説明

車両窓用の光透過性積層体

【課題】熱や光に対する長期耐久性や機械的強度を向上し、光反射特性を制御することにより窓の防眩だけでなく、視認性を向上できる車両窓用の光透過性積層体を提供すること。
【解決手段】所定方向に延在して設けられた複数の金属ワイヤ(102)を具備するワイヤグリッド偏光子(101)と、ワイヤグリッド偏光子(101)を挟持する一対の硬質透明基板(103a、103b)とを有し、金属ワイヤ(102)を延在方向と車両の水平基準面とが平行となるように設け、無偏光光に対する反射率が25%以下、ワイヤグリッド偏光子(101)の透過軸方向の直線偏光に対する透過率が80%以上、透過軸と直角方向の直線偏光に対する透過率が10%以上、且つ全光線透過率が50%以上80%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性積層体に関するものであり、透過光を偏光とすることで、景色のぎらつきを低減し、視認性を高める光透過性積層体、例えば、車両等の乗り物用の窓材料やサングラスのレンズ素材等に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の窓材料は、車外と車室環境を分離し安全に車両を運転するために重要な部品で、古くから多くの発明がなされている。その中には、他の車両の灯火に基づく防眩を目的としたものがあり、車両用の窓や灯火、鏡に偏光特性を付与し、防眩機能を発現することが古くから知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
しかし、いずれの発明も灯火に基づく防眩を目的としたものであり、偏光を利用するものにあっては良好な偏光子が存在しなかったことから、光線の透過率や偏光度といった透過性能、熱や光に対する長期耐久性などに問題を生じ、実用化されていない。
【0004】
また、合わせガラスの中間膜に偏光機能を付与することも提案されているが(特許文献3参照)、同様の理由から実用化には至っていない。
【0005】
近年になって、ナノサイズの粒子の製造技術や利用技術が向上したことから、長期耐久性を改善しながら、視認性を向上させる技術も提案されている(特許文献4参照)。同様にガラス基板の表面に微細な凹凸構造を形成し、ワイヤグリッド偏光子とすることも提案されているが(特許文献5参照)、いずれも製造コストや偏光性能を高められないなどの機能上の問題から、実用化には至っていない。
【0006】
ワイヤグリッド偏光子は古くから知られており、微細構造を保護するために表面をコーティングすることも知られているが(特許文献6参照)、ナノサイズの構造を作ることが困難であったことから、フィルムを基材とするワイヤグリッド偏光子は、本発明者らによって開発されるまで、実用化されていなかった。また、本発明者らの技術を応用することで、反射率の低い吸収型のワイヤグリッド偏光子も開発されている(特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭47−14828号公報
【特許文献2】実開昭49−110409号公報
【特許文献3】特開平6−255051号公報
【特許文献4】特開2007−334150号公報
【特許文献5】特開2009−517310号公報
【特許文献6】特開昭58−42003号公報
【特許文献7】特開2009−300655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、熱や光に対する長期耐久性や機械的強度を向上し、光反射特性を制御することにより窓の防眩だけでなく、視認性を向上できる車両窓用の光透過性積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
近年、数十nmサイズの微細加工技術の進歩により、ワイヤグリッド偏光子が本発明者らによって開発され、実用化されている。ワイヤグリッド偏光子は微細な金属線(ワイヤ)により機能が発現し、基本的に無機物で構成されることから耐熱性や耐光性に優れるといった特長がある。本発明は、このワイヤグリッド偏光子を利用したものであり、微細金属ワイヤを保護するために、両側から硬質の透明板により挟みこむことで保護するものである。また、微細金属ワイヤを2枚の硬質透明基板間の透明な中間樹脂層の中もしくは界面に挿入することで、中間樹脂層自体の耐衝撃性や接着性を利用できるようにしたものである。
【0010】
本発明の車両窓用の光透過性積層体は、所定方向に延在して設けられた複数の金属ワイヤを具備するワイヤグリッド偏光子と、前記ワイヤグリッド偏光子を挟持する一対の硬質透明基板とを有する車両窓用の光透過性積層体であって、前記金属ワイヤは、延在方向と車両の水平基準面とが平行となるように設けられ、無偏光光に対する反射率が25%以下、前記ワイヤグリッド偏光子の透過軸方向の直線偏光に対する透過率が80%以上、透過軸と直角方向の直線偏光に対する透過率が10%以上、且つ全光線透過率が50%以上80%以下であること特徴とする。
【0011】
本発明の車両窓用の光透過性積層体において、前記金属ワイヤの延在方向を回転軸にして、前記水平基準面から30〜70度傾けて設けられることができる。
【0012】
本発明の車両窓用の光透過性積層体において、前記一対の硬質透明基板の少なくとも一方の表面に反射防止層を有してもよい。
【0013】
本発明の車両窓用の光透過性積層体において、前記硬質透明基板から前記ワイヤグリッド偏光子までの透明部材のレターデーションが、前記ワイヤグリッド偏光子の透過軸方向の直線偏光に対し100nm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の車両窓用の光透過性積層体において、少なくとも前記一対の硬質透明基板の外側表面に、屈折率1.7以上の高屈折透明誘電体を有することが好ましい。
【0015】
本発明の車両窓用の光透過性積層体において、前記一対の硬質透明基板の間に中間樹脂層を有し、前記ワイヤグリッド偏光子が前記中間樹脂層中又は前記中間樹脂層と前記硬質透明基板との界面に設けられていることが好ましい。
【0016】
本発明の車両窓用の光透過性積層体において、可視光波長領域における前記ワイヤグリッド偏光子の最大透過率と最少透過率の差が15%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光透過性積層体を構成するワイヤグリッド偏光子の構造や使用する導電材料を適切に選択して、光線に対する光学特性を制御することにより、窓の防眩だけでなく、視認性を向上できる車両窓用の光透過性積層体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】車両窓用の光透過性積層体の構成の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述したように、車両等の窓用の偏光素子は高い視認性や耐久性等が要求される。本発明者は、車両などの乗り物の窓から外を観察する際に、視認性を低下させるぎらつきの原因が主に水平方向の振動面を持つ横偏光であり、視認性を向上するには、できるだけ横偏光を除去し、垂直方向の振動面を持つ縦偏光のみで観察すれば良いことを見出した。しかし、車両などの乗り物の窓材料は高い全光線透過率を満たしながら耐久性が要求される。本発明者は、高い全光線透過率を維持しながら横偏光を選択的に取り除くことを検討した結果、縦偏光透過率をほぼ一定に保ちつつ、許容透過率を満たす範囲で横偏光の透過率を最少にすることを着想した。そして、上記ワイヤグリッド偏光子の特徴を活かし、機械的物性に優れた硬質の透明板で信頼性高く微細金属ワイヤを保護する方法を検討し、本発明を完成させるに至った。以下に、偏光素子の構造について、図面を参照して説明する。
【0020】
本実施の形態の車両窓用の光透過性積層体100は、所定方向に延在して設けられた複数の金属ワイヤ102を具備するワイヤグリッド偏光子101と、ワイヤグリッド偏光子101を挟持する一対の硬質透明基板103a、103bとを有している(図1参照)。なお、図1において、図1Aは車両窓用の光透過性積層体100の断面図、図1Bは車両窓用の光透過性積層体100の拡大断面図、図1Cは車両窓用の光透過性積層体100の正面図を示している。また、一対の硬質透明基板103a、103b間に中間樹脂層104を設け、ワイヤグリッド偏光子101を、中間樹脂層104中、又は中間樹脂層104と硬質透明基板103a、103bとの界面に設けた構成とすることができる。一対の硬質透明基板103a、103bは、中間樹脂層104を用いて接合することができる。
【0021】
金属ワイヤ102は、当該金属ワイヤ102の延在方向(所定方向)と車両の水平基準面とが、ほぼ平行となるように設けられる。ここで、ほぼ平行とは、当該金属ワイヤ102の延在方向と水平基準面とのなす角度が、15度以下をいう。図1A、1Bにおいては、紙面の手前から奥に向かう方向が金属ワイヤ102の延在方向となる。水平基準面は、地面と平行な水平面をいう。
【0022】
また、本実施の形態の車両窓用の光透過性積層体100は、無偏光光(例えば、自然光)に対する反射率が25%以下、ワイヤグリッド偏光子101の透過軸方向の直線偏光に対する透過率が80%以上、透過軸と直角方向の直線偏光に対する透過率が10%以上、且つ全光線透過率が50%以上80%以下となる光学特性を有することを特徴とする。このような光学特性を得るためには、ワイヤグリッド偏光子101の構造、硬質透明基板103a、103b及び中間樹脂層104に用いる材料や厚さを制御すればよい。
【0023】
一般的に、硬質透明基板103a、103bと中間樹脂層104は、様々な材料から選択することが可能であり、透光性が高い材料を選択することができる。そのため、車両窓用の光透過積層体100の光学特性はワイヤグリッド偏光子101の構造に大きく影響される。具体的には、金属ワイヤ102の幅、高さ、使用する導電材料の反射率等を制御することにより光学特性の制御を行うことができる。例えば、ワイヤグリッド偏光子101として、金属ワイヤ102のピッチが80〜200nm、幅が1〜60nm(Duty比:約1〜30%)、高さが3〜200nm、金属材料の反射率を約60%以下とすることが好ましい。
【0024】
本実施の形態の車両窓用の光透過性積層体100は、ワイヤグリッド偏光子101の金属ワイヤ102のピッチやサイズ、使用する導電材料を適切に選択し設計することで、光線に対する偏光度、透過率及び反射率等を制御できるため、熱や光に対し高い耐久性を保ったまま、所望の光で外を観察することが可能となり、視認性を低下させるぎらつきの原因となる一方向の偏光を除去することが可能となる。また、観察者側の光線反射率を選択的に低く設定できることから、観察者側の表面からの反射光によるぎらつきや、周囲の映り込みを低減することも可能となる。
【0025】
本実施の形態の車両窓用の光透過性積層体100の好適な適用例として、車両(例えば、自動車)のフロントガラスが挙げられる。この場合、光透過性積層体100は、金属ワイヤ102の延在方向を回転軸にして、水平基準面から30〜70度傾けて設けられる。
【0026】
このように、ワイヤグリッド偏光子101を含む光透過性積層体100を用いることにより、従来の偏光子の課題であった、熱や光に対する長期耐久性や機械的強度を向上し、従来技術の目的である防眩だけでなく、視認性を低下させる原因となる特定方向の偏光、例えば、水平方向の振動面を持つ横偏光を除去することが可能となる。これにより、車外からの反射光によるぎらつきや、窓への車内の映り込みを低減することが可能となり、車内及び車外における視認性が向上し、車両運転時の安全性を向上することができる。
【0027】
以下に、本実施の形態の車両窓用の光透過性積層体の具体的な構成について説明する。
【0028】
[金属ワイヤ]
ワイヤグリッド偏光子101は、金属ワイヤ102を具備しており、金属ワイヤ102は一般に可視光(波長400nm〜800nm)用のワイヤグリッド偏光子として使用される構造、素材であれば使用できる。ただし、透過光から不要な偏光成分を除くだけでなく、観察者側における光の反射による周囲の映り込みを低減するためには、光線反射率の低い金属を選択することが必要であり、光線反射率としては波長550nmの光に対し約60%以下であることが好ましい。光線反射率の低い金属としては、W、V、Cr、Co、Mo、Ge、Ir、Ni、Os、Ti、Fe、Nb、Hf、Mn、Taが挙げられる。あるいはこれらの金属のうち少なくとも一つを主成分とする合金からなる群から選ばれた少なくとも一つの合金であることが好ましい。特に耐食性、光線反射率などの点からCr、Niが好ましい。
【0029】
[金属ワイヤの埋め込み]
複数の金属ワイヤ102間の空間は、ワイヤグリッド偏光子101の偏光性能を高めるためには、屈折率が低い方が好ましく、気体や低屈折材料を充填することができる。中間樹脂層104との接着性を高める観点からは、金属ワイヤ102間の周囲をすべて中間樹脂層104で囲むことで、金属ワイヤ102と中間樹脂層104との接合面積を増すことが好ましい。また、金属ワイヤ102の周囲をすべて中間樹脂層104で囲むことにより、ワイヤグリッド偏光子101の光線反射率をより低減することも可能である。
【0030】
金属ワイヤ102の周囲をすべて中間樹脂層104で囲む方法としては、次の3つの方法が考えられ、いずれも特許第4275691号公報に示す方法などによりワイヤグリッド偏光子101を形成することができる。
【0031】
(方法1)
樹脂基材の表面に金属ワイヤ102を形成し、基材フィルムの裏面と金属ワイヤ102上に中間樹脂層104用の樹脂を接着する方法。
【0032】
(方法2)
表面に凹凸構造を有する樹脂基材上に金属膜を成膜して金属ワイヤ102を形成した後、金属ワイヤ102のみ選択的に中間樹脂層104用の樹脂表面に接着して移行させる方法。例えば、特許第4275691号公報に示す方法において、樹脂基材の格子状凸部に誘電体を被覆することなく、樹脂製格子状凸部に直接金属を積層することで、金属ワイヤの基材樹脂への接着力を低下させ、金属ワイヤのみ中間樹脂層用の樹脂表面に接着して移行させる。この場合、樹脂基材にはフッ素系樹脂など接着性の低い樹脂を使用することが好ましい。
【0033】
(方法3)
硬質透明基板103a(又は103b)の表面に金属ワイヤ102を形成し、ワイヤグリッド偏光子101を形成する方法。
【0034】
上記いずれの方法を用いても、中間樹脂層102によりワイヤグリッド偏光子101と硬質透明基板103とを強固に接合することができる。接合にあたっては、中間樹脂層102の接着性に応じ、中間樹脂層102と硬質透明基板103a、103bを適宜、加熱、加圧する。
【0035】
[中間樹脂層]
中間樹脂層104の材質は、硬質透明基板103a、103bの材質、車両用窓として求められる機械的強度から適宜選択する。例えば、耐衝撃性を求められる場合は、ポリビニルブチラール樹脂などのポリビニルアセタール系樹脂やエチレン・酢酸ビニル共重合体が使用される。他に接着性に優れ光線透過性に優れる樹脂としては、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などがあげられ、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂のいずれであってもよい。
【0036】
[硬質透明基板]
硬質透明基板103a、103bの材質としては、ガラスや透明樹脂のシートやフィルムがあげられ、透明樹脂としては可視光領域で実質的に透明な樹脂であればよく、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、環状オレフィン樹脂、トリアセテート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂などの非晶性熱可塑性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などの結晶性熱可塑性樹脂や、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系などの紫外線(UV)硬化性樹脂や熱硬化性樹脂があげられる。
【0037】
中間樹脂層104の両側に接合される2枚の硬質透明基板103a、103bの材質やその表面処理は、用途に応じ、それぞれ適切に選択することができる。例えば、自動車のフロントウィンドウであれば、非観察者(車外)側に位置する硬質透明基板103aは耐環境性、耐摩耗性に優れたガラスとし、観察者(車内)側に位置する硬質透明基板103bは使用環境に応じガラス、ポリカーボネート樹脂シートやポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムなどを選択することができる。
【0038】
非観察者側の硬質透明基板103a表面が、自動車のフロントウィンドウのように水平面に対し45度程度傾斜している場合、横偏光と縦偏光の反射率の差が大きくなり、横偏光が選択的に反射し偏光分離が起きる。この偏光分離をより増強するために、非観察者側の硬質透明基板103a表面に屈折率の高い層(例えば、屈折率1.7以上の高屈折透明誘電体)を設けることもできる。さらに高屈折率層を、水平方向に伸びるピッチが200nm以下の横縞状にすることで、偏光分離の効率をより高めることもできる。
【0039】
観察側の硬質透明基板103b表面にはシリコーン系樹脂などを主成分とするハードコート層や誘電体多層膜、低屈折率膜やモスアイ構造による反射防止層を設けることにより、耐傷つき性を向上させ、観察者側部材の窓への映り込みを低減することもできる。
【0040】
[硬質透明基板と中間樹脂層の光学特性]
中間樹脂層102および硬質透明基板103a、103bに要求される光学性能としては、可視光に対し透明であること以外に、特に非観察者側の硬質透明基板103a表面からワイヤグリッド偏光子101までの硬質透明基板103aや中間樹脂層104を合わせた部分の、ワイヤグリッド偏光子101の透過軸方向の直線偏光に対するレターデーションが100nm以下であることが重要である。これは、観察する景色、物体からの光線のうち特定方向の偏光、例えば水平方向の振動面を持つ横偏光を効率的に除去するために必要であり、レターデーションが大きいとワイヤグリッド偏光子101の効果が減少する。レターデーションの値は少ないほど好ましく、100nm以下が必要であり、好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。レターデーションを低減するには、中間樹脂層104および硬質透明基板103aの複屈折を小さくすることや、複屈折の光学軸とワイヤグリッド偏光子101の透過軸をできるだけ一致させることが重要である。
【0041】
また、視認性向上だけでなく観察者側の周囲の映り込みを低減するには、できるだけ垂直方向の振動面を持つ縦偏光が、映り込む物体にあたることが重要であることから、映り込み低減のためには観察者側のレターデーションを低減することも必要である。
【0042】
[偏光透過率]
視認性を向上させるためには、ぎらつきの原因となる水平方向の振動面を持つ横偏光を除去し、垂直方向の振動面を持つ縦偏光のみで観察することが好ましい。しかし、高い偏光度を持つワイヤグリッド偏光子によって横偏光をほぼ完全に除去してしまうと、全光線透過率が理論的に50%、実際には最大でも45%にまで低下してしまい、車両などの乗り物の窓として外を観察するには、夜間など十分な光量が確保できなくなる場合がある。
【0043】
高い全光線透過率を維持しながら、視認性を向上させるためには、垂直方向の振動面を持つ直線偏光に対する縦偏光透過率を80%以上にできるだけ高く保ち、除去すべき水平方向の振動面を持つ直線偏光に対する横偏光透過率は、許容全光線透過率を満たす範囲で最少にすることが好ましい。このとき、横偏光透過率を10%未満にまで低減しても、視認性の向上効果は少なく全光線透過率の低下が大きくなることから、横偏光透過率は10%以上が好ましい。視認性の向上効果は縦偏光に比べ横偏光をどれだけ除去できるかによって決まることから、横偏光透過率の上限は縦偏光透過率との比で決まり、たとえば縦偏光透過率が90%では、横偏光透過率は70%程度が上限といえ、このときの全光線透過率は縦偏光透過率と横偏光透過率の平均である80%となる。つまり、全光線透過率は50%以上80%以下とすることで、視認性は確保される。
【0044】
[観察者側における光反射率]
ワイヤグリッド偏光子101において、透過軸と直交する方向の直線偏光は、基本的に反射もしくは吸収され、ここでの反射率は微細ワイヤに用いる金属素材と、ワイヤグリッド偏光子101の金属ワイヤ102のピッチと金属ワイヤの幅の比(Duty比)および金属ワイヤ102の高さに主に依存する。観察者側における光の反射による周囲の映り込みを低減するためには、上記のように光線反射率の低い金属を選択することが好ましく、さらには微細ワイヤの周囲をすべて樹脂で囲み、金属ワイヤ102のピッチに対しワイヤ幅を小さくすることがより好ましい。具体的な反射率は、良好な視認性を得るために入射角5度において25%以下が必要であり、好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0045】
ただし、車両の窓における手前の部材の映り込みに関しては、観察者側におけるワイヤグリッド偏光子101の反射率だけではなく、映り込む物体表面に、垂直方向の振動面を持つ縦偏光があたることで反射光を低減することが重要であることから、許容される透過率の中でワイヤグリッド偏光子101の偏光度を高めることも重要である。さらに、観察側の表面に誘電体多層膜、低屈折率膜やモスアイ構造による反射防止層を設けることで、映り込みを低減できるだけでなく、観察側表面における光の反射ロスを低減できることから、許容される透過率の中でワイヤグリッド偏光子101の偏光度をより高める、言い換えればより低い透過率を選択する、ことが可能となる。
【0046】
[ワイヤグリッド偏光子の構造]
ワイヤグリッド偏光子101の構造は、金属ワイヤ102のピッチと金属ワイヤ102の断面形状によって決まり、要求される透過率や偏光性能に応じ、適宜選択する。金属ワイヤ102のピッチは80〜200nmの範囲であり、金属ワイヤ102のピッチを100nm程度に小さくした方が高い偏光度を得やすい。一方で、視認性向上のためには偏光度80%程度でも十分な性能といえることから、製造の容易さを考慮して、金属ワイヤ102のピッチを150nmとしても良い。金属ワイヤ102のピッチが200nmよりも大きくなると、透過率の波長依存性が大きくなることから着色しやすくなり、使用できる用途に制限が生じやすくなる。
【0047】
高い透過率と偏光性能および低い反射率を満たすために、金属ワイヤ102の延在方向と垂直な断面における各金属ワイヤ102の幅(金属ワイヤが平行に並ぶ方向の幅)としては、ワイヤピッチの1〜30%が好ましく、特に高い透過率と低い反射率が求められる場合は、ワイヤピッチの1〜15%、さらには1〜8%が好ましい。また、金属ワイヤ102の延在方向と垂直な断面における各金属ワイヤ102の高さ(金属ワイヤが平行に並ぶ方向と垂直方向の幅)としては、ワイヤピッチの3〜120%の範囲で、要求性能に応じ適宜選択することができる。高い透過率が求められる場合は、金属ワイヤ102の高さをワイヤピッチの10〜100%とすることが好ましい。ここで金属ワイヤが平行に並ぶ方向の幅とは、幅の平均値を示し、金属ワイヤ102の伸びる方向と垂直な断面における金属ワイヤ102の断面積を垂直方向の高さで割った値である。
【0048】
また、特許第4275691号公報に示すように、樹脂基材表面の格子状凸部側面に金属を積層する場合(上記(方法1))は、格子状凸部の頂部に付着する金属量を減らすために、格子状凸部の頂部が比較的とがった形状とすることが、高い透過率と低い反射率を得るために有効である。格子状凸部の頂部や格子状凸部間の底部に金属が付着すると、透過率の低下や反射率の増加の原因となりやすいことから、金属の積層後にエッチングによりこれらの金属を除くことも好ましい。
【0049】
金属ワイヤ102の周囲を中間樹脂層104で充填することで、金属ワイヤ102の耐食性を向上させ、ワイヤグリッド偏光子101としての耐久性を向上できるほかに、反射率を低く保つだけでなく、透過率の波長依存性を低減することが可能となる。特に自然な色合いで観察することが要求される場合には、自然光に対する透過率の最大値と最小値の差が、最大透過率の15%以下であることが必要である。
【0050】
[実施例]
以下本発明の効果を明確にするために行った実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
本実施例では、硬質透明基板に挟まれた埋め込み型ワイヤグリッド偏光子を作製し、その光学特性を測定した。
【0052】
(実施例1)
・紫外線硬化樹脂を用いた格子状凸部転写フィルムの作製
格子状凸部転写フィルムの作製には、格子状凸部のピッチが140nm、高さが145nmで、格子状凸部の延在する方向に垂直な断面における凹部形状が略矩形で凸部頂部がとがった形状のNi製金型を用いた。Ni製金型にはフッ素系単分子膜による離型処理をした。厚み80μm、リターデーション5nmのトリアセチルセルロース樹脂(以下、TACと略す)フィルムに紫外線硬化性樹脂を約3μm塗布し、塗布面を下にし、金型とTACフィルム間に空気が入らないように乗せた。TACフィルム側から中心波長365nmの紫外線ランプを用いて紫外線を1000mJ/cm照射し、格子状凸部を転写した。TACフィルムを金型から剥離し、縦300mm、横200mmの格子状凸部を転写したフィルムを作製した。紫外線硬化性樹脂としては、特開2009−19174の実施例2に示す材料を使用した。
【0053】
・真空蒸着法を用いた金属の蒸着
格子状凸部転写フィルムに電子ビーム真空蒸着法を用いて金属の積層を行った。本実施例では、金属としてニッケルを用いた場合について説明する。真空度2.2×10−3Pa、蒸着速度0.2nm/s、常温下においてニッケルの蒸着を行った。金属厚み測定用に表面が平滑なガラス基板を格子状凸部転写フィルム近傍にフィルムと平行になるよう設置し、平滑基板へのニッケル蒸着厚みが7nmとなるように蒸着を行った。このときニッケルの蒸着は、斜め蒸着法を用い、格子状凸部の延在する方向に垂直な平面内で、基材面の法線と蒸着源のなす入射角度θを45°とした。
【0054】
・硬質透明基板による埋め込み型ワイヤグリッド偏光子の作製
ニッケルを蒸着した格子状凸部転写フィルム(ニッケルワイヤグリッド偏光子)を、厚み0.5mmのポリビニルブチラール・シート2枚で挟み、さらに厚み2mmの2枚のホウケイ酸ガラス板の間に挟み込み、真空中で150℃に加熱し、0.3MPaの圧力で熱圧着した。
【0055】
・分光光度計による光学特性評価
得られた硬質透明基板に挟まれた埋め込み型ワイヤグリッド偏光子について、分光光度計を用い全光線透過率、縦偏光透過率および横偏光透過率として平行ニコルと直交ニコルの直線偏光に対する透過率及び無偏光光に対する反射率を測定した。なお、反射率の測定は、反対側表面の反射を除くために、測定面と反対側の外側表面に黒色塗料を塗布した。偏光度、透過率の測定は入射角を0度とし、反射率の測定は入射角を5度とし、いずれの値も視感度補正をした値とした。その結果を表1に示す。
【0056】
(実施例2)
実施例1と同様の手法で、表面反射率1.0%の反射防止コートを片面に施した厚み100μmのポリエチレンテレフタレート・フィルムの非反射防止コート面に、複屈折の光学軸と格子状凸部の延在する方向が直角になるように、格子状凸部を転写した。次に、金属にクロムを用い、入射角度θを30°として厚み12nmを蒸着した後、蒸着面とガラス板を基材フィルムのない粘着剤のみからなる両面粘着テープを用いて張り合わせ、光学特性を評価した。光学特性測定において、透過率、偏光度の測定は入光面をガラス側とし、反射率の測定はフィルム張り合わせ面側とした。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
これらの偏光子を用いて、直射日光のあたる外の景色を観察したところ、実施例2の偏光子は、比較的高い偏光性能を持つため、横偏光によるぎらつきがなく、十分な視認性の向上効果が得られた。また、実施例1の偏光子であっても横偏光が約2/3に低減されていることから、ぎらつきが明らかに低減し、視認性が向上することが確認できた。
【0059】
<偏光素子の使用形態>
上述した偏光素子は、車両、船舶、航空機などの乗り物の窓、住宅、建物などの窓、サングラスなどに応用することができる。
【0060】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することができる。また、上記実施の形態における材質、数量などについては一例であり、適宜変更することができる。その他、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施することができる。特に乗り物の窓においては、上方のまぶしさを低減するために、ワイヤグリッド偏光子の金属ワイヤの幅や高さを増すことで上方部分のみ透過率を低くしたり、窓前方の内側一部分をヘッドアップディスプレイの反射表示部として用いたりすることもできる。ヘッドアップディスプレイの反射表示部に使用する場合は、金属ワイヤ表面にアルミニウムなど反射率の高い金属を積層し、反射率を高めることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の光透過性積層体は、車両、船舶、航空機、住宅、建物の窓、サングラスなどに適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
100 光透過性積層体
101 ワイヤグリッド偏光子
102 金属ワイヤ
103a、103b 硬質透明基板
104 中間樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に延在して設けられた複数の金属ワイヤを具備するワイヤグリッド偏光子と、前記ワイヤグリッド偏光子を挟持する一対の硬質透明基板とを有する車両窓用の光透過性積層体であって、
前記金属ワイヤは、延在方向と車両の水平基準面とが平行となるように設けられ、
無偏光光に対する反射率が25%以下、前記ワイヤグリッド偏光子の透過軸方向の直線偏光に対する透過率が80%以上、透過軸と直角方向の直線偏光に対する透過率が10%以上、且つ全光線透過率が50%以上80%以下であること特徴とする車両窓用の光透過性積層体。
【請求項2】
前記金属ワイヤの延在方向を回転軸にして、前記水平基準面から30〜70度傾けて設けられることを特徴とする請求項1記載の車両窓用の光透過性積層体。
【請求項3】
前記一対の硬質透明基板の少なくとも一方の表面に反射防止層を有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両窓用の光透過性積層体。
【請求項4】
前記硬質透明基板から前記ワイヤグリッド偏光子までの透明部材のレターデーションが、前記ワイヤグリッド偏光子の透過軸方向の直線偏光に対し100nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の車両窓用の光透過性積層体。
【請求項5】
少なくとも前記一対の硬質透明基板の外側表面に、屈折率1.7以上の高屈折透明誘電体を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の車両窓用の光透過性積層体。
【請求項6】
前記一対の硬質透明基板の間に中間樹脂層を有し、前記ワイヤグリッド偏光子が前記中間樹脂層中又は前記中間樹脂層と前記硬質透明基板との界面に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の車両窓用の光透過性積層体。
【請求項7】
可視光波長領域における前記ワイヤグリッド偏光子の最大透過率と最少透過率の差が15%以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の車両窓用の光透過性積層体。

【図1】
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【公開番号】特開2013−57820(P2013−57820A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196296(P2011−196296)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】