説明

車両用始動装置

【課題】 エンジン惰性回転中のキー操作によるスタータモータの作動を禁止する。
【解決手段】 スタータモータ5にスタートスイッチ4とインヒビットリレースイッチ9aとを介して通電するスタータ駆動回路8と、前記インヒビットリレースイッチ9a閉結用のリレーコイル9bに車両の駆動系が遮断状態のときにONとなる駆動系遮断検知スイッチ11を介して通電するインヒビットリレー回路10とを備える。ここにおいて、前記インヒビットリレー回路10の接地側にスイッチング素子13を設ける。そして、スタートスイッチ4のON操作時に、エンジン回転中であるときは、ECM12により、前記スイッチング素子13をOFFにして、スタータモータ5の作動を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタータモータによりエンジンを始動させる車両用始動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用始動装置では、スタートスイッチのON操作と、駆動系遮断検知スイッチにより車両の駆動系が遮断状態にあることが検知されていることとを条件として、スタータモータを作動させるようにしている。駆動系遮断検知スイッチとしては、ギアポジションがニュートラル又はパーキングであるときにONとなるインヒビットスイッチを用いている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−215052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の車両用始動装置では、ギアポジションがニュートラル又はパーキングであるときに、インヒビットスイッチがONとなり、この状態では、運転者のキー操作次第でスタータが作動する。
【0005】
このため、エンジンの惰性回転中に運転者がスタートスイッチをON操作した場合、スタータモータが惰性回転中のエンジンに再飛び込みし、エンジン(リングギア)からピニオンシャフトに過大な荷重が印加される結果、異音が発生したり、耐久性の低下を招くおそれがある。
【0006】
従って、エンジンの惰性回転中のスタータモータの始動を禁止する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、スタートスイッチのON操作時に、エンジン回転中であるときは、スタータモータの作動を禁止する手段を設ける構成とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エンジン回転中のキー操作によるスタータモータの作動を禁止でき、異音の発生や耐久性の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態を示す車両用始動装置の回路図
【図2】本発明の他の実施形態を示す車両用始動装置の回路図
【図3】ECMでの制御内容を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0011】
図1は本発明の一実施形態(AT仕様)を示す車両用始動装置の回路図である。
【0012】
図中1はバッテリ、2はエンジンキースイッチである。エンジンキースイッチ2は、イグニッションスイッチ(イグニッション接点)3とスタートスイッチ(スタータ接点)4とを有する。
【0013】
スタータを構成するスタータモータ5は、スタータ駆動回路8に接続されている。スタータ駆動回路8は、バッテリ1から、スタートスイッチ4、及び、インヒビットリレー9のリレースイッチ9aを介して、スタータモータ5に通電するように構成されている。
【0014】
詳しくは、スタータは、スタータモータ5の他、ソレノイドスイッチ6aとソレノイドコイル6bとを有し、スタータ駆動回路8に介装されるソレノイドコイル6bへの通電により、ソレノイドスイッチ6aが閉結し、ソレノイドスイッチ6aの閉結後はバッテリ1から回路7によりスタータモータ5へ電流が流れるように構成されている。
【0015】
インヒビットリレー9は、常開のインヒビットリレースイッチ9aと、そのリレースイッチ9a閉結用のインヒビットリレーコイル9bとを含んで構成される。
【0016】
インヒビットリレーコイル9bは、インヒビットリレー回路10に接続されている。インヒビットリレー回路10は、バッテリ1から、イグニッションスイッチ3、及び、インヒビットスイッチ11を介して、インヒビットリレーコイル9bに通電するように構成されている。
【0017】
インヒビットスイッチ11は、変速機のギアポジションがニュートラル又はパーキングであるときにONとなるギアポジションスイッチであり、車両の駆動系が遮断状態にあることを検知してONとなる駆動系遮断検知スイッチである。
【0018】
従って、始動に際し、ギアポジションがニュートラル又はパーキングで、インヒビットスイッチ(ギアポジションスイッチ)11がONになっている状態で、イグニッションスイッチ3がONとなると、インヒビットリレー回路10が成立する。これにより、バッテリ1からイグニッションスイッチ3とインヒビットスイッチ11とを介してインヒビットリレーコイル9bに通電され、そのリレースイッチ9aが閉結する。
【0019】
この状態で、スタートスイッチ4がONになると、スタータ駆動回路8が成立する。これにより、バッテリ1からスタートスイッチ4とインヒビットリレースイッチ9aとを介してソレノイドコイル6bに通電され、ソレノイドスイッチ6aが閉結する。
【0020】
これにより、バッテリ1からソレノイドスイッチ6aを介してスタータモータ5に通電され、スタータモータ5が作動する。
【0021】
ここにおいて、インヒビットリレー回路10の接地側を、マイコンを含んで構成されるECM(エンジンコントロールモジュール)12により制御する。
【0022】
すなわち、インヒビットリレー回路10の接地側をECM12内に導いて、ここにスイッチング素子(トランジスタ)13を直列に介装し、このスイッチング素子13を介して接地する構成とする。
【0023】
このように、インヒビットリレー回路10の接地側に直列に介装されるスイッチング素子13を設け、このスイッチング素子13のON・OFFをECM12で制御することにより、ECM12によってスタータモータ5の作動許可/禁止を制御する。具体的には、スタートスイッチ4のON操作時に、エンジン回転中であるときは、スイッチング素子13をOFFにして、スタータモータ5の作動を禁止する。
【0024】
本実施形態では、エンジン回転中であることを検知するため、エンジン回転数を検出する回転数検出手段としての回転センサ14を備え、ECM12では、後述する図3のフローチャートに従って、スイッチング素子13のON・OFFを制御する。
【0025】
図2は本発明の他の実施形態(MT仕様)を示す車両用始動装置の回路図である。図1と同一要素には同一符号を付して異なる要素について説明する。
【0026】
インヒビットリレー回路10は、バッテリ1から、イグニッションスイッチ3、及び、クラッチスイッチ15を介して、インヒビットリレーコイル9bに通電するように構成されている。
【0027】
クラッチスイッチ15は、クラッチが開放(切離)状態のときにONとなるスイッチであり、車両の駆動系が遮断状態にあることを検知してONとなる駆動系遮断検知スイッチである。
【0028】
また、クラッチスイッチ15の信号をライン16によりECM12に読込むようにしており、このため、リレーコイル9bとスイッチング素子13との間にダイオード17を介装している。
【0029】
次に、図1及び図2のECM12での制御内容について、図3のフローチャートにより説明する。
【0030】
S1では、スタートスイッチ4のOFF→ONの状態変化の有無を検出しており、これが繰り返される。
【0031】
S1の判定で、スタートスイッチ4のOFF→ONが検出されたときは、S2へ進む。
【0032】
S2では、エンジン回転中か否かを判定する。具体的には、回転センサ14の信号に基づいてエンジン回転数NEを検出し、NE=0rpm のときに回転中でないと判定し、NE>0rpm のときに回転中であると判定する。
【0033】
回転中でない場合(停止中の場合)は、S3へ進み、スイッチング素子13をONにして、スタータモータ5の作動を許可する。
【0034】
回転中の場合は、S4へ進み、スイッチング素子13をOFFにして、スタータモータ5の作動を禁止する。
【0035】
尚、スタートスイッチ4のON状態では、OFF→ON時に決定されたスイッチング素子13のON状態又はOFF状態が維持されることは言うまでもない。
【0036】
以上のようであるので、エンジン回転中に、エンジンキーを操作して、スタートスイッチ4をONにすると、ECM12がスイッチング素子13をOFFにし、インヒビットリレー回路10を非成立にする。
【0037】
従って、スタートスイッチ4とインヒビットスイッチ11(又はクラッチスイッチ15)とがONであっても、インヒビットリレーコイル9bに通電されることはない。
【0038】
これにより、エンジン回転中のキー操作によるスタータモータ5の作動を禁止でき、異音の発生や耐久性の低下を防止することができる。
【0039】
特に本実施形態では、スタータモータ5にスタートスイッチ4とインヒビットリレースイッチ9aとを介して通電するスタータ駆動回路8と、前記インヒビットリレースイッチ9a閉結用のリレーコイル9bに車両の駆動系が遮断状態のときにONとなる駆動系遮断検知スイッチ11、15を介して通電するインヒビットリレー回路10と、を備える車両用始動装置において、前記インヒビットリレー回路10に直列に介装されるスイッチング素子13と、スタートスイッチ4のON操作時に、エンジン回転中であるときは、前記スイッチング素子13をOFFにして、スタータモータ5の作動を禁止する手段(ECM12)と、を設けることにより、エンジン回転中のキー操作によるスタータモータ5の作動を確実に禁止でき、異音の発生や耐久性の低下を防止することができる。
【0040】
尚、本実施形態では、エンジン回転中であることを検知するため、エンジン回転数を検出する回転数検出手段を備え、検出回転数に基づいて制御する構成としたが、下記(1)〜(4)のスタータモータ作動禁止条件を設定して制御する構成としてもよい。
【0041】
(1)スタートスイッチON→OFFとなってから所定時間(例えば300ms)の間、スタータモータの作動を禁止する。これにより、キーのチョン掛けによる惰性再飛び込みを禁止できる。
【0042】
(2)インヒビットスイッチ(又はクラッチスイッチ)がON→OFFとなってから所定時間(例えば300ms)の間、スタータモータの作動を禁止する。これにより、シフト操作による惰性再飛び込みを禁止できる。
【0043】
(3)始動完爆判定後、スタータモータの作動を禁止する。これにより、運転中のスタータ再飛び込みを禁止できる。
【0044】
(4)イグニッションスイッチOFFとなってからエンジン回転数が0rpm となるまでの間、スタータモータの作動を禁止する。これにより、惰性回転中のスタータモータの再飛び込みを禁止できる。
【0045】
尚、以上に本発明の実施形態を図面に基づいて説明したが、図示の実施形態はあくまで本発明を例示するものであり、本発明は、説明した実施形態により直接的に示されるものに加え、特許請求の範囲内で当業者によりなされる各種の改良・変更を包含するものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0046】
1 バッテリ
2 エンジンキースイッチ
3 イグニッションスイッチ
4 スタートスイッチ
5 スタータモータ
6a ソレノイドスイッチ
6b ソレノイドコイル
8 スタータ駆動回路
9 インヒビットリレー
9a インヒビットリレースイッチ
9b インヒビットリレーコイル
10 インヒビットリレー回路
11 インヒビットスイッチ(駆動系遮断検知スイッチ)
12 ECM
13 スイッチング素子
14 回転数センサ
15 クラッチスイッチ(駆動系遮断検知スイッチ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、スタートスイッチのON操作と、駆動系遮断検知スイッチにより車両の駆動系が遮断状態にあることが検知されていることとを条件として、スタータモータを作動させる車両用始動装置において、
前記スタートスイッチのON操作時に、エンジン回転数中であるときは、前記スタータモータの作動を禁止する手段を設けたことを特徴とする車両用始動装置。
【請求項2】
スタータモータに、スタートスイッチとインヒビットリレースイッチとを介して通電するスタータ駆動回路と、
前記インヒビットリレースイッチ閉結用のリレーコイルに、車両の駆動系が遮断状態のときにONとなる駆動系遮断検知スイッチを介して通電するインヒビットリレー回路と、
を備える車両用始動装置において、
前記インヒビットリレー回路に直列に介装されるスイッチング素子と、
前記スタートスイッチのON操作時に、エンジン回転中であるときは、前記スイッチング素子をOFFにして、前記スタータモータの作動を禁止する手段と、
を設けたことを特徴とする車両用始動装置。
【請求項3】
エンジン回転中であることを検知するため、エンジン回転数を検出する回転数検出手段を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両用始動装置。
【請求項4】
前記駆動系遮断検知スイッチは、変速機のギアポジションがニュートラル又はパーキングであるときにONとなるインヒビットスイッチであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の車両用始動装置。
【請求項5】
前記駆動系遮断検知スイッチは、クラッチが遮断状態であるときにONとなるクラッチスイッチであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の車両用始動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−157840(P2011−157840A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18588(P2010−18588)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(504334865)日産ライトトラック株式会社 (60)