説明

車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物

【課題】
本発明はポリアミド樹脂とポリエステル樹脂とを複合することで、ポリアミド樹脂の特性を保持しつつ、成形性を向上させると同時に吸水時の剛性が大幅に改善された車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】
ポリアミド樹脂(a)30〜60重量%、ポリエステル樹脂(b)10〜30重量%、およびガラス繊維(c)20〜60重量%から構成される樹脂組成物であって、該樹脂組成物中に電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造において、ポリアミド樹脂(a)が連続相、ポリエステル樹脂(b)が分散相を形成する樹脂相分離構造を有することを特徴とする車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂の優れた特性を保持し、かつ吸水性を低下せしめることによって、寸法変化や物性の変化を小さく押さえると同時に成形性を向上させることで、精密部品や自動車分野への適用を可能にする車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、機械的特性、靭性に優れるなど、エンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有していることから、射出成形用を中心として各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などの用途に広く使用されている。しかしナイロン6、ナイロン66に代表されるポリアミド樹脂は、吸水性を有しており電気・電子部品や自動車部品のような精密な寸法精度を求められる分野では十分に満足できるものではなかった。
【0003】
このようなポリアミド樹脂の欠点を補うために、ポリエステル樹脂と複合した樹脂組成物が提案されている。しかし、従来技術ではポリアミド樹脂とポリエステル樹脂を複合させるためには相溶化剤が必須であり、特許文献1にはポリアミド樹脂とポリエステル樹脂の相溶化剤に金属イオン含有エチレン共重合体が、特許文献2には相溶化剤にメタクリルイミド含有重合体を用いることが提案されている。しかし、これらの手法では相溶性が増すものの、射出成形した場合の固化速度が遅くなり、結果的に成形サイクルが長くなってしまう。
【特許文献1】特開平1−215853(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平5−98111(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はポリアミド樹脂とポリエステル樹脂とを複合することで、ポリアミド樹脂の特性を保持しつつ、成形性を向上させると同時に吸水時の剛性が大幅に改善された車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、
(1)ポリアミド樹脂(a)30〜60重量%、ポリエステル樹脂(b)10〜30重量%、およびガラス繊維(c)20〜60重量%から構成される樹脂組成物であって、該樹脂組成物中に電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造において、ポリアミド樹脂(a)が連続相、ポリエステル樹脂(b)が分散相を形成する樹脂相分離構造を有することを特徴とする車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物、
(2)ポリエステル樹脂(b)がポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする(1)に記載の車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物、
(3)ポリエチレンテレフタレートがリサイクルポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする(2)に記載の車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物、
(4)ポリアミド樹脂(a)がナイロン66であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物、
(5)ポリエステル樹脂(b)が50nm〜10μmの分散粒径で分散する樹脂相分離構造を有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物、
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物からなる車体機構部品。
(7)シフトレバーベース、サンバイザーシャフトまたはコントロールレバーである(6)に記載の車体機構部品。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ポリアミド樹脂と同等の機械的強度を有しながら、吸水時の剛性低下を大幅に改善され、さらに吸水による寸法変化も小さくすることができる。ここで得られたポリアミド樹脂組成物は、例えば寸法安定性、吸水時剛性の要求される、車体機構部品用に好ましく使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明で用いられるポリアミド樹脂(a)とは、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる構成成分とするポリアミドである。その主要構成成分の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジアミン、およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族のジカルボン酸が挙げられ、本発明においては、これらの原料から誘導されるナイロンホモポリマーまたはコポリマーを各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0009】
本発明において、特に有用なポリアミド樹脂(a)は、150℃以上の融点を有する耐熱性や強度に優れたポリアミド樹脂であり、具体的な例としてはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0010】
とりわけ好ましいポリアミド樹脂(a)としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66コポリマー、などがあげられるが、なかでもナイロン66が好ましい。
【0011】
これらポリアミド樹脂の重合度には特に制限がないが、サンプル濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度として、1.5〜7.0の範囲のものが好ましく、特に2.0〜6.0の範囲のポリアミド樹脂が好ましい。
【0012】
これらポリアミドの樹脂の末端アミノ基濃度には特に制限がないが、3×10−5mol/g以上であるものが相溶性向上の点から好ましい。ここで言う末端アミノ基濃度とは85%フェノール−エタノール溶媒にサンプルを溶解、チモールブルーを指示薬として使用して、塩酸水溶液にて滴定することで測定できる。
【0013】
本発明のポリアミド樹脂(a)の配合割合は、該ポリアミド樹脂組成物を100重量%としたときに、ポリアミド樹脂(a)30〜60重量%であり、好ましくはポリアミド樹脂(a)35〜50重量%である。ポリアミド樹脂(a)が30重量%未満では、機械特性、靱性が大幅に低下するため好ましくなく、60重量%を越える場合では、吸水時の剛性が大幅に低下するため好ましくない。
【0014】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(a)の優れた機械特性に加えて車体機構部品用途として必要な吸水時の剛性を大幅に改善するために、ポリエステル樹脂(b)を必要とする。本発明におけるポリエステル樹脂(b)とは、主鎖中にエステル結合を有する重合体である。好適には芳香環を重合体の連鎖単位に有する熱可塑性のポリエステルが挙げられる。具体的には通常、芳香族ジカルボン酸(あるいはそのエステル形成性誘導体)とジオール(あるいはそのエステル形成性誘導体)および/またはヒドロキシカルボン酸とを主成分とし、縮合反応により得られる重合体ないしは共重合体が挙げられる。
【0015】
芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびそのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの芳香族ジカルボン酸は2種以上併用することもできる。またアジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体を併用することもできる。
【0016】
またジオールとしては炭素数2〜20の脂肪族ジオール、すなわちエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなど、およびそれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらのジオールは2種以上併用することもできる。
【0017】
本発明において好ましく用いられるポリエステル(b)の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリへキシレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリブチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレートのほか、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート、ポリ(エチレンテレフタレート/シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン−4,4’−ジカルボキシレート/テレフタレートなどの非液晶性ポリエステルおよびこれらの混合物が挙げられる。より好ましいものとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、および、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが挙げられ、特に好ましくはポリエチレンテレフタレートである。これらのポリエステル樹脂は成形性、耐熱性、靱性、表面性などの必要特性に応じて、混合物として用いることも実用上好適である。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂(b)の配合割合は、該ポリアミド樹脂組成物を100重量%としたときに、ポリエステル樹脂(b)10〜30重量%であり、好ましくはポリエステル樹脂(b)15〜25重量%である。ポリエステル樹脂(b)が10重量%未満では、吸水時の剛性が大幅に低下するため好ましくなく、30重量%を越える場合は成形加工時の離型性が低下し生産性が損なわれるため好ましくない。
【0019】
本発明で使用するポリエステル樹脂(b)の製造方法は、特に制限がなく、従来公知の直接重合法またはエステル交換法によって製造される。
【0020】
これらポリエステル樹脂(b)の重合度には制限はないが、例えば0.5%のo−クロロフェノール溶液中、25℃で測定した固有粘度が、0.35〜2.00の範囲が好ましく、0.50〜1.50の範囲がより好ましい。
【0021】
また、本発明で用いられるポリエステル樹脂(b)は、m−クレゾール溶液をアルカリ溶液で電位差滴定して求めた、ポリマー1トン当りのカルボキシル末端基量が5〜40eq/tであることが好ましい。カルボキシル末端基量は、好ましくは10〜40eq/tである。カルボキシル末端基量が5eq/tより小さいと低温特性が低下する傾向にあり、また、40eq/tより多いと耐加水分解性が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0022】
さらに本発明で用いられるポリエステル樹脂(b)として、環境保護や廃棄物量削減の観点から、リサイクルポリエチレンテレフタレートを用いることも好適である。本発明におけるリサイクルポリエチレンテレフタレートとは、繊維、フィルム、プラスチック等のポリエステル製品を製造するさまざまな行程で発生する屑や、PETボトルなどの使用済み成形体から回収されて得られるポリエチレンテレフタレートなどをいうものである。この中でも本発明においては外来異物等の混入が少なくかつ粘度のバラツキが少ないという観点において、繊維、フィルム、プラスチック等の製造工程で発生する屑を使用することが好ましく、特にフィルム製品を製造する際に発生するポリエチレンテレフタレート屑がより好ましい。また、エクストルーダーなどで均一に溶融させる観点からフレーク状に細かくして用いることが好ましい。またリサイクルポリエチレンテレフタレートには本発明の目的、効果を損なわない範囲であれば、ダル化剤などの粒子や酸化防止剤などの安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、充填材、架橋剤などの添加剤が含まれていてもよい。
【0023】
本発明では、機械的強度を向上させるために樹脂組成物にガラス繊維(c)を配合することが必要である。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、上記の充填材は2種以上を併用して使用することもできる。なお、本発明に使用する上記の充填材はその表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で予備処理することは、より優れた機械的強度、吸水時剛性を得る意味において好ましい。また、ガラス繊維はエチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被膜あるいは集束されていてもよい。
【0024】
上記のガラス繊維(c)の配合量は、本発明のポリアミド樹脂組成物100重量%に対し、20〜60重量%であることが必要で、より好ましくは30〜50重量%である。配合量が20重量%に満たないと強度が不足するので好ましくなく、一方配合量が60重量%を越えると成形加工時の流動性が損なわれるので好ましくない。
【0025】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(a)が連続相、ポリエステル樹脂(b)が分散相を形成する樹脂相分離構造を有することが必要で、特にポリエステル樹脂(b)が50nm〜10μmの範囲の分散粒径で分散した樹脂相分離構造を有していることが好ましく、より好ましくは分散粒径が50nm〜1μm、特に好ましくは60〜800nmである。ここで言う分散粒径とは、該樹脂組成物を射出成形(住友重機社製SG75H-MIV、シリンダ温度280℃、金型温度80℃)により調製したASTM1号ダンベルの成型表面から500μm内部より、80nmの薄片をダンベル片の断面積方向に切削し、透過型電子顕微鏡(倍率:1000倍)で観察した電子顕微鏡写真を画像解析ソフト「Scion Image」(Scion Corporation製)を用いて処理することで算出した平均粒径である。ポリエステル樹脂(b)の分散粒径が50nm〜10μmの範囲以外の場合には、本発明の課題である機械的特性に優れ、かつ吸水時剛性が改良された車体機構部品用途に適するポリアミド樹脂組成物を得ることができない場合がある。
【0026】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、長期耐熱性の向上や熱安定性を保持させるために耐熱安定剤および酸化防止剤を含有せしめることが好ましい。かかる耐熱剤および酸化防止剤としては、銅化合物およびフェノール系、リン系化合物の中から選ばれた1種以上の酸化防止剤を含有せしめることが好ましく用いられる。銅化合物の具体的な例としては、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅、リン酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、サリチル酸第二銅、ステアリン酸第二銅、安息香酸第二銅および前記無機ハロゲン化銅とキシリレンジアミン、2ーメルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールなどの錯化合物などが挙げられる。なかでも1価の銅化合物とりわけ1価のハロゲン化銅化合物が好ましく、酢酸第1銅、ヨウ化第1銅などを特に好適な銅化合物として例示できる。銅化合物の添加量は、通常ポリアミド樹脂100重量%に対して0.01〜2重量%であることが好ましく、さらに0.015〜1重量部の範囲であることが好ましい。添加量が多すぎると溶融成形時に金属銅の遊離が起こり、着色により製品の価値を減ずることになる。本発明では銅化合物と併用する形でハロゲン化アルカリを添加することも可能である。このハロゲン化アルカリ化合物の例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウムを挙げることができ、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが特に好ましい。
【0027】
フェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物が好ましく用いられ、具体例としては、トリエチレングリコール-ビス[3-t-ブチル-(5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N、N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-s-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-フェニル)プロピオネート、3,9-ビス[2-(3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ)-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどが挙げられる。中でも、エステル型高分子ヒンダードフェノールタイプが好ましく、具体的には、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9-ビス[2-(3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ)-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが好ましく用いられる。
【0028】
次にリン系酸化防止剤としては、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリト-ル-ジ-ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリト-ル-ジ-ホスファイト、ビス(2,4-ジ-クミルフェニル)ペンタエリスリト-ル-ジ-ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビスフェニレンホスファイト、ジ-ステアリルペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、トリフェニルホスファイト、3,5-ジーブチル-4-ヒドロキシベンジルホスフォネートジエチルエステルなどが挙げられる。かかる耐熱安定剤および酸化防止剤の配合量は、耐熱改良効果の点から樹脂組成物の合計100重量%に対して、0.01重量%以上、特に0.02重量%以上であることが好ましく、成形時に発生するガス成分の観点からは、5重量%以下、特に1重量%以下であることが好ましい。また、フェノール系及びリン系酸化防止剤を併用して使用することは、特に耐熱性、熱安定性、流動性保持効果が大きく好ましい。
【0029】
さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、ポリアミド樹脂(a)、ポリエステル樹脂(b)以外の樹脂を添加することが可能である。但し、本発明のポリアミド樹脂組成物全体100重量%に対して30重量%を超えるとポリアミド樹脂本来の特徴が損なわれるため好ましくなく、特に20重量%以下の添加が好ましく使用される。
【0030】
ポリアミド樹脂(a)、ポリエステル樹脂(b)以外の樹脂の具体例としては、PPS樹脂、ABS樹脂、ポリアレキレンオキサイド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂などが挙げられる。
【0031】
また、改質を目的として、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、他の重合体を添加することができる。
【0032】
本発明のポリアミド樹脂組成物を得る方法としては、溶融混練において、たとえば2軸押出機で溶融混練する場合にメインフィーダーからポリアミド樹脂(a)およびポリエステル樹脂(b)を供給し、ガラス繊維を押出機の先端部分のサイドフィーダーから供給する方法などが挙げられる。また、押出温度については、通常、ポリアミド樹脂やポリエステル樹脂の融点より5〜50℃高い温度範囲から選択され、スクリュー回転数としては本発明のモルホロジーを得る上で150rpm以上が好ましく、更には200rpm以上が好ましい。また、本発明のモルホロジーおよび分散相の粒径を上述の如くコントロールするためには、押出時の混練エネルギー(吐出量あたりの押出機仕事量(kW/(kg/h)))を大きくすることが必要である。これによって分散相の微分散化を行うことができる。好ましい混練エネルギーは、0.2以上であり、特に好ましくは0.3以上である。しかしながら、通常混練エネルギーを大きくするとせん断による発熱で樹脂温度が上昇し、ポリアミド樹脂やポリエステル樹脂の熱分解を引き起こし、目的の相分離構造を形成することが困難となる。そのため押出時の樹脂温度は250℃〜320℃にすることが好ましく、280℃〜310℃にすることが更に好ましい。このように混練エネルギーと樹脂温度を制御することにより、目的の樹脂相分離構造を形成することが可能となる。
【0033】
本発明のポリアミド樹脂組成物は車体機構部品用途に使用される。ここで言う車体機構部品とは、自動車内装部品であるシフトレバーベース、レバーコントロールスイッチ、ウィンドウスイッチ、ファスナー、クリップ、ヘッドレストガイド、シートベルトタングプレート、シートベルトバックル、シートベルトスルーアンカー、インストゥルメントパネルコア、リッドアウター、センタークラスター、リッドクラスター、メーターフード、メーターパネル、グローブボックス、チェンジレバーカバー、グローブボックスリッド、グローブボックスノブ、グローブドアアウター、アッシュトレイランプハウジング、アッシュトレイパネル、サンバイザーブラケット、サンバイザーシャフト、サンバイザーホルダー、ピラーガーニッシュ、ルームミラーステイ、ドアトリム、インサイドドアロックノブ、インナーロックノブ、ウィンドウレギュレーターハンドルハンドル/ノブ、アームレストインサート、アームレストベース、アームレストガイド等があげられる。特に本発明の車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物はシフトレバーベース、サンバイザーシャフト、コントロールレバーに好適に用いることができる。
【0034】
本発明の車体機構部品は公知の方法で賦形でき、その成形方法に関しても制限はなく射出成形、押出成形、吹込成形、プレス成形等を利用することができる。中でも射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形から選ばれる一方法を採用することが生産性に優れ工業的に本発明を実施する上で好ましい。また、成形温度については、通常、ポリアミド樹脂やポリエステル樹脂の融点より5〜50℃高い温度範囲から選択され、一般的には、単層であるが、2色成形法により多層にしてもかまわない。
【実施例】
【0035】
以下実施例により本発明をさらに詳述するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
評価項目と測定方法
(1)引張試験:ASTM 1号ダンベル試験片を用い、ASTM D638に準じて評価した。
(2)曲げ試験:1/2インチ×5インチ×1/4インチの棒状試験片を用い、ASTM D790に準じて評価した。
(3)荷重たわみ温度:1/2インチ×1/4インチの試料を用い、東洋精機社製HDT―TESTERを使用し、ASTM D648に準じて荷重1.82MPaで測定した。荷重たわみ温度は耐熱性を表す指標である。
(4)成形品表面外観:80×80×3(mm)の角板を射出成形し、得られた角板の表面で蛍光灯の反射像の鮮明度を肉眼観察し、外観の指標とした。
◎:表面はなめらかであり、蛍光灯の反射像が明瞭に観察される。
○:表面はなめらかであり、蛍光灯の反射像がやや不明瞭ながらも観察される。
△:表面はやや粗く、蛍光灯の反射像が観察できるがかなり不明瞭である。表面には充填材の浮きが確認できる箇所がある。
×:表面は粗く、蛍光灯の反射像は観察できない。表面には充填材の浮きがある。
(5)吸水寸法変化試験:80×80×3(mm)の角板を射出成形し、得られた角板を30℃の水中に24時間浸した後、角板の外辺寸法をノギスで測定し、水中処理する前の寸法から変化率を求めた。
変化率(%)=(水中処理後の寸法−水中処理前の寸法)÷水中処理前の寸法×100
(6)成形加工性:横100×縦75×高さ45×厚み2(mm)の箱形試験品を射出成形し、成形品が金型から離型可能な冷却時間を測定し、成形加工性の指標とした。冷却時間が短い場合には成形サイクルが短縮されるため成形性が良好であり、冷却時間が長い場合は成形性が不良である。
(6)分散粒径
ポリエステル樹脂分散相の分散粒径は以下の要領で測定した。住友重機社製SG75H−MIVを使用し、シリンダー温度280℃、金型温度80℃により射出成形したASTM1号ダンベル片の成形表面より500nm内部から80nmの薄片を切削し、透過型電子顕微鏡で倍率1000倍にて観察して得られた写真を画像処理ソフト「Scion Image」(Scion Corporation製)を用いてフーリエ変換し、得られる逆空間像を円平均して得たプロファイルよりDebyeプロットを行うことで直線を得ることができる。この直線を高分子濃厚溶液の濃度ゆらぎに関するOrnstein-Zernik型の式(1)とみることで、このプロットの傾きとy切片から密度ゆらぎの相関長ξを求め、その相関長ξと分散相の体積分率φより式(2)に従い比表面積を算出して、更に式(3)を用いて平均粒径として算出した。
【0037】
【数1】

【0038】
【数2】

【0039】
【数3】

【0040】
実施例1
ポリアミド樹脂(a)としてナイロン66(98重量%濃硫酸中、25℃、0.01g/ml濃度で測定した相対溶液粘度2.7、融点255℃)を56重量%と、ポリエステル樹脂(b)としてポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.66、カルボキシル末端基量38eq/t)を14重量%と、ガラス繊維(c)(日本電気硝子(株)、T−289)を30重量%用いてシリンダ温度280℃に設定したTEX−30型2軸押出機(日本製鋼所)に投入し、溶融混練して熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物はペレタイズした後、80℃で10時間真空乾燥し、シリンダ温度280℃、金型温度80℃で射出成形を行い、ASTM試験片を得た。特性の評価を表1に示した。本実施例の樹脂組成物を用いた成形品は強度が高く、吸水性の低いものであった。
【0041】
実施例2〜4
各原料を表1の配合割合で用いる以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得、特性の評価を行った。結果を表1に示した。
【0042】
実施例5
ポリアミド樹脂(a)として実施例1で用いたナイロン66を42重量%と、ポリエステル樹脂(b)として、廃棄物として粉砕処理されたリサイクルポリエチレンテレフタレート樹脂を18重量%と、ガラス繊維(c)を40重量%用いる以外は実施例1と同様にして、ポリアミド樹脂組成物を得、特性の評価を行った。結果を表1に示した。
【0043】
実施例6
ポリアミド樹脂(a)として実施例1で用いたナイロン66を55重量%と、ポリエステル樹脂(b)としてポリブチレンテレフタレート(固有粘度0.70、カルボキシル末端基量35eq/t)を15重量%と、ガラス繊維(c)を30重量%用いる以外は実施例1と同様にして、ポリアミド樹脂組成物を得、特性を評価を行った。結果を表1に示した。
【0044】
比較例1
ポリアミド樹脂(a)として実施例1で用いたナイロン66を70重量%とガラス繊維(c)を30重量%用いて実施例1と同様にポリアミド樹脂組成物を得、特性を評価した。結果を表1に示した。得られた成形品は吸水による寸法変化が大きくなるものであった。
【0045】
比較例2〜3
各原料を表1の配合割合で用いる以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得、特性の評価を行った。結果を表1に示した。
【0046】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(a)30〜60重量%、ポリエステル樹脂(b)10〜30重量%、およびガラス繊維(c)20〜60重量%から構成される樹脂組成物であって、該樹脂組成物中に電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造において、ポリアミド樹脂(a)が連続相、ポリエステル樹脂(b)が分散相を形成する樹脂相分離構造を有することを特徴とする車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
ポリエステル樹脂(b)がポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1に記載の車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
ポリエチレンテレフタレートがリサイクルポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項2に記載の車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
ポリアミド樹脂(a)がナイロン66であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
ポリエステル樹脂(b)が50nm〜10μmの分散粒径で分散する樹脂相分離構造を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の車体機構部品用ポリアミド樹脂組成物からなる車体機構部品。
【請求項7】
シフトレバーベース、サンバイザーシャフトまたはコントロールレバーである請求項6に記載の車体機構部品。

【公開番号】特開2007−119702(P2007−119702A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−339117(P2005−339117)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】