説明

車両運動量センサ

【課題】車両運動量センサにおいて、正常であるか異常であるかの判定を冗長を取らなくても即時判定できるようにする。
【解決手段】選択回路26にて自己診断回路25が加速度センサの異常を判定したときに第1、第2出力回路24a、24bから出力させる異常信号の電圧レベルを適宜選択できるようにする。これにより、第1、第2出力回路24a、24bから出力されたセンサ出力を通常発生し得ない値にすることが可能となり、加速度センサが正常であるか異常であるかの判定を冗長を取らなくても即時判定できるようにすることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常時に出力される信号レベルを選択可能な車両運動量センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両における運動量の検出を行う車両運動量センサでは、正常時に出力する信号レベルに対して異常時に出力する信号レベルを変えることにより、車両運動量センサが異常であることを車両運動量が入力される外部システムに伝えている。
【0003】
例えば、車両の運動量として前後加速度(以下、前後Gという)や横加速度(以下、横Gという)を検出する車両用の加速度センサでは、自己診断機能が備えられ、自分自身が正常であるか異常であるかの自己診断を行うことができる。このような自己診断機能が備えられた加速度センサでは、例えば、正常時には、検出した前後Gや横Gを0.5〜4.5Vの出力範囲で表し、異常時には0Vもしくは5.0VというLoレベルもしくはHiレベルの電位を出力する。これにより、加速度センサのセンサ出力がLoレベルもしくはHiレベルの時に、前後Gや横Gを利用した車両運動制御を行う外部システム、例えば横滑り防止制御(ESC(Electronic Stability Control))用の電子制御装置(以下、ECUという)にて加速度センサの異常を検出できるようにしている。
【特許文献1】特開2003−254850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、正常時の出力と異常時の出力の差が小さいため、外部システム側での誤判定を防止するために、他のセンサ入力との比較を行う等の冗長を取る必要があり、正常であるか異常であるかの判定に時間が掛かるという問題がある。これについて、図8を参照して説明する。
【0005】
図8は、α軸とβ軸の二方向を検出方向とする二軸の加速度センサのセンサエレメントにおいて、2つの検出方向を車両前後方向に対して共に45度に傾斜させたときの異常時の様子を示した模式図である。このような加速度センサでは、車両前後方向および車両左右方向に対して45度傾斜した方向が検出方向となり、車両前方に向くベクトルに対して左方向に45度傾斜した方向を検出方向(α軸)とする第1センサエレメントと右方向に45度傾斜した方向を検出方向(β軸)とする第2センサエレメントそれぞれと対応するセンサ出力の合成値により、前後Gと横Gが表される。そして、異常時には、第1、第2センサエレメントそれぞれと対応するセンサ出力が例えばHiレベルとされることにより、その合成値が最も大きな値となるようにしている。このため、外部システムに第1、第2センサエレメントと対応するセンサ出力の合成値が最も大きな値となったことが伝えられると、外部システムにて加速度センサが異常であると判定することができる。
【0006】
ところが、車両の前後Gが最も大きな値(以下、極大値という)を取るとき、それに対応する各センサ出力は出力可能な上限値に近い値(例えば5V)となる。このため、車両の前後Gが極大値を取るときのセンサ出力の合成値は異常時のセンサ出力の合成値とあまり差がなくなり、この差に基づいて誤判定なく正常であるか異常であるかの判定を行わなければならないために、冗長を取らなければならなくなる。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、車両運動量センサにおいて、正常であるか異常であるかの判定を冗長を取らなくても即時判定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、第1軸を検出方向として車両運動量の検出を行い、第1軸の車両運動量に対応する検出信号を出力する第1センサエレメント(11)、および、第1軸と異なる第2軸を検出方向として車両運動量の検出を行い、第2軸の車両運動量に対応する検出信号を出力する第2センサエレメント(12)を備えたセンサエレメント(1)と、第1センサエレメント(11)および第2センサエレメント(12)が出力する検出信号を信号処理し、第1軸の車両運動量と対応するセンサ出力および第2軸の車両運動量と対応するセンサ出力を発生させる信号処理回路(2)と、を備えた車両運動量センサにおいて、信号処理回路(2)に、第1センサエレメント(11)および信号処理回路(2)のうち第1軸の車両運動量の検出を行う部分を第1系統とし、第2センサエレメント(12)および信号処理回路(2)のうち第2軸の車両運動量の検出を行う部分を第2系統として、第1系統および第2系統の異常を検出し、異常を検出したときに異常が発生したことを示す異常信号としてセンサ出力として出力させられる上限値であるHiレベルと下限値であるLoレベルのいずれか一方を出力させる自己診断回路(25)と、自己診断回路(25)に対して、異常信号としてHiレベルとLoレベルのいずれを出力させるかを選択する選択回路(26)とを備えることを特徴としている。
【0009】
このように、選択回路(26)にて自己診断回路(25)が車両運動量センサの異常を判定したときにセンサ出力として出力させる異常信号の電圧レベルを適宜選択できるようにしている。これにより、第1系統と第2系統それぞれから出力されたセンサ出力を通常車両運動量として発生し得ない値にすることが可能となり、車両運動量が正常であるか異常であるかの判定を冗長を取らなくても即時判定できるようにすることが可能となる。
【0010】
例えば、請求項2に記載したように、センサエレメント(1)にて車両運動量として車両の前後Gと横Gを検出するような加速度センサにおいては、異常を検出したときに横加速度が最も大きな値となるように、選択回路(26)にて異常信号をHiレベルとLoレベルのいずれにするかを選択することができる。
【0011】
つまり、実際取り得る横Gは、センサ出力にて表せる横Gの極大値を取ることは有り得ない。このため、横Gの極大値を示すことにより、加速度センサが正常であるか異常であるかの判定を冗長を取らなくても即時判定できるようにすることが可能となる。
【0012】
具体的には、請求項3に記載したように、車両の水平方向において、車両の前方に向くベクトルに対して左方向に45度傾斜した方向を第1軸に相当する第1センサエレメント(11)の検出方向、車両の前方に向くベクトルに対して右方向に45度傾斜した方向を第2軸に相当する第2センサエレメント(12)の検出方向とし、信号処理回路(2)にて、第1系統では、車両の左前方を向く加速度が大きくなるほどセンサ出力を大きく出力すると共に車両の右後方を向く加速度が大きくなるほどセンサ出力を小さく出力し、第2系統では、車両の右前方を向く加速度が大きくなるほどセンサ出力を大きく出力すると共に車両の左後方を向く加速度が大きくなるほどセンサ出力を小さく出力することにより、第1系統のセンサ出力と第2系統のセンサ出力の合成値により前後Gと横Gを表すことができる。このような場合、選択回路(26)にて、異常信号として、第1系統のセンサ出力をLoレベルにすると共に第2系統のセンサ出力をHiレベルとして出力させるか、もしくは、第1系統のセンサ出力をHiレベルにすると共に第2系統のセンサ出力をLoレベルとして出力させる選択を行うようにすれば良い。
【0013】
また、請求項4に記載したように、車両の前後方向を第1軸に相当する第1センサエレメント(11)の検出方向、車両の左右方向を第2軸に相当する第2センサエレメント(12)の検出方向とし、信号処理回路(2)にて、第1系統では、車両の前方を向く加速度が大きくなるほどセンサ出力を大きく出力すると共に車両の後方を向く加速度が大きくなるほどセンサ出力を小さく出力し、第2系統では、車両の右方向を向く加速度が大きくなるほどセンサ出力を大きく出力すると共に車両の左方向を向く加速度が大きくなるほどセンサ出力を小さく出力することにより、前後加速度と横加速度を表すこともできる。このような場合、選択回路(26)にて、異常信号として、第2系統のセンサ出力をHiレベルもしくはLoレベルとして出力させる選択を行うようにすれば良い。
【0014】
さらに、この場合、請求項5に記載したように、選択回路(26)にて、異常を検出したのが第2系統のみであったときに、第1系統のセンサ出力として、異常信号ではなく第1センサエレメント(11)の検出信号を信号処理した第1軸と対応するセンサ出力をそのまま出力させるという選択を行うこともできる。
【0015】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0017】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態は、車両運動量センサとして加速度センサに対して本発明の一実施形態を適用した場合について説明する。
【0018】
図1は、本実施形態にかかる加速度センサのブロック構成を示した図である。図2は、加速度センサの車両への搭載状態と、加速度センサに備えられるセンサエレメント毎の検出方向の関係を示した模式図である。図3は、図1に示す加速度センサへの加速度(以下、Gという)の入力に対する出力の関係を示したグラフである。以下、これらの図を参照して、本実施形態にかかる加速度センサについて説明する。
【0019】
本実施形態の加速度センサは、図1および図2に示されるように車両の水平方向に生じるGが入力されたときにそれに応じた検出出力を発生させるセンサエレメント1と、図1に示されるようにセンサエレメントの検出出力を信号処理して最終的なセンサ出力を発生させる信号処理回路2とを有して構成されている。この加速度センサにより、α軸とβ軸の二方向を検出方向とする二軸の加速度を検出する。
【0020】
センサエレメント1は、Gの入力に対応した出力を発生させる。例えば、センサエレメント1としては、Gの入力に対して錘部が備えられた可動部が移動し、可動部と固定部との間の容量値が変化することによりGを検出する容量式のものなどが用いられる。本実施形態では、図2に示されるように、センサエレメント1は、互いに直行する二方向(α軸、β軸)を検出方向とする二軸の加速度検出を行うように配置され、2つの検出方向を車両前後方向に対して共に45度に傾斜させた配置とされている。
【0021】
このような加速度センサでは、車両前後方向および車両左右方向に対して45度傾斜した方向が検出方向となり、車両前方に向くベクトルに対して左方向に45度傾斜した方向を検出方向(α軸)とする第1センサエレメント11と右方向に45度傾斜した方向を検出方向(β軸)とする第2センサエレメント12の出力の合成値により、前後Gと横Gが表される。
【0022】
例えば、前後Gに対応するGが入力されたときに、第1センサエレメント11は、前後Gの大きさと対応する前後方向のベクトルをα軸上に投影したときのベクトルに対応する出力信号を発生させ、第2センサエレメント12は、前後Gの大きさと対応する前後方向のベクトルをβ軸上に投影したときのベクトルに対応する出力信号を発生させる。これら第1センサエレメント11と第2センサエレメント12の出力信号が信号処理回路2にてそれに対応する電位に変換されたセンサ出力として出力されるため、外部システム(図示せず)にて各センサ出力の合成値が演算され、発生した前後Gが求められる。同様に、横Gに対応するGが入力されたときに、第1センサエレメント11は、横Gの大きさと対応する左右方向のベクトルをα軸上に投影したときのベクトルに対応する出力信号を発生させ、第2センサエレメント12は、横Gの大きさと対応する左右方向のベクトルをβ軸上に投影したときのベクトルに対応する出力信号を発生させる。これら第1センサエレメント11と第2センサエレメント12の出力信号が信号処理回路2にてそれに対応する電位に変換されたセンサ出力として出力されるため、外部システムにて各センサ出力の合成値が演算され、発生した横Gが求められる。
【0023】
信号処理回路2は、第1センサエレメント11と第2センサエレメント12それぞれの出力信号に対して備えられ、第1、第2信号処理部21a、21b、第1、第2増幅器22a、22b、第1、第2フィルタ23a、23b、第1、第2出力回路24a、24b、自己診断回路25および選択回路26を備えた構成とされている。
【0024】
第1、第2信号処理部21a、21bは、第1センサエレメント11や第2センサエレメント12の出力信号を信号処理する。第1、第2増幅器22a、22bは、信号処理後の第1センサエレメント11や第2センサエレメント12の出力信号を増幅する。第1、第2フィルタ23a、23bは、信号処理および増幅後の第1センサエレメント11や第2センサエレメント12の出力信号のノイズ除去などを行う。また、第1、第2出力回路24a、24bは、第1、第2フィルタ23a、23bを通過後の出力信号を所望の電圧範囲に変換し、センサ出力として出力する。例えば、正常時には、0〜5Vの範囲の電圧をセンサ出力とし、入力されたGの大きさと対応する電圧レベル(信号レベル)を出力する。なお、これら各構成要素に関しては、従来より周知なものであるため、ここでは詳細については説明を省略する。
【0025】
自己診断回路25は、第1センサエレメント11や第2センサエレメント12が正常に機能しているか、および、第1、第2信号処理部21a、21bや第1、第2増幅器22a、22bや第1、第2フィルタ23a、23bが正常に機能しているかをセンサ自らが診断するものである。例えば、自己診断回路25は、自己診断のタイミングのときに、前後Gもしくは横Gに対応するGが入力されたときと同様の診断用擬似信号を第1センサエレメント11や第2センサエレメント12に付与し、第1センサエレメント11や第2センサエレメント12から診断用擬似信号に対応した出力信号を発生させる。これらの出力信号が第1、第2信号処理部21a、21bや第1、第2増幅器22a、22bおよび第1、第2フィルタ23a、23bを通じて自己診断回路25に入力されると、自己診断回路25は、診断用擬似信号が入力されたときに得られる出力信号と比較し、例えばそれらの差が許容範囲内であれば正常であると判定し、許容範囲外であれば異常であると判定する。そして、この判定結果に基づき、第1、第2出力回路24a、24bに対して正常であれば自己診断回路25から正常であることを示す信号を出力させ、異常であれば自己診断回路25から異常であることを示す信号(以下、異常信号という)を出力させる。
【0026】
例えば、正常時には、第1センサエレメント11や第2センサエレメント12に対してGが入力されると、図3に示すように入力されるGに対して比例するセンサ出力が発生させられる。すなわち、加速度センサの出力可能な範囲内において電圧レベルを変化させることにより入力されたGと対応するセンサ出力を発生させる。具体的には、Gが0のときを加速度センサの出力可能な範囲の中間値(例えば2.5V)に設定し、右斜前方向もしくは左斜前方向の加速度が発生している場合を2.5〜5Vで表し、右斜後方向もしくは左斜後方向の加速度が発生している場合を0〜2.5Vで表す。そして、右斜前方向もしくは左斜前方向の加速度が大きいほど電圧レベルが高くなるようにし、右斜後方向もしくは左斜後方向の加速度が大きいほど電圧レベルが小さくなるようにする。このように、通常時と変わらないセンサ出力が発生させられるため、外部システムでは第1、第2センサエレメント11、12、第1、第2信号処理部21a、21b、第1、第2増幅器22a、22bおよび第1、第2フィルタ23a、23bが異常ではないと判定することが可能となる。
【0027】
また、異常時には、第1センサエレメント11や第2センサエレメント12に対するGの入力にかかわらず、一定の電圧レベルとされる。具体的には、Hiレベル(5V)もしくはLoレベル(0V)がセンサ出力として発生させられる。このように、通常時と異なるセンサ出力が発生させられるため、外部システムでは第1、第2センサエレメント11、12、第1、第2信号処理部21a、21b、第1、第2増幅器22a、22bおよび第1、第2フィルタ23a、23bのいずれかが異常であると判定することが可能となる。このときのセンサ出力は、次で説明する選択回路26にて決定される。
【0028】
選択回路26は、異常時に発生させる第1センサエレメント11や第2センサエレメント12と対応するセンサ出力として、HiレベルとLoレベルのいずれを選択するかを決める。この選択は、加速度センサの配置の仕方などに基づいて行われ、加速度センサの製造段階もしくはディーラなどの検査・修理工場などでいずれを選択するかが決められる。本実施形態における選択手法に関しては、後で詳細に説明する。
【0029】
このようにして、本実施形態にかかる加速度センサが構成されている。続いて、本実施形態にかかる加速度センサの作動について説明する。
【0030】
まず、通常の加速度検出時には、車両走行中に前後Gや横Gが発生し、それに対応するGが第1センサエレメント11および第2センサエレメント12に入力されると、各第1、第2センサエレメント11、12からGに対応した出力信号が出力される。そして、第1センサエレメント11の出力信号は、第1信号処理部21aにて信号処理されたのち、第1増幅器22aにて増幅され、さらに第1フィルタ23aによるノイズ除去などがされたあと、第1出力回路24aにてGに対応した電圧レベルのセンサ出力として出力される。同様に、第2センサエレメント12の出力信号は、第2信号処理部21bにて信号処理されたのち、第2増幅器22bにて増幅され、さらに第2フィルタ23bによるノイズ除去などがされたあと、第2出力回路24bにてGに対応した電圧レベルのセンサ出力として出力される。これらの各センサ出力が外部システムに伝えられ、外部システムにて各センサ出力の合成値が演算されることにより、発生した前後Gおよび横Gが求められる。
【0031】
次に、自己診断時には、自己診断回路25から各第1、第2センサエレメント11、12に対して診断用擬似信号を付与し、第1センサエレメント11や第2センサエレメント12から診断用擬似信号に対応した出力信号を発生させる。そして、各第1、第2センサエレメント11、12から診断用擬似信号に対応した出力信号が出力され、これらの出力信号が第1、第2信号処理部21a、21bや第1、第2増幅器22a、22bや第1、第2フィルタ23a、23bを通じて自己診断回路25に入力される。これにより、自己診断回路25にて、診断用擬似信号が入力されたときに得られる出力信号と比較され、例えばそれらの差が許容範囲内であれば正常であると判定し、許容範囲外であれば異常であると判定される。そして、この判定結果に基づき、第1、第2出力回路24a、24bに対して正常であれば自己診断回路25から正常であることを示す信号を出力させ、異常であれば自己診断回路25から異常信号をセンサ出力として発生させる。
【0032】
ここで、自己診断回路25にて異常と判定されたときに発生させられるセンサ出力について説明する。
【0033】
上述したように、本実施形態では、第1センサエレメント11はα軸を検出方向とし、第2センサエレメント12はβ軸を検出方向としている。そして、第1、第2センサエレメント11、12は、Gが0のときを加速度センサの出力可能な範囲の中間値(例えば2.5V)に設定し、左斜前方向もしくは右斜前方向の加速度が発生している場合を2.5〜5Vで表し、左斜後方向もしくは右斜後方向の加速度が発生している場合を0〜2.5Vで表している。
【0034】
このため、異常と判定されたときに、第1、第2センサエレメント11、12に対応するセンサ出力として、第1、第2出力回路24a、24bから異常信号であるHiレベルを共に出力させたとすると、外部システムで演算される合成値は前後Gが極大値となるときと同様の値となる。例えば、実際に発生し得る前後Gや横Gとセンサ出力との関係は、図4に示すグラフのように表される。すなわち、前後Gは実際に大きな値を取り得るため、実際に極大値を取る可能性があり、そのときのセンサ出力は、センサ出力の上限値に近い値(例えば5V)となる。このため、車両の前後Gが極大値を取るときのセンサ出力の合成値は異常時のセンサ出力の合成値とほぼ同じになり、この差に基づいて誤判定なく正常であるか異常であるかの判定を行うためには、他のセンサ入力との比較を行う等の冗長を取らなければならない。
【0035】
したがって、本実施形態では、第1、第2センサエレメント11、12のうちのいずれか一方に対応するセンサ出力をHiレベルではなくLoレベルとして出力するようにし、選択回路26にて、そのような選択ができるように第1、第2出力回路24a、24bから出力させる異常信号の電圧レベルを決定している。
【0036】
図5は、第1センサエレメント11と対応するセンサ出力として、第1出力回路24aから異常信号であるLoレベルを出力し、第2センサエレメント12と対応するセンサ出力として、第2出力回路24bから異常信号であるHiレベルを出力したときの様子を示した模式図である。この図に示すように、第1出力回路24aから異常信号であるLoレベルを出力すると共に第2出力回路24bから異常信号であるHiレベルを出力した場合、センサ出力の合成値が車両左右方向のベクトルとして表されることになる。これは、横Gが発生した場合と同義で捉えることができる。
【0037】
このとき、第1出力回路24aから出力されるセンサ出力がLoレベルで第2出力回路24bから出力されるセンサ出力がHiレベルの場合、その合成値は横Gが極大値を取るときのセンサ出力の合成値とほぼ同じになる。しかしながら、図4から判るように、横Gは、前後Gと異なり、通常の走行では実際に極大値を取ることは有り得ない。このため、外部システムにて、第1、第2出力回路24a、24bが発生させたセンサ出力の合成値を演算したときに、その合成値が横Gが極大値と取るときの値であったとすれば、通常発生し得ない値であるため、即時に加速度センサが異常であると判定することが可能となる。これにより、加速度センサが正常であるか異常であるかの判定を冗長を取らなくても即時判定できるようにすることが可能となる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態では、選択回路26にて自己診断回路25が加速度センサの異常を判定したときに第1、第2出力回路24a、24bから出力させる異常信号の電圧レベルを適宜選択できるようにしている。これにより、第1、第2出力回路24a、24bから出力されたセンサ出力を通常発生し得ない値にすることが可能となり、加速度センサが正常であるか異常であるかの判定を冗長を取らなくても即時判定できるようにすることが可能となる。
【0039】
なお、ここでは、異常信号として第1出力回路24aからLoレベルを出力させ、第2出力回路24bからHiレベルを出力させるように選択回路26によるセンサ出力の選択を行っている。これは単なる一例を示したものであり、その逆、つまり異常信号として第1出力回路24aからHiレベルを出力させ、第2出力回路24bからLoレベルを出力させるように選択回路26によるセンサ出力の選択を行っても構わない。
【0040】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。上記実施形態に対して検出方向であるα軸とβ軸の方向を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、異なる部分についてのみ説明する。
【0041】
図6は、加速度センサの車両への搭載状態と、加速度センサに備えられるセンサエレメント毎のセンサ出力の関係等を示した模式図である。
【0042】
この図に示されるように、本実施形態でも、センサエレメントは、互いに直行する二方向(α軸、β軸)を検出方向とする二軸の加速度検出を行うように配置され、2つの検出方向のうちの一方が車両前後方向、他方が車両左右方向を向けられた配置とされている。つまり、第1センサエレメント11の検出方向(α軸)を車両前後方向とし、第2センサエレメント12の検出方向(β軸)を車両左右方向として、これら各第1、第2センサエレメント11、12の出力それぞれによって前後Gと横Gが表される。つまり、前後Gに対応するGが入力されたときには、第1センサエレメント11に対応する第1出力回路24aの出力信号が前後Gを表すセンサ出力として出力され、横Gに対応するGが入力されたときには、第2センサエレメント12に対応する第2出力回路24bの出力信号が前後Gを表すセンサ出力として出力される。これら各センサ出力に基づき、発生した前後Gおよび横Gが求められる。
【0043】
続いて、本実施形態にかかる加速度センサの作動について説明する。
【0044】
まず、通常の加速度検出時には、車両走行中に前後Gや横Gが発生し、それに対応するGが第1センサエレメント11および第2センサエレメント12に入力されると、各第1、第2センサエレメント11、12からGに対応した出力信号が出力され、第1、第2信号処理部21a、21b、第1、第2増幅器22a、22b、第1、第2フィルタ23a、23bおよび第1、第2出力回路24a、24bを介してセンサ出力が発生させられる。そして、各センサ出力が外部システムに入力され、外部システムにて第1出力回路24aが発生したセンサ出力に基づいて前後Gが求められると共に第2出力回路24bが発生したセンサ出力に基づいて横Gが求められる。
【0045】
次に、自己診断時には、第1実施形態と同様に、自己診断回路25から各第1、第2センサエレメント11、12に対して診断用擬似信号が付与され、各第1、第2センサエレメント11、12から診断用擬似信号に対応した出力信号が出力される。これらの出力信号が第1、第2信号処理部21a、21bや第1、第2増幅器22a、22bや第1、第2フィルタ23a、23bを通じて自己診断回路25に入力され、自己診断回路25にて、診断用擬似信号が入力されたときに得られる出力信号と比較されることにより、正常であるか異常であるかが判定される。そして、この判定結果に基づき、第1、第2出力回路24a、24bに対して正常であれば自己診断回路25から正常であることを示す信号を出力させ、異常であれば自己診断回路25から異常信号をセンサ出力として発生させる。
【0046】
このとき、本実施形態では、以下のような異常信号を出力させている。すなわち、本実施形態でも、第1センサエレメント11の検出方向であるα軸に関しては、前後Gが実際に取り得る値が大きいため、センサ出力をHiレベルにしても、他のセンサ入力との比較を行う等の冗長を取らなければならない。これに対し、第2センサエレメント12の検出方向であるβ軸に関しては、横Gが実際に取り得る値がセンサ出力の極大値と比較して十分に小さい。
【0047】
このため、本実施形態では、図7の第2出力回路24bから異常信号を出力したときの様子に示されるように、異常信号を出力するときの第1センサエレメント11のセンサ出力がHiレベルであるかLoレベルであるかに関わらず、少なくとも第2センサエレメント12に対応するセンサ出力をHiレベルにできるように、選択回路26にて第2出力回路24bから出力させる異常信号の電圧レベルを決定している。
【0048】
このようにすれば、横Gとして通常発生し得ない値であるため、外部システムに第2出力回路24bから異常信号が入力されたときに即時に加速度センサが異常であると判定することが可能となる。これにより、上記第1実施形態と同様、加速度センサが正常であるか異常であるかの判定を冗長を取らなくても即時判定できるようにすることが可能となる。
【0049】
なお、ここでは、異常信号として第2出力回路24bからHiレベルを出力させるように選択回路26によるセンサ出力の選択を行ったが、第2出力回路24bからLoレベルを出力させるように選択回路26によるセンサ出力の選択を行っても構わない。
【0050】
(他の実施形態)
上記第2実施形態では、各第1、第2センサエレメント11、12に対応するセンサ出力がそれぞれ前後Gと横Gを表しているため、一方の系統異常が発生したとしても、他方の系統に異常が発生していなければ他の系統の加速度検出をそのまま続行させるようにすることもできる。例えば、横Gを表している第2センサエレメント12の系統に異常が発生した場合には、第2出力回路24bからHiレベル信号を出力させるようにすることで、横Gを検出する系統が異常であることを外部システムに認識させられるようにしておき、前後Gを表している第1センサエレメント11の系統に関しては、異常が発生していないため、前後Gの検出を続行し、第1出力回路24aから第1センサエレメント11での検出信号に対応するセンサ出力が出力されるようにできる。このように、いずれかの系統に故障が発生した場合であっても、両方の系統共に異常信号を出力させるようにするか、それとも異常が発生した一方の系統にのみ異常信号を出力させるようにするかを選択することができる。このような選択に関しても、選択回路26にて、予め異常の形態に則して選択できるようにすることができる。
【0051】
また、上記実施形態では、選択回路26にて、異常時に第1、第2出力回路24a、24bから発生させられるセンサ出力を異常信号に相当するHiレベルとLoレベルのいずれにするか、もしくは、異常信号を出力するか検出信号に対応するセンサ出力をそのまま出力するかを選択している。このような選択は、ソフト的に行われるようにしても良いし、センサ出力を発生させるセンサ回路内においてハード的にセンサ出力が切替えられるようにすることで行われるようにしても良い。
【0052】
また、上記実施形態では、車両運動量センサとして加速度センサを例に挙げて説明したが、加速度センサ以外の運動量センサ、例えばヨーレートセンサとロールレートセンサを組み合わせたものなどに対しても本発明を適用することが可能である。
【0053】
さらに、上記各実施形態では、センサエレメント1として、第1、第2センサエレメント11、12が別体で構成される場合について説明したが、第1、第2センサエレメント11、12が一体とされたものであっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態にかかる加速度センサのブロック構成を示した図である。
【図2】加速度センサの車両への搭載状態と、加速度センサに備えられるセンサエレメント毎の検出方向の関係を示した模式図である。
【図3】図1に示す加速度センサに備えられるセンサエレメントへのGの入力に対する出力の関係を示したグラフである。
【図4】実際に発生し得る前後Gや横Gとセンサ出力との関係を示したグラフである。
【図5】第1出力回路24aから異常信号であるLoレベルを出力し、第2出力回路24bから異常信号であるHiレベルを出力したときの様子を示した模式図である。
【図6】本発明の第2実施形態にかかる加速度センサの車両への搭載状態と、加速度センサに備えられるセンサエレメント毎の検出方向の関係を示した模式図である。
【図7】第2出力回路24bから異常信号を出力したときの様子を示した模式図である。
【図8】α軸とβ軸の二方向を検出方向とする二軸の加速度センサのセンサエレメントの2つの検出方向を車両前後方向に対して共に45度に傾斜させたときの異常時の様子を示した模式図である。
【符号の説明】
【0055】
1…センサエレメント、2…信号処理回路、11、12…第1、第2センサエレメント、21a、21b…第1、第2信号処理部、22a、22b…第1、第2増幅器、23a、23b…第1、第2フィルタ、24a、24b…第1、第2出力回路、25…自己診断回路、26…選択回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸を検出方向として車両運動量の検出を行い、該第1軸の車両運動量に対応する検出信号を出力する第1センサエレメント(11)、および、前記第1軸と異なる第2軸を検出方向として車両運動量の検出を行い、該第2軸の車両運動量に対応する検出信号を出力する第2センサエレメント(12)を備えたセンサエレメント(1)と、
前記第1センサエレメント(11)および前記第2センサエレメント(12)が出力する前記検出信号を信号処理し、前記第1軸の車両運動量と対応するセンサ出力および前記第2軸の車両運動量と対応するセンサ出力を発生させる信号処理回路(2)と、を備え、
前記信号処理回路(2)には、
前記第1センサエレメント(11)および前記信号処理回路(2)のうち前記第1軸の車両運動量の検出を行う部分を第1系統とし、前記第2センサエレメント(12)および前記信号処理回路(2)のうち前記第2軸の車両運動量の検出を行う部分を第2系統として、前記第1系統および前記第2系統の異常を検出し、該異常を検出したときに異常が発生したことを示す異常信号として前記センサ出力として出力させられる上限値であるHiレベルと下限値であるLoレベルのいずれか一方を出力させる自己診断回路(25)と、
前記自己診断回路(25)に対して、前記異常信号としてHiレベルとLoレベルのいずれを出力させるかを選択する選択回路(26)と、が備えられていることを特徴とする車両運動量センサ。
【請求項2】
前記センサエレメント(1)にて前記車両運動量として車両の前後加速度と横加速度を検出し、
前記選択回路(26)は、前記異常を検出したときに前記横加速度が最も大きな値となるように、前記異常信号をHiレベルとLoレベルのいずれにするかを選択することを特徴とする請求項1に記載の車両運動量センサ。
【請求項3】
前記第1センサエレメント(11)は、前記車両の水平方向において、前記車両の前方に向くベクトルに対して左方向に45度傾斜した方向を前記第1軸に相当する検出方向とし、
前記第2センサエレメント(12)は、前記車両の水平方向において、前記車両の前方に向くベクトルに対して右方向に45度傾斜した方向を前記第2軸に相当する検出方向とし、
前記信号処理回路(2)は、前記第1系統では、前記車両の左前方を向く加速度が大きくなるほど前記センサ出力を大きく出力すると共に前記車両の右後方を向く加速度が大きくなるほど前記センサ出力を小さく出力し、前記第2系統では、前記車両の右前方を向く加速度が大きくなるほど前記センサ出力を大きく出力すると共に前記車両の左後方を向く加速度が大きくなるほど前記センサ出力を小さく出力することにより、前記第1系統の前記センサ出力と前記第2系統の前記センサ出力の合成値により前記前後加速度と前記横加速度を表しており、
前記選択回路(26)は、前記異常信号として、前記第1系統の前記センサ出力をLoレベルにすると共に前記第2系統のセンサ出力をHiレベルとして出力させるか、もしくは、前記第1系統の前記センサ出力をHiレベルにすると共に前記第2系統のセンサ出力をLoレベルとして出力させる選択を行うことを特徴とする請求項2に記載の車両運動量センサ。
【請求項4】
前記第1センサエレメント(11)は、前記車両の前後方向を前記第1軸に相当する検出方向とし、
前記第2センサエレメント(12)は、前記車両の左右方向を前記第2軸に相当する検出方向とし、
前記信号処理回路(2)は、前記第1系統では、前記車両の前方を向く加速度が大きくなるほど前記センサ出力を大きく出力すると共に前記車両の後方を向く加速度が大きくなるほど前記センサ出力を小さく出力し、前記第2系統では、前記車両の右方向を向く加速度が大きくなるほど前記センサ出力を大きく出力すると共に前記車両の左方向を向く加速度が大きくなるほど前記センサ出力を小さく出力することにより、前記前後加速度と前記横加速度を表しており、
前記選択回路(26)は、前記異常信号として、前記第2系統のセンサ出力をHiレベルもしくはLoレベルとして出力させる選択を行うことを特徴とする請求項2に記載の車両運動量センサ。
【請求項5】
前記選択回路(26)は、異常を検出したのが前記第2系統のみであったとき、前記第1系統のセンサ出力として、異常信号ではなく前記第1センサエレメント(11)の検出信号を信号処理した前記第1軸と対応するセンサ出力をそのまま出力させる選択を行うことを特徴とする請求項4に記載の車両運動量センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−276212(P2009−276212A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128053(P2008−128053)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)