説明

車体振動の評価方法及び評価装置

【課題】走行中の車体振動の再現精度の更なる向上を図ることのできる車体振動の評価方法及び評価装置を提供する。
【解決手段】車体に搭載されるパワーユニット4の動作に応じて同パワーユニット4を弾性支持するマウント5〜8に作用する車両前後方向の荷重を求める工程と、その求められた車両前後方向の荷重と車両の駆動力と同車両の走行抵抗とに基づいて車体に作用する車両前後方向の加速度を演算する工程と、を備えて走行中の車体に発生する車両前後方向の振動を評価するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中の車体に発生する振動を評価するための車体振動の評価方法及び評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な有段変速機を搭載する車両の場合、変速は、変速機内に設けられたブレーキやクラッチの開放及び係合を通じて行われる。車両走行中の変速に際しては、車体の振動、いわゆる変速ショックが発生して、運転者に違和感を与えることがある。そのため、車両の設計に際しては、変速時の車体に働く加速度を求めつつ、変速機のブレーキやクラッチの開放や係合のタイミング等の適合を図ることで、問題の無いレベルまで変速ショックを低下させるようにしている。
【0003】
こうした変速機の適合に際しては、走行中の車体に作用する加速度の評価が必要となる。そこで従来、特許文献1には、車両のパワーユニット(エンジン及び変速機)を車両モデル上で動作させつつ、パワーユニットの過渡的な駆動力の変動を実測し、その結果に基づいて走行中の車両前後方向の加速度を評価することが提案されている。具体的には、同文献に記載の評価手法では、ベンチテーブル上に配設された車両のパワーユニットの出力軸に、車両走行中と同等の負荷を印加しながらパワーユニットを動作させ、同パワーユニットの駆動力の変動を実測するようにしている。そして実測された駆動力と走行中の車両の走行抵抗とから車体に作用する車両前後方向の力を求めるとともに、その求めた力を車体重量で除算することで、車両前後方向の加速度を演算するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−208105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両のパワーユニットは、複数のマウントによって弾性支持された状態で車体に取り付けられている。そして駆動力の変動などによりパワーユニットが振動すると、その振動は、マウントを介して車体に伝達され、それによっても車体が加振されることがある。しかしながら、上記従来の評価手法では、パワーユニット自体の振動の影響は全く考慮されておらず、パワーオンアップシフト時やキックダウン時のようなパワーユニットの振動が大きくなる状況では、演算結果と実車との乖離が大きくなってしまい、車体振動を十分な精度で再現できなくなっている。
【0006】
本発明は、こうした実状に鑑みてなされたものであって、その解決しようとする課題は、走行中の車体振動の再現精度の更なる向上を図ることのできる車体振動の評価方法及び評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果を記載する。
上記課題を解決するため、パワーユニットがマウントによって弾性支持された構成の車両を対象として走行中の車体振動を評価するための方法としての請求項1に記載の発明は、次の2つの工程を通じて車体振動の評価を行うようにしている。すなわち、車体に搭載されるパワーユニットの動作に応じて同パワーユニットを弾性支持するマウントに作用する荷重を求める工程と、その求められた荷重に基づいて車体に作用する加速度を演算する工程と、である。こうした本発明の車体振動の評価方法では、車体振動の評価に際して、まずパワーユニットの動作に応じてマウントに作用する荷重が求められる。そしてその求められた荷重に基づいて、車体に作用する加速度が演算されるようになる。こうした評価方法では、車体に作用する加速度の演算が、パワーユニットから車体への振動伝達を考慮して行われる。そのため、上記評価方法では、走行中の車体振動の再現精度の更なる向上を図ることができるようになる。
【0008】
また上記課題を解決するため、パワーユニットがマウントによって弾性支持された構成の車両を対象として走行中の車体振動を評価するための方法としての請求項2に記載の発明は、次の2つの工程を通じて車体振動の評価を行うようにしている。すなわち、車体に搭載されるパワーユニットの動作に応じて同パワーユニットを弾性支持するマウントに作用する車両前後方向の荷重を求める工程と、その求められた車両前後方向の荷重と車両の駆動力と同車両の走行抵抗とに基づいて車体に作用する車両前後方向の加速度を演算する工程と、である。こうした本発明の車体振動の評価方法では、車体振動の評価に際し、まずパワーユニットの動作に応じてマウントに作用する車両前後方向の荷重が求められる。そしてその求められた車両前後方向の荷重と車両の駆動力と車両の走行抵抗とに基づいて、車体に作用する車両前後方向の加速度が演算されるようになる。パワーユニットから車体への振動の伝達を考慮した場合、パワーユニットからマウントを介して車体に印加される車両前後方向の荷重と、車両の駆動力、すなわち車両を前進させるための推進力と、空気抵抗や路面抵抗などの走行抵抗とによって車体に印加される車両前後方向の荷重が決定されることになる。よってそれら荷重の合力を車体重量で除算すれば、車体に働く車両前後方向の加速度を求めることができる。この場合の車両前後方向の加速度の演算は、パワーユニットから車体への振動伝達を考慮して行われる。そのため、上記評価方法では、走行中の車体振動の再現精度の更なる向上を図ることができるようになる。
【0009】
ところで、パワーユニットは、車両走行中、車両加速度に応じた慣性力による押圧を受けている。例えば車両の加速時のパワーユニットは、慣性力により車両後方に押圧され、車両の減速時のパワーユニットは、慣性力により車両前方に押圧されている。そのため、パワーユニットからの振動の伝達が全く無い状況にあっても、車両走行中のマウントは、一定の荷重を受け、予撓みした状態となっている。一方、マウントは、非線形のばね特性を有している。そのため、予撓みが有るときと無いときとでは、パワーユニットの変位が同じでも、マウントが受ける荷重の大きさは異なるようになる。その点、請求項3に記載の評価方法では、車両加速度に応じた慣性力がパワーユニットに作用することでマウントが予撓みした状態を想定して車両前後方向の荷重を求めており、車両前後方向加速度の演算結果を実車により近づけることが可能である。
【0010】
なお、請求項4に記載のように、マウントに作用する車両前後方向の荷重は、マウントを介してベンチテーブル上にパワーユニットを配設するとともに、同パワーユニットの出力軸に車両走行中と同様の負荷を印加した状態で同パワーユニットを動作させながらマウントに作用する荷重を実測することで求めることができる。この場合、パワーユニットの実機を用いた試験を通じて車両走行中のマウントに作用する車両前後方向の荷重が求められるため、より正確な車体振動の評価を行うことができるようになる。なお、車両走行中のパワーユニットに作用する慣性力の影響を考慮するのであれば、請求項5によるように、車両加速度に応じた慣性力に相当する力をパワーユニットに印加することでマウントを予撓みさせた状態でマウントに作用する荷重の実測を行うようにすると良い。またこうしたマウントに作用する荷重の実測は、請求項6によるように、ロードセルを用いて行うことが可能である。
【0011】
また請求項7に記載のように、マウントに作用する車両前後方向の荷重は、マウントに印加される荷重と同マウントの撓みとの関係を表わしたマウントモデルと、パワーユニットの出力軸トルクとを用いて同パワーユニットの車両前後方向の振動を予測することで求めることも可能である。この場合、実機を用いた試験を行わずに、車両走行中のマウントに作用する車両前後方向の荷重を求めることができ、車体振動の評価をより簡易且つ速やかに行うことが可能となる。なお、車両走行中のパワーユニットに作用する車両加速度に応じた慣性力の影響を考慮するのであれば、請求項8によるように、マウントモデルを、車両加速度に応じた慣性力がパワーユニットに作用することでマウントが予撓みした状態に設定するようにしておくと良い。
【0012】
なお上記各評価方法における車体振動の評価は、請求項9のようなエンジンと変速機とにより構成されたパワーユニットを有する車両を対象として行うことが可能である。もっとも、それ以外にも、電気自動車におけるモーターを有した構成のパワーユニットや、ハイブリッド車両におけるエンジン、モーターを有した構成のパワーユニットなどを有する車両も、車体振動の評価の対象に含めることが可能である。
【0013】
上記課題を解決するため、パワーユニットがマウントによって弾性支持された車両を対象として走行中の車体振動を評価するための車体振動の評価装置としての請求項10に記載の発明は、車体に搭載されるパワーユニットの動作に応じて同パワーユニットを弾性支持するマウントに作用する荷重を算出する算出手段を備えている。また同発明の車体振動の評価装置は、上記算出手段により算出された荷重に基づいて車体に作用する加速度を演算する演算手段を備えてもいる。こうした構成では、車体振動の評価に際し、まずパワーユニットの動作に応じてマウントに作用する荷重が求められる。そしてその求められた荷重に基づいて、車体に働く加速度が演算されるようになる。この場合の加速度の演算は、パワーユニットから車体への振動伝達を考慮して行われる。そのため、上記構成では、走行中の車体振動の再現精度の更なる向上を図ることができるようになる。
【0014】
また上記課題を解決するため、パワーユニットがマウントによって弾性支持された構成の車両を対象としてその走行中の車体振動を評価するための車体振動の評価装置としての請求項11に記載の発明は、車体に搭載されるパワーユニットの動作に応じて同パワーユニットを弾性支持するマウントに作用する車両前後方向の荷重を算出する算出手段を備えている。また同発明の車体振動の評価装置は、その算出手段により算出された車両前後方向の荷重と車両の駆動力と車両の走行抵抗とに基づいて車体に作用する車両前後方向の加速度を演算する演算手段と、を備えてもいる。こうした構成では、車体振動の評価に際し、まずパワーユニットの動作に応じてマウントに作用する車両前後方向の荷重が求められる。そしてその求められた車両前後方向の荷重と車両の駆動力と車両の走行抵抗とに基づいて、車体に作用する車両前後方向の加速度が演算されるようになる。パワーユニットから車体への振動の伝達を考慮した場合、パワーユニットからマウントを介して車体に印加される車両前後方向の荷重と、車両の駆動力、すなわち車両を前進させるための推進力と、空気抵抗や路面抵抗などの走行抵抗とによって車体に印加される車両前後方向の荷重が決定されることになる。よってそれら荷重の合力を車体重量で除算すれば、車体に働く車両前後方向の加速度を求めることができる。この場合の車両前後方向の加速度の演算は、パワーユニットから車体への振動伝達を考慮して行われる。そのため、上記構成では、走行中の車体振動の再現精度の更なる向上を図ることができるようになる。
【0015】
上記のようにパワーユニットは、車両走行中、車両加速度に応じた慣性力による押圧を受けている。またマウントは、非線形のばね特性を有している。そのため、予撓みが有るときと無いときとでは、パワーユニットの変位が同じでも、マウントが受ける荷重の大きさは異なるようになる。その点、請求項12に記載の評価方法では、車両加速度に応じた慣性力が前記パワーユニットに作用することでマウントが予撓みした状態を想定して車両前後方向の荷重を算出するように算出手段を構成しており、車両前後方向加速度の演算結果を実車により近づけることが可能である。
【0016】
なお、請求項13によるように、マウントを介してベンチテーブル上に前記パワーユニットを配設した状態で、同パワーユニットの出力軸に車両走行中と同様の負荷を印加した状態で同パワーユニットを動作させながら前記マウントに作用する荷重を実測した結果から、マウントに作用する車両前後方向の荷重を算出するように上記算出手段を構成することができる。この場合、パワーユニットの実機を用いた試験を通じて車両走行中のマウントに作用する車両前後方向の荷重が求められるため、より正確な車体振動の評価を行うことができるようになる。なお、車両走行中のパワーユニットに作用する車両加速度に応じた慣性力の影響を考慮する場合には、請求項14によるように、車両加速度に応じた慣性力に相当する力をパワーユニットに印加することでマウントを予撓みさせた状態でマウントに作用する荷重の実測を行うようにすると良い。またこうしたマウントに作用する荷重の実測は、請求項15によるように、ロードセルを用いて行うことが可能である。
【0017】
また請求項16によるように、マウントに印加される荷重と同マウントの撓みとの関係を表わしたマウントモデルと、前記パワーユニットの出力軸トルクとを用いてパワーユニットの車両前後方向の振動を予測することでマウントに作用する車両前後方向の荷重を算出するように上記算出手段を構成することもできる。この場合、実機を用いた試験を行わずに、車両走行中のマウントに作用する車両前後方向の荷重を求めることができ、車体振動の評価をより簡易且つ速やかに行うことが可能となる。なお、車両走行中のパワーユニットに作用する車両加速度に応じた慣性力の影響を考慮するのであれば、請求項17によるように、マウントモデルを、車両加速度に応じた慣性力がパワーユニットに作用することでマウントが予撓みした状態に設定するようにしておくと良い。
【0018】
なお上記各評価方法における車体振動の評価は、請求項18のようなエンジンと変速機とにより構成されたパワーユニットを有する車両を対象として行うことが可能である。もっとも、それ以外にも、電気自動車におけるモーターを有した構成のパワーユニットや、ハイブリッド車両におけるエンジン、モーターを有した構成のパワーユニットなどを有する車両も、車体振動の評価の対象に含めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態におけるマウント作用力の測定態様を模式的に示す略図。
【図2】同実施形態での車両前後方向加速度の演算態様を示すブロック図。
【図3】本発明の第2実施形態におけるマウント作用力の演算態様を模式的に示す略図。
【図4】本発明の第3実施形態におけるマウント作用力の測定態様を模式的に示す略図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の車体振動の評価方法及び評価装置を具体化した第1の実施の形態を、図1及び図2を参照して詳細に説明する。本実施の形態では、パワーユニットがエンジンと変速機とにより構成された車両を対象に車体振動の評価を行うようにしている。この評価は、車両の設計において、車両走行中の変速ショックの多寡を判断するために行われる。本実施の形態での車体振動の評価は、大きくは、次の2つの工程を通じて行われる。まず第1の工程においては、車体に搭載されるパワーユニットの動作に応じて同パワーユニットを弾性支持するマウントに作用する車両前後方向の荷重が求められる。また第2の工程では、その求められた車両前後方向の荷重と車両の駆動力と同車両の走行抵抗とに基づいて車体に作用する車両前後方向の加速度が演算される。
【0021】
本実施の形態では、上記第1の工程を、パワーユニットやマウントの実機を用いた試験を通じて、パワーユニットを弾性支持するマウントに作用する荷重(マウント作用力)を実測することで行う。図1は、そうした実機試験におけるマウント作用力の測定態様を示している。同図に示すように、この試験は、ベンチテーブル1上に、エンジン2、変速機3からなるパワーユニット4を配設した状態で行われる。なおパワーユニット4は、同パワーユニット4を実際の車体に弾性支持するためのマウント5〜8の実機を介してベンチテーブル1に設置されている。また各マウント5〜8には、6方向の荷重を測定可能なロードセルの一種である六分力計9〜12が設置されており、マウント5〜8に印加される荷重を測定可能とされている。
【0022】
またパワーユニット4の出力軸13の両端には、それぞれモーター14、15が取り付けられている。そしてこれらのモーター14、15により、パワーユニット4の出力軸13に任意のモーメントを付与することができるようになっている。
【0023】
試験中のエンジン2及びモーター14、15の制御は、コンピューター16により制御されている。また六分力計9〜12の測定信号は、このコンピューター16に入力され、記録されるようになっている。
【0024】
こうした試験装置を用いたマウント作用力の実測は、次の態様で行われる。すなわち、マウント作用力の実測に際しては、モーター14、15により、実際の車両走行時における走行抵抗や車体の慣性力に応じたモーメントを出力軸13に付与した状態でエンジン2を回転させて、パワーユニット4を動作させる。そしてこの状態で、様々なパターンの車両走行を模しながら、マウント5〜8に印加される荷重の推移を測定する。
【0025】
こうしてマウント作用力を実測した後、或いはその実測と同時平行して、上記第2の工程での車両前後方向加速度の演算が行われる。この演算は、コンピューター16によって、図2に示される態様で行われる。すなわち、車両前後方向加速度の演算に際しては、コンピューター16はまず車体に作用する車両前後方向の荷重の演算を行う。この演算は、車両の駆動力から車両の走行抵抗を減算した値に、上記第1工程で実測した車両前後方向のマウント作用力Fxの合力を加算することで行われる。続いてコンピューター16は、演算された車両前後方向の荷重を、車体重量mで除算することで、車体に作用する車両前後方向の加速度(車両前後G)を演算する。ちなみに、車両前後方向の荷重を車体重量mで除算した値を時間積分すれば、車両の速度が求められるようになる。
【0026】
以上により求められた車両前後方向の加速度は、変速ショックの評価に用いられる。そして変速ショックの大きさを確認しつつ、変速機3のブレーキやクラッチの開放や係合のタイミング等の適合を図ることで、変速ショックの抑制を図るようにしている。
【0027】
なお、こうした本実施の形態では、コンピューター16が上記算出手段、及び上記演算手段に相当する構成となっている。
以上説明した本実施の形態の車体振動の評価方法及び評価装置によれば、次の効果を奏することができる。
【0028】
(1)本実施の形態の車体振動の評価方法は、次の2つの工程を通じて走行中の車体に発生する車両前後方向の加速度を評価するようにしている。すなわち、車体に搭載されるパワーユニット4の動作に応じて同パワーユニット4を弾性支持するマウント5〜8に作用する車両前後方向の荷重を求める工程と、その求められた車両前後方向の荷重と車両の駆動力と同車両の走行抵抗とに基づいて車体に作用する車両前後方向の加速度を演算する工程と、である。また本実施の形態の車体振動の評価装置においてコンピューター16は、車体に搭載されるパワーユニット4の動作に応じて同パワーユニット4を弾性支持するマウント5〜8に作用する車両前後方向の荷重を算出するようにしている。またコンピューター16は、その算出された車両前後方向の荷重と車両の駆動力と車両の走行抵抗とに基づいて車体に作用する車両前後方向の加速度を演算するようにしている。こうした本実施の形態では、走行中の車体振動を評価するに際して、まずパワーユニット4の動作に応じて作用する車両前後方向の荷重が求められる。そしてその求められた車両前後方向の荷重と車両の駆動力と車両の走行抵抗とに基づいて、車体に作用する車両前後方向の加速度が演算されるようになる。パワーユニット4から車体への振動の伝達を考慮した場合、パワーユニット4からマウント5〜8を介して車体に印加される車両前後方向の荷重と、車両の駆動力、すなわち車両を前進させるための推進力と、空気抵抗や路面抵抗などの走行抵抗とによって車体に印加される車両前後方向の荷重が決定されることになる。よってそれら荷重の合力を車体重量で除算すれば、車体に働く車両前後方向の加速度を求めることができる。この場合の車両前後方向の加速度の演算は、パワーユニット4から車体への振動伝達を考慮して行われる。そのため、本実施の形態では、走行中の車体に発生する車両前後方向加速度の再現精度の更なる向上を図ることができるようになる。
【0029】
(2)本実施の形態では、マウント5〜8を介してベンチテーブル1上にパワーユニット4を配設するとともに、パワーユニット4の出力軸13に車両走行中と同様の負荷を印加した状態で同パワーユニット4を動作させながらマウント5〜8に作用する荷重を実測することでマウントに作用する車両前後方向の荷重を求めるようにしている。この場合、パワーユニット4の実機を用いた試験を通じて車両走行中のマウントに作用する車両前後方向の荷重が求められるため、より正確な車体振動の評価を行うことができるようになる。
【0030】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態では、パワーユニット4及びマウント5〜8の実機を用いた試験を通じてマウント作用力を求めるようにしていた。本実施の形態では、実機試験の代りに、マウント5〜8の物理モデル(マウントモデル)を用いたコンピューター16上のシミュレーション試験を通じてマウント作用力を求めるようにしている。
【0031】
図3は、こうしたシミュレーション試験に使用されるマウントモデルの一例を示している。同図に示されるように、マウントモデルは、マウント5〜8の荷重と撓みとの関係を示したものとなっている。なお、同図に示すように、一般にマウント5〜8のばね特性は、非線形となっている。
【0032】
こうしたコンピューター16上のシミュレーション試験は、パワーユニット4の駆動力の変化に対して各マウント5〜8に印加される荷重が如何様に推移するかを計算で求めることで行われる。こうしたシミュレーション試験によっても、マウント5〜8等のモデルが確かなものであれば、実機試験と同様にマウント作用力を求めることが可能である。
【0033】
以上説明した本実施の形態の車体振動の評価方法及び評価装置によれば、上記(1)に記載の効果に加え、更に次の効果を奏することができる。
(3)本実施の形態では、マウント5〜8に印加される荷重と同マウント5〜8の撓みとの関係を表わしたマウントモデルと、パワーユニット4の出力軸トルクとを用いて同パワーユニット4の車両前後方向の振動を予測することで、マウント5〜8に作用する車両前後方向の荷重を求めるようにしている。そのため、実機を用いた試験を行わずに、車両走行中のマウント5〜8に作用する車両前後方向の荷重を求めることができ、車体振動の評価をより簡易且つ速やかに行うことが可能となる。
【0034】
(第3の実施の形態)
パワーユニット4は、車両走行中、車両加速度に応じた慣性力による押圧を受けている。例えば車両の加速時のパワーユニット4は、慣性力により車両後方に押圧され、車両の減速時のパワーユニット4は、慣性力により車両前方に押圧されている。そのため、パワーユニット4からの振動の伝達が全く無い状況にあっても、車両走行中のマウント5〜8は、一定の荷重を受け、予撓みした状態となっている。一方、上述したように、マウント5〜8は、非線形のばね特性を有している。そのため、予撓みが有るときと無いときとでは、パワーユニット4の変位が同じでも、マウント5〜8が受ける荷重の大きさは異なるようになる。そこで本実施の形態では、車両加速度に応じた慣性力がパワーユニット4に作用することでマウント5〜8が予撓みした状態を想定して車両前後方向の荷重を求めるようにしている。
【0035】
マウント5〜8が予撓みした状態を想定したときの車両前後方向の荷重も、パワーユニット4やマウント5〜8の実機を用いた実機試験やコンピューター16上のシミュレーション試験で求めることができる。ここではまず、こうした場合の実機試験について説明する。
【0036】
図4は、そうした実機試験におけるマウント作用力の測定態様を示している。同図に示すように、本実施の形態の場合においても、実機試験は、マウント5〜8の実機を介してパワーユニット4の実機をベンチテーブル1に設置して行われる。また各マウント5〜8に、六分力計9〜12が設置する点、パワーユニット4の出力軸13の両端にモーター14、15を取り付ける点についても、第1の実施の形態と同様である。ただし、本実施の形態では、マウント作用力の測定は、アクチュエーター17によりパワーユニット4を押圧して、マウント5〜8に予撓みを与えた状態で行うようにしている。このときのアクチュエーター17の押圧は、車両加速度に応じた慣性力に相当する力Fをパワーユニット4に印加するように行われる。このときの慣性力の大きさは、試験において想定する車両の走行状態での車両加速度から求められている。
【0037】
なおコンピューター16上のシミュレーション試験の場合にも、車両加速度に応じた慣性力がパワーユニット4に作用することでマウント5〜8が予撓みした状態にマウントモデルを設定して、各マウント5〜8に印加される荷重を計算することで、上記実機試験と同様にマウント作用力を求めることが可能である。
【0038】
以上説明した本実施の形態の車体振動の評価方法及び評価装置によれば、上記(1)〜(3)に記載の効果に加え、更に次の効果を奏することができる。
(4)本実施の形態では、車両加速度に応じた慣性力がパワーユニット4に作用することでマウント5〜8が予撓みした状態を想定してマウント5〜8に作用する車両前後方向の荷重を求めている。具体的には、マウント5〜8を予撓みさせた状態でマウントに作用する荷重の実測に係る実機試験を行ったり、マウント5〜8が予撓みした状態にマウントモデルを設定して、シミュレーション試験を行ったりすることで、マウント作用力を求めている。そのため、実車により近い状態でマウント作用力を求めることができ、車両前後方向加速度の演算結果を実車により近づけることができるようになる。
【0039】
以上説明した各実施の形態は以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施の形態では、マウント作用力の実測のための実機試験に際して、マウント作用力を六分力計9〜12で測定するようにしていたが、マウント5〜8に作用する車両前後方向の荷重さえ測定すれば、車体に作用する車両前後方向の加速度の演算は可能である。よって、少なくともマウント5〜8に作用する車両前後方向の荷重を測定可能な六分力計以外のロードセルを用いて上記実機試験を行うようにしても良い。またロードセル以外の荷重測定機器を使用して上記実機試験を行うことも可能である。
【0040】
・上記実施の形態では、マウント5〜8に作用する車両前後方向の荷重と、車両の駆動力と、同車両の走行抵抗と、車体重量との4つのパラメーターを用いて車両前後方向の加速度を演算するようにしていた。こうした車両前後方向の加速度の演算の具体的な態様は、適宜変更しても良い。例えば、車体に作用する車両前後方向の加速度に影響する上記4つ以外のパラメーターがあれば、車両前後方向加速度の演算にそのパラメーターを加えるようにしても良い。いずれにせよ、マウント5〜8に作用する荷重を求め、その求めた荷重に基づいて車両前後方向の加速度を演算すれば、車両前後方向の加速度の演算に、パワーユニットから車体への振動伝達を加味することが可能となり、走行中の車体に発生する車両前後方向加速度の再現精度の更なる向上を図ることができるようになる。
【0041】
・上記実施の形態では、マウント5〜8に作用する車両前後方向の荷重を求め、その荷重に基づいて車体に働く車両前後方向の加速度を、ひいては車両前後方向における車体の振動を演算するようにしていた。もっとも、本発明に係る車体振動の評価方向及び評価装置は、車両前後方向以外の方向における車体の振動の評価にも用いることが可能である。例えば車両左右方向の車体振動を評価する場合には、マウント5〜8に作用する車両左右方向の荷重を求め、その荷重に基づいて車体に働く車両左右方向の加速度を演算するようにすれば良い。
【0042】
・上記実施の形態では、エンジンと変速機とにより構成されたパワーユニット4を有する車両を対象に車両前後方向の加速度を評価するようにしていたが、本発明に係る車体振動の評価方法及び評価装置は、他の構成のパワーユニットを備える車両にも適用が可能である。例えばモーターを有した構成のパワーユニットを備える電気自動車や、エンジン、モーターを有した構成のパワーユニットを備えるハイブリッド車両なども、車体振動の評価の対象とすることが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1…ベンチテーブル、2…エンジン、3…変速機、4…パワーユニット、5〜8…マウント、9〜12…六分力計(ロードセル)、13…出力軸、14,15…モーター、16…コンピューター(算出手段、演算手段)、17…アクチュエーター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の車体振動を評価するための方法であって、
前記車体に搭載されるパワーユニットの動作に応じて同パワーユニットを弾性支持するマウントに作用する荷重を求める工程と、
その求められた荷重に基づいて前記車体に作用する加速度を演算する工程と、
を備えることを特徴とする車体振動の評価方法。
【請求項2】
走行中の車体振動を評価するための方法であって、
前記車体に搭載されるパワーユニットの動作に応じて同パワーユニットを弾性支持するマウントに作用する車両前後方向の荷重を求める工程と、
その求められた車両前後方向の荷重と前記車両の駆動力と同車両の走行抵抗とに基づいて前記車体に作用する車両前後方向の加速度を演算する工程と、
を備えることを特徴とする車体振動の評価方法。
【請求項3】
前記車両前後方向の荷重は、車両加速度に応じた慣性力が前記パワーユニットに作用することで前記マウントが予撓みした状態を想定して求められてなる
請求項2に記載の車体振動の評価方法。
【請求項4】
前記車両前後方向の荷重は、前記マウントを介してベンチテーブル上に前記パワーユニットを配設するとともに、同パワーユニットの出力軸に車両走行中と同様の負荷を印加した状態で同パワーユニットを動作させながら前記マウントに作用する荷重を実測することで求められてなる
請求項2に記載の車体振動の評価方法。
【請求項5】
前記マウントに作用する荷重の実測は、車両加速度に応じた慣性力に相当する力を前記パワーユニットに印加することで前記マウントを予撓みさせた状態で行われる
請求項4に記載の車体振動の評価方法。
【請求項6】
前記マウントに作用する荷重の実測は、ロードセルを用いて行われる
請求項4又は5に記載の車体振動の評価方法。
【請求項7】
前記車両前後方向の荷重は、前記マウントに印加される荷重と同マウントの撓みとの関係を表わしたマウントモデルと、前記パワーユニットの出力軸トルクとを用いて前記パワーユニットの車両前後方向の振動を予測して求められてなる
請求項2に記載の車体振動の評価方法。
【請求項8】
前記マウントモデルは、車両加速度に応じた慣性力が前記パワーユニットに作用することで前記マウントが予撓みした状態に設定されてなる
請求項7に記載の車体振動の評価方法。
【請求項9】
前記パワーユニットは、エンジンと変速機とにより構成されてなる
請求項1〜8のいずれか1項に記載の車体振動の評価方法。
【請求項10】
走行中の車体振動を評価する車体振動の評価装置において、
前記車体に搭載されるパワーユニットの動作に応じて同パワーユニットを弾性支持するマウントに作用する荷重を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された荷重に基づいて前記車体に作用する加速度を演算する演算手段と、
を備えることを特徴とする車体振動の評価装置。
【請求項11】
走行中の車体振動を評価する車体振動の評価装置において、
前記車体に搭載されるパワーユニットの動作に応じて同パワーユニットを弾性支持するマウントに作用する車両前後方向の荷重を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された前記車両前後方向の荷重と前記車両の駆動力と同車両の走行抵抗とに基づいて前記車体に作用する車両前後方向の加速度を演算する演算手段と、
を備えることを特徴とする車体振動の評価装置。
【請求項12】
前記算出手段は、車両加速度に応じた慣性力が前記パワーユニットに作用することで前記マウントが予撓みした状態を想定して前記車両前後方向の荷重を算出する
請求項11に記載の車体振動の評価装置。
【請求項13】
前記算出手段は、前記マウントを介してベンチテーブル上に前記パワーユニットを配設した状態で、同パワーユニットの出力軸に車両走行中と同様の負荷を印加した状態で同パワーユニットを動作させながら前記マウントに作用する荷重を実測した結果から前記車両前後方向の荷重を算出する
請求項11に記載の車体振動の評価装置。
【請求項14】
前記マウントに作用する荷重の実測は、車両加速度に応じた慣性力に相当する力を前記パワーユニットに印加することで前記マウントを予撓みさせた状態で行われる
請求項13に記載の車体振動の評価装置。
【請求項15】
前記マウントに作用する荷重の実測は、ロードセルを用いて行われる
請求項13又は14に記載の車体振動の評価装置。
【請求項16】
前記算出手段は、前記マウントに印加される荷重と同マウントの撓みとの関係を表わしたマウントモデルと、前記パワーユニットの出力軸トルクとを用いて前記パワーユニットの車両前後方向の振動を予測することで前記車両前後方向の荷重を算出する
請求項11に記載の車体振動の評価装置。
【請求項17】
前記マウントモデルは、車両加速度に応じた慣性力が前記パワーユニットに作用することで前記マウントが予撓みした状態に設定されてなる
請求項16に記載の車体振動の評価装置。
【請求項18】
前記パワーユニットは、エンジンと変速機とにより構成されてなる請求項10〜17のいずれか1項に記載の車体振動の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−21942(P2011−21942A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165760(P2009−165760)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)