説明

車輪用旋盤装置

【課題】車輪を削正するチップの長寿命化を図るとともに、1つの車輪を削正する時間を短縮化させる車輪用旋盤装置を提供する。
【解決手段】削正手段は、前記踏面を荒削りする第1削正部と、前記第1削正部により荒削りされた前記踏面を仕上げ削りする第2削正部とを有し、前記制御部は、前記第1削正部による荒削り中に、前記第2削正部による仕上げ削りを開始させる制御を行うので、1つの車輪を削正する削正時間を短縮できるとともに、削正精度を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車輪用旋盤装置、詳しくは床置式の鉄道車輪用旋盤装置の機構に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、床置式の鉄道車輪用旋盤装置は、鉄道車両から取り外した車輪を回転駆動する駆動手段と、前記駆動手段により回転させている前記車輪の踏面を削正する削正手段と、前記駆動手段及び前記削正手段の動作を制御する制御部とを備え、前記車輪の踏面を削正することにより、前記踏面を基本形状に戻すものである。
【0003】
従来の床置式の車輪用旋盤装置では、刃物台に配設された1個のチップで車輪の踏面およびフランジ面を削正していた。しかし、同じチップを使用して長時間削正すると、チップが磨耗または破損してしまい、車輪の踏面およびフランジ面の仕上り精度が向上しないことがあった。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に記載の発明のように、刃物台にチップを2つ備えた車輪用旋盤装置が開示されている。すなわち、一方のチップで踏面を削正し、他方のチップでフランジを削正することにより、チップの長寿命化を図る技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−225205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載の発明では、一方のチップで踏面を削正した後、フランジを削正していたため、踏面を削正する削正時間とフランジを削正する削正時間との和の削正時間を要していた。これにより、削正による車輪を基本形状に戻す作業効率を悪化させていた。
【0006】
この発明は、上記課題を解決するためになされたもので、車輪を削正するチップの長寿命化を図るとともに、1つの車輪を削正する削正時間を短縮化することができる車輪用旋盤装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明では、鉄道車両から取り外した車輪を回転駆動する駆動手段と、前記駆動手段により回転させている前記車輪の踏面およびフランジ面を削正する削正手段と、前記駆動手段及び前記削正手段の動作を制御する制御部とを備え、前記踏面および前記フランジ面を削正することにより基本形状に戻す車輪用旋盤装置において、前記削正手段は、前記踏面および前記フランジ面を荒削りする第1削正部と、前記第1削正部により荒削りされた前記踏面および前記フランジ面を仕上げ削りする第2削正部とを有し、前記制御部は、前記第1削正部による荒削り中に、前記第2削正部による仕上げ削りを開始させる制御を行うことを特徴とする。
【0008】
(2)本発明では、前記(1)に記載の車輪用旋盤装置において、前記第1削正部は、前記踏面および前記フランジ面を荒削りする荒削用バイトを有し、前記第2削正部は、前記踏面および前記フランジ面を仕上げ削りする仕上げ用バイトを有し、前記仕上げ用バイトは、削正の際、前記荒削用バイトと前記踏面および前記フランジ面との当接位置よりも上方で、かつ、前記踏面および前記フランジ面と当接する位置に設けたことを特徴とする。
【0009】
(3)本発明では、前記(2)に記載の車輪用旋盤装置において、前記荒削用バイトおよび前記仕上げ用バイトは、踏面からフランジ面の一部までを削正する踏面用チップと、前記フランジ面の一部以外のフランジ面を削正するフランジ用チップとを備えたことを特徴とする。
【0010】
(4)本発明では、前記(3)に記載の車輪用旋盤装置において、前記踏面用チップおよび前記フランジ用チップは長円形を有し、前記踏面用チップはその短辺側が前記踏面および前記フランジ面に対して平行に配設され、前記フランジ用チップはその短辺側が前記踏面および前記フランジ面に対して垂直に配設されたことを特徴とする。
【0011】
(5)本発明では、上記(1)〜(4)に記載の車輪用旋盤装置において、前記車輪を支持する車軸の軸心位置と、前記車輪及び前記踏面および前記フランジ面の形状を測定する非接触型のセンサを複数備え、前記制御部は、前記第1削正部及び前記第2削正部に、前記非接触センサの測定結果に基づいて、前記踏面および前記フランジ面の削正を行わせることを特徴とする。
【0012】
(6)本発明では、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の車輪用旋盤装置において、当該車輪用旋盤装置へ搬入した前記車輪を前記削正手段による削正位置に位置合わせする車輪昇降部を備え、前記車輪昇降部は、前記車輪を支持する車軸に回動自在に配設されている駆動機構及び/又は減速機構を支持する機構支持部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、削正手段は、前記踏面および前記フランジ面を荒削りする第1削正部と、前記第1削正部により荒削りされた前記踏面および前記フランジ面を仕上げ削りする第2削正部とを有し、前記制御部は、前記第1削正部による荒削り中に、前記第2削正部による仕上げ削りを開始させる制御を行うので、1つの車輪を削正する削正時間を短縮できるとともに、削正精度を向上することができる。すなわち、第1削正部での荒削りの後に、追従しながら第2削正部での仕上げ削りを行うので、第1削正部での荒削りの開始から第2削正部での仕上げ削りの完了までの削正時間の短縮化が図れる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、前記第1削正部は、前記踏面および前記フランジ面を荒削りする荒削用バイトを有し、前記第2削正部は、前記踏面および前記フランジ面を仕上げ削りする仕上げ用バイトを有し、前記仕上げ用バイトは、削正の際、前記荒削用バイトと前記踏面および前記フランジ面との当接位置よりも上方で、かつ、前記踏面および前記フランジ面と当接する位置に設けているので、仕上げ用バイトより削正量が大きく、削正時に力を要する荒削用バイトを下方に配置することにより、荒削用刃物台を床上に設置することができる。一方、仕上げ用バイトは、荒削り用バイトよりも上方に配置しているので、車輪の上方に仕上げ用バイトを配置することができ、スペースの有効化を図ることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、前記荒削用バイトおよび前記仕上げ用バイトは、踏面からフランジ面の一部までを削正する踏面用チップと、前記フランジ面の一部以外のフランジ面を削正するフランジ用チップとを備えているので、1つのバイトで踏面からフランジの終端まで削正する場合に比べて、踏面用バイトおよびフランジ用バイトの長寿命化が図れる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、前記踏面用チップおよび前記フランジ用チップは長円形を有し、前記踏面用チップはその短辺側が前記踏面および前記フランジ面に対して平行に配設され、前記フランジ用チップはその短辺側が前記踏面および前記フランジ面に対して垂直に配設されているので、踏面用バイトその短辺側で削正することができ、フランジ用バイトはその短辺側でフランジ部のバック部分を削正することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、前記車輪を支持する車軸の軸心位置と、前記車輪及び前記踏面および前記フランジ面の形状とを測定する非接触型のセンサを複数備え、前記制御部は、前記第1削正部及び前記第2削正部に、前記非接触センサの測定結果に基づいて、前記踏面および前記フランジ面の削正を行わせるので、従来接触計測していた接触子の磨耗やその磨耗の修正などの問題が生じない。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、当該車輪用旋盤装置へ搬入した前記車輪を前記削正手段による削正位置に位置合わせする車輪昇降部を備え、前記車輪昇降部は、前記車輪を支持する車軸に回動自在に配設されている駆動機構及び/又は減速機構を支持する機構支持部を有しているので、前記駆動機構、前記減速機構などを分解せずに車輪を削正することができ、削正時間の短縮化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本実施形態における車輪用旋盤装置は、鉄道車両から取り外した車輪を回転駆動する駆動手段と、前記駆動手段により回転させている前記車輪の踏面を削正する削正手段と、前記駆動手段及び前記削正手段の動作を制御する制御部とを備えたものである。
【0020】
本実施形態における車輪用旋盤装置は、踏面およびフランジ面を、削正することにより基本形状に戻すものである。ここで、基本形状に戻すとは、前記踏面および前記フランジ面を所定の表面粗さにして、鉄道が安定走行できる状態に戻すことをいう。
【0021】
本実施形態における車輪用旋盤装置で削正される鉄道車両の車輪は、駆動機構、減速装置などを備えたものでもよい。本実施形態における車輪用旋盤装置は、駆動機構、減速装置などを備えたものでも、その駆動機構、減速装置を分解することなく、踏面を削正することができる。もちろん、本実施形態における車輪用旋盤装置は、減速機なしの車輪部のみを有するものでも削正できる。
【0022】
また、削正される鉄道の車輪の大きさ、車輪の間隔は限定されない。また、削正する車輪の踏面の幅、フランジ面の幅、踏面に対するフランジ頂上部の高さは限定されない。
【0023】
前記削正手段は、前記踏面および前記フランジ面を荒削りする第1削正部と、前記第1削正部により荒削りされた前記踏面および前記フランジ面を仕上げ削りする第2削正部とを有している。第1削正部での前記踏面および前記フランジ面を荒削りする削り量は限定されない。また、第1削正部での前記踏面および前記フランジ面を荒削りするときの送り速度は限定されない。
【0024】
一方、仕上げ削りをする第2削正部は、第1削正部での荒削りに追従しながら踏面およびフランジ面を削正する。その第2削正部での前記踏面および前記フランジ面を荒削りする削り量は限定されない。また、第2削正部での前記踏面および前記フランジ面を荒削りするときの送り速度は限定されない。
【0025】
さらに、本実施形態における車輪用旋盤装置は、第1削正部による荒削り中に、第2削正部での仕上げ削りを開始するように制御部において制御されている。すなわち、第1削正部での荒削りの直後に、追従しながら第2削正部での仕上げ削りを行うことができ、これにより、削正時間の短縮化を図ることができる。また、第1削正部での荒削りの状況を見て、第2削正部による仕上げ削りを開始することもできる。
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながらより具体的に説明する。図1は本実施形態における床置式の車輪用旋盤装置の全体構成を示す正面図、図2は本実施形態における床置式の車輪用旋盤装置の全体構成を示す平面図、図3は本実施形態における床置式の車輪用旋盤装置の全体構成を示す側面図である。
【0027】
まず、本実施形態における車輪用旋盤装置10の全体構成について図1〜図3を参照して説明する。
【0028】
本実施形態における車輪用旋盤装置10は、図1〜図3に示すように、床置式のもので、左右の車輪11を同時に削正する門型のタイプである。したがって、左右の車輪11を削正する削正手段などは左右対称に配設されている。その門型の車輪用旋盤装置10の前方には一対のレール33が敷設され、そのレール33上に鉄道車両から取り外した車輪11を載置して、その載置した車輪11を前記門型の中央部において削正する。
【0029】
本実施形態における車輪用旋盤装置10は、装置全体を固定する本体部20を備えている。また、車輪用旋盤装置10は、鉄道車両から取り外した車輪11を削正箇所において回転駆動する駆動手段12と、前記駆動手段12により回転させている前記車輪11の踏面100を削正する削正手段と、前記駆動手段12及び前記削正手段の動作を制御する制御部とを備えている。さらに、本実施形態における車輪用旋盤装置10は、削正箇所まで車輪11を搬送させる搬送手段103と、車輪11を削正箇所まで昇降させる昇降手段104とを備えている。
【0030】
本体部20は、装置全体の基台となるベット21を床下に配設している。ベット21の両端部には、架台24がベット21上から上方に延設されている。さらに、その両端部の架台24の上部に、一本の略直方体状のクロスレール25が配設されている。主軸ベース体22と前記クロスレール25との間には、クロスレール受け26が配設されている。そして、ベット21上には、鉄道車両から取り外した車輪11を削正箇所において回転駆動する駆動手段12を備えている。
【0031】
駆動手段12は、削正する際に車輪11を固定する回転主軸23を備えた主軸ベース体22が各左右に配設されている。主軸ベース体22の間隔は、左右の車輪11の間隔に対応して、架台24の下部に設けられた主軸ベース体移動用モータ42により変更可能に設けられている。
【0032】
回転主軸23は、略円柱形状を有し、車輪11を削正する際、車輪11を支持しながら回転させるものである。回転主軸23は、前記クロスレール受け26の背面に配設された主軸用モータ39により、伝動ベルト60を介して回転自在に設けられている。また、回転主軸23は、車輪11を固定する複数個のチャック27を配設している。図1に示すように、回転主軸23から車輪11の方向に突出して配設されてチャック27が所定間隔、すなわち、180度間隔を有して3つのチャック27が配設されている。図3に示すように、回転主軸23に対する各チャック27の位置を放射状に変更することにより、車輪11の直径の大きさに対応することができる。また、各チャック27の先端には、車輪11側に配設された溝(図示せず)に掛止する爪28が配設されている。爪28の先端は車輪11への固定を確実にするために、複数個の凹凸部が刻まれている。
【0033】
削正手段は、前記駆動手段で車輪11を回転させながら車輪11の踏面100を削正するものである。削正手段は、左右対称に配設されているので、ここでは、左右の一方について説明する。削正手段は、車輪11の踏面100およびフランジ面101を荒削りする第1削正部13と、仕上げ削りする第2削正部14とを有している。
【0034】
図4は、荒削りを行う第1削正部13の構成を示す平面図である。図5は、仕上げ削正を行う第2削正部14の構成を示す正面図である。
【0035】
第1削正部13は、図4に示すように、第1削正用刃物台56を備え、その第1削正用刃物台56は旋盤箇所に対して車輪11の搬送手段103とは反対側に配設されている。第1削正用刃物台56は、水平方向であって、縦送り用モータにより車輪11の方向に移動可能に設けられている。第1削正用刃物台56の荒削り用縦送りモータ71は、第1削正用刃物台56の後端部に配設されている。また、図3に示すように、第1削正用刃物台56は、主軸ベース体22の下部に配置された荒削り用横送りモータ72により、車輪11の幅方向に移動可能に設けられている。
【0036】
第1削正用刃物台56は、その端部に、略直方体の形状を有する荒削り用バイト58をねじで固定している。荒削り用バイト58としては、矩形状の刃物の先端に長円形のチップが配設されている。チップの素材は、炭素鋼である。チップは、略長円形状を有するもので、刃物の先端部において所定間隔を有して2個配設されている。一方は踏面100からフランジ面101の一部までを削正する踏面用チップ18であり、他方の荒削り用バイト58は前記フランジ面101の一部以外を削正するフランジ用バイトである。そして、図10に示すように、踏面用バイトはその短辺側が前記踏面100に対して平行に配設され、前記フランジ用バイトはその短辺側が前記踏面100に対して垂直に配設されている。
【0037】
また、第1削正用刃物台56には、車輪11に配設されたブレーキディスク37を削正するディスク用チップ50が配設されている。すなわち、第1削正用刃物台56上であって、前記荒削り用バイト58とは所定距離を有して、ディスク用刃物台35上に配設された前記ディスク用チップ50が配設されている。ディスク用刃物台35は、車輪11の方向に移動可能に配設されている。
【0038】
第2削正部14は、図5に示すように、前記第1削正部13より上方に位置に配設され、車輪11の踏面100およびフランジ面101の仕上げ削りを行う。第2削正部14は、第2削正用刃物台57を備えている。第2削正用刃物台57は、垂直方向であって、仕上げ用縦送りモータ73により車輪11の方向に移動可能に設けられている。仕上げ用縦送りモータ73は、第2削正用刃物台57の上部に配設されている。第2削正用刃物台57は、水平方向であって、仕上げ用横送りモータ74により車輪11の幅方向に移動可能に設けられている。仕上げ用横送りモータ74は、クロスレール25上に配設されている。そして、第2削正用刃物台57の下部には仕上げ用バイト59がねじで固設されている。
【0039】
仕上げ用バイト59は、矩形状の刃物の先端に長円形のチップが配設されている。チップの素材は、炭素鋼である。チップは、図10に示すように、略長円形状を有し、2つ配設されている。すなわち、踏面100からフランジ面101の一部までを削正する踏面用チップ18と、前記フランジ面101の一部以外を削正するフランジ用チップ19とを備えている。そして、踏面用チップ18はその短辺側が前記踏面100に対して平行に配設され、前記フランジ用チップ19はその短辺側が前記踏面100に対して垂直に配設されている。
【0040】
制御部は、前記駆動手段及び前記削正手段の動作を制御する。具体的には、制御部は、前記第1削正部13による荒削り中に、前記第2削正部14による仕上げ削りを開始させる制御を行う。制御部は、CPUを主体に、ROM記憶媒体などを備えている。その記録媒体には、踏面100およびフランジ面101の削正量や刃物台の送り速度の情報が織り込まれたNC制御プログラムが格納されている。制御部の操作は、旋盤箇所の横部に設置された制御ボックス(図示せず)により行うことができる。
【0041】
次に、搬送手段103および昇降手段104について図6〜図7を参照して説明する。図6は、搬送前の搬送手段103の構成、昇降前の昇降手段の構成を説明する説明図、図7は搬送後の搬送手段103の構成、昇降後の昇降手段の構成を説明する説明図である。
【0042】
搬送手段103は、図6に示すように、旋盤箇所に車輪11を搬送する一対のレール33が床上に敷設されている。そして、床下内には一組のスプロケット41が配設され、そのスプロケット41にチェーン40が巻回されている。チェーン40の一部は、レール33の左右側であって、床面に沿って延設されている。また、チェーン40の上部に車輪11を載せて搬送させる板材44が配設されている。板材44は、側面視して複数個の凹凸を有するものが配設されている。そして、その凹凸を有する板材44には、搬送時に車輪11が板材44から脱落するのを防止する車輪止め64が配設されている。
【0043】
また、車輪用旋盤装置10は、減速機16付きの車輪11であっても削正できるように、減速機載置台34が床43上を移動可能に配設されている。すなわち、一対のレール33間に、平板状の減速機載置台34が減速機載置用レール36上を移動可能に配設されている。そして、減速機16とともに車輪11を旋盤装置内に投入すれば、減速機16付き車輪11でも削正を行うことができる。
【0044】
さらに、本実施形態における車輪用旋盤装置10は、車輪11を回転部に昇降させる昇降手段104を備えている。昇降手段104は、車輪11本体を上方に昇降させる本体用昇降手段105と、車輪11本体と同時に減速機16を昇降させる減速機昇降手段106とを有している。
【0045】
本体用昇降手段105は、車輪用旋盤装置10の下方の床下内に配設されている。すなわち、図6に示すように、本体用昇降手段105は、一対の車輪11を床下から支持しながら上方に昇降させる車輪載置台30が配設される。車輪載置台30の両端部には、車輪11のフランジ面101を掛止する掛止部47が設けられている。車輪載置台30の下部には、昇降シリンダ32が配設されている。すなわち、昇降シリンダ32のロッド31を上下に進退させることにより、車輪載置台30を上下に昇降させることができる。これにより、車輪11を上方に昇降させ、回転主軸23に固定することができる。
【0046】
減速機昇降手段は、図7に示すように、前記搬送手段103を昇降させる昇降用モータなどが床下内に配設されている。すなわち、昇降用モータ65を駆動することにより、昇降アーム66を垂直方向に伸縮することができる。これにより、減速機昇降手段は、車輪11に配設された減速機16とともに、減速機16を削正位置まで搬送させる搬送手段103を昇降させることができる。
【0047】
また、本実施形態における車輪用旋盤装置10は、車軸38の位置を位置決めする位置決めセンサを備えている。具体的には、図2に示すように、正面視して右側主軸の前方から旋盤位置に横設された棒状のセンサ支持部材46が配設され、そのセンサ支持部材46の先端には、車輪11の軸部の位置を検出する位置決めセンサ45が配設される。その位置決めセンサ45は、赤外線レーザを下方に照射して、その下方からの反射光を検出することにより、車軸38の位置および高さを検出する。
【0048】
さらに、本実施形態における車輪用旋盤装置10は、車輪11の形状や寸法を測定する測定手段15を備えている。すなわち、本実施形態における車輪用旋盤装置10は、複数個の赤外線センサを用いた非接触式の測定手段15を有している。具体的には、図8に示すように、仕上げ用刃物台には、センサ固定部材48が回動軸部材49を軸に垂直に回動自在に配設されている。センサ固定部材48の先端部には、赤外線レーザ光を照射し、その反射光を受光する光センサを備えた測定手段15が配設されている。
【0049】
具体的には、測定手段15は、図9に示すように、踏面100までの距離をセンシングする第1センサ部51と、フランジ面のR部分の形状をセンシングする第2センサ部52と、フランジまでの高さを測定する第3センサ部53および第4センサ部54と、フランジ面のバック部までの距離をセンシングする第5センサ部55を有している。
【0050】
次に、本実施形態における車輪用旋盤装置10での具体的な旋盤方法について説明する。
【0051】
まず、鉄道から取り外した車輪11を、車輪置用レール62に載置する。次いで、図2に示すように、削正する車輪11を、方向変更板63により、車輪用旋盤装置10の前方に配設されているレール33に載置する。そして、レール33の左右側に配設された板材44を旋盤位置に向かって搬送する。これにより、板材44の上に配設された車輪止めが前方に押し出され、車輪11が旋盤位置の方向に搬送される。また、減速機16付きの車輪11では、減速機16を一対のレール33間に設けられた減速機載置台34に載置した状態で搬送する。
【0052】
そして、車輪11を車輪載置台30の車輪固定位置まで搬送し、位置決めセンサ45で車軸位置を確認しながら車輪11を旋盤位置に固定する。次いで、車輪11を回転主軸23に固着できるまで載置台を上昇させる。すなわち、図7に示すように、床下に配設されたシリンダのロッド31を伸延することにより、車輪載置台30とともに車輪11を上昇することができる。また、同時に、減速機載置台34も前記車輪載置台30とともに昇降するので、減速機16付きの車輪11を上昇することができる。したがって、車輪11から減速機16を分解することなく、減速機16付きの車輪11を昇降することができる。
【0053】
この後、車輪11を所定の高さ位置まで上昇させ、左右の回転主軸23に配設されたチャック27の爪28を車輪11の掛止孔に掛止する。車輪11をチャック27で掛止した後、左右の回転主軸23で挟み込んで車輪11を固定する。そして、主軸モータにより回転主軸23を回転させて、その回転主軸23に固定された車輪11を所定回転数で回転させる。
【0054】
また、図9に示すように、測定手段15を用いて、車輪11の直径、踏面100の幅、フランジの高さ、フランジの厚さ、踏面100振れ、車輪内面距離、車輪幅などを自動的に測定する。車輪11の直径は、踏面100での距離と、車軸38までの位置とを制御部において演算することにより測定することができる。
【0055】
さらに、水平方向から左右の第1削正用刃物台56を車輪11に近づけ、垂直方向から左右の第2削正用刃物台57を車輪11に向かって降下させる。また、図11に示すように、踏面100に、荒削り用バイト58の先端に配設された踏面用チップ18を当接させる。そして、フランジとは反対側の踏面100の端部から荒削りの削正を開始させる。
【0056】
荒削り削正は、前記踏面100およびフランジ面101のトップ部分を経て、フランジのバック部分まで行われる。また、踏面100からフランジ面101までの一部を、荒削り用バイト58の先端に縦向きに配設された踏面用チップ18で削正し、前記フランジ面101以外のフランジ面101(フランジのバック部分)を横向きに配設されたフランジ用チップ19で削正する。
【0057】
また、仕上げ用バイト59を車輪11の踏面100に当接させ、荒削り用バイト58で荒削り中に、仕上げ用バイト59で仕上げ削正を行う。仕上げ削正は、荒削り用バイト58の後を仕上げ用バイト59が追従動作するように制御部において制御する。また、荒削りの場合と同様に、踏面100とフランジ面101の一部までを仕上げ用バイト59の先端に縦向きに配設された踏面用チップ18で削正する。
【0058】
前記荒削り用バイト58により、車輪11の踏面100を削正する削正量は、1〜15mmである。また、荒削り用バイト58の削正時の速度は、0.5〜1.6mm/minである。
【0059】
一方、前記仕上げ用バイト59により、車輪11の踏面100を削正する削正量は1〜10mmである。また、仕上げ用バイト59の削正時の速度は、0.7〜1.6mm/minである。
【0060】
このように、第1削正部13による荒削り中に、前記第2削正部14による仕上げ削りを開始させるので、第1削正部13および第2削正部14での削正時間の短縮と、削正精度の向上を実現することができる。
【0061】
前記第1削正部13での荒削り、前記第2削正での仕上げ削りを完了した後は、前記昇降手段により、車輪11を減速機16とともに床上まで降下させる。その後、車輪11をレール33上に配置し、レール33横に配設された搬送手段103で、車輪11を投入口まで戻して、一連の削正工程を完了させる。
【0062】
図12は、車輪の踏面およびフランジ面の表面粗さの状態を示す説明図である。走行前の車輪は、磨耗がない基本形状を有している。所定距離を走行した車輪には、車輪踏面磨耗dやフランジ面磨耗eが生じる。そこで、第1削正部13での荒削りを行うと、車輪の踏面100およびフランジ面101は、荒削りbの状態になる。そして、第2削正部14での荒削りを行うと、車輪の踏面100およびフランジ面101は、仕上げcの状態になり、車輪は基本形状に相似した形状に削正されるのである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本実施形態における車輪用旋盤装置の全体構成を示す正面図である。
【図2】本実施形態における車輪用旋盤装置の全体構成を示す平面図である。
【図3】本実施形態における車輪用旋盤装置の全体構成を示す側面図である。
【図4】本実施形態における車輪用旋盤装置の第1削正部の刃物台の構成を示す平面図である。
【図5】本実施形態における車輪用旋盤装置の第2削正部の刃物台の構成を示す平面図である。
【図6】本実施形態における車輪用旋盤装置の搬送前の搬送手段の構成および上昇前の昇降手段の構成を示し、(a)はその側面図であり、(b)はその平面図である。
【図7】本実施形態における車輪用旋盤装置の搬送後の搬送手段の構成および上昇後の昇降手段の構成を示し、(a)はその側面図であり、(b)はその平面図である。
【図8】本実施形態における車輪用旋盤装置の測定手段の構成を示し、(a)はその正面図であり、(b)はその側面図である。
【図9】本実施形態における車輪用旋盤装置の測定手段のセンサ部の構成を示す正面図である。
【図10】本実施形態における車輪用旋盤装置の削正時の刃物の動作状態を示す正面図である。
【図11】本実施形態における車輪用旋盤装置の第1削正部および第2削正部の動作状態を示す斜視図である。
【図12】本実施形態における車輪用旋盤装置での削正した車輪の形状を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
10 車輪用旋盤装置、
11 荒削部
12 仕上げ部
13 荒削用バイト
14 仕上げ用バイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両から取り外した車輪を回転駆動する駆動手段と、前記駆動手段により回転させている前記車輪の踏面およびフランジ面を削正する削正手段と、前記駆動手段及び前記削正手段の動作を制御する制御部とを備え、
前記踏面および前記フランジ面を、削正することにより基本形状に戻す車輪用旋盤装置において、
前記削正手段は、
前記踏面および前記フランジ面を荒削りする第1削正部と、
前記第1削正部により荒削りされた前記踏面および前記フランジ面を仕上げ削りする第2削正部とを有し、
前記制御部は、
前記第1削正部による荒削り中に、前記第2削正部による仕上げ削りを開始させる制御を行うことを特徴とする車輪用旋盤装置。
【請求項2】
前記第1削正部は、前記踏面および前記フランジ面を荒削りする荒削用バイトを有し、
前記第2削正部は、前記踏面および前記フランジ面を仕上げ削りする仕上げ用バイトを有し、
前記仕上げ用バイトは、削正の際、前記荒削用バイトと前記踏面および前記フランジ面との当接位置よりも上方で、かつ、前記踏面および前記フランジ面と当接する位置に設けたことを特徴とする請求項1に記載の車輪用旋盤装置。
【請求項3】
前記荒削用バイトおよび前記仕上げ用バイトは、踏面からフランジ面の一部までを削正する踏面用チップと、前記フランジ面の一部以外のフランジ面を削正するフランジ用チップとを備えたことを特徴とする請求項2に記載の車輪用旋盤装置。
【請求項4】
前記踏面用チップおよび前記フランジ用チップは長円形を有し、
前記踏面用チップはその短辺側が前記踏面および前記フランジ面に対して平行に配設され、
前記フランジ用チップはその短辺側が前記踏面および前記フランジ面に対して垂直に配設されたことを特徴とする請求項3に記載の車輪用旋盤装置。
【請求項5】
前記車輪を支持する車軸の軸心位置と、前記車輪及び前記踏面および前記フランジ面の形状を測定する非接触型のセンサを複数備え、
前記制御部は、前記第1削正部及び前記第2削正部に、前記非接触センサの測定結果に基づいて、前記踏面および前記フランジ面の削正を行わせることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の車輪用旋盤装置。
【請求項6】
当該車輪用旋盤装置へ搬入した前記車輪を前記削正手段による削正位置に位置合わせする車輪昇降部を備え、
前記車輪昇降部は、前記車輪を支持する車軸に回動自在に配設されている駆動機構及び/又は減速機構を支持する機構支持部を有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の車輪用旋盤装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−56550(P2009−56550A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226007(P2007−226007)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(507293505)株式会社ケイ・エス・ケイ (2)
【Fターム(参考)】