説明

車両用窓ガラス割り具

【課題】使用時に窓ガラスを叩くまでの工程数が短く操作が容易で安全な窓ガラス割り具を提供する。
【解決手段】窓ガラス割り具6は、凸曲面7aと凹曲面とで形成した保護部材7の凹曲面に把持部8を固定した。保護部材7は把持部8よりも幅広に形成した。把持部8は略U字形状で、その一端部は保護部材7を貫通して凸曲面7a側にハンマー部10を突出させて固定した。把持部8の他端部は保護部材7に固定ボルトで固定した。窓ガラス割り具6は保護部材7の周縁の係止部7dと凸曲面7aの係合爪部15a、15b、15cとで内壁の嵌合孔の周縁に取り外し可能に嵌合させた状態で、ハンマー部10が内壁の裏面側に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械や自動車等の各種車両の窓ガラスを割るための車両用窓ガラス割り具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば建設機械の油圧ショベルが運転中に誤って転倒したり衝突事故等が生じた際に、キャビンのドアが変形する等して開かなくなった場合、キャビンからの脱出が困難になる。また、自動車等においても事故等によって電気が通電しなくなったりドアが変形する等してドアや窓ガラスが開かなくなった場合でも、車両からの脱出が困難になる。
そのため、窓ガラスを割って運転者等が車両から脱出できるようにした窓ガラス割り具が提案され、車両の内部に装着されている。
【0003】
このような窓ガラス割り具として、例えば下記特許文献1〜3に記載されたものが提案されている。特許文献1及び2に記載された窓ガラス割り具は、ハンマーを先端に有する棒状の割り部材を保護部材に回動可能に取り付けた構成を有している。そして常態では、割り部材を自動車の車体に設けたブラケット等に取り付けておき、事故等の使用時には保護部材を回動させて割り部材をブラケットから外し、保護部材に対して割り部材を略直角に回動させて割り部材の握持部を把持してハンマーを窓ガラスに打ち付けて割るようにしている。
【0004】
また、特許文献3に記載した窓ガラス割り具は、自動車のサンバイザーにハンマーケースが取り付けられている。緊急時には、サンバイザーを自動車の内壁から取り外してハンマーをハンマーケースに対して略直角に回動させた状態でハンマーの先端部をサンバイザーから突出させて、窓ガラスを割るようにしている。
これらの場合、窓ガラスをハンマーで割る際に、保護部材やサンバイザーでガラスの破片が運転者の手や腕等に飛散するのを防止できるとしている。
【特許文献1】特開平8−11064号公報
【特許文献2】特開平9−47980号公報
【特許文献3】特開2001−322431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1乃至3に記載された窓ガラス割り具は、車両の内部に取り付けた保持形態と窓ガラスを割るための使用形態が相違しており、保護部材やサンバイザー等を車両の壁面等から取り外し、保護部材やサンバイザー等に対してハンマーを略直角に回動し、ハンマーを握り直して窓ガラスを叩き割るという3工程の動作を必要としている。そのため、事故等の緊急時に、窓ガラス割り具で窓ガラスを割るまでに手間取ることになるという不具合が生じる。
更に、従来の窓ガラス割り具は、保護部材やサンバイザーに対してハンマーを略直角に回動してハンマー先端を突出させる貫通孔等を有するために、窓ガラスの打撃時に貫通孔等とハンマーとの間の間隙を通して運転者側にガラスの破片が飛んでくるおそれがあった。しかも、特許文献3に記載の窓ガラス割り具は誤ってハンマーを回転操作するとサンバイザーを破ってしまい、ガラスケース内の元の位置に復帰させることができないという不具合もあった。
また、保護部材やサンバイザー等に対してハンマーが回転可能であるために不安定であり、窓の縁に残るガラスの破片を払う際に操作しにくかった。しかも、これらのハンマーは保護部材やサンバイザー等に対して略直角にしてアイスピックのように把持して叩くために手が滑り易く強固に握りしめる必要があった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みて、使用時に窓ガラスを叩くまでの工程数が短く安全で操作が容易な車両用窓ガラス割り具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による車両用窓ガラス割り具は、保護部材に把持部が固定され、保護部材は把持部よりも幅広に形成されており、保護部材に対して把持部と反対側にハンマー部が突出して設けられていることを特徴とする。
本発明によれば、窓ガラス割り具について把持部をつかんで取り付け部から取り外し、そのまま窓ガラスを叩くことで、窓ガラスを割ることができる。そのため、2工程の動作で窓ガラスを割ることができるから緊急時に迅速な操作を行うことができる。把持部は保護部材に固定されているから、従来の窓ガラス割り具と比較して、窓ガラスを割るに際してハンマー部を回転させる必要や保護部材に貫通孔を形成する必要がないため、ガラス破片が使用者の手等に飛んでくるおそれもない。また、窓ガラス割り具の把持部をつかんで取り出した後、把持部をつかみ直したり強固に把持する必要もなくそのまま叩くことができる。しかも部品点数が非常に少なくて済む。
【0008】
また、把持部は一端側が保護部材を貫通してハンマー部が固定され、他端側は保護部材に固定されていることを特徴とする。
そのため、窓ガラス割り具の操作が容易であり、把持部をつかんで取り出してそのまま窓ガラスを割ることができる。
また、保護部材は車両の内壁に着脱可能に係合保持された状態で、把持部は車両の内壁に露出していると共にハンマー部は内壁の裏面側に位置していることが好ましい。
通常の状態では運転室内にハンマー部が露出していないから誤って接触したりぶつかったりすることなく安全である。
また、保護部材に対してハンマー部と同一側の面にカッタが設けられていてもよい。
この場合でも、カッタはハンマー部と同様に運転室に露出していないために不用意に接触したりするおそれがなく安全である。
【発明の効果】
【0009】
本発明による車両用窓ガラス割り具によれば、その使用に際しては窓ガラス割り具の取り外しと窓ガラスの打撃という2工程の動作でよく、緊急時に迅速な操作を行える。しかも保護部材と把持部とハンマー部は一体に固定されているために使用時には把持部を把持して打撃すればよく、従来の割り具のように強固に把持する必要がなく安定した操作を行え、部品点数も少なくて構成も簡単である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の実施形態による窓ガラス割り具を図1乃至図6により説明する。
図1は油圧ショベルのキャビン内壁に窓ガラス割り具を取り付けた状態の部分破断斜視図、図2は窓ガラス割り具を把持部側から見た斜視図、図3はハンマー部側から見た斜視図、図4は窓ガラス割り具の把持部に沿った断面図、図5は把持部のハンマー部を示す拡大図、図6は窓ガラス割り具の取り付け構造を示す図3のA−A線断面図である。
図1において、建設機械の車両、例えば油圧ショベル1はキャビン(運転室)2の前後面と側面に柱3を介して窓ガラス4が形成されている。キャビン2内の適宜の内壁、例えば背面側の一方の柱3aの内壁5には車両用窓ガラス割り具6が取り付けられている。この窓ガラス割り具6は事故等の際に内壁5から取り外して窓ガラス4を割って脱出するための器具である。
【0011】
次に図2乃至図6により窓ガラス割り具6について説明する。窓ガラス割り具6は図2及び図3に示すように、略長円形状を呈していて一方の面側に湾曲または突出した保護部材7と、保護部材7の長手方向に取り付けられた例えば略U字形状の把持部8とで構成されている。保護部材7は把持部8より幅広で表裏両面が凸曲面7aと凹曲面7bとで形成された板状であり、凹曲面7b側に把持部8が固定されている。
図4において、把持部8の一方の端部である先端部8aは保護部材7の先端部の貫通孔9を貫通して凸曲面7a側に突出しており、その先端に例えば鉄などの鋼材からなるハンマー10が固着されている。ハンマー10は略柱状に形成され、先端部は把持部8から突出して錐状に尖っている。図5に示すように、把持部8の先端部8a近傍には長手方向に所定間隔を開けて各一対のフランジ部8bと係合部8cとが互いに直交する方向に突出して形成され、把持部8はフランジ部8bと係合部8cとの間で貫通孔9の縁部を係合して保護部材7に固定されている。
図4において、把持部8の他方の端部である基端部8eは保護部材7の凹曲面7bの基端面部7bcに当接しており、基端面部7bcに穿孔した孔部12を通して締結ボルト13で基端部8eを固定している。
【0012】
次に図3及び図6に基づき、窓ガラス割り具6とキャビン2の柱3aの内壁5との嵌合構造について説明する。窓ガラス割り具6は保護部材7の凸曲面7aと凹曲面7bとの境界周縁部に全周に亘って係止部7dが形成されている。保護部材7の凸曲面7aには適宜数、例えば長手方向両側に各一対の係合爪部15a、15bが突出して形成され、更に基端面部7bc側にも係合爪部15cが突出して形成されている。他方、柱3aの内壁5には窓ガラス割り具6を嵌合固定するための嵌合孔16が形成されている(図1、図6参照)。
そして、窓ガラス割り具6を把持部8で把持して内壁5の嵌合孔16に嵌め込むと、各係合爪部15a、15b、15cで嵌合孔16の周縁部を弾性変形させて保護部材7の凸曲面7aが押し込まれ、窓ガラス割り具6は各係合爪部15a、15b、15cと係止部7dとで嵌合孔16の周縁部を挟持して嵌合状態に保持される。この状態で、ハンマー部10は内壁5の裏面側に保持され、内壁5の表面に露出しない。
図に示す例では、窓ガラス割り具6を堅固に嵌合させるために保護部材7の周縁の係止部7dは係合爪部15a〜15c側に湾曲して形成されている(図6参照)。
【0013】
なお、窓ガラス割り具6を組み立てるには、図4において、保護部材7の先端側の貫通孔9に把持部8の基端部8eから挿入し、把持部8の基端部8eが保護部材7の基端面部7bcに当接した位置で、先端部8aのフランジ部8bと係合部8cとで貫通孔9の周縁部を挟持係合させる。この位置で、基端面部7bcの孔部12から固定ボルト13を挿入して把持部8の基端部8eを螺合して固定すればよい。
【0014】
本実施形態による窓ガラス割り具6は上述の構成を備えており、その使用方法について説明する。
油圧ショベル1が例えば事故等でキャビン2のドアが変形する等して開かなくなった場合、キャビン2内の運転者は柱3aに装着されている窓ガラス割り具6の把持部8をつかんで引っ張ると、内壁5の嵌合孔16に係合している係止爪部15a〜15cに押されて嵌合孔16の周縁部が弾性変形して係合が外れ、窓ガラス割り具6が取り出される。
次に、把持部8を把持したまま窓ガラス割り具6で窓ガラス4を叩くことで、ハンマー部10で窓ガラス4が割れる。窓ガラス4を割った際にガラスの破片が飛び散っても保護部材7によって使用者の手や腕等を保護できる。ガラスの破片は保護部材7の貫通孔等がない凸曲面7aに当たって使用者から離れた周辺部に飛散するため安全である。
窓ガラス4の桟に残るガラスの破片等は保護部材7で叩いたり押したりして除去できる。これによって運転者は窓ガラス4から外部に脱出可能である。
【0015】
上述のように本実施形態による窓ガラス割り具6によれば、窓ガラス割り具6をキャビン2の内壁5から取り出す動作と窓ガラス4を叩く二つの動作で窓ガラス4を割ることができるので、緊急時に迅速な脱出を行える。しかもハンマー部10は把持部8に一体に固定されているためにハンマー部10の保持強度が高く、使用時には把持部8を把持したままで窓ガラス4を打撃すればよく、従来の窓ガラス割り具のように取り付け部から割り具を取り外した後でハンマーを回転させてつかみ直す必要がなく、簡単で確実な操作を行える。また、保護部材7とハンマー部10を固着した把持部8とで窓ガラス割り具6が構成されているから、構成が簡単で部品点数が少なくて済み、組み立ても容易である。
【0016】
次に上述した実施形態による窓ガラス割り具6の変形例について説明するが、上述の実施形態による窓ガラス割り具6と同一部分、部材には同一の符号を用いてその説明を省略する。
図7は第一の変形例による窓ガラス割り具18を示すものであり、図において、把持部8の基端部8e近傍にはアーム部19が形成されている。アーム部19の先端部は二股に分かれており、その第一分岐部19aは保護部材7の凹曲面7bに当接し、第二分岐部19bは保護部材7を貫通して凸曲面7aから突出している。そして第一分岐部19aと第二分岐部19bとの間に例えばシートベルト等を切断するためのカッタ20が設けられている。
なお、アーム部19は第一分岐部19aも凸曲面7aを貫通して突出していてもよい。
本変形例によれば、窓ガラス割り具18を搭載する自動車等の車両にシートベルト等が設けられている場合でも、窓ガラス割り具18によるシートベルトの切断と窓ガラス4の破壊を迅速に行える。しかも、本変形例においても、窓ガラス割り具18を車両の内壁5に取り付けた保管状態でハンマー部10とカッタ20がキャビン2の内壁5の裏面側に位置し、内壁5表面に露出しないので安全である。
【0017】
また、他の変形例として、窓ガラス割り具6の把持部8は必ずしも上記実施形態等のように両端が保護部材7に固定された構成でなくてもよい。少なくともハンマー部10を備えた先端部8aが保護部材7に締結ボルトや溶着等、適宜の固定手段で固定されていれば、基端部8eを含む把持部8の一部分が切除された片持ち構造でもよい。また、保護部材7についても凹凸曲面形状である必要はなく、平板形状等でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】油圧ショベルのキャビン内壁に本発明の実施形態による窓ガラス割り具を取り付けた状態の部分破断斜視図である。
【図2】窓ガラス割り具を把持部側から見た斜視図である。
【図3】窓ガラス割り具をハンマー部側から見た斜視図である。
【図4】窓ガラス割り具の把持部に沿った断面図である。
【図5】窓ガラス割り具の把持部に取り付けたハンマー部を示す拡大図である。
【図6】窓ガラス割り具の取り付け構造を示す図3のA−A線断面図である。
【図7】実施形態による窓ガラス割り具の第一の変形例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 油圧ショベル
2 キャビン
4 窓ガラス
5 内壁
6、18 窓ガラス割り具
7 保護部材
8 把持部
10 ハンマー部
15a,15b,15c 係合爪部
16 嵌合孔
20 カッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護部材に把持部が固定され、前記保護部材は把持部よりも幅広に形成されており、前記保護部材に対して前記把持部と反対側にハンマー部が突出して設けられていることを特徴とする車両用窓ガラス割り具。
【請求項2】
前記把持部は一端側が保護部材を貫通して前記ハンマー部が固定され、他端側は前記保護部材に固定されている請求項1に記載された車両用窓ガラス割り具。
【請求項3】
前記保護部材は車両の内壁に着脱可能に係合保持された状態で、前記把持部は車両の内壁に露出していると共に前記ハンマー部は前記内壁の裏面側に位置している請求項1または2に記載された車両用窓ガラス割り具。
【請求項4】
前記保護部材に対して前記ハンマー部と同一側の面にカッタが設けられている請求項1乃至3のいずれかに記載された車両用窓ガラス割り具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−36267(P2010−36267A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198399(P2008−198399)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【出願人】(390001579)プレス工業株式会社 (173)
【Fターム(参考)】