説明

車両用ホイール

【課題】本発明は、簡単な構造でタイヤの温度を上げて、転がり摩擦を低減できる車両用ホイールを提供することを目的とする。
【解決手段】車両用ホイール10の全面には、厚さ5〜40μmのクリア塗装の下塗り層13が形成され、更に、リム11の内周面11e、ディスク12の特定部位を除く表面に厚さ300μmの遮熱断熱コーティングを施して遮熱断熱層14を形成する。ここで特定部位とは、車両用ホイール10の車軸ハブと接する面であるハブフランジ部と当接するハブ当接面19、及びハブ軸の外周面と接するハブ穴17の内周面17b、並びに、車両用ホイール10を車軸ハブのハブボルトで取り付けるためのボルト穴18の縁部のハブナットの締め付け座面であるボルト穴座面18a、及びボルト穴18の内周面18bである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のタイヤの転がり抵抗低減技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のタイヤの温度を上げると転がり抵抗が低減し、車両の燃費性能を向上させることができるとともに、タイヤトレッド部のグリップ力を向上させることが知られている。そして、特許文献1には、車両用ホイールのリム外周面の周方向全周にわたる発熱体を、ホイール幅方向の中心寄りに、発熱体からの熱をリム側に逃がさないようにするための断熱材を介して配置する技術が記載されている。
【特許文献1】特開平5−16623号公報(図3、段落0020,0021参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、発熱体にタイヤ空気室外の電力供給手段、例えば、ホイールキャップに取り付けた太陽電池から電力を供給する構成であり、複雑な構成となっている。又、リム外周面に取り付けた発熱体によりタイヤ空気室内の空気を折角加熱しても、リム外周面の発熱体が配置されていない、タイヤ空気室内の空気と接するリム外周面及び、タイヤとリムとの接触面(タイヤのビード部とリムのビードシート部の接触面)から車両用ホイール側に熱が逃れ、大気中に放熱されてしまい、加熱効率が悪いという課題があった。
また、ウェル部にタイヤを装着する作業時にリム外周面に取り付けた発熱体を損傷してしまう虞があるという課題があった。
【0004】
その解決策として、本出願人は、特願2008−100438(未公開)において、車両用ホイールのリムの外周面、つまり、タイヤ空気室の空気と接するリムのウェル部と、タイヤのビード部と接触するリムのビードシート部及びリムフランジ部を遮熱断熱層でコーティングする技術を提案している。これにより、タイヤからリムへ伝熱して、更にディスクを介して外気に熱放出したり、タイヤ空気室からリムへ熱伝達して、更にディスクを介して外気に熱放出したりするのを抑制して、タイヤの温度を上げ転がり抵抗が低減するという課題が解決されたが、新たな課題として解決すべき点が見出された。つまり、タイヤのビード部と、リムのビードシート部及びリムフランジ部との接触面は、空気を介在していないので熱伝導の効率が高く、その部分を断熱するには、厚い遮熱断熱層が必要となるというものである。
【0005】
本発明は、前記した従来の課題を解決するものであり、簡単な構造でタイヤの温度を上げて、転がり摩擦を低減できる車両用ホイールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、リム外周面以外の外気と接するホイール面に、遮熱断熱コーティングによるコーティング部を形成したことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、車両走行によりタイヤ構造体の接地部の変形によるヒステリシスロスや路面との摩擦でタイヤの温度が上昇して、更にその熱がタイヤ空気室内の空気に伝達され、タイヤ空気室内の空気温度が上昇したときに、タイヤのビード部と車両用ホイールのリムのビードシート部との間の伝熱、及びタイヤ空気室内の空気が車両用ホイールのリム外周面部と接する部位を通じて、熱がリム、ディスクを経て大気中に放熱されるのを抑制できる。
【0008】
また、コーティング部は、車軸ハブ取り付けに関わる面を含まないことが望ましい。
ここで、「車軸ハブへの取り付けに関わる面」とは、車両用ホイールの車軸ハブと接する面、並びに、車両用ホイールを車軸ハブのハブボルトに取り付けるためのボルト穴の縁部のハブナットの締め付け座面及びボルト穴の内周面である。
ちなみに、車両用ホイールの車軸ハブへの取り付けに関わる面にはコーティング部を形成しないので、例えば、車軸ハブのハブフランジ部に、ディスクロータを挟んでホイールのディスクを取り付けた、ディスクブレーキの場合、制動操作を行うたびに、ディスクロータに発生した摩擦熱が、車両用ホイールの車軸ハブへの取り付けに関わる面を通じて車両用ホイールのディスクに熱伝導、つまり、入熱される。
その結果、車両用ホイールのディスクの温度が上昇するので、タイヤ空気室やタイヤのビード部からリム、そして、ディスクへの伝熱量が低下し、放熱が抑制される。
また、ディスクロータにおける摩擦熱が車両用ホイールのディスクに伝熱される量が多い場合は、リムを介してタイヤやタイヤ空気室を加熱することもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両走行状態のタイヤの温度を増加させることができ、転がり抵抗を低減でき、燃費性能を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(第1の実施形態)
以下に、本発明の第1の実施形態に係る車両用ホイールについて図を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
図1を参照して本実施形態における車両用ホイールについて説明する。
図1は、本実施形態に係る車両用ホイールにタイヤを装着した車軸中心線から上側の正面断面図である。
図1に示すように、車両用ホイール10は、タイヤ20を装着するためのリム11と、このリム11を図示しない車軸ハブに連結するためのディスク12とから構成される。
【0012】
図1に示すように、リム11は、ホイール幅方向の両端部に形成されるビードシート部11a,11aと、このビードシート部11a,11aからホイール径方向外側に向けてL字状に屈曲したリムフランジ部11b,11bと、ビードシート部11a,11a間においてホイール径方向内側に窪んだウェル部11cと、を有する。
【0013】
ビードシート部11aには、タイヤ20のビード部21aが装着される。これにより、リム11の外周面(リム外周面)11dとタイヤ20の内周面との間に環状の密閉空間からなるタイヤ空気室MCが形成される。
なお、タイヤ20に関して、符号21bはトレッド部を示す。
【0014】
ウェル部11cは、タイヤ20をリム11に組み付けるリム組時に、タイヤ20のビード部21a,21aを落とし込むために設けられている。
【0015】
ディスク12は、図1に示すように、リム11の車両外側の端部からホイール径方向内側に連続して形成される。ディスク12の中心部には、図示しない後記するハブ軸が貫通するハブ穴17が設けられその中心線17aが車両用ホイール10の回転中心軸(車軸中心線)となる。そして、ハブ穴17の周囲に中心線17aを中心に同心円状にボルト穴18が形成されている。
【0016】
車両用ホイール10は、図示省略の車軸ハブにボルトナットにより締結される。車軸ハブは、図示しないハブフランジ部と中心部の円筒状のハブ軸を有する形状であり、ハブフランジ部には周方向に離散的にハブボルトが車両内側方向から車両外側方向に向かって複数取り付けられている。そのハブボルトが図示しないディスクブレーキ用のディスクロータの円筒部の底面の対応するボルト穴を挿通して、ディスク12のボルト穴18に挿通するようになっている。ボルト穴18から車両外側に突出したハブボルトのネジ部に図示しないハブナットを螺合することによって、車両用ホイール10は車軸ハブと締結される。
なお、ボルト穴18の車両外側の縁部に前記ハブナットの締め付け面と当接するボルト穴座面18aが形成されている。
【0017】
リム11とディスク12とは、例えば、アルミニウム合金、マグネシウム合金等の軽量高強度材料等から製造される。
なお、これらの材料に限定されるものではなく、スチール(鋼)等から形成されるものであっても良い。また、車両用ホイール10は、スポークホイールであっても良い。
【0018】
そして、車両用ホイール10の外周面全面には、厚さ5〜40μmのクリア塗装の下塗り層13が形成される。
【0019】
下塗り層13は、車両用ホイール10の耐食性を向上し、また、後記する遮熱断熱層14との密着性を向上させるために形成するものであり、ウレタン系、エポキシ系、アクリル系、フッ素系等の熱伝導率の小さい塗装材やその配合が望ましい。この塗装には電着塗装や粉体塗装が用いられる。この下塗り層13の膜厚は車両用ホイール10の標準的なクリア塗装厚である5〜40μm程度である。
【0020】
更に、リム11の内周面11e、ディスク12の車両外側及び車両内側の両面に、後記する特定部位を除いて、原則的に遮熱断熱層14(コーティング部)を形成する。その厚さは、10〜500μmとする。
ここで特定部位とは、請求項に記載の「車軸ハブへの取り付けに関わる面」であり、車両用ホイール10の車軸ハブと接する面である、前記したハブフランジ部と当接する図1に示すハブ当接面19、及びハブ軸の外周面と接するハブ穴17の内周面17b、並びに、車両用ホイール10を車軸ハブのハブボルトで取り付けるためのボルト穴18の縁部のハブナットの締め付け座面であるボルト穴座面18a、及びボルト穴18の内周面18bである。
なお、ディスク12の車両外側の表面の前記特定部位を除く面には、遮熱断熱層14の上に更に保護層15を形成する。この保護層15は、車両用ホイール10の外観を綺麗に見せるための仕上げ塗装であり、擦れ傷等を受けにくい強度を有する保護塗装の役目もしている。
【0021】
遮熱断熱層14は、リム11の内周面11e及びディスク12において、タイヤ空気室MCの空気からリム11への熱伝達、タイヤ20の内面からリム11への熱放射、及びタイヤ20からリム11への熱伝導された熱が、更に、リム11及びディスク12から外気へ放散されるのを抑制するためのものであり、低い熱伝導率及び低い熱伝達率、さらに高い熱反射率及び長波熱放射率を有する遮熱・断熱性にすぐれたものが望ましい。
遮熱断熱層14は、遮熱性と断熱性を有する無機材料(フィラー)を有機材料(樹脂又はゴム)に配合した塗装材で形成する。ばね下重量の増加を最小限に抑えるために、より薄く軽量にコーティングするには、中空の微小無機フィラーを使用するのが望ましい。
また、遮熱断熱層14の塗装材としては、遮熱断熱性能の確保と同時に、塗装材の練り工程、塗装工程、タイヤ組込み工程、車両への車両用ホイール取付け工程での衝撃、せん断力、削り傷、車両の走行中に跳ねた異物等との擦れに耐える程度、又は生じた傷が成長して欠落やはがれが生じにくい程度の強度と対摩耗性が確保できる微小無機フィラーの選定と配合及び塗膜厚さの選定が必要であり、本実施の形態の塗装剤及び塗膜厚さに限らない。
【0022】
以下に、遮熱断熱層を形成する塗装材について詳細に説明する。
ここでは、水溶性塗料を例に説明する。表1は塗装材の配合比(%)を容積比で示したものである。
遮熱断熱層14を形成するための塗装材は、特開平11−323197号公報にも記載されているように、低熱伝導度(高断熱性)とするには中空粒子を稠密に且つ多層に分散させたものが適している。そして、中空粒子としては、強度が高く塗料との混練工程、塗装工程、タイヤ組み込み工程や、車両用ホイール10の車両への取り付け工程でも、中空粒子内に塗料が入りこまない(多孔質やオープンポア構造でない中空体)ものが適している。そのような中空粒子の候補としては、前記した中空の微小無機フィラーとして、セラミック中空粒子(以下、中空粒子をバルーンと称する)、シリカバルーン、ガラスバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン等が考えられる。特に、高強度の中空の微小無機フィラーとしてセラミックバルーンが挙げられ、セラミックの組成としては、例えば、ジルコニア、チタニア複合物、ホウ化ケイ素系セラミックが挙げられる。
【0023】
【表1】

【0024】
ちなみに、本実施形態で用いるセラミックバルーンとしては、中空部が大気又は別の気体である中空粒子、あるいは中空部が真空である真空中空粒子を用いることが断熱性の観点から好ましい。その中でも、真空中空粒子が、断熱性の点からみて好適に用いられる。
なお、ここでいう真空とは雰囲気圧よりも気圧が低い状態をいい、絶対真空を意味するものではない。
【0025】
また、セラミックバルーンは透明もしくは半透明であることが重要であり、透明又は半透明であることによって、バルーンの中に入射した光(赤外線、遠赤外線、近赤外線等)を反射させることができる。
更に、半透明よりも透明である方がより反射性に優れており好ましい。また、透明もしくは半透明であれば無色である必要はなく、色が付いていても良い。このような条件に対し、前記したセラミックの中でもホウ化ケイ素系セラミックは高い透明性を有するため、最も好適である。セラミックバルーンの粒子径は5〜50μmのものを用いる。この粒子径範囲は経験上、塗膜外観、塗装作業性、塗膜物性、及び遮熱機能性の点から最適の範囲である。
【0026】
また、用いるセラミックバルーンの粒子径分布は前記した強度上の要求を満たす範囲で広いほうが好ましい。つまり、大きい粒子径から小さい粒子径までの異なる粒子径を幅広く有するセラミックバルーンを用いるのが良い。そのような場合、塗膜中でのセラミックバルーンの稠密積層状態は大きい粒子径を有するセラミックバルーンの間の隙間に小さい粒子径のセラミックバルーンが入り込み、セラミックバルーン間の隙間をより小さくする。つまり、セラミックバルーンをより稠密に配列させることができる。そのため塗膜としての反射性、断熱性をより高めることができる。
【0027】
更に、セラミックバルーンは高い長波放射率を有する。長波放射率とは、吸収した熱を赤外線として再び放射するときの変換効率である。従って、このようなセラミックバルーンを稠密積層配列させた塗膜は高い効率で赤外線を放射する。
【0028】
このようなセラミックバルーンを塗膜の中に稠密に分散させるために、構造保持材として、アクリル系ポリマとシリカ粒子を用いる。アクリル系ポリマとしては塗料用合成樹脂として設計された各種アクリルモノマの共重合体を用いることができる。そして、アクリル系ポリマは、エマルションの形で塗膜形成材の中に混合して用いられる。
これら、構造保持材としてのアクリル系ポリマとシリカ粒子は、特開平11−323197号公報の段落[0026],[0027]に記載されているように、溶液に分散させたときに、分子間の水素結合、配位結合、ファンデルワールス力などの非共有結合によっていわゆる足場構造を形成し、この足場構造が形成されている溶液中にセラミックバルーン等の粒子を存在させると、セラミックバルーンは足場構造の中に取り込まれた状態となり、溶液中においてバブルの均一分布状態が保持される。
【0029】
セラミックバルーンの均一分布状態は継続的に維持されたまま溶媒が蒸発するため、最終的にはセラミックバルーンが塗膜の中で稠密積層配列した状態が得られる。ここで稠密積層配列とは、セラミックバルーン同士が3次元的に接近し、密に固定された状態をいう。従って、下塗り層13は多重のセラミックバルーンで覆われることになる。
【0030】
本実施形態における塗装材は、以上の構造保持剤、セラミックバルーンの他、通常用いられる各種有機材料(樹脂又はゴム)の塗膜形成材、溶媒、顔料、添加剤を含有することができる。塗膜形成材としては、ここでは、例えば、アクリル樹脂が、溶媒としては、水が用いられ、顔料としては、無機顔料である二酸化チタン(チタン白)が隠蔽剤として用いられ、添加剤としては、分散剤、消泡剤、粘度調整剤等が用いられている。
なお、(Co,Fe)(Fe,Cr)24やCr23等の赤外線反射複合酸化物系黒顔料を加えても良い。
【0031】
遮熱断熱層14の必要厚さを検討するに当たり、リム11及びディスク12の遮熱断熱層14を介して外気に熱放散することにより、リム11及びディスク12において生じる実効的な熱伝導率が、空気並みの熱伝導率にまで低下させることが必要であり、計算の結果、前記した表1に記載のように塗装材の原料にセラミックバルーン用いることにより、遮熱断熱層14の厚さが約300μmとし、下塗り層13を20μmの厚さ、保護層15にはアクリル系クリア塗装を厚さ50μmとした場合に、0.1W/m・K以下の遮熱断熱性能が得られた。
【0032】
ちなみに、遮熱断熱層14は、下塗り層13の塗装が完了した車両用ホイール10において、リム11の一方のリムフランジ部11bから他方のリムフランジ部11bにかけての外周面11d及び、ディスク12の前記した特定の部位にマスキングテープを貼付するマスキング処理をし、その後前記した表1の塗料を塗布する。
このとき、ホイール周方向の一方側やホイール幅方向の一方側に塗膜が偏らないようにすることが必要である。例えば、冶具を用いてホイール中心軸を水平に保った状態の車両用ホイール10を、ホイール中心軸周りにゆっくり回転させながら塗布し、且つ、乾燥状態がある程度進み、垂れがなくなるまでその回転を維持する手法や、塗装を数回に分け、塗布した表面を乾燥させてから次の塗装を行なう手法等により、より均一な層となる工程が好ましい。
また、車両用ホイール10を水平に寝かせた状態にして、塗装を数回に分け、塗布した表面を乾燥させてから次の塗装を行なっても良い。
このようにすることで、ホイール周方向の一方側やホイール幅方向の一方側に塗装材が偏ることや、ディスク12から内周面11e側に流れてディスク12の表面の遮熱断熱層14が薄くなることが防止できる。
なお、遮熱断熱層14がある程度表面が乾燥した半乾燥状態で、前記したマスキングテープを剥がす。
【0033】
図2は、走行中のタイヤ空気室からの熱の伝達経路を示し、(a)は比較例の遮熱断熱層を有しない車両用ホイールの場合を、(b)は遮熱断熱層を有する本実施形態における車両用ホイールの場合を説明する図である。図3の(a)は、車両が走行開始後のタイヤのトレッド部の温度の時間推移を説明する図であり、(b)は、車両が走行開始後のタイヤ空気室内の圧力の時間推移、車両が停止後のタイヤ空気室内の圧力の時間推移を説明する図である。
【0034】
車両が走行を始めるとトレッド部21bが路面との摩擦で発熱し、又、転がり摩擦によりタイヤ20のショルダ部、サイド部等も撓みを繰り返して発熱したり、熱伝導により加熱されたりする。
比較例の通常のクリア塗装の下塗り層13だけの遮熱断熱層を有しない車両用ホイール10Aの場合、タイヤ20の自己発熱による熱は、以下の3つの経路で放熱される。
(1)矢印Aで示したようにタイヤ20の表面から大気に放熱される経路
(2)矢印Bで示したようにビード部21aから、ビードシート部11aを経て、リム11、ディスク12を介して大気に放熱される経路
(3)矢印Cで示したようにタイヤ空気室MC内の空気を加熱して、リム11、ディスク12を介して大気に放熱、若しくは、タイヤ20の内面から直接リム11へ熱放射により熱伝達されて、リム11,ディスク12を介して大気に放熱される経路
【0035】
次に、前記(1),(2)及び(3)の経路による本実施形態の車両用ホイール10における放熱量について述べる。車両用ホイール10では、(1)の径路による放熱量は、車両用ホイール10Aの場合と同じであるが、(2)の経路による放熱量は遮熱断熱層14の効果により車両用ホイール10Aの場合より極めて少なく、(3)の経路による放熱量は、遮熱断熱層14によりリム11の温度も高くなり、矢印RCに示すようにタイヤ空気室MCからの熱伝達を受けても、自らもその多くを輻射することと、リム11、ディスク12を介して外気放熱されることが少ないので、タイヤ空気室MCの温度が比較例の車両用ホイール10Aの場合よりも高くなる。
【0036】
これは、計算によってもシミュレーションすることができる。図3の(a)のグラフは車両が走行開始後のタイヤのトレッド部の温度の時間推移を示した図であり、縦軸はタイヤ20のトレッド部21bの温度を、横軸は車両が走行開始してからの経過時間を表わしたものである。曲線L1Aは、遮熱断熱層14を有する場合、曲線L2Aは、遮熱断熱層14を有しない場合を示している。ここでは、遮熱断熱層14の条件を、表1に示す配合のものを厚さ300μmとし、遮熱断熱性能が0.1W/m・K以下を達成している。
この場合、車両が停止して十分タイヤの温度が低下した低温状態からの走行開始で、60km/hの速度で30分走行したとき、比較例の曲線L2Aよりタイヤトレッド部温度が5℃高くなることがわかった。また、タイヤ空気室MCの温度は、図示しないが比較例の場合よりも8℃上昇することが分かった。
また、図3の(b)のグラフは、(a)と同一条件の下でのタイヤ空気室MCの圧力の時間推移を示した図である。縦軸がタイヤ20のタイヤ空気室MCの圧力を、横軸は車両が走行開始してからの経過時間を表わしたものであり、曲線L1Bは、遮熱断熱層14を有する場合、曲線L2Bは、遮熱断熱層14を有しない場合を示している。
タイヤ空気室MCの圧力は、比較例の場合よりも5kPa上昇した。また、60km/hの速度で30分走行した後停止した場合の、タイヤ空気室MCの圧力は、本実施形態の場合の曲線L1Bでは、10分間当たり7kPaの割合で圧力が低下したのに対し、比較例の曲線L2Bの場合10分間当たり10kPaの割合で圧力が低下し、本実施形態における遮熱断熱層14の効果が歴然と現れ、車両が一時停止や駐車をしても、タイヤ20の温度低下が抑制される。
その結果、転がり抵抗がその分低下し、燃費(km/l)が1%向上することが分かった。また、走行中のタイヤの温度が上昇することにより、比較例の場合よりもタイヤのゴムの損失(磨耗)が少なくなり、転がり抵抗を低減し、燃費(km/l)の向上に寄与できる。
【0037】
また、背景技術の段落に記載した特許文献1の技術のように断熱材がウェル部11cを占有してしまうようなことが無いので、タイヤ交換等が容易に行なえる。
更に、特願2008−100438における車両用ホイールのリムの外周面、つまり、タイヤ空気室の空気と接するリムのウェル部と、タイヤのビード部と接触するリムのビードシート部及びリムフランジ部を遮熱断熱層でコーティングする場合よりも、遮熱断熱層14の厚さを薄くすることが可能である。
【0038】
本実施形態においては、前記したようにディスク12の特定部位には遮熱断熱層14を形成しない。例えば、ハブ当接面19及びボルト穴座面18aには遮熱断熱層14を形成しないので、ハブナットで締付けてディスク12を、車軸ハブのハブフランジ部にディスクブレーキ用のディスクロータの円筒部の底面を介在させて固定した後に、走行中の振動等により、ディスクロータの円筒部の底面とハブ当接面19との間の摩擦を生じても、又、ハブナットの締付け面とボルト穴座面18aと間の摩擦を生じても、比較的厚い層の遮熱断熱層14が磨耗して締付け力が低下することが無いので、確実に車軸ハブにディスク12を締結維持できる。
また、ハブ穴17の内周面17b、ボルト穴18の内周面18bにも遮熱断熱層14を形成しないので、車両用ホイール10を車軸ハブに取り付け、取り外し作業に伴う遮熱断熱層14への傷を付ける可能性を減じ、その傷が更に進展する可能性も減じることができる。
【0039】
ちなみに、車軸ハブとディスク12とのハブ当接面19は、車両の走行開始後数分で外気温よりも+15〜20℃となるので、遮熱断熱層14を形成する必要性は無い。
また、ハブ当接面19には遮熱断熱層14を形成しないので、例えば、車軸ハブのハブフランジ部に、ディスクロータを挟んで車両用ホイール10のディスク12を取り付けた、ディスクブレーキの場合、制動操作を行うたびに、ディスクロータに発生した摩擦熱が、ハブ当接面19を通じてディスク12に熱伝導、つまり、入熱される。
その結果、ディスク12の温度が上昇するので、タイヤ空気室MCやタイヤ20のビード部21aからリム11、そして、ディスク12への伝熱量が低下し、放熱が抑制される。
また、ディスクロータにおける摩擦熱がディスク12に伝熱される量が多い場合は、リム11を介してタイヤ20やタイヤ空気室MCを加熱することもできる。
【0040】
ただし、必要に応じハブ穴17の内周面17b、ボルト穴18の内周面18b、ボルト穴座面18aにも遮熱断熱層14を形成しても良い。これにより、ディスク12から外気への放熱量がより少なくなる。
【0041】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る車両用ホイールについて説明する。
第1の実施形態では、遮熱断熱層14を下塗り層13の上に塗装で形成することとしたが、本実施形態では遮熱断熱層14を予めベースフィルムの上に形成したものを用いることとする。
すなわち、遮熱断熱層14をベースフィルムの上に厚く、例えば、2mm厚に塗布して形成(以下、遮熱断熱層14をベースフィルムの片面に形成したものを「遮熱断熱層形成ベースフィルム」と称する)し、半乾燥後に、ディスク12の遮熱断熱層14を形成する部分の立体的形状に沿うように、遮熱断熱層14を押し潰さないように遮熱断熱層14の厚みを確保しながら、加熱プレス成型し、不要な部分を裁断除去する。
そして、前記プレス成型後の遮熱断熱層形成ベースフィルムの他の面(遮熱断熱層14が形成されていない側の面)に接着材を塗布し、又、ディスク12の遮熱断熱層14を形成する部分の下塗り層13上にも接着剤を塗布し、接着剤を塗布された面同士を対向させて、遮熱断熱層形成ベースフィルムをディスク12の遮熱断熱層14を形成する部分に貼着する。
【0042】
なお、遮熱断熱層形成ベースフィルムをディスク12に貼着する場合には、遮熱断熱層14側に立体的なプレス成型後の形状に適合した、例えば、ゴムパッドで遮熱断熱層形成ベースフィルムの前記片面側を吸着保持しながら押圧して接着する。
【0043】
ちなみに、遮熱断熱層14が半乾燥状態において、遮熱断熱層形成ベースフィルムを加熱しながらプレス成型するので、遮熱断熱層14を構成する、例えば、表1に示す塗膜形成材及び構造保持剤のアクリル系エマルションの伸縮性によりセラミックバルーンを均一に保持したまま成型され、遮熱断熱層14に割れが生じることはない。また、遮熱断熱層14の厚みを確保するようにプレス成型するので、セラミックバルーンを圧壊することも無い。ちなみに、ベースフィルムは、熱可塑性の材質とすることが望ましい。
本実施形態のようにベースフィルムの片面に遮熱断熱層14を厚く形成した後、接着する方法(フィルム貼着法)も、請求項に記載の「遮熱断熱コーティング」は含む。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態に係る車両用ホイールにタイヤを装着した車軸中心線から上側の正面断面図である。
【図2】走行中のタイヤ空気室からの熱の伝達経路を示し、(a)は比較例の遮熱断熱層を有しない車両用ホイールの場合を、(b)遮熱断熱層を有する本実施形態における車両用ホイールの場合を説明する図である。
【図3】(a)のグラフは、車両が走行開始後のタイヤのトレッド部の温度の時間推移を示した図であり、(b)のグラフは、タイヤ空気室MCの圧力の時間推移を示したものである。
【符号の説明】
【0045】
10 車両用ホイール
11 リム
11a ビードシート部
11b リムフランジ部
11c ウェル部
11d 外周面
11e 内周面
12 ディスク
13 下塗り層
14 遮熱断熱層(コーティング部)
15 保護層
17 ハブ穴
17a 中心軸
17b 内周面
18 ボルト穴
18a ボルト穴座面
18b 内周面
19 ハブ当接面
20 タイヤ
21a ビード部
21b トレッド部
MC タイヤ空気室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リム外周面以外の外気と接するホイール面に、遮熱断熱コーティングによるコーティング部を形成したことを特徴とする車両用ホイール。
【請求項2】
前記コーティング部は、車軸ハブへの取り付けに関わる面を含まないことを特徴とする請求項1に記載の車両用ホイール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−30374(P2010−30374A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193030(P2008−193030)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)