説明

車両用電子モジュールの検査装置及び検査方法

【課題】車両に取り付ける前に車両用モジュールを検査することができる検査装置を提供する。
【解決手段】検査装置2は、車両に搭載される電子モジュール1を車両に搭載する前に検査するものである。検査装置2は、電子モジュール1が必要とする所定情報を記憶する模擬情報記憶部17aと、模擬情報記憶部17aに記憶された所定情報を模擬信号として電子モジュール1に送信する送信部13と、電子モジュール1が出力する作動信号を受信する受信部13と、受信部13が作動信号を受信したときに、作動信号に含まれる故障情報に基づき電子モジュール1の作動の適否を判定する制御部14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される電子モジュールの検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両には、モータを制御するパワー・コントロール・ユニット(PCU)や、バッテリを制御するバッテリECU(Electronic Control Unit)、エンジンを制御するエンジンECU等の様々な電子モジュールが搭載されている。電子モジュールは、他の電子モジュールや各種センサから送信される情報に基づいて制御対象部品を制御する。
【0003】
従来、電子モジュールを検査する場合には、車両に搭載した状態で、検査装置を接続して検査する方法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−210865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両用電子モジュールは車両に搭載されて、他の電子モジュールや各種センサと通信できる状態でなければ、必要な所定情報が得られず正常に作動しない。即ち、車両に搭載する前に電子モジュールを検査した場合、電子モジュールが正常な状態であっても電子モジュールは必要な所定情報が得られないため、エラーが発生してしまう。従って、従来は、電子モジュールを車両に搭載した後に、検査装置を接続して検査を行っている。しかしながら、これでは、検査の結果、電子モジュールが故障していることが判明したときには、電子モジュールを車両から取り外す必要があり、手間が掛かる。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、車両に取り付ける前に車両用電子モジュールを検査することができる検査装置及び検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、車両に搭載される電子モジュールに接続して、該電子モジュールの作動を検査する検査装置であって、前記電子モジュールが必要とする所定情報を記憶する模擬情報記憶部と、該模擬情報記憶部に記憶された前記所定情報を模擬信号として前記電子モジュールに送信する送信部と、前記電子モジュールが出力する作動信号を受信する受信部と、該受信部が前記作動信号を受信したときに、前記作動信号に含まれる故障情報に基づき前記電子モジュールの作動の適否を判定する制御部とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、車両に搭載される電子モジュールの検査方法であって、前記電子モジュールが必要とする所定情報に対応する模擬信号を前記電子モジュールに送信する模擬信号送信工程と、前記模擬信号に基づいて前記電子モジュールが送信する作動信号を受信する作動信号受信工程と、受信した前記作動信号に基づいて前記電子モジュールの故障の有無を判定する故障判定工程とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、電子モジュールが必要とする所定情報に対応する信号として、検査装置が模擬信号を送信する。このため、本発明によれば、必要な所定情報がないことに起因する電子モジュールのエラーの発生を防止することができ、電子モジュールを車両に取り付けることなく検査することができる。
【0010】
上記検査装置の発明においては、故障情報と故障個所との対応関係を示す故障診断テーブルを記憶するテーブル記憶部を備え、制御部が、電子モジュールから受信した故障情報を組み合せ、当該故障情報の組み合せと故障診断テーブルとから故障個所を特定することが好ましい。
【0011】
また、上述の検査方法の発明においては、故障判定工程で故障有りと判定した場合には、作動信号受信工程で受信した作動信号から得られる故障情報を組み合せ、当該故障情報の組み合せと、予め記憶された故障情報及び故障個所の対応関係を示す故障診断テーブルとから故障個所を特定する故障個所特定工程を有することが好ましい。
【0012】
これによれば、電子モジュールが送信する作動信号(又はこの作動信号に含まれる故障情報)を組み合せて、予め記憶された故障診断テーブルから故障個所を特定するため、1つの故障情報のみから故障個所を特定する場合と比較して、故障個所を精度よく特定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の電子モジュールの検査装置の実施形態を模式的に示す説明図。
【図2】本実施形態の故障診断テーブルの一例を示す説明図。
【図3】本実施形態の検査装置の処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1から図3を参照して、本発明の電子モジュールの検査装置及び検査方法の実施形態を説明する。図1は、本実施形態の電子モジュール1の検査装置2を示している。本実施形態の電子モジュール1は、パワー・コントロール・ユニット(PCU)であり、ハイブリッド車両やEV車両等の駆動源として用いられる三相誘導モータ3に接続されるインバータ4と、インバータ4にコネクタ4aを介して波形を与えるモータECU(Electronic Control Unit)5と、三相誘導モータ3とインバータ4とを接続する3つの配線の内の何れか2つの電流を夫々測定する第1と第2の2つの電流センサ6,7とを備える。
【0015】
第1と第2の2つの電流センサ6,7は2つに分岐する分岐コネクタ8を介してモータECU5に接続されている。モータECU5には、出力端子9が出力コネクタ9aを介して接続されている。また、モータECU5には、図示省略したバッテリーECUやエンジンECU等の他の電子モジュールからの出力信号を受信する入力端子10が入力コネクタ10aを介して接続されている。また、モータECU5は、入力端子10から受信した信号等の受信信号に基づいて作動し、この作動の情報を作動信号として出力端子9から出力する。
【0016】
検査装置2は、入出力ケーブル11,12が接続されたインターフェース13と、マイクロ・コントロール・ユニット(MCU)からなる制御部14と、表示部15とを備える。インターフェース13の入力ケーブル11は、電子モジュール1の出力端子9に接続されている。出力ケーブル12は、電子モジュール1の入力端子10に接続されている。本実施形態のインターフェース13が本発明の受信部及び送信部に該当する。
【0017】
制御部14は、演算処理部16(CPU)と、制御プログラムが格納されたメモリ17とを備える。また、メモリ17は、制御プログラムに加えて、電子モジュール1が必要とする所定情報を予め記憶させた模擬情報記憶部17aと、後述する故障情報と故障個所との関係を表す故障診断テーブルが予め記憶されたテーブル記憶部17bを備えている。
【0018】
テーブル記憶部17bに予め記憶された故障診断テーブルは、図2にその一部を示すように、モータECU5から受信した故障情報に対応する故障個所の情報をまとめたものである。図2の「○」は故障情報に対して故障している可能性があること、換言すれば、故障情報と故障個所との関連性があることを示し、「−」は故障情報と故障個所との関連性がないことを示している。
【0019】
次いで、図3のフローを参照して、本実施形態の制御部14の作動を説明する。
【0020】
まず、ステップ1で、制御部14は、電子モジュール1に開始信号を送信し、電子モジュール1を作動させる。次に、ステップ2に進み、制御部14は、電子モジュール1が必要とする所定情報をメモリ17の模擬情報記憶部17aから選択し、選択した所定情報を模擬信号として電子モジュール1に送信する。
【0021】
電子モジュール1は、検査装置2から送信された模擬信号を受信し、受信した模擬信号に基づいて作動する。そして、電子モジュール1は、その作動の内容を作動信号として検査装置2に送信する。この作動信号の中には、電子モジュール1(モータECU5)が認識した故障情報も含まれる。
【0022】
次いで、ステップ3に進み、制御部14は、電子モジュール1から作動信号を受信したか否かをチェックする。制御部14は、作動信号を受信すると、ステップ4に進み、受信した作動信号に故障情報が含まれているか否かをチェックする。制御部14は、作動信号に故障情報が含まれている場合には、ステップ5に進み、受信した故障情報を組み合せて、この組み合わされた故障情報と、メモリ17のテーブル記憶部17bに記憶された故障診断テーブルとに基づき、故障個所を特定する。
【0023】
ここで、この故障個所の特定について、図2を参照して具体的に説明する。例えば、作動信号の中に「第1電流センサ異常」の故障情報が含まれていたとする。このときには、故障個所としては、図2の故障診断テーブルから第1電流センサ6自体が故障している場合と、分岐コネクタ8の接続不良である場合との2つの場合があり、これだけでは、故障個所がどちらであるのか判断できない。
【0024】
そこで、本実施形態の検査装置2は、作動信号の中に、「第1電流センサ異常」に加えて「第2電流センサ異常」の故障情報が含まれているか否かで、即ち、故障情報の組み合せで、故障個所をより正確に特定できるようにしている。
【0025】
具体的には、作動信号の中に「第1電流センサ異常」の故障情報のみが含まれており、「第2電流センサ異常」の故障情報が含まれていない場合には、制御部14は第2電流センサ7からの信号を分岐コネクタ8を介して受信できていることとなるため、故障個所を第1電流センサ6と特定する。
【0026】
作動信号の中に「第1電流センサ異常」及び「第2電流センサ異常」の2つの故障情報が含まれている場合には、分岐コネクタ8の接触不良である可能性が高いと考えられるため、故障個所を分岐コネクタ8と特定する。これにより、本実施形態の検査装置2によれば、故障情報の組み合せと故障診断テーブルとを用いることにより、故障個所を1つの故障情報から特定する場合に比べて、故障個所をより高い精度で特定することができる。
【0027】
図3に戻って、ステップ5で故障個所を特定した後、ステップ6に進み、制御部14は、特定した故障個所を表示部15に表示させる。また、ステップ4で受信した作動信号に故障情報が含まれていない場合には、ステップ6に進み、制御部14は、表示部15に電子モジュール1が正常である旨を表示する。尚、本実施形態において、図3に示すフローが本発明の検査方法に該当する。具体的には、ステップ2が模擬信号送信工程、ステップ3が作動信号受信工程、ステップ4が故障判定工程、ステップ5が故障個所特定工程に該当する。
【0028】
本実施形態の電子モジュール1の検査装置2によれば、電子モジュール1が必要とする所定情報として、検査装置2が模擬信号を送信する。このため、電子モジュール1を車両に取り付ける前に検査を行うときに、電子モジュール1が必要とするバッテリーECU等からの所定情報がないことに起因する故障情報が誤って表示されることを防止することができ、電子モジュール1を車両に取り付けることなく検査することができる。これにより、電子モジュール1が故障していたときに、従来のように車両から電子モジュール1を取り外す手間が省け、作業効率を向上させることができる。
【0029】
尚、本実施形態では、電子モジュール1がパワー・コントロール・ユニット(PCU)であるものを説明したが、本発明の検査対象たる電子モジュールはこれに限らない。例えば、本発明の検査対象たる電子モジュールは、バッテリECUやエンジンECUであってもよい。
【符号の説明】
【0030】
1…電子モジュール、2…検査装置、3…三相誘導モータ(駆動源)、4…インバータ、4a…インバータコネクタ、5…モータECU、6…第1電流センサ、7…第2電流センサ、8…分岐コネクタ、9…出力端子、9a…出力コネクタ、10…入力端子、10a…入力コネクタ、11…入力ケーブル、12…出力ケーブル、13…インターフェース(受信部、送信部)、14…制御部(MCU)、15…表示部、16…演算処理部(CPU)、17…メモリ、17a…模擬情報記憶部、17b…テーブル記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される電子モジュールに接続して、該電子モジュールの作動を検査する検査装置であって、
前記電子モジュールが必要とする所定情報を記憶する模擬情報記憶部と、
該模擬情報記憶部に記憶された前記所定情報を模擬信号として前記電子モジュールに送信する送信部と、
前記電子モジュールが出力する作動信号を受信する受信部と、
該受信部が前記作動信号を受信したときに、前記作動信号に含まれる故障情報に基づき前記電子モジュールの作動の適否を判定する制御部とを備えることを特徴とする検査装置。
【請求項2】
請求項1記載の検査装置であって、
故障情報と故障個所との対応関係を示す故障診断テーブルを記憶するテーブル記憶部を備え、
前記制御部は、前記電子モジュールから受信した故障情報を組み合せ、当該故障情報の組合せと前記故障診断テーブルとから故障個所を特定することを特徴とする検査装置。
【請求項3】
車両に搭載される電子モジュールの検査方法であって、
前記電子モジュールが必要とする所定情報に対応する模擬信号を前記電子モジュールに送信する模擬信号送信工程と、
前記模擬信号に基づいて前記電子モジュールが送信する作動信号を受信する作動信号受信工程と、
受信した前記作動信号に基づいて前記電子モジュールの故障の有無を判定する故障判定工程とを有することを特徴とする検査方法。
【請求項4】
請求項3に記載の検査方法であって、
前記故障判定工程で故障有りと判定した場合には、前記作動信号受信工程で受信した作動信号から得られる故障情報を組み合せ、当該故障情報の組み合せと、予め記憶された故障情報及び故障個所の対応関係を示す故障診断テーブルとから故障個所を特定する故障個所特定工程を有することを特徴とする検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−255678(P2012−255678A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127978(P2011−127978)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)