説明

車両用前照灯のリフレクタ支持構造

【課題】部品点数と組付工数を削減してコストダウンを図ることができる車両用前照灯のリフレクタ支持構造を提供すること。
【解決手段】ハウジング2とその前面開口部を覆うアウタレンズ3によって画成される灯室4内に少なくとも光源と該光源を保持するリフレクタ5を備えて成る車両用前照灯1の前記リフレクタ5を前記ハウジング2に対して回動可能に支持する構造として、前記リフレクタ5側に設けられたピボット軸8の端部を回動可能に支持する軸受部9を前記ハウジング2に形成する。又、前記軸受部9の成形上前記ハウジング2に発生する食い切り孔9bを呼吸孔とし、該呼吸孔9bをキャップ10で塞ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用前照灯のリフレクタをハウジングに対して回動可能に支持する構造にに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用前照灯(ヘッドランプ)は、ハウジングとその開口部を覆うアウタレンズによって画成される灯室内に少なくとも光源と該光源を保持するリフレクタを備えているが、これには光軸を調整するためのエーミング機構(光軸調整機構)が設けられている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
斯かるエーミング機構が設けられた車両用前照灯におけるリフレクタの支持構造の従来例を図7〜図9に示す。
【0004】
即ち、図7はリフレクタの従来の支持構造を示す斜視図、図8は同正面図、図9は図8のB−B線断面図であり、ハウジング102には、不図示のリフレクタの背面に取り付けられたピボット軸108の端部を回動可能に支持する軸受部120A(図9参照)が形成されたホルダ120が上下2本のネジ121によって取り付けられている。ここで、ホルダ120に形成された前記軸受部120Aは、図9に示すように、前記ピボット軸108の端部に形成されたボール108aを受ける球面座120aと、軸受部120Aに嵌め込まれたピボット軸108のボール108aの抜けを防ぐ係止爪120bによって構成されている。
【0005】
而して、ホルダ120に形成された軸受部120Aにピボット軸108のボール108aを嵌め込めば、リフレクタはボール108aを中心としてハウジング102に対して回動可能に支持され、該リフレクタを例えば上下方向に回動(傾動)させれば、該リフレクタに保持された光源の光軸が左右方向に調整される。尚、ホルダ120には、軸受部120Aの成形上、食い切り孔120c(図9参照)が不可避的に形成されるが、ホルダ120はハウジング102に嵌め込まれて固定されるため、食い切り孔120cはハウジング102によって完全に密閉される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平7−032804号公報
【特許文献2】特開平8−022704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図7〜図9に示したリフレクタの従来の支持構造では、ピボット軸108を回動可能に支持する軸受部120Aが形成されたホルダ120をハウジング102とは別体に設け、このホルダ120を2本のネジ121によってハウジング102に取り付ける構成が採用されていたため、部品点数が増える他、ホルダ120をネジ121によってハウジング102に取り付ける必要があるために組付工数が増えてコストアップを招くという問題があった。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、部品点数と組付工数を削減してコストダウンを図ることができる車両用前照灯のリフレクタ支持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、ハウジングとその前面開口部を覆うアウタレンズによって画成される灯室内に少なくとも光源と該光源を保持するリフレクタを備えて成る車両用前照灯の前記リフレクタを前記ハウジングに対して回動可能に支持する構造として、前記リフレクタ側に設けられたピボット軸の端部を回動可能に支持する軸受部を前記ハウジングに形成したことを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記軸受部の成形上前記ハウジングに発生する食い切り孔を呼吸孔とし、該呼吸孔をキャップで塞ぐことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記呼吸孔を覆う円筒状のカバーを前記ハウジングの背面に一体に形成し、該カバーの外周に前記キャップを嵌め込むとともに、同カバーの下部に形成された開口部を下方から覆うバッフルプレートを前記ハウジングの背面に一体に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、リフレクタ側に設けられたピボット軸の端部を回動可能に支持する軸受部をハウジングに形成したため、従来必要であった別体のホルダ及びこれをハウジングに取り付けるネジ等の締結具が不要となり、部品点数と組付工数を削減してコストダウウンを図ることができる。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、ハウジングに軸受部を形成した場合にハウジングに不可避的に形成される食い切り孔を呼吸孔として利用したため、呼吸孔をハウジングに別途設ける必要がなく、この呼吸孔を介して灯室内を換気することによってアウタレンズ内面の曇りを防ぐことができる。又、この呼吸孔をキャップによって塞いだため、該呼吸孔から灯室内への水等の侵入を防ぐことができる。
【0014】
請求項3記載の発明によれば、ハウジングに開口する呼吸孔をキャップによって塞いでも、灯室内の換気はカバーの下部に形成された開口部を介してなされ、この開口部はハウジングに一体に形成されたバッフルプレートによって下方から覆われるだめ、開口部から灯室内への水等の侵入が防がれる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るリフレクタ支持構造を備える車両用前照灯の側断面図である。
【図2】車両用前照灯のリフレクタ支持部の構造を示すハウジング背面の部分斜視図である。
【図3】車両用前照灯のリフレクタ支持部の構造を示すハウジングの部分背面図である。
【図4】車両用前照灯のリフレクタ支持部の構造を示すハウジング正面の部分斜視図である。
【図5】車両用前照灯のリフレクタ支持部の構造を示すハウジングの部分正面図である。
【図6】図5のA−A線断面図である。
【図7】リフレクタの従来の支持構造を示す斜視図である。
【図8】リフレクタの従来の支持構造を示す正面図である。
【図9】図8のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は本発明に係るリフレクタ支持構造を備える車両用前照灯の側断面図、図2は同車両用前照灯のリフレクタ支持部の構造を示すハウジング背面の部分斜視図、図3は同車両用前照灯のハウジングの部分背面図、図4は同ハウジング正面の部分斜視図、図5は同ハウジングの部分正面図、図6は図5のA−A線断面図である。
【0018】
本実施の形態に係る車両用前照灯1は、四輪車両の前端部の左右に設けられるヘッドランプであって、図1に示すように、ハウジング2とその前面開口部を覆うアウタレンズ3によって画成される灯室4内にリフレクタ5と該リフレクタ5に保持された光源である不図示のバルブ、ハウジング2とリフレクタ5の間の隙間を覆うエクステンション6等を収容して構成されている。尚、左右の車両用前照灯1の基本構成は同じであるため、以下、一方の車両用前照灯1についてのみ図示及び説明する。
【0019】
上記ハウジング2は、不透明な樹脂によって一体成形され、その前面開口部の周縁には車両前方(図1の左方)に向かって開く断面コの字状の嵌合凹部2aが一体に形成されている。又、前記アウタレンズ3は透明な樹脂によって一体成形され、その周縁に車両後方に向かって一体に形成されたリブ状の脚部3aをハウジング2の前記嵌合凹部2aに車両前方から嵌め込み、その嵌め込み部をホットメルト7によって接着することによって、該アウタレンズ3がハウジング2に取り付けられている。尚、前記リフレクタ5とエクステンション6も樹脂にてそれぞれ別体に成形されており、これらの表面にはアルミ蒸着等の反射処理が施されている。
【0020】
ところで、図1に示すように、前記リフレクタ5の背面上部にはピボット軸8が後方に向かって水平に取り付けられており、該ピボット軸8の先端には球状のボール8aが形成されている。又、ハウジング2の背面のピボット軸8に対向する部位には円筒状のボス2Aが後方に向かって一体に突設されており、このボス2Aの内部には、前記ピボット軸8の先端に形成されたボール8aを回動可能に嵌合保持するために軸受部9が形成されている。
【0021】
上記軸受部9は、図2〜図6に示すように、ボス2A内の奥に放射状に形成された3本の支持部9Aと、軸受部9に嵌め込まれたピボット軸8のボール8aの抜けを防ぐためにボス2A内の前端側に形成された扇状の3つの係止爪9Bによって構成されている。そして、図6に示すように、前記各支持部9Aにはピボット軸8のボール8aを受けてこれを嵌合保持するための凹球状の球面座9aがそれぞれ形成されている。
【0022】
ところで、本実施の形態のようにハウジング2に軸受部9を直接形成する場合、該軸受部9の成形上、ハウジング2には3つの扇形の食い切り孔9bが不可避的に形成されるが、本実施の形態では食い切り孔9bを換気用の呼吸孔として利用し、これらの呼吸孔9bをキャップ10によって塞ぐ構成を採用している。
【0023】
ところで、図2及び図3に示すように、ハウジング2の背面には前記呼吸孔9bの周囲を覆う円筒状のカバー11が後方に向かって一体に突設されており、このカバー11の外側には、下部に開口部12aか形成された切欠円筒状のカバー12が同じく後方に向かって同心状に一体に突設されている。ここで、内側のカバー11の下部には切欠き状の矩形の開口部11aが形成されており、該カバー11の外周に前記キャップ10を嵌め込むことによって前記呼吸孔9bがキャップ10によって塞がれる。尚、キャップ10をカバー11の外周に嵌め込んだ状態において、カバー11の下部に形成された開口部11aはキャップ10によって塞がれておらず、該開口部11aと呼吸孔9bを介して灯室4内は大気に連通している。
【0024】
又、ハウジング2の背面には、各カバー11,12の下部にそれぞれ開口する開口部11a,12aを下方から覆うバッフルプレート13が後方に向かって一体に突設されている。尚、バッフルプレート13は中央から左右に向かって下方に傾斜するよう逆V字状に形成されている。
【0025】
而して、リフレクタ5に取り付けられたピボット軸8の先端に形成されたボール8aをハウジング2に形成された軸受部9に前方から差し込めば、軸受部9の3つの係止爪9Bが弾性変形してボール8aの挿入を許容し、ボール8aが図1に示すように軸受部9の3本の支持部9Aの各球面座9aに嵌合して保持された状態では、3つの係止爪9Bは自身の弾性によって元の状態に復帰し、該係止爪9Bがボール8aに係合することによってボール8aの抜けが防がれ、リフレクタ5はハウジング2に対してボール8aを中心として回動可能に支持される。
【0026】
ところで、図1に示すように、リフレクタ5の背面下部には取付部5Aが後方(図1の右方)に向かって一体に突設されている。又、ハウジング2の下部(リフレクタ5の取付部5Aに対向する部位)には円筒状のボス2Bが一体に形成されており、このボス2Bには電動アクチュエータ14が保持されている。この電動アクチュエータ14からは前後に往復直線移動可能なアジャストスクリュー15が前方に向かって水平に延びており、このアジャストスクリュー15の先端部はリフレクタ5の背面下部に突設された前記取付部5Aに係合保持されている。尚、図示しないが、電動アクチュエータ14内には、駆動源である電動モータ、該電動モータの回転をアジャストスクリュー15の往復直線運動に変換するラックアンドピニオン機構等が収容されている。
【0027】
而して、電動アクチュエータ14によってアジャストスクリュー15を前方又は後方に直線移動させれば、該アジャストスクリュー15の先端部を保持するリフレクタ5及びこれに保持された不図示のバルブがピボット軸8のボール8aを支点として上下に傾動し、これによって光軸の上下方向の調整がなされる。尚、図示しないが、左右方向の光軸調整は、左右方向用の不図示のエーミング機構によって同様になされる。
【0028】
以上のように、本実施の形態に係る車両用前照灯1においては、リフレクタ5側に設けられたピボット軸8の端部に形成されたボール8aを回動可能に支持する軸受部9をハウジング2に直接形成したため、従来必要であった別体のホルダ及びこれをハウジングに取り付けるネジ等の締結具が不要となり、部品点数と組付工数を削減してコストダウンを図ることができる。
【0029】
又、本実施の形態では、ハウジング2に軸受部9を形成した場合にハウジング2に不可避的に形成される食い切り孔を呼吸孔9bとして利用したため、呼吸孔9bをハウジング2に別途設ける必要がなく、この呼吸孔9bを介して灯室4内を換気することによってアウタレンズ3の内面の曇りを防ぐことができる。
【0030】
更に、本実施の形態では、呼吸孔9bから灯室4内への水等の浸入を防ぐために呼吸孔9bをキャップ10によって塞いだが、この場合であっても、灯室4内の換気はカバー11の下部に形成された開口部11aを介してなされ、この開口部11aはハウジング2の背面に一体に形成されたバッフルプレート13によって下方から覆われるだめ、開口部11aから灯室4内への水等の侵入が防がれる。尚、外側のカバー11の外周に沿って落下する水はバッフルプレート13によって受けられるが、バッフルプレート13は中央から左右に向かって下方に傾斜するよう逆V字状に形成されているため、該バッフルプレート13上に落下した水は左右に分かれてバッフルプレート13の左右の端部から落下する。
【符号の説明】
【0031】
1 車両用前照灯
2 ハウジング
2A,2B ハウジングのボス
2a ハウジングの凹部
3 アウタレンズ
3a アウタレンズの脚部
4 灯室
5 リフレクタ
5A リフレクタの取付部
6 エクステンション
7 ホットメルト
8 ピボット軸
8a ピボット軸のボール
9 軸受部
9A 軸受部の支持部
9B 軸受部の係止爪
9a 支持部の球面座
9b 呼吸孔(食い切り孔)
10 キャップ
11,12 カバー
11a,12a カバーの開口部
13 バッフルプレート
14 電動アクチュエータ
15 アジャストスクリュー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングとその前面開口部を覆うアウタレンズによって画成される灯室内に少なくとも光源と該光源を保持するリフレクタを備えて成る車両用前照灯の前記リフレクタを前記ハウジングに対して回動可能に支持する支持構造であって、
前記リフレクタ側に設けられたピボット軸の端部を回動可能に支持する軸受部を前記ハウジングに形成したことを特徴とする車両用前照灯のリフレクタ支持構造。
【請求項2】
前記軸受部の成形上前記ハウジングに発生する食い切り孔を呼吸孔とし、該呼吸孔をキャップで塞ぐことを特徴とする請求項1記載の車両用前照灯のリフレクタ支持構造。
【請求項3】
前記呼吸孔を覆う円筒状のカバーを前記ハウジングの背面に一体に形成し、該カバーの外周に前記キャップを嵌め込むとともに、同カバーの下部に形成された開口部を下方から覆うバッフルプレートを前記ハウジングの背面に一体に形成したことを特徴とする請求項2記載の車両用前照灯のリフレクタ支持構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−114013(P2012−114013A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263185(P2010−263185)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】