説明

車両用ブレーキ試験方法及び車両用ブレーキ試験システム

【課題】コンピュータからの指令に遅れが生じた場合でも正常な試験データを得ることができる車両用ブレーキ試験方法及び車両用ブレーキ試験システムを提供することを課題とする。
【解決手段】コンピュータから送信される指令に応じて制御されるダイナモメータ13を利用してブレーキを試験する車両用ブレーキ試験システム1であって、試験パターンに応じて操作盤15に指令を送信するコンピュータ12と、コンピュータ12から送信される加速指令に応じて操作盤15での加速制御によって車輪を加速させるダイナモメータ13と、加速終了後にコンピュータ12から送信される減速指令に応じて操作盤15での減速制御によって車輪を減速させるブレーキとを備え、加速開始から減速終了までダイナモメータ13をONして制御が継続され、減速中にはダイナモメータ13は電気慣性制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータから送信される指令に応じて制御されるダイナモメータを利用してブレーキを試験する車両用ブレーキ試験方法及び車両用ブレーキ試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のブレーキを試験する場合、ダイナモメータが用いられる。シャシダイナモメータの場合、車輪の接地箇所にローラが配置され、ローラを回転駆動して車輪を加速させ、車速(車輪速)を試験パターンの加速条件の設定速度まで上げる。そして、試験パターンの減速条件に応じてブレーキを作動させ、ブレーキ作動時の鳴きの音等を計測し、計測データを解析する。特許文献1に記載のブレーキ試験システムでは、ブレーキOFF時にダイナモメータによる加速を行い、設定速度にした後にブレーキをONして各種計測データを収集する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−48685号公報
【特許文献2】特開平8−145779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のブレーキ試験システムでは、試験パターンに応じてコンピュータからダイナモメータの操作盤に加速や減速の指令が送信され、操作盤からダイナモメータやブレーキを制御している。このような構成の場合、コンピュータの通信タイミング等により、コンピュータから操作盤への指令が遅れる場合がある。その結果、加速のタイミングと減速のタイミングとにずれが生じ、ブレーキ試験に支障が出る。具体的には、操作盤への減速指令が遅れて、加速指令から減速指令への切り替えに少し間があくと、その間はダイナモメータがOFFしてフリーラン状態となり、フリーラン状態のときにブレーキがONすると急減速となる。このように急減速になると、試験パターンの減速条件ではそのような急減速が設定されないので、異常なブレーキ試験となり、正常な試験データが得られない。例えば、計測データとして1回のブレーキ毎に計測された鳴き音データを1つのファイルとして作成する場合、ブレーキON時(減速開始時)にファイル作成を開始し、ブレーキ作動時間が所定時間以上(例えば、1秒以上)のブレーキのOFF時(減速終了時)にファイル作成を終了する。したがって、上記のように急減速なるとブレーキ作動時間が極短時間(<所定時間)となり、ブレーキがOFFしてもファイル作成が終了せず、ファイルが次回のブレーキまで継続作成され、正常な試験データが得られない。
【0005】
そこで、本発明は、コンピュータからの指令に遅れが生じた場合でも正常な試験データを得ることができる車両用ブレーキ試験方法及び車両用ブレーキ試験システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両用ブレーキ試験方法は、コンピュータから送信される指令に応じて制御されるダイナモメータを利用してブレーキを試験する車両用ブレーキ試験方法であって、試験パターンに応じてコンピュータから送信される加速指令に応じてダイナモメータによって車輪を加速させる加速ステップと、加速終了後に、試験パターンに応じてコンピュータから送信される減速指令に応じてブレーキによって車輪を減速させる減速ステップとを含み、加速開始から減速終了までダイナモメータをONすることを特徴とする。
【0007】
この車両用ブレーキ試験方法では、ダイナモメータを利用し、コンピュータが試験パターンに応じて指令を送信して制御し、ブレーキ試験を行う。まず、加速ステップでは、コンピュータが試験パターンに応じて加速指令を送信し、その加速指令に応じて加速制御されてダイナモメータが車輪を加速させる。加速終了後、減速ステップでは、コンピュータが試験パターンに応じて減速指令を送信し、その減速指令に応じて減速制御されてブレーキが車輪を減速させる。特に、この車両用ブレーキ試験方法では、加速開始から減速終了までダイナモメータのONを保持させる。このようにダイナモメータのONを保持した場合、試験パターンに応じてダイナモメータによる加速が終了しても、ダイナモメータがONし続け、ダイナモメータでの制御を継続でき、ダイナモメータがフリーラン状態にならない。そのため、試験パターンに対してコンピュータからの減速指令が遅れて送信された場合でも、ダイナモメータでの制御が継続された状態でブレーキがONするので、急減速にならず、所定の減速度で減速する。その結果、ブレーキ作動時間が十分に確保され、正常な試験データを得ることができる。このように、車両用ブレーキ試験方法では、加速開始から減速終了までダイナモメータをONすることにより、コンピュータからの指令に遅れが生じた場合でも正常な試験データを得ることができる。
【0008】
本発明の上記車両用ブレーキ試験方法では、加速開始から減速終了までダイナモメータがONしている間、減速中にダイナモメータは電気慣性制御されると好適である。このように、この車両用ブレーキ試験方法では、加速終了後もダイナモメータの制御が継続して減速中に電気慣性制御が行われることにより、ダイナモメータによって実車状態での慣性力を再現でき、この慣性力の作用によってブレーキがONしても急減速にならない。
【0009】
本発明に係る車両用ブレーキ試験システムは、コンピュータから送信される指令に応じて制御されるダイナモメータを利用してブレーキを試験する車両用ブレーキ試験システムであって、試験パターンに応じて指令を送信するコンピュータと、コンピュータから送信される加速指令に応じて車輪を加速させるダイナモメータと、加速終了後に、コンピュータから送信される減速指令に応じて車輪を減速させるブレーキとを備え、加速開始から減速終了までダイナモメータをONすることを特徴とする。
【0010】
本発明の上記車両用ブレーキ試験システムでは、加速開始から減速終了までダイナモメータがONしている間、減速中にダイナモメータは電気慣性制御されると好適である。
【0011】
この車両用ブレーキ試験システムは、上記の車両用ブレーキ試験方法と同様の作用効果を有している。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加速開始から減速終了までシダイナモメータをONすることにより、コンピュータからの指令に遅れが生じた場合でも正常な試験データを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態に係る車両用ブレーキ試験システムの構成図である。
【図2】図1の車両用ブレーキ試験システムにおける試験時の動作図である。
【図3】従来の車両用ブレーキ試験システムにおける試験時の動作図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係る車両用ブレーキ試験方法及び車両用ブレーキ試験システムの実施の形態を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
本実施の形態では、本発明を、複数台のパーソナルコンピュータ(以下、パソコンと記載)、シャシダイナモメータ設備及び試験対象の車両(外部のブレーキ加圧装置も含む)で構成される車両用ブレーキ試験システムに適用する。本実施の形態に係る車両用ブレーキ試験システムは、作業者によって試験パターンが作成され、自動運転が開始されると、その試験パターンに応じてパソコンから設備に指令を出し、この指令に応じてシャシダイナモメータやブレーキを制御して自動運転で加速/減速を繰り返し、ブレーキの鳴き音を計測する。
【0016】
図1を参照して、本実施の形態に係る車両用ブレーキ試験システム1について説明する。図1は、本実施の形態に係る車両用ブレーキ試験システムの構成図である。
【0017】
車両用ブレーキ試験システム1は、自動運転中、様々な試験パターンの加速条件に応じてシャシダイナモメータによって各車輪を加速し、減速条件に応じてブレーキによって車輪を減速する。そして、車両用ブレーキ試験システム1は、1回のブレーキ毎に、ブレーキ鳴きの音を計測し、計測された鳴きの音データのファイルを作成し、そのファイルのデータを解析し、解析ファイルを作成する。特に、車両用ブレーキ試験システム1は、ファイルの作成異常を抑制するために、加速開始から減速終了までシャシダイナモメータのONを保持して加速終了後も制御を継続し、減速中にシャシダイナモメータの電気慣性制御を実施する。
【0018】
車両用ブレーキ試験システム1は、操作部パソコン10、管理部パソコン11、計測・制御パソコン12、シャシダイナモメータ13、マイク14,14、操作盤15、計測パソコン16,16、鳴き解析・分離パソコン17を備えている。
【0019】
操作部パソコン10は、ブレーキ試験を行う作業者による操作や試験結果確認、様々な車両試験のデータを管理しているサーバとのデータのやり取り等を行うためのパソコンである。作業者によって行う操作としては、ブレーキ試験の様々な運転条件(加速条件、減速条件)からなる試験パターンの作成、ブレーキ試験の自動運転のON/OFF等がある。加速条件としては、例えば、「設定車速まで加速」である。作業者が確認する試験結果としては、試験パターンのブレーキ毎の鳴き音の解析データや解析データのグラフ等がある。操作部パソコン10では、作業者によって、試験パターンが作成され、自動運転がONされると自動運転指令と試験パターンを管理部パソコン11に送信する。また、操作部パソコン10では、管理部パソコン11から解析ファイルや解析用グラフを受信した場合、作業者の操作に応じてそれらの試験結果を画面表示、印刷出力等する。
【0020】
管理部パソコン11は、ブレーキ試験の各種情報の送受信、ブレーキ試験の試験結果を管理等するパソコンである。管理部パソコン11では、操作部パソコン10から自動運転指令と試験パターンを受信すると、その自動運転指令と試験パターンを計測・制御パソコン12に送信する。また、管理部パソコン11では、鳴き解析・分離パソコン17からファイルを受信すると、ファイルのブレーキ鳴きの音データを周波数解析して数値化し、解析ファイルを作成するとともに、その解析データをグラフ化した解析用グラフを作成する。この解析は従来から行われている解析であり、この解析結果を利用することによりブレーキ鳴きの判定やブレーキ鳴きの原因追及が容易になる。
【0021】
なお、管理部パソコン11では、試験パターンのブレーキ試験が全て終了すると、試験パターンに含まれるブレーキ数とファイル数とを比較し、ブレーキ数とファイル数とが一致する場合にはブレーキ試験が正常に行われたと判断し、ブレーキ数とファイル数とが一致しない場合にはブレーキ試験が正常に行われなかったと判断する。ブレーキ試験が正常に行われなかったと判断した場合、ブレーキ試験はやり直しとなる。
【0022】
計測・制御パソコン12は、試験パターンに応じた制御指令、モニタに表示させる項目の設定、モニタで警報監視を行う各種情報の計測等するためのパソコンである。計測・制御パソコン12では、管理部パソコン11から自動運転指令と試験パターンを受信すると、自動運転中信号を操作盤15に送信するとともに、試験パターンに含まれる1回の加速/減速パターン毎に、加速条件(設定車速等)に基づく加速信号を加速開始タイミングから操作盤15に送信し、減速条件に基づく減速信号を加速から減速に切り替わるタイミングから減速終了タイミングまで操作盤15に送信する。加速から減速に切り替わるタイミング(減速開始タイミング)は、操作盤15からシャシダイナモメータ13の回転数の計測データを受信する毎に、回線数から車速を計算し、その車速が設定車速に到達したか否かで判断される。減速終了タイミングは、車速が0km/hになったか否かで判断される。特に、計測・制御パソコン12では、操作盤15から電気慣性ビット信号を受信している場合、車速が設定車速に達しても(加速終了しても)減速終了タイミングまで加速信号を操作盤15に送信し続ける。また、計測・制御パソコン12では、操作盤15からブレーキの温度、トルク及び油圧、シャシダイナモメータ13の回転数等の計測データを受信する毎に、その各種データを監視するためにモニタに表示する。モニタに表示する際に、必要に応じてデータ変換され、例えば、シャシダイナモメータ13の回転数は車速に変換される。
【0023】
なお、パソコンで通信を行う場合、高性能なパソコンでも、通信タイミング等の影響によって、信号送信に遅れが発生するときがある。そのため、計測・制御パソコン12から操作盤15に減速信号を送信するときに、車速が設定車速に到達したと判定してから(加速終了後から)僅かに遅れて(例えば、0.5秒程度遅れて)減速信号が送信されることがある。この場合、加速終了後に一時的に遅れて減速となる。
【0024】
シャシダイナモメータ13は、ダイナモ(モータ)13aにローラ13bが軸結合され、ダイナモ13aの回転駆動力によって各車輪用のローラ13bを回転させ、各ロータ13b上に車両Vの各車輪を載せて評価するための設備である。特に、ブレーキ試験のシャシダイナモメータ13は、設定車速まで車輪を加速し、設定車速のときにブレーキを作動させて減速するという動作を繰り返し行う。このブレーキ作動中に、ブレーキ鳴きの音が計測され、ブレーキ鳴きの音でブレーキ部品の評価が行われる。シャシダイナモメータ13は、操作盤15によってON(作動)/OFF(停止)され、ONしていて場合には操作盤15による制御が可能となる。ON中、シャシダイナモメータ13は、操作盤15によって加速制御され、加速の回転指令に基づいてインバータ(図示せず)でダイナモ13aを制御し、ローラ13bを加速回転する。加速時には、ダイナモ13aのフルパワーで加速する。また、シャシダイナモメータ13は、操作盤15によって車速保持制御され、設定車速保持の回転指令に基づいてインバータでダイナモ13aを制御し、ローラ13bの回転数を保持する。さらに、シャシダイナモメータ13は、操作盤15によって電気慣性制御され、電気慣性指令に基づいてインバータでダイナモ13aを制御し、車両慣性力を再現するための電気慣性力を発生する。また、シャシダイナモメータ13にはローラ13b(あるいは、ダイナモ13a)の回転数を計測するセンサが備えられ、そのセンサで計測された計測データを操作盤15に送信する。
【0025】
マイク14,14は、車両Vの左右両側にそれぞれ配置され、車両Vの側方で集音した音(特に、ブレーキ作動中の音)を電気信号に変換するマイクである。各マイク14では、車両Vの側方で集音し、その音を電気信号に変換して操作盤15に送信する。
【0026】
操作盤15は、PLC[Programmable Logic Controller]が組み込まれ、PLCによってシャシダイナモメータ13及び車両Vのブレーキ(特に、ブレーキ加圧装置)に対する制御、ブレーキ等からの各種計測データの収集等をするための装置である。操作盤15では、計測・制御パソコン12から自動運転中信号を受信すると、自動運転を開始する。そして、操作盤15では、計測・制御パソコン12から加速信号又は減速信号を受信している間はシャシダイナモメータ13をONし、加速信号及び減速信号を受信していない間はシャシダイナモメータ13をOFFする。また、操作盤15では、加速信号を受信すると、加速のための回転指令をシャシダイナモメータ13のインバータに出力し、シャシダイナモメータ13の回転数から計算される車速が加速条件の設定車速に到達すると加速のための回転指令の出力を停止するとともに設定車速を保持するための回転指令をシャシダイナモメータ13のインバータに出力する。この設定車速を保持するための回転指令は、電気慣性指令が出力されると出力されない。また、操作盤15では、減速信号を受信すると、減速信号に含まれる減速条件に応じて必要な油圧を計算し、減速のための油圧指令をブレーキ加圧装置に出力し、車速が0km/hになると油圧指令の出力を停止する。また、操作盤15では、減速中(油圧指令を出力している間)、電気慣性指令をシャシダイナモメータ13のインバータに出力する。また、操作盤15では、自動運転中、電気慣性ビット信号を計測・制御パソコン12に送信する。また、操作盤15では、各マイク14,14から音の電気信号をそれぞれ受信すると、その各電気信号をアンプ15a,15aでそれぞれ増幅し、その増幅した音の電気信号を計測パソコン16,16にそれぞれ送信する。さらに、操作盤15では、ブレーキのONからOFF(減速開始から終了)までの時間情報を計測パソコン16,16にそれぞれ送信する。また、操作盤15では、ブレーキやシャシダイナモメータ13に設けられる各センサで計測されたデータが入力されると、その各センサの計測データを計測・制御パソコン12に送信する。
【0027】
計測パソコン16,16は、左右のマイク14,14に対応し、左右の各側方でそれぞれ集音されたブレーキ鳴きの音(電気信号)を計測するためのパソコンである。各計測パソコン16では、操作盤15から増幅された音の電気信号及びブレーキのONからOFFまでの時間情報を受信すると、その増幅された音の電気信号に基づいてブレーキのONからOFFまでの期間のブレーキ鳴きの音データをファイル化し、そのファイルを鳴き解析・分離パソコン17に送信する。
【0028】
なお、試験パターンの減速条件では所定時間(例えば、1秒)以上のブレーキが必ず設定されるので、ブレーキ試験の仕様として、ブレーキのONからOFF(減速開始から終了)までのブレーキ作動時間が所定時間以上のブレーキを正常なブレーキとしている。そのため、計測パソコン16では、操作盤15から送信される時間情報に基づくブレーキ作動時間が所定時間以上の場合、ブレーキONしたタイミングからファイル作成を開始するとともにブレーキOFFしたタイミングでファイル作成を終了し、ブレーキのONからOFFまでの間に集音された音の電気信号からなるファイルを作成する。この場合、1回分のブレーキで1つのファイルが作成される。また、計測パソコン16では、ブレーキ作動時間が所定時間未満の場合、ブレーキONしたときからファイル作成を開始するが、ブレーキOFF後もファイル作成を継続する。この場合、次回ブレーキでブレーキ作動時間が所定時間以上であると、次回ブレーキのOFFまでファイル作成が継続され、2回分のブレーキで1つのファイルが作成される。
【0029】
鳴き解析・分離パソコン17は、ブレーキ鳴きの音のデータを解析用にデータ処理するためのパソコンである。鳴き解析・分離パソコン17では、各計測パソコン16,16からファイルをそれぞれ受信する毎に、各ファイルから解析に必要なデータだけをそれぞれ取り出してファイル化し、その必要なデータからなる各ファイルを管理部パソコン11にそれぞれ送信する。
【0030】
車両Vは、各車輪にブレーキ(図示せず)が備えられており、各ブレーキが作動(ON)すると各車輪をそれぞれ減速させる。車両Vの外部には各ブレーキの油圧系統に接続されるブレーキ加圧装置が設けれ、このブレーキ加圧装置で油圧を発生させて各ブレーキに供給し、各ブレーキのブレーキパッドを作動させる。ブレーキ加圧装置では、操作盤15からの油圧指令を入力すると、その油圧指令に基づいて油圧を発生する。車両Vの各ブレーキには油圧、温度、トルク等を計測するセンサが備えられ、その各センサで計測した計測データを操作盤15に送信する。
【0031】
上記の構成の車両用ブレーキ試験システム1における試験時の動作を説明する。図2は、図1の車両用ブレーキ試験システムにおける試験時の動作図である。図3は、従来の車両用ブレーキ試験システムにおける試験時の動作図である。
【0032】
ブレーキ試験を行う作業者は、操作部パソコン10により様々な加速条件と減速条件の組み合わせからなる試験パターンを作成する。そして、作業者は、操作部パソコン10により自動運転のON操作を行う。
【0033】
操作部パソコン10では、試験パターンが作成され、自動運転のON操作がされると、自動運転指令と試験パターンを管理部パソコン11に送信する。管理部パソコン11では、自動運転指令と試験パターンを受信すると、自動運転指令と試験パターンを計測・制御パソコン12に送信する。
【0034】
計測・制御パソコン12では、自動運転指令と試験パターンを受信すると、操作盤15に自動運転中信号を送信する。操作盤15では、自動運転中信号を受信すると、自動運転制御を開始する。操作盤15では、自動運転中、電気慣性ビット信号を計測・制御パソコン12に送信する。自動運転中、ブレーキに関する各センサは、一定時間毎に、油圧、温度、トルクを計測し、その計測データを操作盤15に出力している。また、シャシダイナモメータ13に関するセンサは、一定時間毎に、回転数を計測し、操作盤15に送信している。操作盤15では、これらの計測データを入力する毎に、その計測データを計測・制御パソコン12に送信する。
【0035】
計測・制御パソコン12では、試験パターンから1回の加速/減速パターンを順に取り出す。取り出された加速/減速パターン毎に、計測・制御パソコン12では、加速/減速パターンにおける加速開始タイミングで、加速条件に基づく加速信号を操作盤15に送信する。操作盤15では、加速信号を受信すると、シャシダイナモメータ13をONする。さらに、操作盤15では、加速信号に応じて加速の回転指令をシャシダイナモメータ13のインバータに出力する。シャシダイナモメータ13では、加速の回転指令を入力すると、その回転指令に基づいてインバータでダイナモ13aを制御し、フルパワーのダイナモ13aでローラ13bを加速回転する。ローラ13bの加速回転に応じて車両Vの車輪が加速し、やがて加速条件の設定車速になる。
【0036】
計測・制御パソコン12では、操作盤15からシャシダイナモメータ13の回転数を受信する毎に、回転数から車速を計算し、車速が加速条件の設定車速に到達したか否かを判定する。車速が設定車速に到達したと判定した後(すなわち、加速終了後)も、計測・制御パソコン12では、操作盤15から電気慣性ビット信号を受信している場合、加速信号を操作盤15に送信し続ける。したがって、操作盤15では、シャシダイナモメータ13をONし続ける。
【0037】
操作盤15では、シャシダイナモメータ15の回転数を入力する毎に、回転数から車速を計算し、車速が加速条件の設定車速に到達したか否かを判定し、車速が設定車速に到達したと判定した場合には加速の回転指令の出力を停止し、設定車速保持の回転指令をシャシダイナモメータ13のインバータに出力する。ここでは、加速が終了しても、シャシダイナモメータ13をONし続けているので、シャシダイナモメータ13に対する制御を継続させることができる。シャシダイナモメータ13では、設定車速保持の回転指令を入力すると、その回転指令に基づいてインバータでダイナモ13aを制御し、ダイナモ13aでローラ13bの回転を保持する。この場合、ローラ13bの回転速度が保持され、車両Vの車輪の回転速度も保持され、車速が設定車速に保持される。なお、加速の回転指令に連続して電気慣性指令が出力される場合、設定車速保持の回転指令は出力されない。
【0038】
上記の判定で車速が加速条件の設定車速に到達したと判定すると(加速から減速の切り替えタイミングになると)、計測・制御パソコン12では、減速条件に基づく減速信号を操作盤15に送信する。操作盤15では、減速信号を受信すると、減速信号の減速条件に応じて油圧指令をブレーキ加圧装置に出力する。ブレーキ加圧装置では、油圧指令を入力すると、その油圧指令に基づいて油圧を発生する。この油圧によって車両Vの各ブレーキのブレーキパッドが作動し、車輪が減速し、やがて停止する。また、操作盤15では、減速信号を受信すると、電気慣性指令をシャシダイナモメータ13のインバータに出力する。シャシダイナモメータ13では、電気慣性指令を入力すると、電気慣性指令に基づいてインバータでダイナモ13aを制御し、電気慣性力を発生する。車輪には、車両慣性力に相当する電気慣性力が作用する。この際、シャシダイナモメータ13では加速制御から連続して電気慣性制御に移行する場合(正常時)と、加速制御の後に設定車速保持制御が行われてから電気慣性制御に移行する場合(減速信号の送信遅れが発生した場合)がある。このいずれの場合も、シャシダイナモメータ13が制御されているので、ブレーキが作動したときに、急減速になることはない。
【0039】
計測・制御パソコン12では、車速が0km/hになったか否かを判定し、車速が0km/hになった場合には加速信号及び減速信号の送信を停止する。また、操作盤15では、車速が0km/hになったか否かを判定し、車速が0km/hになった場合(あるいは、減速信号の受信が停止した場合)には油圧指令及び電気慣性指令の出力を停止するとともにシャシダイナモメータ13をOFFする。ここで、1回分の加速/減速パターンのシャシダイナモメータ13及びブレーキに対する制御が終了する。計測・制御パソコン12では、試験パターンに含まれる全ての加速/減速パターンが終了した場合にはブレーキ試験の制御を終了し、試験パターンに含まれる全ての加速/減速パターンが終了していない場合には次の加速/減速パターンの制御に移る。
【0040】
各マイク14では、車両Vの側方で集音し、その音を電気信号に変換して操作盤15に送信する。操作盤15では、音の電気信号をそれぞれ受信すると、その各電気信号をアンプ15a,15aでそれぞれ増幅し、その増幅された音の電気信号を計測パソコン16,16にそれぞれ送信する。また、操作盤15では、ブレーキのONからOFFまでの時間情報を計測パソコン16,16にそれぞれ送信する。各計測パソコン16では、ブレーキONしたタイミングからファイル作成を開始し、ブレーキ作動時間が所定時間以上の場合にはブレーキOFFしたタイミングでファイル作成を終了し、ブレーキのONからOFFまでに集音された音の電気信号データからなるファイルを作成し、ブレーキ作動時間が所定時間未満の場合にはブレーキOFF後もファイル作成を継続する。そして、各計測パソコン16では、ファイル作成が終了すると、そのファイルを鳴き解析・分離パソコン17に送信する。鳴き解析・分離パソコン17では、その各ファイルを受信すると、各ファイルから解析に必要なデータを取り出し、その取り出したデータからなる各ファイルを管理部パソコン11に送信する。管理部パソコン11では、その各ファイルを受信すると、ブレーキ鳴きの音データを周波数解析して数値化し、解析ファイルや解析用グラフを作成し、その解析ファイルや解析用グラフを操作部パソコン10に送信する。作業者は、操作部パソコン10によって、1回のブレーキ毎にブレーキ鳴きの音の解析データを確認できる。
【0041】
図2には、車両用ブレーキ試験システムで、ある試験パターンでブレーキ試験を行った場合の車速、減速指令のON/OFF、加速指令のON/OFF、ファイル作成のON/OFFの時間変化の一例を示している。この例では、1回目の加速/減速パターンのときに、加速から減速への切り替え時に計測・制御パソコン12から操作盤15への減速信号の送信に遅れが発生した(減速指令のONに遅れ)。そのため、車速が加速条件の設定車速EVになった後、直ちにブレーキがONしない。しかし、この間も、計測・制御パソコン12では操作盤15に加速信号を送信し続けているので(加速指令のONが継続)、シャシダイナモメータ13はONし続けて制御が継続され、車速が設定車速EVに保持されている。そのため、加速終了後から遅れて操作盤15へ減速信号が送信され(減速指令がONし)、ブレーキがONしても、シャシダイナモメータ13で車速保持制御から連続して電気慣性制御が行われるので、シャシダイナモメータ13による電気慣性力の作用により所定の減速度で減速している。その結果、ブレーキのONからOFFまでの時間が、ある程度長くなり、所定時間以上となる。この場合、1回目のブレーキのOFFでファイル作成が終了し、1回目のブレーキのONからOFFまでの期間でファイルが作成され、1回のブレーキに対して1つのファイルが作成される。
【0042】
図3には、従来の車両用ブレーキ試験システムで、図2と同じ試験パターンでブレーキ試験を行った場合の車速、減速指令のON/OFF、加速指令のON/OFF、ファイル作成のON/OFFの時間変化の一例を示している。図2の例と同様に、加速から減速への切り替え時に操作盤への減速信号の送信が遅れたので(減速指令のONに遅れ)、加速条件の設定車速EVになった後に直ちにブレーキがONしない。従来の車両用ブレーキ試験システムでは、車速が加速条件の設定車速EVになってからある程度の安定時間を保った後にパソコンから操作盤への加速信号の送信を停止する(加速指令がOFFする)。そのため、加速指令がOFFしてから減速指令がONするまで少し間があくので(図中の斜線で示す区間)、その間、シャシダイナモメータはOFFして制御が停止し、フリーラン状態となり、車速が設定車速EVから僅かに低下してゆく。そのため、加速終了後から遅れて操作盤へ減速信号が送信され(減速指令がONし)、ブレーキがONすると、慣性力が無い状態でブレーキの制動力がそのままローラに伝わり、急減速する。その結果、ブレーキのONからOFFまでの時間が、非常に短くなり、所定時間未満となる。この場合、1回目のブレーキがOFFしてもファイル作成が継続され、2回目のブレーキのOFFでファイル作成が終了し、1回目のブレーキのONから2回目のブレーキのOFFまでの期間でファイルが作成され、2回のブレーキに対して1つのファイルが作成される。
【0043】
この車両用ブレーキ試験システム1によれば、自動運転中に加速開始から減速終了までシャシダイナモメータ13のONを保持して制御が継続され、減速中にはシャシダイナモメータ13が電気慣性制御されるので、計測・制御パソコン12から操作盤15への減速信号の送信が遅れた場合でも、急減速することなく、所定の減速度での減速となり、減速時間を十分に確保できる。その結果、ファイル作成が正常に終了し、1回のブレーキで1つのファイルを作成でき、ファイル作成異常を抑制(防止)できる。そのため、ブレーキ数とファイル数とが一致しないことによる試験のやり直しが無くなる。
【0044】
車両用ブレーキ試験システム1では、加速終了後も計測・制御パソコン12から操作盤15に加速信号を送信し続けることにより、加速終了後もシャシダイナモメータ13のONを保持でき、加速制御から連続して制御(車速保持制御、電気慣性制御)を継続できる。また、車両用ブレーキ試験システム1では、操作盤15から計測・制御パソコン12に電気慣性ビット信号を送信することにより、計測・制御パソコン12で加速終了後も加速信号を送信し続けことができる。
【0045】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0046】
例えば、本実施の形態では複数のパソコン、シャシダイナモメータ設備、車両(ブレーキ加圧装置も含む)からなる車両用ブレーキ試験システムの構成の一例を示したが、車両用ブレーキ試験システムの構成については他の構成でもよい。また、本実施の形態ではローラで車輪を回転させるタイプのシャシダイナモメータに適用したが、ブレーキ部品に直結するタイプ等の他のタイプのダイナモメータにも適用可能である。また、本実施の形態では鳴き音のブレーキ試験に適用したが、他のブレーキ試験にも適用可能である。
【0047】
また、本実施の形態では加速開始から減速終了までダイナモメータのONを保持するために、加速終了後も減速終了するまでパソコンから操作盤に加速信号を送信する構成としたが、加速開始から減速終了までダイナモメータのONを保持するための方法としては他の方法でもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…車両用ブレーキ試験システム、10…操作部パソコン、11…管理部パソコン、12…計測・制御パソコン、13…シャシダイナモメータ、13a…ダイナモ、13b…ローラ、14…マイク、15…操作盤、15a…アンプ、16…計測パソコン、17…鳴き解析・分離パソコン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータから送信される指令に応じて制御されるダイナモメータを利用してブレーキを試験する車両用ブレーキ試験方法であって、
試験パターンに応じてコンピュータから送信される加速指令に応じてダイナモメータによって車輪を加速させる加速ステップと、
加速終了後に、試験パターンに応じてコンピュータから送信される減速指令に応じてブレーキによって車輪を減速させる減速ステップと、
を含み、
加速開始から減速終了まで前記ダイナモメータをONすることを特徴とする車両用ブレーキ試験方法。
【請求項2】
加速開始から減速終了まで前記ダイナモメータがONしている間、減速中に前記ダイナモメータは電気慣性制御されることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ試験方法。
【請求項3】
コンピュータから送信される指令に応じて制御されるダイナモメータを利用してブレーキを試験する車両用ブレーキ試験システムであって、
試験パターンに応じて指令を送信するコンピュータと、
前記コンピュータから送信される加速指令に応じて車輪を加速させるダイナモメータと、
加速終了後に、前記コンピュータから送信される減速指令に応じて車輪を減速させるブレーキと、
を備え、
加速開始から減速終了まで前記ダイナモメータをONすることを特徴とする車両用ブレーキ試験システム。
【請求項4】
加速開始から減速終了まで前記ダイナモメータがONしている間、減速中に前記ダイナモメータは電気慣性制御されることを特徴とする請求項3に記載の車両用ブレーキ試験システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−83529(P2013−83529A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223105(P2011−223105)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)