説明

車両用シートクッションパッド

【課題】クッションパッドからの揮発性有機化合物の放散を効率よく抑えることができ、かつ製造が容易な車両用シートクッションパッドの提供を目的とする。
【解決手段】車両用シートの背もたれや、座部として用いられるシートクッションパッド10において、軟質ポリウレタンフォーム等の発泡体からなるクッションパッド11の裏面に、揮発性有機化合物の吸着剤を塗布や含浸等によって含有させた裏面材21を設け、特に走行時の振動によるクッションパッドの圧縮量変化や乗降時におけるクッションパッドの圧縮及び圧縮解除等によって空気が裏面材21を強制的に通る際に、揮発性有機化合物を裏面材21で効果的に吸着するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートクッションパッドに関し、特にはクッションパッドからの揮発性有機化合物の放散を効率よく抑えることのできる車両用シートクッションパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートクッションパッドは、発泡体からなるクッションパッドの裏面に裏面材が設けられたものが多用されている。前記裏面材は不織布等で構成され、シートクッションパッドがばね部材等に載置されて使用される際、クッションパッドがばね部材等と直接接触して破損するのを抑える。
【0003】
ところで、車両用シートクッションパッドは、クッションパッドの発泡原料に含まれる揮発性有機化合物(VOC)がクッションパッドに残存し、使用中に揮発性有機化合物がクッションパッドから放散されることがある。ところが、揮発性有機化合物は、頭痛やめまいなどの症状からなるシックハウス症候群を引き起こす原因物質として知られているため、車両用シートクッションパッドにおいては、揮発性有機化合物の放散防止が求められている。
【0004】
前記揮発性有機化合物の放散を抑える方法として、揮発性有機化合物を捕捉するキャッチャー剤を軟質ポリウレタンフォームからなるクッションパッドの表面に塗布することが提案されている。また、木炭粉末を分散させた分散液を発泡体に含浸させて、アンモニア、ホルムアルデヒド、トリメチルアミン等の臭い成分を吸着する方法も提案されている。
【0005】
しかし、クッションパッドの表面に揮発性有機化合物を捕捉するキャッチャー剤を塗布する方法や、木炭粉末を分散させた分散液を発泡体に含浸させる方法は、嵩張るクッションパッドに塗布作業や含浸作業を行うことになるため、作業に手間取り、製造コストが嵩む問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開2005−124743号公報
【特許文献2】特開2001−61603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、揮発性有機化合物の放散を効率よく抑えることができ、かつ製造が容易な車両用シートクッションパッドの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、発泡体からなるクッションパッドの裏面に裏面材を有する車両用シートクッションパッドにおいて、前記裏面材に揮発性有機化合物の吸着剤を含有させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、クッションパッド裏面の裏面材に揮発性有機化合物の吸着剤を含有させたことにより、通常時にはクッションパッドから放散される揮発性有機化合物を裏面材に吸着することができ、揮発性有機化合物の放散を抑えることができる。しかも、ホルムアルデヒド、硫化水素、酢酸等については、空気よりも比重が高いため、シートクッションパッドが座部の場合には、クッションパッド裏面の裏面材でより効果的に吸着することができる。
【0010】
また、着座(シートクッションパッドが背もたれの場合、背もたれにもたれる場合を含む。以下同様。)の際には、クッションパッドが圧縮されてクッションパッド内の空気が裏面材を強制的に通過して排出されるため、排出空気に含まれる揮発性有機化合物を裏面材に効率的に吸着させることができる。また、車両走行時の振動によるクッションパッドの圧縮量変化によっても、空気が裏面材を強制的に通るため、その際にも揮発性有機化合物を裏面材に吸着させることができる。
【0011】
さらに、本発明のシートクッションパッドは、車室内の他の内装部品から放散される揮発性有機化合物についても、裏面材で吸着することができる。しかも、車両走行時の振動によるクッションパッドの圧縮量変化や降車等によるクッションパッドの圧縮解除で車室内空気が裏面材を強制的に通るため、車室内空気に含まれる揮発性有機化合物についても裏面材で効率的に吸着することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態に係る車両用シートクッションパッドの斜視図及びA−A断面図、図2は本発明のシートクッションパッドを製造する際の一例を示す発泡成形型の断面図である。
【0013】
図1に示す車両用シートクッションパッド10は、車両用シートの背もたれあるいは座部とされるものであって、クッションパッド11と裏面材21とからなる。通常はこれに表面材(カバー)を被せて車両用シートクッションとされる。
【0014】
クッションパッド11は、軟質ポリウレタンフォーム等の発泡体からなり、所望の背もたれ形状あるいは座部形状とされている。図示の例では、乗員のホールド性向上のため、両側部12,12が盛り上がった形状となっている。
【0015】
裏面材21は、前記クッションパッド11の裏面に設けられ、前記シートクッションパッド10がシート装置のばね部材等に載置される際にクッションパッド11の裏面が直接ばね部材等に接触して破損するのを防ぐ。前記裏面材21は、織布、不織布、粗毛フェルト等、通気性を有する材質からなる。
【0016】
前記裏面材21には揮発性有機化合物の吸着剤が含有されている。前記吸着剤を裏面材21に含有させる方法は、吸着剤を前記裏面材21に塗布することによって、あるいは吸着剤液に前記裏面材21を浸漬する等によって行うことができる。なお、予め吸着剤を含浸等によって付着させた繊維等によって形成した不織布等で前記裏面材21を構成してもよい。
【0017】
前記裏面材21に含有させる吸着剤としては、揮発性有機化合物を吸着できるものであればよく、特に限定されるものではない。なお、吸着剤は、揮発性有機化合物を吸着分解するものを用いてもよい。吸着剤の例として、アミン類、イミン類、アミジン類等を挙げることができ、特に、二価鉄+キレート剤、シッフ反応を起こすアミノ基を有するものなどが好適である。また、吸着剤には、揮発性有機化合物を吸着あるいは吸着分解するものと共に、揮発性有機化合物以外の臭い成分を吸着あるいは吸着分解するものを併用してもよい。
【0018】
前記シートクッションパッド10は、前記クッションパッド11を予め所定形状に発泡成形し、その後に前記裏面材21を接着等によってクッションパッド11と一体化させたものでもよく、あるいは一体発泡成形によって前記クッションパッドと裏面材21を一体に形成したものでもよい。特に一体発泡成形は、製造作業が容易で部材間の結合も良好なために好ましいものである。以下、一体発泡成形により前記クッションパッド11と前記裏面材21を一体化させてシートクッションパッド10を製造する場合について、図2を用いて簡単に説明する。
【0019】
まず、図2の(2−A)に示すように、塗布等によって吸着剤を含有させた前記裏面材21を、発泡成形型40の上型41の型面42にセットする。なお、前記上型41の型面42には係止爪等からなる係止手段が前記裏面材21の保持用として適宜設けられている。
【0020】
次に、図2の(2−B)に示すように、前記下型45にクッションパッド11の発泡原料Pを注入して前記発泡成形型40内で発泡させ、図2の(2−C)に示すように、前記裏面材21とクッションパッド11を一体成形する。その際、前記クッションパッド11の発泡形成時に生じる裏面材21への含浸によって、前記クッションパッド11と裏面材21が一体化し、前記シートクッションパッド10となる。その後、前記発泡成形型40を開いてシートクッションパッド10を脱型する。
【実施例】
【0021】
目付量140g/m、材質ポリプロピレンからなる不織布(品名:タフネル、三井化学株式会社製)に吸着剤1、吸着剤2、吸着剤3をそれぞれ10g/m塗布し、自然乾燥させて実施例1(吸着剤1)、実施例2(吸着剤2)、実施例3(吸着剤3)の裏面材を形成した。吸着剤1は2価鉄+キレート剤からなる吸着剤(品名:エフニカK−60、株式会社アレックス製)、吸着剤2はアミン化合物を有する吸着剤(品名:ケスモンKS220、東亜合成株式会社製)、吸着剤3は2価鉄+キレート剤からなる吸着剤(品名:エフニカK−60、株式会社アレックス製)とアミン化合物を有する吸着剤(品名:ケスモンKS220、東亜合成株式会社製)を重量比50:50としたものからなる。また、比較例の裏面材は、実施例1〜3の不織布に吸着剤を塗布していないものとした。
【0022】
実施例1〜3及び比較例の裏面材を、図2の(2−A)及び(2−B)のように発泡成形型にセットし、発泡成形型内に軟質ポリウレタン原料からなる発泡原料を注入して図2の(2−C)のように発泡させ、クッションパッドと裏面材が一体となった実施例1〜3及び比較例のシートクッションパッドをそれぞれ製造した。
【0023】
このようにして得られた実施例1〜3及び比較例のシートクッションパッドについて、シートクッションパッドから放散されるホルムアルデヒド、アセトアルデヒドの揮発量(放散量)を測定した。測定は、まず実施例1〜3及び比較例のシートクッションパッドから、図3に示す100mm×80mm×厚み100mmの揮発性有機化合物揮発量評価サンプル51を、裁断によって作成した。次に、それぞれの評価サンプル51を内容積10リットルのサンプルバッグに4リットルの窒素ガスと共に封入し、その状態で65℃×2時間放置した。その後、DNPHカートリッジ捕集管に揮発成分を捕集し、アセトニトリルを脱着溶媒に使用し、捕集したDNPHカートリッジを処理し、高速液体クロマトグラフを用いてホルムアルデヒドとアセトアルデヒドの量(評価サンプルからの揮発量)を分析した。分析結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜3のシートクッションパッドは、比較例のシートクッションパッドと比べ、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドの揮発量(放散量)が少なく、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドに対する吸着性が高いことがわかる。
【0026】
また、実施例1〜3及び比較例の裏面材について、シートクッションパッド外部に存在し、においの原因となる物質に対する吸着率を測定した。測定対象物質は、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アンモニア、硫化水素、酢酸とした。測定は、まず、実施例1〜3及び比較例の裏面材から、図4に示す100mm×80mmの外部物質吸着率評価サンプル52を、裁断によって作成した。次に、それぞれの評価サンプル52を内容積10リットルのサンプルバッグに各3リットルの測定対象物質の標準ガスと共に封入し、その状態で23℃×3時間放置した。その後、サンプルバッグ内の残留ガス濃度を検知管で測定し、吸着率を[吸着率=(サンプルバッグ内の標準ガス濃度−サンプルバッグ内の残留ガス濃度)/サンプルバッグ内の標準ガス濃度×100]で算出した。なお、標準ガスは、測定対象物質を酸素により所定濃度に調整したガスをいう。各標準ガスの濃度は、ホルムアルデヒドが30ppm、アセトアルデヒドが30ppm、アンモニアが30ppm、硫化水素が5ppm、酢酸が50ppmである。算出結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
表2の結果から明らかなように、実施例1〜3の裏面材は、比較例の裏面材と比べ、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アンモニア、硫化水素、酢酸に対する吸着率が高い。このことから、実施例1〜3のシートクッションパッドは、シートクッション外部の車内に存在するホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アンモニア、硫化水素、酢酸を裏面材で良好に吸着することができ、車内のにおいを低減させる効果に優れることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用シートクッションパッドの斜視図及びA−A断面図である。
【図2】本発明のシートクッションパッドを製造する際の一例を示す発泡成形型の断面図である。
【図3】揮発性有機化合物揮発量評価サンプルの斜視図である。
【図4】外部物質吸着率評価サンプルの斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
10 車両用シートクッションパッド
11 クッションパッド
21 裏面材
31 表面材
40 発泡成形型
41 上型
45 下型
P 発泡原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡体からなるクッションパッドの裏面に裏面材を有する車両用シートクッションパッドにおいて、前記裏面材に揮発性有機化合物の吸着剤を含有させたことを特徴とする車両用シートクッションパッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−36048(P2008−36048A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212762(P2006−212762)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】