説明

車両用軌道

【課題】 低速急曲進走行時においても、車輪のすべりを抑制し、それら車輪を安定的に走行させることができる車両用軌道を提供すること。
【解決手段】 前輪8と後輪9の少なくとも二対の円錐台状の車輪10を備える車両を、前記前輪8と前記後輪9との間の距離を略等間隔に保持した状態で、低速急曲進走行させるための車両用軌道1であって、曲線状に形成された一対の曲線軌道レール13を備え、前記一対の曲線軌道レール13のうち、外軌側に配された外軌側レール13aに、前記車輪10を案内するための案内溝17が設けられ、内軌側に配された内軌側レール13bに、軌間の拡大したスラックSが設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LRT(Light Rail Transit)など、特に路面電車などの車両用軌道に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、路面電車などの車両用軌道として、一対の軌道レールが使用されている(例えば、特許文献1参照)。そして、図4に示すように、それら一対の軌道レール102の中には、円錐台状の車輪101のフランジ103が配される案内溝106が両レールに設けられているものがある。この案内溝106によって、車輪101が案内されて、車両が安定的に走行するようになっている。しかし、両軌道レール102に案内溝106が設けられていると、カーブなどの曲進走行のための曲線状の軌道レール102上を車輪101が走行するときに、以下のような問題が生じる。すなわち、例えば左折時において、軌道レール102は左向きに曲線を描くことになるが、外軌側に配された外軌側レール102a及び内軌側に配された内軌側レール102bの曲線の半径寸法がそれぞれ異なることから、それぞれの周方向の長さ寸法が異なることになる。つまり、内軌側レール102bの長さ寸法が、外軌側レール102aの長さ寸法よりも短くなる。
【0003】
その一方で、同一径を有する外輪101a及び内輪101bの回転速度は同一であることから、車輪101の回転による進行距離は、外輪101aと内輪101bとでそれぞれ同一となる。そのため、軌道レール102の長さ寸法は内軌と外軌とでそれぞれ異なるのに対して、車輪101の進行距離は内輪と外輪とでそれぞれ同一となってしまい、長さ寸法と進行距離との間で差異が生じてしまう。その結果、車輪101が軌道レール102上をすべってしまい、騒音や振動が発生したり、軌道レール102や車輪101が摩耗したりしてしまう。また、内軌側レール102bの摩擦力が大きくなると、外輪101aを外軌側レール102aに押し付ける力が働き、騒音が発生したり、摩耗したり、乗り上がり脱線を発生させたりする場合がある。
【0004】
そこで、一般鉄道用のレールなどのように、両レールに案内溝106を設けずに、図5に示すように、通常の溝なしレール102´を用いて、内軌側レール102b´に、スラックSを設けるようにしたものが知られている。「スラック」とは、外軌側レール102a´と内軌側レール102b´との間、すなわち軌間を、直進走行のための直線状の溝なしレール102´よりも、その溝なしレール102´の延在する平面において車輪101の進行方向と直交する方向に拡大した(広げた)部分をいう。つまり、スラックSを設けることにより、一対の車輪101が、全体として、溝なしレール102´の曲線の外側(外輪101a及び内輪101bのうちの外輪101a側)に配され、そのため、内軌側レール102b´と内輪101bとの曲進走行時における曲進時接線Rが、直進走行時における直進時接線Lよりも、溝なしレール102´の曲線の内側に現れる。
【0005】
曲進時接線Rの半径寸法は、直進時接線Lよりも短くなるため、曲進時接線R上における内輪101bの進行距離は、直進時接線L上における進行距離よりも短くなる。そのため、内輪101bの進行距離は、外輪101aの進行距離よりも短くなり、それぞれの長さ寸法と進行距離とがバランスされて、すべりなどが生じないようになる。
【特許文献1】特開2003−276604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような案内溝を設けない構成では、前輪と後輪とで車輪が二対設けられている場合に、前輪については、上記のように外側に配されてバランスされるものの、前輪と後輪との距離上の差異により前後の両輪が同一軌跡上を走行しないことから、後輪については、上記と反対に内側に配されてしまう場合がある。これは、半径100m以下の急曲線軌道を、時速40km以下の低速で進行する場合に特に顕著となる。なぜなら、大曲線高速通過時においては、車両遠心力により、車輪を外軌側に寄らせようとする力が働くが、急曲線低速通過時においては、車両遠心力が弱く、車輪を外軌側に寄らせようとする力も小さくなるからである。後輪が内側に配されてしまうと、上記のように長さ寸法と進行距離との間で差異が生じてしまい、例えばボギー台車を使用した場合には、ボギー台車の前方側が外側に向かう逆転向力が発生し、ボギー台車のボギー角を減少させ、前輪のアタック角を増加させてしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、低速急曲進走行時においても、車輪のすべりを抑制し、それら車輪を安定的に走行させることができる車両用軌道を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明に係る車両用軌道は、前輪と後輪の少なくとも二対の円錐台状の車輪を備える車両を、前記前輪と前記後輪との間の距離を略等間隔に保持した状態で、低速急曲進走行させるための車両用軌道であって、曲線状に形成された一対の曲線軌道レールを備え、前記一対の曲線軌道レールのうち、外軌側に配された外軌側レールに、前記車輪を案内するための案内溝が設けられ、内軌側に配された内軌側レールに、軌間の拡大したスラックが設けられていることを特徴とする。
【0009】
この発明に係る車両用軌道においては、案内溝によって、前輪と後輪の外輪が外軌側に案内されるとともに、スラックによって、前輪と後輪の内輪の進行距離が調整される。
そのため、前後の外輪の進行距離と、外軌側レールの長さ寸法とが合致するとともに、前後の内輪の進行距離と、内軌側レールの長さ寸法とが合致する。
これにより、曲線軌道レールの長さ寸法と前後及び内外の車輪の進行距離との間で、容易にバランスを取ることができる。
なお、「前記前輪と前記後輪との間の距離を略等間隔に保持した状態で」とは、操舵輪軸機構を有しない非操舵輪軸車輪を想定したものである。ただし、非操舵輪軸車輪には、アクチュエータなどを利用して外力により操舵がなされるものは含まれないが、ゴムなどによってリンクされて、そのゴムの伸縮などにより自由操舵がなされるものは含まれるものとする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、曲線軌道レールの長さ寸法と前後及び内外の車輪の進行距離との間で、容易にバランスを取ることができることから、低速急曲進走行時において、車輪のすべりを抑制し、それら車輪を安定的に走行させることができる。また、後輪が外軌側に案内されることにより、ボギー角が増大し、前輪の外軌側レールに対するアタック角が減少するため、騒音や摩耗、乗り上がり脱線を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(実施形態1)
以下、本発明の第1実施形態における車両用軌道について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態における車両用軌道1は、路面電車(車両)2を低速急曲進走行(カーブ)させるためのものである。なお、「低速」とは、時速40km以下をいい、「急曲進」とは、半径100m以下の曲線上を進行することをいう。
【0012】
まず、路面電車2について説明する。
路面電車2は、箱状に形成された車体3と、この車体3の底面部に設けられた台車6とを備えており、これら車体3と台車6とが空気バネ7を介して接続されている。また、車体3と台車6とは、互いに回転可能に接続されている。
台車6は、車体3の先端部と後端部とにそれぞれ接続されており、それぞれの台車6は、前輪8と後輪9の二対の車輪10を備えている。それぞれの車輪10は、図2に示すように、側面視して円錐台状に形成されている。また、車輪10の底面(両端面のうち面積の大きいほうの端面)11の縁部には、フランジ16が設けられている。これら車輪10のうち、低速急曲進走行時において外側に配された方が前外輪8a及び後外輪9aとなり、内側に配された方が前内輪8b及び後外輪9bとなる。
【0013】
さらに、前輪8は、底面11を互いに対向させて、一本の前軸19によって連結されている。同様にして、後輪9は、底面11を互いに対向させて、一本の後軸20によって連結されている。これにより、低速急曲進走行時に、曲線の内側に向けて、前内輪8b及び後外輪9bのそれぞれの周面が漸次細径となるようになっている。
前軸19及び後軸20は、台車6の底面に支持されており、その長さ方向に延びる軸線周りの回転は可能であるが、鉛直方向に延びる軸線を中心としての回転は規制されるようになっている。すなわち、前軸19と後軸20とは、低速急曲進走行時においても、互いに平行に保持されて、前輪8と後輪9との間の距離は、等間隔に保持されるようになっている。つまり、台車6は、非操舵台車として構成されるものである。
【0014】
次に、本発明に係る車両用軌道1について説明する。
車両用軌道1は、半径100m以下の急曲線状に形成され、かつ互いに平行に並べて配された一対の曲線軌道レール13を備えている。これら一対の曲線軌道レール13のうち、曲線の外側に配された方が、外軌側レール13aとなり、内側に配された方が、内軌側レール13bとなる。
外軌側レール13aの頭部には、内部にフランジ16が配される案内溝17が形成されており、この案内溝17にフランジ16が配されることにより、外軌側レール13aの急曲線にならって前外輪8a及び後外輪9aを案内するようになっている。
【0015】
また、内軌側レール13bは、案内溝17が設けられていない通常の溝なしレールとされている。内軌側レール13bには、軌間拡大部であるスラックSが設けられている。これにより、内軌側レール13bと前内輪8b及び後内輪9bとの低速急曲進走行時における曲進時接線Rが、直進走行時における直進時接線Lよりも、曲線軌道レール13の曲線の内側に現れるようになっている。
【0016】
次に、このように構成された本実施形態における車両用軌道1の作用について説明する。
路面電車2が、直進走行から低速急曲進走行、例えば左折に入ると、台車6の前外輪8a及び後外輪9aともに案内溝17によって外軌側に案内される。そのため、車体3の進行方向と直交する方向の各車輪10の移動が規制されて、前外輪8a及び後外輪9aは外軌側レール13aにならって進行していく。さらに、内軌側レール13bには、スラックSが設けられていることから、曲進時接線Rが、直進時接線Lよりも、曲線軌道レール13の曲線の内側に現れる。曲進時接線Rの半径寸法は、外軌側レール13aと前外輪8a及び後外輪9aとの案内時接線Mの半径寸法よりも短くなるため、前内輪8b及び後外輪9bの回転による進行距離は、案内時接線M上における前外輪8a及び後外輪9aの進行距離よりも短くなる。そのため、車輪10の進行距離と、曲線軌道レール13の周方向の長さ寸法とが調整される。
【0017】
このとき、従来は、図3において二点鎖線で示す台車6´のように、後輪9が内側に配されてしまうため、逆転向力により、台車6´の前方側が外側に向けられて、車体3に対する台車ボギー角θ´が小さくなってしまう。そのため、レールに対する前輪8のアタック角θ´が大きくなってしまい、騒音や摩耗などの問題が生じていた。
なお、通常、前輪8のアタック角θ´は、レールの曲線曲率や、前軸19と後軸20との距離(ホイールベース)などによって決定される。曲線曲率がホイールベースに対して小さいと、アタック角θ´も大きくなる。また、台車ボギー角θ´とアタック角θ´とは反比例の関係にあり、台車ボギー角θ´を大きくすると、アタック角θ´が小さくなる。
【0018】
本実施形態においては、案内溝17によって後輪9が外側に案内されるため、図3において実線で示す台車6のように、台車6の後方側が外側に送られて、台車ボギー角θ´がΔθ分だけ増加して、台車ボギー角θとなる。そして、台車ボギー角θ´が増加した分、アタック角θ´がΔθ分だけ減少して、アタック角θとなる。このとき、ΔθとΔθとはほぼ等しくなる。
このようにして、路面電車2が低速急曲進走行し、目的地へと走行していく。
なお、図3においては、簡略化のために車輪10を矩形状に記載しているが、実際の車輪10は円錐台状となっているのは上述した通りである。
【0019】
以上より、本実施形態における車両用軌道1によれば、車輪10の進行距離と、曲線軌道レール13の長さ寸法とが調整されることから、車輪10の進行距離と曲線軌道レール13の長さ寸法との間で、容易にバランスを取ることができる。そのため、曲進走行時において、車輪10のすべりを抑制し、それら車輪10を安定的に走行させることができる。また、すべりによる振動や摩耗を軽減させることができるため、車輪10及び曲線軌道レール13の寿命や取り替え周期を延ばすことができる。
【0020】
また、曲進走行時において、前輪8のアタック角θを小さくすることができることから、車輪10の外軌側レール13aとフランジ接触力(横圧)を減少させ、脱線係数(横圧輪重比)を小さくすることができる。
また、案内溝17を設けたレールは一般的に高価であるが、案内溝17を外軌側レール13aのみに設けるだけでよいので、建設費などのコストを抑えることができる。
さらに、独立回転車輪や操舵輪軸車輪などに比べて、簡易に車輪10を安定させることができ、台車6側を非操舵輪軸車輪としながらも、台車操舵効果を得ることができる。
また、曲線軌道レール13や車輪10に、摩耗や騒音防止用の油などを塗る必要もない。
【0021】
なお、本実施形態においては、台車6が、車体3の先端部と後端部とにそれぞれ接続されるとしたが、これに限ることはなく、その設置位置や設置数は適宜変更可能である。
また、台車6は車輪10を二対備えるとしたが、その設置数は適宜変更可能である。例えば、二対以上であってもよい。また、一対であってもよい。一対の場合、台車6を少なくとも二つ設けるようにする。すなわち、車体3全体として、前輪8と後輪9の少なくとも2対の車輪10が設けられていればよい。
また、台車6を設けることなく、車体3に直接車輪10を設けるようにしてもよい。この場合も、車体3全体として、前輪8と後輪9の少なくとも二対の車輪10が設けられていればよい。
【0022】
また、本実施形態においては、左折の場合について説明したが、これに限ることはなく、右折やUターンなどであってもよい。右折の場合、外輪と内輪、外軌側レールと内軌側レールとがそれぞれ逆になるのは言うまでもない。
また、案内溝17を設けるとしたが、外軌側レール13aに一体的に案内溝17を設けてもよいし、ステップ付きレールなどのように、別部材によって案内溝17を設けるようにしてもよい。
また、本発明の技術範囲は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る車両用軌道の実施形態を示す図であって、軌道上を路面電車が曲進走行している様子を示す説明図である。
【図2】図1の曲線軌道レール及び車輪を、進行方向から見たときの様子を拡大して示す説明図である。
【図3】図1の曲線軌道レール及び車輪を、上から見たときの様子を拡大して示す説明図である。
【図4】従来の路面電車用の軌道及び車輪の様子を示す説明図である。
【図5】従来の一般鉄道用の軌道及び車輪の様子を示す説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1 車両用軌道
2 路面電車(車両)
8 前輪
9 後輪
10 車輪
12 輪軸
13 曲線軌道レール
13a 外軌側レール
13b 内軌側レール
17 案内溝
S スラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪と後輪の少なくとも二対の円錐台状の車輪を備える車両を、前記前輪と前記後輪との間の距離を略等間隔に保持した状態で、低速急曲進走行させるための車両用軌道であって、
曲線状に形成された一対の曲線軌道レールを備え、
前記一対の曲線軌道レールのうち、外軌側に配された外軌側レールに、前記車輪を案内するための案内溝が設けられ、
内軌側に配された内軌側レールに、軌間の拡大したスラックが設けられていることを特徴とする車両用軌道。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−77584(P2007−77584A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263279(P2005−263279)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)