説明

車椅子ストッパーおよび車椅子静止方法

【課題】 使用者が車椅子から離れる際、もしくは車椅子に乗り移る際にも車椅子を静止状態に維持するための車椅子ストッパー、該ストッパーを備えた車椅子、車椅子静止方法を提供する。
【解決手段】車椅子ストッパー10は、地面に接する第1の位置と地面から離れた第2の位置との間に移動可能なステップ部11と、ステップ部11と車椅子1本体とをつなぐステー12と、ステー12を介してステップ部11を第1の位置と第2の位置との間に移動させる移動機構16,17とから構成される。ステップ部11を車椅子使用者又はその他の者が踏むことによりステップ部11に体重が負荷され、ステップ部11と地面の間で摩擦力による制動力が生じる。ステップ部11は、車椅子の前後方向、両脇方向のいずれにも配置することができ、また走行時に使用者が足を乗せるフットレスト6を兼ねることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車椅子を停止位置に静止させるための車椅子ストッパー、該車椅子ストッパーを備えた車椅子、並びに車椅子静止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車椅子は、主に身体障害者や高齢者の移動手段として使用される。車椅子には、使用者自身が主輪を手押しして進む自走式、介助者が後方に備えたハンドルを操作して使用する介助式、動力を備えた電動式など、各種形式のものが知られている。いずれの形式であっても、基本的には重心位置付近に配置された一対の主輪と、主輪の前方に配置された一対のキャスター輪と、主輪及びキャスター輪を固定するフレームと、フレーム上に配置されるシートとから主に構成されている。その使用目的からして、操作が簡便であり、搬送時を考慮してできるだけ軽量であり、さらに重要な観点として使用者の安全が十分に確保されるものでなければならない。
【0003】
安全の観点から最も重要な要素は制動機構であろう。制動方式にも各種のものがあるが、その主流は主輪の動きを止めるものであり、例えば自走式では使用者が主輪に取り付けられた駆動用のハンドリムを手で押さえて制動し、あるいは主輪の外周に接してこれをロックするレバー式ブレーキを利用して制動する。介助式の車椅子では一般に、車椅子の後側に延びるハンドルに取り付けられたブレーキレバーを操作し、主輪に取り付けられたドラムにブレーキを押し付けて主輪を制動することなどが知られている。動力式では停止した駆動用の電動モータ自身が主輪の動きを拘束する機能を果たすことができる。
【0004】
使用者が車椅子に着座した状態のままでブレーキをかける際には、上述した主輪を制動する方式でもそれなりの制動効果が果たせるものであった。しかしながらこの形式での問題は、使用者が停止した車椅子に乗る際、あるいは停止した車椅子から立ち上がる際に安全を脅かすような不都合を生ずることである。その1つの要因として、キャスター輪の存在が挙げられる。キャスター輪は車椅子の進行方向を変化させるために設けられており、フレームに対して旋回自在に取り付けられている。このため、車椅子に乗る際、あるいは車椅子から立ち上がる際に、使用者が車椅子に触れて横方向に力が加わった場合などでは、いくら主輪が制動されていても車椅子の前方が左右に容易に振れることがあり、利用者が転倒するなどの危険を生ずるものとなる。
【0005】
さらに他の要因として、車椅子ができるだけ軽量に仕上げられているために、主輪に加えられた制動力が車椅子を静止させる効果を十分に発揮できないことが挙げられる。ブレーキがセットされた主輪は地面との間の摩擦力により車椅子を静止させているが、この摩擦力の大きさは、接触した二要素間の摩擦係数と両者の間に加わる荷重に比例している。このため、使用者が車椅子に着座している間には使用者の体重が加わっていることから十分な摩擦力が得られても、利用直前、直後において使用者の体重が車椅子に加わらない状態では、車椅子の自重のみでは十分な静止力が得られなくなり、これが危険度を高める要因となっていた。着座時、立ち上がり時においては健常者といえども足元が振らつく場合がある。障害者、お年寄りの場合では、このような際に車椅子以外に身近で体重を支えるものが他にないとしたら、危険性は高いものとなる。
【0006】
この問題に対応し、従来技術においても対応策が開示されている。例えば、特許文献1では、キャスター輪を固定するフレーム部分に上下移動するブレーキ部材を配置し、キャスター部分の回転をロックするよう構成されている。これによってキャスターの自由な首振りとキャスター輪の空転を阻止し、車椅子の振れを回避している。また、特許文献2では、フレームの最下部に収納されたストッパーを地面に向けて回動させ、これを地面に押し付けてキャスター輪を地表から浮上させることでキャスター輪による振れの問題を回避し、同時にストッパーと地表との間の摩擦力によって車椅子に制動力を付与するものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−14984
【特許文献2】特開2003−126175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来技術による対応策には未だ問題があった。特許文献1、2に開示された技術によれば、キャスターの首振り(取付け軸回りの回転)やキャスター輪の空転による問題は回避できても、使用者が車椅子に着座していない状態、すなわち車椅子に十分な荷重が負荷されていない状態での制動問題に対しては何らの解決策とはなっていない。
【0009】
以上より、本発明は上述した従来技術にある問題を解消し、使用者が車椅子から離れる際、もしくは乗り移る際においても車椅子を停止位置にしっかりと静止させておくことが可能な車椅子ストッパー、該ストッパーを備えた車椅子、さらには車椅子の静止方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、地面(以下、本明細書において特記ない場合には床面等を含む。)に接触することができるステップ部と車椅子のフレームとをステーで結び、ステップ部を車椅子使用者又は他の者が踏んで体重をかけることにより、荷重を車椅子に伝えて主輪による制動力を高め、あるいはステップ部と地面との間の摩擦力によって車椅子を静止させるもので、具体的には以下の内容を含む。
【0011】
本発明に係る1つの態様は、車椅子を停止位置に静止させるための車椅子ストッパーであって、地面に接する第1の位置と地面から離れた第2の位置との間に移動可能なステップ部と、前記ステップ部と車椅子本体とをつなぐステーと、前記ステーを介して前記ステップ部を第1の位置と第2の位置との間に移動させる移動機構とから構成され、前記ステップ部が前記第1の位置で当該ステップに負荷された荷重を地面との間で支えるよう構成されていることを特徴とする車椅子ストッパーに関する。
【0012】
前記移動機構は、前記ステップ部に荷重が負荷されたときに前記ステップ部を地面に接触させると同時に該荷重の一部を車椅子本体側に負荷し、荷重が負荷されないときは前記ステップ部を地面から離れた位置に維持する浮動機構とすることができる。あるいは、前記移動機構に加えて当該浮動機構をさらに設けることでもよい。
【0013】
前記ステップ部は、車椅子の左右方向、または前後方向に折り畳み可能とすることができる。これにより、ストッパーを着脱してコンパクトに搬送することができ、あるいは折り畳み式の車椅子に装着した際にも取り付けたままで車椅子の折り畳みが可能となる。
【0014】
前記ステップ部の地面に対向する側の面には、摩擦材を設けることが好ましい。また、前記移動機構には、弾性体、リンク機構、旋回機構のいずれかを利用することができる。弾性体を利用する場合には荷重が解除された場合にステップ部を浮動させる浮動機構とすることができる。
【0015】
前記第1の位置におけるステップ部の配置は、車椅子利用者が車椅子に座る際、もしくは車椅子から立ち上がる際の足元の位置となる車椅子の前方直下、車椅子の後方で車椅子操作ハンドルを操作する介助者の足元の位置となる車椅子の後方直下、あるいは車椅子の脇のいずれにもすることができる。また、前記ステップ部は、前記ステーの向きを変更することによって車椅子使用時に使用者の足を乗せるフットレストとしても機能させることができる。
【0016】
本発明に係る他の態様は、使用者が着座するシートと、主な荷重を支えて移動を可能とする一対の主輪と、一部の荷重を支えて進行方向を調整する一対のキャスター輪と、各要素を結んで全体強度を提供するフレームとから構成される車椅子であって、停止時に車椅子を停止位置に静止させるため、上述したいずれかの車椅子ストッパーを備えていることを特徴とする車椅子に関する。
【0017】
本発明に係るさらに他の態様は、車椅子停止時に車椅子を確実に停止位置に静止させるための方法であって、地面から離れた位置と地面に接する位置との間で移動可能な荷重負荷プレートを車椅子に取り付け、車椅子走行時には前記荷重負荷プレートを地面から離して保持し、車椅子停止時には前記荷重負荷プレートに地面に接するよう移動させ、前記荷重負荷プレートに荷重を負荷することにより、車椅子を停止位置に静止させることを特徴とする方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施により、簡単な構造のストッパーの追加によって使用者が車椅子に乗る際、及び車椅子から離れる際において車椅子を所定の停止位置に静止させる大きな制動力を提供することができ、車椅子利用者の安全を高め、転倒などの思わぬ事故につながる危険性を排除する効果を生む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る車椅子ストッパー及び該ストッパーを備えた車椅子を示す斜視図である。
【図2】図1に示す車椅子ストッパーの細部を示す斜視図(a)、および車椅子への取付け部の詳細を示す拡大正面図(b,c)である。
【図3】図1に示す車椅子ストッパーの他の態様を示す斜視図(a)および側面図(b,c)である。
【図4】本発明の他の実施の形態に係る車椅子ストッパーを示す側面図である。
【図5】本発明のさらに他の実施の形態に係る車椅子ストッパーを示す斜視図である。
【図6】図5に示す実施の形態に係る車椅子ストッパーの他の態様を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の第1の実施の形態に係る車椅子ストッパー及び該ストッパーを備えた車椅子について、図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態に係る車椅子1を示しており、車椅子1は、使用者が着座するシート2と、主たる荷重を移動可能に支持する一対の主輪3と、荷重の一部を支え、進行方向を定める一対のキャスター輪4と、走行時に使用者が足を乗せるフットレスト6(6a,6b)と、介在者が背後から車椅子1全体を操作するハンドル7とを含む従来技術で知られた構成要素に加えて、ステップ式の車椅子ストッパー(以下、単に「ストッパー」ともいう。)10を新たに備えて構成されている。上記の各構成要素はそれぞれ、フレーム8を構成するパイプ材によって結ばれており、フレーム8は車椅子1全体に必要な強度を提供している。ストッパー10を除く他の基本構成は従来技術において周知でもあり、詳細説明は省略する。ただし、車椅子の形式は上述した通り従来技術においても各種知られており、図面に示す構造はその一例に過ぎない。以下の説明はこの形式の車椅子を対象とするが、特記ない限り車椅子は図1に示す形式のものに限定はされず、他の形式のものに対しても同様に適用が可能である。
【0021】
図1に示す状態では一対のフットレスト6の内、車椅子進行方向左側(図面上で右側)に示すフットレスト6aは走行時における使用状態を、同右側に示すフットレスト6bは、使用者が車椅子に乗り降りする際に障害とならないよう車椅子のサイドに沿って折り畳まれた状態をそれぞれ示している。図に示すフットレスト6bでは、足乗せの部分をさらに上方に折り畳んでおり、搬送時においてよりコンパクトとなるよう配慮されている。なお、本明細書において、「下」とは重力の向かう方向を、「上」とはその反対の方向を、「前、後」とは車椅子の進行方向およびその逆方向を、そして「左、右」とは車椅子の進行方向に向かっての右、左をそれぞれ示すものとする。
【0022】
本実施の形態に係るステップ式のストッパー10は、利用者が車椅子1に着座する際、このストッパー10を自らの足で踏むことにより車椅子1を静止させる機能を果たす。すなわち、使用者がストッパー10を踏むことによってその体重がストッパー10に加わり、その一部が車椅子1に負荷されると同時に、ストッパー10と地面との間の摩擦力によって車椅子1をその場に静止させる効果を生む。車椅子1から立ち上がる時も同様に、使用者がストッパー10を踏むことによって、それまでシート2に負荷されていた体重がストッパー10に移動するが、車椅子1自身の負荷が軽減されてもストッパー10を介してその荷重の一部が車椅子1にも負荷され、同時にストッパー10と地面との間の摩擦力によって十分な静止機能を果たすことができる。
【0023】
本実施の形態のストッパー10は、従来技術による主輪3にブレーキをかける機構や、特許文献1、2に示すようなキャスター4をロックするストッパー、地面に対してストッパーを接触させる機構と共に用いられてもよい。ストッパー10の荷重の作用点を主輪3とキャスター輪4との間に配置することで、ストッパー10に加わる荷重の一部が車椅子1に負荷され、使用者の着座、立上り時において従来技術による制動機構によって生ずる地面との摩擦力を増大させる効果を生み、車椅子1をより確実に静止させるものとなる。ただし、後述するように、ストッパーに負荷させる荷重の一部を車椅子に及ぼすことなく、車椅子につながれた単なる足踏み式のストッパーとして利用することも可能である。
【0024】
なお、上記説明ではストッパー10を車椅子の使用者が踏む場合を想定しているが、本発明はそれに限定はされない。車椅子の使用者によってはストッパー10を踏めない場合もあり、そのような折りには介助者などの他の者が代わってストッパー10を踏み、その体重をストッパー10にかけることによって全く同様な静止効果を得ることができる。この際、介助者など他の者は、車椅子を手で静止させる必要がないため、両手を車椅子使用者保護のために有効に使用できるものとなる。
【0025】
本実施の形態に係る車椅子ストッパー10の詳細構成を図2に示している。まず図2(a)において、ストッパー10は人が踏むことによって静止機能を果たすステップ部11と、一端がステップ部11に取り付けられ、他端が車椅子のフレーム8(図1参照)に取り付けられる一対のステー12とから構成されている。図示の例では、ステップ部11はさらに、一対のステー12を回動可能に取り付けるヒンジ13を備えたメインステップ11aと、蝶番14を介してメインステップ11aに取り付けられたサブステップ11bとから構成されている。サブステップ11bは、矢印Aに示すように回動してメインステップ11aの上に重ねることができ、さらにその上にステー12を矢印Bで示すように折り畳んで重ねることができる。これにより、ストッパー10を着脱式にした際に、ストッパー10をコンパクトに搬送できるものとなる。
【0026】
図2(b)は、ステー12の上端側に設けられたフレーム8への取付け部の前方から見た状態を拡大して示している。取付け部では、ステー12が逆J字状に曲げられ、その内側にスプリング16とスプリングシート17が設けられている。スプリングシート17はステー12の逆J字状部分に上下スライド自在に嵌り、スプリングシート17の下側の凹状部でフレーム8のパイプに接している。さらにその下側でボルト18が締結されており、ボルト18の着脱によってステー12はフレーム8に着脱自在に取り付けられる。スプリング16は、スプリングシート17とステー12の天井部に取り付けられた棒状部材の間にはめられており、前後方向への移動が規制されている。
【0027】
車椅子1の走行時、ステー12の取付け部は図2(b)に示す状態にあり、すなわちステー12さらにはストッパー10全体がスプリング16の付勢力によって引き上げられている。車椅子が停止して使用者もしくは他の者がストッパー10のステップ部11を踏み、その体重がステップ部11に加えられると、ステー12を介してこれが取付け部に伝わり、図2(c)に示すようにスプリング16が圧縮され、ステー12が下がることでステップ部11が地面に接し、静止機能を果たすものとなる。本明細書において、このようにステップ部11に荷重が負荷されたときにステップ部11を地面に接触させ、荷重が負荷されないときはステップ11を地面から離れた位置に維持する機構を「浮動機構」と呼ぶものとする。
【0028】
車椅子は通常、砂利道などの深い凹凸のある路面を移動することはほとんどないため、走行時にはステップ部11の底面が地面より3〜5cmほど離れていればよく、すなわちスプリング16もその程度の伸縮ストロークが確保できるものであればよい。なお、図2(a)では背後となるため表示されていないが、地面に対向するステップ部11の底面には、制動用の摩擦力が得られるよう、ゴムなどの摩擦材が貼り付けられていることが好ましい。このような摩耗材はまた、床面で車椅子を使用する場合にその床面を傷めない効果を奏する。ステップ部11の材質としては、防錆表面処理(めっき等)が施された鉄板、ステンレス鋼板、アルミ板、強化プラスチック材など、人の体重に耐えるに十分な強度を持つものであれば特に限定はされない。
【0029】
なお、図2(a)に示すストッパー10の構成は一例であり、例えば一対のステー12は搬送用に折り畳み式としているが、これをステップ部11に固定するかあるいはステップ部11と一体にしてもよく、また、ステップ部11を折り畳み式とせずにこれを一枚板とすることでもよい。折り畳み式とする場合には、蝶番14に代えて他の折り畳み機構が用いられてもよい。また、図2(b)、(c)に示すスプリングは必ずしもコイルスプリングとする必要はなく、板バネ、トーションバーや、あるいは懸架式としてゴムを利用するなど、弾性体を利用する他の構成とすることも可能である。固定用のボルト18の代わりに、他の締結部材や固定部材が使用されてもよい。さらに、図面には示していないが、ステー12を長手方向に2部品に分割し、両者を長手方向に相対移動させて固定するなどの従来技術で知られた長さ調整機構を設けることも可能である。この調整機構の追加により、単一のストッパーであっても異なる諸元の車椅子に適用できる汎用性をもたらすことができる。これは以下に述べる各実施の形態のステーに関しても同様である。
【0030】
車椅子ストッパーのその他のバリエーション例を図3に示している。まず図3(a)は、折り畳み式の車椅子に対応したストッパー10aを示している。車椅子には、車両に積み込んで移動する際にできるだけコンパクトにするため、左右から縮めて折り畳みができる形式のものがある。そのような車椅子にも取付け可能となるよう、図示のストッパー10aではステップ部11が左右一対のステップ11c、11dに分割され、この両者を蝶番14(あるいは、他の折り畳み機構であってもよい)を介して折り畳み可能に構成している。図3(a)の破線は、ストッパー10aの折り畳み時における一過程の状態を示したもので、一方のステーが他方のステーに向けて矢印Dに示すよう接近し、最終的には両ステップ11c、11dが密着するまでの折り畳みが可能である。ストッパー10aを以上のように構成することにより、車椅子を左右から幅方向に折り畳む場合においても、ストッパー10aをその都度取外す必要はなく手間を煩わされずに使用することができる。
【0031】
次に図3(b)、(c)は、ストッパー11を使用位置と折り畳み位置(引き上げ位置)の間に移動させる移動機構の側面から見た状態を示している。まず図3(b)に示す例では、ステップ部11とフレーム8とを結ぶ各ステーが、それぞれ2本のリンクバー12a、12bにより構成されている。各リンクバー12a、12bは、ステップ部11とフレームへの取付け具12cとにそれぞれ回転自在に結合されており、これらによって4点リンクが形成されている。リンクバー12aと取付け具12cとの結合部分には、操作レバー15がリンクバー12aに結合して設けられている。使用者もしくは他の者が操作レバー15を矢印Eに示すように操作することにより、ステップ部11を実線で示す地面との接触位置と、破線で示す引き上げ位置との間に移動させることができる。図面には表示されていないが、各位置での静止には、ラチェット機構や凹部にはまるボールとスプリングの組み合わせなど、従来技術で知られたロック機構を利用することができる。
【0032】
図3(c)は、図3(b)と同様な4点リンク式において、一方のリンクバー12aと回転可能に結合されたリモートバー19と、リモートバー19の他端に設けられた操作レバー15aを備えたステップ部11の移動機構を示している。介助者が後方で操作レバー15aを図の実線と点線の間に操作することにより、使用者に代わってステップ部11を地面との接触位置と引き上げ位置の間に移動させることができる。なお、図面に示していないが、取付け具12cには、例えば図2(b)、(c)に示すような浮動機構を更に備えるようにしてもよい。浮動機構の追加により、ステップ部11を単に地面との接触位置に移動させるだけでなく、ステップ部11に加わる荷重の一部を車椅子1側に負荷させることができ、これによって主輪3のブレーキによる静止効果をも高めることができる。
【0033】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る車椅子のストッパーについて、図面を参照して説明する。先の実施の形態におけるストッパー10は、車椅子の前方に配置されて主に車椅子の使用者自身が利用するよう構成されていた。図4に車椅子の側面から見た状態で示す本実施の形態に係るストッパー20は、車椅子の後ろ側に配置されて主に介助者が利用するよう構成されている。図4において、ストッパー20は、ステップ部21と、ステップ部21をフレーム8に結ぶステー22とから構成されている。この構成は、図2(a)に示す先の実施の形態に係るストッパー10と全く同様とすることができる。介助者の歩行の障害とならないよう、ステップ部21は図2(a)に示すよう前後に折り畳み式とすることが望ましい。ステー22とフレーム8との間には、例えば図2(b)、(c)に示すような浮動機構を備えることができ、この場合にはステップ部21にかかる荷重の一部を車椅子本体側に負荷することができる。
【0034】
以上の構成に係るストッパー20の利用方法は、先の実施の形態とほぼ同様である。すなわち、車椅子の停止位置においてステップ部21を介助者(他の者であってもよい)が踏んで体重をステップ部21上に乗せることにより、車椅子1を静止させることができる。図面では先の実施の形態であるストッパー10と同じ構成としているが、図3(a)に示すような折り畳み式とすることも自在であり、また図3(b),(c)に示すようにリンク式の折り畳み構造としてもよい。さらにステー22は必ずしも一対とする必要はなく、前後に走るフレーム8の代わりに左右に走るフレームのセンター付近に1本のステーを取り付け、ステップ21を同じくその左右幅方向のセンター付近で当該1本のステーにより支持するよう構成することも可能である。
【0035】
次に本発明の第3の実施の形態に係るストッパーについて図面を参照して説明する。先の2つの実施の形態におけるストッパー10、20は、それぞれ車椅子の前・後にステップ部11、21を配置するものであった。図5に示す本実施の形態に係るストッパー30は、車椅子の左右いずれかの側面にステップ部31を配置するよう構成されている。図において、車椅子の右側(図面上で左側)に位置するストッパー30は、ステップ部31と、ステップ部31を支持するステー32と、ステー32を旋回可能に支持するホルダ33とから構成されている。ホルダ33は、車椅子の前方で垂直方向に走るフレーム8に対して前後方向に傾斜して固定されている。
【0036】
図5の実線で示す位置にある車椅子1の右側のストッパー30は、車椅子1を静止させる状態における位置を示している。すなわち、平坦状のステップ部31は地面に接しており、この上に介助者やその他の者が体重をかけることによって、ステップ部31と地面との摩擦力を利用して車椅子を静止させることができる。ステップ部31は、矢印Hで示すように折り畳むことができるよう構成すれば搬送時に便利であり、望ましい。
【0037】
一方、ステップ部31は、矢印Gで示すようにステー32と共にホルダ33を中心に旋回させ、車椅子の前方に配置させることができる。ホルダ33をフレーム8に対して傾斜して配置することにより、この状態においてストッパー30は、車椅子の使用者が走行時において足を乗せるフットレストとなる。すなわち、本実施の形態にかかるストッパー30は、移動機構であるホルダ33回りのステー32の旋回によって使用者用のフットレスト(例えば、図1に示す符合6a、6b)を兼ねることができる。図の表示からも分かるように、ストッパー30は車椅子の左右両側に設けることができ、また、使用者の足乗せ用フットレストを既に備えている車椅子においては、ホルダ33の取付角度を調整する等の僅かな変更のみで静止機能を付加することができる。
【0038】
本実施の形態に係るストッパー30では、車椅子静止時の位置は車椅子の直ぐ脇となり、介助者はステップ部31を踏むことによって両手が解放されるため、車椅子使用者の介助にも便利な位置となる。ステップ部31を静止時の位置と走行時の位置にロックすることは、ラチェットなどの従来技術の利用で容易に可能である。ホルダ33からステー32を一端引き抜いた後、位置を変えて再度差し込む方式を採用することでもよい。また、ホルダ33には図2(b)、(c)に示す浮動機構に準じた浮動機構を設けることができ、これによってステップ部31にかかる荷重の一部を車椅子1に負荷させることができる。
【0039】
図6は、本実施の形態に係る他の態様を示している。図6において、ストッパー30aは、ステップ部31と、ステー32と、ホルダ33aとから構成されている。このストッパー30aは、基本的に図1に示すフットレスト6(6a、6b)と同様の構成であり、但しホルダ33aは、図1に示すフットレスト折り畳みのための旋回が可能であると同時に、ステー32を図6の実線と破線の間で矢印Gに示すように移動可能に構成されている。このように構成することにより、従来からあるフットレストに僅かの改造を加えることによってストッパー30の機能を付加することができる。なお、この場合のステップ部31が配置される位置は車椅子の前方となるため、車椅子使用者自身が体重をかけて使用することが可能となる。また、必要に応じてステー32に長さ調整機構、あるいはホルダ33aにフレーム8に対して上下スライド式の浮動機構を加えることも容易である。さらに、ステー32を操作するため、図3(b)に示すような操作レバーが設けられてもよい。
【0040】
なお、図6に示す態様においては、フットレスト(兼ストッパー)にはさらなる改良を加えることができる。従来技術における車椅子のフットレストでは、図1の符号6a、6bに示すように左右の足用のフットレストが分割して設けられていた。これは、車椅子使用者が車椅子に乗り降りする際に車椅子から前方に突き出るフットレストが邪魔になるため、これを図1のフットレスト6bに示すように両脇に開いて前方を開放させることを目的としたものであった。しかしながら図6に示す態様では、車椅子の停止時にはフットレスト兼ストッパー30aを矢印Gに示すように車椅子の前方直下に降ろすものとなるが、これは車椅子の前方を開放することを意味する。すなわち、図6に示す態様によれば、フットレスト(兼ストッパー)は従来技術におけるようなわざわざ左右分割式とする必要がなくなり、一枚板のフットレストを実現できるものとなる。これによって車椅子使用者は、これまでできなかった両足を揃えてフットレストに乗せるなど、より快適な着座姿勢を採ることができるようになる。さらに、図1に示すような幅方向の旋回機構が不要となり、図6に示す上下方向の移動機構のみで済ますことができる。なおフットレスト(兼ストッパー)を一枚板とした際には、図3(a)に示す左右折り畳み機構を設けてもよい。
【0041】
以上、本発明の各実施の形態について説明してきたが、本発明には各種の変形が可能である。車椅子自身に各種形態があり、それぞれに応じたステー、取付け部、折り畳み方式が考えられる。また、ステップ部と地面との間の距離を変化させる機構として、スプリング、4点リンク、旋回用ホルダを例示しているが、従来技術において知られた他の方式が採用されてもよい。本明細書においてステップ部と地面とを接離させるためにステップ部を移動させるこれら機構をまとめて「移動機構」と呼ぶ。図2(b)、(c)に示す浮動機構は移動機構を兼ねているが、図3(b)、(c)、図5、図6に示す場合等には、移動機構に加えて浮動機構を備えることもできる。
【0042】
本発明はさらに、車椅子停止時において車椅子を確実に停止状態に静止させるための方法をも包含している。本発明に係る方法は、車椅子に取り付けられ、走行時には地面から離れ、静止時には地面と接触可能なステップ部に、車椅子利用者、介助者、その他の者が乗って体重をあずけることにより車椅子に荷重をかけて車椅子の制動力を高めると共に、ステップ部と地面との間の摩擦力を利用して車椅子を停止状態に維持する方法に関する。なお、この際において、ステップ部は「荷重負荷プレート」と、体重は「荷重」と読み替えることが可能である。すなわち、該方法においては必ずしも人体を構成要素とせず、プレートに荷重を負荷することによっても車椅子の静止状態の維持は可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係るストッパーは、車椅子の製造、販売の産業分野、介護の分野において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1.車椅子、 2.シート、 3.主輪、 4.キャスター輪、 6(6a,6b).フットレスト、 7.ハンドル、 8.フレーム、 10,10a.ストッパー、 11(11a,11b).ステップ部、 12.ステー、 13.ヒンジ、 15,15a.操作レバー、 16.スプリング、 20.ストッパー、 21.ステップ部、 22.ステー、 30、30a.ストッパー、 31.ステップ部、 32.ステー、 33、33a.ホルダ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車椅子を停止位置に静止させるための車椅子ストッパーであって、
地面に接する第1の位置と地面から離れた第2の位置との間に移動可能なステップ部と、
前記ステップ部と車椅子本体とをつなぐステーと、
前記ステーを介して前記ステップ部を第1の位置と第2の位置との間に移動させる移動機構とから構成され、前記ステップ部が前記第1の位置で当該ステップに負荷された荷重を地面との間で支えるよう構成されていることを特徴とする車椅子ストッパー。
【請求項2】
前記移動機構が、前記ステップ部に荷重が負荷されたときに該荷重の一部を車椅子に負荷し、荷重が負荷されないときは前記ステップ部を地面から離れた位置に維持する浮動機構であること、または前記移動機構に加えて該浮動機構をさらに備えていることを特徴とする、請求項1に記載の車椅子ストッパー。
【請求項3】
前記ステップ部が、車椅子の左右方向、または前後方向に折り畳み可能であること、または前記ステーが長手方向に伸縮可能であることを特徴とする、請求項1に記載の車椅子ストッパー。
【請求項4】
前記ステップ部の地面に対向する側の面に、摩擦材が設けられている、請求項1に記載の車椅子ストッパー。
【請求項5】
前記車椅子ストッパーが、車椅子と着脱可能に構成されている、請求項1に記載の車椅子ストッパー。
【請求項6】
前記ステップ部の第1の位置が、車椅子利用者が車椅子に座る際、もしくは車椅子から立ち上がる際の足元の位置となる車椅子の前方直下であること、または車椅子の後方で車椅子操作ハンドルを操作する介助者の足元の位置となる車椅子の後方直下であること、または車椅子の進行方向に対して左右いずれかの側方直下であることを特徴とする、請求項1に記載の車椅子ストッパー。
【請求項7】
前記ステップ部の第2の位置が、車椅子使用時に使用者の足を乗せるフットレストの位置となり、前記ステップ部がフットレストを兼ねる、請求項1に記載の車椅子ストッパー。
【請求項8】
使用者が着座するシートと、
主たる荷重を支えて移動を可能とする一対の主輪と、
一部の荷重を支えて進行方向を調整する一対のキャスター輪と、
各要素を結んで全体強度を提供するフレームとから構成される車椅子において、
停止時に車椅子を停止位置に静止させるため、請求項1から請求項7のいずれか一に記載の車椅子ストッパーを備えていることを特徴とする車椅子。
【請求項9】
車椅子停止時に車椅子を確実に停止位置に静止させるための方法において、
地面から離れた位置と地面に接する位置との間で移動可能な荷重負荷プレートを車椅子に取り付け、
車椅子走行時には前記荷重負荷プレートを地面から離して保持し、
車椅子停止時には前記荷重負荷プレートに地面に接するよう移動させ、
前記荷重負荷プレートに荷重を負荷することにより車椅子を停止位置に静止させることを特徴とする方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−45300(P2012−45300A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192416(P2010−192416)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(392023681)株式会社サンエー (14)