説明

車体傾動抑制システム

【課題】車体の姿勢を安定させるために、車体の傾動を抑制するためのシステムとして実用的な車体傾動抑制システムを提供する。
【解決手段】(A)車体に保持されて設定方向に移動可能とされた質量体と、(B)車体に支持されて質量体を動かすアクチュエータと、(C)そのアクチュエータを制御する制御装置とを備えさせ、車体の傾動によって設定方向の傾きが生じる際に、アクチュエータを制御して、質量体にそれを設定方向に動かす力を付与することで、その傾きを打ち消す方向の力を車体に作用させ、車体の設定方向の傾きを抑制するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の姿勢を安定させるためのシステム、詳しくは、車体の傾動を抑制するための車体傾動抑制システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行中において、車体の姿勢を安定させるために、種々の検討がなされており、種々の技術が存在する。例えば、下記特許文献1に記載のシステムは、車両走行時の安定性を向上させるために、車体のルーフ上に配置された翼部の前後方向の位置および迎え角を調整して、適切な位置にダウンフォースを生じさせるように構成されている。つまり、ダウンフォースを生じさせる前後方向の位置を調整することで、車体の前後方向の姿勢を制御することが可能とされている。また、その翼部は、車幅方向の中央を挟んで2つに分割されており、右側翼部の迎え角と左側翼部の迎え角とを独立して制御することで、車体の左右方向の姿勢をも制御することが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−168636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のシステムは、車両の走行に伴って生じる空気の流れを利用するものであるため、ある程度の速度で走行する場合に有効である。しかしながら、低速で走行する場合や、車両を制動させる場合には、ダウンフォースが小さいため、車体の姿勢を安定させることは難しいと考えられる。上述したように、従来から、車体の姿勢を安定させるために、種々の検討がなされているが、未だ検討する余地が残されている。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、車体の姿勢を安定させるための他の手法を提供すること、換言すれば、車体の傾動を抑制するためのシステムとして実用的な車体傾動抑制システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の車体傾動抑制システムは、(A)車体に保持されて設定方向に移動可能とされた質量体と、(B)車体に支持されて質量体を動かすアクチュエータと、(C)そのアクチュエータを制御する制御装置とを備え、車体の傾動によって設定方向の傾きが生じる際に、アクチュエータを制御して、質量体にそれを設定方向に動かす力を付与することで、その質量体の慣性質量に応じた反作用力を車体に作用させ、車体の設定方向の傾きを抑制するように構成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の車体傾動抑制システムにおいては、車体に支持されたアクチュエータによって質量体に設定方向の力を付与すすれば、車体にはその反作用力が作用し、車体を傾けようとする力が作用することになる。つまり、本発明の車体傾動抑制システムによれば、車体に設定方向の傾きが生じる際に、その傾きを打ち消す方向の力を作用させ、その車体の設定方向の傾きを抑制することができ、車体の姿勢を安定させることが可能とされている。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の(1)項が請求項1に相当し、請求項1に(2)項に記載の発明特定事項を付加したものが請求項2に、請求項1または請求項2に(5)項に記載の発明特定事項を付加したものが請求項3に、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに(8)項に記載の発明特定事項を付加したものが請求項4に、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに(9)項および(10)項に記載の発明特定事項を付加したものが請求項5に、請求項1ないし請求項5のいずれか1つに(7)項に記載の発明特定事項を付加したものが請求項6に、請求項1ないし請求項6のいずれか1つに(11)項に記載の発明特定事項を付加したものが請求項7に、それぞれ相当する。
【0009】
(1)車体に保持されて設定方向に移動可能とされた質量体と、前記車体に支持されて前記質量体を動かすためのアクチュエータと、前記アクチュエータを制御する制御装置とを備え、
前記制御装置が、前記車体の傾動によって前記設定方向の傾きが生じる際に、前記アクチュエータを制御して、前記質量体にそれを前記設定方向に動かす力を付与するように構成されることで、その質量体の慣性質量に応じた反作用力を前記車体に作用させ、前記車体の前記設定方向の傾きを抑制するように構成された車体傾動抑制システム。
【0010】
本項に記載のシステムは、走行中の車体の姿勢を安定させるために、車体の傾動を抑制する車体傾動抑制システムである。本項に記載の車体傾動抑制システムは、車体の傾動を抑制するために、設定方向に移動可能に車体に保持された質量体に対し、車体に支持されたアクチュエータによって、それを動かす力を付与するように構成される。アクチュエータによって質量体を動かすには、その質量体の慣性質量に応じた力が必要である。一方、アクチュエータを支持する車体には、その質量体を動かす向きと逆向きの力が作用することになる。つまり、車体には、質量体の慣性質量に応じた反作用力が作用する。そして、その反作用力を利用して、設定方向において車体が傾いていく向きと逆向きに、車体を傾けるようにすることで、本システムは、車体の傾動による設定方向の傾きを抑制することができるのである。
【0011】
具体的に言えば、例えば、質量体が車体の上部に位置するように保持されている場合には、車体が傾いていく向きと同じ向きに、質量体を動かすことで、その車体の傾きを抑制することができる。一方、質量体が車体の下部に位置するように保持されている場合には、車体が傾いていく向きと逆向きに、質量体を動かすことで、その車体の傾きを抑制することができる。
【0012】
本項に記載のシステムは、車体の慣性質量に対する質量体の慣性質量の比が大きいほど、車体の傾動を抑制する効果は大きい。平たく言えば、質量体の慣性質量が大きいほど、あるいは、車体の慣性質量が小さいほど、車体の傾動を抑制する効果は大きいのである。したがって、本項のシステムは、車体の慣性質量が小さい、小型・軽量の車両に、特に有効である。
【0013】
なお、本項に記載の「車体の傾動によって設定方向の傾きが生じる際」とは、車体が実際に傾いてしまったときのみを意味するのではなく、車体が傾くことが予測されるときをも含む文言である。
【0014】
本項に記載の「質量体」は、例えば、設定方向として、定められた1つの直線方向にのみ移動可能なものとすることができる。そのような場合において、本項の態様では、設定方向が、「車体の傾動」する方向と必ずしも同じ方向である必要はない。換言すれば、設定方向が、車体の傾動する方向に対してある角度だけズレていてもよいのである。本項のシステムによれば、その車体の傾動における設定方向の成分、つまり、車体の傾動における設定方向の傾きを抑制することができるのである。なお、この質量体が定められた1つの直線方向にのみ移動可能である場合において、種々の方向への車体の傾動を抑制するためには、後に詳しく説明するが、少なくとも、互いに交差する2つの方向(4つの向き)に移動可能とされた2つの質量体を、当該システムが備えることが望ましい。
【0015】
また、本項に記載のシステムは、後に詳しく説明するが、質量体の移動可能な方向である設定方向を変更可能に構成されてもよい。そのような構成のシステムは、車体の傾動する方向に質量体を動かすことができるため、その車体の傾動を確実に抑制することが可能である。
【0016】
さらに、本項のシステムは、質量体を、車体の傾動時の中心位置からの距離を変更するような構成とすることができる。そのような構成とすれば、質量体の慣性モーメントが大きくなるため、車体の傾動を抑制する効果をより大きくすることが可能である。
【0017】
ちなみに、本項に記載の「アクチュエータ」は、その構造,構成が特に限定されず、質量体の形状や設定方向の変更の有無等に応じて、適切なものを採用することができる。
【0018】
(2)前記質量体が、前記設定方向として前記車体の前後方向に移動可能とされ、
前記制御装置が、前記車体にピッチが生じる際に、前記質量体を動かすように前記アクチュエータを制御し、
当該車体傾動抑制システムが、前記車体のピッチを抑制するように構成された(1)項に記載の車体傾動抑制システム。
【0019】
本項に記載の態様は、質量体の移動可能な方向に限定が加えられ、質量体が前後方向に移動可能とされている。つまり、本項に記載のシステムは、アクチュエータによって質量体を前後方向に動かすことで、車体を前後方向に傾けるようにすることができる。したがって、本項のシステムによれば、車体にピッチ動作が生じるときに質量体を動かすことで、その車体のピッチ動作を抑制することができるのである。
【0020】
(3)前記制御装置が、
運転者のブレーキ操作によって前記車体に生じることになる前後加速度が閾値を超えるときに、前記質量体を動かすように前記アクチュエータを制御する(2)項に記載の車体傾動抑制システム。
【0021】
(4)前記制御装置が、
運転者のアクセル操作によって前記車体に生じることになる前後加速度が閾値を超えるときに、前記質量体を動かすように、前記アクチュエータを制御する(2)項または(3)項に記載の車体傾動抑制システム。
【0022】
上記2つの項に記載の態様は、質量体の移動方向が前後方向に限定された態様において、その質量体を移動させるタイミングが限定されている。なお、前者の態様によれば、ノーズダイブを抑制することが可能であり、後者の態様によれば、スクウォートを抑制することが可能である。
【0023】
(5)前記質量体が、前記設定方向として前記車体の左右方向に移動可能とされ、
前記制御装置が、前記車体にロールが生じる際に、前記質量体を動かすように前記アクチュエータを制御し、
当該車体傾動抑制システムが、前記車体のロールを抑制するように構成された(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の車体傾動抑制システム。
【0024】
本項に記載の態様は、質量体の移動可能な方向に限定が加えられ、質量体が車幅方向に移動可能とされている。つまり、本項に記載のシステムは、アクチュエータによって質量体を左右方向に動かすことで、車体を左右方向に傾けるようにすることができる。したがって、本項のシステムによれば、車体にロール動作が生じるときに質量体を動かすことで、その車体のロール動作を抑制することができるのである。
【0025】
(6)前記制御装置が、
運転者のステアリング操作によって前記車体に生じることになる横加速度が閾値を超えるときに、前記質量体を動かすように前記アクチュエータを制御する(5)項に記載の車体傾動抑制システム。
【0026】
本項に記載の態様は、質量体の移動方向が車幅方向に限定された態様において、その質量体を移動させるタイミングが限定されている。本項の態様によれば、車両の旋回時のロールを抑制することが可能であり、特に、障害物等を回避するための急なステアリング操作などの際に、特に有効である。
【0027】
(7)前記制御装置が、
前記車体に生じている前記設定方向の加速度が閾値を超えるときに、前記質量体を動かすように前記アクチュエータを制御する(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載の車体傾動抑制システム。
【0028】
本項に記載の態様は、車体に実際に生じている加速度が大きくなったときに、質量体を動かすように構成される。本項の態様は、例えば、強風等によって車体が傾動するときに、その傾動を抑制することができるのである。
【0029】
(8)当該車体傾動抑制システムが、
それぞれが前記質量体であり、それぞれに設定された前記設定方向が互いに交差する方向とされた複数の質量体と、
それぞれが前記アクチュエータであり、前記複数の質量体の各々に対応して設けられた複数のアクチュエータと
を備え、
前記制御装置が、
前記複数のアクチュエータの各々を、その各々に対応する前記質量体に設定された前記設定方向に傾きが生じている際に、その各々に対応する前記質量体を動かすように制御する(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の車体傾動抑制システム。
【0030】
本項に記載のシステムは、複数の質量体と、それらの各々に対応する複数のアクチュエータとを備えたものとされ、複数の質量体の各々の設定方向が互いに交差する方向とされている。つまり、車体の傾動する向きが設定方向とズレている場合であっても、複数の質量体のうちのいくつかを一緒に動かすようにすることで、その車体の傾動を抑制することが可能となるのである。
【0031】
具体的に言えば、本項の態様は、例えば、互いに交差する2本の設定方向に移動可能な質量体を備えたものとすることができる。2本の設定方向の各々における両側の向きに移動可能な質量体、つまり、それら4つの向きに移動可能な質量体があれば、車体の傾動がいずれの向きであっても、それら4つの向きのうちの少なくとも2つの向きに2つの質量体を動かすことによって、その傾動を抑制することが可能である。
【0032】
(9)当該車体傾動抑制システムが、前記質量体の移動可能な方向である前記設定方向を変更可能に構成された(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の車体傾動抑制システム。
【0033】
(10)前記制御装置が、
前記設定方向を前記車体の傾動する方向に変更し、前記質量体をその車体の傾動する方向に動かすように、前記アクチュエータを制御する(9)項に記載の車体傾動抑制システム。
【0034】
上記2つの項に記載の態様は、先に述べたように、質量体が移動する方向を変更可能に構成されている。本項の態様は、例えば、質量体と、その質量体を設定方向に移動可能に保持する保持具とを、車体の上下方向に延びる軸線回りに回転させるような構成とすることができる。後者の態様によれば、先にも述べたように、車体の傾動する方向に質量体を動かすことができるため、その車体の傾動を確実に抑制することが可能である。
【0035】
(11)前記質量体が、前記車体の上部に位置するように保持され、
前記制御装置が、
前記車体の傾動によって前記設定方向の傾きが生じる際に、前記設定方向において前記車体が傾いていく向きと同じ向きに前記質量体を動かすように、前記アクチュエータを制御する(1)項ないし(10)項のいずれか1つに記載の車体傾動抑制システム。
【0036】
本項に記載の態様は、質量体の保持される位置に限定が加えられている。車体が傾動する際の中心が車体の比較的下方に位置するような場合には、車体の上部に位置する質量体の慣性モーメントが、車体の下部に位置する質量体の慣性モーメントに比較して大きいため、本項の態様によれば、そのような場合に、効果的に車体の傾きを抑制することが可能となる。
【0037】
(12)当該車体傾動抑制システムが、
自身の前方部に配置された単一の前輪と、その前輪より後方において自身の左右にそれぞれ配置された左輪および右輪と、前記左輪および前記右輪よりも後方に配置された単一の後輪とを有する車両に搭載された(1)項ないし(11)項のいずれか1つに記載の車体傾動抑制システム。
【0038】
本項に記載の態様においては、車体傾動抑制システムが、4つの車輪が菱形状に配置された車両である車輪菱形配置車両に搭載されている。その車輪菱形配置車両は、車輪がそのような配置とされていることから、上方からの視点において丸みをおびた形状とし易い。つまり、車輪が四隅に配置された一般的な車両(トレッドおよびホイールベースが同じ長さとしたもの)と比較すると、車体が車体の質量が小さくなることになる。したがって、先に述べたように、本車体傾動抑制システムは、車体の慣性質量が小さな車両に有効であるため、この車輪菱形配置車両にも有効である。
【0039】
上記の車輪四隅配置車両が、車体が傾動する際に、2つの車輪に加わる荷重が大きくなるのに対して、車輪菱形配置車両は、4つのうちのいずれか1つの車輪に加わる荷重が比較的大きくなる。例えば、その車輪に対応するサスペンション装置によって車体の傾動に対する抵抗力を発生させれば、車体の傾動を抑制することは可能であるが、その車輪に加わる荷重はさらに大きくなってしまう。それに対して、本車体傾動抑制システムによれば、上記の4つのうちのいずれか1つの車輪に加わる荷重を大きくすることなく、車体の傾動を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】請求可能発明の第1実施例である車体傾動抑制システムが搭載された車両の概略側面図である。
【図2】図1に示す車体傾動抑制システムが搭載された車両の概略平面図である。
【図3】第1実施例である車体傾動抑制システムの主体となる質量体可動装置を示す平面図である。
【図4】図3に示す質量体可動装置を示す断面図(図3におけるA−A断面)である。
【図5】第1実施例である車体傾動抑制システムの、ブレーキ操作により生じるノーズダイブを抑制する際の作動を示す図である。
【図6】第1実施例である車体傾動抑制システムの、アクセル操作により生じるスクウォートを抑制する際の作動を示す図である。
【図7】第1実施例である車体傾動抑制システムの、ステアリング操作により生じるロールを抑制する際の作動を示す図である。
【図8】第1実施例である車体傾動抑制システムの、強風により生じる車体の傾動を抑制する際の作動を示す図である。
【図9】第1実施例である車体傾動抑制システムが備える制御装置によって実行される前後方向傾動抑制プログラムを表すフローチャートである。
【図10】第1実施例である車体傾動抑制システムが備える制御装置によって実行される左右方向傾動抑制プログラムを表すフローチャートである。
【図11】第2実施例である車体傾動抑制システムの主体となる質量体可動装置を示す平面図である。
【図12】図11に示す質量体可動装置を示す断面図である。
【図13】第2実施例である車体傾動抑制システムの作動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、請求可能発明の代表的な実施形態を、いくつかの実施例として、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例1】
【0042】
<車体傾動抑制システムの構成>
図1,2に、第1実施例の車体傾動抑制システムが搭載された車両を示す。本車両は、4つの車輪が菱形状に配置された車輪菱形配置車両であり、次世代コミュータとして期待されている。本車両は、車体10と、それの前方部に設けられた前輪12Fと、その前輪12Fの後方において車体10の左部,右部にそれぞれ設けられた左輪12ML,右輪12MRと、それら左輪12ML,右輪12MRの後方に設けられた後輪12Rとを有している。当該車両の平面視を示す図2から解るように、前輪12F,後輪12Rは、車幅方向における中央に配設されている。なお、以下の説明において、前輪12F,後輪12Rの区別を要しない場合には、車輪12と総称し、左輪14ML,右輪14MRの区別を要しない場合には、車輪14と総称することとする。前輪12F,後輪12R,左輪14ML,右輪14MRに関係する構成要素,パラメータ等についても、車輪12,14と同様に、車輪位置を示す添え字として、前輪,左輪,右輪,後輪の各々に対応するものにF,ML,MR,Rを付す場合がある。
【0043】
本車両には、運転者が当該車両を操作するための操作部材として、3つの操作部材が設けられている。その1つが、車両に旋回動作を行わせるためのステアリング操作部材であるステアリングホイール20であり、もう1つが、車両を加速させるためのアクセル操作部材であるアクセルペダル22,さらにもう1つが、車両を減速させるためのブレーキ操作部材であるブレーキペダル24である。
【0044】
ちなみに、本車両では、前輪12F,後輪12Rが転舵輪とされており、左輪14ML,右輪14MRは転舵輪とはされていない。また、左輪14ML,右輪14MRが駆動輪(車両を駆動するために回転駆動される車輪)とされてはいるものの、前輪12F,後輪12Rは、駆動輪とはされていない。さらに、前輪12F,左輪14ML,右輪14MR,後輪12Rが、つまり、すべての車輪が制動輪(車両を制動するために回転が制動される車輪)とされている。
【0045】
本実施例の車体傾動抑制システムは、車体10のルーフ30に設けられた質量体可動装置40を主体とするものである。その質量体可動装置40について、それの平面図である図3と、それの正面断面図である図4とを参照しつつ説明する。質量体可動装置40は、4つの質量体42Fr,42Re,42Ri,42Leを有してる。それら4つの質量体42のうちの2つのもの42Fr,42Reは、設定方向が車体10の前後方向に定められており、その前後方向に移動可能に保持されている。また、残りの2つのもの42Ri,42Leは、設定方向が車体10の左右方向(車幅方向)に定められており、その左右方向に移動可能に保持されている。なお、以下の説明において、4つの質量体42の各々を、配置される位置に応じて、前側質量体42Fr,後側質量体42Re,右側質量体Ri,左側質量体Leと、呼ぶ場合がある。
【0046】
具体的には、ルーフ30には、車体10の前後方向に延びる1対のガイドレール50が設けられている。それら1対のガイドレール50には、質量体42Fr,42Reが渡された状態で保持されており、質量体42Fr,42Reの各々が、1対のガイドレール50に沿って移動し、前後方向に移動可能とされている。なお、質量体42Frが、質量体42Reの前方に位置する状態で保持されいてる。1対のガイドレール50の各々は、図4に示すように、断面がコの字状とされ、互いに向かい合う面が開口する状態で設けられている。そして、そのガイドレール50の内側には、ステータとしての磁石52が固定されている。一方、質量体42Fr,42Reの各々には、その各々の両端部に、ガイドレール50の内部に収まる状態で、可動子としての電磁コイル54が固定されている。つまり、それらガイドレール50,磁石52および電磁コイル54を含んで、リニアモータ60が構成されており、そのリニアモータ60によって、質量体42Fr,42Reの各々が前後方向に移動させられるようになっている。なお、前側質量体42Frに対応するものをリニアモータ60Frと、後側質量体42Reに対応するものをリニアモータ60Reと、添え字を付す場合がある。ちなみに、質量体42Fr,42Reの各々には、その各々両端部に、ガイドレール50の内部に収まる状態でガイドローラ62が設けられており、そのガイドローラ62によって、質量体42Fr,42Reのガイドレール50に沿った円滑な移動が担保されるようになっている。
【0047】
また、ルーフ30には、上記の1対のガイドレール50の車幅方向における右側に、右方に向かって延びる1対のガイドレール70が設けられるとともに、1対のガイドレール50の車幅方向における左側に、左方に向かって延びる1対のガイドレール72が設けられている。右側の1対のガイドレール70には、右側質量体42Riが渡された状態で保持されており、その右側質量体42Riが、1対のガイドレール70に沿って移動し、左右方向に移動可能とされている。また、左側の1対のガイドレール72には、左側質量体42Leが渡された状態で保持されており、その左側質量体42Leが、1対のガイドレール72に沿って移動し、左右方向に移動可能とされている。なお、それら質量体42Ri,42Leの各々も、上記リニアモータ60と同様の構成とされたリニアモータ74Ri,74Leによって、左右方向に移動させられるようになっている。
【0048】
以上のような構成から、4つのリニアモータ60Fr,60Re,74Ri,74Leの各々が、質量体42を動かすアクチュエータとして機能するものとなっている。つまり、質量体可動装置40は、4つの質量体42と、それらの各々に対応する4つのアクチュエータとしてのリニアモータ60Fr,60Re,74Ri,74Leとを含んで構成されている。
【0049】
<車体傾動抑制システムの作動>
本車体傾動抑制システムは、制御装置としての電子制御ユニット(以下、「ECU」と略す)100を備えている。本システムは、そのECU100によって、上記の質量体可動装置40を、詳しく言えば、4つのリニアモータ60Fr,60Re,74Ri,74Leを制御することで、車体10の傾動を抑制するように構成されている。なお、本車体傾動抑制システムは、制御のためのパラメータを取得するデバイスとして、種々のセンサを備えている。具体的には、ステアリングホイール20の操作角θを検出するためのステアリングセンサ[θ]102、アクセルペダル22の操作量aOを検出するためのアクセルセンサ[aO]104、ブレーキペダル24の操作量bOを検出するためのブレーキセンサ[bO]106、車体に生じている実際の前後加速度Gxrを検出するための前後加速度センサ[Gx]108、車体に生じている実際の横加速度Gyrを検出するための横加速度センサ[Gy]110が、車体に設けられており、それらのセンサがECU100に接続されている。
【0050】
本車体傾動抑制システムは、車体10が傾動すると予測される場合にその傾動を抑制するとともに、車体10が実際に傾動している場合にそれ以上の傾動を抑制するように構成される。具体的には、まず、運転者のブレーキ操作によって車体10に生じるピッチ動作であるノーズダイブを抑制するように構成される。車体10がノーズダイブする場合には、車体10を後方に向かって傾けるようにすることで、そのノーズダイブを抑制することができる。そのため、本システムにおいては、図5に示すように、リニアモータ60Frを制御して、前側質量体42Frを前向きに高速で移動させるのである。
【0051】
前側質量体42Frを移動させるには、その前側質量体42Frの慣性質量に応じた力が必要となる。一方、リニアモータ60Frを支持する車体10には、その前側質量体42Frを動かす向きと逆向きの力(後ろ向きの力)が作用することになる。つまり、車体10には、前側質量体42Frの慣性質量に応じた反作用力が作用する。そして、その反作用力によって、車体10が前方に向かって傾いていくのに対して、車体10には後方に向かって傾けるモーメントが作用することになる。このようにして、本システムは、ノーズダイブを抑制するようになっている。
【0052】
なお、本システムにおいては、運転者のブレーキ操作によって車体10に生じることになる前後加速度がそれの閾値を超えた場合に、ノーズダイブを抑制すべく、前側質量体42Frを前向きに移動させるようになっている。運転者のブレーキ操作によって車体10に生じることになる前後加速度は、ブレーキペダル24の操作量bOに基づいて推定される。そして、その推定前後加速度Gxe(前向きが正の値である)が閾値Gx_bを超えた場合に、リニアモータ60Frを制御して、前側質量体42Frを前向きに移動させるようになっている。
【0053】
また、本システムは、運転者のアクセル操作によって車体10に生じるピッチ動作であるスクウォートを抑制するように構成される。車体10がスクウォートする場合には、車体10を前方に向かって傾けるようにすることで、そのスクウォートを抑制することができる。そのため、本システムにおいては、図6に示すように、リニアモータ60Reを制御して、後側質量体42Reを後向きに高速で移動させる。つまり、車体10には、後側質量体42Reの慣性質量に応じた前向きの反作用力が作用し、その反作用力によって、車体10が後方に向かって傾いていくのに対して、車体10には前方に向かって傾けるモーメントが作用することになる。このようにして、本システムは、スクウォートを抑制するようになっている。
【0054】
本システムにおいては、運転者のアクセル操作によって車体10に生じることになる前後加速度がそれの閾値を超えた場合に、スクウォートを抑制すべく、後側質量体42Reを後向きに移動させる。運転者のアクセル操作によって車体10に生じることになる前後加速度は、アクセルペダル22の操作量aOに基づいて推定される。そして、その推定前後加速度Gxe(負の値である)が閾値Gx_a(負の値である)を下回った場合に、リニアモータ60Reを制御して、後側質量体42Reを後向きに移動させるようになっている。
【0055】
さらに、本システムは、運転者のステアリング操作によって車体10に生じるロールを抑制するように構成される。車体10は、運転者のステアリング操作によって旋回方向外側に向かって傾くようにロールするため、車体10を旋回方向内側に向かって傾けるようにすることで、そのステアリング操作によるロールを抑制することができる。そのため、本システムにおいては、図7に示すように、右側質量体42Riあるいは左側質量体Leを旋回方向外側に向かって移動させる。具体的に言えば、右旋回時には、リニアモータ74Leを制御して、左側質量体42Leを左向きに高速で移動させ、左旋回時には、リニアモータ74Riを制御して、右側質量体42Riを右向きに高速で移動させる。つまり、車体10には、旋回方向内側に向かう向きの反作用力が作用し、その反作用力によって、車体10が旋回方向外側に向かって傾いていくのに対して、車体10には旋回方向内側に向かって傾けるモーメントが作用することになる。このようにして、本システムは、ステアリング操作によるロールを抑制するようになっている。
【0056】
本システムにおいては、運転者のステアリング操作によって車体10に生じることになる横加速度がそれの閾値を超えた場合に、そのステアリング操作によるロールを抑制すべく、右側質量体42Riあるいは左側質量体Leを旋回方向外側に向かって移動させる。運転者のアクセル操作によって車体10に生じることになる横加速度は、ステアリングホイール20の操作角θに基づいて推定される。そして、右旋回時において、その推定横加速度Gye(左向きが正の値である)が閾値Gy0を超えた場合に、リニアモータ60Leを制御して、左側質量体42Leを左向きに移動させる。また、左旋回時において、推定横加速度Gye(負の値である)が閾値−Gy0を下回った場合に、リニアモータ60Riを制御して、右側質量体42Riを右向きに移動させる。
【0057】
本システムは、また、強風等によって車体10が傾動していくときに、その傾動を抑制するように構成される。具体的には、前後加速度センサ108によって検出された実前後加速度Gxrと、横加速度センサ110によって検出された実横加速度Gyrとに基づいて、強風等によって車体10が傾動しているか否かを判定する。詳しく言えば、検出された実前後加速度Gxrの大きさが閾値Gxr0を超えた場合に、強風によって、車体10に前後方向の傾きが生じていると判定される。そして、前方からの風(斜め前方からの風も含む)によって、車体10が後方に向かって傾いていくときには、後側質量体42Reを後向きに移動させ、後方からの風(斜め後方からの風も含む)によって、車体10が前方に向かって傾いていくときには、前側質量体42Frを前向きに移動させる。また、検出された実横加速度Gyrの大きさが閾値Gyr0を超えた場合に、強風によって、車体10に左右方向の傾きが生じていると判定される。そして、左側からの風(斜めからの風も含む)によって、車体10が右側に向かって傾いていくときには、左側質量体42Leを左向きに移動させ、右側からの風(斜めからの風も含む)によって、車体10が左側に向かって傾いていくときには、右側質量体42Riを右向きに移動させる。このようにして、本システムは、強風等による車体10の傾動を抑制するようになっている。なお、図8には、右斜め前方からの風による車体10の傾動を抑制する場合と、左斜め後方からの風による車体10の傾動を抑制する場合との平面図を示す。
【0058】
以上のように、本車体傾動抑制システムによれば、車体10の傾動を抑制して、走行中の車体10の姿勢を安定させることが可能である。なお、本車両は、車輪菱形配置車両とされて、車輪が四隅に配置された一般的な車両(トレッドおよびホイールベースが同じ長さとしたもの)と比較すると、車体10の質量が小さくなっている。本システムは、車体10の慣性質量に対する質量体42の慣性質量の比が大きいほど、車体10の傾動を抑制する効果は大きい。したがって、本システムは、車体10の慣性質量が小さいため、特に有効なものとなっている。
【0059】
ちなみに、本システムにおいては、車体10の傾動を抑制するために、質量体42を移動させた場合において、その質量体42の移動を止めるときには、車体10に作用する反作用力が小さくなるように、比較的緩やかに止めていくようにされるとともに、元の位置に戻すときにも、車体10に作用する反作用力が小さくなるように、比較的ゆっくりと移動させるようになっている。
【0060】
<制御プログラム>
上述した質量体可動装置40の作動、詳しくは、リニアモータ60の作動の制御が、図9にフローチャートを示す前後方向傾動抑制プログラムが、イグニッションスイッチがON状態とされている間、短い時間間隔(例えば、数msec)をおいてECU100により繰り返し実行されることによって行われる。また、リニアモータ74の作動の制御が、図10にフローチャートを示す左右方向傾動抑制プログラムが、上記前後方向傾動抑制プログラムと同様に、ECU100により繰り返し実行されることによって行われる。以下に、それら制御のフローを、図に示すフローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。
【0061】
図9にフローチャートを示す前後方向傾動抑制プログラムによる処理では、まず、ステップ1(以下、「S1」と略す、他のステップも同様である)において、前後加速度センサ108によって検出された実前後加速度Gxrが取得される。次いで、S2において、その実前後加速度Gxrが閾値Gxr0を超えたか否かが判定される。そして、実前後加速度Gxrが閾値Gxr0を超えた場合に、強風等によって車体10が前向きに傾いていると判定され、S3において、前側質量体42Frを前向きに移動させるべく、リニアモータ60Frが制御される。また、S4において、実前後加速度Gxrが閾値−Gxr0を下回ったか否かが判定される。実前後加速度Gxrが閾値−Gxr0を下回った場合に、強風等によって車体10が後向きに傾いていると判定され、S5において、後側質量体42Reを後向きに移動させるべく、リニアモータ60Reが制御される。
【0062】
実前後加速度Gxrの大きさが閾値Gxr0を超えなかった場合には、S6において、アクセル操作量a0,ブレーキ操作量b0に基づいて、アクセル操作あるいはブレーキ操作によって車体10に生じることになる前後加速度Gxeが推定される。次いで、S7において、その推定前後加速度Gxeが閾値Gx_bを超えたか否かが判定される。推定前後加速度Gxeが閾値Gx_bを超えた場合には、ブレーキ操作によるノーズダイブを抑制すべく、S3において、前側質量体42Frを前向きに移動させるべく、リニアモータ60Frが制御される。また、S8において、推定前後加速度Gxeが閾値Gx_aを下回ったか否かが判定される。推定前後加速度Gxeが閾値Gx_aを下回った場合には、アクセル操作によるスクウォートを抑制すべく、S5において、後側質量体42Reを後向きに移動させるべく、リニアモータ60Reが制御される。以上で、前後方向傾動抑制プログラムの1回の実行が終了する。
【0063】
図10にフローチャートを示す左右方向傾動抑制プログラムによる処理では、まず、S11において、横加速度センサ110によって検出された実横加速度Gyrが取得される。次いで、S12において、その実横加速度Gyrが閾値Gyr0を超えたか否かが判定される。そして、実横加速度Gyrが閾値Gyr0を超えた場合に、強風等によって車体10が左向きに傾いていると判定され、S13において、左側質量体42Leを左向きに移動させるべく、リニアモータ74Leが制御される。また、S14において、実横加速度Gyrが閾値−Gyr0を下回ったか否かが判定される。実横加速度Gyrが閾値−Gyr0を下回った場合に、強風等によって車体10が右向きに傾いていると判定され、S15において、右側質量体42Riを右向きに移動させるべく、リニアモータ74Riが制御される。
【0064】
実横加速度Gyrの大きさが閾値Gyr0を超えなかった場合には、S16において、ステアリング操作量θに基づいて、ステアリング操作によって車体10に生じることになる横加速度Gyeが推定される。次いで、S17において、その推定横加速度Gyeが閾値Gy0を超えたか否かが判定される。推定横加速度Gyeが閾値Gy0を超えた場合には、右旋回による車体10の左向きのロールを抑制すべく、S13において、左側質量体42Leを左向きに移動させるべく、リニアモータ74Leが制御される。また、S18において、推定横加速度Gyeが閾値−Gy0を下回ったか否かが判定される。推定横加速度Gyeが閾値−Gy0を下回った場合には、左旋回による車体10の右向きのロールを抑制すべく、S15において、右側質量体42Riを右向きに移動させるべく、リニアモータ74Riが制御される。以上で、左右方向傾動抑制プログラムの1回の実行が終了する。
【実施例2】
【0065】
図11,12に、第2実施例の車体傾動抑制システムを示す。図11は、その車体傾動抑制システムの主体となる質量体可動装置150の平面図であり、図12は、それの断面図である。本実施例の車体傾動抑制システムの説明においては、第1実施例のシステムと同じ構成要素については、同じ符号を用いて対応するものであることを示し、それらの説明は省略するあるいは簡略に行うものとする。
【0066】
第1実施例の質量体可動装置40は、4つの質量体42を有するものとされていたが、本実施例の質量体可動装置150は、単一の質量体152を有するものとされている。ただし、質量体可動装置150は、その単一の質量体152の移動可能な方向である設定方向を変更することが可能に構成されており、任意の方向に質量体152を移動させることが可能とされている。以下に、その質量体可動装置150の構成について、詳しく説明する。
【0067】
車体10のルーフ30には、質量体152を保持するための質量体保持具160(以下、単に「保持具160」という場合がある)が設けられている。その保持具160は、ルーフ30に固定された回転軸162回りに回転可能とされている。その回転軸162の外周面には、複数のコイル164が保持されている。一方、保持具160に形成された上方への突出部166には、それの内周面に沿って、複数の磁石168が配設されている。それら、複数のコイル164および複数の磁石168は互いに向かい合っており、それらは、ブラシレスDCモータ170を構成するものとなっている。つまり、保持具160は、そのブラシレスDCモータ170によって回転させられるようになっている。
【0068】
保持具160は、それの下面に、1対のガイドレール180が固定されている。それら1対のガイドレール180には、質量体152が渡された状態で保持されており、質量体152が、1対のガイドレール180に沿って移動可能とされている。また、質量体152は、第1実施例のリニアモータ60と同様の構成とされたアクチュエータとしてのリニアモータ182によって、移動させられるようになっている。
【0069】
以上のような構成から、質量体可動装置150は、ブラシレスDCモータ170によって保持具160を任意の位置まで回転させ、その後、リニアモータ182によって質量体152を移動させることができる。つまり、本実施例の車体傾動抑制システムは、質量体152の移動可能な方向である設定方向を、ブラシレスDCモータ170によって変更することが可能に構成されており、任意の方向に質量体152を移動させることが可能とされているのである。
【0070】
本実施例の車体傾動抑制システムは、質量体152を任意の方向に移動可能に構成されていることから、ECU100は、まず、車体10が傾動する際には、ブラシレスDCモータ170を制御して、1対のガイドレール180が延びる方向、つまり、設定方向を、車体10の傾動する方向に合わせる。その後、リニアモータ182を制御して、車体10が傾動する向きに、質量体152を高速で移動させるのである。そのことにより、本システムは、車体10傾動する向きと逆向きのモーメントを車体10に作用させ、車体10の傾動を抑制するようになっている。
【0071】
詳しくは、ECU100は、まず、ECU100は、前後加速度センサ108によって検出された実前後加速度Gxrと、横加速度センサ108によって検出された実横加速度Gyrとを合成し、車体10に生じている実際の加速度Gr(加速度ベクトルである)を求める。そして、ECU100は、図13に示すように、その求められた加速度Grの大きさが閾値を超えたときに、強風等によって車体10にその加速度Grの向きの傾動が生じていると推定し、その加速度Grの向きに質量体152を移動させるように、質量体可動装置150の作動を制御するようになっている。
【0072】
また、運転者のブレーキ操作あるいはアクセル操作によって車体10に生じることになる前後加速度と、運転者のステアリング操作によって車体10に生じることになる横加速度とを合成し、車体10に生じることになる加速度(加速度ベクトルである)を推定する。そして、ECU100は、その推定された加速度の大きさが閾値を超えたときに、その加速度の向きに質量体152を移動させるように、質量体可動装置150の作動を制御するようになっている。
【0073】
本実施例の車体傾動抑制システムは、車体10の傾動の方向と、質量体152を移動させる方向とを一致させることが可能であることから、その車体10の傾動を確実に抑制して、走行中の車体10の姿勢をより安定させることが可能となっている。
【符号の説明】
【0074】
10:車体 12F:前輪 12R:後輪 14ML:左輪 14MR:右輪 20:ステアリングホイール 22:アクセルペダル 24:ブレーキペダル 30:ルーフ(車体の上部) 40:質量体可動装置 42Fr:前側質量体 42Re:後側質量体 42Ri:右側質量体 42Le:左側質量体 50:ガイドレール 52:磁石 54:電磁コイル 60Fr,60Re:リニアモータ(アクチュエータ) 74Ri,74Le:リニアモータ(アクチュエータ) 100:電子制御ユニット(制御装置) 102:ステアリングセンサ 104:アクセルセンサ 106:ブレーキセンサ 108:前後加速度センサ 110:横加速度センサ 150:質量体可動装置 152:質量体 160:質量体保持具 170:ブラシレスDCモータ 182:リニアモータ(アクチュエータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に保持されて設定方向に移動可能とされた質量体と、前記車体に支持されて前記質量体を動かすためのアクチュエータと、前記アクチュエータを制御する制御装置とを備え、
前記制御装置が、前記車体の傾動によって前記設定方向の傾きが生じる際に、前記アクチュエータを制御して、前記質量体にそれを前記設定方向に動かす力を付与するように構成されることで、その質量体の慣性質量に応じた反作用力を前記車体に作用させ、前記車体の前記設定方向の傾きを抑制するように構成された車体傾動抑制システム。
【請求項2】
前記質量体が、前記設定方向として前記車体の前後方向に移動可能とされ、
前記制御装置が、前記車体にピッチが生じる際に、前記質量体を動かすように前記アクチュエータを制御し、
当該車体傾動抑制システムが、前記車体のピッチを抑制するように構成された請求項1に記載の車体傾動抑制システム。
【請求項3】
前記質量体が、前記設定方向として前記車体の左右方向に移動可能とされ、
前記制御装置が、前記車体にロールが生じる際に、前記質量体を動かすように前記アクチュエータを制御し、
当該車体傾動抑制システムが、前記車体のロールを抑制するように構成された請求項1または請求項2に記載の車体傾動抑制システム。
【請求項4】
当該車体傾動抑制システムが、
それぞれが前記質量体であり、それぞれに設定された前記設定方向が互いに交差する方向とされた複数の質量体と、
それぞれが前記アクチュエータであり、前記複数の質量体の各々に対応して設けられた複数のアクチュエータと
を備え、
前記制御装置が、
前記複数のアクチュエータの各々を、その各々に対応する前記質量体に設定された前記設定方向に傾きが生じている際に、その各々に対応する前記質量体を動かすように制御する請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の車体傾動抑制システム。
【請求項5】
当該車体傾動抑制システムが、
前記質量体の移動可能な方向である前記設定方向を変更可能に構成され、
前記制御装置が、
前記設定方向を前記車体の傾動する方向に変更し、前記質量体をその車体の傾動する方向に動かすように、前記アクチュエータを制御する請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の車体傾動抑制システム。
【請求項6】
前記制御装置が、
前記車体に生じている前記設定方向の加速度が閾値を超えるときに、前記質量体を動かすように前記アクチュエータを制御する請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の車体傾動抑制システム。
【請求項7】
前記質量体が、前記車体の上部に位置するように保持され、
前記制御装置が、
前記車体の傾動によって前記設定方向の傾きが生じる際に、前記設定方向において前記車体が傾いていく向きと同じ向きに前記質量体を動かすように、前記アクチュエータを制御する請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の車体傾動抑制システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−192771(P2012−192771A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56574(P2011−56574)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)