車両用ドアヒンジ装置
【課題】車両用ドアヒンジ装置の信頼性を高める。
【解決手段】車両用ドアヒンジ装置20は、車体12に対するドアの開閉機能をスイング動作機能とスライド動作機能とに切り換え可能であり、ヒンジ部30とヒンジ用ラッチ機構80とからなる。ヒンジ部は車体にスイング可能に取付けられる。ドアはヒンジ部に取付けられる。ヒンジ用ラッチ機構は、ドアをスイング動作させる場合にヒンジ部のスイング動作を可能にするアンロック状態と、ドアをスライド動作させる場合にヒンジ部のスイング動作を規制するロック状態とに、切り換え可能である。ヒンジ用ラッチ機構に備えたロック維持機構は、ドアをスライド動作させるときに、ドアが全閉状態から開き始める時点と、ドアが全閉になる直前の時点とに、それぞれ一定時間だけヒンジ用ラッチ機構をロック状態に維持させる。
【解決手段】車両用ドアヒンジ装置20は、車体12に対するドアの開閉機能をスイング動作機能とスライド動作機能とに切り換え可能であり、ヒンジ部30とヒンジ用ラッチ機構80とからなる。ヒンジ部は車体にスイング可能に取付けられる。ドアはヒンジ部に取付けられる。ヒンジ用ラッチ機構は、ドアをスイング動作させる場合にヒンジ部のスイング動作を可能にするアンロック状態と、ドアをスライド動作させる場合にヒンジ部のスイング動作を規制するロック状態とに、切り換え可能である。ヒンジ用ラッチ機構に備えたロック維持機構は、ドアをスライド動作させるときに、ドアが全閉状態から開き始める時点と、ドアが全閉になる直前の時点とに、それぞれ一定時間だけヒンジ用ラッチ機構をロック状態に維持させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体に対するドアの開閉機能を、スイング動作機能とスライド動作機能とに切り換え可能な車両用ドアヒンジ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両に備えられるドアは、スイングドアとスライドドアのどちらかである。これに対して、近年は、車体に対するドアの開閉機能を、スイング動作機能とスライド動作機能とに切り換え可能な車両用ドアヒンジ装置の開発が進められている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平8−4400号公報
【0003】
特許文献1で知られている車両用ドアヒンジ装置は、車体に3個のリンクを介してスライド機構が取り付けられ、このスライド機構にドアが取り付けられたものである。3個のリンクの内訳は、常に基本的なスイング動作をする基本スイングリンク(固定リンク)と、基本スイングリンクに対して補助的な動作をするアイドルリンクと、ドアの開閉形態に応じて作動モードが変わる作動リンクである。
【0004】
モータを駆動源とする作動装置で作動リンクを変位させることにより、作動リンクと基本スイングリンクとの関係を、平行リンクの形態と非平行リンクの形態とに変化させることができる。つまり、ドアをスライド動作させる場合には、平行リンクの形態にする。ドアをスイング動作させる場合には、非平行リンクの形態にする。
【0005】
このような車両用ドアヒンジ装置によれば、運転者は車両がおかれた状況に応じてスイング動作とスライド動作との一方を選択して、ドアを開閉することができる。このため、必要に応じて、ドアをスイング動作とスライド動作とに切り換えることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で知られている車両用ドアヒンジ装置は、3個のリンクが互いに連係し合うように、複雑に組み合わせた構成にならざるを得ない。このような複雑なドアヒンジ装置を用いて、ドアをスイング動作とスライド動作とに切り換えるものである。特に、ドアをスライドさせる場合に平行リンクの形態となる、作動リンクと基本スイングリンクとを用いて、ドアをスイングさせる場合においても、円滑にスイング動作させなければならない。従って、常に円滑にドアを開閉動作させるためには、極めて厳密な組み付け精度が要求される。
【0007】
しかも、スイング動作機能とスライド動作機能とに切り換え可能な車両用ドアヒンジ装置であるから、両方の動作機能に確実に切り換えられることが求められる。つまり、車両用ドアヒンジ装置は両方の動作機能における高信頼性が要求される。
【0008】
本発明は、厳密な組み付け精度を要することなく、スイング動作とスライド動作の両方において、ドアを円滑に開閉させることができるとともに、車両用ドアヒンジ装置の信頼性を高めることができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明では、車体に対するドアの開閉機能を、スイング動作機能とスライド動作機能とに切り換え可能な車両用ドアヒンジ装置であって、前記車体にスイング可能に取り付けられたヒンジ部と、前記車体に対して前記ヒンジ部をロック、アンロックさせるためのヒンジ用ラッチ機構と、このヒンジ用ラッチ機構のロック状態を維持させるためのロック維持機構とからなり、前記ドアは、前記ヒンジ部にスライド可能に連結された構成であり、前記ヒンジ用ラッチ機構は、前記ドアをスイング動作させる場合に前記ヒンジ部のスイング動作を可能にするアンロック状態と、前記ドアをスライド動作させる場合に前記ヒンジ部のスイング動作を規制するロック状態とに、切り換え可能な構成とされることにより、前記ヒンジ用ラッチ機構のアンロック状態においては、前記車体に対して、前記ヒンジ部が前記ドアと共にスイング動作可能とされ、前記ヒンジ用ラッチ機構のロック状態においては、前記ヒンジ部に対して、前記ドアがスライド動作可能な構成とされており、前記ロック維持機構は、前記ドアをスライド動作させるときに、前記ドアが全閉状態から開き始める時点と、前記ドアが全閉になる直前の時点とに、それぞれ一定時間だけ前記ヒジ用ラッチ機構をロック状態に維持させるように構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明では、前記ロック維持機構は、係合部材を有しており、この係合部材は、前記ヒンジ用ラッチ機構に係合してロック状態で維持させる係合位置と、前記ヒンジ用ラッチ機構から離脱する離脱位置との、2位置間で変位するように構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明では、前記ロック維持機構は、電気的に作動するアクチュエータを備えており、このアクチュエータは、通電されているときだけ、前記係合部材を前記ヒンジ用ラッチ機構に係合させるように駆動するとともに、通電が完了したときには機械的な自己復帰力によって前記係合部材を元の離脱位置へ復帰させるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、車体にヒンジ部をスイング可能に取り付け、このヒンジ部にドアをスライド可能に取り付けるようにし、さらに、車体に対してヒンジ部をヒンジ用ラッチ機構によってロック、アンロックさせるようにしたものである。
【0013】
ドアをスイング動作させる場合には、ヒンジ用ラッチ機構をアンロック状態に切り換えればよい。この結果、ヒンジ部のスイング動作が可能になる。このため、ドアをより円滑にスイング動作させることができる。ヒンジ部だけをスイングさせることにより、ドアをスイング動作によって開閉することができる。
【0014】
また、ドアをスライド動作させる場合には、ヒンジ用ラッチ機構をロック状態に切り換える。この結果、ヒンジ部はスイング動作が規制され、車体に対して固定状態になる。固定状態のヒンジ部に対してドアをスライドさせることにより、車体前後方向に開閉することができる。ドアをスライド動作させる場合に、ヒンジ部を動作させる必要はないので、ドアをより円滑にスライド動作させることができる。
【0015】
このように、ヒンジ用ラッチ機構の作動を切り換えるだけで、ドアのスライド動作とスイング動作の両方において、確実に且つ円滑にドアを開閉動作させることができる。しかも、ドアのスイング動作時だけ、ヒンジ用ラッチ機構を動作可能な構成としたので、車両用ドアヒンジ装置に厳密な組み付け精度を要することはない。
【0016】
さらに、請求項1に係る発明では、ドアをスライド動作させるときにおいて、ドアが全閉状態から開き始める時点(ドアの開け際)の一定時間にわたり、ロック維持機構によってヒンジ用ラッチ機構をロック状態に維持させることができる。
また、ドアをスライド動作させるときにおいて、ドアが全閉になる直前の時点(ドアの閉め際)の一定時間にわたり、ロック維持機構によってヒンジ用ラッチ機構をロック状態に維持させることができる。
このため、ヒンジ部のスイング動作を、より確実に規制することができる。従って、ドアのスライド動作を、より確実に且つ円滑に行うことができるので、車両用ドアヒンジ装置の信頼性が高まる。
【0017】
しかも、ドアの開け際と閉め際における各一定時間だけ、ヒンジ用ラッチ機構をロック状態に維持するように、ロック維持機構を作動させることができる。ロック維持機構の作動時間は短くて済む。この結果、ロック維持機構が作動させるときの消費エネルギー(電力など)を極力抑制することができる。
【0018】
請求項2に係る発明では、ロック維持機構に係合部材を有している。この係合部材は、ヒンジ用ラッチ機構に係合してロック状態で維持させる係合位置と、ヒンジ用ラッチ機構から離脱する離脱位置の、2位置間で変位するだけの、簡単な構成の部材ですむ。このため、ロック維持機構を簡単な構成にすることができる。
【0019】
請求項3に係る発明では、係合部材を駆動するアクチュエータを備えている。このアクチュエータは、通電されているときだけ、係合部材をヒンジ用ラッチ機構に係合させるように駆動するとともに、通電が完了したときには機械的な自己復帰力によって係合部材を元の離脱位置へ復帰させる方式の、いわゆる、ワンウエイ式アクチュエータである。このため、係合部材を駆動するための駆動源を、簡単な構成で安価なものにすることができる。
【0020】
しかも、係合部材をヒンジ用ラッチ機構に係合させるときの一定時間だけ、アクチュエータに通電すればよい。機械的な自己復帰力によって、係合部材を元の離脱位置へ復帰させることができるので、復帰させるときには、アクチュエータに通電する必要はない。このため、電力を極力抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は、車室11内から見た車両10を想像線によって示している。この車両10は、車体12の側部に左右のフロントドア13(右のみを示す。以下同じ。)及び左右のリヤドア(省略する)を備えた自動車である。以下、4つのドアのうち、右のフロントドア13を代表して説明する。右のフロントドア13は、車両用ドアヒンジ装置20を介して車体12のピラー14に取り付けられている。ヒンジ装置20は、車体12に対するドア13の開閉機能を、スイング動作機能とスライド動作機能とに切り換え可能な、ドア支持装置である。
【0022】
以下、車両用ドアヒンジ装置20について詳しく説明する。なお、右のフロントドア13のことを、単に「ドア13」と言うことにする。車両用ドアヒンジ装置20のことを、単に「ヒンジ装置20」と言うことにする。
【0023】
図2は、図1に示された車両用ドアヒンジ装置20を拡大して表している。図3は、車体前方から見た車両用ドアヒンジ装置20を示している。図4は、上から見た車両用ドアヒンジ装置20を示している。
図2〜図4に示すように、ヒンジ装置20は、車体側ヒンジ部30とリンク部40とヒンジ用ラッチ機構80とリンク用ラッチ機構110とからなる。
【0024】
車体側ヒンジ部30は、車体12のピラー14に上下一対のブラケット15,16を介して、車幅方向にスイング可能に取り付けられている。ブラケット15,16は、ピラー14から車幅方向の外側へ向かって延びている。
詳しく説明すると、車体側ヒンジ部30は、側方から見たときに概ね横向きのH字状に形成されており、上下に一定間隔を開けて水平に配列された一対のヒンジ用バー31,31と、一対のヒンジ用バー31,31同士を繋ぐ垂直なヒンジ連結バー32とからなる、一体品である。各ヒンジ用バー31,31のスイング基端部33,33(図3参照)は、ピン34,34によってブラケット15,16にスイング可能に取り付けられている。一対のヒンジ用バー31,31は、ドア13(図4参照)の内面に沿って車室11側へ延びる、細長い平板状の部材である。
ヒンジ連結バー32は、各ヒンジ用バー31,31の略長手中央の位置に接合されたパイプからなり、車体側ヒンジ部30における支柱の機能を有する。
【0025】
リンク部40は、車体側ヒンジ部30に対して車幅方向にスイング可能に取り付けられている。リンク部40には、ドア13が車体前後方向にスライド可能に連結されている。このリンク部40は、1つの平行リンク機構50と上下一対のスライド機構70,70とからなる。
【0026】
平行リンク機構50は、車体側ヒンジ部30に対して車幅方向にスイング可能に取り付けられた、第1リンク51と第2リンク61とからなる。第1リンク51と第2リンク61は、互いに平行状態を維持しながらスイングする。
【0027】
詳しく説明すると、第1リンク51は、側方から見たときに概ね横向きのH字状に形成されており、上下に一定間隔を開けて水平に配列された一対のリンク用バー52,52と、一対のリンク用バー52,52同士を繋ぐ垂直なリンク連結バー53とからなる、一体品である。
各リンク用バー52,52のスイング基端部54,54(図3参照)は、ヒンジ用バー31,31の長手方向において、ヒンジ連結バー32の接合位置とスイング基端部33,33との間に、ピン55,55によってスイング可能に取り付けられている。
【0028】
一対のリンク用バー52,52は、上から見たときにヒンジ連結バー32に対して車幅中央側へ迂回するように屈曲しながらドア13の内面に沿って車室11側へ延びる、細長い平板状の部材である。
リンク連結バー53は、各リンク用バー52,52におけるスイング先端部56,56(図3参照)の近傍の位置に接合されたパイプからなり、第1リンク51における支柱の機能を有する。
【0029】
第2リンク61は、上記第1リンク51と概ね同じ構成である。つまり、第2リンク61は、側方から見たときに概ね横向きのH字状に形成されており、上下に一定間隔を開けて水平に配列された一対のリンク用バー62,62と、一対のリンク用バー62,62同士を繋ぐ垂直なリンク連結バー63とからなる、一体品である。
各リンク用バー62,62のスイング基端部64,64(図3参照)は、ピン65,65によってヒンジ用バー31,31のスイング先端部35,35(図3参照)にスイング可能に取り付けられている。
【0030】
一対のリンク用バー62,62は、上から見たときに、上記第1リンク51と同様に、車幅中央側へ屈曲しながらドア13の内面に沿って車室11側へ延びる、細長い角棒状の部材である。さらに、各リンク用バー62,62は、上記第1リンク51よりも車幅中央寄りの位置に、上記第1リンク51と並列に並べて配置されている。
リンク連結バー63は、各リンク用バー62,62における略長手中央位置に接合された板材からなり、第2リンク61における支柱の機能を有する。
【0031】
上下一対のスライド機構70,70は、ドア13を車体前後方向にスライド可能に連結したものであり、平行リンク機構50のスイング先端部に取り付けられている。
詳しく述べると、上側のスライド機構70は、ガイドレール71とスライダ72とガイドレール用ブラケット73とからなる。ガイドレール71は、車体前後方向に細長いガイド部材である。スライダ72は、ガイドレール71に案内されて車体前後方向へ移動する細長い部材であって、複数のドア取付部74を介してドア13の内面に取り付けられている。ガイドレール用ブラケット73は、ガイドレール71の背面、つまり、車幅中央側の面から車室11側へ延びた、水平な平板からなる。
【0032】
第1リンク51において、上側のリンク用バー52のスイング先端部56(図3参照)は、ガイドレール用ブラケット73の前端部に対して、ピン57で車幅方向にスイング可能に取り付けられている。一方、第2リンク61において、上側のリンク用バー62のスイング先端部66(図3参照)は、ガイドレール用ブラケット73の後端部に対して、ピン67で車幅方向にスイング可能に取り付けられている。
下側のスライド機構70は、上側のスライド機構70と同じ構成であり、同一符号を付して説明を省略する。
【0033】
次に、ヒンジ用ラッチ機構80について説明する。
図5は、図3の5−5線に沿った断面図である。図6は、図3の6−6線に沿った断面図である。
図7(a)〜(b)は、図3に示されたヒンジ用ラッチ機構80の模式図である。図7(a)は、ヒンジ用ラッチ機構80の構成を模式的に表している。図7(b)は、ヒンジ用ラッチ機構80の作用を模式的に表している。
【0034】
図3及び図5に示すように、ヒンジ用ラッチ機構80は、車体12に対して車体側ヒンジ部30をロック、アンロックさせるものである。つまり、ヒンジ用ラッチ機構80は、アンロック状態とロック状態とに切り換え可能な構成である。
このヒンジ用ラッチ機構80は、車体12に設けられたヒンジ用ラッチ部81と、車体側ヒンジ部30に設けられたヒンジ用ストライカ82とからなる。
【0035】
ヒンジ用ラッチ機構80のアンロック状態とは、ドア13(図4参照)をスイング動作させる場合に、ヒンジ用ラッチ部81がヒンジ用ストライカ82をアンロックする状態のことである。ヒンジ用ラッチ機構80のアンロック状態においては、車体12に対して、車体側ヒンジ部30がドア13と共にスイング動作可能とされる。
一方、ヒンジ用ラッチ機構80のロック状態とは、ドア13をスライド動作させる場合に、ヒンジ用ラッチ部81がヒンジ用ストライカ82をロックする状態のことである。ヒンジ用ラッチ機構80のロック状態においては、車体12に対して、車体側ヒンジ部30のスイング動作が規制される。そして、車体側ヒンジ部30に対して、ドア13がスイング動作可能及びスライド動作可能とされる。
【0036】
詳しく説明すると、ヒンジ用ストライカ82は、車体側ヒンジ部30のヒンジ連結バー32に取り付けられている。このヒンジ用ストライカ82は、ヒンジ連結バー32の前方において、車幅方向に長い水平な丸棒からなる。
【0037】
一方、ヒンジ用ラッチ部81はピラー14に取り付けられている。このヒンジ用ラッチ部81は、図7(a)に示すように、ピラー14(図5参照)に取り付けられたフレーム83と、フレーム83に支軸84で回転可能に取り付けられたラッチ本体85と、リターンスプリング86とからなる。
【0038】
ラッチ本体85は、外周面にロック溝85aと係合凸部85bと保持溝85cとロック維持凸部85dとを有している。ロック溝85aは、ヒンジ用ストライカ82を掛け止めるものである。係合凸部85bは、ロック溝85aと保持溝85cの間に配置され、ラッチ本体85の外周面から径外方へ突出している。ロック維持凸部85dは、ラッチ本体85の外周面から径外方へ突出している。
リターンスプリング86は、ヒンジ用ストライカ82に対してラッチ本体85をアンロック状態とする方向に付勢するものである。
【0039】
さらに、ヒンジ用ラッチ機構80は、ロック解除維持機構90とロック維持機構100を備えている。
ロック解除維持機構90は、ドア13(図4参照)が全閉状態にある場合に、ヒンジ用ラッチ機構80のロック状態を解除し続けるものである。このロック解除維持機構90は、リンク部40に備えた当接部91と、ヒンジ用ラッチ部81に備えた解除部92とからなる。
【0040】
詳しく説明すると、図6及び図7(a)に示すように、当接部91は、側方から見たときに略L字状の部材であって、第1リンク51のリンク用バー52から下方へ延び、その下端が解除部92へ向かって延びている。なお、図6に示すように、当接部91は、ヒンジ用ラッチ部81に対して平行リンク機構50がスイングしたときに、ヒンジ連結バー32と干渉しない位置に配置される。
【0041】
一方、図7(a)に示すように、解除部92は、ドア13(図4参照)が全閉状態にある場合に、当接部91に押されて、ヒンジ用ラッチ部81をアンロック状態に切り換えるように構成されている。より具体的には、解除部92は、フレーム83に支軸93でスイング可能に取り付けられたロックアーム94と、リターンスプリング95と、解除用ロッド96とからなる。ヒンジ用ラッチ部81の支軸84に対して、解除部92の支軸93は平行に配置されている。
【0042】
ロックアーム94は、スイング先端に、ラッチ本体85の外周面に形成されている保持溝85cに掛け止まる爪94aを有している。リターンスプリング95は、保持溝85cと爪94aとの掛け止め状態を維持する方向に、ロックアーム94を付勢するものである。
【0043】
解除用ロッド96は、支軸93に対して軸直角方向に延びた水平な部材であって、長手方向にスライド可能にフレーム83に取り付けられている。解除用ロッド96の一端は、ロックアーム94に連結されている。解除用ロッド96の他端面、つまり、被作用面96aは、ドア13が全閉状態にある場合に当接部91の先端によって押されるように配置されている。
【0044】
図7(a)に示すように、ロック維持機構100は、ドア13(図4参照)をスライド動作させるときに、ヒンジ用ストライカ82に対するヒンジ用ラッチ部81のロック状態を維持させるものである。
詳しく説明すると、ロック維持機構100(以下、「第1ロック維持機構100」と言う。)は、ドア13をスライド動作させるときに、ドア13が全閉状態から開き始める時点と、ドア13が全閉になる直前の時点とに、それぞれ一定時間だけヒンジ用ラッチ部81をロック状態に維持させるように構成されている。
【0045】
第1ロック維持機構100は、係合部材101とアクチュエータ102とからなる。
係合部材101(以下、「第1係合部材101」と言う。)は、図7(a)に想像線で示された係合位置Pr1と、図7(a)に実線で示された離脱位置Pu1との、2位置間でスイング変位するように構成されている。第1係合部材101において、係合位置Pr1とは、ラッチ本体85のロック維持凸部85dに、第1係合部材101が係合することによって、ヒンジ用ラッチ部81をロック状態で維持させる位置のことである。また、離脱位置Pu1とは、ヒンジ用ラッチ部81のラッチ本体85におけるロック維持凸部85dから第1係合部材101が離脱した位置のことである。
【0046】
アクチュエータ102(以下、「第1アクチュエータ102」と言う。)は、第1係合部材101を駆動するための駆動部であって、出力軸103に第1係合部材101が連結されている。この第1アクチュエータ102は電気的に作動するものである。
より具体的に説明すると、第1アクチュエータ102は、通電されているときだけ、第1係合部材101をヒンジ用ラッチ部81のロック維持凸部85dに係合させるように駆動する。つまり、第1アクチュエータ102は、通電されているときだけ、内蔵されているソレノイドやモータ等の電気的駆動源の駆動力によって、出力軸103を一定角だけ回転させることにより、第1係合部材101を係合位置Pr1にスイングさせるように構成されている。この結果、ヒンジ用ストライカ82に対して、ラッチ本体85のロック状態は維持される。
【0047】
さらに、第1アクチュエータ102は、通電が完了したとき(非通電時)には、内蔵されているリターンスプリングの付勢力、つまり、機械的な自己復帰力によって出力軸103を逆転させることにより、第1係合部材101を元の離脱位置Pu1に復帰させるように構成されている。
【0048】
次に、リンク用ラッチ機構110について説明する。
図3及び図5に示すように、リンク用ラッチ機構110は、車体側ヒンジ部30に対して平行リンク機構50をロック、アンロックさせるものである。つまり、リンク用ラッチ機構110は、アンロック状態とロック状態とに切り換え可能な構成である。
このリンク用ラッチ機構110は、第2リンク61に設けられたリンク用ラッチ部111と、車体側ヒンジ部30に設けられたリンク用ストライカ112とからなる。
【0049】
リンク用ラッチ機構110のアンロック状態とは、ドア13(図4参照)をスライド動作させる場合に、リンク用ラッチ部111がリンク用ストライカ112をアンロックする状態のことである。リンク用ラッチ機構110のアンロック状態においては、車体側ヒンジ部30に対して、平行リンク機構50がスイング動作可能とされる。
一方、リンク用ラッチ機構110のロック状態とは、ドア13をスイング動作させる場合に、リンク用ラッチ部111がリンク用ストライカ112をロックする状態のことである。リンク用ラッチ機構110のロック状態においては、車体側ヒンジ部30に対して、平行リンク機構50のスイング動作が規制される。
【0050】
図8(a)〜(b)は、図3に示されたリンク用ラッチ機構110の模式図である。図8(a)は、リンク用ラッチ機構110の構成を模式的に表している。図8(b)は、リンク用ラッチ機構110の作用を模式的に表している。
詳しく説明すると、リンク用ストライカ112は、車体側ヒンジ部30のヒンジ連結バー32に取り付けられている。図5に示すように、このリンク用ストライカ112は、ヒンジ連結バー32の後側方において、前後方向に長い水平な丸棒からなる。
【0051】
一方、リンク用ラッチ部111は、第2リンク61のリンク連結バー63に取り付けられている。このリンク用ラッチ部111は、図8(a)に示すように、リンク連結バー63に取り付けられたフレーム113と、フレーム113に支軸114により回転可能に取り付けられたラッチ本体115と、リターンスプリング116とからなる。ラッチ本体115は、外周面にロック溝115aとロック維持凸部115bとを有している。ロック溝115aは、リンク用ストライカ112を掛け止めるものである。ロック維持凸部115bは、ラッチ本体115の外周面から径外方へ突出している。
リターンスプリング116は、リンク用ストライカ112に対してラッチ本体115をアンロック状態とする方向に付勢するものである。
【0052】
さらに、リンク用ラッチ機構110はロック維持機構120を備えている。ロック維持機構120(以下、「第2ロック維持機構120」と言う。)は、図4に示すように、ドア13をスイング動作させるときに、リンク用ストライカ112に対するリンク用ラッチ部111のロック状態を維持させるものである。
【0053】
図8(a)に示すように、第2ロック維持機構120は、係合部材121とアクチュエータ122とからなる。
係合部材121(以下、「第2係合部材121」と言う。)は、図8(a)に実線で示された係合位置Pr2と、図8(a)に想像線で示された離脱位置Pu2との、2位置間でスイング変位するように構成されている。第2係合部材121において、係合位置Pr2とは、ラッチ本体115のロック維持凸部115bに、第2係合部材121が係合することによって、リンク用ラッチ部111をロック状態で維持させる位置のことである。また、離脱位置Pu2とは、ロック維持凸部115bから第2係合部材121が離脱した位置のことである。
【0054】
アクチュエータ122(以下、「第2アクチュエータ122」と言う。)は、第2係合部材121を駆動するための駆動部であって、出力軸123に第2係合部材121が連結されている。この第2アクチュエータ122は電気的に作動するものである。
より具体的に説明すると、第2アクチュエータ122は、通電されているときだけ、第2係合部材121を係合位置Pr2から離脱位置Pu2にスイングさせるように駆動する。つまり、第2アクチュエータ122は、通電されているときだけ、内蔵されているソレノイドやモータ等の電気的駆動源の駆動力によって、出力軸123を一定角だけ回転させることにより、第2係合部材121を離脱位置Pu2にスイングさせて、ロック解除するように構成されている。
【0055】
さらに、第2アクチュエータ122は、通電が完了したとき(非通電時)には、内蔵されているリターンスプリングの付勢力、つまり、機械的な自己復帰力によって出力軸123を逆転させることにより、第2係合部材121を元の係合位置Pr2に復帰させるように構成されている。
【0056】
次に、ヒンジ装置20の制御回路について説明する。
図9は、車両用ドアヒンジ装置の制御回路図である。ヒンジ装置20の制御回路は、ドア開閉操作部131の操作信号に応じて制御部132が第1及び第2アクチュエータ102,122とドアスライド駆動用モータ133を制御するように構成されている。
【0057】
以下、図3を参照しながら、図9に基づいて制御回路を説明する。
ドア開閉操作部131は、ドア13(図1参照)のスライド動作を電気的に操作するものであり、例えば、車室11に設けられた操作部や、乗員が携帯する無線式操作部からなる。
第1アクチュエータ102は、制御部132から制御信号(開時ロック信号、閉時ロック信号)を受けているときだけ、つまり、通電されているときだけ電気的に作動して、ヒンジ用ラッチ部81をロック動作させる。
第2アクチュエータ122は、制御部132から制御信号を受けているときだけ、つまり、通電されているときだけ電気的に作動して、リンク用ラッチ部111をアンロック動作させる。
【0058】
ドアスライド駆動用モータ133は、制御部132から制御信号(ドア開駆動信号、ドア閉駆動信号)を受けて、平行リンク機構50をスイング駆動するとともに、スライド機構70,70のスライダ72,72を前後スライド駆動するものである。なお、ドアスライド駆動用モータ133及びこのモータ133による駆動機構の詳細な構成については省略した。
【0059】
制御部132は、次の3つの制御信号を発するように構成されている。
第1に、ドア開閉操作部131から「ドア開」の操作信号を受けたときには、第1アクチュエータ102に「開時ロック信号」を一時的に発し、第2アクチュエータ122に「ロック解除信号」を発し、ドアスライド駆動用モータ133に「ドア開駆動信号」を発する。ドアスライド駆動用モータ133は、ドア開駆動信号によって制御され、平行リンク機構50及びスライド機構70,70を駆動してドア13を開く。ドア13が全開状態に達したときに、ドアスライド駆動用モータ133は自動停止する。
【0060】
第2に、ドア開閉操作部131から「ドア閉」の操作信号を受けたときには、第1アクチュエータ102に「閉時ロック信号」を一時的に発するとともに、ドアスライド駆動用モータ133に「ドア閉駆動信号」を発する。ドアスライド駆動用モータ133は、ドア閉駆動信号によって制御され、平行リンク機構50及びスライド機構70,70を駆動してドア13を閉じる。ドア13が全閉状態に達したときに、ドアスライド駆動用モータ133は自動停止する。
【0061】
第3に、解放されているドア13が全閉状態に戻ったときには、第2アクチュエータ122に発している「ロック解除信号」を停止する。例えば、制御部132は、「ドア閉」の操作信号を受けた時点から、ドア13が全閉になった時点までの、全閉動作基準時間が経過したときに、ドア13が全閉状態に達したと判断する。全閉動作基準時間については、予め計測しておき、この計測値に設定しておけばよい。
「ロック解除信号」が停止されたときに、第2アクチュエータ122は、機械的な自己復帰力によって、元のロック状態に自動復帰する。
【0062】
上述のように、制御部132が第1アクチュエータ102に発する「開時ロック信号」及び「閉時ロック信号」は、ドア13をスライド動作させるときの、一時的な信号である。
制御部132が「開時ロック信号」を発する時間t1(開時ロック信号発生時間t1)は、「ドア開」の操作信号を受けた時点からの一定時間である。この開時ロック信号発生時間t1は、全閉状態のドア13が開き始める時点から、ロック解除維持機構90(図7参照)がヒンジ用ラッチ部81をロック状態に戻し終える時点までの、時間に相当する。
【0063】
また、制御部132が「閉時ロック信号」を発する時間t2(閉時ロック信号発生時間t2)は、「ドア閉」の操作信号を受けた時点からの一定時間である。この閉時ロック信号発生時間t2は、全開状態のドア13が閉じ始める時点から、ロック解除維持機構90がヒンジ用ラッチ部81をロック解除し終える時点までの、時間に相当する。
【0064】
ところで、制御部132が「閉時ロック信号」を発生し始めるタイミングは、ドア13が全閉になる直前の時点であることが、より好ましい。このようにすることによって、閉時ロック信号発生時間t2を一層短縮することができる。例えば、制御部132は、「ドア閉」の操作信号を受けた時点から、ドア13が全閉になる直前の時点までの、基準経過時間t3が経過した時点で閉時ロック信号を発生し始めるようにする。
【0065】
次に、ドア13をスイング動作させる場合の、ヒンジ装置20の作用を説明する。
今、図4に示すように、ドア13は全閉状態にある。このときに、図8(a)に示すように、リンク用ラッチ機構110はロック状態にある。
【0066】
また、図7(a)に示すように、ヒンジ用ラッチ機構80はアンロック状態にある。具体的には、ロック解除維持機構90において、第1リンク51に有する当接部91は、解除用ロッド96を押している。このため、ロックアーム94はラッチ本体85の保持溝85cから離れた位置にある。つまり、ロック解除維持機構90はロック解除状態にある。
また、第1ロック維持機構100において、第1アクチュエータ102に通電されていないので、第1係合部材101は離脱位置Pu1にある。つまり、第1ロック維持機構100はロック解除状態にある。
ロック解除維持機構90と第1ロック維持機構100が、共にロック解除状態にあるので、ラッチ本体85は回転自在である。このため、ヒンジ用ストライカ82は、ラッチ本体85のロック溝85aから自由に外れることができる。
【0067】
その後、乗員が図1に示すドアノブ17を操作してドア13を開く(手動によってドア13をスイング動作させる)。この場合には、図4に示すように、リンク用ラッチ機構110はロック状態を維持する。
【0068】
ドア13がスイング動作して開き始めると、車体側ヒンジ部30と平行リンク機構50はスイングする。つまり、図4に示す矢印S1方向へ移動する。このため、図7(a)に示すように、車体側ヒンジ部30のヒンジ用ストライカ82と、第1リンク51の当接部91も、矢印S1方向へ移動する。
【0069】
ラッチ本体85は、回転自在の状態にあるので、変位するヒンジ用ストライカ82によって矢印R1方向へ回される。ほぼ同時に、第1リンク51の当接部91は解除用ロッド96から離れる。リターンスプリング95に付勢されているロックアーム94は、一旦はロック溝85aに入りかけるものの、ロック溝85aに隣接する係合凸部85bを乗り越えて、図7(b)に示すようにラッチ本体85の保持溝85cに掛け止まる。
このように、ドア13がスイング動作するときには、ヒンジ用ラッチ機構80はアンロック状態にある。
【0070】
スイング動作によって全開になったドア13を、図10及び図11に示している。
図10は、スイング動作によって全開状態になった車両用ドアヒンジ装置の斜視図であり、図2に合わせて車室11内から見たヒンジ装置20を表している。図11は、図10に示された車両用ドアヒンジ装置の平面図である。
【0071】
このように、車体側ヒンジ部30とリンク部40は、ピン34,34を中心にして一体的にスイングする。なお、車体側ヒンジ部30は、ドア13を全開位置までスイングしたときに、図示せぬストッパ(ヒンジチェッカ)によって、それ以上のスイング動作が規制される。リンク用ラッチ機構110はロック状態を維持している。
【0072】
その後、乗員が図1に示すドアノブ17を操作してドア13を閉じる(手動によってドア13をスイング動作させる)。ドア13を開くときと同様に、車体側ヒンジ部30とリンク部40は、ピン34,34を中心にして一体的にスイングし、図2及び図4に示す全閉状態に戻る。
このとき、図7(b)に示すように、ヒンジ用ラッチ部81と当接部91は、矢印S1と逆方向に移動する。そして、図7(a)に示すように、当接部91が再び解除用ロッド96を押すので、ロック解除維持機構90は元のロック解除状態に復帰する。その直後に、ヒンジ用ストライカ82はラッチ本体85のロック溝85aに再び掛かる。ヒンジ用ラッチ機構80は図7(a)に示す状態に復帰する。
【0073】
次に、ドア13をスライド動作させる場合における、ヒンジ装置20の作用を説明する。ここで、図12(a),(b)は、図10に示されたヒンジ用ラッチ機構の作用図である。図13は、図2に示されたリンク部だけが全開状態までスイング動作したことを示す作用図である。図14は、図13に示された車両用ドアヒンジ装置の平面図である。図15(a),(b)は、図13に示されたヒンジ用ラッチ機構の作用図である。
【0074】
今、図4に示すように、ドア13は全閉状態にある。このときに、図7(a)に示すように、ヒンジ用ラッチ機構80はアンロック状態にある。図8(a)に示すように、リンク用ラッチ機構110はロック状態にある。このことは、ドア13をスイング動作させる場合と同じなので、詳細な説明は省略する。
【0075】
その後、乗員が図9に示すドア開閉操作部131を開操作する。制御部132は、ドア開閉操作部131から「ドア開」の操作信号を受けて、第1アクチュエータ102に一時的な「開時ロック信号」を発し、第2アクチュエータ122に「ロック解除信号」を発し、ドアスライド駆動用モータ133に「ドア開駆動信号」を発する。
【0076】
図8(a)に示すように、第2アクチュエータ122は、第2係合部材121を離脱位置Pu2にスイングさせる。この結果、リンク用ストライカ112に対するリンク用ラッチ部111のロック状態は解除される。平行リンク機構50は、矢印S3方向に移動(スイング)可能である。
【0077】
一方、第1アクチュエータ102は、図12(a)に示すように、第1係合部材101を離脱位置Pu1から係合位置Pr1にスイングさせる。この結果、ヒンジ用ストライカ82に対してヒンジ用ラッチ部81はロック状態になる。
ほぼ同時に、ドアスライド駆動用モータ133は、平行リンク機構50(図4参照)を駆動してドア13を開き始める。この結果、図12(a)に示すように、第1リンク51と共に当接部91は解除用ロッド96から離れる(矢印S1方向へ移動する)。図12(b)に示すように、ロックアーム94はラッチ本体85にロックする。つまり、ロック解除維持機構90はロック状態になる。
【0078】
概ね、この直後に、制御部132(図9参照)からの一時的な「開時ロック信号」が停止される。このため、第1アクチュエータ102は、機械的な自己復帰力によって、第1係合部材101を元の離脱位置Pu1に復帰させる。しかし、ロック解除維持機構90がロック状態を維持しているので、ヒンジ用ラッチ機構80はロック状態を持続する。
【0079】
その後、図13及び図14に示すように、平行リンク機構50は車幅外方へ最大限スイングした状態になる。つまり、ドア13は車体12から側方へ迫り出る。この時点において、ドアスライド駆動用モータ133(図9参照)は、スライド機構70,70のスライダ72,72を車体前方(図14に示す矢印Fr方向)にスライド駆動する。スライダ72,72が最大限スライドした時点で、ドア13は全開状態に達し、ドアスライド駆動用モータ133は自動停止する。
【0080】
その後、乗員が図9に示すドア開閉操作部131を閉操作する。制御部132は、ドア開閉操作部131から「ドア閉」の操作信号を受けて、第1アクチュエータ102に一時的な「閉時ロック信号」を発し、ドアスライド駆動用モータ133に「ドア閉駆動信号」を発する。
ドアスライド駆動用モータ133は、図13及び図14に示すスライダ72,72を車体後方(図14に示す矢印Frと逆方向)にスライド駆動する。スライダ72,72が最大限スライドした時点において、ドアスライド駆動用モータ133は、平行リンク機構50を車室側にスイング駆動する。
【0081】
一方、第1アクチュエータ102は、図15(a)に示すように、第1係合部材101を離脱位置Pu1から係合位置Pr1にスイングさせる。この結果、ヒンジ用ストライカ82に対してヒンジ用ラッチ部81はロック状態になる。
平行リンク機構50(図14参照)が戻るに連れて、第1リンク51と共に当接部91は解除用ロッド96に接近する。図15(b)に示すように、当接部91が解除用ロッド96を押した時点で、ロックアーム94はラッチ本体85に対してアンロックとなる。つまり、ロック解除維持機構90は再びアンロック状態になる。この結果、ヒンジ用ラッチ機構80はアンロック状態になる。
【0082】
概ね、この直後に、制御部132(図9参照)は一時的な「閉時ロック信号」を停止する。このため、第1アクチュエータ102は、機械的な自己復帰力によって、第1係合部材101を元の離脱位置Pu1に復帰させる。第1ロック維持機構100はアンロック状態になる。
その後、図4に示すように、平行リンク機構50は元の位置までスイングした状態になる。つまり、ドア13は全閉状態に戻る。この時点に、ドアスライド駆動用モータ133(図9参照)は自動停止する。
【0083】
ところで、図8(b)に示すように、平行リンク機構50が矢印S4方向へ戻るに連れて、第2リンク61と共にリンク用ラッチ部111はリンク用ストライカ112に接近する。その後、ラッチ本体115のロック溝115aにリンク用ストライカ112が入り込む。
【0084】
ドア13(図4参照)が全閉状態に達した直後に、制御部132は「ロック解除信号」を停止する。このため、第2アクチュエータ122は、機械的な自己復帰力によって、第2係合部材121を元の係合に復帰させる。この結果、ラッチ本体115は図時計回りに回転してリンク用ストライカ112にロックする。リンク用ラッチ機構110はロック状態に復帰する。
【0085】
以上の説明をまとめると、次の通りである。
車両用ドアヒンジ装置20は、車体12に車体側ヒンジ部30をスイング可能に取り付け、この車体側ヒンジ部30に平行リンク機構50をスイング可能に取り付け、この平行リンク機構50にスライド機構70,70によってドア13をスライド可能に取り付け、さらに、車体12に対して車体側ヒンジ部30をヒンジ用ラッチ機構80によってロック、アンロックさせるようにしたものである。
【0086】
ドア13をスイング動作させる場合には、ヒンジ用ラッチ機構80をアンロック状態に切り換えればよい。この結果、車体側ヒンジ部30のスイング動作が可能になる。ドア13をスイング動作させる場合に、平行リンク機構50及びスライド機構70,70を動作させる必要はない。このため、ドア13を、より円滑にスイング動作させることができる。車体側ヒンジ部30だけをスイングさせることにより、ドア13をスイング動作によって開閉することができる。
【0087】
また、ドア13をスライド動作させる場合には、ヒンジ用ラッチ機構80をロック状態に切り換える。この結果、車体側ヒンジ部30はスイング動作が規制され、車体12に対して固定状態になる。固定状態の車体側ヒンジ部30に対して、平行リンク機構50をスイング動作させることができる。平行リンク機構50をスイングさせることにより、平行リンク機構50を介して、ドア13は車体12から側方へ迫り出る(せり出る)。迫り出されたドア13をスライド機構70,70を介してスライドさせることにより、車体前後方向に開閉することができる。ドア13をスライド動作させる場合に、車体側ヒンジ部30を動作させる必要はないので、ドア13を、より円滑にスライド動作させることができる。
【0088】
このように、ヒンジ用ラッチ機構80の作動を切り換えるだけで、スライド動作とスイング動作の両方において、確実に且つ円滑にドア13を開閉動作させることができる。しかも、ドア13のスイング動作時だけ、ヒンジ用ラッチ機構80を動作可能な構成としたので、車両用ドアヒンジ装置20に厳密な組み付け精度を要することはない。
【0089】
また、車両用ドアヒンジ装置20は、車体側ヒンジ部30に対して平行リンク機構50間をロック、アンロックさせるためのリンク用ラッチ機構110を備えたものである。
このため、ドア13をスイング動作させる場合には、リンク用ラッチ機構110をロック状態に切り換えることによって、平行リンク機構50のスイング動作は規制される。従って、ドア13をスイング動作させるときに、車体側ヒンジ部30に対して平行リンク機構50及びスライド機構70,70がふらつくことはない。ドア13を、より安定してスイングさせることができる。
【0090】
また、ドア13をスライド動作させる場合には、リンク用ラッチ機構110をアンロック状態に切り換えることによって、平行リンク機構50のスイング動作は可能になる。従って、ドア13をスライド動作させるときに、車体側ヒンジ部30に対して平行リンク機構50及びスライド機構70,70は自由に動作可能である。ドア13を確実にスライド動作させることができる。
【0091】
このように、ドア13をスイング動作させる場合とスライド動作させる場合とで、ヒンジ用ラッチ機構80とリンク用ラッチ機構110の各作動を切り換えるだけで、スイング動作とスライド動作の両方を、より安定的に且つより確実に行わせることができる。
【0092】
さらにまた、車両用ドアヒンジ装置20は、ドア13が全閉状態にある場合に、ロック解除維持機構90によってヒンジ用ラッチ機構80のロック状態を解除し続けることができる。このため、ドア13が全閉状態である場合には、車体12に対して、車体側ヒンジ部30はスイング動作が可能な状態となる。ドア13の内面や外面に設けられているドアノブ17を手で開き操作することによって、ドア13を自由に開くことができる。例えば、車両10に緊急状態が発生した場合に、車室11内または車外から自由にドア13を開けて、乗員が、より一層迅速に脱出することができる。
【0093】
さらにまた、車両用ドアヒンジ装置20は、ドア13をスライド動作させるときにおいて、ドア13が全閉状態から開き始める時点(ドア13の開け際)の一定時間t1にわたり、ロック維持機構100によってヒンジ用ラッチ機構80をロック状態に維持させることができる。
また、ドア13をスライド動作させるときにおいて、ドア13が全閉になる直前の時点(ドア13の閉め際)の一定時間t2にわたり、ロック維持機構100によってヒンジ用ラッチ機構80をロック状態に維持させることができる。
このため、車体側ヒンジ部30のスイング動作を、より確実に規制することができる。従って、ドア13のスライド動作を、より確実に且つ円滑に行うことができるので、車両用ドアヒンジ装置20の信頼性が高まる。
【0094】
しかも、ドア13の開け際と閉め際における各一定時間t1,t2だけ、ヒンジ用ラッチ機構80をロック状態に維持するように、ロック維持機構100を作動させることができる。ロック維持機構100の作動時間は短くて済む。この結果、ロック維持機構100を作動させるときの消費エネルギー(電力など)を極力抑制することができる。
【0095】
また、ロック維持機構100は第1係合部材101を有している。この第1係合部材101は、ヒンジ用ラッチ機構80のヒンジ用ラッチ部81に係合してロック状態で維持させる係合位置Pr1と、ヒンジ用ラッチ部81から離脱する離脱位置Pu1の、2位置間で変位するだけの、簡単な構成の部材ですむ。このため、ロック維持機構100を簡単な構成にすることができる。
【0096】
また、ロック維持機構100は、第1係合部材101を駆動する第1アクチュエータ102を備えている。この第1アクチュエータ102は、通電されているときだけ、第1係合部材101をヒンジ用ラッチ部81に係合させるように駆動するとともに、通電が完了したときには機械的な自己復帰力によって第1係合部材101を元の離脱位置Pu1へ復帰させる方式の、いわゆる、ワンウエイ式アクチュエータである。このため、第1係合部材101を駆動するための駆動源を、簡単な構成で安価なものにすることができる。
【0097】
しかも、第1係合部材101をヒンジ用ラッチ部81に係合させるときの一定時間t1,t2だけ、第1アクチュエータ102に通電すればよい。機械的な自己復帰力によって、第1係合部材101を元の離脱位置Pu1へ復帰させることができるので、復帰させるときには、第1アクチュエータ102に通電する必要はない。このため、電力を極力抑制することができる。
【0098】
なお、本発明の実施の形態において、ヒンジ用ラッチ部81は、車体12に設けられていればよい。ヒンジ用ストライカ82は、車体側ヒンジ部30に設けられていればよい。リンク用ラッチ部111は、リンク部40(平行リンク機構50等)に設けられていればよい。リンク用ストライカ112は、車体側ヒンジ部30に設けられていればよい。
また、ロック解除維持機構90において、当接部91は、リンク部40(平行リンク機構50等)に備えていればよく、解除部92は、ヒンジ用ラッチ部81に備えていればよい。
【0099】
また、第1ロック維持機構100において、第1係合部材101は、ヒンジ用ラッチ部81に係合してロック状態で維持させる係合位置と、ヒンジ用ラッチ部81から離脱する離脱位置との、2位置間で変位する構成であればよく、スイング変位する構成の他に、例えばスライド変位する構成でもよい。
第1アクチュエータ102は、通電されているときだけ、第1係合部材101をヒンジ用ラッチ部81に係合させるように駆動するとともに、通電が完了したときには機械的な自己復帰力によって第1係合部材101を元の離脱位置へ復帰させる構成であればよい。
【0100】
また、第2ロック維持機構120において、第2係合部材121は、リンク用ラッチ部111に係合してロック状態で維持させる係合位置と、リンク用ラッチ部111から離脱する離脱位置との、2位置間で変位する構成であればよく、スイング変位する構成の他に、例えばスライド変位する構成でもよい。
第2アクチュエータ122は、通電されているときだけ、第2係合部材121をリンク用ラッチ部111に係合させるように駆動するとともに、通電が完了したときには機械的な自己復帰力によって第2係合部材121を元の離脱位置へ復帰させる構成であればよい。
【0101】
また、図14に示すように、固定状態の車体側ヒンジ部30に対して、平行リンク機構50をスイング動作させ、ドア13を車幅外方に最大限スイングした状態において、リンク用ストライカ112とは別に、リンク用ラッチ部111とロックするストライカを設けてもよい。そうすることで、ドア13を車体12から側方へ迫り出した位置に、確実に保持することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の車両用ドアヒンジ装置20は、ワンボックス・ワゴン車等の自動車に採用するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明に係る車両用ドアヒンジ装置を備えた車両の説明図である。
【図2】図1に示された車両用ドアヒンジ装置の斜視図である。
【図3】図2に示された車両用ドアヒンジ装置を前方から見た斜視図である。
【図4】図2に示された車両用ドアヒンジ装置の平面図である。
【図5】図3の5−5線に沿った断面図である。
【図6】図3の6−6線に沿った断面図である。
【図7】図3に示されたヒンジ用ラッチ機構の模式図である。
【図8】図3に示されたリンク用ラッチ機構の模式図である。
【図9】本発明に係る車両用ドアヒンジ装置の制御回路図である。
【図10】図2に示されたヒンジ用ラッチ機構が全開状態までスイング動作したことを示す作用図である。
【図11】図10に示された車両用ドアヒンジ装置の平面図である。
【図12】図10に示されたヒンジ用ラッチ機構の作用図である。
【図13】図2に示されたリンク部だけが全開状態までスイング動作したことを示す作用図である。
【図14】図13に示された車両用ドアヒンジ装置の平面図である。
【図15】図13に示されたヒンジ用ラッチ機構の作用図である。
【符号の説明】
【0104】
10…車両、11…車室、12…車体、13…ドア、20…車両用ドアヒンジ装置、30…車体側ヒンジ部、40…リンク部、50…平行リンク機構、70…スライド機構、80…ヒンジ用ラッチ機構、81…ヒンジ用ラッチ部(ラッチ部)、82…ヒンジ用ストライカ(ストライカ)、90…ロック解除維持機構、91…当接部、92…解除部、100…第1ロック維持機構、101…第1係合部材、102…第1アクチュエータ、110…リンク用ラッチ機構、111…リンク用ラッチ部、112…リンク用ストライカ、120…第2ロック維持機構、121…第2係合部材、122…第2アクチュエータ、Pr1…第1係合部材の係合位置、Pu1…第1係合部材離脱位置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体に対するドアの開閉機能を、スイング動作機能とスライド動作機能とに切り換え可能な車両用ドアヒンジ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両に備えられるドアは、スイングドアとスライドドアのどちらかである。これに対して、近年は、車体に対するドアの開閉機能を、スイング動作機能とスライド動作機能とに切り換え可能な車両用ドアヒンジ装置の開発が進められている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平8−4400号公報
【0003】
特許文献1で知られている車両用ドアヒンジ装置は、車体に3個のリンクを介してスライド機構が取り付けられ、このスライド機構にドアが取り付けられたものである。3個のリンクの内訳は、常に基本的なスイング動作をする基本スイングリンク(固定リンク)と、基本スイングリンクに対して補助的な動作をするアイドルリンクと、ドアの開閉形態に応じて作動モードが変わる作動リンクである。
【0004】
モータを駆動源とする作動装置で作動リンクを変位させることにより、作動リンクと基本スイングリンクとの関係を、平行リンクの形態と非平行リンクの形態とに変化させることができる。つまり、ドアをスライド動作させる場合には、平行リンクの形態にする。ドアをスイング動作させる場合には、非平行リンクの形態にする。
【0005】
このような車両用ドアヒンジ装置によれば、運転者は車両がおかれた状況に応じてスイング動作とスライド動作との一方を選択して、ドアを開閉することができる。このため、必要に応じて、ドアをスイング動作とスライド動作とに切り換えることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で知られている車両用ドアヒンジ装置は、3個のリンクが互いに連係し合うように、複雑に組み合わせた構成にならざるを得ない。このような複雑なドアヒンジ装置を用いて、ドアをスイング動作とスライド動作とに切り換えるものである。特に、ドアをスライドさせる場合に平行リンクの形態となる、作動リンクと基本スイングリンクとを用いて、ドアをスイングさせる場合においても、円滑にスイング動作させなければならない。従って、常に円滑にドアを開閉動作させるためには、極めて厳密な組み付け精度が要求される。
【0007】
しかも、スイング動作機能とスライド動作機能とに切り換え可能な車両用ドアヒンジ装置であるから、両方の動作機能に確実に切り換えられることが求められる。つまり、車両用ドアヒンジ装置は両方の動作機能における高信頼性が要求される。
【0008】
本発明は、厳密な組み付け精度を要することなく、スイング動作とスライド動作の両方において、ドアを円滑に開閉させることができるとともに、車両用ドアヒンジ装置の信頼性を高めることができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明では、車体に対するドアの開閉機能を、スイング動作機能とスライド動作機能とに切り換え可能な車両用ドアヒンジ装置であって、前記車体にスイング可能に取り付けられたヒンジ部と、前記車体に対して前記ヒンジ部をロック、アンロックさせるためのヒンジ用ラッチ機構と、このヒンジ用ラッチ機構のロック状態を維持させるためのロック維持機構とからなり、前記ドアは、前記ヒンジ部にスライド可能に連結された構成であり、前記ヒンジ用ラッチ機構は、前記ドアをスイング動作させる場合に前記ヒンジ部のスイング動作を可能にするアンロック状態と、前記ドアをスライド動作させる場合に前記ヒンジ部のスイング動作を規制するロック状態とに、切り換え可能な構成とされることにより、前記ヒンジ用ラッチ機構のアンロック状態においては、前記車体に対して、前記ヒンジ部が前記ドアと共にスイング動作可能とされ、前記ヒンジ用ラッチ機構のロック状態においては、前記ヒンジ部に対して、前記ドアがスライド動作可能な構成とされており、前記ロック維持機構は、前記ドアをスライド動作させるときに、前記ドアが全閉状態から開き始める時点と、前記ドアが全閉になる直前の時点とに、それぞれ一定時間だけ前記ヒジ用ラッチ機構をロック状態に維持させるように構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明では、前記ロック維持機構は、係合部材を有しており、この係合部材は、前記ヒンジ用ラッチ機構に係合してロック状態で維持させる係合位置と、前記ヒンジ用ラッチ機構から離脱する離脱位置との、2位置間で変位するように構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明では、前記ロック維持機構は、電気的に作動するアクチュエータを備えており、このアクチュエータは、通電されているときだけ、前記係合部材を前記ヒンジ用ラッチ機構に係合させるように駆動するとともに、通電が完了したときには機械的な自己復帰力によって前記係合部材を元の離脱位置へ復帰させるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、車体にヒンジ部をスイング可能に取り付け、このヒンジ部にドアをスライド可能に取り付けるようにし、さらに、車体に対してヒンジ部をヒンジ用ラッチ機構によってロック、アンロックさせるようにしたものである。
【0013】
ドアをスイング動作させる場合には、ヒンジ用ラッチ機構をアンロック状態に切り換えればよい。この結果、ヒンジ部のスイング動作が可能になる。このため、ドアをより円滑にスイング動作させることができる。ヒンジ部だけをスイングさせることにより、ドアをスイング動作によって開閉することができる。
【0014】
また、ドアをスライド動作させる場合には、ヒンジ用ラッチ機構をロック状態に切り換える。この結果、ヒンジ部はスイング動作が規制され、車体に対して固定状態になる。固定状態のヒンジ部に対してドアをスライドさせることにより、車体前後方向に開閉することができる。ドアをスライド動作させる場合に、ヒンジ部を動作させる必要はないので、ドアをより円滑にスライド動作させることができる。
【0015】
このように、ヒンジ用ラッチ機構の作動を切り換えるだけで、ドアのスライド動作とスイング動作の両方において、確実に且つ円滑にドアを開閉動作させることができる。しかも、ドアのスイング動作時だけ、ヒンジ用ラッチ機構を動作可能な構成としたので、車両用ドアヒンジ装置に厳密な組み付け精度を要することはない。
【0016】
さらに、請求項1に係る発明では、ドアをスライド動作させるときにおいて、ドアが全閉状態から開き始める時点(ドアの開け際)の一定時間にわたり、ロック維持機構によってヒンジ用ラッチ機構をロック状態に維持させることができる。
また、ドアをスライド動作させるときにおいて、ドアが全閉になる直前の時点(ドアの閉め際)の一定時間にわたり、ロック維持機構によってヒンジ用ラッチ機構をロック状態に維持させることができる。
このため、ヒンジ部のスイング動作を、より確実に規制することができる。従って、ドアのスライド動作を、より確実に且つ円滑に行うことができるので、車両用ドアヒンジ装置の信頼性が高まる。
【0017】
しかも、ドアの開け際と閉め際における各一定時間だけ、ヒンジ用ラッチ機構をロック状態に維持するように、ロック維持機構を作動させることができる。ロック維持機構の作動時間は短くて済む。この結果、ロック維持機構が作動させるときの消費エネルギー(電力など)を極力抑制することができる。
【0018】
請求項2に係る発明では、ロック維持機構に係合部材を有している。この係合部材は、ヒンジ用ラッチ機構に係合してロック状態で維持させる係合位置と、ヒンジ用ラッチ機構から離脱する離脱位置の、2位置間で変位するだけの、簡単な構成の部材ですむ。このため、ロック維持機構を簡単な構成にすることができる。
【0019】
請求項3に係る発明では、係合部材を駆動するアクチュエータを備えている。このアクチュエータは、通電されているときだけ、係合部材をヒンジ用ラッチ機構に係合させるように駆動するとともに、通電が完了したときには機械的な自己復帰力によって係合部材を元の離脱位置へ復帰させる方式の、いわゆる、ワンウエイ式アクチュエータである。このため、係合部材を駆動するための駆動源を、簡単な構成で安価なものにすることができる。
【0020】
しかも、係合部材をヒンジ用ラッチ機構に係合させるときの一定時間だけ、アクチュエータに通電すればよい。機械的な自己復帰力によって、係合部材を元の離脱位置へ復帰させることができるので、復帰させるときには、アクチュエータに通電する必要はない。このため、電力を極力抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は、車室11内から見た車両10を想像線によって示している。この車両10は、車体12の側部に左右のフロントドア13(右のみを示す。以下同じ。)及び左右のリヤドア(省略する)を備えた自動車である。以下、4つのドアのうち、右のフロントドア13を代表して説明する。右のフロントドア13は、車両用ドアヒンジ装置20を介して車体12のピラー14に取り付けられている。ヒンジ装置20は、車体12に対するドア13の開閉機能を、スイング動作機能とスライド動作機能とに切り換え可能な、ドア支持装置である。
【0022】
以下、車両用ドアヒンジ装置20について詳しく説明する。なお、右のフロントドア13のことを、単に「ドア13」と言うことにする。車両用ドアヒンジ装置20のことを、単に「ヒンジ装置20」と言うことにする。
【0023】
図2は、図1に示された車両用ドアヒンジ装置20を拡大して表している。図3は、車体前方から見た車両用ドアヒンジ装置20を示している。図4は、上から見た車両用ドアヒンジ装置20を示している。
図2〜図4に示すように、ヒンジ装置20は、車体側ヒンジ部30とリンク部40とヒンジ用ラッチ機構80とリンク用ラッチ機構110とからなる。
【0024】
車体側ヒンジ部30は、車体12のピラー14に上下一対のブラケット15,16を介して、車幅方向にスイング可能に取り付けられている。ブラケット15,16は、ピラー14から車幅方向の外側へ向かって延びている。
詳しく説明すると、車体側ヒンジ部30は、側方から見たときに概ね横向きのH字状に形成されており、上下に一定間隔を開けて水平に配列された一対のヒンジ用バー31,31と、一対のヒンジ用バー31,31同士を繋ぐ垂直なヒンジ連結バー32とからなる、一体品である。各ヒンジ用バー31,31のスイング基端部33,33(図3参照)は、ピン34,34によってブラケット15,16にスイング可能に取り付けられている。一対のヒンジ用バー31,31は、ドア13(図4参照)の内面に沿って車室11側へ延びる、細長い平板状の部材である。
ヒンジ連結バー32は、各ヒンジ用バー31,31の略長手中央の位置に接合されたパイプからなり、車体側ヒンジ部30における支柱の機能を有する。
【0025】
リンク部40は、車体側ヒンジ部30に対して車幅方向にスイング可能に取り付けられている。リンク部40には、ドア13が車体前後方向にスライド可能に連結されている。このリンク部40は、1つの平行リンク機構50と上下一対のスライド機構70,70とからなる。
【0026】
平行リンク機構50は、車体側ヒンジ部30に対して車幅方向にスイング可能に取り付けられた、第1リンク51と第2リンク61とからなる。第1リンク51と第2リンク61は、互いに平行状態を維持しながらスイングする。
【0027】
詳しく説明すると、第1リンク51は、側方から見たときに概ね横向きのH字状に形成されており、上下に一定間隔を開けて水平に配列された一対のリンク用バー52,52と、一対のリンク用バー52,52同士を繋ぐ垂直なリンク連結バー53とからなる、一体品である。
各リンク用バー52,52のスイング基端部54,54(図3参照)は、ヒンジ用バー31,31の長手方向において、ヒンジ連結バー32の接合位置とスイング基端部33,33との間に、ピン55,55によってスイング可能に取り付けられている。
【0028】
一対のリンク用バー52,52は、上から見たときにヒンジ連結バー32に対して車幅中央側へ迂回するように屈曲しながらドア13の内面に沿って車室11側へ延びる、細長い平板状の部材である。
リンク連結バー53は、各リンク用バー52,52におけるスイング先端部56,56(図3参照)の近傍の位置に接合されたパイプからなり、第1リンク51における支柱の機能を有する。
【0029】
第2リンク61は、上記第1リンク51と概ね同じ構成である。つまり、第2リンク61は、側方から見たときに概ね横向きのH字状に形成されており、上下に一定間隔を開けて水平に配列された一対のリンク用バー62,62と、一対のリンク用バー62,62同士を繋ぐ垂直なリンク連結バー63とからなる、一体品である。
各リンク用バー62,62のスイング基端部64,64(図3参照)は、ピン65,65によってヒンジ用バー31,31のスイング先端部35,35(図3参照)にスイング可能に取り付けられている。
【0030】
一対のリンク用バー62,62は、上から見たときに、上記第1リンク51と同様に、車幅中央側へ屈曲しながらドア13の内面に沿って車室11側へ延びる、細長い角棒状の部材である。さらに、各リンク用バー62,62は、上記第1リンク51よりも車幅中央寄りの位置に、上記第1リンク51と並列に並べて配置されている。
リンク連結バー63は、各リンク用バー62,62における略長手中央位置に接合された板材からなり、第2リンク61における支柱の機能を有する。
【0031】
上下一対のスライド機構70,70は、ドア13を車体前後方向にスライド可能に連結したものであり、平行リンク機構50のスイング先端部に取り付けられている。
詳しく述べると、上側のスライド機構70は、ガイドレール71とスライダ72とガイドレール用ブラケット73とからなる。ガイドレール71は、車体前後方向に細長いガイド部材である。スライダ72は、ガイドレール71に案内されて車体前後方向へ移動する細長い部材であって、複数のドア取付部74を介してドア13の内面に取り付けられている。ガイドレール用ブラケット73は、ガイドレール71の背面、つまり、車幅中央側の面から車室11側へ延びた、水平な平板からなる。
【0032】
第1リンク51において、上側のリンク用バー52のスイング先端部56(図3参照)は、ガイドレール用ブラケット73の前端部に対して、ピン57で車幅方向にスイング可能に取り付けられている。一方、第2リンク61において、上側のリンク用バー62のスイング先端部66(図3参照)は、ガイドレール用ブラケット73の後端部に対して、ピン67で車幅方向にスイング可能に取り付けられている。
下側のスライド機構70は、上側のスライド機構70と同じ構成であり、同一符号を付して説明を省略する。
【0033】
次に、ヒンジ用ラッチ機構80について説明する。
図5は、図3の5−5線に沿った断面図である。図6は、図3の6−6線に沿った断面図である。
図7(a)〜(b)は、図3に示されたヒンジ用ラッチ機構80の模式図である。図7(a)は、ヒンジ用ラッチ機構80の構成を模式的に表している。図7(b)は、ヒンジ用ラッチ機構80の作用を模式的に表している。
【0034】
図3及び図5に示すように、ヒンジ用ラッチ機構80は、車体12に対して車体側ヒンジ部30をロック、アンロックさせるものである。つまり、ヒンジ用ラッチ機構80は、アンロック状態とロック状態とに切り換え可能な構成である。
このヒンジ用ラッチ機構80は、車体12に設けられたヒンジ用ラッチ部81と、車体側ヒンジ部30に設けられたヒンジ用ストライカ82とからなる。
【0035】
ヒンジ用ラッチ機構80のアンロック状態とは、ドア13(図4参照)をスイング動作させる場合に、ヒンジ用ラッチ部81がヒンジ用ストライカ82をアンロックする状態のことである。ヒンジ用ラッチ機構80のアンロック状態においては、車体12に対して、車体側ヒンジ部30がドア13と共にスイング動作可能とされる。
一方、ヒンジ用ラッチ機構80のロック状態とは、ドア13をスライド動作させる場合に、ヒンジ用ラッチ部81がヒンジ用ストライカ82をロックする状態のことである。ヒンジ用ラッチ機構80のロック状態においては、車体12に対して、車体側ヒンジ部30のスイング動作が規制される。そして、車体側ヒンジ部30に対して、ドア13がスイング動作可能及びスライド動作可能とされる。
【0036】
詳しく説明すると、ヒンジ用ストライカ82は、車体側ヒンジ部30のヒンジ連結バー32に取り付けられている。このヒンジ用ストライカ82は、ヒンジ連結バー32の前方において、車幅方向に長い水平な丸棒からなる。
【0037】
一方、ヒンジ用ラッチ部81はピラー14に取り付けられている。このヒンジ用ラッチ部81は、図7(a)に示すように、ピラー14(図5参照)に取り付けられたフレーム83と、フレーム83に支軸84で回転可能に取り付けられたラッチ本体85と、リターンスプリング86とからなる。
【0038】
ラッチ本体85は、外周面にロック溝85aと係合凸部85bと保持溝85cとロック維持凸部85dとを有している。ロック溝85aは、ヒンジ用ストライカ82を掛け止めるものである。係合凸部85bは、ロック溝85aと保持溝85cの間に配置され、ラッチ本体85の外周面から径外方へ突出している。ロック維持凸部85dは、ラッチ本体85の外周面から径外方へ突出している。
リターンスプリング86は、ヒンジ用ストライカ82に対してラッチ本体85をアンロック状態とする方向に付勢するものである。
【0039】
さらに、ヒンジ用ラッチ機構80は、ロック解除維持機構90とロック維持機構100を備えている。
ロック解除維持機構90は、ドア13(図4参照)が全閉状態にある場合に、ヒンジ用ラッチ機構80のロック状態を解除し続けるものである。このロック解除維持機構90は、リンク部40に備えた当接部91と、ヒンジ用ラッチ部81に備えた解除部92とからなる。
【0040】
詳しく説明すると、図6及び図7(a)に示すように、当接部91は、側方から見たときに略L字状の部材であって、第1リンク51のリンク用バー52から下方へ延び、その下端が解除部92へ向かって延びている。なお、図6に示すように、当接部91は、ヒンジ用ラッチ部81に対して平行リンク機構50がスイングしたときに、ヒンジ連結バー32と干渉しない位置に配置される。
【0041】
一方、図7(a)に示すように、解除部92は、ドア13(図4参照)が全閉状態にある場合に、当接部91に押されて、ヒンジ用ラッチ部81をアンロック状態に切り換えるように構成されている。より具体的には、解除部92は、フレーム83に支軸93でスイング可能に取り付けられたロックアーム94と、リターンスプリング95と、解除用ロッド96とからなる。ヒンジ用ラッチ部81の支軸84に対して、解除部92の支軸93は平行に配置されている。
【0042】
ロックアーム94は、スイング先端に、ラッチ本体85の外周面に形成されている保持溝85cに掛け止まる爪94aを有している。リターンスプリング95は、保持溝85cと爪94aとの掛け止め状態を維持する方向に、ロックアーム94を付勢するものである。
【0043】
解除用ロッド96は、支軸93に対して軸直角方向に延びた水平な部材であって、長手方向にスライド可能にフレーム83に取り付けられている。解除用ロッド96の一端は、ロックアーム94に連結されている。解除用ロッド96の他端面、つまり、被作用面96aは、ドア13が全閉状態にある場合に当接部91の先端によって押されるように配置されている。
【0044】
図7(a)に示すように、ロック維持機構100は、ドア13(図4参照)をスライド動作させるときに、ヒンジ用ストライカ82に対するヒンジ用ラッチ部81のロック状態を維持させるものである。
詳しく説明すると、ロック維持機構100(以下、「第1ロック維持機構100」と言う。)は、ドア13をスライド動作させるときに、ドア13が全閉状態から開き始める時点と、ドア13が全閉になる直前の時点とに、それぞれ一定時間だけヒンジ用ラッチ部81をロック状態に維持させるように構成されている。
【0045】
第1ロック維持機構100は、係合部材101とアクチュエータ102とからなる。
係合部材101(以下、「第1係合部材101」と言う。)は、図7(a)に想像線で示された係合位置Pr1と、図7(a)に実線で示された離脱位置Pu1との、2位置間でスイング変位するように構成されている。第1係合部材101において、係合位置Pr1とは、ラッチ本体85のロック維持凸部85dに、第1係合部材101が係合することによって、ヒンジ用ラッチ部81をロック状態で維持させる位置のことである。また、離脱位置Pu1とは、ヒンジ用ラッチ部81のラッチ本体85におけるロック維持凸部85dから第1係合部材101が離脱した位置のことである。
【0046】
アクチュエータ102(以下、「第1アクチュエータ102」と言う。)は、第1係合部材101を駆動するための駆動部であって、出力軸103に第1係合部材101が連結されている。この第1アクチュエータ102は電気的に作動するものである。
より具体的に説明すると、第1アクチュエータ102は、通電されているときだけ、第1係合部材101をヒンジ用ラッチ部81のロック維持凸部85dに係合させるように駆動する。つまり、第1アクチュエータ102は、通電されているときだけ、内蔵されているソレノイドやモータ等の電気的駆動源の駆動力によって、出力軸103を一定角だけ回転させることにより、第1係合部材101を係合位置Pr1にスイングさせるように構成されている。この結果、ヒンジ用ストライカ82に対して、ラッチ本体85のロック状態は維持される。
【0047】
さらに、第1アクチュエータ102は、通電が完了したとき(非通電時)には、内蔵されているリターンスプリングの付勢力、つまり、機械的な自己復帰力によって出力軸103を逆転させることにより、第1係合部材101を元の離脱位置Pu1に復帰させるように構成されている。
【0048】
次に、リンク用ラッチ機構110について説明する。
図3及び図5に示すように、リンク用ラッチ機構110は、車体側ヒンジ部30に対して平行リンク機構50をロック、アンロックさせるものである。つまり、リンク用ラッチ機構110は、アンロック状態とロック状態とに切り換え可能な構成である。
このリンク用ラッチ機構110は、第2リンク61に設けられたリンク用ラッチ部111と、車体側ヒンジ部30に設けられたリンク用ストライカ112とからなる。
【0049】
リンク用ラッチ機構110のアンロック状態とは、ドア13(図4参照)をスライド動作させる場合に、リンク用ラッチ部111がリンク用ストライカ112をアンロックする状態のことである。リンク用ラッチ機構110のアンロック状態においては、車体側ヒンジ部30に対して、平行リンク機構50がスイング動作可能とされる。
一方、リンク用ラッチ機構110のロック状態とは、ドア13をスイング動作させる場合に、リンク用ラッチ部111がリンク用ストライカ112をロックする状態のことである。リンク用ラッチ機構110のロック状態においては、車体側ヒンジ部30に対して、平行リンク機構50のスイング動作が規制される。
【0050】
図8(a)〜(b)は、図3に示されたリンク用ラッチ機構110の模式図である。図8(a)は、リンク用ラッチ機構110の構成を模式的に表している。図8(b)は、リンク用ラッチ機構110の作用を模式的に表している。
詳しく説明すると、リンク用ストライカ112は、車体側ヒンジ部30のヒンジ連結バー32に取り付けられている。図5に示すように、このリンク用ストライカ112は、ヒンジ連結バー32の後側方において、前後方向に長い水平な丸棒からなる。
【0051】
一方、リンク用ラッチ部111は、第2リンク61のリンク連結バー63に取り付けられている。このリンク用ラッチ部111は、図8(a)に示すように、リンク連結バー63に取り付けられたフレーム113と、フレーム113に支軸114により回転可能に取り付けられたラッチ本体115と、リターンスプリング116とからなる。ラッチ本体115は、外周面にロック溝115aとロック維持凸部115bとを有している。ロック溝115aは、リンク用ストライカ112を掛け止めるものである。ロック維持凸部115bは、ラッチ本体115の外周面から径外方へ突出している。
リターンスプリング116は、リンク用ストライカ112に対してラッチ本体115をアンロック状態とする方向に付勢するものである。
【0052】
さらに、リンク用ラッチ機構110はロック維持機構120を備えている。ロック維持機構120(以下、「第2ロック維持機構120」と言う。)は、図4に示すように、ドア13をスイング動作させるときに、リンク用ストライカ112に対するリンク用ラッチ部111のロック状態を維持させるものである。
【0053】
図8(a)に示すように、第2ロック維持機構120は、係合部材121とアクチュエータ122とからなる。
係合部材121(以下、「第2係合部材121」と言う。)は、図8(a)に実線で示された係合位置Pr2と、図8(a)に想像線で示された離脱位置Pu2との、2位置間でスイング変位するように構成されている。第2係合部材121において、係合位置Pr2とは、ラッチ本体115のロック維持凸部115bに、第2係合部材121が係合することによって、リンク用ラッチ部111をロック状態で維持させる位置のことである。また、離脱位置Pu2とは、ロック維持凸部115bから第2係合部材121が離脱した位置のことである。
【0054】
アクチュエータ122(以下、「第2アクチュエータ122」と言う。)は、第2係合部材121を駆動するための駆動部であって、出力軸123に第2係合部材121が連結されている。この第2アクチュエータ122は電気的に作動するものである。
より具体的に説明すると、第2アクチュエータ122は、通電されているときだけ、第2係合部材121を係合位置Pr2から離脱位置Pu2にスイングさせるように駆動する。つまり、第2アクチュエータ122は、通電されているときだけ、内蔵されているソレノイドやモータ等の電気的駆動源の駆動力によって、出力軸123を一定角だけ回転させることにより、第2係合部材121を離脱位置Pu2にスイングさせて、ロック解除するように構成されている。
【0055】
さらに、第2アクチュエータ122は、通電が完了したとき(非通電時)には、内蔵されているリターンスプリングの付勢力、つまり、機械的な自己復帰力によって出力軸123を逆転させることにより、第2係合部材121を元の係合位置Pr2に復帰させるように構成されている。
【0056】
次に、ヒンジ装置20の制御回路について説明する。
図9は、車両用ドアヒンジ装置の制御回路図である。ヒンジ装置20の制御回路は、ドア開閉操作部131の操作信号に応じて制御部132が第1及び第2アクチュエータ102,122とドアスライド駆動用モータ133を制御するように構成されている。
【0057】
以下、図3を参照しながら、図9に基づいて制御回路を説明する。
ドア開閉操作部131は、ドア13(図1参照)のスライド動作を電気的に操作するものであり、例えば、車室11に設けられた操作部や、乗員が携帯する無線式操作部からなる。
第1アクチュエータ102は、制御部132から制御信号(開時ロック信号、閉時ロック信号)を受けているときだけ、つまり、通電されているときだけ電気的に作動して、ヒンジ用ラッチ部81をロック動作させる。
第2アクチュエータ122は、制御部132から制御信号を受けているときだけ、つまり、通電されているときだけ電気的に作動して、リンク用ラッチ部111をアンロック動作させる。
【0058】
ドアスライド駆動用モータ133は、制御部132から制御信号(ドア開駆動信号、ドア閉駆動信号)を受けて、平行リンク機構50をスイング駆動するとともに、スライド機構70,70のスライダ72,72を前後スライド駆動するものである。なお、ドアスライド駆動用モータ133及びこのモータ133による駆動機構の詳細な構成については省略した。
【0059】
制御部132は、次の3つの制御信号を発するように構成されている。
第1に、ドア開閉操作部131から「ドア開」の操作信号を受けたときには、第1アクチュエータ102に「開時ロック信号」を一時的に発し、第2アクチュエータ122に「ロック解除信号」を発し、ドアスライド駆動用モータ133に「ドア開駆動信号」を発する。ドアスライド駆動用モータ133は、ドア開駆動信号によって制御され、平行リンク機構50及びスライド機構70,70を駆動してドア13を開く。ドア13が全開状態に達したときに、ドアスライド駆動用モータ133は自動停止する。
【0060】
第2に、ドア開閉操作部131から「ドア閉」の操作信号を受けたときには、第1アクチュエータ102に「閉時ロック信号」を一時的に発するとともに、ドアスライド駆動用モータ133に「ドア閉駆動信号」を発する。ドアスライド駆動用モータ133は、ドア閉駆動信号によって制御され、平行リンク機構50及びスライド機構70,70を駆動してドア13を閉じる。ドア13が全閉状態に達したときに、ドアスライド駆動用モータ133は自動停止する。
【0061】
第3に、解放されているドア13が全閉状態に戻ったときには、第2アクチュエータ122に発している「ロック解除信号」を停止する。例えば、制御部132は、「ドア閉」の操作信号を受けた時点から、ドア13が全閉になった時点までの、全閉動作基準時間が経過したときに、ドア13が全閉状態に達したと判断する。全閉動作基準時間については、予め計測しておき、この計測値に設定しておけばよい。
「ロック解除信号」が停止されたときに、第2アクチュエータ122は、機械的な自己復帰力によって、元のロック状態に自動復帰する。
【0062】
上述のように、制御部132が第1アクチュエータ102に発する「開時ロック信号」及び「閉時ロック信号」は、ドア13をスライド動作させるときの、一時的な信号である。
制御部132が「開時ロック信号」を発する時間t1(開時ロック信号発生時間t1)は、「ドア開」の操作信号を受けた時点からの一定時間である。この開時ロック信号発生時間t1は、全閉状態のドア13が開き始める時点から、ロック解除維持機構90(図7参照)がヒンジ用ラッチ部81をロック状態に戻し終える時点までの、時間に相当する。
【0063】
また、制御部132が「閉時ロック信号」を発する時間t2(閉時ロック信号発生時間t2)は、「ドア閉」の操作信号を受けた時点からの一定時間である。この閉時ロック信号発生時間t2は、全開状態のドア13が閉じ始める時点から、ロック解除維持機構90がヒンジ用ラッチ部81をロック解除し終える時点までの、時間に相当する。
【0064】
ところで、制御部132が「閉時ロック信号」を発生し始めるタイミングは、ドア13が全閉になる直前の時点であることが、より好ましい。このようにすることによって、閉時ロック信号発生時間t2を一層短縮することができる。例えば、制御部132は、「ドア閉」の操作信号を受けた時点から、ドア13が全閉になる直前の時点までの、基準経過時間t3が経過した時点で閉時ロック信号を発生し始めるようにする。
【0065】
次に、ドア13をスイング動作させる場合の、ヒンジ装置20の作用を説明する。
今、図4に示すように、ドア13は全閉状態にある。このときに、図8(a)に示すように、リンク用ラッチ機構110はロック状態にある。
【0066】
また、図7(a)に示すように、ヒンジ用ラッチ機構80はアンロック状態にある。具体的には、ロック解除維持機構90において、第1リンク51に有する当接部91は、解除用ロッド96を押している。このため、ロックアーム94はラッチ本体85の保持溝85cから離れた位置にある。つまり、ロック解除維持機構90はロック解除状態にある。
また、第1ロック維持機構100において、第1アクチュエータ102に通電されていないので、第1係合部材101は離脱位置Pu1にある。つまり、第1ロック維持機構100はロック解除状態にある。
ロック解除維持機構90と第1ロック維持機構100が、共にロック解除状態にあるので、ラッチ本体85は回転自在である。このため、ヒンジ用ストライカ82は、ラッチ本体85のロック溝85aから自由に外れることができる。
【0067】
その後、乗員が図1に示すドアノブ17を操作してドア13を開く(手動によってドア13をスイング動作させる)。この場合には、図4に示すように、リンク用ラッチ機構110はロック状態を維持する。
【0068】
ドア13がスイング動作して開き始めると、車体側ヒンジ部30と平行リンク機構50はスイングする。つまり、図4に示す矢印S1方向へ移動する。このため、図7(a)に示すように、車体側ヒンジ部30のヒンジ用ストライカ82と、第1リンク51の当接部91も、矢印S1方向へ移動する。
【0069】
ラッチ本体85は、回転自在の状態にあるので、変位するヒンジ用ストライカ82によって矢印R1方向へ回される。ほぼ同時に、第1リンク51の当接部91は解除用ロッド96から離れる。リターンスプリング95に付勢されているロックアーム94は、一旦はロック溝85aに入りかけるものの、ロック溝85aに隣接する係合凸部85bを乗り越えて、図7(b)に示すようにラッチ本体85の保持溝85cに掛け止まる。
このように、ドア13がスイング動作するときには、ヒンジ用ラッチ機構80はアンロック状態にある。
【0070】
スイング動作によって全開になったドア13を、図10及び図11に示している。
図10は、スイング動作によって全開状態になった車両用ドアヒンジ装置の斜視図であり、図2に合わせて車室11内から見たヒンジ装置20を表している。図11は、図10に示された車両用ドアヒンジ装置の平面図である。
【0071】
このように、車体側ヒンジ部30とリンク部40は、ピン34,34を中心にして一体的にスイングする。なお、車体側ヒンジ部30は、ドア13を全開位置までスイングしたときに、図示せぬストッパ(ヒンジチェッカ)によって、それ以上のスイング動作が規制される。リンク用ラッチ機構110はロック状態を維持している。
【0072】
その後、乗員が図1に示すドアノブ17を操作してドア13を閉じる(手動によってドア13をスイング動作させる)。ドア13を開くときと同様に、車体側ヒンジ部30とリンク部40は、ピン34,34を中心にして一体的にスイングし、図2及び図4に示す全閉状態に戻る。
このとき、図7(b)に示すように、ヒンジ用ラッチ部81と当接部91は、矢印S1と逆方向に移動する。そして、図7(a)に示すように、当接部91が再び解除用ロッド96を押すので、ロック解除維持機構90は元のロック解除状態に復帰する。その直後に、ヒンジ用ストライカ82はラッチ本体85のロック溝85aに再び掛かる。ヒンジ用ラッチ機構80は図7(a)に示す状態に復帰する。
【0073】
次に、ドア13をスライド動作させる場合における、ヒンジ装置20の作用を説明する。ここで、図12(a),(b)は、図10に示されたヒンジ用ラッチ機構の作用図である。図13は、図2に示されたリンク部だけが全開状態までスイング動作したことを示す作用図である。図14は、図13に示された車両用ドアヒンジ装置の平面図である。図15(a),(b)は、図13に示されたヒンジ用ラッチ機構の作用図である。
【0074】
今、図4に示すように、ドア13は全閉状態にある。このときに、図7(a)に示すように、ヒンジ用ラッチ機構80はアンロック状態にある。図8(a)に示すように、リンク用ラッチ機構110はロック状態にある。このことは、ドア13をスイング動作させる場合と同じなので、詳細な説明は省略する。
【0075】
その後、乗員が図9に示すドア開閉操作部131を開操作する。制御部132は、ドア開閉操作部131から「ドア開」の操作信号を受けて、第1アクチュエータ102に一時的な「開時ロック信号」を発し、第2アクチュエータ122に「ロック解除信号」を発し、ドアスライド駆動用モータ133に「ドア開駆動信号」を発する。
【0076】
図8(a)に示すように、第2アクチュエータ122は、第2係合部材121を離脱位置Pu2にスイングさせる。この結果、リンク用ストライカ112に対するリンク用ラッチ部111のロック状態は解除される。平行リンク機構50は、矢印S3方向に移動(スイング)可能である。
【0077】
一方、第1アクチュエータ102は、図12(a)に示すように、第1係合部材101を離脱位置Pu1から係合位置Pr1にスイングさせる。この結果、ヒンジ用ストライカ82に対してヒンジ用ラッチ部81はロック状態になる。
ほぼ同時に、ドアスライド駆動用モータ133は、平行リンク機構50(図4参照)を駆動してドア13を開き始める。この結果、図12(a)に示すように、第1リンク51と共に当接部91は解除用ロッド96から離れる(矢印S1方向へ移動する)。図12(b)に示すように、ロックアーム94はラッチ本体85にロックする。つまり、ロック解除維持機構90はロック状態になる。
【0078】
概ね、この直後に、制御部132(図9参照)からの一時的な「開時ロック信号」が停止される。このため、第1アクチュエータ102は、機械的な自己復帰力によって、第1係合部材101を元の離脱位置Pu1に復帰させる。しかし、ロック解除維持機構90がロック状態を維持しているので、ヒンジ用ラッチ機構80はロック状態を持続する。
【0079】
その後、図13及び図14に示すように、平行リンク機構50は車幅外方へ最大限スイングした状態になる。つまり、ドア13は車体12から側方へ迫り出る。この時点において、ドアスライド駆動用モータ133(図9参照)は、スライド機構70,70のスライダ72,72を車体前方(図14に示す矢印Fr方向)にスライド駆動する。スライダ72,72が最大限スライドした時点で、ドア13は全開状態に達し、ドアスライド駆動用モータ133は自動停止する。
【0080】
その後、乗員が図9に示すドア開閉操作部131を閉操作する。制御部132は、ドア開閉操作部131から「ドア閉」の操作信号を受けて、第1アクチュエータ102に一時的な「閉時ロック信号」を発し、ドアスライド駆動用モータ133に「ドア閉駆動信号」を発する。
ドアスライド駆動用モータ133は、図13及び図14に示すスライダ72,72を車体後方(図14に示す矢印Frと逆方向)にスライド駆動する。スライダ72,72が最大限スライドした時点において、ドアスライド駆動用モータ133は、平行リンク機構50を車室側にスイング駆動する。
【0081】
一方、第1アクチュエータ102は、図15(a)に示すように、第1係合部材101を離脱位置Pu1から係合位置Pr1にスイングさせる。この結果、ヒンジ用ストライカ82に対してヒンジ用ラッチ部81はロック状態になる。
平行リンク機構50(図14参照)が戻るに連れて、第1リンク51と共に当接部91は解除用ロッド96に接近する。図15(b)に示すように、当接部91が解除用ロッド96を押した時点で、ロックアーム94はラッチ本体85に対してアンロックとなる。つまり、ロック解除維持機構90は再びアンロック状態になる。この結果、ヒンジ用ラッチ機構80はアンロック状態になる。
【0082】
概ね、この直後に、制御部132(図9参照)は一時的な「閉時ロック信号」を停止する。このため、第1アクチュエータ102は、機械的な自己復帰力によって、第1係合部材101を元の離脱位置Pu1に復帰させる。第1ロック維持機構100はアンロック状態になる。
その後、図4に示すように、平行リンク機構50は元の位置までスイングした状態になる。つまり、ドア13は全閉状態に戻る。この時点に、ドアスライド駆動用モータ133(図9参照)は自動停止する。
【0083】
ところで、図8(b)に示すように、平行リンク機構50が矢印S4方向へ戻るに連れて、第2リンク61と共にリンク用ラッチ部111はリンク用ストライカ112に接近する。その後、ラッチ本体115のロック溝115aにリンク用ストライカ112が入り込む。
【0084】
ドア13(図4参照)が全閉状態に達した直後に、制御部132は「ロック解除信号」を停止する。このため、第2アクチュエータ122は、機械的な自己復帰力によって、第2係合部材121を元の係合に復帰させる。この結果、ラッチ本体115は図時計回りに回転してリンク用ストライカ112にロックする。リンク用ラッチ機構110はロック状態に復帰する。
【0085】
以上の説明をまとめると、次の通りである。
車両用ドアヒンジ装置20は、車体12に車体側ヒンジ部30をスイング可能に取り付け、この車体側ヒンジ部30に平行リンク機構50をスイング可能に取り付け、この平行リンク機構50にスライド機構70,70によってドア13をスライド可能に取り付け、さらに、車体12に対して車体側ヒンジ部30をヒンジ用ラッチ機構80によってロック、アンロックさせるようにしたものである。
【0086】
ドア13をスイング動作させる場合には、ヒンジ用ラッチ機構80をアンロック状態に切り換えればよい。この結果、車体側ヒンジ部30のスイング動作が可能になる。ドア13をスイング動作させる場合に、平行リンク機構50及びスライド機構70,70を動作させる必要はない。このため、ドア13を、より円滑にスイング動作させることができる。車体側ヒンジ部30だけをスイングさせることにより、ドア13をスイング動作によって開閉することができる。
【0087】
また、ドア13をスライド動作させる場合には、ヒンジ用ラッチ機構80をロック状態に切り換える。この結果、車体側ヒンジ部30はスイング動作が規制され、車体12に対して固定状態になる。固定状態の車体側ヒンジ部30に対して、平行リンク機構50をスイング動作させることができる。平行リンク機構50をスイングさせることにより、平行リンク機構50を介して、ドア13は車体12から側方へ迫り出る(せり出る)。迫り出されたドア13をスライド機構70,70を介してスライドさせることにより、車体前後方向に開閉することができる。ドア13をスライド動作させる場合に、車体側ヒンジ部30を動作させる必要はないので、ドア13を、より円滑にスライド動作させることができる。
【0088】
このように、ヒンジ用ラッチ機構80の作動を切り換えるだけで、スライド動作とスイング動作の両方において、確実に且つ円滑にドア13を開閉動作させることができる。しかも、ドア13のスイング動作時だけ、ヒンジ用ラッチ機構80を動作可能な構成としたので、車両用ドアヒンジ装置20に厳密な組み付け精度を要することはない。
【0089】
また、車両用ドアヒンジ装置20は、車体側ヒンジ部30に対して平行リンク機構50間をロック、アンロックさせるためのリンク用ラッチ機構110を備えたものである。
このため、ドア13をスイング動作させる場合には、リンク用ラッチ機構110をロック状態に切り換えることによって、平行リンク機構50のスイング動作は規制される。従って、ドア13をスイング動作させるときに、車体側ヒンジ部30に対して平行リンク機構50及びスライド機構70,70がふらつくことはない。ドア13を、より安定してスイングさせることができる。
【0090】
また、ドア13をスライド動作させる場合には、リンク用ラッチ機構110をアンロック状態に切り換えることによって、平行リンク機構50のスイング動作は可能になる。従って、ドア13をスライド動作させるときに、車体側ヒンジ部30に対して平行リンク機構50及びスライド機構70,70は自由に動作可能である。ドア13を確実にスライド動作させることができる。
【0091】
このように、ドア13をスイング動作させる場合とスライド動作させる場合とで、ヒンジ用ラッチ機構80とリンク用ラッチ機構110の各作動を切り換えるだけで、スイング動作とスライド動作の両方を、より安定的に且つより確実に行わせることができる。
【0092】
さらにまた、車両用ドアヒンジ装置20は、ドア13が全閉状態にある場合に、ロック解除維持機構90によってヒンジ用ラッチ機構80のロック状態を解除し続けることができる。このため、ドア13が全閉状態である場合には、車体12に対して、車体側ヒンジ部30はスイング動作が可能な状態となる。ドア13の内面や外面に設けられているドアノブ17を手で開き操作することによって、ドア13を自由に開くことができる。例えば、車両10に緊急状態が発生した場合に、車室11内または車外から自由にドア13を開けて、乗員が、より一層迅速に脱出することができる。
【0093】
さらにまた、車両用ドアヒンジ装置20は、ドア13をスライド動作させるときにおいて、ドア13が全閉状態から開き始める時点(ドア13の開け際)の一定時間t1にわたり、ロック維持機構100によってヒンジ用ラッチ機構80をロック状態に維持させることができる。
また、ドア13をスライド動作させるときにおいて、ドア13が全閉になる直前の時点(ドア13の閉め際)の一定時間t2にわたり、ロック維持機構100によってヒンジ用ラッチ機構80をロック状態に維持させることができる。
このため、車体側ヒンジ部30のスイング動作を、より確実に規制することができる。従って、ドア13のスライド動作を、より確実に且つ円滑に行うことができるので、車両用ドアヒンジ装置20の信頼性が高まる。
【0094】
しかも、ドア13の開け際と閉め際における各一定時間t1,t2だけ、ヒンジ用ラッチ機構80をロック状態に維持するように、ロック維持機構100を作動させることができる。ロック維持機構100の作動時間は短くて済む。この結果、ロック維持機構100を作動させるときの消費エネルギー(電力など)を極力抑制することができる。
【0095】
また、ロック維持機構100は第1係合部材101を有している。この第1係合部材101は、ヒンジ用ラッチ機構80のヒンジ用ラッチ部81に係合してロック状態で維持させる係合位置Pr1と、ヒンジ用ラッチ部81から離脱する離脱位置Pu1の、2位置間で変位するだけの、簡単な構成の部材ですむ。このため、ロック維持機構100を簡単な構成にすることができる。
【0096】
また、ロック維持機構100は、第1係合部材101を駆動する第1アクチュエータ102を備えている。この第1アクチュエータ102は、通電されているときだけ、第1係合部材101をヒンジ用ラッチ部81に係合させるように駆動するとともに、通電が完了したときには機械的な自己復帰力によって第1係合部材101を元の離脱位置Pu1へ復帰させる方式の、いわゆる、ワンウエイ式アクチュエータである。このため、第1係合部材101を駆動するための駆動源を、簡単な構成で安価なものにすることができる。
【0097】
しかも、第1係合部材101をヒンジ用ラッチ部81に係合させるときの一定時間t1,t2だけ、第1アクチュエータ102に通電すればよい。機械的な自己復帰力によって、第1係合部材101を元の離脱位置Pu1へ復帰させることができるので、復帰させるときには、第1アクチュエータ102に通電する必要はない。このため、電力を極力抑制することができる。
【0098】
なお、本発明の実施の形態において、ヒンジ用ラッチ部81は、車体12に設けられていればよい。ヒンジ用ストライカ82は、車体側ヒンジ部30に設けられていればよい。リンク用ラッチ部111は、リンク部40(平行リンク機構50等)に設けられていればよい。リンク用ストライカ112は、車体側ヒンジ部30に設けられていればよい。
また、ロック解除維持機構90において、当接部91は、リンク部40(平行リンク機構50等)に備えていればよく、解除部92は、ヒンジ用ラッチ部81に備えていればよい。
【0099】
また、第1ロック維持機構100において、第1係合部材101は、ヒンジ用ラッチ部81に係合してロック状態で維持させる係合位置と、ヒンジ用ラッチ部81から離脱する離脱位置との、2位置間で変位する構成であればよく、スイング変位する構成の他に、例えばスライド変位する構成でもよい。
第1アクチュエータ102は、通電されているときだけ、第1係合部材101をヒンジ用ラッチ部81に係合させるように駆動するとともに、通電が完了したときには機械的な自己復帰力によって第1係合部材101を元の離脱位置へ復帰させる構成であればよい。
【0100】
また、第2ロック維持機構120において、第2係合部材121は、リンク用ラッチ部111に係合してロック状態で維持させる係合位置と、リンク用ラッチ部111から離脱する離脱位置との、2位置間で変位する構成であればよく、スイング変位する構成の他に、例えばスライド変位する構成でもよい。
第2アクチュエータ122は、通電されているときだけ、第2係合部材121をリンク用ラッチ部111に係合させるように駆動するとともに、通電が完了したときには機械的な自己復帰力によって第2係合部材121を元の離脱位置へ復帰させる構成であればよい。
【0101】
また、図14に示すように、固定状態の車体側ヒンジ部30に対して、平行リンク機構50をスイング動作させ、ドア13を車幅外方に最大限スイングした状態において、リンク用ストライカ112とは別に、リンク用ラッチ部111とロックするストライカを設けてもよい。そうすることで、ドア13を車体12から側方へ迫り出した位置に、確実に保持することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の車両用ドアヒンジ装置20は、ワンボックス・ワゴン車等の自動車に採用するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明に係る車両用ドアヒンジ装置を備えた車両の説明図である。
【図2】図1に示された車両用ドアヒンジ装置の斜視図である。
【図3】図2に示された車両用ドアヒンジ装置を前方から見た斜視図である。
【図4】図2に示された車両用ドアヒンジ装置の平面図である。
【図5】図3の5−5線に沿った断面図である。
【図6】図3の6−6線に沿った断面図である。
【図7】図3に示されたヒンジ用ラッチ機構の模式図である。
【図8】図3に示されたリンク用ラッチ機構の模式図である。
【図9】本発明に係る車両用ドアヒンジ装置の制御回路図である。
【図10】図2に示されたヒンジ用ラッチ機構が全開状態までスイング動作したことを示す作用図である。
【図11】図10に示された車両用ドアヒンジ装置の平面図である。
【図12】図10に示されたヒンジ用ラッチ機構の作用図である。
【図13】図2に示されたリンク部だけが全開状態までスイング動作したことを示す作用図である。
【図14】図13に示された車両用ドアヒンジ装置の平面図である。
【図15】図13に示されたヒンジ用ラッチ機構の作用図である。
【符号の説明】
【0104】
10…車両、11…車室、12…車体、13…ドア、20…車両用ドアヒンジ装置、30…車体側ヒンジ部、40…リンク部、50…平行リンク機構、70…スライド機構、80…ヒンジ用ラッチ機構、81…ヒンジ用ラッチ部(ラッチ部)、82…ヒンジ用ストライカ(ストライカ)、90…ロック解除維持機構、91…当接部、92…解除部、100…第1ロック維持機構、101…第1係合部材、102…第1アクチュエータ、110…リンク用ラッチ機構、111…リンク用ラッチ部、112…リンク用ストライカ、120…第2ロック維持機構、121…第2係合部材、122…第2アクチュエータ、Pr1…第1係合部材の係合位置、Pu1…第1係合部材離脱位置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に対するドアの開閉機能を、スイング動作機能とスライド動作機能とに切り換え可能な車両用ドアヒンジ装置であって、
前記車体にスイング可能に取り付けられたヒンジ部と、
前記車体に対して前記ヒンジ部をロック、アンロックさせるためのヒンジ用ラッチ機構と、
このヒンジ用ラッチ機構のロック状態を維持させるためのロック維持機構とからなり、
前記ドアは、前記ヒンジ部にスライド可能に連結された構成であり、
前記ヒンジ用ラッチ機構は、前記ドアをスイング動作させる場合に前記ヒンジ部のスイング動作を可能にするアンロック状態と、前記ドアをスライド動作させる場合に前記ヒンジ部のスイング動作を規制するロック状態とに、切り換え可能な構成とされることにより、
前記ヒンジ用ラッチ機構のアンロック状態においては、前記車体に対して、前記ヒンジ部が前記ドアと共にスイング動作可能とされ、
前記ヒンジ用ラッチ機構のロック状態においては、前記ヒンジ部に対して、前記ドアがスライド動作可能な構成とされており、
前記ロック維持機構は、前記ドアをスライド動作させるときに、前記ドアが全閉状態から開き始める時点と、前記ドアが全閉になる直前の時点とに、それぞれ一定時間だけ前記ヒンジ用ラッチ機構をロック状態に維持させるように構成されている、
ことを特徴とした車両用ドアヒンジ装置。
【請求項2】
前記ロック維持機構は、係合部材を有しており、
この係合部材は、前記ヒンジ用ラッチ機構に係合してロック状態で維持させる係合位置と、前記ヒンジ用ラッチ機構から離脱する離脱位置との、2位置間で変位するように構成されている、
ことを特徴とした請求項1記載の車両用ドアヒンジ装置。
【請求項3】
前記ロック維持機構は、電気的に作動するアクチュエータを備えており、
このアクチュエータは、通電されているときだけ、前記係合部材を前記ヒンジ用ラッチ機構に係合させるように駆動するとともに、通電が完了したときには機械的な自己復帰力によって前記係合部材を元の離脱位置へ復帰させるように構成されている、
ことを特徴とした請求項2記載の車両用ドアヒンジ装置。
【請求項1】
車体に対するドアの開閉機能を、スイング動作機能とスライド動作機能とに切り換え可能な車両用ドアヒンジ装置であって、
前記車体にスイング可能に取り付けられたヒンジ部と、
前記車体に対して前記ヒンジ部をロック、アンロックさせるためのヒンジ用ラッチ機構と、
このヒンジ用ラッチ機構のロック状態を維持させるためのロック維持機構とからなり、
前記ドアは、前記ヒンジ部にスライド可能に連結された構成であり、
前記ヒンジ用ラッチ機構は、前記ドアをスイング動作させる場合に前記ヒンジ部のスイング動作を可能にするアンロック状態と、前記ドアをスライド動作させる場合に前記ヒンジ部のスイング動作を規制するロック状態とに、切り換え可能な構成とされることにより、
前記ヒンジ用ラッチ機構のアンロック状態においては、前記車体に対して、前記ヒンジ部が前記ドアと共にスイング動作可能とされ、
前記ヒンジ用ラッチ機構のロック状態においては、前記ヒンジ部に対して、前記ドアがスライド動作可能な構成とされており、
前記ロック維持機構は、前記ドアをスライド動作させるときに、前記ドアが全閉状態から開き始める時点と、前記ドアが全閉になる直前の時点とに、それぞれ一定時間だけ前記ヒンジ用ラッチ機構をロック状態に維持させるように構成されている、
ことを特徴とした車両用ドアヒンジ装置。
【請求項2】
前記ロック維持機構は、係合部材を有しており、
この係合部材は、前記ヒンジ用ラッチ機構に係合してロック状態で維持させる係合位置と、前記ヒンジ用ラッチ機構から離脱する離脱位置との、2位置間で変位するように構成されている、
ことを特徴とした請求項1記載の車両用ドアヒンジ装置。
【請求項3】
前記ロック維持機構は、電気的に作動するアクチュエータを備えており、
このアクチュエータは、通電されているときだけ、前記係合部材を前記ヒンジ用ラッチ機構に係合させるように駆動するとともに、通電が完了したときには機械的な自己復帰力によって前記係合部材を元の離脱位置へ復帰させるように構成されている、
ことを特徴とした請求項2記載の車両用ドアヒンジ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−202237(P2008−202237A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36589(P2007−36589)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】
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