説明

車両用ヘッドランプ

【課題】実際の交通環境における周囲の歩行者や障害物等に対する視認性(気づき)を向上させることが可能な車両用ヘッドランプを提供する。
【解決手段】予め定められた白色範囲の光を照射するように構成された車両用ヘッドランプにおいて、色温度が4500〜7000[K]又は5000〜6000[K]、かつ、4色(赤・緑・青・黄)の見え方の予測を表す4つの座標値が、CIE1976L*a*b*空間に対応するa−b座標系上の座標値R(41.7,20.9), G(-39.5,14.3), B(8.8,-29.9), Y(-10.4,74.2)を中心とする半径5の円範囲に含まれる光源を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ヘッドランプに係り、特に実際の交通環境における周囲の歩行者や障害物等に対する視認性(気づき)を向上させることが可能な車両用ヘッドランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘッドランプの分野においては、夜間でも昼間と同様に走行できるように明るさの向上が求められており、この要求に応えるためにハロゲンランプやHIDランプ等の高光束光源を採用し光学系を改良する等、明るさの向上を指向して様々なヘッドランプが提案されている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−59162号公報
【特許文献2】特開平11−273407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、網膜中央部に密集し明るい場所で視野中央部の色をとらえる錐体、網膜周辺部に分布し暗い場所で機能する桿体、中心視、周辺視、等色関数、比視感度曲線等に基づく視覚特性を考慮すると(図56〜図59参照)、実際の交通環境における周囲の歩行者や障害物等に対する視認性(気づき)はこれらの視覚特性の影響を受けるはずであり、より大きな電力を投入してヘッドランプを単純に明るくすることは、環境問題に注目している社会動向と逆行するとともに、より効率よく周囲の歩行者や障害物等に対する視認性(気づき)を早め、安全性を向上させるということにも逆行するという問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、実際の交通環境における周囲の歩行者や障害物等に対する視認性(気づき)を向上させることが可能な車両用ヘッドランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、予め定められた白色範囲の光を照射するように構成された車両用ヘッドランプにおいて、色温度が4500〜7000[K]又は5000〜6000[K]、かつ、4色(赤・緑・青・黄)の見え方の予測を表す4つの座標値が、CIE1976L*a*b*空間に対応するa−b座標系上の座標値R(41.7,20.9), G(-39.5,14.3), B(8.8,-29.9), Y(-10.4,74.2)を中心とする半径5の円範囲に含まれる光源を含むことを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の条件は本出願の発明者が行った実験の結果、見出したものであり、請求項1に記載の発明によれば、実際の交通環境(特に交差点右折時の場面)における周囲の歩行者や障害物等に対する視認性(気づき)を向上させることが可能となる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記白色範囲は、xy色度座標上の座標値(0.31,0.28), (0.44,0.38), (0.50,0.38),(0.50,0.44), (0.455,0.44), (0.31,0.35)を結ぶ直線で囲まれた色度範囲であることを特徴とする。
【0009】
請求項2は、法規によって規定されたヘッドランプの白色範囲を特定したものである。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記白色範囲は、xy色度座標上の座標値(0.323,0.352), (0.325,0.316), (0.343,0.331), (0.368,0.379)を結ぶ直線で囲まれた色度範囲であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の条件は本出願の発明者が行った実験の結果、見出したものであり、請求項3に記載の発明によれば、実際の交通環境(特に交差点右折時の場面)における周囲の歩行者や障害物等に対する視認性(気づき)を向上させることが可能となる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の発明において、前記光源がLED光源であることを特徴とする。
【0013】
請求項4は、光源がLED光源であることを特定したものである。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記LED光源は、青色又は紫外発光LED素子と波長変換材料とを含む白色LED光源であることを特徴とする。
【0015】
請求項5は、LED光源が青色又は紫外発光LED素子と波長変換材料とを含む白色LED光源であることを特定したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、実際の交通環境における周囲の歩行者や障害物等に対する視認性(気づき)を向上させることが可能な車両用ヘッドランプを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】法規によって規定されたヘッドランプの白色範囲A1を説明するための図である。
【図2】ヘッドランプの光として好まれる白色範囲を明らかにするための実験1に用いた装置構成を説明するための図である。
【図3】(a)実験1の測定結果(グループ1)をxy色度座標上にプロットした図、(b)(a)実験1の測定結果(グループ2)をxy色度座標上にプロットした図である。
【図4】(a)実験1の測定結果(グループ1)をxy色度座標上にプロットした図、(b)(a)実験1の測定結果(グループ2)をxy色度座標上にプロットした図である。
【図5】(a)実験1の測定結果(グループ1)をxy色度座標上にプロットした図、(b)(a)実験1の測定結果(グループ2)をxy色度座標上にプロットした図である。
【図6】(a)実験1の測定結果(グループ1)をxy色度座標上にプロットした図、(b)(a)実験1の測定結果(グループ2)をxy色度座標上にプロットした図である。
【図7】実験1の測定結果(グループ1)から明らかとなったヘッドランプの光として許容されるおおよその範囲を説明するための図、(b)実験1の測定結果(グループ2)から明らかとなったヘッドランプの光として許容されるおおよその範囲を説明するための図である。
【図8】図7(a)(b)から明らかとなったヘッドランプの光として好まれる白色範囲A2を説明するための図である。
【図9】実際の交通環境(特に交差点右折時の場面)においては、運転者は中心視で対向車両V1を視認しつつ、周囲の歩行者や障害物等を周辺視で認識していることを説明するための図である。
【図10】周辺視による視認性(気づき)を向上させることが可能な白色範囲(ヘッドランプとしての光色の色度範囲)を明らかにするための実験2に用いた装置構成を説明するための図である。
【図11】実験2等に用いた光源の相関色度等を説明するための図である。
【図12】実験2により測定した反応時間と呈示位置との関係を、光源ごとにプロットしたグラフである。
【図13】(a)反応時間等に基づいて各光源を評価した表、(b)各光源と評価点数との関係を表すグラフである。
【図14】実験2により測定した反応時間に基づき演算した見逃し率(呈示光に気づくのに2秒以上経過した割合)と呈示位置との関係を、光源ごとにプロットしたグラフである。
【図15】反応数割合の概念を説明するための図である。
【図16】実験2に用いた光源(輝度:1cd/m)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。
【図17】実験2に用いた光源(輝度:0.1cd/m)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。
【図18】実験2に用いた光源(輝度:0.01cd/m)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。
【図19】図16〜図18に示したグラフを平均したグラフである。
【図20】白色光に対する気づきに関し、色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上していることを説明するためのグラフである。
【図21】白色以外の色に対し周辺視による視認性(気づき)に相違があるか否かを明らかにするための実験3に用いた装置構成を説明するための図である。
【図22】実験3に用いた光源の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。
【図23】実験3に用いた光源の色材に対する平均反応時間の逆数を、縦軸の+側がYellow、−側がBlue、横軸の+側がRed、−側がGreenである座標系にプロットしたグラフである。
【図24】図23に示した4つのグラフを平均したグラフである。
【図25】各光源と評価点数との関係を表すグラフである。
【図26】暗所視の状態(薄明視の状態も同様)では明所視の状態に比べて特定波長(450〜550nm)に対する感度が高くなるという事実を説明するためのグラフである。
【図27】色温度の高い光源ほど放射エネルギー成分割合が高くなる傾向があるという事実を説明するための図である。
【図28】周辺視による視認性(気づき)を向上させることが可能な白色範囲A3(ヘッドランプとしての光色の色度範囲)を説明するための図である。
【図29】TH、HIDよりも気づき時間が短いのは色温度が5000[K]以上のLEDであることを説明するための図である。
【図30】実験2、実験3によっては気づきとの関係が明らかになっていない領域等を説明するための図である。
【図31】追加実験により測定した反応時間に基づき演算した見逃し率(呈示光に気づくのに2秒以上経過した割合)と呈示位置との関係を、光源ごとにプロットしたグラフである。
【図32】追加実験に用いた光源(輝度:1cd/m)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。
【図33】追加実験に用いた光源(輝度:0.1cd/m)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。
【図34】追加実験に用いた光源(輝度:0.01cd/m)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。
【図35】図32〜図34に示したグラフを平均したグラフである。
【図36】周辺視による視認性(気づき)を向上させることが可能な白色範囲(ヘッドランプとしての光色の色度範囲)を説明するための図である。
【図37】TH・HID・LED(T9)それぞれのスペクトルに基づき公知の式を用いることで算出されたTH・HID・LED(T9)ごとの4色(赤・緑・青・黄)の見え方の予測を表す4つの座標値を、CIE1976L*a*b*空間に対応するa−b座標系(aが赤方向、−aが緑方向、bが黄方向、−bが青方向を表す)にプロットしたグラフである。
【図38】LED(T9)以外の他のLED(T6、T7等)は、4つの座標値がLED(T9)の4つの座標値R(41.7,20.9), G(-39.5,14.3), B(8.8,-29.9), Y(-10.4,74.2)を中心とする半径5の円範囲内に含まれていることを説明する図である。
【図39】本実施形態のヘッドランプ100の配置等を説明するための図である。
【図40】左側に配置されたヘッドランプ100の拡大図である。
【図41】左側に配置されたヘッドランプ100により鉛直スクリーン上に形成される配光パターンの例である。
【図42】放射エネルギー成分割合の高い光源は輝度が低くなっても反応時間の低下具合が少ないことを説明するための図である。
【図43】放射エネルギー成分割合の高い光源は輝度が低くなっても反応時間の低下具合が少ないことを説明するための図である。
【図44】放射エネルギー成分割合の高い光源は輝度が低くなっても反応時間の低下具合が少ないことを説明するための図である。
【図45】放射エネルギー成分割合の高い光源は輝度が低くなっても反応時間の低下具合が少ないことを説明するための図である。
【図46】本実施形態のヘッドランプ100により鉛直スクリーン上に形成された配光パターン(光度分布)である。
【図47】従来例1のヘッドランプにより鉛直スクリーン上に形成された配光パターン(光度分布)である。
【図48】本実施形態のヘッドランプ100により路上に形成された路面配光パターン(等照度分布)である。
【図49】従来例1のヘッドランプにより路上に形成された路面配光パターン(等照度分布)である。
【図50】従来例2のヘッドランプにより路上に形成された路面配光パターン(等照度分布)である。
【図51】走りやすさの評価結果をまとめたグラフである。
【図52】色標C1の配置箇所を説明するための図である。
【図53】走行時の色の見えやすさの評価結果をまとめたグラフである。
【図54】(a)色標C2等の配置箇所を説明するための図、(b)色標C2等の配置箇所を説明するための表である。
【図55】交差点右折時の場面における色の見えやすさの評価結果をまとめたグラフである。
【図56】錐体、桿体、中心視、周辺視等に基づく視覚特性を説明するための図である。
【図57】錐体、桿体、中心視、周辺視等に基づく視覚特性を説明するための図である。
【図58】錐体、桿体、中心視、周辺視等に基づく視覚特性を説明するための図である。
【図59】錐体、桿体、中心視、周辺視等に基づく視覚特性を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実際の交通環境(特に交差点右折時の場面)における周囲の歩行者や障害物等に対する視認性(気づき)を向上させるための条件を明らかにする。
【0019】
[ヘッドランプの光として好まれる白色範囲]
ヘッドランプの白色範囲A1(ヘッドランプとしての光色の色度範囲)は法規によって規定されている(図1参照)。しかし、法規によって規定されたヘッドランプの白色範囲A1(xy色度座標上の座標値(0.31,0.28), (0.44,0.38), (0.50,0.38), (0.50,0.44), (0.455,0.44), (0.31,0.35)を結ぶ直線で囲まれた色度範囲)はヘッドランプの光として好まれるかどうかとは無関係に定められたものであり、当該白色範囲A1の全範囲がヘッドランプの光として好まれるとは限らない。そこで、本出願の発明者は、法規によって規定された白色範囲A1のうちヘッドランプの光として好まれる白色範囲を明らかにすべく、次の実験を行った。
【0020】
[実験1]
実験環境:RGB(赤・緑・青)のLEDとLEDから放射される光を拡散する拡散ボードとを内部に配置した暗室を用いた(図2参照)。被験者は、グループ1の3名、グループ2の3名の合計6名である。
【0021】
実験手順:LEDを制御し、拡散ボードを照明する光源色を図3(a)(b)〜図6(a)(b)に示す矢印の方向に徐々に変化させ、暗室の開口を介して呈示される刺激光が被験者の好みの白色範囲に入った時点で押しボタンを押してもらい、その押しボタンを押した時点での色度を測定した。
【0022】
以上の測定結果をxy色度座標上にプロットして(図3(a)(b)〜図6(a)(b)参照)検討した結果、ヘッドランプの光として許容されるおおよその範囲が明らかとなり(図7(a)、図7(b)参照)、ヘッドランプの光として好まれる白色範囲(ヘッドランプとしての光色の色度範囲)が図8に示す色度座標上の座標値P1〜P4で囲まれた色度範囲A2であることが明らかとなった。
【0023】
[周辺視による視認性(気づき)を向上させることが可能な白色範囲]
実際の交通環境(特に交差点右折時の場面)においては、図9に示すように、一般に、運転者は中心視で対向車両V1を視認しつつ、周囲の歩行者や障害物等を周辺視で認識していると考えられる。
【0024】
本出願の発明者は、上記明らかにしたヘッドランプの光として好まれる白色範囲A2のうち周辺視による視認性(気づき)を向上させることが可能な白色範囲(ヘッドランプとしての光色の色度範囲)を明らかにすべく、次の実験を行った。
【0025】
[実験2]
実験環境:図10に示す構成の装置を用い、呈示光の光源として図11に示すように相関色温度の異なる複数の光源(T1〜T11、TH、HID)を用いた。T1〜T11はLED、THはハロゲンランプ、HIDはHIDランプを表している。被験者は18名である。
【0026】
実験手順:正面2mの位置に設置されたディスプレイ(平仮名が表示されている)を被験者が注視している間、正面に対し左(又は右)30°、45°、60°、75°の位置(角度位置)に一定輝度(1、0.1cd/m)に調整した光源(T1〜T11、TH、HID)が照射しているグレーの色材を順次呈示し、光源、呈示位置ごとに、被験者が呈示光(グレーの色材からの反射光)を視認する(気づく)までの時間(反応時間)を測定した。
【0027】
[光源、呈示位置ごとの反応時間]
図12は、上記実験2により測定した反応時間と呈示位置との関係を、光源ごとにプロットしたグラフである。図13(a)(「反応時間」の欄)は、反応時間に基づいて各光源を評価した表である。反応時間が短い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上しているといえるため、反応時間が短い光源ほど高い評価点数を割り当てた。
【0028】
図12、図13(a)(「反応時間」の欄)を参照すると、色温度の高い光源ほど反応時間が短い(評価点数が高い)傾向があること、すなわち、白色光に対する気づきに関し、色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる。
【0029】
[見逃し率]
図14は、上記実験2により測定した反応時間に基づき演算した見逃し率(呈示光に気づくのに2秒以上経過した割合)と呈示位置との関係を、光源ごとにプロットしたグラフである。図13(a)(「見逃し率」の欄)は、見逃し率に基づいて各光源を評価した表である。見逃し率が小さい光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上しているといえるため、見逃し率が小さい光源ほど高い評価点数を割り当てた。
【0030】
図14、図13(a)(「見逃し率」の欄)を参照すると、色温度の高い光源ほど見逃し率が小さい(評価点数が高い)傾向があること、すなわち、白色光に対する気づきに関し、色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる。
【0031】
[反応数割合]
図15は、反応数割合の概念を説明するための図である。反応数割合とは、(ある時間までの反応数)/(全反応数の内、反応時間が2秒以下のデータの個数)のことである。被験者のうち半分の人が気づいた時間をその光源に対する反応時間として評価した。なお、2秒以上の反応時間については見逃したと定義した。
【0032】
図16は、上記実験2に用いた光源(輝度:1cd/m)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。
【0033】
図16を参照すると、反応数割合が0.5に到達する順序は、T10⇒T8⇒T5⇒T3⇒T7⇒T9⇒T6⇒HID⇒T11⇒T2⇒T1⇒TH⇒T4の順であり、このことからみて、色温度の高い光源ほど反応数割合0.5に到達するまでの反応時間が短い傾向があること、すなわち、白色光に対する気づきに関し、色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる。
【0034】
図17は、上記実験2に用いた光源(輝度:0.1cd/m)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。
【0035】
図17を参照すると、反応数割合が0.5に到達する順序は、T8⇒T5⇒T7⇒HID⇒T9⇒T6⇒T11⇒T1⇒T10⇒T3⇒T4⇒T2⇒THの順であり、このことからみて、色温度の高い光源ほど反応数割合0.5に到達するまでの反応時間が短い傾向があること、すなわち、白色光に対する気づきに関し、色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる。
【0036】
図18は、上記実験2に用いた光源(輝度:0.01cd/m)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。
【0037】
図18を参照すると、反応数割合が0.5に到達する順序は、T5⇒T8⇒T9⇒HID⇒T11⇒T10⇒T6⇒T2⇒T7⇒T3⇒T1⇒T3⇒THの順であり、このことからみて、色温度の高い光源ほど反応数割合0.5に到達するまでの反応時間が短い傾向があること、すなわち、白色光に対する気づきに関し、色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる。
【0038】
図19は、図16〜図18に示したグラフを平均したグラフである。図13(a)(「反応数割合」の欄)は、反応数割合0.5に到達するまでの反応時間に基づいて各光源を評価した表である。反応数割合0.5に到達するまでの反応時間が短い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上しているといえるため、反応数割合0.5に到達するまでの反応時間が短い光源ほど高い評価点数を割り当てた。
【0039】
図19、図13(a)(「反応数割合」の欄)を参照すると、反応数割合が0.5に到達する順序は、T8⇒T5⇒HID⇒T9⇒T10⇒T7⇒T11⇒T6⇒T2⇒T1⇒T3⇒T4⇒THの順であり、このことからみて、色温度の高い光源ほど反応数割合0.5に到達するまでの反応時間が短い傾向があること、すなわち、白色光に対する気づきに関し、色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる。
【0040】
以上のように点数付けした反応時間、反応数割合、見逃し率の合計点(図13(a)、図13(b)参照)に基づいて各光源を総合評価すると、白色光に対する気づきに関し、色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる(図20参照)。
【0041】
[色材への気づき]
実際の交通環境においては、ヘッドランプから照射され反射されるのは白色光だけではない。本出願の発明者は、白色以外の色に対し周辺視による視認性(気づき)に相違があるか否かを明らかにすべく、次の実験を行った。
【0042】
[実験3]
実験環境:図21に示す構成の装置を用い、呈示光の光源として図11に示すように相関色温度の異なる複数の光源(T5、T6、T7、T9、TH、HID)を用いた。T5、T6、T7、T9はLED、THはハロゲンランプ、HIDはHIDランプを表している。被験者は18名である。
【0043】
実験手順:正面2mの位置に設置されたディスプレイ(平仮名が表示されている)を被験者が注視している間、正面に対し左(又は右)30°、45°、60°、75°の位置(角度位置)に一定輝度に調整した光源(T5、T6、T7、T9、TH、HID)が照射している色材(赤・緑・青・黄)を順次呈示し、光源、呈示位置、色材ごとに、被験者が呈示光を視認する(気づく)までの時間(反応時間)を測定した。
【0044】
図22は、上記実験3に用いた光源の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。
【0045】
図22を参照すると、色材に対する気づきに関し、反応数割合0.5に到達するまでの反応時間が短い光源はLED(T9)であることが分かる。
【0046】
図23は、上記実験3に用いた光源の色材に対する平均反応時間の逆数を、縦軸の+側がYellow、−側がBlue、横軸の+側がRed、−側がGreenである座標系にプロットしたグラフである。各座標値を結んだひし形が大きい光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上していることを表している。
【0047】
図24は、図23に示した4つのグラフを平均したグラフである。図24を参照すると、LEDは、TH、HIDと比べて各座標値を結んだひし形が大きいこと、すなわち、色(色材)に対する気づきに関し、TH、HIDよりも周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる。
【0048】
上記実験2、実験3の結果を総合すると、白色光、色(色材)に対する気づきに関し、色温度の高い光源ほど評価点数が高い傾向があり、周辺視による視認性(気づき)が向上していることが分かる(図25参照)。このことは、暗所視の状態(薄明視の状態も同様)では明所視の状態に比べて特定波長(450〜550nm)に対する感度が高いという事実(図26参照)、色温度の高い光源ほど放射エネルギー成分割合(放射エネルギー成分割合の定義については図26参照)が高い傾向があるという事実(図27参照)と整合している。
【0049】
以上を総合すると、白色光、色(色材)に対する気づきに関し、周辺視による視認性(気づき)を向上させることが可能な白色範囲(ヘッドランプとしての光色の色度範囲)が図28に示すxy色度座標上の座標値P1、P2、P5、P6で囲まれた色度範囲A3であることが分かる。
【0050】
この色度範囲A3(図28参照)、上記明らかにした事実(色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上すること。図13(a)、図13(b)参照)、さらに、TH、HIDよりも気づき時間が短いのは色温度が5000[K]以上のLEDであること(図29参照)を考慮すると、周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件の一つが、色温度が5000〜6000[K]であることが分かる。
【0051】
本出願の発明者は、上記明らかにしたヘッドランプの光として好まれる白色範囲A2のうち上記実験2、実験3によっては気づきとの関係が明らかになっていない領域(図30参照)が、周辺視による視認性(気づき)を向上させることが可能か否かを明らかにすべく、次の追加実験を行った。
【0052】
[追加実験]
実験環境:図10に示す構成の装置を用い、呈示光の光源として図11に示すように相関色温度の異なる複数の光源(T1〜T11、TH、HID)、さらに、図30に示す相関色温度のLED(T15、T17)を用いた。T1〜T11、T15、T16はLED、THはハロゲンランプ、HIDはHIDランプを表している。被験者は18名である。
【0053】
実験手順:正面2mの位置に設置されたディスプレイ(平仮名が表示されている)を被験者が注視している間、正面に対し左(又は右)30°、45°、60°、75°の位置(角度位置)に一定輝度(1、0.1cd/m)に調整した光源(T1〜T11、T15、T17、TH、HID)を順次呈示し、光源、呈示位置ごとに、被験者が呈示光を視認する(気づく)までの時間(反応時間)を測定した。
【0054】
[光源、呈示位置ごとの反応時間]
上記追加実験により測定した反応時間と呈示位置との関係については実験2(図12参照)と同様であるため、説明を省略する。
【0055】
[見逃し率]
図31は、上記追加実験により測定した反応時間に基づき演算した見逃し率(呈示光に気づくのに2秒以上経過した割合)と呈示位置との関係を、光源ごとにプロットしたグラフである。HIDを基準に反応時間データを補正後、見逃し率を算出した。
【0056】
図31を参照すると、LED(T15)は色温度が低い光源と同程度の見逃し率に相当することが分かる。
【0057】
[反応数割合]
図32は、上記追加実験に用いた光源(輝度:1cd/m)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。HIDを基準に反応時間データを補正後、反応数割合を算出した。
【0058】
図32を参照すると、反応数割合が0.5に到達する順序は、T10→T8→T5=T3=T7=T6=HID=T9=T11=T15→T2→T17→T1→TH→T4の順であることが分かる。
【0059】
図33は、上記追加実験に用いた光源(輝度:0.1cd/m)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。HIDを基準に反応時間データを補正後、反応数割合を算出した。図33を参照すると、反応数割合が0.5に到達する順序は、T8→T7=T5=HID=T15=T6→T11→T9→T1→T10→T3→T17→T4→T2→THの順であることが分かる。
【0060】
図34は、上記追加実験に用いた光源(輝度:0.01cd/m)の反応数割合と反応時間との関係を表すグラフである。HIDを基準に反応時間データを補正後、反応数割合を算出した。図34を参照すると、反応数割合が0.5に到達する順序は、T5→T8=T9=HID=T11=T15=T10→T6→T2→T7→T4→T1→T17→T3→THの順であることが分かる。
【0061】
図35は、図32〜図34に示したグラフを平均したグラフである。図35を参照すると、反応数割合が0.5に到達する順序は、T5→T8→T9=HID=T10=T7=T11=T6=T15→T2→T1→T3→T4→T17→THの順であること、すなわち、H15の反応時間はHIDとほぼ同等であることが分かる。
【0062】
上記追加実験の結果、LED(T15)の反応時間は色温度が高い光源と同等であること、LED(T17)の反応時間は色温度が低い光源と同様の振る舞いをすることが明らかとなった。
【0063】
上記実験1〜実験3、追加実験の結果を総合すると、周辺視による視認性(気づき)を向上させることが可能な白色範囲(ヘッドランプとしての光色の色度範囲)が図36に示すxy色度座標上の座標値(0.323,0.352), (0.325,0.316), (0.343,0.331), (0.368,0.379)を結ぶ直線で囲まれた色度範囲A4であることが分かる。
【0064】
この色度範囲A4(図36参照)、上記明らかにした事実(色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上すること。図13(a)、図13(b)参照)を考慮すると、周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件の一つが、色温度が4500〜7000[K]であることが分かる。
【0065】
[色の見え予測]
同じ色であっても、光源が異なると見え方が異なる。これは、一般に、光源の分光分布が変化することと光源色が変化すると目がそれに慣れること(順応)に起因するとの説明がなされている。色の見え方については完全にではないが公知の式を用いることで一応予測することが可能である。
【0066】
図37は、TH・HID・LED(T9)それぞれのスペクトルに基づき公知の式を用いることで算出されたTH・HID・LED(T9)ごとの4色(赤・緑・青・黄)の見え方の予測を表す4つの座標値を、CIE1976L*a*b*空間に対応するa−b座標系(aが赤方向、−aが緑方向、bが黄方向、−bが青方向を表す)にプロットしたグラフである。これは、TH・HID・LED(T9)ごとの色の見え方についての予測を表している。図37中、各座標値が100に近いほど(すなわち、4つの座標値を結んだひし形が大きい光源ほど)、色(色票)の見え方が基準光源(太陽光、色温度:6500[K])の照明下での見え方に近づくこと(すなわち、色をより忠実に再現できること)を表している。
【0067】
図37を参照すると、LED(T9)は、TH、HIDと比べて4つの座標値R(41.7,20.9), G(-39.5,14.3), B(8.8,-29.9), Y(-10.4,74.2)を結んだひし形が大きいこと、すなわち、LED(T9)の照明下での色(色票)の見え方がTH、HIDと比べて標準光源の照明下での色(色表)の見え方により近いこと(すなわち、色をより忠実に再現できること)が分かる。
【0068】
図38を参照すると、LED(T9)以外の他のLED(T6、T7等)は、4つの座標値がLED(T9)の4つの座標値R(41.7,20.9), G(-39.5,14.3), B(8.8,-29.9), Y(-10.4,74.2)を中心とする半径5の円範囲内に含まれており、LED(T9)と同様、TH、HIDと比べて4つの座標値を結んだひし形が大きいこと、すなわち、LED(T9)以外の他のLED(T6、T7等)の照明下での色(色表)の見え方もTH、HIDと比べて標準光源の照明下での色(色表)の見え方により近いこと(すなわち、色をより忠実に再現できること)が分かる。
【0069】
以上を総合すると、4色(赤・緑・青・黄)の見え方の予測を表す4つの座標値が、CIE1976L*a*b*空間に対応するa−b座標系上の座標値R(41.7,20.9), G(-39.5,14.3), B(8.8,-29.9), Y(-10.4,74.2)を中心とする半径5の円範囲に含まれるLED光源を用いることが、色をより忠実に再現するための条件であることが分かる。
【0070】
そして、この条件は、周辺視による視認性(気づき)を向上させることが可能な白色範囲が色度範囲A3(又は色度範囲A4)であること、上記明らかにした事実(色温度の高い光源ほど周辺視による視認性(気づき)が向上すること。図13(a)、図13(b)参照)を考慮すると、周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件の一つであるともいえることが分かる。
【0071】
以上を総合すると、周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件は、色温度が4500〜7000[K](好ましくは5000〜6000[K])、かつ、4色(赤・緑・青・黄)の見え方の予測を表す4つの座標値が、CIE1976L*a*b*空間に対応するa−b座標系上の座標値R(41.7,20.9), G(-39.5,14.3), B(8.8,-29.9), Y(-10.4,74.2)を中心とする半径5の円範囲に含まれるLED光源(又はこれに相当する光源)を用いること、であることが分かる。さらに好ましくは、ヘッドランプとしての光色が、xy色度座標上の座標値(0.323,0.352), (0.325,0.316), (0.343,0.331), (0.368,0.379)を結ぶ直線で囲まれた色度範囲A4(図36参照)であることが分かる。
【0072】
これらの条件を満たす光源としては、例えば、図11に示した相関色温度のLED(T6、T7、T9)がある。
【0073】
なお、暗所視の状態(薄明視の状態も同様)では、TH、HIDと比べ、LEDは約1割程度明るいことが知られており、この点からも、ヘッドランプ100の光源としてLED光源11を用いるのが有利といえる。
【0074】
[ヘッドランプの構成]
次に、上記明らかにした周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件を満たすヘッドランプの構成例について説明する。
【0075】
本実施形態のヘッドランプ100は、図39に示すように、車両前部の左右両側にそれぞれ配置されている。左側と右側のヘッドランプ100は左右対称で同一の構成であるため、以下左側のヘッドランプ100を中心に説明する。
【0076】
図40は、左側に配置されたヘッドランプ100の拡大図である。
【0077】
本実施形態のヘッドランプ100は、四つのヘッドランプユニット10A〜10Dを水平方向に配置した構成である。
【0078】
ヘッドランプユニット10A〜10Dは、共通の構成として、LED光源11、LED光源11の前方に配置されたレンズ体12、LED光源11が実装された基板が固定された放熱用のヒートシンク13等を備えている。
【0079】
LED光源11は、上記明らかにした周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件を満たすLED光源、すなわち、色温度が4500〜7000[K](好ましくは5000〜6000[K])、かつ、4色(赤・緑・青・黄)の見え方の予測を表す4つの座標値が、CIE1976L*a*b*空間に対応するa−b座標系上の座標値R(41.7,20.9), G(-39.5,14.3), B(8.8,-29.9), Y(-10.4,74.2)を中心とする半径5の円範囲に含まれるLED光源である。
【0080】
LED光源11としては、例えば、青色LEDと黄色蛍光体とを組み合わせたLED光源、例えば、図11に示す相関色温度のLED(T6、T7、T9)を用いることが可能である。この場合、例えば、黄色蛍光体の濃度や組成を調整することで、上記明らかにした視認性(気づき)を向上させるための条件を満たすLED光源を構成することが可能である。あるいは、LED光源11としては、紫外LEDと白色(三原色)蛍光体とを組み合わせたLED光源、赤・緑・青の3色LEDを組み合わせたLED光源を用いることも可能である。
【0081】
以下、LED光源11として青色LEDと黄色蛍光体とを組み合わせたLED光源(相関色温度:6000[K]、光束:1100[lm])を用いた例について説明する。
【0082】
レンズ体12は、LED光源11から放射された光がレンズ内部に入射する入射面12a、レンズ内部に入射したLED光源11からの光が内部反射する両側反射面12b、12c、及び、両側反射面12b、12cで反射したLED光源11からの光が出射する出射面12dを含む中実のレンズ体である。
【0083】
レンズ体12としては、例えば、特開2009−238469号公報に開示されているレンズ体、その他構成のレンズ体を用いることが可能である。
【0084】
ヘッドランプユニット10A〜10Dのレンズ体12はそれぞれ、車両中心から外側(図40中左側)に向かうにつれ車両前後方向に延びる基準軸AX0に対する傾斜角度が大きくなるように配置されている。以下、車両中心側のレンズ体12を第1レンズ体12A、この外側に隣接するレンズ体12を第2レンズ体12B、この外側に隣接するレンズ体12を第3レンズ体12C、この外側に隣接するレンズ体12をレンズ体12Dと称する。
【0085】
第1レンズ体12Aは、その光軸AX1が基準軸AX0に一致するように配置されている。第1レンズ体12Aの入射面12a、両側反射面12b、12c、出射面12dは、レンズ内部に入射したLED光源11からの光が前方所定位置に配置された鉛直スクリーン上にスポット的な第1配光パターンP1(図41参照)を形成するように構成されている。
【0086】
第2レンズ体12Bは、その光軸AX2が基準軸AX0に対して外側に傾斜した(図40では7°を例示)姿勢で配置されている。第2レンズ体12Bの入射面12a、両側反射面12b、12c、出射面12dは、レンズ内部に入射したLED光源11からの光が前方所定位置に配置された鉛直スクリーン上に第1配光パターンP1の右端近傍から左端のさらに左側まで延びる左右方向にワイドな第2配光パターンP2(図41参照)を形成するように構成されている。
【0087】
第3レンズ体12Cは、その光軸AX3が基準軸AX0に対してさらに外側に傾斜した(図40では14°を例示)姿勢で配置されている。第3レンズ体12Cの入射面12a、両側反射面12b、12c、出射面12dは、レンズ内部に入射したLED光源11からの光が前方所定位置に配置された鉛直スクリーン上に第2配光パターンP2の右端のさらに右側から左端のさらに左側まで延びる左右方向にワイドな第3配光パターンP3(図41参照)を形成するように構成されている。
【0088】
第4レンズ体12Dは、その光軸AX4が基準軸AX0に対してさらに外側に傾斜した(図40では21°を例示)姿勢で配置されている。第4レンズ体12Dの入射面12a、両側反射面12b、12c、出射面12dは、レンズ内部に入射したLED光源11からの光が前方所定位置に配置された鉛直スクリーン上に第3配光パターンP3の右端近傍から左端のさらに左側まで延びる左右方向にワイドな第4配光パターンP4(図41参照)を形成するように構成されている。
【0089】
上記各配光パターンP1〜P4が鉛直スクリーン上において重畳され、外側に向かうにつれ光度が低下するグラデーション状の左右方向にワイドな合成配光パターン(超ワイド配光。図41、図46参照)を形成するように、ヘッドランプユニット10A〜10Bそれぞれの光軸が調整されている。
【0090】
[比較例]
以下、本実施形態のヘッドランプ100(相関色温度:6000[K]、光束:1100[lm]のLED光源11を用いている)の優位性について、従来のLEDヘッドランプ(相関色温度:4300[K]、光束:540[lm]。以下、従来例1と称する)、従来のHIDヘッドランプ(相関色温度:4100[K]、光束:1100[lm]。以下従来例2と称する)と対比させつつ説明する。
【0091】
図46は、本実施形態のヘッドランプ100により鉛直スクリーン上に形成された配光パターン(光度分布)である。図47は、従来例1のヘッドランプにより鉛直スクリーン上に形成された配光パターン(光度分布)である。図48は、本実施形態のヘッドランプ100により路上に形成された路面配光パターン(等照度分布)である。図49は、従来例1のヘッドランプにより路上に形成された路面配光パターン(等照度分布)である。図50は、従来例2のヘッドランプにより路上に形成された路面配光パターン(等照度分布)である。
【0092】
図46〜図50を参照すると、本実施形態のヘッドランプ100によれば、レンズ体12A〜12Dの作用により、左側に配置されたヘッドランプ100については従来例1、従来例2のヘッドランプと比べて左側に大きく延びる超ワイド配光(図41、図46参照)を形成すること(及び右側に配置されたヘッドランプ100については従来例1、従来例2のヘッドランプと比べて右側に大きく延びる超ワイド配光を形成すること)が分かる。
【0093】
そして、本実施形態のヘッドランプ100によれば、上記明らかにした周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件を満たすLED光源11を用いており、このLED光源11からの光が超ワイド配光(図41、図46)を形成することを考慮すると、正面の視認性が向上するだけでなく、従来例1、従来例2のヘッドランプと比べて周辺視による左側(及び右側)の視認性(気づき)が大きく向上することが分かる。
【0094】
しかも、本実施形態のヘッドランプ100によれば、超ワイド配光は外側に向かうにつれ光度が低下するグラデーション状の配光であるため(図41、図46参照)、周辺視による左側(及び右側)の視認性を向上させつつ、歩行者に対するグレアを防止又は低減することが可能となることが明らかである。なお、放射エネルギー成分割合の高い光源は輝度が低くなっても反応時間の低下具合が少ない(図42〜図45参照)。
【0095】
[走りやすさの評価]
本実施形態のヘッドランプ100、従来例1、従来例2のヘッドランプを搭載した車両の走りやすさを評価すべく、次の実験を行った。
【0096】
実験環境:本実施形態のヘッドランプ100、従来例1、従来例2のヘッドランプを搭載した車両を用いた。
【0097】
実験手順:本実施形態のヘッドランプ100、従来例1、従来例2のヘッドランプを搭載した車両で実際に走行し、主観的評価スケール(1:走りづらい、2:やや走りづらい、3:普通、4:やや走りやすい、5:非常に走りやすい)を用いて、走りやすさを評価した。被験者は18名である。
【0098】
図51は、走りやすさの評価結果をまとめたグラフである。図51を参照すると、本実施形態のヘッドランプ100の評価値が最も高いことが分かる。これは、主に、本実施形態のヘッドランプ100では、左側(及び右側)に大きく延びる超ワイド配光を採用していることに起因していると考えられる。
【0099】
本実施形態のヘッドランプ100は、光束がほぼ同じ従来例2のヘッドランプと比べ、評価値が0.8も高い。これは、主に、HIDと比べ、LEDの照明下での色の見え方が標準光源の照明下での色の見え方により近いこと(すなわち、色をより忠実に再現できること。図37参照)、左側(及び右側)に大きく延びる超ワイド配光を採用していることに起因していると考えられる。
【0100】
従来例1のヘッドランプは、従来例2のヘッドランプと比べ、評価値が1点低い。これは、従来例1のヘッドランプが従来例2のヘッドランプ(光束:1100[lm])よりも低光束(540[lm])であるため、配光の広がりが少ないことが主因と考えられる。
【0101】
[色の見えやすさの評価]
本実施形態のヘッドランプ100、従来例1、従来例2のヘッドランプを搭載した車両の走行時の色の見えやすさを評価すべく、次の実験を行った。
【0102】
実験環境:本実施形態のヘッドランプ100、従来例1、従来例2のヘッドランプを搭載した車両を用いた。路肩には、赤・緑・青・黄の色標C1を配置した(図52参照)。
【0103】
実験手順:本実施形態のヘッドランプ100、従来例1、従来例2のヘッドランプが搭載された車両で実際に走行し、主観的評価スケール(1:見えない、2:くすむ、3:普通、4:やや鮮やか、5:非常に鮮やか)を用いて、色標C1の見えやすさを評価した。被験者は18名である。
【0104】
図53は、走行時の色の見えやすさの評価結果をまとめたグラフである。図53を参照すると、赤・緑・青・黄のいずれについても本実施形態のヘッドランプ100の評価値が最も高いことが分かる。これは、本実施形態のヘッドランプ100に用いたLED光源11の色温度(6000[K])に起因して、色の識別、鮮やかに見える結果になったと考えられる。
【0105】
図53を参照すると、本実施形態のヘッドランプ100は、従来例1、従来例2のヘッドランプの評価値を大きく上回っており、標識の知覚に優れているといえる。禁止、規制を意味する赤色については、従来例2のヘッドランプに対し1.9(70%)、従来例1のヘッドランプに対し2.1(84%)高い。「注意」を意味する黄色については、従来例2のヘッドランプに対し1.7(59%)、従来例1のヘッドランプに対し1.9(77%)高い。このことからみて、本実施形態のヘッドランプ100によれば、周辺視による視認性(気づき)を向上させることが可能となるだけでなく、色の知覚の面での視認性をも向上させることが可能となると推測できる。
【0106】
[交差点右折時の場面における評価]
本実施形態のヘッドランプ100、従来例1、従来例2のヘッドランプを搭載した車両の交差点右折時の場面における色の見えやすさを評価すべく、次の実験を行った。
【0107】
実験環境:本実施形態のヘッドランプ100、従来例1、従来例2のヘッドランプを搭載した車両を、交差点の手前に停車させた(図54(a)参照)。交差点の周囲には、色標C2(赤・緑・青・黄)を配置した(図54(a)、図54(b)参照)。
【0108】
実験手順:主観的評価スケール(1:見えない、2:くすむ、3:普通、4:やや鮮やか、5:非常に鮮やか)を用いて、交差点右折時の場面における色の見えやすさを評価した。被験者は18名である。
【0109】
図55は、交差点右折時の場面における色の見えやすさの評価結果をまとめたグラフである。図55を参照すると、横断歩道手前、横断歩道中央、横断歩道奥、路肩正面のいずれについても本実施形態のヘッドランプ100の評価値が最も高いことが分かる。
【0110】
本実施形態のヘッドランプ100は、従来例1、従来例2のヘッドランプと比べ、横断歩道手前の評価点が3も高い。これは、主に、右側に配置されたヘッドランプ100が従来例1、従来例2のヘッドランプと比べて右側に大きく延びる超ワイド配光を形成すること、上記明らかにした周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件を満たすLED光源11を用いており、このLED光源11からの光が超ワイド配光を形成することに起因していると考えられる。このことは、右折時の巻き込み事故の低減に大きな効果があると考えられる。また、本実施形態のヘッドランプ100は、従来例1、従来例2のヘッドランプと比べ、横断歩道中央、横断歩道奥それぞれの評価点が1.5以上高いため、事故低減に優位であると推測できる。
【0111】
以上説明したように、本実施形態の車両用ヘッドランプ100によれば、上記明らかにした周辺視による視認性(気づき)を向上させるための条件を満たすLED光源11、すなわち、色温度が4500〜7000[K](好ましくは5000〜6000[K])、かつ、4色(赤・緑・青・黄)の見え方の予測を表す4つの座標値が、CIE1976L*a*b*空間に対応するa−b座標系上の座標値R(41.7,20.9), G(-39.5,14.3), B(8.8,-29.9), Y(-10.4,74.2)を中心とする半径5の円範囲に含まれるLED光源11を用いているため、実際の交通環境(特に交差点右折時の場面)における周囲の歩行者や障害物等に対する視認性(気づき)を向上させることが可能となる。
【0112】
上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎない。これらの記載によって本発明は限定的に解釈されるものではない。本発明はその精神または主要な特徴から逸脱することなく他の様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0113】
100…ヘッドランプ、10A〜10B…ヘッドランプユニット、11…LED光源、12A〜12D…レンズ体、13…ヒートシンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められた白色範囲の光を照射するように構成された車両用ヘッドランプにおいて、
色温度が4500〜7000[K]又は5000〜6000[K]、かつ、4色(赤・緑・青・黄)の見え方の予測を表す4つの座標値が、CIE1976L*a*b*空間に対応するa−b座標系上の座標値R(41.7,20.9), G(-39.5,14.3), B(8.8,-29.9), Y(-10.4,74.2)を中心とする半径5の円範囲に含まれる光源を含むことを特徴とする車両用ヘッドランプ。
【請求項2】
前記白色範囲は、xy色度座標上の座標値(0.31,0.28), (0.44,0.38), (0.50,0.38),(0.50,0.44), (0.455,0.44), (0.31,0.35)を結ぶ直線で囲まれた色度範囲であることを特徴とする請求項1に記載の車両用ヘッドランプ。
【請求項3】
前記白色範囲は、xy色度座標上の座標値(0.323,0.352), (0.325,0.316), (0.343,0.331), (0.368,0.379)を結ぶ直線で囲まれた色度範囲であることを特徴とする請求項1に記載の車両用ヘッドランプ。
【請求項4】
前記光源がLED光源であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両用ヘッドランプ。
【請求項5】
前記LED光源は、青色又は紫外発光LED素子と波長変換材料とを含む白色LED光源であることを特徴とする請求項4に記載の車両用ヘッドランプ。

【図2】
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【図9】
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【図20】
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【図21】
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【図25】
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【図27】
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【図29】
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【図37】
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【図52】
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【図58】
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【図59】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図26】
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【図28】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【公開番号】特開2011−165341(P2011−165341A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23388(P2010−23388)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】