説明

車両用照明装置

【課題】車両における複数箇所に配置された灯具をそれぞれ制御するための複数の点灯回路間で、自由度の高い連携処理を実現するための技術を提供する。
【解決手段】車両用照明装置は、車両の前面における左右両側に配置されたヘッドライトをそれぞれ制御するための2つの点灯回路1L,1Rを備える。そして、これら2つの点灯回路1L,1Rは、専用通信線8で接続されており、専用通信線8を介して通信によって連携した処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両における複数箇所に配置された灯具を制御するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の前面における左右両側に配置されたヘッドライトによる照射方向や照射範囲を、車両前方の状況などに応じて変化させる制御(配光制御)を行うための装置が知られている。例えば、特許文献1には、車両のヘッドライトの光軸を上下方向及び左右方向に調整する車両用照明装置が開示されている。
【0003】
具体的には、この車両用照明装置は、車両のヘッドライトを構成する灯具と、車両に搭載されたバッテリの+電圧端子から灯具への電力供給を導通・遮断する点灯スイッチと、車両の様々な状態のうち車両の傾きを検知することで車両の高さを検出する車高センサとから構成されている。灯具は、HIDランプ(高輝度放電ランプ)と、HIDランプから照射される光を前方へ反射させる反射板と、反射板を動かす稼働機構を有する駆動部と、駆動部を制御する照明制御部とが、同一ハウジング内に収納されたものである。照明制御部は、ハウジング外部に設けられた車高センサから検出信号を受信し、受信した検出信号に従い駆動部を制御する。車高センサから照明制御部への信号伝達には、CAN等の通信方式が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−7987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の車両用照明装置では、車両における複数箇所に配置された灯具をそれぞれ制御するための複数の点灯回路が、互いに通信を行うことによって連携した処理を行うことについては検討されていなかった。
【0006】
なお、複数の点灯回路が互いに通信可能な構成としては、複数の点灯回路のそれぞれがCAN等の車内LANで用いられる通信線に接続された構成も考えられる。しかしながら、このような構成では、点灯回路以外の他の通信装置と通信線を共用することになるため、他の通信装置による通信によって通信線を直ちに利用できない場合が生じる。その結果、通信の頻度やリアルタイム性などの制約が大きくなり、点灯回路間で実現可能な連携処理の自由度が低くなってしまう。
【0007】
本発明は、こうした問題にかんがみてなされたものであり、車両における複数箇所に配置された灯具をそれぞれ制御するための複数の点灯回路間で、自由度の高い連携処理を実現するための技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の車両用照明装置は、車両における複数箇所に配置された灯具をそれぞれ制御するための複数の点灯回路を備える。そして、これら複数の点灯回路は、専用通信線で接続されており、専用通信線を介して通信を行う。このような構成によれば、複数の点灯回路は、専用通信線を介した通信によって連携した処理を行うことが可能となる。特に、複数の点灯回路が専用通信線で接続されているため、点灯回路以外の他の通信装置と通信線を共用する構成と比較して、点灯回路間で実現可能な連携処理の自由度を高くすることができる。
【0009】
ところで、点灯回路間で実現可能な連携処理としては、例えば、ある点灯回路が、制御対象の灯具を制御することのできない異常状態となった場合に、他の(正常状態の)点灯回路が、異常状態の点灯回路に代わって灯具を制御するといった処理が挙げられる。例えば請求項2に記載の車両用照明装置では、点灯回路が、検出手段及び代替制御手段を備える。検出手段は、他の点灯回路が、制御対象の灯具を制御するための制御信号を出力することのできない異常状態であることを検出する。そして、代替制御手段は、検出手段により他の点灯回路が異常状態であることが検出された場合に、その異常状態の点灯回路が制御対象とする灯具を制御するための制御信号を、専用通信線を介して送信する。このような構成によれば、複数の点灯回路のうちの一部が異常状態となった場合にも、その異常状態の点灯回路が制御対象とする灯具を、正常状態の点灯回路によって制御することができる。その結果、点灯回路が異常状態となることによって直ちに灯具の点灯状態に影響が出てしまうことを生じにくくすることができる。特に、正常状態の点灯回路が、専用通信線を介して制御信号を送信するため、制御信号の送信頻度を高くすることができるとともに、送信遅れを生じにくくすることができる。その結果、異常状態の点灯回路が制御対象とする灯具を適切に制御することが可能となる。
【0010】
また、点灯回路の異常検出も、点灯回路間の連携処理で実現してもよい。例えば請求項3に記載の車両用照明装置では、点灯回路は、定期送信手段及び監視手段を備える。定期送信手段は、専用通信線を介して他の点灯回路へ定期信号を送信し、監視手段は、他の点灯回路からの定期信号の受信状況に基づいて、その点灯回路の異常を検出する。このような構成によれば、複数の点灯回路が互いに監視し合うことで、異常検出のための回路を別途用いることなく異常を検出することができる。
【0011】
ところで、車両における複数箇所に配置された灯具は、互いに同期したタイミングで制御されることが好ましい。そこで、例えば請求項4に記載のように、点灯回路が同期手段を備え、この同期手段が、他の点灯回路と同期をとるための同期信号を、専用通信線を介して他の点灯回路へ送信するようにしてもよい。このような構成によれば、複数の点灯回路が互いに同期して灯具を制御することが可能となる。
【0012】
また、光量の異なる複数種類の点灯態様で点灯可能な灯具に対して、灯具の点灯態様を切り替える制御を行う場合、制御の途中で異常が発生すると、点灯態様を切り替える制御を行うことのできない状態になることが考えられる。そこで、例えば請求項5に記載のように、点灯回路は、正常時には灯具の点灯態様を切り替える制御を行い、異常時には灯具の点灯態様が最小光量の点灯態様となるように構成してもよい。このような構成によれば、異常時において、点灯させるべき灯具が消灯してしまうことや、必要以上の光量で点灯してしまうことを生じにくくすることができる。
【0013】
ところで、複数の点灯回路は、対等の関係としてもよいが、マスタ/スレーブの関係としてもよい。例えば請求項6に記載の車両用照明装置が備える複数の点灯回路には、マスタとして機能するマスタ点灯回路及びスレーブとして機能するスレーブ点灯回路が含まれ、マスタ点灯回路とスレーブ点灯回路とが専用通信線で接続されている。マスタ点灯回路は、スレーブ点灯回路に灯具の制御を指示するための指示信号を、専用通信線を介して送信する指示手段を備え、指示手段により指示信号が送信されてから、指示信号を受信したスレーブ点灯回路が灯具の制御を開始するまでに要する時間分を遅らせたタイミングで、灯具を制御する。このような構成によれば、マスタ点灯回路とスレーブ点灯回路とで、互いに同期した灯具の制御を簡易的に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態の車両用照明装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態の点灯回路の構成を示すブロック図である。
【図3】第1実施形態の異常検出処理のフローチャートである。
【図4】第1実施形態の同期制御処理のフローチャートである。
【図5】第1実施形態の故障制御処理のフローチャートである。
【図6】第2実施形態の車両用照明装置の構成を示すブロック図である。
【図7】(A)は第2実施形態のマスタ点灯回路の構成を示すブロック図、(B)は第2実施形態のスレーブ点灯回路の構成を示すブロック図である。
【図8】第2実施形態の同期制御処理のフローチャートである。
【図9】変形例の点灯回路の構成の一部を示すブロック図である。
【図10】変形例の点灯処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1−1.車両用照明装置の構成]
図1は、第1実施形態の車両用照明装置の構成を示すブロック図である。この車両用照明装置は、車両の前面における左右両側に配置されたヘッドライト(灯具)をそれぞれ制御するための2つの点灯回路1L,1Rを備える。
【0016】
本実施形態の車両用照明装置が搭載された車両には、複数の電子機器同士が共通のバス9を介してCAN(Controller Area Network)プロトコルに従った通信を行うための車内LANが構築されている。そして、2つの点灯回路1L,1Rは、他の電気機器(例えば、カメラ4、ボデーECU5、車速センサ6、舵角センサ7など)とともにバス9に接続されており、バス9を介して他の電子機器と通信可能に構成されている。なお、ECUとは、電子制御装置(Electronic Control Unit)を意味する。
【0017】
また、2つの点灯回路1L,1Rは、専用通信線8で接続されており、複数の電子機器で共用されるバス9を介することなく、専用通信線8を介して相互通信を行うことができる。このため、2つの点灯回路1L,1Rは、他の電子機器による通信の影響に影響されずに専用通信線8を利用することができ、後述するように、種々の連携処理を実現することができる。
【0018】
[1−2.点灯回路の構成]
第1実施形態の車両用照明装置において、2つの点灯回路1L,1Rは対等の関係にあり、共通の構成を有している。具体的には、図2に示すように、各点灯回路1L,1Rは、車両通信部11と、点灯回路間通信部12と、LED駆動部13と、制御部14とを備える。
【0019】
車両通信部11は、バス9を介して他の電子機器と通信(CANプロトコルに従った通信)を行うためのインタフェースである。また、点灯回路間通信部12は、専用通信線8を介して他方の点灯回路1L又は1Rと通信を行うためのインタフェースである。
【0020】
LED駆動部13は、ヘッドライトの光源であるLED151〜153を駆動するためのインタフェースである。すなわち、左右のヘッドライトのそれぞれは、ロービーム用のLED151と、ハイビーム用のLED152と、コーナリング用のLED153とを備えている。コーナリング用のLED153は、車両の斜め前方を照射するためのものであり、前方の状況に応じて(例えば、直進道路では消灯し、カーブした道路では進行方向を照射するように)点灯制御される。つまり、ヘッドライトは、LED151が点灯し、LED152,153が消灯した点灯態様(ロービーム)や、LED151,153が点灯し、LED152が消灯した点灯態様(コーナ照射)や、LED151,152が点灯し、LED153が消灯した点灯態様(ハイビーム)など、光量の異なる複数種類の点灯態様で点灯可能である。なお、前方の状況を判定する技術自体は公知であり、例えば、カメラ4により撮像された車両前方の画像を解析することによる判定や、舵角センサ7により検出されるステアリングの操舵角に基づく判定や、地図データに基づく判定などが可能である。
【0021】
制御部14は、CPU、ROM、RAM、IOポート等からなる周知のマイクロコンピュータを中心に構成されている。そして、制御部14は、車両通信部11及び点灯回路間通信部12を介して外部の電子機器との間でデータを送受信する通信処理や、前方道路の状況に応じた制御信号をLED駆動部13へ出力して、LED151〜153の点灯態様を切り替える点灯制御(配光制御)などを実行する。
【0022】
[1−3.車両用照明装置の特徴]
第1実施形態の車両用照明装置は、2つの点灯回路1L,1Rが専用通信線8で接続されていることを特徴としており、専用通信線8を介した相互通信によって、例えば次の連携処理1〜3を実現する。
【0023】
連携処理1:2つの点灯回路1L,1Rが、専用通信線8を介して定期的に正常動作信号(定期信号)を送信し合うことにより互いに状態を監視し、正常動作信号の受信状況に基づいて、他方の異常を検出する。
【0024】
連携処理2:2つの点灯回路1L,1Rのうちの一方が、他方と同期をとるための同期信号を専用通信線8を介して定期的に送信することにより、2つの点灯回路1L,1Rが同期をとり、左右のヘッドライトで同期した点灯制御を実現する。
【0025】
連携処理3:2つの点灯回路1L,1Rのうちの一方が点灯制御を行うことのできない異常状態になったことを、他方(正常側)が検出し、正常側の制御部14が異常側の点灯制御も行うことで、左右のヘッドライトでの点灯制御を維持する。
【0026】
[1−4.制御部が実行する処理]
以下、上記連携処理1〜3を実現するために各点灯回路1L,1Rの制御部14で実行される具体的処理手順について説明する。なお、点灯回路1L及び点灯回路1Rの各制御部14は共通内容の処理を実行するため、以下では、点灯回路1Lの制御部14が実行する処理について説明し、点灯回路1Rの制御部14が実行する処理の説明を省略する。
【0027】
[1−4−1.異常検出処理]
図3は、上記連携処理1を実現するために制御部14が実行する異常検出処理のフローチャートである。図3の異常検出処理は、ヘッドライトの点灯操作が運転者によって行われることにより開始される。
【0028】
制御部14は、まずS11で、他方の点灯回路1Rから専用通信線8を介して定期的に送信される正常動作信号が、点灯回路間通信部12を介して正常に受信されたか否かを判定する。このS11で正常動作信号が正常に受信されたと判定した場合には、S12へ移行し、点灯回路1Lが正常動作中であるか否か(つまり、自身が正常であるか否か)を判定する。
【0029】
そして、S12で点灯回路1Lが正常動作中であると判定した場合には、S13へ移行し、他方の点灯回路1Rへ専用通信線8を介して正常動作信号を送信して、S11へ戻る。つまり、2つの点灯回路1L,1Rが共に正常動作中であれば、S11〜S13の処理が定期的に繰り返され、正常動作信号が専用通信線8を介して定期的に送信される。
【0030】
一方、S11で他方の点灯回路1Rから定期的に送信されるはずの正常動作信号が正常に受信されなかったと判定した場合には、S14へ移行する。そして、S14では、正常動作信号が受信されなかったと判定した回数の連続値(連続非受信回数)が、あらかじめ定められている規定回数(異常判定用しきい値)を超えたか否かを判定する。このS14で、連続非受信回数が規定回数を超えていないと判定した場合には、S11へ戻る。
【0031】
一方、S14で、連続非受信回数が規定回数を超えたと判定した場合には、S15へ移行する。また、前述したS12で点灯回路1Lが正常動作中でないと判定した場合にも、S15へ移行する。そして、S15で、ダイアグ出力の処理(例えば、バス9を介してボデーECU5へ異常を通知し、車両室内に設けられた報知装置(例えば異常ランプ)を用いて運転者に異常を報知させる処理)を行った後、図3の異常検出処理を終了する。
【0032】
[1−4−2.同期制御処理]
図4は、上記連携処理2を実現するために制御部14が実行する同期制御処理のフローチャートである。図4の同期制御処理は、ヘッドライトの点灯制御が開始されることにより開始される。
【0033】
制御部14は、まずS21で、他方の点灯回路1Rと同期をとるために同期信号を専用通信線8を介して送信する。そして、S22で、送信した同期信号に対する応答が、点灯回路間通信部12を介して正常に受信されたか否かを判定する。このS22で同期信号に対する応答が正常に受信されたと判定した場合には、S23へ移行し、他方の点灯回路1Rと同期したタイミングで点灯制御を実行して、S21へ戻る。
【0034】
一方、S22で同期信号に対する応答が正常に受信されなかったと判定した場合には、S24へ移行する。そして、S24では、同期信号に対する応答が受信されなかったと判定した回数の連続値(連続無応答回数)が、あらかじめ定められている規定回数(異常判定用しきい値)を超えたか否かを判定する。このS24で、連続無応答回数が規定回数を超えていないと判定した場合には、S21へ戻る。一方、S24で、連続無応答回数が規定回数を超えたと判定した場合には、S25でダイアグ出力の処理を行って、図4の同期制御処理を終了する。
【0035】
[1−4−3.故障制御処理]
図5は、上記連携処理3を実現するために制御部14が実行する故障制御処理のフローチャートである。図5の故障制御処理も、ヘッドライトの点灯制御が開始されることにより開始される。
【0036】
制御部14は、まずS31で、他方の点灯回路1Rの制御部14が、制御対象のヘッドライトを点灯制御可能な状態(制御対象のヘッドライトを点灯制御するための制御信号を正常に出力することのできる状態)であるか否かを判定する。このS31で、他方の点灯回路1Rの制御部14が制御対象のヘッドライトを点灯制御可能な状態(正常状態)であると判定した場合には、S32へ移行し、通常の点灯制御(自身のLED駆動部13へ制御信号を出力する処理)を行い、S31へ戻る。なお、S31の判定は、例えば前述した異常検出処理(図3)に基づき行うことができる。
【0037】
一方、S31で、他方の点灯回路1Rの制御部14が制御対象のヘッドライトを点灯制御可能な状態でない(故障状態)と判定した場合には、S33へ移行し、ダイアグ出力の処理を行う。続いて、S34で、故障側の点灯回路1Rが制御対象とするヘッドライトを点灯制御するための制御信号を、専用通信線8を介して故障側のLED駆動部13へ送信することにより、故障側の点灯制御を行う。さらに、S35で、通常の点灯制御を行った後、S34へ戻る。
【0038】
[1−5.効果]
以上説明したように、第1実施形態によれば、2つの点灯回路1L,1Rが専用通信線8で接続されているため(図1)、専用通信線8を介した相互通信によって、自由度の高い連携処理を行うことができる。
【0039】
具体的には、2つの点灯回路1L,1Rが互いに監視し合うことで異常検出を行うため(図3)、異常検出のための回路を別途用いることなく、異常を検出して車両の乗員に報知することができる。また、専用通信線8を介して同期信号を送信するようにしているため(図4)、2つの点灯回路1L,1Rが互いに同期して点灯制御(配光制御)を行うことができる。
【0040】
さらに、2つの点灯回路1L,1Rのうちの一方が、制御対象のヘッドライトを制御することのできない異常状態となった場合に、他の(正常状態の)点灯回路1R又は1Lが、異常状態の点灯回路1L又は1Rに代わってヘッドライトを制御することができる(図5)。その結果、点灯回路1L,1Rのうちの一方が異常状態になった場合にも、直ちにヘッドライトの点灯状態に影響が出ないようにすることができる。特に、専用通信線8を介した制御信号の送信により、制御信号の送信頻度を高くすることができるとともに、送信遅れを生じにくくすることができるため、ヘッドライトを適切に制御することができる。
【0041】
なお、第1実施形態では、図3のS13が、定期送信手段としての処理の一例に相当し、S11,S14が、監視手段としての処理の一例に相当し、S15が、報知手段としての処理の一例に相当する。また、図4のS21が、同期手段としての処理の一例に相当する。また、図5のS31が、検出手段としての処理の一例に相当し、S34が、代替制御手段としての処理の一例に相当する。
【0042】
[2.第2実施形態]
[2−1.車両用照明装置の構成]
図6は、第2実施形態の車両用照明装置の構成を示すブロック図である。この車両用照明装置は、車両の前面における左右両側に配置されたヘッドライト(灯具)をそれぞれ制御するための2つの点灯回路として、マスタとして機能するマスタ点灯回路2M及びスレーブとして機能するスレーブ点灯回路2Sを備える。つまり、第1実施形態では、2つの点灯回路1L,1Rが対等の関係であったのに対し、第2実施形態では、2つの点灯回路2M,2Sがマスタ/スレーブの関係にある点で相違する。
【0043】
第2実施形態の車両用照明装置が搭載された車両には、第1実施形態と同様、複数の電子機器同士が共通のバス9を介してCANプロトコルに従った通信を行うための車内LANが構築されている。そして、マスタ点灯回路2Mは、第1実施形態の点灯回路1L,1Rと同様、他の電気機器とともにバス9に接続されており、バス9を介して他の電子機器と通信可能に構成されている。一方、スレーブ点灯回路2Sは、バス9に直接接続されておらず、マスタ点灯回路2Mを介して接続されている。
【0044】
マスタ点灯回路2M及びスレーブ点灯回路2Sは、専用通信線8で接続されており、複数の電子機器で共用されるバス9を介することなく、専用通信線8を介して相互通信を行うことができる。このため、2つの点灯回路1L,1Rは、他の電子機器による通信の影響に影響されずに専用通信線8を利用することができ、後述するような連携処理を実現することができる。
【0045】
[2−2.点灯回路の構成]
図7(A)に示すように、マスタ点灯回路2Mの構成は、第1実施形態の点灯回路1L,1Rと同様である。一方、図7(B)に示すように、スレーブ点灯回路2Sの構成は、車両通信部11を備えていない点でマスタ点灯回路2Mと相違し、その他の構成は共通する。各構成要素の説明は、第1実施形態と同様であるため、ここでは省略する。なお、スレーブ点灯回路2Sの制御部14は、マスタ点灯回路2Mよりも安価なものを用いることが可能である。
【0046】
[2−3.車両用照明装置の特徴]
第2実施形態の車両用照明装置も、2つの点灯回路2M,2Sが専用通信線8で接続されているため、第1実施形態と同様、専用通信線8を介した相互通信によって連携処理を実現することができる。
【0047】
例えば、前述した第1実施形態の連携処理1(図3の異常検出処理)では、2つの点灯回路1L,1Rが、専用通信線8を介して定期的に正常動作信号を送信し合うことにより互いに状態を監視し、正常動作信号の受信状況に基づいて、他方の異常を検出する。このような異常検出は、マスタ点灯回路2Mがスレーブ点灯回路2Sを監視する場合に実現することができる。なお、マスタ点灯回路2Mの監視については、他の装置(例えばボデーECU5)が行うようにしてもよい。
【0048】
また、前述した第1実施形態の連携処理3(図5の故障制御処理)では、2つの点灯回路1L,1Rのうちの一方が点灯制御を行うことのできない異常状態になったことを、他方(正常側)が検出し、正常側の制御部14が異常側の点灯制御も行うことで、左右のヘッドライトでの点灯制御を維持する。このような代替制御については、スレーブ点灯回路2Sが異常状態になった場合に実現することができる。
【0049】
また、第2実施形態では、マスタ点灯回路2Mによる指示に従い、スレーブ点灯回路2Sが点灯制御を行うように構成されており、前述した第1実施形態の連携処理2(図2の同期制御処理)に代えて、以下に説明する同期制御処理を実現することができる。
【0050】
[2−4.制御部が実行する処理]
図8は、マスタ点灯回路2Mの制御部14が実行する同期制御処理のフローチャートである。図8の同期制御処理は、ヘッドライトの点灯制御が開始されることにより開始される。
【0051】
制御部14は、まずS41で、スレーブ点灯回路2Sが正常に動作しているか否かを判定する。このS41で、スレーブ点灯回路2Sが正常に動作していないと判定した場合には、S42へ移行し、ダイアグ出力の処理を行った後、図8の同期制御処理を終了する。なお、S41の判定は、例えば前述した異常検出処理(図3)と同様に行うことができる。
【0052】
一方、S41で、スレーブ点灯回路2Sが正常に動作していると判定した場合には、S43へ移行し、スレーブ点灯回路2Sにヘッドライトの点灯制御を指示するための点灯制御信号(指示信号)を、専用通信線8を介して送信する。続いて、所定の遅れ時間が経過するまで待機し、遅れ時間が経過したと判定した時点でS45へ移行する。ここで、遅れ時間は、マスタ点灯回路2Mからスレーブ点灯回路2Sへ点灯制御信号が送信されてから、スレーブ点灯回路2Sがヘッドライトの制御を開始するまでに要する時間となるように設定されている。
【0053】
続いて、S45では、マスタ点灯回路2Mが制御対象とするヘッドライトの点灯制御を行った後、S41へ戻る。このような処理により、S45と同じタイミングで、スレーブ点灯回路2Sが制御対象とするヘッドライトの点灯制御も行われることになる。
【0054】
[2−5.効果]
以上説明したように、第2実施形態では、マスタ点灯回路2Mは、点灯制御信号をスレーブ点灯回路2Sへ送信してから、点灯制御信号を受信したスレーブ点灯回路2Sがヘッドライトの制御を開始するまでに要する時間分を遅らせたタイミングで、ヘッドライトを制御する。このため、マスタ点灯回路2Mとスレーブ点灯回路2Sとで、互いに同期したヘッドライトの制御を簡易的に実現することができる。なお、第2実施形態では、図8のS43が、指示手段としての処理の一例に相当する。
【0055】
[3.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0056】
(1)点灯回路の異常により点灯制御が行えない状態であって、他の(正常な)点灯回路による代替制御も行うことができない場合にも、ヘッドライトを点灯すべき状況(例えば点灯制御の実行中やヘッドライトスイッチがオンにされている状態)には、ヘッドライトを最小光量の点灯態様であるロービームで点灯させることが好ましい。そこで、点灯回路を図9に示すように構成してもよい。
【0057】
図9において、LED駆動部13は、LED151,152,153のそれぞれに対応する3つのLED駆動回路131,132,133を備える。そして、制御部14は、各LED駆動回路131,132,133と制御線で接続されている。特に、LED駆動回路132,133については、制御線に加え、イネーブル線で接続されている。
【0058】
制御部14は、正常時には、制御線を介して各LED駆動回路131,132,133へ制御信号を送信し、LED151,152,153を点灯制御する。ここで、LED駆動回路132,133に対しては、イネーブル線を介してイネーブル信号を出力することで、制御線を介した制御信号を有効にしている。
【0059】
制御部14が異常状態になると、LED駆動回路132,133へイネーブル信号が出力されなくなり、LED駆動回路132,133が停止し、LED152,153が消灯する。一方、LED駆動回路131にはイネーブル線がないためLED駆動回路131は駆動し続け、LED151の点灯が維持される。
【0060】
図10は、図9の構成において制御部14が実行する点灯処理のフローチャートである。図10の点灯処理は、ヘッドライトの点灯操作が運転者によって行われることにより開始される。
【0061】
制御部14は、まずS51で、他方の点灯回路の制御部14が、制御対象のヘッドライトを点灯制御可能な状態(制御対象のヘッドライトを点灯制御するための制御信号を正常に出力することのできる状態)であるか否かを判定する。このS51で、他方の制御部14が制御対象のヘッドライトを点灯制御可能な状態(正常状態)であると判定した場合には、S52へ移行し、通常の点灯制御を行う。
【0062】
一方、S51で他方の制御部14が制御対象のヘッドライトを点灯制御可能な状態でない(故障状態)と判定した場合には、S53へ移行し、故障側のヘッドライトを正常側(自身)から点灯制御することができるか否かを判定する。このS53で、故障側のヘッドライトを点灯制御することができると判定した場合には、S54へ移行し、ダイアグ出力の処理を行った後、S55で、専用通信線8を介して制御信号を送信することにより、故障側のヘッドライトを点灯制御する。
【0063】
一方、S53で、故障側のヘッドライトを点灯制御することができないと判定した場合(例えば第2実施形態の構成において、マスタ点灯回路2Mが故障した場合)には、S56へ移行し、ダイアグ出力の処理を行う。この場合、故障側のヘッドライトは、ロービームで点灯することになる。
【0064】
このような構成によれば、異常時において、ヘッドライトを点灯すべき状況であるにもかかわらずヘッドライトが消灯して視認性が低下してしまうことや、必要以上の光量で点灯してしまうことを生じにくくすることができる。
【0065】
(2)また、上記実施形態では、車両の前面における左右両側に配置されたヘッドライトをそれぞれ制御するための2つの点灯回路を例示したが、これに限定されるものではなく、車両における複数箇所に配置された灯具をそれぞれ制御するための複数の点灯回路であればよい。
【符号の説明】
【0066】
1L,1R…点灯回路、2M…マスタ点灯回路、2S…スレーブ点灯回路、4…カメラ、5…ボデーECU、6…車速センサ、7…舵角センサ、8…専用通信線、9…バス、
11…車両通信部、12…点灯回路間通信部、13…LED駆動部、14…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における複数箇所に配置された灯具をそれぞれ制御するための複数の点灯回路を備える車両用照明装置であって、
前記複数の点灯回路は、専用通信線で接続されており、前記専用通信線を介して通信を行う
ことを特徴とする車両用照明装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用照明装置であって、
前記点灯回路は、
他の点灯回路が、制御対象の灯具を制御するための制御信号を出力することのできない異常状態であることを検出する検出手段と、
前記検出手段により他の点灯回路が異常状態であることが検出された場合に、その異常状態の点灯回路が制御対象とする灯具を制御するための制御信号を、前記専用通信線を介して送信する代替制御手段と、
を備えることを特徴とする車両用照明装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用照明装置であって、
前記点灯回路は、
前記専用通信線を介して他の点灯回路へ定期信号を送信する定期送信手段と、
他の点灯回路からの前記定期信号の受信状況に基づいて、その点灯回路の異常を検出する監視手段と、
を備えることを特徴とする車両用照明装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の車両用照明装置であって、
前記点灯回路は、
他の点灯回路と同期をとるための同期信号を、前記専用通信線を介して他の点灯回路へ送信する同期手段を備える
ことを特徴とする車両用照明装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の車両用照明装置であって、
前記灯具は、光量の異なる複数種類の点灯態様で点灯可能であり、
前記点灯回路は、正常時には前記灯具の点灯態様を切り替える制御を行い、異常時には前記灯具の点灯態様が最小光量の点灯態様となるように構成されている
ことを特徴とする車両用照明装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の車両用照明装置であって、
前記複数の点灯回路には、マスタとして機能するマスタ点灯回路及びスレーブとして機能するスレーブ点灯回路が含まれ、前記マスタ点灯回路と前記スレーブ点灯回路とが前記専用通信線で接続されており、
前記マスタ点灯回路は、前記スレーブ点灯回路に灯具の制御を指示するための指示信号を、前記専用通信線を介して送信する指示手段を備え、前記指示手段により前記指示信号が送信されてから、前記指示信号を受信した前記スレーブ点灯回路が灯具の制御を開始するまでに要する時間分を遅らせたタイミングで、灯具を制御する
ことを特徴とする車両用照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−95325(P2013−95325A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241380(P2011−241380)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】