説明

車両用乗員保護装置

【課題】装置体格を小型化することができ、乗員の下肢が下肢支持体に衝突したときの衝撃を効果的に吸収することができる車両用乗員保護装置を提供する。
【解決手段】アクティブニーボルスター装置2のシリンダ10が駆動すると、ワイヤ17を介してテザー部9が引っ張られる。このとき、テザー部9は、一対のリンク部材11a,11bにおいて、奥側ロッド18,18を内側から押しながら、手前側ロッド16,16を滑ることにより、リンク部材11a,11bを立ち上がらせる。つまり、テザー部9が引っ張られると、一対のリンク部材11a,11bが閉じ方向に回動する動きをとる。これにより、テザー部9とともにアクティブニーパネル4が乗員側に移動する動きをとる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両が急減速したとき、例えば下肢支持体にて乗員の下肢を衝撃から保護する車両用乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においては、車両走行時の乗員の安全を確保するために、車両急減速時に乗員の下肢を保護する装置として、アクティブニーボルスター装置を搭載することが検討されている。アクティブニーボルスター装置は、車両が急減速したとき、アクティブニーパネルを乗員側に押し出して、このアクティブニーパネルで乗員の下肢を押さえ付けて乗員を保護するものである(特許文献1等参照)。
【0003】
特許文献1は、回転ヒンジとリンク機構とを用い、リンク部が長孔にて摺動することにより、アクティブニーパネルを乗員側に押し出す構造をとる。また、特許文献1の場合、アクティブニーパネルを押し出す際の駆動源となるインフレータ(駆動手段)は、駆動出力が押出動作をとるものでもある。つまり、インフレータの駆動出力を押出方向で使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−343345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1では、アクティブニーパネルを押し出すとき、部材を長孔で摺動させて可動させるので、摺動箇所でインフレータ出力のエネルギーをロスすることになり、出力効率がよくないという問題があった。このため、アクティブニーパネルの確実な動作を確保するには、体格の大きなインフレータを使用せざるを得ず、装置体格が大型化する懸念があった。
【0006】
また、インフレータを押出方向で使用した場合には、その押出しストロークを確保する必要が生じるので、部品のレイアウトが限定されてしまうことになる。このように、部品配置のレイアウト性が低いと、部品レイアウトが一義的に決まってしまうので、装置の配置スペースを有効利用することができず、これが体格大型化に支障を来す問題に繋がっていた。
【0007】
さらに、押出位置に位置させた下肢支持体で乗員の下肢を支持するとき、乗員の下肢が下肢支持体に衝突したときの衝撃を極力軽減したいニーズもある。特許文献1には、この衝撃を吸収する構造は開示されているものの、鉄板を折り曲げて使用しているので、衝撃の低減目標に対してバラツキがどうしても大きくなる問題があった。よって、衝撃を好適な吸収力で受け止めたい要望もあった。
【0008】
本発明の目的は、装置体格を小型化することができ、乗員の下肢が下肢支持体に衝突したときの衝撃を効果的に吸収することができる車両用乗員保護装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記問題点を解決するために、本発明では、下肢支持体を乗員側に移動させることにより、当該下肢支持体にて乗員の下肢を支持し、該乗員を衝撃から保護する車両用乗員保護装置において、前記下肢支持体を裏面から支持する帯状のテザー部と、前記テザー部を前記乗員側に可動させるリンク機構と、駆動出力が引き動作をとり、当該引き動作によって前記テザー部を引っ張って保持するとき、収納位置に位置する前記下肢支持体を、前記テザー部が前記リンク機構の回動に伴って乗員側に押し出すことにより、当該下肢支持体を乗員側に飛び出した押出位置に位置させる駆動手段とを備えたことを要旨とする。
【0010】
本発明の構成によれば、例えば車両が急減速するとき、駆動手段の引き動作にてテザー部を引っ張り、この引っ張りにてリンク機構の単なる回動に伴いテザー部が下肢支持体を乗員側に押し出すことにより、下肢支持体を押出位置に位置させる。このため、本構成では、駆動手段の駆動力にて下肢支持体を押し出す際、リンク機構を単に回動させるのみの動きにより下肢支持体を乗員側に押し出すので、このようにリンク機構の可動を回転支持のみで使用すれば、これは駆動手段のエネルギーを効率よく使用することができると言え、結果、小型の駆動手段を使用することが可能となる。従って、車両用乗員保護装置の体格の小型化が可能となる。
【0011】
また、駆動手段を引き方向で使用するようにすれば、例えばワイヤ等の連結体によってテザー部を引くことによって、下肢支持体を押出位置に位置させることが可能となる。このように、ワイヤ等の連結体が使用可能となれば、駆動手段の配置自由度が増すので、結果、部品のレイアウト性が向上する。このため、効率のよい部品配置が可能となるので、装置体格の小型化に一層寄与する。
【0012】
さらに、本構成の場合は、テザー部によって下肢支持体を裏面から押し出し支持するので、下肢支持体が押出位置に位置したとき、車両急減速が要因で乗員の下肢が下肢支持体に衝突しても、この衝撃をテザー部の張力で受けることが可能となる。よって、下肢が下肢支持体に衝突しても、このときの衝撃がテザー部の張力にて吸収されるので、乗員の下肢に過度の負荷がかからずに済む。このため、下肢支持体で乗員の下肢を支持するとき、乗員の下肢にかかる衝撃を好適な吸収力で受け止めることが可能となる。
【0013】
本発明では、前記下肢支持体が前記押出位置に位置するとき、当該下肢支持体に衝撃荷重が入力されると、前記下肢支持体を撓ませながら前記テザー部の張力にて前記衝撃荷重を吸収することを要旨とする。この構成によれば、押出位置の下肢支持体で乗員の下肢を支持するとき、下肢支持体に衝撃荷重が入力されても、この衝撃荷重が下肢支持体の撓みとテザー部の張力とで効果的に吸収されるので、乗員の下肢に大きな負荷がかからずに済む。よって、乗員の安全確保に一層効果が高くなる。
【0014】
本発明では、前記リンク機構は、対称配置された一対のリンク部材を備え、これら前記リンク部材は、前記テザー部が巻き付けられる第1ロッドと、前記テザー部が引っ張られたとき、当該テザー部にて前記リンク部材を立ち上げる第2ロッドとを備えることを要旨とする。この構成によれば、駆動手段でテザー部を引っ張るとき、テザー部で第2ロッドを押したり又は引いたりすることによって、リンク部材の立ち上がりを助長することが可能となる。よって、アクティブニーパネルを収納位置から押出位置に可動させる際の動作性を確保することが可能となる。
【0015】
本発明では、一対の前記リンク部材は、前記収納位置のとき、開き方向に回動した位置状態をとり、前記テザー部は、環状をなし、一対の前記リンク部材において、それぞれの前記第1ロッドに外巻きされるとともに、それぞれの前記第2ロッドに内巻きされた取り付け状態をとることを要旨とする。この構成によれば、一対のリンク部材と1つのテザー部とを用いた簡素な構造によって、下肢支持体を押出位置に切り換えることが可能となる。
【0016】
本発明では、一対の前記リンク部材は、前記収納位置のとき、閉じ方向に回動した位置状態をとり、前記テザー部は、2枚構造をなし、第1テザー部の一端が第1リンク部材の前記第2ロッドに巻き付けられ、他端が第2リンク部材の第1ロッドに巻き付けられ、第2テザー部の終端が折り返された状態で前記第1リンク部材の前記第1ロッドに巻き付けられ、開放端が前記第2リンク部材の前記第1ロッド及び第2ロッドに外巻きされつつ、この部分が前記駆動手段に連結されていることを要旨とする。この構成によれば、例えば駆動手段を端位置に偏り配置することが可能となるので、部品の配置スペースを有効利用することが可能となる。よって、部品レイアウトの自由度が増すので、装置体格の小型化に一層寄与する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、車両用乗員保護装置において、装置体格を小型化することができ、乗員の下肢が下肢支持体に衝突したときの衝撃を効果的に吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態のアクティブニーボルスター装置の外観を示す側面図。
【図2】アクティブニーボルスター装置の平面図。
【図3】収納位置をとるアクティブニーボルスター装置の斜視図。
【図4】押出位置をとるアクティブニーボルスター装置の斜視図。
【図5】アクティブニーパネルの取付構造を示す模式図。
【図6】アクティブニーボルスター装置の電気構成を示すブロック図。
【図7】アクティブニーボルスター装置で大荷重を吸収するときの様子を示す模式図。
【図8】第2実施形態のアクティブニーボルスター装置であり、(a)は収納位置をとるときの斜視図、(b)は押出位置をとるときの斜視図。
【図9】別例のアクティブニーボルスター装置であり、(a)は収納位置をとるときの斜視図、(b)は押出位置をとるときの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した車両用乗員保護装置の第1実施形態を図1〜図7に従って説明する。
【0020】
図1及び図2に示すように、車両1には、車両1が急減速したときに乗員の下肢を支持して、乗員を衝撃から保護するアクティブニーボルスター装置2が設けられている。アクティブニーボルスター装置2は、車両1のインストルメントパネル3の下方に収納されている。アクティブニーボルスター装置2は、車両1に急減速が生じたことを検出すると、アクティブニーパネル(アクティブニーボルスター)4を乗員側に飛び出させ、アクティブニーパネル4で乗員の下肢を支持する。なお、アクティブニーボルスター装置2が車両用乗員保護装置に相当し、アクティブニーパネル4が下肢支持体に相当する。
【0021】
図1に示すように、インストルメントパネル3の下方には、車体幅方向(図1の紙面奥行き方向)に延びるインパネリインフォース5が設けられ、このインパネリインフォース5にアクティブニーボルスター装置2が取り付けられている。アクティブニーボルスター装置2は、板状の取り付けブラケット6を介してインパネリインフォース5に取り付け固定されている。
【0022】
図2に示すように、アクティブニーボルスター装置2には、前述したアクティブニーパネル4と、車両急減速時にアクティブニーパネル4を乗員側(車両後方)に突出させるパネル可動機構7とが設けられている。アクティブニーパネル4は、樹脂材が使用されるとともに、表面が周囲のインストルメントパネル3の形状に合わせて湾曲状に形成されている。また、アクティブニーパネル4は、1枚で乗員の左右の脚を押さえることが可能な面積に形成されている。
【0023】
図2〜図4に示すように、パネル可動機構7には、リンクの動きによってアクティブニーパネル4を車両後方に可動させるリンク機構8と、リンク機構8と協同してアクティブニーパネル4を車両後方に押し出すテザー部9と、アクティブニーパネル4を可動させる際の駆動源となるシリンダ10とが設けられている。なお、シリンダ10が駆動手段を構成する。
【0024】
リンク機構8は、車体高さ方向(図3及び図4のZ軸方向)に延びる軸L回りに回動可能な一対のリンク部材11,11を備える。リンク部材11,11は、車体幅方向(図3及び図4のY軸方向)において対称配置されている。本例の場合、紙面左側を第1リンク部材11aとし、紙面右側を第2リンク部材11bとする。
【0025】
図3及び図4に示すように、各リンク部材11a,11bは、細長い板状の一対のリンク片12,12を備える。リンク片12,12は、アクティブニーパネル4側に角度が付けられた曲がり形状(略ブーメラン状)に形成されている。これらリンク片12,12において曲がり部分には、回動軸13が突設され、これら回動軸13が取り付けブラケット6に枢支されている。そして、各リンク部材11a,11bは、回動軸13を支点として軸L回りに回動する。
【0026】
テザー部9は、例えば帯状の布からなり、一対のリンク部材11a,11bに巻き付けられている。テザー部9は、いわゆる力布であって自在に撓むことが可能であり、アクティブニーパネル4を裏面側から支持する。本例のテザー部9は、終端同士を繋ぎ合わせることにより環状に形成され、この繋ぎ合わせ部分に形成された延設部14がワイヤ15を介してシリンダ10に連結されている。本例のテザー部9は、手前側に巻き取られたとき、リンク部材11a,11bを閉じ方向回動させて立ち上がらせる役目を持つ。
【0027】
各リンク部材11a,11bにおいて車両後方側の端部には、一対のリンク片12,12を繋ぐように延びるロッド(以降、手前側ロッド16と記す)が各々架設されている。手前側ロッド16は、テザー部9の巻き付け箇所になるとともに、アクティブニーパネル4の取り付け箇所にもなっている。手前側ロッド16は、両端部をリンク片12,12の外方に突出させることによって、同部分がパネル取付部17として形成されている。また、各リンク部材11a,11bにおいて車両前方側の端部には、一対のリンク片12,12を繋ぐように延びるロッド(以降、奥側ロッド18と記す)が架設されている。奥側ロッド18は、テザー部9にてリンク部材11a,11bを立ち上がらせる役目を持つ軸である。なお、手前側ロッド16が第1ロッドに相当し、奥側ロッド18が第2ロッドに相当する。
【0028】
本例のテザー部9は、リンク部材11a,11bにおいて手前側ロッド16,16に外巻きに巻き掛けられ、奥側ロッド18,18に内巻きに巻き掛けられている。また、本例の場合、一対のリンク部材11a,11bは、非作動時(図3に示す収納位置のとき)、手前側ロッド16,16が互いに離れ、奥側ロッド18,18が互いに近くなった配置向きをとっている。
【0029】
本例のリンク部材11a,11bは、手前側が開く図3に示す開き状態をとるとき、テザー部9を奥に引き込む位置、つまりアクティブニーパネル4を奥に収納する収納位置をとる。一方、リンク部材11a,11bは、閉じ方向(図3の矢印A1方向)に回動すると、図4に示すように、テザー部9を乗員側に突出させる位置、つまりアクティブニーパネル4を乗員側に押し出す押出位置をとる。
【0030】
図2〜図4に示すように、シリンダ10には、シリンダ本体19内で動くピストン20と、ピストン20の駆動源となるガス発生体21とが設けられている。シリンダ10は、ピストン20がワイヤ15を介してテザー部9に連結されている。図3の拡大図に示すように、ピストン20は、シリンダ本体19の端部に形成された開口孔22を通じて、ワイヤ15に繋がっている。開口孔22は、ピストン20内の気密性確保のために、径の小さな孔にて形成される。
【0031】
シリンダ10とテザー部9との間には、引き込んだワイヤ15を引き込み位置で保持するストッパブラケット23が設けられている。この場合、ストッパブラケット23には、ワイヤ15に取り付けられた係止ピン24と、この係止ピン24を選択位置にて係止可能なピン係止部25とが設けられている。ピン係止部25は、例えば取り付けブラケット6に固定されるとともに、係止ピン24の引っ掛かり先として、ワイヤ15の引き込み方向(図3及び図4のX軸方向)に複数並ぶ係止溝26,26…が凹設されている。そして、ワイヤ15が引き込まれたとき、係止ピン24が引き込み位置に応じた所定の係止溝26に係止することにより、ワイヤ15の引き込み位置で保持される。なお、ストッパブラケット23が駆動手段を構成する。
【0032】
ガス発生体21は、通電により爆発し、ガスをピストン20に供給する。本例のシリンダ10は、ガス発生時、ピストン20を引き方向(図2の−X軸方向)に駆動して、ワイヤ15(テザー部9)を奥に引く動作をとる。つまり、本例のピストン20は、駆動出力が引き動作をとるとともに、この引き動作によってテザー部9を巻き取る。そして、ピストン20がワイヤ15を巻き取ったとき、ワイヤ15の引き込み位置がストッパブラケット23によって保持される。
【0033】
また、本例のシリンダ10は、ピストン20の駆動出力方向(図2の矢印R方向)が車体前後方向方向(図2のX軸方向)と略平行の向きをとっている。つまり、本例のシリンダ10は、長手方向を車体前後方向に沿わせることにより、略縦向きに配置されている。また、シリンダ10及びストッパブラケット23の部品群は、テザー部9に対して、車体幅方向の中央に配置されている。
【0034】
シリンダ10は、非作動時(ガス非発生時)、リンク部材11a,11bを回動させずアクティブニーパネル4を収納位置に位置させる。また、シリンダ10は、ガス発生体21からガスが供給されると、テザー部9を奥に引き込むことにより、リンク部材11a,11bを閉じ方向に回動させつつテザー部9を車体後方に押し出して、アクティブニーパネル4を押出位置に位置させる。
【0035】
図5に示すように、アクティブニーパネル4の裏面には、リンク部材11a,11bとの取り付け箇所となる取付片27が形成されている。この取付片27の裏面においてパネル長手方向(図5のY軸方向)の一端部寄りの位置には、一部分が開口した一対の長孔部28,28が形成されている。また、この裏面においてパネル長手方向の他端部寄りの位置には、アクティブニーパネル4を回動可能に軸支するスナップフィット構造の一対の係止部29,29が設けられている。
【0036】
アクティブニーパネル4は、一対の長孔部28,28に第2リンク部材11bの手前側ロッド16の両端のパネル取付部17,17を引っ掛けるとともに、一対の係止部29,29に第1リンク部材11aの手前側ロッド16の両端のパネル取付部17,17を係止することによって、リンク部材11a,11bに連結されている。そして、リンク部材11a,11bが回動したとき、第1リンク部材11aが係止部29内で摺動回転するとともに、第2リンク部材11bの手前側ロッド16が長孔部28内を動くことにより、アクティブニーパネル4の直線移動が許容される。
【0037】
図6に示すように、アクティブニーボルスター装置2には、アクティブニーボルスター装置2の動作を制御する制御部30が設けられている。制御部30の入力側には、車両1の加速度を検出する加速度センサ31が接続されている。また、制御部30の出力側には、前述したシリンダ10の他に、乗員の上肢を保護するエアバック装置32が接続されている。制御部30は、加速度センサ31からの検出信号を基に、車両1に急減速が発生したことを確認すると、シリンダ10(アクティブニーボルスター装置2)やエアバック装置32を駆動する。
【0038】
次に、本例のアクティブニーボルスター装置2の動作を、図2〜図4、図7を用いて説明する。
図2の実線や図3に示すように、アクティブニーボルスター装置2は、非作動時、リンク部材11a,11bが開き状態をとることによって、アクティブニーパネル4が奥に収納された収納位置をとっている。このため、アクティブニーパネル4が乗員側に飛び出しておらず、シートに着座した乗員の下肢にアクティブニーパネル4が接触してしまうことがないので、アクティブニーパネル4が邪魔になることはない。
【0039】
制御部30は、加速度センサ31の検出信号を基に、車両1に急減速が発生したことを確認すると、ガス発生体21に通電する。これにより、ガス発生体21が爆発し、ガス発生体21から高圧ガスがシリンダ10内に流入する。高圧ガスがシリンダ10内に流入すると、ピストン20がシリンダ10の奥側(図3の矢印R1方向)に移動し、ワイヤ15及びテザー部9を奥に引っ張る。なお、ピストン20は、ワイヤ15がストッパブラケット23の係止ピン24が最も奥の係止溝26に引っ掛かるまでワイヤ15を引く。
【0040】
このとき、テザー部9は、一対のリンク部材11a,11bにおいて、奥側ロッド18,18を内側から押しながら、手前側ロッド16,16を滑ることにより、リンク部材11a,11bを立ち上がらせる。つまり、テザー部9が引っ張られると、一対のリンク部材11a,11bが閉じ方向(図3の矢印A1方向)に回動する動きをとる。これにより、テザー部9とともにアクティブニーパネル4が乗員側に移動する動きをとる。
【0041】
図2の一点鎖線や図4に示すように、リンク部材11a,11bが最大量回転すると、リンク部材11a,11bは停止する。そして、リンク部材11a,11bが最大量回動すると、リンク部材11a,11bが閉じ切り、アクティブニーパネル4が押出位置に切り換わる。よって、車両1が急減速したとき、乗員の下肢がアクティブニーパネル4にて保護される。
【0042】
また、図7に示すように、アクティブニーパネル4で乗員の下肢を支持したとき、アクティブニーパネル4に大荷重(衝撃)が入力された際には、アクティブニーパネル4を撓ませながら、テザー部9の張力によって、アクティブニーパネル4に入力された大荷重を吸収する。これにより、乗員の下肢に過度な衝撃が加わらないので、乗員の下肢の安全な保護に効果が高くなる。
【0043】
以上により、本例においては、シリンダ10を駆動源としてアクティブニーパネル4を可動させるリンク機構8(リンク部材11a,11b)を回転支持のみで使用するので、部材同士間の無駄な摺動部分がなく、シリンダ10でアクティブニーパネル4を駆動させる際のエネルギー効率がよくなる。よって、小型のシリンダ10を使用しても、アクティブニーパネル4を押出位置に移動させることが可能となるので、アクティブニーボルスター装置2の装置体格の小型化に繋がる。
【0044】
また、駆動出力が引き動作をとるシリンダ10を用い、このシリンダ10でワイヤ15を引っ張ることによりリンク部材11a,11bを回動させて、アクティブニーパネル4を押出位置に位置させる。よって、本例のようにワイヤ15でテザー部9とシリンダ10とを繋ぐようにすれば、ワイヤ15を延ばせる全ての箇所がシリンダ10の配置場所として使用可能となるので、部品配置のレイアウト性が向上する。このため、部品の配置スペースの有効利用が可能となるので、装置小型化に一層寄与する。
【0045】
さらに、本例の場合は、テザー部9によってアクティブニーパネル4を裏面から押し出し支持するので、アクティブニーパネル4が押出位置に位置したとき、乗員の下肢がアクティブニーパネル4に衝突しても、この衝撃をテザー部9の張力で受けることが可能となる。よって、アクティブニーパネル4に下肢が衝突しても、このときの衝撃がテザー部9の張力で効果的に吸収されるので、乗員の下肢がアクティブニーパネル4に衝突したときの乗員の下肢にかかる衝撃を、好適な吸収力で受けることも可能となる。
【0046】
本実施形態の構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)アクティブニーパネル4を押出位置に押し出すリンク機構8を回転支持のみで使用するので、シリンダ10のエネルギー効率がよくなる。よって、シリンダ10の小型化が可能となり、ひいてはアクティブニーボルスター装置2の装置体格を小型化することができる。また、シリンダ10を引き動作(引っ張り方向)で使用し、ワイヤ15でテザー部9を引く動作によってアクティブニーパネル4を収納位置から押出位置に切り換える。よって、シリンダ10はワイヤ15で繋がりが維持される箇所であれば、どこでも配置可能となるので、レイアウト性が向上する。このため、効率のよい部品配置が可能となるので、アクティブニーボルスター装置2の体格小型化に寄与する。また、テザー部9によってアクティブニーパネル4を裏面から押し出し支持するので、乗員の下肢がアクティブニーパネル4に衝突しても、このときの衝撃をテザー部9の張力で効果的に吸収することが可能となる。よって、アクティブニーパネル4に乗員の下肢が衝突したときに下肢にかかる衝撃を、好適な吸収力で受け止めることができる。
【0047】
(2)比較的重量の軽いリンク部材11a,11bやテザー部9等によって、アクティブニーパネル4を押し出すことが可能である。よって、例えば重量の重い鉄板等を使用せずに済むので、アクティブニーボルスター装置2を軽量化することができる。
【0048】
(3)アクティブニーパネル4に大荷重が入力されたときには、アクティブニーパネル4を撓ませながら、テザー部9の張力で支持するので、アクティブニーパネル4に乗員の下肢が衝突したときのダメージ低減に効果が高くなる。
【0049】
(4)シリンダ10でテザー部9が引っ張られたとき、テザー部9がリンク部材11a,11bの各奥側ロッド18,18を押すことにより、リンク部材11a,11bが立ち上がる動きをとる。このため、テザー部9の押しによってリンク部材11a,11bの立ち上がりを助長することが可能となるので、リンク部材11a,11bの閉じ方向の回転の動作性が確保される。よって、アクティブニーパネル4を収納位置から押出位置に切り換える際の動作性を確保することができる。
【0050】
(5)本例のアクティブニーボルスター装置2では、一対のリンク部材11a,11bと1枚の環状のテザー部9を使用するだけで済むので、アクティブニーボルスター装置2の構造が簡素で済む。
【0051】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を図8に従って説明する。なお、本例は、第1実施形態のパネル可動機構7を他の構造に変更した実施例であり、他の基本的な構成については第1実施形態と同様である。よって、第1実施形態と同一部分は同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ詳述する。
【0052】
図8に示すように、本例の場合、一対のリンク部材11a,11bは、非作動時(図8(a)に示す収納位置のとき)、手前側ロッド16,16が互いに近くなり、奥側ロッド18,18が互いに離れた配置向きをとっている。つまり、本例のリンク部材11a,11bは、非作動時(収納位置のとき)、第1実施形態と比較して、回動軸13回りに180度回転した位置状態をとっている。また、リンク部材11a,11bは、非作動時、閉じ状態をとっており、テザー部9が引っ張られると、開き方向(図8(a)の矢印A2方向)に回動する。
【0053】
また、本例のテザー部9は、第1テザー部9aと第2テザー部9bとの2枚の布(2枚構造)からなる。そして、第1テザー部9aの一端が第1リンク部材11aの奥側ロッド18に巻き付けられ、他端が第2リンク部材11bの手前側ロッド16に巻き付けられている。また、第2テザー部9bは、終端(一端)が所定量折り畳まれてから第1リンク部材11aの手前側ロッド16に巻き付けられ、開放端(他端)が第2リンク部材11bの手前側ロッド16及び奥側ロッド18に摺動可能に外巻きされている。そして、第2テザー部9bの開放端に形成された延設部14が、ワイヤ15を介してシリンダ10に連結されている。
【0054】
本例のシリンダ10及びストッパブラケット23は、車体幅方向(図8のY軸方向)において端部に偏り配置されている。つまり、本例のシリンダ10及びストッパブラケット23は、インストルメントパネル3を横断するコラムチューブ(図示略)を避けるために、車体幅方向において端位置にオフセット配置されている。
【0055】
アクティブニーボルスター装置2が図8(a)に示す収納位置をとるとき、ガス発生体21が爆発してシリンダ10が引き動作をとると、シリンダ10は第2テザー部9bを引く動作をとる。このとき、第2テザー部9bが開放端側で第2リンク部材11bの奥側ロッド18を摺動しながら押すので、第2リンク部材11bが開き方向(図8(a)の矢印A2方向)に回動して立ち上がる。
【0056】
また、このとき、第2テザー部9bが終端にて第1リンク部材11aの奥側ロッド18を引っ張るので、第1リンク部材11aも開き方向(図8(a)の矢印A2方向)に回動して立ち上がる。そして、リンク部材11a,11bが開き方向に回動すると、終端部位にて折り畳まれていた第2テザー部9bがこのリンク回動に伴って張り、第2テザー部9bが乗員側に押し出される。
【0057】
以上のように、シリンダ10が引き動作をとったとき、2枚の第1テザー部9a及び第2テザー部9bが共同して、一対のリンク部材11a,11bが開き方向(図8(a)の矢印A2方向)に回動する動きをとると、テザー部9とともにアクティブニーパネル4が乗員側に移動する動きをとる。そして、図8(b)に示すように、リンク部材11a,11bが最大量回転すると、リンク部材11a,11bが停止し、アクティブニーパネル4が押出位置に位置し、乗員の下肢を保護する。
【0058】
本実施形態の構成によれば、第1実施形態に記載の(1)〜(4)に加え、以下の効果を得ることができる。
(6)シリンダ10及びストッパブラケット23の部品群を、車体幅方向の端部に偏り配置することができる。よって、仮にインストルメントパネル3にコラムチューブ等が横断していても、これを避けるようにアクティブニーボルスター装置2を配置することができる。
【0059】
なお、実施形態はこれまでに述べた構成に限らず、以下の態様に変更してもよい。
・各実施形態において、図9に示すように、シリンダ10の配置向きを、駆動出力が車体幅方向に沿う向きとしてもよい。なお、図9(a)はリンク部材11a,11bが収納位置をとるときを示し、図9(b)はリンク部材11a,11bが押出位置をとるときを示す。この場合、テザー部9は、終端が第1リンク部材11aの手前側ロッド16に巻き付けられ、開放端が第2リンク部材11bの手前側ロッド16に外巻きされた後、ワイヤ15を介してシリンダ10に連結される。また、第1リンク部材11a及び第2リンク部材11bは、奥側ロッド18が省略されている。この場合、アクティブニーボルスター装置2を車体前後方向において薄型化することができる。
【0060】
・各実施形態において、アクティブニーパネル4の表面に、例えばスポンジ等の吸収部材を設け、テザー部9とこの吸収部材とで、一層のダメージ低減効果を狙ってもよい。
・各実施形態において、車両急減速の有無判定は、加速度センサ31からの検出信号を基に判断する方式をとることに限定されない。例えば、車両1に衝撃センサを搭載し、衝撃センサのセンサ出力にて衝撃有無を判断するなど、他の方式に適宜変更可能である。
【0061】
・各実施形態において、リンク部材11a,11bは、一対のリンク片12,12を対向配置してロッド16,18で繋げた構造に限定されず、例えば1つのリンク片12に1本のロッドを取り付け固定した形状でもよい。
【0062】
・各実施形態において、各リンク片12,12の形状は、細長い真っ直ぐの板状に限定されず、他の形状に変更可能である。
・各実施形態において、アクティブニーパネル4は、表面が湾曲状を呈する形状をとることに限定されず、例えば真っ直ぐな平板等、適宜変更可能である。
【0063】
・各実施形態において、下肢支持体は、パネル状の部材(アクティブニーパネル4)に限定されず、乗員の下肢を支持できる形状であれば、他の形状に変更してよい。
・各実施形態において、アクティブニーパネル4のリンク部材11a,11bへの取付構造は、長孔部28及び係止部29を用いた構造に限らず、リンク部材11a,11bの回動をアクティブニーパネル4の直線移動に変換できる構造を有していれば、他の構造に変更可能である。
【0064】
・各実施形態において、ワイヤ15の引き込み位置の保持は、シリンダ10とは別部材のストッパブラケット23により行うことに限定されない。例えば、ワイヤ15の位置保持機能(ロック機構)を有するシリンダを用い、このシリンダ内のロック機構にてワイヤ15の引き込み位置を保持してもよい。
【0065】
・各実施形態において、駆動手段は、ガスによりピストン20が動くシリンダ10に限定されず、他の種類を使用可能である。
・各実施形態において、テザー部9は、帯状の布を使用したものであれば、形状や長さ等を適宜変更してもよい。
【0066】
・各実施形態において、アクティブニーボルスター装置2(パネル可動機構7)は、駆動源からの出力によってリンク機構8が回ってテザー部9が押し出される構造のものであれば、他の構造に適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…車両、2…車両用乗員保護装置としてのアクティブニーボルスター装置、4…下肢支持体としてのアクティブニーパネル、8…リンク機構、9…テザー部、9a…第1テザー部、9b…第2テザー部、10…駆動手段を構成するシリンダ、11…リンク部材、11a…第1リンク部材、11b…第2リンク部材、16…第1ロッドとしての手前側ロッド、18…第2ロッドとしての奥側ロッド、23…駆動手段を構成するストッパブラケット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下肢支持体を乗員側に移動させることにより、当該下肢支持体にて乗員の下肢を支持し、該乗員を衝撃から保護する車両用乗員保護装置において、
前記下肢支持体を裏面から支持する帯状のテザー部と、
前記テザー部を前記乗員側に可動させるリンク機構と、
駆動出力が引き動作をとり、当該引き動作によって前記テザー部を引っ張って保持するとき、収納位置に位置する前記下肢支持体を、前記テザー部が前記リンク機構の回動に伴って乗員側に押し出すことにより、当該下肢支持体を乗員側に飛び出した押出位置に位置させる駆動手段と
を備えたことを特徴とする車両用乗員保護装置。
【請求項2】
前記下肢支持体が前記押出位置に位置するとき、当該下肢支持体に衝撃荷重が入力されると、前記下肢支持体を撓ませながら、前記テザー部の張力にて前記衝撃荷重を吸収する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用乗員保護装置。
【請求項3】
前記リンク機構は、対称配置された一対のリンク部材を備え、
これら前記リンク部材は、前記テザー部が巻き付けられる第1ロッドと、前記テザー部が引っ張られたとき、当該テザー部にて前記リンク部材を立ち上げる第2ロッドとを備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用乗員保護装置。
【請求項4】
一対の前記リンク部材は、前記収納位置のとき、開き方向に回動した位置状態をとり、
前記テザー部は、環状をなし、一対の前記リンク部材において、それぞれの前記第1ロッドに外巻きされるとともに、それぞれの前記第2ロッドに内巻きされた取り付け状態をとる
ことを特徴とする請求項3に記載の車両用乗員保護装置。
【請求項5】
一対の前記リンク部材は、前記収納位置のとき、閉じ方向に回動した位置状態をとり、
前記テザー部は、2枚構造をなし、第1テザー部の一端が第1リンク部材の前記第2ロッドに巻き付けられ、他端が第2リンク部材の第1ロッドに巻き付けられ、第2テザー部の終端が折り返された状態で前記第1リンク部材の前記第1ロッドに巻き付けられ、開放端が前記第2リンク部材の前記第1ロッド及び第2ロッドに外巻きされつつ、この部分が前記駆動手段に連結されている
ことを特徴とする請求項3に記載の車両用乗員保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−6477(P2013−6477A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139597(P2011−139597)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)