説明

車両空調用コンデンサ

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車両用空調装置に用いられるコンデンサ(冷媒凝縮器)に関する。
【0002】
【従来の技術】コンプレッサ、コンデンサ、リキッドタンク、膨張弁およびエバポレータから成る冷媒サイクルを備えた車両用空調装置では、上記コンデンサとして例えば図4(a)に示すようなものが用いられている。このコンデンサは、一般にパラレルフローコンデンサと呼ばれるもので、不図示のコプレッサにより圧送された高温の気体冷媒が冷媒入口管1を介して入口側ヘッダパイプ2に流入される。流入された冷媒は上段のチューブ3を通って出口側ヘッダパイプ4に導かれ、ここで折返して下段のチューブ3を通って再び入口側ヘッダパイプ2に導かれ、更に折返して出口側ヘッダパイプ4に向う。この動作を繰り返す間に、各チューブ3間に設けられたフィン5を通過する空気と冷媒との間で熱交換が行われ、すなわち冷媒の熱が空気に放熱され、冷媒が液化される。液化された冷媒は、出口側ヘッダパイプ4の下方に設けられた冷媒出口管6を通って不図示のリキッドタンクに導かれる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した従来のコンデンサには、コンデンサ内の圧力変動に起因して冷凍サイクル内の圧力ハンチングを誘発するという問題がある。以下、その圧力ハンチングの発生メカニズムについて図4(b)および図5を用いて説明する。冷媒と空気との熱交換が促進されて液化する冷媒の量が冷媒出口管6から流出される冷媒の量よりも多くなると、コンデンサの下部に液冷媒が溜まり(図5のS1)、そして、例えば図4(b)にP1で示すように液冷媒の滞留量が多くなると、コンデンサ内の圧力Pdが高くなる(S2)。また、液冷媒が溜まっている部分では空気との熱交換が行われないから、液冷媒の量が多いほどコンデンサ全体の熱交換容量が低下し、やがて液化される量よりも出口管6からの流出量が多くなる。このためコンデンサ内の液冷媒の滞留量が減少し、図4(b)に示すように出口側ヘッダパイプ4内の冷媒液面が低下する(S3)。液面が出口管6の位置よりも低下すると、出口管6から流出される冷媒に気体が混入されることになり(S4)、この気体の流出によりコンデンサ内の圧力Pdが低下する(S5)。一方、コンデンサ内の液冷媒の滞留量が減少することにより、コンデンサの熱交換容量が増加して再びヘッダパイプ4内の液冷媒の液面が上昇し(S6)、コンデンサ内の圧力Pdが上昇する(S2)。以上の動作がサイクリックに繰り返されることにより、冷媒出口管6から流出する冷媒に周期的に気体が混入されることになり、このため上記冷凍サイクル内に圧力ハンチングが生じるとともに、エバポレータにおける熱交換効率が周期的に変動し、吹出温度が上下動するという問題がある。
【0004】これらの問題は、冷凍サイクル内の冷媒封入量を増加させることにより解決されるが、冷媒を増加すると冷凍サイクル内の圧力が上昇し、コンプレッサの負担となる。通常、車両用空調装置には、冷凍サイクル内の圧力が所定値以上になるとコンプレッサ保護のためコンプレッサを強制的に停止させる機構が設けられており、このため冷媒量を増加するとコンプレッサが頻繁に停止され、空調性能が低下するという問題がある。
【0005】本発明の目的は、冷媒量を増加させることなくコンデンサからの流出冷媒中の気体混入を阻止し、空調性能を低下させることなく冷凍サイクル内の圧力ハンチングおよび吹出し温度の変動を防止し得る車両空調用コンデンサを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】一実施例を示す図1および図4に対応付けて説明すると、本発明は、入口側ヘッダパイプ1と出口側ヘッダパイプ4との間で冷媒を流通させ、冷媒の熱を空気に放熱して冷媒を液化させるとともに、液化された冷媒を出口側ヘッダパイプ4に設けられた冷媒出口6から外部に流出せしめる車両空調用コンデンサに適用される。そして、出口側ヘッダパイプ4内に配置され、冷媒出口6に導かれる冷媒を絞るオリフィス21aと、このオリフィス21aの開度を調節する弁体24と、上記冷媒と同質の冷媒が封入され、コンデンサ内の圧力が上昇するほどオリフィス21aの開度が大きくなり、コンデンサ内の圧力が減少するほどオリフィス21aの開度が小さくなるよう弁体24を変位せしめるベローズ式の弾性体23とを具備し、これにより上記問題点を解決する。特に請求項2の発明は、オリフィス21aと弁体24と弾性体23とが一体化されて成り、出口側ヘッダパイプ4にその下部から挿通される流量調節ユニット20を備え、この流量調節ユニット20の一部が出口側ヘッダパイプ4のシール蓋を兼ねているものである。
【0007】
【作用】コンデンサ内の液冷媒の滞留量が増加してコンデンサ内の圧力が上昇すると、これに応じてオリフィス21aの開度が大きくなり、冷媒の流出が促進されて液冷媒の滞留量が減少する。滞留量の減少に伴ってコンデンサ内の圧力が減少すると、その分オリフィス21bの開度が小さくなるので再び冷媒の滞留が促進される。この動作が小刻みに繰り返されることにより、コンデンサ内の液冷媒の滞留量はほぼ一定となり、液冷媒の液面の変動が最小限に抑制される。したがって、冷媒出口6から気体が流出することはない。
【0008】なお、本発明の構成を説明する上記課題を解決するための手段と作用の項では、本発明を分かり易くするために実施例の図を用いたが、これにより本発明が実施例に限定されるものではない。
【0009】
【実施例】図1〜図3により本発明の一実施例を説明する。図1は本発明に係る車両空調用コンデンサの出口側ヘッダパイプ4付近を示す図であり、図4と同様の箇所には同一の符号を付してある。出口側ヘッダパイプ4の下端部には、流量調節ユニット20が内装されている。この流量調節ユニット20は、出口側ヘッダパイプ4の下端部に嵌合される筒体21と、この筒体21の下部に嵌合される台座22と、台座22の上部にベローズ式の弾性体23を介して取付けられた弁体24とが一体化されて成る。筒体21の上面には、ヘッダパイプ4の径よりも小径の冷媒流通孔を有するオリフィス21aが形成されるとともに、側面には最下段のチューブ3と連通される連通孔21bと、冷媒出口管6と連通される出口孔21cとがそれぞれ形成されている。
【0010】弁体24は、オリフィス21aの開度を変更するためのもので、ベローズ式の弾性体23の伸縮により上下に変位させられる。弾性体23の内部には、冷凍サイクル内を循環する冷媒と同質の冷媒が予め封入されており、この冷媒の圧力により弾性体23のばね力が決定される。流量調節ユニット20が液冷媒中に没すると、コンデンサ内の圧力Pdに応じて弾性体23が伸縮し、これにより弁体24が上下に変位して上記オリフィス開度が変更される。なお、如何なる条件下でもオリフィス開度がゼロになることはない。
【0011】次に、図2および図3も参照して実施例の動作を説明する。図4に示した冷媒入口管1からコンデンサ内に流入した冷媒は、チューブ3を流通する間にフィン5を通過する空気と熱交換を行って液化され、液化された冷媒は出口側ヘッダパイプ4に導かれる。この液冷媒は、オリフィス21aの冷媒流通孔を通って筒体21内に流入され、筒体21の底部に滞留する(図3のS11)。
【0012】冷媒の滞留量が所定量以上になると、冷媒は筒体21の連通孔21cを介して冷媒出口管6から下流のリキッドタンクに流出されるが、冷媒と空気との熱交換が進んで液化する冷媒の量が冷媒出口管6から流出される冷媒の量よりも多くなると、図2(a)に示すように流量調節ユニット20が液冷媒中に没する。このとき、弾性体23に作用する圧力により弁体24の初期位置が決定され、オリフィスの初期設定開度が決る。この状態では、出口側ヘッダパイプ4内の冷媒がオリフィス21aで絞られるので、冷媒出口管6から排出される冷媒の量は比較的少ない。
【0013】その後、液冷媒の滞留量が更に増加すると、コンデンサ内の圧力Pdが上昇し(S12)、この圧力変動量に応じた量だけ弾性体23が図2(b)に示すように収縮して弁体24を下降させ、これによりオリフィス開度が大きくなる(S13)。その結果、筒体21内に流入される冷媒量、すなわち出口管6から排出される冷媒量が増加してコンデンサ内の冷媒滞留量が減少し、ヘッダパイプ4内の冷媒の液面がいったん低下する(S14)。しかし、冷媒量が減少した分だけコンデンサ内の圧力Pdが減少し(S15)、その圧力変動量に応じた量だけ図2(c)に示すように弾性体23が伸張してオリフィス開度が小さくなり(S16)、出口管6から排出される冷媒の流量が再び減少する。したがって、図2(d)に示すようにコンデンサ内に滞留する冷媒量が再び増加し、ヘッダパイプ4内の冷媒の液面が上昇する(S17)。冷媒の量が増加すると圧力Pdが増加し(S12)、以降は上述の動作が繰り返し行われる。
【0014】以上のように本実施例では、コンデンサ内の圧力Pdに応じてオリフィス開度が小刻みに変化することにより、コンデンサ内の冷媒の滞留量がほぼ一定に保持される。このため、流量調節ユニット20が冷媒中に没してからは、ヘッダパイプ4内の冷媒の液面が従来のように大きく変動することはなく、冷媒出口管6から流れる冷媒に気体が混入することはない。したがって、冷凍サイクル内の圧力ハンチングが防止できるとともに、エバポレータにおける熱交換効率の変動が抑制され、吹出温度が不所望に上下することもない。
【0015】また、上述したようにベローズ式弾性体23の内部に冷凍サイクル中の冷媒と同質の冷媒を封入するようにしたので、次のような効果が得られる。すなわち冷媒による冷凍サイクル内の圧力は、冷媒の温度に依存しており、このため例えば夏期と冬期とではコンデンサ内の圧力Pdは異なる(夏期の方が高くなる)。したがって、上記弾性体23としてばね力一定のばねを用いた場合には、夏期と冬期とで上記オリフィス開度調整を同様に行うことはできず、例えばコンデンサ内の圧力Pdの高い夏期にはオリフィス開度が不所望に大きくなり過ぎて液面が低下し、コンデンサから流出される冷媒に気体が混入されるおそれがある。しかし、本実施例のように弾性体23の内部にサイクル中の冷媒と同質の冷媒を封入し、その冷媒温度(冷媒圧力)によりばね力が決定されるよう構成すれば、常にコンデンサ内の圧力Pdに応じたばね力を設定することができ、夏期と冬期とでオリフィス開度を同様に制御してヘッダパイプ4内の冷媒液面をほぼ同一位置に保持することができる。
【0016】さらに本実施例では、上記オリフィス21aと弁体24と弾性体23とを一体化して流量調節ユニット20を構成したので、このユニット20を出口側ヘッダパイプ4の下端部に嵌合するだけで簡単に組立てが行える。また、ユニット20の台座22がヘッダパイプ4のシール蓋を兼ねているので、専用のシール蓋を用いる必要がなく、組立効率が更に向上し、またコストダウンも図れる。
【0017】
【発明の効果】本発明によれば、出口側ヘッダパイプ内にオリフィスを配置するとともに、コンデンサ内の圧力が上昇するほどオリフィスの開度を大きくし、この圧力が減少するほどオリフィスの開度を小さくするようにしたので、コンデンサ内の圧力変動に拘らずコンデンサ内の液冷媒の滞留量がほぼ一定に保持され、出口側ヘッダパイプの冷媒液面の上下動を最小限に抑制することができる。したがって、冷媒量を増加させることなくコンデンサからの流出冷媒中の気体混入を阻止することができ、空調性能を低下させることなく冷凍サイクル内の圧力ハンチングおよび吹出し温度の変動を防止することが可能となる。また、上記オリフィスの開度を決定する弾性体として、冷凍サイクル中の冷媒と同質の冷媒が封入されたベローズ式の弾性体を用いるようにしたので、冷媒温度(冷媒圧力)に拘らず、常に同様のオリフィス開度制御を行うことができ、出口側ヘッダパイプ内の冷媒液面をほぼ同一位置に保持することができる。特に請求項2の発明によれば、オリフィスと弁体と弾性体とを一体化させて流量調節ユニットを構成し、このユニットを出口側ヘッダパイプにその下部から挿通させて設置するようにしたので、組立効率が向上し、また、流量調節ユニットの一部が前記出口側ヘッダパイプのシール蓋を兼ねているので、専用のシール蓋を用いる必要がなく、組立効率の更なる向上とコストダウンが図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る車両空調用コンデンサの要部を示す図。
【図2】オリフィス開度の変化を示す図。
【図3】実施例の動作の流れを説明する図。
【図4】従来の車両空調用コンデンサを示し、(a)全体斜視図、(b)がそのA部分の拡大図。
【図5】従来のコンデンサにおける動作の流れを説明する図。
【符号の説明】
1 冷媒入口管
2 入口側ヘッダパイプ
3 チューブ
4 出口側ヘッダパイプ
5 フィン
6 冷媒出口管
20 流量調節ユニット
21 筒体
21a オリフィス
22 台座
23 弾性体
24 弁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】 入口側ヘッダパイプと出口側ヘッダパイプとの間で冷媒を流通させ、冷媒の熱を空気に放熱して冷媒を液化させるとともに、液化された冷媒を出口側ヘッダパイプに設けられた冷媒出口から外部に流出せしめる車両空調用コンデンサにおいて、前記出口側ヘッダパイプ内に配置され、前記冷媒出口に導かれる冷媒を絞るオリフィスと、このオリフィスの開度を調節する弁体と、前記冷媒と同質の冷媒が封入され、コンデンサ内の圧力が上昇するほど前記オリフィスの開度が大きくなり、コンデンサ内の圧力が減少するほどオリフィスの開度が小さくなるよう前記弁体を変位せしめるベローズ式の弾性体とを具備することを特徴とする車両空調用コンデンサ。
【請求項2】 前記オリフィスと弁体と弾性体とが一体化されて成り、前記出口側ヘッダパイプにその下部から挿通される流量調節ユニットを備え、この流量調節ユニットの一部が前記出口側ヘッダパイプのシール蓋を兼ねていることを特徴とする請求項1に記載の車両空調用コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【特許番号】特許第3191521号(P3191521)
【登録日】平成13年5月25日(2001.5.25)
【発行日】平成13年7月23日(2001.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−233470
【出願日】平成5年9月20日(1993.9.20)
【公開番号】特開平7−81383
【公開日】平成7年3月28日(1995.3.28)
【審査請求日】平成10年9月16日(1998.9.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【参考文献】
【文献】特開 平7−127948(JP,A)
【文献】実開 昭49−142660(JP,U)
【文献】特公 昭64−9550(JP,B2)
【文献】実公 昭58−29823(JP,Y2)
【文献】実公 平6−48214(JP,Y2)