説明

車両用輻射熱暖房装置

【課題】乗員への輻射熱の到達率を下げることなく、乗員が加熱手段に接触しにくい車両用輻射熱暖房装置を提供する。
【解決手段】本発明の車両用輻射熱暖房装置1は、車室内を暖房する輻射熱を発生させる熱源としての加熱手段2と、乗員が加熱手段2に接触することを防止する保護部材3と、保護部材3を支持する支持部材5と、を有する。加熱手段2は一対の可撓性を有するシート状部材3a、3bの間に設けられている。シート状部材3a、3bのうち車室内側に設けられたシート状部材3aの表面には、車室内側に向かって突出する複数の凸状部材4が設けられている。このシート状部材3aおよび凸状部材4が保護部材3を構成している。支持部材4は内装部材6とシート状部材3bとの間に空気層7形成するように、車室内とは反対側からシート状部材3b等を支持している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輻射熱によって車室内を暖房する車両用輻射熱暖房装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、車室内の内装部材の表面に沿って配置された面状の電気ヒータと、電気ヒータの表面に配置された保護部材と、電気ヒータの裏面に配置された支持部材とを備える車両用輻射熱暖房装置が開示されている。
【0003】
この特許文献1の車両用輻射熱暖房装置は、支持部材の熱伝導率を保護部材の熱伝導率より低くすることで、暖房装置の指示部材側への放熱を抑制し、保護部材側すなわち車室内側への熱伝導を効率的に行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−52710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の車両用輻射熱暖房装置では、暖房装置の保護部材の表面温度が上がりやすくなるので、乗員が、表面温度の上昇した保護部材に接触し火傷をする可能性があるという問題がある。
【0006】
そこで本発明は、上記問題を解決すべく、乗員が表面温度の上昇した保護部材に接触しにくい構造とすることにより、乗員の火傷等を防止する車両用輻射熱暖房装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、車室内の内側表面を構成する内装部材に取り付けられており、輻射熱を発生する加熱手段と、加熱手段より車室内側に配置されており、乗員が加熱手段に接触することを防止する保護部材と、保護部材のうち車室内とは反対側の部位を支持する支持部材と、を有する車両用輻射熱暖房装置において、保護部材の車室内側の表面には、複数の凸状部材が設けられて、保護部材は、可撓性を有し、支持部材は、保護部材の車室内とは反対側に空気層を形成するようにして設けられており、乗員が凸状部材を押圧した際に、保護部材が押圧方向に撓み、押圧された凸状部材に隣接する凸状部材が押圧された凸状部材側に傾き、押圧された凸状部材の先端と隣接する凸状部材の先端との間隔が小さくなることを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、保護部材の車室内側の表面に複数の凸状部材を設けた構成であるため、凸状部材と隣接する凸状部材との間における保護部材の表面から、加熱手段の熱が車室内に放熱される。
【0009】
一方、乗員がある特定の凸状部材を押圧すると、保護部材に当該押圧方向の力が作用し、この押圧方向に保護部材が撓む。これにより押圧された凸状部材に隣接する凸状部材が押圧された凸状部材側に傾く。これにより、押圧された凸状部材の先端と隣接する凸状部材の先端との間隔が小さくなり、乗員が、温度の上昇した保護部材に接触しにくくなる。
【0010】
以上のような作用により、乗員の暖房感を低下させることなく、火傷等を防止することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、車室内の内側表面を構成する内装部材に取り付けられており、輻射熱を発生する加熱手段と、加熱手段より車室内側に配置されており、乗員が加熱手段に接触することを防止する保護部材と、保護部材のうち車室内とは反対側の部位を支持する支持部材と、を有する車両用輻射熱暖房装置において、保護部材の車室内側の表面には、複数の凸状部材が設けられて、保護部材および支持部材は、可撓性を有し、乗員が凸状部材を押圧した際に、保護部材および支持部材が押圧方向に撓み、押圧された凸状部材に隣接する凸状部材が押圧された凸状部材側に傾き、押圧された凸状部材の先端と隣接する凸状部材の先端との間隔が小さくなることを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、保護部材の車室内側の表面に複数の凸状部材を設けた構成であるため、凸状部材と隣接する凸状部材との間における保護部材の表面から、加熱手段の熱が車室内に放熱される。
【0013】
一方、乗員がある特定の凸状部材を押圧すると、保護部材および支持部材に当該押圧方向の力が作用し、この押圧方向に保護部材および支持部材が撓む。これにより押圧された凸状部材に隣接する凸状部材が押圧された凸状部材側に傾く。これにより、押圧された凸状部材の先端と隣接する凸状部材の先端との間隔が小さくなり、乗員が、温度の上昇した保護部材に接触しにくくなる。
【0014】
以上のような作用により、請求項1に記載の発明と同様の効果を奏することができる。
【0015】
また、請求項3に記載の発明のように、請求項1または2に記載の車両用輻射熱暖房装置において、可撓性を有する一対のシート状部材を有し、保護部材は、一対のシート状部材の一方で構成され、この一方のシート状部材の表面に凸状部材が設けられ、加熱手段は、一対のシート状部材の間に設けられた構成とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係る車両用輻射熱暖房装置1の車両への取付け状態を示す模式図である。
【図2】第1実施形態に係る車両用輻射熱暖房装置1の一部を示しており、(a)は平面図、(b)は図2(a)におけるA−A断面図である。
【図3】第1実施形態に係る車両用輻射熱暖房装置1が押圧された状態を示す断面図である。
【図4】第2実施形態に係る車両用輻射熱暖房装置1の一部を示しており、(a)は平面図、(b)は図4におけるB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
(本実施形態の構成)
本発明の第1実施形態について図1ないし図3に基づいて説明する。図1は本実施形態に係る車両用輻射熱暖房装置1の車両への取付け状態を示す模式図である。図2は本実施形態に係る車両用輻射熱暖房装置1の一部を示しており、(a)は平面図、(b)は図2(a)のA−A断面図である。図3は本実施形態に係る車両用輻射熱暖房装置1が押圧された状態を示す断面部図である。なお、図1の上下前後の各矢印は車両の上下前後を示している。
【0018】
本実施形態の車両には、車両用輻射熱暖房装置1の他に、エンジン冷却水を熱源として車室内を暖房する図示しない暖房装置を備えている。したがって、本実施形態の車両用輻射熱暖房装置1は、エンジン始動時のようにエンジン冷却水から車室内暖房用の熱を充分に得ることができない場合に始動させて、図1の二点鎖線で示す乗員の足元周辺の即効暖房を行う補助暖房装置として用いられる。
【0019】
図1に示すように、車両用輻射熱暖房装置1は車室内の内側表面を構成する内装部材に取り付けられている。具体的には、乗員足元を効率的に暖房するために、乗員足元の直上のステアリングコラム6の下面にビス等によって取り付けられている。なお、図1では、車両用輻射熱暖房装置1の車両搭載位置等を明確にするために、ハンドル8およびシート9等も図示している。
【0020】
車両用輻射熱暖房装置1は、図2に示すように、加熱手段としての電気ヒータ2、乗員が電気ヒータ2に接触することを防止する保護部材3、および保護部材3を支持する支持部材5を備えている。
【0021】
電気ヒータ2は、通電により発熱する通電発熱体であるニクロム線を有する。このニクロム線は、同一面上で蛇行形状に複数回折り曲げられて構成されている。また電気ヒータ2には、図示しないスイッチ手段を介して図示しないバッテリから電源が供給される。
【0022】
また本実施形態では、可撓性を有するシリコンゴムよりなる一対のシート状部材3a、3bを有し、電気ヒータ2はこの一対のシート状部材3a、3bの間に設けられている。この一対のシート状部材3a、3bのうち、電気ヒータ2より車室内側に設けられたシート状部材3aは、乗員が電気ヒータ2に接触することを防止する役割をしている。したがってこのシート状部材3aは本発明の保護部材を構成している。
【0023】
このシート状部材3aの表面には、車室内側に向かって突出する複数の凸状部材4が接着されており、シート状部材3aの表面に一定の間隔で設けられている。この凸状部材4は、シリコンゴムを発泡させたもので立方体形状に構成されており、その厚さはシート状部材3aよりも厚く構成されている。凸状部材3aは、乗員の皮膚と保護部材3との接触部分の温度が接着安定時において333K(60℃)以下となるように設定されている。なお、接着安定時とは、乗員の皮膚と保護部材3との間で熱の移動の収支のバランスがとれ、接触部分の温度が安定する状態を言う。
【0024】
具体的には、保護部材3の熱通過率をK’[W/(m・K)]、人体の熱通過率をK4[W/(m・K)]、人体の通常時の血流温度をTm[K]、電気ヒータ2の表面温度をTh[K]としたとき、保護部材3の熱通過率K’は、下記の数式1
(数1)
(2×Th×K’+Tm×K4)/(2×K’+K4)≦333
にて示される関係を満たすように設定されている。
【0025】
図2に示すように、支持部材5がシート状部材3bとステアリングコラム6との間の任意の位置に複数設けられている。この支持部材5はシート状部材3a、3bよりも硬質の材料で形成されており、この支持部材5によって、電気ヒータ2、シート状部材3a、シート状部材3bおよび凸状部材4をステアリングコラム6側から支持している。このような構成により、シート状部材3bとステアリングコラム6との間に空気層7が形成されている。
【0026】
(本実施形態の作用および効果)
本実施形態によれば、シート状部材3aの車室内側の表面に複数の凸状部材4を設けた構成であるため、凸状部材4と凸状部材4との間におけるシート状部材3aの表面から、電気ヒータ2の熱を車室内に放熱される。
【0027】
一方、乗員がある特定の凸状部材4aを指で押圧すると、シート状部材3a、3bに当該押圧方向の力Fが作用する。ここで、支持部材5はシート状部材3a、3bよりも硬質の材料で形成されているため、支持部材5よりも内側におけるシート状部材3a、3bが押圧方向に撓む。これにより押圧された凸状部材4aに隣接する凸状部材4bが押圧された凸状部材4a側に傾く。これにより、押圧された凸状部材4aの先端と隣接する凸状部材4bの先端との間隔が小さくなり、乗員の指が、温度の上昇したシート状部材3aに接触しにくくなる。
【0028】
以上のような作用により、乗員が凸状部材4に非接触の状態では、電気ヒータ2から発生する輻射熱により、乗員の暖房感の低下を防ぐことができ、乗員が凸状部材4を指で押圧しても、温度の上昇したシート状部材3aに指が接触しにくくなり、火傷等を防止することが可能となる。
【0029】
(第2実施形態)
(本実施形態の構成)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる点について説明することとし、第1実施形態と同じ部分については同じ符号を付して説明は省略する。図4は第2実施形態に係る車両用輻射熱暖房装置1の一部を示しており、(a)は平面図、(b)は図4(a)のB−B断面図である。
【0030】
図4に示すように、可撓性を有する支持部材5がシート状部材3bとステアリングコラム6との間を埋めるようにして設けられており、この支持部材5によってシート状部材3bをステアリングコラム6側から支持している。したがって、本実施形態では第1実施形態のような空気層7が形成されていない。
【0031】
(本実施形態の作用および効果)
本実施形態によれば、シート状部材3aの車室内側の表面に複数の凸状部材4を設けた構成であるため、凸状部材4と凸状部材4との間におけるシート状部材3aの表面から、電気ヒータ2の熱を車室内に放熱される。
【0032】
一方、乗員がある特定の凸状部材4を指で押圧すると、シート状部材3a、3bおよび支持部材5に当該押圧方向の力Fが作用し、この押圧方向にシート状部材3a、3bおよび支持部材5が撓む。これにより押圧された凸状部材4に隣接する凸状部材4が押圧された凸状部材4側に傾く。これにより、押圧された凸状部材4の先端と隣接する凸状部材4の先端との間隔が小さくなり、乗員の指が、温度の上昇したシート状部材3aに接触しにくくなる。
【0033】
以上のような作用により、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0034】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0035】
(1)上記第1実施形態および第2実施形態では、シート状部材3a、3bは平面状に構成されていたが、車室内側に出っ張った湾曲形状としてもよい。そのような構成にすることで、凸状部材4aや隣接する凸状部材4bの先端同士が扇状に広がるので、シート状部材3aからの放熱が凸状部材4a、4bによって遮られ難くなり、より車室内の暖房能力を向上させることができる。
【0036】
(2)逆に、シート状部材3a、3bをステアリングコラム6側に凹んだ湾曲形状としてもよい。
【0037】
(3)上記第1実施形態および第2実施形態では、シート状部材3a上に凸状部材4を接着し構成されていたが、シート状部材3aと凸状部材4とを一体成型してもよい。
【0038】
(4)上記第1実施形態および第2実施形態では、凸状部材4は立方体形状としたが、円柱形状等にしてもよい。
【0039】
(5)上記第1実施形態および第2実施形態では、電気ヒータ2を一対のシート状部材3a、3bの間に設けた構成としたが、シート状部材を1枚とし、そのシート状部材の内部に電気ヒータを内蔵した構成としてもよい。
【0040】
(6)凸状部材4を2層構造としてもよい。具体的には、シート状部材3aに当接する部分(下層)を熱に強い材質のもので構成し、下層の上に設けられる部分(上層)を下層よりも比較的熱に弱い材質のもので構成してもよい。このように構成することで、コストがかかる熱に強い素材の量を低減し、コストダウンを図ることができる。
【0041】
(7)凸状部材4を千鳥形状に配置してもよい。
【0042】
(8)隣接する凸状部材4同士の間隔が、凸状部材の幅よりも小さくなるように配置してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 車両用輻射熱暖房装置
2 電気ヒータ(加熱手段)
6 ステアリングコラム(内装部材)
7 空気層
8 ハンドル
9 シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の内側表面を構成する内装部材(6)に取り付けられており、
輻射熱を発生する加熱手段(2)と、
前記加熱手段(2)より車室内側に配置されており、乗員が前記加熱手段(2)に接触することを防止する保護部材(3)と、
前記保護部材(3)のうち車室内とは反対側の部位を支持する支持部材(5)と、を有する車両用輻射熱暖房装置において、
前記保護部材(3)の車室内側の表面には、複数の凸状部材(4)が設けられて、
前記保護部材(3)は、可撓性を有し、
前記支持部材(5)は、前記保護部材(3)の前記車室内とは反対側に空気層(7)を形成するようにして設けられており、
乗員が前記凸状部材(4a)を押圧した際に、前記保護部材(3)が前記押圧方向に撓み、前記押圧された凸状部材(4a)に隣接する凸状部材(4b)が前記押圧された凸状部材(4a)側に傾き、前記押圧された凸状部材(4a)の先端と前記隣接する凸状部材(4b)の先端との間隔が小さくなることを特徴とする車両用輻射熱暖房装置。
【請求項2】
車室内の内側表面を構成する内装部材(6)に取り付けられており、
輻射熱を発生する加熱手段(2)と、
前記加熱手段(2)より車室内側に配置されており、乗員が前記加熱手段(2)に接触することを防止する保護部材(3)と、
前記保護部材(3)のうち車室内とは反対側の部位を支持する支持部材(5)と、を有する車両用輻射熱暖房装置において、
前記保護部材(3)の車室内側の表面には、複数の凸状部材(4)が設けられて、
前記保護部材(3)および前記支持部材(5)は、可撓性を有し、
乗員が前記凸状部材(4)を押圧した際に、前記保護部材(3)および前記支持部材(5)が前記押圧方向に撓み、前記押圧された凸状部材(4)に隣接する凸状部材(4)が前記押圧された凸状部材(4)側に傾き、前記押圧された凸状部材(4)の先端と前記隣接する凸状部材(4)の先端との間隔が小さくなることを特徴とする車両用輻射熱暖房装置。
【請求項3】
可撓性を有する一対のシート状部材(3a、3b)を有し、
前記保護部材(3)は、前記一対のシート状部材(3a、3b)の一方(3a)で構成され、
この一方のシート状部材(3a)の表面に前記凸状部材(4)が設けられ、
前記加熱手段(2)は、前記一対のシート状部材(3a、3b)の間に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用輻射熱暖房装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−228896(P2012−228896A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96777(P2011−96777)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】