説明

車両用部品及びその製造方法

【課題】従来より製造コストを低減させることが可能な車両用部品及びその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係るエンジンカバー10は、カバー本体11の内面11Nにウレタン発泡成形体30がモールド成形され、カバー本体11の外面11Gに加飾盤20が接着剤層32を介して固定されている。この接着剤層32は、ウレタン発泡成形体30のウレタン発泡原液Gがカバー本体11の内面11Nから貫通孔14Aを通って、カバー本体11の外面11Gと加飾盤20との隙間に入り込むことによって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メイン部材における第1の面にウレタン発泡成形体を固定して備えると共に、メイン部材のうち第1の面とは表裏の位置関係にある第2の面にサブ部材を固定して備えた車両用部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記した車両用部品の一例として、メイン部材としてのカバー本体の内面に、防音用のウレタン発泡成形体を固定して備える一方、カバー本体の外面にサブ部材としての加飾盤(例えば、エンブレム)を固定して備えたエンジンカバーが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−9857号公報([0010]、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したエンジンカバーを一例とする従来の車両用部品では、ウレタン発泡成形体及びサブ部材を両面テープや接着剤等にてメイン部材に固定する接着行程に手間がかかり、製造コストが高くなるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、従来より製造コストを低減させることが可能な車両用部品及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る車両用部品(10)は、メイン部材(11)における第1の面(11N)に対してウレタン発泡成形体(30)をモールド成形して固定すると共に、メイン部材(11)のうち第1の面(11N)とは表裏の位置関係にある第2の面(11G)にサブ部材(20)を固定した車両用部品(10)において、メイン部材(11)における第1の面(11N)と第2の面(11G)との間に貫通孔(14A)を形成し、貫通孔(14A)を通して第1の面(11N)から第2の面(11G)とサブ部材(20)との間の隙間(17)に流動したウレタン発泡成形体(30)のウレタン発泡原液(G)で、メイン部材(11)とサブ部材(20)とを固定する接着剤層(32)を形成したところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両用部品(10)において、メイン部材(11)又はサブ部材(20)の一方から突出して他方に当接しかつ貫通孔(14A)を囲む当接環状突部(16)を設け、当接環状突部(16)の内側にウレタン発泡原液(G)を滞留させて接着剤層(32)とするための接着用隙間(17)を備えたところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載の車両用部品(10)において、当接環状突部(16)をメイン部材(11)及びサブ部材(20)の外縁部より内側に配置したところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項4に記載の車両用部品(10)において、当接環状突部(16)はメイン部材(11)から突出し、メイン部材(11)のうち当接環状突部(16)の外側でサブ部材(20)に覆われた部分には、当接環状突部(16)の外側に溢れたウレタン発泡原液(G)を滞留させるための余剰原液貯留溝(61)が形成されたところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1に記載の車両用部品(10)において、メイン部材(11)とサブ部材(20)との間で互いに当接する当接部(16,16W,121)を設けて、メイン部材(11)とサブ部材(20)との間に接着用隙間(17)を形成したところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5に記載の車両用部品(10)において、メイン部材(11)とサブ部材(20)との間に、接着用隙間(17)を外側から囲み、接着用隙間(17)から溢れたウレタン発泡原液(G)を滞留させるための外縁環状空間(18)を形成したところに特徴を有する。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1乃至6の何れか1の請求項に記載の車両用部品(10)において、サブ部材(20)の外縁部からメイン部材(11)に向かって突出した外縁環状突部(21)と、メイン部材(11)に陥没形成されて外縁環状突部(21)を受容した外堀環状溝(19)とを備えたところに特徴を有する。
【0013】
請求項8の発明に係る車両用部品(10)の製造方法は、メイン部材(11)における第1の面(11N)に対してウレタン発泡成形体(30)を固定すると共に、メイン部材(11)のうち第1の面(11N)とは表裏の位置関係にある第2の面(11G)にサブ部材(20)を固定して車両用部品(10)を製造する車両用部品(10)の製造方法において、メイン部材(11)における第1の面(11N)と第2の面(11G)との間に貫通孔(14A)を形成しておき、メイン部材(11)の第2の面(11G)にサブ部材(20)重ねた状態でメイン部材(11)の第1の面(11N)に対してウレタン発泡成形体(30)をモールド成形すると共に、そのウレタン発泡成形体(30)をモールド成形するためのウレタン発泡原液(G)を、貫通孔(14A)を通して第1の面(11N)から第2の面(11G)とサブ部材(20)との間の隙間(17)に流動させてメイン部材(11)とサブ部材(20)とを固定する接着剤に使用するところに特徴を有する。
【0014】
請求項9の発明は、請求項8に記載の車両用部品(10)の製造方法において、メイン部材(11)の第1の面(11N)を下方に向くように配置した状態で、第1の面(11N)に対して下方からウレタン発泡成形体(30)をモールド成形するところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0015】
[請求項1の発明]
請求項1の発明に係る車両用部品(10)の構成によれば、メイン部材(11)の第2の面(11G)にサブ部材(20)を重ねた状態にして、メイン部材(11)の第1の面(11N)に対してウレタン発泡成形体(30)をモールド成形すると、貫通孔(14A)を通して第1の面(11N)から第2の面(11G)とサブ部材(20)との間の隙間(17)にウレタン発泡成形体(30)のウレタン発泡原液(G)が流れ込む。そして、メイン部材(11)における第1の面(11N)側で固化したウレタン発泡原液(G)がウレタン発泡成形体(30)になって第1の面(11N)に固着し、メイン部材(11)における第2の面(11G)側で固化したウレタン発泡原液(G)が接着剤層(32)になってサブ部材(20)をメイン部材(11)に固定する。このように、請求項1の発明によれば、ウレタン発泡成形体(30)の成形行程が、サブ部材(20)及びウレタン発泡成形体(30)をメイン部材(11)に固定するための従来の接着行程を兼ねることができ、従来より手間が軽減され、製造コストを低減させることができる。また、ウレタン発泡成形体(30)のウレタン発泡原液(G)をサブ部材(20)とメイン部材(11)とを固定する接着剤に兼用することできるので、従来、必要とされた接着剤に係る費用も削減される。しかも、ウレタン発泡成形体(30)の固化と接着剤層(32)の固化とが同時に進行するので、従来に比べて製造時間を短縮することができる。
【0016】
[請求項2の発明]
請求項2の構成によれば、メイン部材(11)又はサブ部材(20)の一方から突出して他方に当接しかつ貫通孔(14A)を囲む当接環状突部(16)が防波堤となって、ウレタン発泡原液(G)をメイン部材(11)及びサブ部材(20)の外側に漏れ難くすることができる。また、当接環状突部(16)によって、接着用隙間(17)の大きさが一定になり、その接着用隙間(17)内で固化する接着剤層(32)の厚さが安定して、接着強度も安定する。
【0017】
[請求項3の発明]
請求項3の構成によれば、当接環状突部(16)をメイン部材(11)及びサブ部材(20)の外縁部より内側に配置したので、当接環状突部(16)より外側に溢れたウレタン発泡原液(G)を隠すことができる。
【0018】
[請求項4の発明]
請求項4の構成によれば、当接環状突部(16)はメイン部材(11)から突出しているので、メイン部材(11)の第2の面(11G)を上方に向けた状態にしてウレタン発泡成形体(30)をモールド成形した場合に、当接環状突部(16)より外側にウレタン発泡原液(G)が漏れることを効果的に抑えることができる。また、メイン部材(11)のうち当接環状突部(16)の外側でサブ部材(20)に覆われた部分には、当接環状突部(16)の外側に溢れたウレタン発泡原液(G)を滞留させるための余剰原液貯留溝(61)が形成されているので、ウレタン発泡原液(G)がメイン部材(11)及びサブ部材(20)の外側に漏れることを確実に防ぐことができる。
【0019】
[請求項5の発明]
請求項5の構成によれば、メイン部材(11)とサブ部材(20)との間で互いに当接する当接部(16,16W,121)を設けたことで接着用隙間(17)の大きさが一定になり、その接着用隙間(17)内で固化する接着剤層(32)の厚さが安定して、接着強度も安定する。
【0020】
[請求項6の発明]
請求項6の構成によれば、接着用隙間(17)から溢れたウレタン発泡原液(G)が、外縁環状空間(18)に滞留し、ウレタン発泡原液(G)がメイン部材(11)及びサブ部材(20)の外側に漏れることを防ぐことができる。
【0021】
[請求項7の発明]
請求項7の構成によれば、サブ部材(20)の外縁部から突出した外縁環状突部(21)が、メイン部材(11)に陥没形成されて外堀環状溝(19)に受容されているので、サブ部材(20)の外縁部に異物が引っかかってサブ部材(20)がメイン部材(11)から剥がれる事態を防ぐことができる。
【0022】
[請求項8及び9の発明]
請求項8の発明に係る車両用部品(10)の製造方法によれば、メイン部材(11)の第2の面(11G)にサブ部材(20)を重ねた状態にして、メイン部材(11)の第1の面(11N)に対してウレタン発泡成形体(30)をモールド成形したときに、貫通孔(14A)を通して第1の面(11N)から第2の面(11G)とサブ部材(20)との間の隙間(17)にウレタン発泡成形体(30)のウレタン発泡原液(G)が流れ込む。そして、メイン部材(11)における第1の面(11N)側で固化したウレタン発泡原液(G)がウレタン発泡成形体(30)になって第1の面(11N)に固着し、メイン部材(11)における第2の面(11G)側で固化したウレタン発泡原液(G)が接着剤層(32)になってサブ部材(20)をメイン部材(11)に固定する。このように、請求項8の発明によれば、ウレタン発泡成形体(30)の成形行程が、サブ部材(20)及びウレタン発泡成形体(30)をメイン部材(11)に固定するための従来の接着行程を兼ねることができ、従来より手間が軽減され、製造コストを低減させることができる。また、ウレタン発泡成形体(30)のウレタン発泡原液(G)をサブ部材(20)とメイン部材(11)とを固定する接着剤に兼用することできるので、従来、必要とされた接着剤に係る費用も削減される。しかも、ウレタン発泡成形体(30)の固化と接着剤層(32)の固化とが同時に進行するので、従来に比べて製造時間を短縮することができる。
【0023】
ここで、ウレタン発泡成形体(30)は、メイン部材(11)の第1の面(11N)を上方に向けた状態にしてモールド成形してもよいが、請求項9の発明に係る車両用部品(10)の製造方法のように、メイン部材(11)の第1の面(11N)を下方に向けた状態にしてウレタン発泡成形体(30)をモールド成形すれば、ウレタン発泡原液(G)をメイン部材(11)及びサブ部材(20)の外側に漏れ難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジンカバーの斜視図
【図2】加飾盤周辺の側断面図
【図3】当接環状突部周辺の側断面図
【図4】カバー本体、加飾盤及び成形金型の側断面図
【図5】成形金型を開いた状態の側断面図
【図6】成形金型を閉じた状態の側断面図
【図7】エンジンカバーにおける環状堤防壁周辺の側断面図
【図8】第2実施形態に係るエンジンカバーの側断面図
【図9】(A)第3実施形態に係るエンジンカバーの側断面図、(B)第4実施形態に係るエンジンカバーの側断面図
【図10】(A)変形例に係るエンジンカバーの側断面図、(B)変形例に係るエンジンカバーの側断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1実施形態]
以下、本発明に係る第1実施形態について図1〜図7に基づいて説明する。図1には、本発明の「車両用部品」に相当するエンジンカバー10が示されている。このエンジンカバー10は、本発明の「メイン部材」に相当するカバー本体11の外面11Gに、本発明の「サブ部材」に相当する加飾盤20を固定して備える一方、カバー本体11の内面11Nにウレタン発泡成形体30(図2参照)を固定して備えている。なお、カバー本体11の内面11Nが本発明の「第1の面」に相当し、外面11Gが本発明の「第2の面」に相当する。
【0026】
加飾盤20は、例えば、金属のプレス加工品であって全体が板状をなしている。また、図2に示すように、加飾盤20のうち外縁寄り位置より外側部分は、外側に向かうに従ってカバー本体11側に傾斜した外縁傾斜部20Tになっていて、その外縁傾斜部20Tに囲まれた主板部20Sの外面には、文字・マーク(例えば、図1の「ABC」)が刻印されている。また、加飾盤20の外縁部からは、内面側に外縁環状突部21が曲げ起こされている。
【0027】
ウレタン発泡成形体30は、例えば、エンジンの騒音を吸収する吸音材(又は、防音材)として設けられ、カバー本体11の内面11Nのうち装飾盤取付部12の裏面側に位置した部分を含む領域を覆っている。また、ウレタン発泡成形体30は、カバー本体11の内面11Nに対してモールド成形されることで、カバー本体11と一体になって内面11Nに固着している。
【0028】
カバー本体11は、合成樹脂の射出成形品であって、図1に示すように全体が板状をなしかつ、外縁からエンジン90に向けて側壁13を垂下した構造になっている。また、カバー本体11の外面11Gには、加飾盤20を固定するために装飾盤取付部12が設けられている。図2に示すように、装飾盤取付部12の外縁部には、カバー本体11のうち加飾盤20の外縁傾斜部20Tに対向する環状領域全体をカバー本体11全体に対して陥没させて外縁溝部15が形成されている。外縁溝部15の底面は、平坦になっていて、その外縁溝部15の底面における外縁寄り位置に沿って環状仕切突部15Tが突出形成されている。そして、外縁溝部15のうち環状仕切突部15Tより外側が、本発明に係る外堀環状溝19をなし、外縁溝部15のうち環状仕切突部15Tより内側が、本発明に係る余剰原液貯留溝61になっている。
【0029】
装飾盤取付部12の中央部には、カバー本体11のうち加飾盤20の主板部20Sに対向する領域全体を外縁溝部15の底面に対して隆起させて台座部14が形成されている。台座部14の上面は平坦になっていて、その上面における外縁寄り位置に沿って本発明に係る当接環状突部16が突出形成されている。当接環状突部16の先端面は、台座部14の上面と平行な平坦面になっている。そして、当接環状突部16の先端面が加飾盤20における主板部20Sの内面に面当接しかつ、加飾盤20の外縁環状突部21がカバー本体11の外堀環状溝19に受容された状態になっている。また、当接環状突部16の内側には、カバー本体11と加飾盤20に挟まれた接着用隙間17が形成されると共に、当接環状突部16の外側には、カバー本体11と加飾盤20とに挟まれ、接着用隙間17より上下方向に大きな外縁環状空間18が形成されている。そして、これらカバー本体11と加飾盤20との間の隙間のうち接着用隙間17に接着剤層32が設けられ、その接着剤層32によって加飾盤20がカバー本体11に固定されている。
【0030】
さて、本実施形態のエンジンカバー10では、上記した接着剤層32をウレタン発泡成形体30と共通の組成物、即ち、ウレタン発泡原液Gで構成するために、カバー本体11のうち当接環状突部16に囲まれた領域の中央に、本発明に係る貫通孔14Aが貫通形成されている。これにより、ウレタン発泡成形体30をモールド成形する際のウレタン発泡原液Gが貫通孔14Aを通して接着用隙間17に流れ込んで接着剤層32が形成されている。
【0031】
なお、図2には接着剤層32及び接着用隙間17が強調して示されているが、接着剤層32及び接着用隙間17の厚さは、一度発泡したウレタンが潰れてしみ込む程度の大きさ(例えば、0.5〜1.5[mm])になっていて、これにより、接着剤層32を構成するウレタンの発泡倍率は、ウレタン発泡成形体30よりも小さくなっている。また、ウレタン発泡原液Gが接着用隙間17に流れ込む際に接着用隙間17内のガスが外部に容易に抜けるようにするために、例えば、当接環状突部16には、その先端面を幅方向に横切るように複数のガス抜き溝16M(図3には、1つのガス抜き溝16Mが示されている)が形成され、外縁環状突部21は、外堀環状溝19の内面及び底面から離間した状態で外堀環状溝19に受容されている。
【0032】
エンジンカバー10の構成に関する説明は以上である。次に、エンジンカバー10の製造方法について説明する。図4には、ウレタン発泡成形体30をモールド成形するための成形金型40の一部が拡大して示されている。成形金型40は、上下方向に開閉可能な上側金型41と下側金型42とからなる。上側金型41のうち下側金型42との対向部分には、カバー本体11のカバー本体11Gに加飾盤20を重ねた状態にして保持可能なワーク保持部41Aが形成されている。また、下側金型42のうち上側金型41の凹部41Aとの対向部分には、ウレタン発泡成形体30の形状に対応した成形凹部43が形成されている。
【0033】
エンジンカバー10を製造するには、予めカバー本体11と加飾盤20とを製造しておく。そして、加飾盤20をカバー本体11の装飾盤取付部12に重ねた状態にして上側金型41のワーク保持部41Aに保持させる(図5参照)。すると、加飾盤20が、カバー本体11と上側金型41との間に挟まれてカバー本体11に押し付けられ、加飾盤20の内面にカバー本体11の当接環状突部16が当接し、当接環状突部16の内側に接着用隙間17が形成される。
【0034】
この状態で、ウレタン発泡原液Gを下側金型42の成形凹部43に注入する。具体的には、原液Gを吐出可能な吐出ガンをロボット(図示せず)の先端に取り付け、そのロボットにより吐出ガンを移動しながらウレタン発泡原液Gを成形凹部43の底部に注入する。そして、例えば、図5に示すように、ウレタン発泡原液Gの上面が略水平になって成形凹部43の上下方向における中間に位置した状態にする。
【0035】
ウレタン発泡原液Gの注入が終わったら、成形金型40を閉じる。すると、成形凹部43の上面開口43Aがカバー本体11によって閉塞されると共に、カバー本体11の貫通孔14Aが上面開口43A内に臨んだ状態になる。この状態で、成形金型40を加熱して所定の温度(例えば、上側金型41を65度、下側金型42を35度)で所定時間(例えば、100〜135秒)保持する。すると、ウレタン発泡原液Gが常温発泡して成形凹部43全体を満たし、ウレタン発泡原液Gの一部が貫通孔14Aを通って接着用隙間17に進入する。
【0036】
詳細には、発泡したウレタン発泡原液Gは、接着用隙間17内に進入する際に、泡が潰れる。また、成形凹部43内の既存のガス及びウレタン発泡成形体30から発生したガスは、例えば、ガス抜き溝16M(図3参照)や当接環状突部16と加飾盤20との当接隙間を通り、さらに、成形金型40の図示しないガス抜き孔を通って外部へ排出される。そして、このガスの圧力に押されて、泡が潰れたウレタン発泡原液Gが接着用隙間17内にしみ込んでいく。
【0037】
接着用隙間17に進入したウレタン発泡原液Gは、当接環状突部16で堰き止められる。ここで、ウレタン発泡原液Gが接着用隙間17全体に満たされ、ガス抜き溝16M(図3参照)や当接環状突部16と加飾盤20との当接隙間から接着用隙間17の外側にウレタン発泡原液Gが溢れ出す事態が発生し得る。しかしながら、本実施形態では、カバー本体11と加飾盤20との間には、当接環状突部16の外側の外縁環状空間18が設けられているので、溢れたウレタン発泡原液Gを外縁環状空間18に滞留させて、加飾盤20の外側に漏れることを防ぐことができる。詳細には、その外縁環状空間18内には、当接環状突部16が陥没形成されているので、当接環状突部16から溢れてカバー本体11上を流動するウレタン発泡原液Gを余剰原液貯留溝61に貯留し、加飾盤20の外側に漏れることを確実に防ぐことができる。
【0038】
ウレタン発泡原液Gの発泡開始から所定時間が経過すると、ウレタン結合が進行してウレタン発泡原液Gが固化する。そして、カバー本体11の内面11N側で固化したウレタン発泡原液Gがウレタン発泡成形体30になってそのカバー本体11の内面11Nに固着し、メイン部材11における外面11G側で固化したウレタン発泡原液Gが接着剤層32になって加飾盤20をカバー本体11に固定する。これらカバー本体11と加飾盤20及びウレタン発泡成形体30の固定が完了したら、成形金型40を開き、カバー本体11及び加飾盤20と一体になったウレタン発泡成形体30を成形金型40から取り出して、エンジンカバー10が完成する。
【0039】
このように、本実施形態のエンジンカバー10及びその製造方法によれば、ウレタン発泡成形体30の成形行程が、加飾盤20及びウレタン発泡成形体30をカバー本体11に固定するための従来の接着行程を兼ねることができ、従来より手間が軽減され、製造コストを低減させることができる。また、ウレタン発泡成形体30のウレタン発泡原液Gを加飾盤20とカバー本体11とを固定する接着剤に兼用することできるので、従来、必要とされた接着剤に係る費用も削減される。しかも、ウレタン発泡成形体30の固化と接着剤層32の固化とが同時に進行するので、従来に比べて製造時間を短縮することができる。また、本実施形態では、カバー本体11の当接環状突部16を加飾盤20に突き当てて接着用隙間17を形成しているので、接着用隙間17の大きさが一定になって接着剤層32の厚さが安定し、接着強度を安定させることができる。なお、本実施形態のエンジンカバー10では、加飾盤20の外縁部から突出した外縁環状突部21が、カバー本体11に陥没形成されて外堀環状溝19に受容されているので、加飾盤20の外縁部に異物が引っかかって加飾盤20がカバー本体11から剥がれる事態を防ぐことができる。
【0040】
[第2実施形態]
本実施形態のエンジンカバー10Vは、図8に示すように、カバー本体50が、第1カバー体51と第2カバー体52との2部品で構成されている。第2カバー体52は、合成樹脂の射出成形品であって、平板体53の外縁から包囲壁54が垂下した構造になっている。また、第1カバー体51は、第1実施形態のカバー本体11と同様の構造になっている。そして、第1カバー体51と第2カバー体52とが、接着剤層32によって固着されている。即ち、本実施形態では、第1カバー体51が、本発明の「メイン部材」に相当し、第2カバー体52が、本発明の「サブ部材」に相当する。このエンジンカバー10Vは、第1カバー体51と第2カバー52体とを重ねた状態で、第1実施形態と同様にしてウレタン発泡成形体30をモールド成形することで得られる。本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0041】
[第3実施形態]
本実施形態のエンジンカバー110は、図9(A)に示すように、カバー本体111の表側に陥没形成された接着用凹部112の開口を加飾盤120にて閉塞した構成になっている。接着用凹部112の奥面112Mには、カバー本体111の裏面で開口した貫通孔111Aが形成されている。そして、カバー本体111の裏面にモールド成形されたウレタン発泡成形体130が、貫通孔111Aを通って接着用凹部112に充填され、カバー本体111と加飾盤120とを固着している。なお、本実施形態では、接着用凹部112の奥面112Mが本発明の「第2の面」に相当し、接着用凹部112が本発明の「接着用隙間」に相当する。また、接着用凹部112の開口縁112Kによって、本発明に係る「当接部」が構成されている。
【0042】
[第4実施形態]
本実施形態のエンジンカバー110Vは、図9(B)に示されており、接着用凹部112の奥面112Mに環状溝113が形成されている点が第3実施形態と異なっている。このエンジンカバー110Vの構成によれば、ウレタン発泡成形体130の量が増加しても、余剰なウレタン発泡成形体130を環状溝113に溜めることができるので、ウレタン発泡成形体130が接着用凹部112の外側に漏れることが防がれる。
【0043】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0044】
(1)前記実施形態では、本発明をエンジンカバー及びその製造方法に適用した例を示したが、エンジンアンダーカバー、ドアトリムなどの車両用部品及びその製造方法に適用してもよい。
【0045】
(2)前記実施形態のエンジンカバー10では、メイン部材に対して1つのサブ部材が固着した構成であったが、複数のサブ部材が固着した構成であってもよい。
【0046】
(3)前記第1及び第2実施形態では、当接環状突部16がカバー本体11に形成されていたが、図10(A)に示すエンジンカバー10Wのように、当接環状突部16Wを加飾盤20Wに形成してもよい。なお、この構成では、当接環状突部16Wが、本発明に係る「当接部」に相当する。
【0047】
(4)図10(B)に示すエンジンカバー10Xのように、加飾盤20Xのカバー本体11Xとの対向面のうち当接環状突部16Xより外側の部分に凹部20Aを設けて外縁環状空間18Xを形成してもよい。
【0048】
(5)前記第1実施形態では、カバー本体11の内面11Nを下方に向けた状態にしてカバー本体11に対して下方からウレタン発泡成形体30をモールド成形していたが、カバー本体11の内面11Nを上方に向けた状態にしてカバー本体11に対して上からウレタン発泡成形体30をモールド成形してもよい。ただし、前記第1実施形態のように、カバー本体11に対して下方からウレタン発泡成形体30をモールド成形した方が、ウレタン発泡原液Gをカバー本体11及び加飾盤20の外側に漏れ難くすることができる。
【0049】
(6)車両用部品は、エンジンカバーに限定されるものではなく、エンジンアンダーカバーやドアトリムであってもよい。また、ウレタン発泡成形体は、防音材に限定されるものではなく、緩衝材や耐熱材であってもよい。
【0050】
(7)接着用隙間17の厚さを、発泡したウレタンが潰れない程度に厚くして、接着剤層32を構成するウレタンの発泡倍率をウレタン発泡成形体30と同程度にしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10,10V,10W,10X,110,110V エンジンカバー(車両用部品)
11,11W,11X,111,111V カバー本体(メイン部材)
14A,111A 貫通孔
16,16W,16X 当接環状突部
17 接着用隙間
18,18X 外縁環状空間
19 外堀環状溝
20,20W,20X,120 加飾盤(サブ部材)
21 外縁環状突部
30,130 ウレタン発泡成形体
51 第1カバー体(メイン部材)
52 第2カバー体(サブ部材)
61 余剰原液貯留溝
G ウレタン発泡原液
112 接着用凹部(接着用隙間)
112K 開口縁(当接部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メイン部材(11)における第1の面(11N)に対してウレタン発泡成形体(30)をモールド成形して固定すると共に、前記メイン部材(11)のうち前記第1の面(11N)とは表裏の位置関係にある第2の面(11G)にサブ部材(20)を固定した車両用部品(10)において、
前記メイン部材(11)における前記第1の面(11N)と前記第2の面(11G)との間に貫通孔(14A)を形成し、
前記貫通孔(14A)を通して前記第1の面(11N)から前記第2の面(11G)と前記サブ部材(20)との間の隙間(17)に流動した前記ウレタン発泡成形体(30)のウレタン発泡原液(G)で、前記メイン部材(11)と前記サブ部材(20)とを固定する接着剤層(32)を形成したことを特徴とする車両用部品(10)。
【請求項2】
前記メイン部材(11)又は前記サブ部材(20)の一方から突出して他方に当接しかつ前記貫通孔(14A)を囲む当接環状突部(16)を設け、前記当接環状突部(16)の内側にウレタン発泡原液(G)を滞留させて前記接着剤層(32)とするための接着用隙間(17)を備えたことを特徴とする請求項1に記載の車両用部品(10)。
【請求項3】
前記当接環状突部(16)を前記メイン部材(11)及び前記サブ部材(20)の外縁部より内側に配置したことを特徴とする請求項2に記載の車両用部品(10)。
【請求項4】
前記当接環状突部(16)は前記メイン部材(11)から突出し、前記メイン部材(11)のうち前記当接環状突部(16)の外側で前記サブ部材(20)に覆われた部分には、前記当接環状突部(16)の外側に溢れた前記ウレタン発泡原液(G)を滞留させるための余剰原液貯留溝(61)が形成されたことを特徴とする請求項4に記載の車両用部品(10)。
【請求項5】
前記メイン部材(11)と前記サブ部材(20)との間で互いに当接する当接部(16,16W,121)を設けて、前記メイン部材(11)と前記サブ部材(20)との間に接着用隙間(17)を形成したことを特徴とする請求項1に記載の車両用部品(10)。
【請求項6】
前記メイン部材(11)と前記サブ部材(20)との間に、前記接着用隙間(17)を外側から囲み、前記接着用隙間(17)から溢れた前記ウレタン発泡原液(G)を滞留させるための外縁環状空間(18)を形成したことを特徴とする請求項5に記載の車両用部品(10)。
【請求項7】
前記サブ部材(20)の外縁部から前記メイン部材(11)に向かって突出した外縁環状突部(21)と、前記メイン部材(11)に陥没形成されて前記外縁環状突部(21)を受容した外堀環状溝(19)とを備えたことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1の請求項に記載の車両用部品(10)。
【請求項8】
メイン部材(11)における第1の面(11N)に対してウレタンの発泡成形体(30)を固定すると共に、前記メイン部材(11)のうち前記第1の面(11N)とは表裏の位置関係にある第2の面(11G)にサブ部材(20)を固定して車両用部品(10)を製造する車両用部品(10)の製造方法において、
前記メイン部材(11)における前記第1の面(11N)と前記第2の面(11G)との間に貫通孔(14A)を形成しておき、
前記メイン部材(11)の前記第2の面(11G)に前記サブ部材(20)重ねた状態で前記メイン部材(11)の前記第1の面(11N)に対して前記ウレタン発泡成形体(30)をモールド成形すると共に、そのウレタン発泡成形体(30)をモールド成形するためのウレタン発泡原液(G)を、前記貫通孔(14A)を通して前記第1の面(11N)から前記第2の面(11G)と前記サブ部材(20)との間の隙間(17)に流動させて前記メイン部材(11)と前記サブ部材(20)とを固定する接着剤に使用することを特徴とする車両用部品(10)の製造方法。
【請求項9】
前記メイン部材(11)の前記第1の面(11N)を下方に向くように配置した状態で、前記第1の面(11N)に対して下方から前記ウレタン発泡成形体(30)をモールド成形することを特徴とする請求項8に記載の車両用部品(10)の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−149556(P2012−149556A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7940(P2011−7940)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000204033)太平洋工業株式会社 (143)