説明

軟質エポキシ樹脂を用いたアスベスト飛散防止方法

【課題】
建築物などのアスベスト吹き付け層の長期的なアスベストの飛散防止、あるいはその剥離作業時にアスベストの飛散を確実に防止し、かつ剥離されたものを処理して安定化させるための方法を提供する。
【解決手段】
アスベストを含む層に軟質エポキシ樹脂を吹き付けなどによって供給し、アスベストを軟質エポキシ樹脂で浸潤する。そしてそのまま建物を使用するか、あるいはアスベストを含む層の剥ぎ取り作業を行う。アスベストを含む層に軟質エポキシ樹脂を注入しアスベストを軟質エポキシ樹脂で浸潤した後、遊離の樹脂を吸引してから、アスベストを含む層の剥ぎ取り作業を行う。また、剥ぎ取られたアスベストを含む層を、1350℃以上に加熱して安定化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト吹き付けを行った建築物をそのままの状態で維持する場合、あるいはアスベストを含む層の剥ぎ取り作業を行う場合の、アスベストの飛散を防止する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスベストは,耐熱性、耐磨耗性など工業的に優れた特性を持っているために、建築関係では、保温材、吸熱材、吸音材などとして吹き付け材として広く採用されてきた。しかし、最近になって、アスベストに起因すると思われる肺ガン・中皮腫患者が増加して大きな社会問題になっている。
これまで使われたアスベスト吹き付け物には、吸音・結露防止用にはアスべスト約70%、耐火被覆用にはアスべスト約60%、それ以外のアスベスト含有吹き付け材としては、アスベスト30%以下あるいは5%以下などがある。現在はアスベスト含有量が1%以上のものは使用禁止されている。しかし、すでに施工されているものについては、アスベストの飛散を完全に防止するか、あるいはアスベスト含有物を取り除くことが望まれている。後者の場合、アスベストの飛散が起こることが問題である。旧建設省のマニュアルには、建物をシートで覆った上、薬剤を混ぜた水を撒いて飛散を防止し、作業員も専用の防護服や防塵マスクを着用することが定められている。また、その処分の仕方についても、耐水性シートで二重に梱包して、土中や水中への流出防止等を施した管理型処分場に埋めることが厚生省令で規定されている。しかし、実際には、解体撤去作業現場の近傍地点では、アスベストの飛散が観察される場合があって、より確実にアスベストの飛散を防止できる方法が求められている。
【0003】
特許文献1には、除去しようとするアスベスト層の領域の外方を箱型フードで覆い、剥離されたアスベストを吸引することで、外部への放散を防止する方法が示されている。また、特許文献2には、プラスチックシートによる全面養生と硬化剤あるいは飛散防止剤の全面塗布を省略して省力化を図る方法として、四方を透明パネルで囲った作業空間を形成して、アスベスト撤去面を局部的に養生した後、フレキシブルホースを介してバキューム車に吸引する方法が示されている。さらに特許文献3には、アスベスト除去工具を移動させてもフード外部へのアスベストの飛散を確実に防止するために、フードの内部周辺にノズルから泡を噴出させてシールする方法が示されている。また、特許文献4には、アスベアスト表面における酸化活性を低減あるいは消滅させる方法として、アルカリ金属成分およびアルカリ土類金属成分を溶解する溶剤に浸漬あるいは接触させて、アルカリ金属成分およびアルカリ土類金属成分を洗浄・低減した後、糸状菌を培養する方法が示されている。
【特許文献1】特開平8−28027号公報
【特許文献2】特開平9−72111号公報
【特許文献3】特開平9−125707号公報
【特許文献4】特開2005−152780号公報 特許文献1〜3の方法はいずれも密閉系を形成してアスベストを外部に放散させないことに着眼しているが、現場作業でそれを完全に行なうことは容易ではない。また、特許文献4の方法は、広いアスベスト吹き付け層全体に行うことが容易ではない。
【0004】
一方、エポキシ樹脂を建物関連で用いることについては、従来、硬質ものがコンクリートの割れ目の補修などに用いられてきた。その場合には、コンクリートに匹敵する強度を持つことが必要条件であり、本発明で用いられる軟質エポキシ樹脂は対象外であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アスベストを含む層をそのままの状態でアスベストの飛散を確実に防止するか、あるいはアスベスト吹き付け層の剥離作業時にアスベストの飛散を確実に防止し、かつ剥離されたものを完全に安定化するための方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための本発明の着眼は、軟質エポキシ樹脂を用いて、アスベストを効率的に浸潤し、また通常の硬化剤とちがって硬化度が小さいために剥ぎ取り時に無理な力がかからなくてアスベストを飛散させにくく、また、後処理の加熱時にも廃ガス、ダストなどの問題を引き起こすことが少なくすることである。
具体的手段の第1は、アスベストを含む層に、その体積の20容積%以上の軟質エポキシ樹脂を注入などによって供給してアスベストを軟質エポキシ樹脂で浸潤した状態にし、そのままの状態で建物を使用することである。
【0007】
具体的手段の第2は、撤去しようとするアスベストを含む層に、その体積の20容積%以上の軟質エポキシ樹脂を注入などによって供給し、アスベストを軟質エポキシ樹脂で浸潤した後、アスベストを含む層の剥ぎ取り作業を行うことである。
【0008】
具体的手段の第3は、撤去しようとするアスベストを含む層に、その体積の20容積%以上の軟質エポキシ樹脂を注入しアスベストを軟質エポキシ樹脂で浸潤した後、遊離の軟質エポキシ樹脂を吸引してから、アスベストを含む層の剥ぎ取り作業を行うことである。
【0009】
具体的手段の第4は、撤去しようとするアスベストを含む層を軟質エポキシ樹脂で浸潤した後、剥ぎ取ったアスベストを含む層を、1350℃以上に加熱して安定化することである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の方法によって、アスベストを浸潤するとともに、吹き付け層をある程度の柔軟性を持たせた状態で一体化し、その状態でアスベストの飛散を効率的に防止することができる。
【0011】
請求項2の方法によって、アスベストを浸潤するとともに、吹き付け層をある程度の柔軟性を持たせた状態で一体化し、以後の除去作業を剥離という形で進行させ、アスベストの破砕片の生成を抑制することによって、アスベストの飛散を効率的に防止することができる。
【0012】
請求項3の方法によって、必要十分量の軟質エポキシ樹脂を撤去しようとするアスベストを含む層に供給し、最小限の費用で最大の効果が得られることを可能にする。
【0013】
請求項4の方法によって、剥離されたアスベスト含有層に含まれるアスベストの無害化と、軟質エポキシ樹脂の燃焼を完全に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
アスベストを含む層をそのままにして建物を使用する場合も、とくにアスベストが飛散するおそれがあるのは天災などでアスベスト層に無理な力がかかって破壊が起こる場合などが主であるから、アスベスト飛散を確実に防止することについては、アスベストを含む層を剥離する場合とほぼ同じように考えてよい。いずれの場合にも、まずアスベスト含有層の表面に軟質エポキシ樹脂を吹き付ける。用いる軟質エポキシ樹脂の種類は、剥離時のアスベスト飛散防止効果と最終加熱時の発生ガスの無害化の両面を配慮して選ばれる。このうち、剥離時のアスベスト飛散防止効果は、アスベスト繊維を湿潤して飛散を抑制する効果と、軟質エポキシ樹脂特有のやわらかさが、アスベスト吹付け層を過度に破壊することなく剥離することでアスベスト繊維の飛散を抑制する効果の組み合わせによってきまる。これらの作用の点から、エバーボンド系などが適している。
なお、接着という点では類似効果をもつ他の樹脂としてはポリ酢酸ビニールなどがあるが、固まるまでの時間が長いこと、強度が弱すぎること、径時変化が大きいことなどから本件の使用目的のためには品質が劣る。
【0015】
軟質エポキシ樹脂の供給を注入で行う場合には、用いる軟質エポキシ樹脂の量は、図1に示すように撤去しようとするアスベスト吹き付け層の体積の20容積%以上、できれば50容積%以上が望ましい。これによって軟質エポキシ樹脂は、アスベスト吹き付け層を浸潤してアスベスト繊維を包み込むことができる。これに引き続いて、アスベスト吹き付け層の剥ぎ取り作業を機械あるいは人力で行う。この際、アスベスト吹き付け層の本体から剥離したアスベスト片も軟質エポキシ樹脂で包まれているか、少なくとも軟質エポキシ樹脂が付着しているものは空気中に浮遊しないので、作業床を掃除することによって回収できる。
【0016】
剥離時のアスベスト飛散をさらに抑制し、同時に軟質エポキシ樹脂の使用量も減らしたい場合には、0015の作業の代わりに、図2に示すように、まず軟質エポキシ樹脂を、アスベストを含む層に注入し、引き続いて吸引する。この場合の軟質エポキシ樹脂の量は、撤去しようするアスベストを含む層の体積の20容積%以上である。さらに、圧入の後、吸引することによって、過度に供給されてフリーの状態の軟質エポキシ樹脂をフィードバックし、別の場所の注入に有効利用できるようにする。さらに、剥離したアスベストを含む層に残る軟質エポキシ樹脂量が減少することは、後処理を軽減する効果がある。構造物に残る軟質エポキシ樹脂の量が減ることは、後にも悪影響を残さないという効果もある。このように圧入とそのあとの吸引によって、アスベスト繊維を浸潤するための必要十分な量の軟質エポキシ樹脂を供給できる。この後のアスベスト層の剥ぎ取りの作業は、0015で述べたのと同じである。
【0017】
アスベストを含む層の剥離を行った後、構造物表面に残ったアスベスト含有層については、軟質エポキシ樹脂の吹付けをおこなってからワイヤーブラシ等で仕上げの除去を行う。
その場合、軟質エポキシ樹脂の必要量は1mあたり3g以上程度である。さらにその作業後、状況によっては必要に応じて撤去後の面全体に樹脂の吹付けを行う。その量は1mあたり3g以上程度である。これによって、吹きつけ面に残ったアスベストも完全に固定化できる。
【0018】
剥離されたアスベストを含む層は、袋に密閉して加熱処理工場に運ぶ。そこで炉内が1350℃以上に保たれた炉に装入して加熱する。この加熱によってアスベストは無害化する。また、軟質エポキシ樹脂も完全に熱分解し、燃焼する。なお、この加熱炉の廃ガスは集塵処理を行い、ダストとしてアスベストの1部が系外に出ることを防止する。なお、集塵されたダストに、微細なアスベストが含まれている場合には、ダストをペレットあるいはブリケットにして、再び加熱炉に装入して安定化させることが望ましい。
【実施例1】
【0019】
体育館の天井に吹き付けられた、アスベストを70%含む厚さ8mmの層に、軟質エポキシ樹脂〔エバーボンド〕を、アスベストを含む層の体積の40容積%注入した。以後、5年間、半年ごとに近傍から採取した空気の測定を行ったが、アスベスト繊維はまったく検出されなかった。
【実施例2】
【0020】
体育館の天井に吹き付けられた、アスベストを70%含む厚さ8mmの吹きつけ層の剥離を以下のように行った。軟質エポキシ樹脂〔エバーボンド〕を、アスベストを含む層の体積の50容積%注入してから30分後から人力での剥離作業を行った。このときの作業者の位置での雰囲気測定結果(空気1lあたりの5ミクロン以上のアスベスト繊維の数)は2.2本/l以下であった。
剥離後、同じシリコーン樹脂を1mあたり2g吹き付けて、ワイヤブラシーで残ったアスベスト層の除去を行った。このときの作業者の位置での雰囲気測定結果は1.4本/l以下であった。その後、同じ軟質エポキシ樹脂を1mあたり2g吹き付けて作業を終了した。
【実施例3】
【0021】
体育館の天井に吹き付けられアスベストを70%含む厚さ8mmの吹きつけ層の剥離を以下のように行った。軟質エポキシ樹脂〔エバーボンド〕を、アスベストを含む層の体積の50容積%を、アスベストを含む層に雰囲気圧1.1気圧で注入し、その5分後に吸引した。吸引された軟質エポキシ樹脂の量は圧入した量の15%であった。吸引された軟質エポキシ樹脂は、次の場所での圧入用軟質エポキシ樹脂に混合して用いた。吸引後、30分経過後、アスベスト層の剥離を人力で行った。作業者の位置での雰囲気測定結果はアスベスト繊維0.4本/l以下であった。剥離後、同じ軟質エポキシ樹脂を1mあたり2g吹き付けて、ワイヤブラシーで残ったアスベスト層の除去を行った。そのときの作業者の位置での雰囲気測定結果は0.2本/l以下であった。その後、同じ軟質エポキシ樹脂を1mあたり2g吹き付けて作業を終了した。
【実施例4】
【0022】
実施例3で剥離されたアスベストを、1500±30℃に保たれた重油燃焼加熱炉に装入して溶解処理した。生成したスラグは破砕して石のかわりに建築資材として使用した。
廃ガス処理系の集塵ダスト中にはアスベスト繊維が5本/g含まれていたので、直径5〜7mmのペレットにして、再び加熱炉に装入した。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の方法は、アスベストを含む建物その他を解体する場合にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】軟質エポキシ樹脂の吹付け量が、剥ぎ取り作業時のアスベスト飛散量に及ぼす影響を示す。
【図2】アスベスト飛散量を減らすための本発明の最も望ましい実施システムを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベストを含む層に、その体積の20容積%以上の軟質エポキシ樹脂を注入などによって供給し、アスベストを軟質エポキシ樹脂で浸潤することを特徴とするアスベスト飛散防止方法。
【請求項2】
アスベストを含む層に、その体積の20容積%以上の軟質エポキシ樹脂を注入などによって供給しアスベストを軟質エポキシ樹脂で浸潤した後、アスベストを含む層の剥ぎ取り作業を行うことを特徴とするアスベスト飛散防止方法。
【請求項3】
アスベストを含む層に、その体積の20容積%以上の軟質エポキシ樹脂を注入してアスベストを軟質エポキシ樹脂で浸潤した後、遊離の軟質エポキシ樹脂を吸引してから、アスベストを含む層の剥ぎ取り作業を行うことを特徴とするアスベスト飛散防止方法。
【請求項4】
請求項2および3で剥ぎ取ったアスベストを含む層を、1350℃以上に加熱して安定化することを特徴とするアスベスト飛散防止方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−113271(P2007−113271A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305783(P2005−305783)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(300057492)
【Fターム(参考)】