説明

車両用スタンションポール

【課題】 着座している乗客のみならず、立っている乗客にとっても快適で安全な利用が可能な車両用スタンションポールを提供する。
【解決手段】 車両用スタンションポールにおいて、車両の幅方向に向き、かつ床に対して垂直方向に複数に分割され、複数の握り部が形成されるパイプ6,7を具備する。よって、乗客の立ち座りを容易にするとともに、その乗客の立ち座りに干渉することなく、立っている乗客の支持具の利用を容易にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用スタンションポールに係り、特に、鉄道車両に設置されるスタンションポールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の鉄道車両内の支持具としては、吊り手の他に、鉄道車両内に支柱を立てて乗客に支持具として提供する例があるが、その場合、支柱はドアとドアの間もしくは座席と座席の間に1本だけ立てられており、立った状態の乗客がこれに掴まることで、乗車中に転倒するのを防止するようにしている(下記非特許文献1参照)。
また、他の支柱としては図10に示すように、仕切りを主な用途とする、座席前端部から荷棚をつなぐ支柱があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】人間工学 Vol.39,No.6,2003,pp308〜317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、鉄道車両の高速化に伴い、走行中の車両における乗客の安全性の確保が要請されている。特に、高齢化社会の到来により、高齢者が安全かつ快適に乗車できることが必要となっており、とりわけ、高齢者の座席の立ち座り時における安全の確保は急務である。
一方、鉄道車両のラッシュ時には、立っている乗客が増加するが、その場合、立っている乗客の多くに吊り手や支柱などの支持具が提供されていないため、不安定な姿勢を強いられるのが現状であり、急ブレーキ時には、乗客が将棋倒しとなる恐れもある。
【0005】
かかる観点から、高齢者の座席の立ち座りをアシストするスタンションポールが望まれる。その際には、着席している高齢者だけではなく、立っている乗客も、高齢者の座席の立ち座り時の利用とは関係なく快適にそのスタンションポールを利用できることが望ましい。
本発明は、上記状況に鑑みて、着座している乗客のみならず、立っている乗客にとっても快適で安全な利用が可能な車両用スタンションポールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕車両用スタンションポールにおいて、車両の座席シートの前方にパイプが車両の床から垂直に立ち上がり、前記車両の長さ方向に間隔をとって複数個配置されるスタンションポールを具備することを特徴とする。
〕上記〔〕記載の車両用スタンションポールにおいて、前記パイプが前記車両の幅方向に配置される逆U字形状をなすことを特徴とする。
【0007】
上記〔2〕記載の車両用スタンションポールにおいて、前記逆U字形状の内側に形成されるフック部を具備することを特徴とする。
〕上記〔〕記載の車両用スタンションポールにおいて、前記パイプが前記座席シートの背もたれから通路側へと延びる水平状のパイプと、この水平状のパイプに連設されている上方へ傾斜する傾斜状のパイプと、通路側に垂直に配置される垂直状のパイプと、前記傾斜状のパイプの先端と前記垂直状のパイプの先端に連結される環状のパイプとからなることを特徴とする。
【0008】
〕上記〔〕記載の車両用スタンションポールにおいて、前記パイプの環状のパイプの一部をカットして開口部を設けることを特徴とする。
〕上記〔〕記載の車両用スタンションポールと上記〔〕記載の車両用スタンションポールとを組み合わせて配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
(1)乗客の座席の立ち座りを容易にするとともに、その乗客の立ち座りに干渉することなく、立っている乗客の支持具の利用を容易にすることができる。
(2)スタンションポール自体に買物袋や傘掛け機能を付加することができる。
(3)スタンションポール自体を多くの立っている乗客の支持具として供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1参考例を示す鉄道車両用スタンションポールの側面模式図である。
【図2】本発明の第1参考例を示す鉄道車両用スタンションポールの正面模式図である。
【図3】本発明の第1参考例の変形例を示す鉄道車両用スタンションポールの要部側面模式図である。
【図4】本発明の第実施例を示す鉄道車両用スタンションポールの斜視図である。
【図5】本発明の第実施例を示す鉄道車両用スタンションポールの斜視図である。
【図6】本発明の第実施例の変形例を示す鉄道車両用スタンションポールの斜視図である。
【図7】本発明の第実施例を示す鉄道車両用スタンションポールの斜視図である。
【図8】本発明の第2参考例を示す鉄道車両用スタンションポールの側面模式図である。
【図9】本発明の第3参考例を示す鉄道車両用スタンションポールの側面模式図である。
【図10】従来の、仕切りを主な用途とする、座席前端部から荷棚をつなぐ支柱を示す側面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の車両用スタンションポール車両の座席シートの前方にパイプが車両の床から垂直に立ち上がり、前記車両の長さ方向に間隔をとって複数個配置されるスタンションポールを具備する
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の第1参考例を示す鉄道車両用スタンションポールの側面模式図、図2はその正面模式図である。
これらの図において、1は鉄道車両の床、2は車両の壁、3は座席シート、4は座席シート3上の荷棚、5は上部は荷棚4から下部は座席シート3の底部に連結され、車両の幅方向に2本のパイプ6,7が並設されたスタンションポール、8,9はその2本のパイプ6,7の間に対向して配置されるフック、10は着座している乗客、11は立っている乗客である。なお、スタンションポール5の下部は座席シート3の底部に連結するのではなく、床1まで延ばすようにしてもよい。また、それ以外の各種の形状のスタンションポール5を配置することができる。
【0013】
このように構成したので、着座している乗客10が立ち上がる時にはスタンションポール5のパイプ6を握って容易に立ち上がることができる。また、立っている乗客11はスタンションポール5のパイプ7を握って自身を安定に支持することができる。その際に、着座している乗客10が利用するスタンションポール5のパイプ6に干渉することなく、立っている乗客11はその姿勢を保持することができる。
【0014】
また、フック8,9には傘や買物袋などの荷物を掛けることができる。特に、高齢者にとっては、高い位置にある荷棚4への荷物の上げ下ろしが負担になる場合があるが、そのような場合に自分の身近に荷物などを確保することができる利点がある。
また、高齢者のみならず、子供等の、荷棚4を利用するのが困難である身長の低い乗客の場合にもかかるフック8,9を有効利用できることは言うまでもない。
【0015】
このように、本発明のスタンションポールは、乗客の姿勢(立っているか座っているか)や体格差(身長が高いか低いか)等に関わらず、誰でも安心して使用することができる。
図3は本発明の第1参考例の変形例を示す鉄道車両用スタンションポールの要部側面模式図である。
【0016】
図3(a)において、21はスタンションポールであり、22はスタンションポール21の基本となるパイプ、23はその基本となるパイプ22から一部分が座席3側に分岐したパイプである。
なお、図3(a)においては、スタンションポール21の基本となるパイプ22に対する分岐したパイプ23を車両の幅方向(枕木方向)に配置しているが、これに対して、スタンションポール21の基本となるパイプ22に対する分岐したパイプ23を車両の幅方向(枕木方向)に配置するとともに、車両の進行方向(線路の方向)に幅を持たせるように配置するようにしてもよい。
【0017】
また、図3(b)において、31はスタンションポールであり、32はスタンションポール31の基本となるパイプ、33はその基本となるパイプ32から一部分が通路側に分岐したパイプである。
なお、図3(b)においては、スタンションポール31の基本となるパイプ32に対する分岐したパイプ33を車両の幅方向(枕木方向)に配置しているが、これに対して、スタンションポール31の基本となるパイプ32に対する分岐したパイプ33を車両の幅方向(枕木方向)に配置するとともに、車両の進行方向(線路の方向)に幅を持たせるように配置するようにしてもよい。
【0018】
本発明のスタンションポールは、このように構成することが可能である。
図4は本発明の第実施例を示す鉄道車両用スタンションポールの斜視図である。
この図に示すように、41は鉄道車両の床、42は車両の壁、43は座席シート、44は座席シート43上の荷棚、45は鉄道車両の床41の幅方向に配置される逆U字形状のパイプからなるスタンションポールである。なお、このスタンションポール45は一基でもよいが、鉄道車両の座席シート43に対応して、鉄道車両の長さ方向に適当な間隔で複数基配置することができる。
【0019】
ここでは、逆U字形状のパイプの座席側のパイプ部分45Aは着座している乗客の立ち座り時の利用に、逆U字形状のパイプの通路側のパイプ部分45Cは立っている乗客用の支持具として利用できる。また、逆U字形状のパイプの内側にはフック45Dを形成して、傘掛けや買物袋掛けとして利用することもできる。また、図示しないが、逆U字形状のパイプの上部部分に凹部を形成して、傘掛けとして利用することもできる。
【0020】
図5は本発明の第実施例を示す鉄道車両用スタンションポールの斜視図である。
この図に示すように、51は鉄道車両の床、52は車両の壁、53は座席シート、54は座席シート53上の荷棚、55は鉄道車両の幅方向に配置されるスタンションポールであり、このスタンションポール55は、座席シート53の背もたれから通路側へと延びる水平状のパイプ56、この水平状のパイプ56に連設されている上方へ傾斜する傾斜状のパイプ57、通路側に垂直に配置される垂直状のパイプ58、前記傾斜状のパイプ57の先端と垂直状のパイプ58の先端に連結される環状のパイプ59から構成されている。なお、このスタンションポール55は一基でもよいが、鉄道車両の座席シート53に対応した鉄道車両の長さ方向に適当な間隔で複数基配置することができる。
【0021】
ここでは、着座している乗客は水平状のパイプ56、傾斜状のパイプ57又は環状のパイプ59を握って立ち座りに利用することができる。また、立っている乗客はその位置に応じて、環状のパイプ59を自身の支持具として利用することができる。
このように、スタンションポールの上部が環状となっているため、複数の立っている乗客が乗車している場合でも、多くの方向から手を差し伸ばして環状のパイプ59に掴まることで、多数の乗客が自身を安定に支持することができる。
【0022】
図6は本発明の第実施例の変形例を示す鉄道車両用スタンションポールの斜視図である。
ここでは、図5に示したスタンションポール55の環状のパイプ59の一部をカットした、C字形状のパイプ61となし、そのパイプ61には開口部62を設けている。それにより、開口部62に買物袋などの荷物の持ち手を通すことにより、荷物掛けとして利用することもできる。
【0023】
図7は本発明の第実施例を示す鉄道車両用スタンションポールの斜視図である。
ここでは、図5に示したスタンションポール55と図4に示したスタンションポール45とを組み合わせて、鉄道車両の座席シートに対応して、鉄道車両の長さ方向に配置するようにしたものである。なお、図5のスタンションポール55に代えて、図6に示したスタンションポールを組み合わせてもよいことは言うまでもない。
【0024】
図8は本発明の第2参考例を示す鉄道車両用スタンションポールの側面模式図である。
ここでは、現在通勤電車に見られる座席の端部と出入口の区分のために配置されている基本となるパイプ71に座位にある乗客と立っている乗客の握り手となる部分に波形形状の支持具72を付設して、この支持具72の位置を選択して使用することにより、立っている乗客と着座している乗客との距離を調整することができる。また、着座している高齢者や足腰の悪い乗客にとっても波形形状の支持具72であればつかまり易く、その支持具72の波形形状に合わせて段階的に持ち手を変えることにより座席シートから着座している高齢者や足腰の悪い乗客の立ち上がりをアシストすることができる。
【0025】
図9は本発明の第3参考例を示す鉄道車両用スタンションポールの側面模式図である。
ここでは、現在通勤電車に見られる座席の端部と出入口の区分のために配置されている基本となるパイプ81に楕円形状のパイプ82を付設して、この楕円形状のパイプ82を着座している乗客の立ち座り用及び立っている乗客のための支持具として利用するようにしたものである。
【0026】
この場合は、従来の基本となるパイプ81に楕円形状のパイプ82を付設するだけで済み、コストを低減することができる。
なお、この実施例では、楕円形状のパイプ82として示したが、楕円形状に限定されるものではなく、各種形状の環状のパイプであってもよい。
また、かかる環状のパイプは、車両の幅方向(枕木方向)に形成されるだけでなく、車両の進行方向(レール方向)に形成するようにしてもよい。
【0027】
なお、上記実施例においては、鉄道車両用スタンションポールについて述べたが、乗合バスやトロリーバスなどの車両用スタンションポールとしても適用することができる。
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の車両用スタンションポールは、高齢者や子供などの乗客に配慮した鉄道車両等への設備として利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1,41,51 鉄道車両の床
2,42,52 車両の壁
3,43,53 座席シート
4,44,54 座席シート上の荷棚
5,21,31 スタンションポール
6,7,71,81 パイプ
8,9 フック
10 着座している乗客
11 立っている乗客
22,32 スタンションポールの基本となるパイプ
23,33 分岐したパイプ
45 逆U字形状のパイプからなるスタンションポール
45A 逆U字形状のパイプの座席側のパイプ部分
45B 逆U字形状のパイプの上部部分
45C 逆U字形状のパイプの通路側のパイプ部分
45D 逆U字形状のパイプの内側のフック
55 鉄道車両の幅方向に配置されるスタンションポール
56 水平状のパイプ
57 上方へ傾斜する傾斜状のパイプ
58 通路側に垂直に配置される垂直状のパイプ
59 環状のパイプ
61 C字形状のパイプ
62 開口部
72 波形形状の支持具
82 楕円形状のパイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の座席シートの前方にパイプが車両の床から垂直に立ち上がり、前記車両の長さ方向に間隔をとって複数個配置されるスタンションポールを具備することを特徴とする車両用スタンションポール。
【請求項2】
請求項記載の車両用スタンションポールにおいて、前記パイプが前記車両の幅方向に配置される逆U字形状をなすことを特徴とする車両用スタンションポール。
【請求項3】
請求項2記載の車両用スタンションポールにおいて、前記逆U字形状の内側に形成されるフック部を具備することを特徴とする車両用スタンションポール。
【請求項4】
請求項記載の車両用スタンションポールにおいて、前記パイプが前記座席シートの背もたれから通路側へと延びる水平状のパイプと、該水平状のパイプに連設されている上方へ傾斜する傾斜状のパイプと、通路側に垂直に配置される垂直状のパイプと、前記傾斜状のパイプの先端と前記垂直状のパイプの先端に連結される環状のパイプとからなることを特徴とする車両用スタンションポール。
【請求項5】
請求項記載の車両用スタンションポールにおいて、前記パイプの環状のパイプの一部をカットして開口部を設けることを特徴とする車両用スタンションポール。
【請求項6】
請求項記載の車両用スタンションポールと請求項記載の車両用スタンションポールとを組み合わせて配置することを特徴とする車両用スタンションポール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−37440(P2011−37440A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220289(P2010−220289)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【分割の表示】特願2005−57573(P2005−57573)の分割
【原出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)