説明

車両用静電気低減装置

【課題】 車両の乗員がそのまま降車しても、静電気による電撃が及ばないようにすることである。
【解決手段】 車両1のドアトリム3に静電気低減装置100を内装し、車両1の電源19から供給される直流12Vを、発振回路16で交流に変換した後、トランス回路17によって2〜10kVに昇圧する。これによって得られた高電圧を、プラス側の放電針12とマイナス側の放電針14とに印加させ、コロナ放電させることによって、プラスイオン11とマイナスイオン13とを生成する。車両1のエンジンが停止され、かつ車両1のドア2が解錠されたことが検知されたときに、生成されたプラスイオン11とマイナスイオン13とを含む空気流を、乗員に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の静電気低減装置に関するものであり、詳細には、乗員が降車するときにその人体に帯電する静電気を低減させる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冬季、大気が乾燥した状態で、車両(例えば、自動車)の乗員が当該車両から降車しようとする際に、乗員が静電気による電撃を受ける場合がある。このときの乗員の動作を、図5のフローチャートに示す。図5の左の矢印に示されるフローのように、乗員が降車しようとするとき、車両のエンジンを停止させて車内側のドアハンドルに手をかける。そして、ドアを開けながら、正面側(例えば、運転者であればステアリングホイールの側)に向けていた身体を、ドアの開口の側に向けて回転させる。このとき、乗員の人体と車両のシートとが擦れて、人体に静電気が帯電する。この状態で車外に出た乗員がドアを閉じるために、車両の金属部分(例えば、車外側のドアハンドル)に接近させると、車両の金属部分に人体と反対の電荷が生じる(静電誘導)。そして、人体と車両の金属部分とが接触すると両者の間で放電が生じるため、人体に電撃が及ぶ。特に、自動車のボディはアースされている(車体アース)ため電流が流れ易く、そのときの放電も強くなる。人体に帯電した静電気の電圧が5kV程度である場合、電撃が掌から前腕部にまで及ぶことがある。
【0003】
これを防止するため、例えば特許文献1に開示された技術が存している。この技術は、車両のドアハンドルに除電部材を貼り付けることによって、静電気を帯電させた人体がドアハンドルに触れたときであっても、人体が静電気による電撃を受けないようにするものである。しかし、乗員が降車する際に、人体が触れるおそれがあるすべての金属部分に除電部材を貼り付けることは、見映え及びコストの観点から極めて困難である。
【特許文献1】特開2005−340115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記した事情に鑑み、車両の乗員がそのまま降車しても、静電気による電撃が及ばないようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0005】
上記課題を解決するための本発明は、
プラスの放電電極と、
マイナスの放電電極と、
前記プラスの放電電極からの放電により、プラス電荷のイオンを生じさせるプラスイオン生成手段と、
前記マイナスの放電電極からの放電により、マイナス電荷のイオンを生じさせるマイナスイオン生成手段と、
それらプラス及びマイナスのイオンを含む空気流を生じさせ、その空気流を車内の乗員に供給する送風手段とを含み、
所定の出力信号により起動し、降車の際に車内の乗員に帯電する静電気を、前記送風手段の空気流に含まれるプラスイオン又はマイナスイオンの一方によって中和させて、乗員の人体に帯電している静電気を低減させることを特徴としている。
【0006】
本発明に係る車両用静電気低減装置は上記したように構成されていて、所定の出力信号によって起動され、降車しようとする乗員の人体に、プラス電荷のイオン(プラスイオン)及びマイナス電荷のイオン(マイナスイオン)を含む空気流を供給する。このため、降車しようとする乗員の人体と例えばシートとが擦れることによって乗員の人体に帯電した静電気は、空気流に含まれているプラスイオン又はマイナスイオンのいずれかによって中和され、人体における静電気が低減される。この結果、降車した乗員が車両の金属部分に触れたときに、放電が生じないので、乗員の人体に電撃が及ぶことはない。
【0007】
この静電気低減装置を、車両のドアのドアトリムに取り付けることができる。特に、ドアトリムからアームレストが車内側に張り出して設けられている場合、前記送風手段をアームレストの部分に内装させることが望ましい。これにより、乗員の人体に対して、プラスイオンとマイナスイオンとが含まれる空気流を確実に供給することができ、乗員の人体における静電気を大幅に低減させることができる。
【0008】
また、静電気低減装置を、車両のセンタピラーに取り付けてもよい。この場合、前席の乗員と後席の乗員の人体に対して、プラスイオンとマイナスイオンとが含まれる空気流を同時に供給することができるため、静電気低減装置の設置個数を少なくできる。
【0009】
そして、前記出力信号を、少なくとも車内から車両のドアが開かれようとするときに出力される信号とすることができる。この信号は、例えば車両のエンジンが停止され、かつ前記車両のドアが開かれたときに出力される信号(ドアの解錠信号)である。また、車内側のドアハンドルにタッチセンサが取り付けられていて、車内の乗員が前記タッチセンサに触れたときに出力される信号とすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施例の静電気低減装置100を説明する。図1は車両1の平面図、図2はドアトリム3の正面図、図3は同じく背面図、図4は静電気低減装置100の構成を示す図である。
【実施例1】
【0011】
本発明の実施例の静電気低減装置100について説明する。図1に示されるように、車両1(自動車)の各ドア2に、静電気低減装置100が取り付けられている。ここで、通常の車両では4箇所(前席及び後席の運転者側と助手席側)にドア2が設けられているが、各ドア2の構成は殆ど同一なので、本明細書では、前側の運転席側のドア2に取り付けられた静電気低減装置100について説明する。
【0012】
図1ないし図3に示されるように、静電気低減装置100は、ドア2の車内側に取り付けられているドアトリム3に内装されている。ドアトリム3の正面部(車内側の面)には、車内側に張り出す形でアームレスト4が突設されている。アームレスト4の上面は、乗員の利便性を高めるために、手前側(車内側)よりも奥側(車外側)が少し高くなった傾斜面となっている。アームレスト4の上面で、その前部には、電動式ウインドウ(パワーウインドウ)を作動させるスイッチ(図示せず)を嵌合させるためのスイッチ嵌合孔が設けられている。また、アームレスト4の上面で、長手方向のほぼ中央部から後部にかけての部分には、格子状のルーバー5が取り付けられている。ドアトリム3には、本発明の実施例の静電気低減装置100が内装されている。なお、図2において、6は、ドア2の車内側のドアハンドル7(二点鎖線で示す)を嵌合させるためのレバー嵌合穴であり、図2において、8は、スピーカを取り付けるためのスピーカ取付穴である。
【0013】
静電気低減装置100は、図4に示されるように、高電圧発生装置9と、高電圧発生装置9から供給される高電圧を放電させてプラス電荷のイオン(プラスイオン11)を発生させるための2本のプラス側の放電針12と、同じくマイナス電荷のイオン(マイナスイオン13)を発生させるための2本のマイナス側の放電針14と、プラスイオン11とマイナスイオン13とを気流に乗せて送風するためのファン15とを備えている。
【0014】
高電圧発生装置9について説明する。高電圧発生装置9は、上流側から順に配置される発振回路16、トランス回路17及び整流回路18を備えている。車両の電源19(直流12V)から供給される直流は、発振回路16によって交流に変換され、トランス回路17によって昇圧される。本実施例の場合、12Vの直流を、2〜10kVの交流に昇圧している。トランス回路17によって得られた交流は、整流回路18によって整流され、プラス側の交流成分は、プラス側の放電針12に供給されるとともに、マイナス側の交流成分は、マイナス側の放電針14に供給される。なお、図4において、21は、アース端子である。
【0015】
ここで、交流からプラスイオン11及びマイナスイオン13を生成する方法について簡単に説明する。交流は、時間の経過につれてその電圧の成分が、プラスとマイナスとに交互に変動する。このうち、トランス回路17によって得られるプラス側の高電圧をプラス側の放電針12に印加することにより、その先鋭形状の先端部にコロナが発生し(コロナ放電)、プラスイオン11が生成される。また、トランス回路17によって得られるマイナス側の高電圧をマイナス側の放電針14に印加することにより、その先鋭形状の先端部にコロナが発生し(コロナ放電)、マイナスイオン13が生成される。もし、マイナスイオン13のみを生成させる場合には、トランス回路17によって得られた高電圧のうちのプラス側の成分を整流回路18によって除去し、マイナス側の成分のみを取り出して、マイナス側の放電針14に印加する。これにより、マイナスイオン13のみが生成される。プラス側の放電針12に、プラスイオン11を生成する場合は、高電圧のうちのマイナス側の成分を整流回路14の機能によって除去すれば済む。
【0016】
各放電針12,14の背面部には、ファン15が配置されている。このファン15は、モータ22によって所定方向に回転される。各放電針12,14に発生したプラスイオン11及びマイナスイオン13は、高速回転されるファン15によって生じる空気流に含まれて送風される。
【0017】
本実施例の静電気低減装置100の作用について説明する。車両1の走行時においては、乗員の人体と例えばシートとが擦れることはないため、乗員の人体に帯電する静電気の量は少なく、乗員が静電気による電撃を受けることはない。しかし、乗員が降車する際に、人体とシートとが擦れることにより、人体に静電気が帯電する。この状態で降車した乗員がドア2を閉じるためにドア2の金属部分に触れると、人体とドア2の金属部分との間で放電が生じ、人体に電撃が及ぶおそれがある(図5参照)。
【0018】
しかし、本実施例の静電気低減装置100が装着された車両1では、図1及び図5に示されるように、車両1のエンジンが停止され、かつ乗員がドア2を内側から開けたことが検知される(即ち、ドア2の解錠信号が検出される)と、タイマによって設定された一定時間だけ静電気低減装置100が作動される。これにより、プラス側の放電針12とマイナス側の放電針14とによって生成されたプラスイオン11とマイナスイオン13とを含む空気流が、ファン15によって乗員の人体に供給され、人体に帯電した静電気が中和される。この空気流には、プラスイオン11とマイナスイオン13とが含まれているため、人体がプラスとマイナスのいずれに帯電している場合であっても、人体の静電気が中和される。この結果、乗員は、自身の人体に静電気が帯電していない状態(又は静電気の帯電量が少ない状態)で降車できる。この結果、降車した乗員がドア2を閉じるためにドア2の金属部分に触れても、人体に電撃が及ぶことはない。
【0019】
より効果的には、車内側のドアハンドル7(図2参照)にタッチセンサ(図示せず)を取り付ける。そして、車両1のエンジンが停止され、かつ乗員が車内側のドアハンドル7に触れたことが検知されると、タイマによって設定された一定時間だけ静電気低減装置100が作動されるようにすることが望ましい。これにより、乗員の人体に対して、プラスイオン11とマイナスイオン13とを含む空気流を確実に供給することができる。
【0020】
更に、車両1の各ドアの車内側に、静電気低減装置100を手動で動作させるスイッチを取り付けることが望ましい。これにより、エンジンが稼動している状態で降車しようとする場合であっても、乗員の人体にプラスイオン11とマイナスイオン13とを含む空気流を供給することができる。
【0021】
なお、本明細書において、「車両のエンジンが停止した状態」とは、イグニッションスイッチが、キーシリンダの「OFF(又はLOCK)」位置に配置されている状態だけでなく、「ACC」位置に配置されている状態(アクセサリー電源がONの状態)及び「ON」位置に配置されている状態をも含んでいる。
【0022】
上記した実施例では、静電気低減装置100が車両の各ドア2のドアトリム3に内装されている。しかし、図6に示されるように、静電気低減装置100を車両のセンタピラー23に内装してもよい。この場合、前席側の乗員と後席側の乗員との双方に対して、プラスイオン11とマイナスイオン13とを含む空気流を同時に供給することができる。即ち、1台の車両1に対して、静電気低減装置100が2基で済むため安価になる。
【0023】
本実施例の静電気低減装置100では、2〜10kVに昇圧した交流から、2本のプラス側の放電針12と2本のマイナス側の放電針14によって生成されるプラスイオン11とマイナスイオン13とを人体に供給している。しかし、これは一例であり、昇圧する電圧及び各放電針12,14の数は、生成させるプラスイオン11及びマイナスイオン13の量に応じて1本又は3本以上であってもよい。また、人体に帯電する静電気の電荷はプラスである場合が多いことから、マイナス側の放電針14の数を、プラス側の放電針12の数よりも多くしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】車両1の平面図である。
【図2】ドアトリム3の正面図である。
【図3】同じく背面図である。
【図4】静電気低減装置100の構成を示す図である。
【図5】本実施例の静電気低減装置100の作用を示すフローチャートである。
【図6】静電気低減装置100がセンタピラー23に内装された車両1の平面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 車両
2 ドア
3 ドアトリム
4 アームレスト
7 ドアハンドル
11 プラスイオン
12 プラス側の放電針(放電電極、プラスイオン生成手段)
13 マイナスイオン
14 マイナス側の放電針(放電電極、マイナスイオン生成手段)
15 ファン(送風手段)
23 センタピラー
100 静電気低減装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスの放電電極と、
マイナスの放電電極と、
前記プラスの放電電極からの放電により、プラス電荷のイオンを生じさせるプラスイオン生成手段と、
前記マイナスの放電電極からの放電により、マイナス電荷のイオンを生じさせるマイナスイオン生成手段と、
それらプラス及びマイナスのイオンを含む空気流を生じさせ、その空気流を車内の乗員に供給する送風手段とを含み、
所定の出力信号により起動し、降車の際に車内の乗員に帯電する静電気を、前記送風手段の空気流に含まれるプラスイオン又はマイナスイオンのいずれかによって中和させて、乗員の人体に帯電している静電気を低減させることを特徴とする車両用静電気低減装置。
【請求項2】
車両のドアのドアトリムに取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用静電気低減装置。
【請求項3】
前記ドアトリムには車内側に向かって張り出す形でアームレストが設けられていて、前記送風手段による空気流は、前記アームレストの部分から乗員に送られることを特徴とする請求項2に記載の車両用静電気低減装置。
【請求項4】
車両のセンタピラーに取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用静電気低減装置。
【請求項5】
前記出力信号は、少なくとも車内から車両のドアが開かれようとするときに出力される信号であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の車両用静電気低減装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−273224(P2008−273224A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115429(P2007−115429)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000105925)サカエ理研工業株式会社 (110)