説明

車椅子

【課題】 歩道や道路その他通路の凹凸や小さな段差による振動や衝撃を吸収し、快適な乗り心地と安定した走行が可能な車椅子を提供する。
【解決手段】 上部フレーム4及び下部フレーム6が互いに対称に各々一対として配置され、各上部フレーム4及び下部フレーム6は、前部の軸支部28,104にて上下方向に揺動可能に連結され、各対称な一対のフレーム4,6同士を互いに一体的に連結する。連結された中央部付近のシート下部にて、緩衝装置34を介して各上部フレーム4及び下部フレーム6を相対的に上下動可能に支持する。各上部フレーム4及び下部フレーム6の後部両側には、一対の各上部フレーム4及び下部フレーム6を、コイルバネ114を介して連結したバネ付連結器40を備える。各上部フレーム4及び下部フレーム6が、緩衝装置34及びバネ付連結器40とともにリンクを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歩行不能な怪我や、体に障害者を持った人が利用する手動式や電動式などの車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被介護者や体に障害を持ち歩行が難しい人が利用する手動式や電動式の車椅子は、スチール製やアルミ製等のパイプ材によりフレームを形成している。一般に、手動式車椅子や介護用車椅子では、サスペンションなどは設けられておらず、フレーム支柱にそのまま前輪や後輪が取り付けられている。また、電動式車椅子では、モータやバッテリなど重量物を搭載しているため、部分的に後輪の取付箇所にバネなどを介して支持したものもある。
【0003】
上記の従来の車椅子は、搭乗者自身の操作や介護で車椅子を押す人により車椅子を走行しているとき、走行面の凹凸が直接搭乗者に伝わり、あまり乗り心地がよいものではなかった。また、歩道や家庭でのちょっとした段差や凹凸により前のめりになったり、あるいは段差を降りる衝撃を後輪からそのまま体に受けたりし、不快感や、時には恐怖感を感じるものであった。また、電動式車椅子では、後輪がバネなどを介して取り付けられているが、モータによる後輪の駆動力を効率よく路面に伝えるために、後輪の路面に対する追従性の向上を主な目的としており、良好な乗り心地を求めたものではない。
【0004】
これらの欠点を改善するため、特許文献1では、前輪と後輪を取り付けるフレーム支柱にバネを組み込むことを開示している。このバネにより、前輪や後輪に加わる振動や衝撃を緩和・吸収し、屋内や屋外、歩道や道路で快適に走行でき、小さな段差や凹凸を気にすることなく走行できるとしている。
【0005】
また、特許文献2では、車椅子の後部にバネにより弾性支持された後部自在輪を設けて、段差、凸凹あるいは急激な傾斜の変化に対応して上下に変位し、車体を常に安定した状態に維持できると共に、使用者への衝撃が緩和されるものを開示している。
【特許文献1】特開2000−126240号公報
【特許文献2】特開平8−191862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、緩衝器としてバネのみの緩衝部をフレーム支柱に設け、その支柱に後輪の軸が取り付けている。このため、衝撃等を受けて縮んだバネは伸縮を繰り返して振動し、車椅子はしばらく上下動を繰り返してしまう。このような場合、乗り心地が不快なほか、凸凹が続く場合には、バネによる衝撃や振動の吸収が間に合わず十分に行われないため、車椅子の姿勢が不安定になる危険性がある。
【0007】
特許文献2は、後部自在輪のみが、バネを介してフレームに取り付けてある。この車椅子では、前輪が段差を越える際の衝撃により、後輪を軸に車体全体が後ろ向きに回転する力が加わる。その力が、後部自在輪に荷重となって加わり、衝撃や振動が吸収・緩和されるとしている。しかし、搭乗者の荷重がいちばん加わる後輪は、フレーム支柱に直接取り付けられているため、後輪から伝わる振動や衝撃は吸収されず、そのまま搭乗者に伝わってしまうという欠点が残る。
【0008】
この発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて成されたもので、歩道や道路その他通路の凹凸や小さな段差による振動や衝撃を吸収し、快適な乗り心地と安定した走行が可能な車椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上部フレーム及び下部フレームが互いに各々一対として配置され、前記各上部フレーム及び下部フレームは、前部の軸支部にて上下方向に揺動可能に連結され、前記各一対のフレーム同士を互いに一体的に連結し、連結された中央部付近のシート下部にて、緩衝装置を介して前記各上部フレーム及び下部フレームを相対的に上下動可能に支持し、前記各上部フレーム及び下部フレームの後部両側は、一対の各上部フレーム及び下部フレームをバネやダンパ等の緩衝部材を介して連結した連結器を備え、前記各上部フレーム及び下部フレームが、前記緩衝装置及び連結器とともにリンクを構成し互いに前記軸支部を中心として上下方向に揺動可能に連結された車椅子である。
【0010】
前記緩衝装置は、コイルバネとダンパが同軸に設けられたものが1本取り付けられたものである。または、前記緩衝装置は、前記シート下部の連結部材と前記下部フレームの連結部材の間に複数本設けられたものでも良い。
【発明の効果】
【0011】
この発明の車椅子によれば、歩道や道路などの小さな段差や路面の凹凸等を十分に吸収し、快適な乗り心地と安定した走行を可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の車椅子の一実施形態について、図1〜図4を基にして説明する。この実施形態の車椅子2は、介護者が被介護者を搭乗させて押したり、足に障害があり歩行が困難な人が搭乗し、自ら車輪を回して使用される。
【0013】
この実施形態の車椅子2は、図示するように、アルミ合金製のパイプ材を適宜切断し組み合わせ、溶接または螺子止めにより各々形成した各々対称な一対の上部フレーム4及び一対の下部フレーム6が車体を形成している。
【0014】
この実施形態の車椅子2の車体を形成するアルミ合金は、プレスや鍛造、押し出し加工によるアルミ展伸材から成る。展伸材には、添加元素の違いから日本工業規格により1000番系から7000番系まであるが、本実施形態の車椅子には、5000番系または7000番系を使用する。5000番系は、Al-Mg係合金で耐食性がよく、強度も優れている。また、7000番系は、Al-Zn-Mn係合金でアルミ合金のなかで最も強度が優れた材料である。
【0015】
次に、車体を形成する上部フレーム4について説明する。上部フレーム4は、図2に示すように、各々対称に一対設けられ、サイドフレーム8、フットレストフレーム10、シートフレーム12,14、背もたれフレーム16から形成されている。
【0016】
サイドフレーム8は、図2にあるように、パイプ材に2箇所の湾曲箇所を設けることにより形成され、その直線部分は、フットレスト形成部18、シートフレーム形成部20、縦フレーム形成部22となり、左右対称に形成され一対として設けられている。
【0017】
フットレストフレーム10は、図3に示すように、パイプ材をコの字状に湾曲して形成され、左右のサイドフレーム8がフットレスト形成部18にて連結される。このフットレストフレーム10の両端部は、左右のサイドフレーム8のフットレスト形成部18端部に挿入され、適宜な位置で螺子により固定されている。このフットレストフレーム10には、図3にあるような半長円形補強材24が溶接により固定され、フットレスト26を形成している。また、サイドフレーム8のフットレスト形成部18中間付近には、下部フレーム6を回動可能に支持する軸支部28が溶接により固定されている。
【0018】
サイドフレーム8のシートフレーム形成部20には、図1及び図2に示すように、両端部が湾曲したパイプ材2本からなる連結部材であるシートフレーム12,14が、左右のシートフレーム形成部20を連結するように溶接されている。この左右のシートフレーム形成部20には、シート用の布を渡して螺子30により固定され、シートの座面32を形成している。搭乗者が座面32に腰掛けた際に、ちょうど、お尻の下に位置するシートフレーム14には、後述するダンパ106とコイルバネ108から成る緩衝装置34が連結される軸支部36が溶接されている。
【0019】
また、サイドフレーム8の縦フレーム形成部22では、図1及び図2に示すように、両端部が湾曲した半長円状のパイプ材によりなる背もたれフレーム16が、左右の縦フレーム形成部22を連結するように溶接されている。さらに、縦フレーム形成部22の端部は、キャップ38が被着されている。縦フレーム形成部22から湾曲箇所に至る手前には、下部フレーム6とバネ付連結器40を介して揺動可能に連結するための軸支部42が溶接されている。バネ付連結器40は、コイルバネとバネの伸縮方向にガイドする伸縮ガイド部112からなり、両端が軸支部42,60に回動自在に支持されている。また、左右の縦フレーム形成部22には、図4に示すように図示しない方法で布が渡され固定し、シートの背もたれ44を形成している。
【0020】
次に、下部フレーム6について説明する。図1及び図3に示すように、下部フレーム6は、支持フレーム46、補強部材ダクト接続部,50、後輪支持部52、ブレーキ支持部54、前輪支持サブフレーム56からなる。
【0021】
支持フレーム46は、図2、図3に示すように、一方に縦フレーム形成部58を設けたL字状の湾曲箇所を備え、左右対称に一対として形成されている。縦フレーム形成部58の端部には、上部フレーム4とバネ付連結器40を介して回動自在に接続するための連結部である軸支部60を形成している。このL字状の車体底面側にあたる箇所は、僅かに長手方向中央付近から屈折している。また、湾曲箇所の内側には、略台形状に形成された後輪支持部52の凹型の嵌合部が支持フレーム46に嵌合し、溶接されている。この後輪支持部52は、略台形状で角部が落とされた板状をしており、複数の後輪軸取付貫通穴62を備える。この後輪軸取付貫通穴62は、左右対称な位置で適宜選択可能なものである。また、支持フレーム46に対して相対する向きで対称に傾きが加えてあり、後輪支持部52に後輪64を取り付けた際には、この傾きが後輪64のネガティブキャンバを形成するようになっている。ベアリングなどを備えた後輪軸66と一体に形成された後輪64は、後輪軸取付貫通穴62に後輪軸66を回動自在にナットにより固定している。この後輪64は、スポークを備えたものやアルミ合金一体型のホイール68を備え、中空タイヤ70を装着し、ホイール68の外側には車輪より僅かに径の小さいアルミ合金製のハンドル72がハンドル支持具74により固定されている。
【0022】
支持フレーム46の後輪支持部52の溶接位置近傍には、左右の支持フレーム46を連結するパイプ材で形成され連結部材である補強材48,50が各々溶接されている。車体底面側に位置する補強材48の長手方向中央には、上部フレーム4を緩衝装置34を介して揺動可能に支持する軸支部76が溶接されている。また、車体底面側に位置する支持フレーム46と後輪支持部52の嵌合位置近傍には、パイプ材をL字状に曲げて形成されたブレーキ支持部54が溶接され、ブレーキ支持部54の先端部にはブレーキ装置78及びレバー80が設けられている。
【0023】
支持フレーム46の車体底面側の端部近傍には、前輪支持サブフレーム56を備える。前輪支持サブフレーム56の端部近傍は湾曲しており、湾曲開口方向を車椅子の進行方向前方に向くように左右の支持フレーム46に溶接されている。この前輪支持サブフレーム56の端部には、図1〜図3にあるように、円柱状の前輪支持部82が固定されている。
【0024】
前輪支持部82は、長手方向内部に貫通穴を有し、貫通穴にベアリングなどを介して前輪支持具90が取り付けられている。さらに、貫通穴にはシャフト84が挿通され、前輪支持部82内部でシャフト留め具86等により底面側のシャフト止ナット88でシャフト84を旋回自在に軸支している。このシャフト止ナット88の下方に、フォーク状の前輪支持具90が取り付けられナット92により固定されている。
【0025】
前輪支持具90は、前輪94を支えるフォーク状部分が、前輪支持部に対して斜めに形成されており、前輪車軸96が回転可能に取り付けられている。前輪94は、樹脂製のホイール100にゴム製タイヤ102を装着して形成している。
【0026】
また、支持フレーム46の車体底面側の端部は、図2に示すように、上部フレーム4と回動可能に連結される軸支部104が形成されている。
【0027】
上部フレーム4と下部フレーム6は、軸支部104と、一つの緩衝装置器34、及び左右のバネ付連結器40により軸支部104を支点とし、上下方向に揺動可能に連結されている。緩衝装置34は、ダンパ106と例えば耐荷重40kg程度のコイルバネ108が同軸に位置して形成され、コイルバネ106を挟む一方の調整リング110を回動することによりコイルバネ106による堅さを微調整可能になっている。この緩衝装置34は、図1に示すように、上部フレーム4の軸支部36と下部フレーム6の軸支部76により回動自在に支持されている。また、バネ付連結器40は、図1に示すように、伸縮ガイド部112とバネ114が同軸に形成され、上部フレーム4の軸支部42と下部フレーム6の軸支部60に回動自在に支持されている。このバネ付連結器40のバネレートは、例えば緩衝装置34のバネレートの約1/2以下になるように設定されていればよい。
【0028】
この実施形態の車椅子2によれば、図1,図2(a)にあるように、上部フレーム4が、座面中央真下付近の搭乗者の重心近傍に位置する一カ所の緩衝装置34と、図1に示す背もたれの左右にある縦フレーム形成部22,58に設けられたバネ付連結器40の3点で弾性支持されるので、左右の後輪が受けた衝撃を、緩衝装置34とバネ付連結器40が吸収し、さらに、下部フレーム6のたわみによる左右の横揺れをバネ付連結器40が吸収するため、歩道や道路などの小さな段差や路面の凹凸による振動を吸収し、安定した走行を可能にするものである。特に、上部フレーム4と下部フレーム6は、軸支部28と軸支部104により連結されるとともに、緩衝装置34とバネ付連結49により回動可能に支持されたリンク機構を構成するので、後輪64が受ける振動が座面32に直接伝達されることがなく、緩衝および制振効果が大きく、良好な乗り心地を提供する。さらに、3点で振動や衝撃を分散吸収するため、緩衝装置34やバネ付連結器40のバネレートを相対的に小さくすることができ、よりソフトな乗り心地が可能なものである。
【0029】
なお、この発明の車椅子は上記実施形態に限定されるものではなく、前記緩衝装置は、前記シート下部の連結部材と前記下部フレームの連結部材の間に複数本設けられたものでも良い。これにより、小さい緩衝装置で乗り心地の良いものとすることができる。
【0030】
また、前輪支持部に緩衝器やバネを備えると、前輪からの振動が軽減され、歩道や道路などの小さな段差の乗り上げが安定するため、なおよい。また、背もたれの角度は、サイドフレームの縦フレーム形成部の角度を変えることで適宜設定可能であり、縦フレーム形成部に、搭乗者と両側の後輪との間に位置する肘掛けを取り付けても良い。さらに、車椅子のフレーム、シート、前輪及び後輪のホイール、ハンドルの素材などは、適宜変更可能であり、前輪及び後輪のホイールのデザイン等も適宜設定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の一実施形態の車椅子の緩衝装置及びバネ付連接器の取付状態を示す部分破断概略背面図である。
【図2】この実施形態の車椅子のフレーム部の概略平面図である。
【図3】この実施形態の車椅子のフレーム部の概略上面図である。
【図4】この実施形態の車椅子を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
2 車椅子
4 上部フレーム
6 下部フレーム
22 縦フレーム形成部
28,36,42,60,76,104 軸支部
34 緩衝装置
40 バネ付連結器
52 後輪支持部
64 後輪
106 ダンパ
108,114 コイルバネ
112 伸縮ガイド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部フレーム及び下部フレームが互いに各々一対として配置され、前記各上部フレーム及び下部フレームは、前部の軸支部にて上下方向に揺動可能に連結され、前記各一対のフレーム同士を互いに一体的に連結し、連結された中央部付近のシート下部にて、緩衝装置を介して前記各上部フレーム及び下部フレームを相対的に上下動可能に支持し、前記各上部フレーム及び下部フレームの後部両側には、一対の各上部フレーム及び下部フレームを連結した連結器を備え、前記各上部フレーム及び下部フレームが、前記緩衝装置及び連結器とともにリンクを構成し、互いに前記軸支部を中心として上下方向に揺動可能に連結されたことを特徴とする車椅子。
【請求項2】
前記緩衝装置は、前記シート下部の連結部材と前記下部フレームの連結部材の間に複数本設けられたものであることを特徴とする請求項1記載の車椅子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−110030(P2006−110030A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299730(P2004−299730)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(596004772)カナヤママシナリー株式会社 (7)