シートバック80側部Lを覆うピース)では、区分けラインPLを帯状に縁取る「縫い代部位30」を無地状態で残しておく。そして側部ピース88Spにレーザー光を照射して、シートバック80中央部Cに対応の縫い代部位30(図下側)から、シートバック80両側部L(端部E)に対応の縫い代部位30(図上側)に向かって連続的(又は段階的)に径寸法が小さくなる規則性を持たした貫通孔34を配置形成する。
また別の例として、図4(b)を参照して、側面ピース92Sp(シートヘッドレスト90側部Lを覆うピース)でも、区分けラインPLを帯状に縁取る「縫い代部位30」を無地状態で残しておく。そして側面ピース92Spにレーザー光を照射して、側面ピース92Sp中央から縫い代部位30に向かって連続的(又は段階的)に径寸法が小さくなる規則性でもって貫通孔34を放射状に配置形成する。
こうすることで上記各ピース(88Sp,92Sp)の「意匠部位32」に貫通孔34の径寸法の違いによるグラデーションを設けて配置形成するとともに、「縫い代部位30」を無地状態(マーキング36のみが設けられた状態)で残すことができる。
【0025】
[縫合工程]
次に、ピース毎に形成された貫通孔34を一定の規則性にて配置形成するように、上述のマーキング36を目印にピース同士を縫合してシート形状とする。具体的には、「縫い代部位30」をシート本体内部方向に折り返し状態として各ピースを互いに縫合し、シート本体表面に後述する「意匠部位32」を露出した状態とする(図7を参照)。このとき各ピースの縫い代部位30は無地状態(貫通孔34又は非貫通孔がない状態)であるので、車両用シート1に特に好適な縫付強度を有する。また縫合具(典型的には縫糸)が貫通孔34に入り込むこともない。
【0026】
そして最後に、上述の工程を経て製造されたシート状の表皮材S(10S,80S,90S)をシート本体に張設する。
このように製造された車両用シート1は、上述の通り、径寸法の小さい貫通孔34を配置形成したシートバック80両側部L,L(特に無地状態の両端部E,E)が、径寸法の大きい貫通孔34を配置形成したシートバック80中央部Cと比較してより高い耐摩耗性を有することとなる。一方、シートバック80中央部C及びシートクッション10中央部C(いずれも着座時の着座者を収納する部位)は、表皮材Sに形成した貫通孔34の径寸法が比較的大きく、着座者の荷重により適度に伸びる。このため、車両運転時の着座者が安全に車両用シート1に沈み込んで納まることとなる。このように本実施例では、車両用シート1の機能や物性に合わせて、表皮材Sの貫通孔34に、より機能的な役割を持たせることができる。
【0027】
[実施例2]
(車両用シート)
実施例2の車両用シートの基本構造及び表皮材Sの製造方法は、実施例1の車両用シートとほぼ同一であるため、共通の構造等については対応する符号を付すことで詳細な説明を省略する。
実施例2に係る車両用シート2は、図5及び図7を参照して、シートクッション10中央部C及びシートバック80中央部Cに対して、シートクッション10端部E及びシートバック80端部E(シート端部Eと総称する)が突出状に形成されている。このような車両用シート2では、表皮材S(10S,80S,90S)をうまくシート本体外形(典型的にはシートバックパッド80P)に対応させて張設するために、突出状のシート端部Eに張設すべき表皮材S部分が伸びやすい(伸び特性に優れる)ことが望ましい。
【0028】
そこで本実施例では、表皮材10S,80Sのシート端部E付近に貫通孔34を設けるとともに、シート中央部Cからシート端部E側に向かって連続的(又は段階的)に径寸法が大きくなる規則性をもって貫通孔34を配置形成した。例えば図6を参照して、シートバック80上部を覆う上部ピース80Spには、シート中央部Cからシート端部E側に向かって連続的(又は段階的)に径寸法が大きくなる規則性をもって貫通孔34を配置形成されている。
このため、シート中央部C側よりも径寸法の大きい貫通孔34又は非貫通孔を配置形成したシート端部Eの表皮材10S,80Sが伸びやすくなり(表皮材の伸び特性が向上し)、より好適にシート本体外形に対応させて表皮材10S,80Sを張設することができる。
【0029】
さらに本実施例では、シート端部E(突出凸状)の表皮材10S,80Sを伸ばしやすくしたことにより、図7(a)で見て表皮材S側端を下方向に引っ張ってずらすことができる。このため図7(a)で示したピース縫製位置SEWを、図7(b)で示す縫製位置SEWまで下げることができる。よって、ピースの縫製位置SEWの自由度が高まり、表皮材10S,80Sの張設作業がより容易となる。
このように本実施例でも、車両用シート2の機能や物性に合わせて、表皮材Sの貫通孔34に、より機能的な役割を持たせることができる。
【0030】
上述の実施例に係る表皮材又は車両用シートは、上述した実施例に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。
(1)各実施例では、専らシートバック、シートクッション又はシートヘッドレストの表皮材を例示して、貫通孔又は非貫通孔(薄肉部)の配置形成例を示した。本実施例の表皮材は、これら構成部材のほか、車両用シートを構成する各種の部材及びその付属物に対しても適宜適用可能である。
(2)各実施例では、専ら車両用シート着座席側面に貫通孔又は非貫通孔(薄肉部)を設ける例を説明した。これとは異なり、車両用シート後部座席面の表皮材(バックカバー)に貫通孔又は非貫通孔(薄肉部)を設けてもよい。
(3)各実施例では、典型的な例として縫糸を用いて複数のピースを縫合する例を説明した。この縫合具として、縫糸の代わりにステープルのような金属製縫合具を用いてもよい。そして「縫合」の概念には「接着」も含まれることとする。接着とは、公知の接着剤を用いて各ピースを接着すること、または各ピース同士を熱融着することである。各ピースを接着する場合には、縫い代部位が接着部位となる。
(4)そして各実施例では、レーザー光照射装置を使用することで、「ピース区分け工程」及び「貫通孔形成工程」を実質同時に行う例を説明した。これとは異なり、工程毎に異なるプレス型を使用して、「ピース区分け工程」の次に「貫通孔形成工程」を逐次行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1に係る車両用シートの斜視図である。
【図2】(a)は、ピース区分け工程を説明するための表皮材原反の正面図であり、(b)は、貫通孔形成工程を説明するための表皮材原反の正面図である。
【図3】(a)傷のある無地の表皮材原反の正面図であり、(b)は、貫通孔を設けたピースと、貫通孔を設けていない無地のピースが混在した表皮材原反の正面図である。
【図4】(a)は、シートバック側部を覆うピースの正面図であり、(b)は、シートヘッドレスト側面を覆うピースの正面図である。
【図5】実施例2に係る車両用シートの斜視図である。
【図6】シートバック上部を覆うピースの正面図である。
【図7】図5の車両用シートのVII−VII線一部縦断面図であって、(a)は縫製位置の一例を説明する一部縦断面図であり、(b)は縫製位置の他の例を説明する一部縦断面図である。
【図8】(a)は、予め貫通孔を形成した表皮材原反の正面図であり、(b)は、ピース区分け工程を説明するための表皮材原反の正面図である。
【図9】表皮材原反に予め形成した貫通孔のピッチを説明する説明図である。
【図10】(a)は、ピースを正しく区分けした従来の表皮材原反の正面図であり、(b)は、ピースを間違って区分けした従来の表皮材原反の正面図であり、(c)は、傷のある表皮材原反の正面図であり、(d)は、貫通孔を設けた表皮材原反と、貫通孔を設けていない無地の表皮材原反の正面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 車両用シート
2 別の例の車両用シート
4 表皮材原反
6 無地の表皮材原反
10 シートクッション
30 縫い代部位
32 意匠部位
34 貫通孔
36 マーキング
80 シートバック
90 シートヘッドレスト
S 表皮材
Sp (表皮材の)ピース
80Sp (シートバック用表皮材の)上部ピース
88Sp (シートバック用表皮材の)側部ピース
92Sp (シートヘッドレスト用表皮材の)側面ピース


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のピースをシート形状に縫合したのち、車両用シート表面を覆うように張設される表皮材であって、
前記表皮材を構成する前記複数のピースに、各々、前記表皮材の意匠面を構成する意匠部位と、前記意匠部位とは異なる縫い代部位とを設け、
前記表皮材の意匠部位に、寸法の異なる貫通孔又は非貫通孔を、一定の規則性を持たして配列形成した車両用シートの表皮材。
【請求項2】
前記ピースの縫い代部位には、前記ピースとは異なる他のピースと縫い合わせる際の縫合位置を決めるマーキングが形成されている請求項1に記載の車両用シートの表皮材。
【請求項3】
着座者の着座位置とされるシートバック中央部に対してシートバック両側部が突出凸状に形成されたシート本体に請求項1又は2に記載の表皮材が張設されており、
前記表皮材の貫通孔又は非貫通孔が、前記シートバック中央部から前記シートバック両側部に向かって連続的又は段階的に寸法が小さくなる規則性を持たして配置形成されている車両用シート。
【請求項4】
着座者の着座位置とされるシート中央部に対してシート端部が突出状に形成されたシート本体に請求項1又は2に記載の表皮材が張設されており、
前記表皮材の貫通孔又は非貫通孔が、前記シート端部付近に設けられるとともに、前記シート端部側に向かって連続的又は段階的に寸法が大きくなる規則性を持たして配置形成されている車両用シート。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−66209(P2009−66209A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238028(P2007−238028)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)