説明

軟質ゼラチンカプセル剤

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、活性成分としてサイクロスポリンを含有する軟質ゼラチンカプセル剤に関するものである。更に詳しくは、本発明は特定の可塑剤を含有するゼラチン皮膜内に安定したサイクロスポリン組成物を含有する軟質ゼラチンカプセル剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】サイクロスポリンは11個のアミノ酸が互いにサイクリックペプチド結合で構成されている巨大分子(分子量1202.64)であり、有用な薬理学的作用を有する独特のペプチド活性物質である。即ち、サイクロスポリンは組織及び器官移植、例えば心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、骨髄、皮膚或いは角膜移植、特に外来組織及び器官の移植時に惹起される生体固有の免疫反応を抑制するのに使用され、更に貧血等の血液性疾患、全身性紅斑性狼創、突発性吸収障害等の多様な自己免疫疾患及び関節炎、リューマチ性疾患等の炎症の抑制にも有用な化合物である。その他にもサイクロスポリンはマラリア、住血吸虫症等の原虫性疾患の治療にも有用であり、最近では抗癌療法にも一部利用される等、広範囲な薬理作用を有する。
【0003】サイクロスポリンは高い親油性を示す反面、疎水性が非常に大きいので、水に対する溶解性は非常に低いが、メタノール、エタノール、アセトン、エーテル、クロロホルム等の有機溶媒には良く溶解する。この様な物性を有するサイクロスポリンは水溶解度が低いため経口投与時における生体利用率が低く、患者個々人の状態によって生体利用率にも大きな影響を及ぼし、効果的な治療濃度を維持することが困難であった。更にサイクロスポリンは腎臓毒性等のような副作用を示すこともあり、経口投与用に剤型化することは非常に難しかった。そこで、サイクロスポリンを効果的に経口投与することのできる適切な製剤化の研究が広範囲に行われている。
【0004】この様な水難溶性サイクロスポリンを経口投与用製剤に剤型化するには、サイクロスポリンを界面活性剤、オイル及び共界面活性剤と配合してエマルション形態にする方法が主に用いられてきた。ここで共界面活性剤(cosurfactant)とは、親油性及び親水性を合わせ持つ溶媒であり、この様な性質によって界面活性剤効果を有するものである。
【0005】この様な方法の代表的なものとして、米国特許第4,388,307号(1983.6.14)には、共界面活性剤としてエタノールを使用したサイクロスポリンの液体製剤が開示されている。この米国特許によれば、サイクロスポリンを、共界面活性剤であるエタノール、植物性オイルであるオリーブ油、及び界面活性剤として天然植物性オイルトリグリセリドとポリアルキレンポリオールのトランスエステル化生成物からなる担体と配合した液体製剤が提供される。しかし、この液体製剤は、水に希釈して服用しなければならないので服薬順応度が低く、服用時における投与容量を一定に調節することが困難であるという短所がある。
【0006】従って、液体製剤を水で希釈してから服用するという不都合を解消する目的で、エマルション濃縮液形態の液体製剤をそのまま軟質カプセル剤に剤型化したものが市販されている(商品名:SADNIMMUNR )。しかし、共界面活性剤としてエタノールを含有するサイクロスポリン軟質カプセル剤の場合には、サイクロスポリンの溶解度を考慮して低沸点のエタノールを多量含有させなければならない。ところがエタノールは常温でもカプセル剤のゼラチン皮膜を透過して揮発する為、軟質カプセル剤の保管中にエタノールの含有量が低下して内容物の組成比が変化するとサイクロスポリンの結晶が沈殿し、生体利用率に甚だしい差が生ずるので治療効果に至大なる影響を与えるようになる。従って、流通期間中に軟質カプセル剤から低沸点のエタノールが揮発するのを防止するためにアルミニウム箔発疱膏包装のような特殊な包装をしなければならないという不便を伴う。一方、この様な包装をしたからといっても一定した組成を確実に維持することはできないので、やはり生体利用率に甚だしい差異を与える。勿論、このような特殊包装は薬価上昇の大きい要因にもなる。
【0007】更に、最近では上述した安定性以外にも、人体への投与時における生物学的有効性や、被検体間及び被検体内の生物学的有効性変数があまり変動しない、即ち生物学的効果を一定に維持することのできるサイクロスポリン製剤への要求が高まりつつある。この様な目的を達成する為に開発された製剤の一つに、大韓民国特許公開第93−113号があり、サンジムンネオラル(SandimmunNeoralR )という商品名で市販されている。しかしながら、この製剤も、共界面活性剤としてエタノールを使用するため既存のエタノール含有製剤と同様、貯蔵安定性に問題があるだけでなく、エタノールの含有量変化によりサイクロスポリンが沈殿したり生体利用率が低下する等の問題がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記事情に着目してなされたものであり、その目的は、製剤学的に安定であるのみならず、薬物動力学的観点からも既存製品に比べて高い生体利用率を有し、血中濃度の個人差異を減少させることのできる新規なサイクロスポリン組成物を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明のサイクロスポリン含有軟質ゼラチンカプセル剤は、(1)活性成分としてサイクロスポリン、(2)プロピレンカーボネート、(3)オイル成分として、中級脂肪酸トリグリセリドと脂肪酸モノグリセリドの混合物、及び(4)界面活性剤として、ポリオキシエチレン水素化植物性油を含有するHLB値が8〜17の化合物を含有するところに要旨を有するものである。
【0010】本発明において、(1)サイクロスポリンがサイクロスポリンAであるもの、(2)プロピレンカーボネート:サイクロスポリンの比が、重量基準で(1〜5):1であるもの、(3)オイル成分において、中級脂肪酸トリグリセリドがカプリン酸/カプリン酸トリグリセリドであるもの;脂肪酸モノグリセリドがオレイン酸モノグリセリドであるもの;オイル成分として、上記中級脂肪酸トリグリセリドと脂肪酸モノグリセリドの混合物の他に、更に脂肪酸と第一級アルコールのエステル化合物(例えばリノール酸エチル)を含有するもの;脂肪酸モノグリセリド:脂肪酸と第一級アルコールのエステル化合物:中級脂肪酸トリグリセリドの比が、重量基準で1:(0.1〜3.0):(0.1〜3.0)であるもの;オイル成分:サイクロスポリンの比が重量基準で(2〜6):1であるもの、(4)界面活性剤が、ポリオキシエチレン水素化植物性油とポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物であるもの;ポリオキシエチレン(50)水素化ひまし油:モノラウリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタンを、重量基準で1:(0.5〜4)の比で配合した混合物であるもの;界面活性剤:サイクロスポリンの比が、重量基準で(2〜8):1であるものは、いずれも好ましい実施態様である。
【0011】上記各成分の含有比率は、サイクロスポリン、プロピレンカーボネート、オイル成分及び界面活性剤を重量基準で1:(0.5〜8):(2〜6):(2〜8)であることが好ましい。
【0012】また、本発明の軟質ゼラチンカプセル中には、可塑剤としてポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールを含有しており、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコール:ゼラチンを、重量基準で(0.2〜0.3):1で配合したもの;ポリエチレングリコール:プロピレングリコールを、重量基準で1:(3〜6)の比で配合したものは本発明の好ましい態様である。
【0013】本発明の軟質ゼラチンカプセル剤は以上の様に構成されており、エタノールを含有しないので、製剤学的に安定であるのみならず、生体利用率も改善することができるので極めて有用である。
【0014】
【発明の実施の形態】上述した様に本発明の軟質ゼラチンカプセル剤は、(1)活性成分としてサイクロスポリン、(2)プロピレンカーボネート、(3)オイル成分として、中級脂肪酸トリグリセリドと脂肪酸モノグリセリドの混合物、及び(4)界面活性剤として、ポリオキシエチレン水素化植物性油を含有するHLB値が8〜17の化合物を含有する医薬組成物を軟質カプセル剤に製剤化したものである。
【0015】通常、サイクロスポリン含有組成物を軟質カプセル剤に剤型化するには、可塑剤としてグリセリンを含有するゼラチン皮膜が使用される。しかしながら、この様にグリセリンを含有するカプセル皮膜を成形しようとすると、皮膜中に存在するグリセリンがエマルション濃縮液中に流入し、該エマルション濃縮液の乳化状態が変化する為、サイクロスポリンの溶解度が著しく低くなって沈殿が発生する等の問題が生じる。そこで、本発明では可塑剤としてグリセリンを使用せず、その代わりにポリエチレングリコール及びプロピレングリコールの混合物を使用するものであり、この様な混合物を含有するゼラチン皮膜を本発明の軟質カプセル皮膜として選択することにより、上述したグリセリンの流入に伴う問題点を解決することができたのである。
【0016】更に、本発明のカプセル剤を製造するに当たり、冷却ドラムを水冷却するという通常の冷却方式を採用すると、上述したポリエチレングリコール及びプロピレングリコールを含有するカプセル皮膜が冷却ドラムから脱離され難いという問題を生じることが分かった。この様な問題を回避する為に、冷却ドラムを冷却水で継続して循環させることによりカプセル皮膜の温度を約17℃まで過冷却して冷却ドラムからの脱離を改善することもできるが、製造工程中に密封強度(extentof seal)が低下し、生産性が劣るという新たな問題が生じる。
【0017】そこで本発明法では、従来の如く水冷却を行う代わりに、ファンで風量を与える等の風冷却を行う方法を採用している。それにより、上記カプセル皮膜を適正温度(約21℃)に冷却し、冷却ドラムからの脱離を容易にすると共に、該適正温度を維持することにより成形工程中の密封強度を高め、生産性の向上を図ることができる。
【0018】以下、本発明のカプセル剤組成物を構成する成分について順次説明する。まず、活性成分として使用されるサイクロスポリンは、前述したように有用な免疫抑制作用や消炎作用を有するペプチド化合物である。本発明で使用することができるサイクロスポリンには、サイクロスポリンA、B、C、D及びG等が挙げられるが、最も望ましいのは、その臨床的有用性及び薬物学的特性が最もよく立証されているサイクロスポリンAである。
【0019】次に、二番目の必須成分であるプロピレンカーボネートは、下記構造式を有する非親水性成分(沸点約242℃)である。
【0020】
【化1】


【0021】このプロピレンカーボネートは高沸点、非揮発性であり、ゼラチン皮膜に対する膜透過性が少ないだけでなく、水難溶性のサイクロスポリンに対して高い溶解度を示す。従って、上記プロピレンカーボネートを使用することにより、サイクロスポリン含有製剤の貯蔵安定性が向上し、組成物の含有量を均一化することができる。詳細には、活性成分のサイクロスポリンの溶解度を著しく高めることができるだけでなく、ゼラチン皮膜において内容物への水分の流入が抑制される等、安定した組成物を効率よく得ることができる。
【0022】本発明の組成物は、上記のプロピレンカーボネートをサイクロスポリン1重量部当たり0.1〜10重量部の比で使用することが好ましく、更に好ましくはサイクロスポリン1重量部当たり1〜5重量部である。
【0023】尚、本発明では、プロピレンカーボネートと、親水性成分であるポリエチレングリコール(PEG,沸点約330℃)との混合物を使用しても良い。このPEGは液化できるものであれば全て使用できるが、好ましいのは分子量200〜600のPEGであり、特に好ましくは分子量200のPEG200である。共界面活性剤としてプロピレンカーボネートとPEGの混合物を使用する場合には、これらを重量基準で1:(0.1〜5)で配合することが好ましく、より好ましくは1:(0.1〜3)、最も好ましくは1:(0.2〜2)である。
【0024】本発明の組成物に使用される第3の成分はオイル成分であり、中級脂肪酸トリグリセリドと脂肪酸モノグリセリドの混合物を使用することができる。このうち中級脂肪酸トリグリセリドとしては、好ましくは炭素数8から10の飽和脂肪酸のトリグリセリドが使用され、特に好ましいのは飽和脂肪酸の植物性オイルトリグリセリドであるカプリル酸/カプリン酸トリグリセリドである。また、脂肪酸モノグリセリドとしては炭素数18〜20の高級脂肪酸モノグリセリドが挙げられ、特に好ましくはオレイン酸のモノグリセリドである。本発明では、オイル成分として、上記の中級脂肪酸トリグリセリドと脂肪酸モノグリセリドの混合物に加え、更に脂肪酸と第一級アルコールのエステル化合物を配合したものを使用することができる。この脂肪酸と第一級アルコールのエステル化合物としては、炭素数8〜20の脂肪酸と、炭素数2〜3の第一級アルコールのエステル化合物が好ましく、例えばミりスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、リノール酸エチル、オレイン酸エチル等が挙げられ、なかでもリノール酸とエタノールのエステル化合物であるリノール酸エチルが推奨される。
【0025】本発明に使用されるオイル成分は、サイクロスポリン1重量部当たり2〜6重量部の比で配合されることが好ましい。また、本発明に使用されるオイル成分が脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸と第一級アルコールのエステル化合物、及び中級脂肪酸トリグリセリドの混合物を使用する場合は、これらの混合比は重量基準で、脂肪酸モノグリセリド:脂肪酸と第一級アルコールのエステル化合物:中級脂肪酸トリグリセリド=1:(0.1〜5):(0.1〜10)であることが好ましく、より好ましくは1:(0.1〜3.0):(0.1〜3.0)である。
【0026】本発明の組成物に含有される第4の必須成分は界面活性剤である。本発明に使用することのできる界面活性剤は、薬学的に許容される界面活性剤であって、安定したマイクロエマルションを形成することのできるもののうち、ポリオキシエチレン水素化植物性油を含有するHLB値が8〜17のものであればいずれも使用することができる。従って、ポリオキシエチレン水素化植物性油とポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物等も好ましく使用することができる。具体的には、例えば商品名ニコル(NIKKOL,NIKKO Chemical Co., Ltd.)で市販されているニコル類(ニコルHCO−50,ニコルHCO−40,ニコルHCO−60等),商品名ツイーン(Tween,ICI Chemicals )で市販されているツイーン類(ツイーン20,ツイーン21,ツイーン40,ツイーン60,ツイーン80,ツイーン81等)が挙げられる。特に好ましくは、酸化:1以下,ケン化価:約48〜56,水酸基価:約45〜55,pH(5%):4.5〜7.0である商品名ニコルHCO−50で市販されているポリオキシエチレン(50)水素化ひまし油、および商品名ツイーン20で市販されているモノラウリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタンである。
【0027】本発明の組成物において、上記界面活性剤はサイクロスポリン1重量部当たり1〜10重量部の比で存在することが好ましく、より好ましいのはサイクロスポリン1重量部当たり2〜8重量部である。また、界面活性剤としてポリオキシエチレン(50)水素化ヒマシ油とモノラウリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタンの2種類を混合して使用する場合は、重量基準でポリオキシエチレン(50)水素化ヒマシ油:モノラウリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタンを1:(0.1〜5)の比で使用することが好ましく、更に好ましくは1:(0.5〜4)である。
【0028】本発明の組成物において、各成分は重量基準で、好ましくはサイクロスポリン:プロピレンカーボネート:オイル成分:界面活性剤=1:(0.1〜10):(1〜10):(1〜10)の比で存在し、更に好ましくはサイクロスポリン:プロピレンカーボネート:オイル成分:界面活性剤=1:(0.5〜8):(2〜6):(2〜8)の比で存在する。この他に以下の実施例で例示される本発明に従う組成物も好ましい組成例として挙げられる。
【0029】上述したような組成を有する本発明の組成物は、経口投与の目的で軟質カプセル剤の形態に剤型化して使用する。
【0030】本発明の軟質カプセル剤は、低沸点の揮発性溶媒であるエタノールを使用しないので製剤学的に安定であるのみならず、生体利用率の改善といった所期の目的を達成することができる。しかしながら、通常の軟質カプセル剤の皮膜処方と同様にして本発明の組成物を製造したのでは、可塑剤としてグリセリンを使用する為、皮膜中に存在するグリセリンの流入によりエマルション濃縮液の乳化状態が変化し、サイクロスポリンの溶解度が著しく低下して沈殿が生じるという深刻な問題が発生する。
【0031】従って本発明では、可塑剤としてグリセリンを使用せず代わりにポリエチレングリコールとプロピレングリコールを混合使用してカプセル皮膜を製造することにより、長期間安定した製剤を得るものである。可塑剤として使用されるポリエチレングリコールは、液化できるものであれば全て使用できるが、好ましくは分子量:200〜600のものであり、特に好ましいのは分子量200のポリエチレングリコール200である。本発明において可塑剤として使用するポリエチレングリコールとプロピレングリコールは、皮膜に使用するゼラチン1重量部当たり0.1〜0.5重量部の比で使用することが好ましく、より好ましくはゼラチン1重量部当たり0.1〜0.4重量部、最も好ましくはゼラチン1重量部当たり0.2〜0.3重量部の比で使用する。また、ポリエチレングリコールとプロピレングリコールの混合割合は、ポリエチレングリコール1重量部当たりプロピレングリコールを1〜10重量部、より好ましくは3〜8重量部、最も好ましくは3〜6重量部である。
【0032】本発明の製造方法においては、従来の水冷却法では軟質カプセル皮膜が過冷却されてしまうために該皮膜が冷却ドラムから脱離するという不都合を避ける為に、水冷却法の代わりに風冷却法を採用しており、これにより、カプセル皮膜が過冷却されず、成形時の適正温度を約21℃に維持しながら該カプセル皮膜を冷却ドラムから容易に脱離することができるので、成形工程時の密封強度が高まり、収率が向上して生産性が向上する等の利点が得られる。
【0033】本発明の軟質カプセル製造工程時にカプセル皮膜を冷却させる冷却ドラムの風量は、5〜15m3 /分が好ましく、最も好ましくは約10m3 /分である。
【0034】本発明の組成物を軟質カプセル剤として剤型化する際、カプセル剤には上記組成物以外にも、必要によって軟質カプセル剤の製造に通常利用される添加剤を更に含有することができる。このような添加剤としては例えばレシチン、粘度調節剤、芳香剤(例:薄荷油等)、酸化防止剤(例:トコフェロール等)、防腐剤(例:パラベン類等)、色素、アミノ酸等が挙げられる。
【0035】本発明の軟質カプセル剤を製造するに当たっては、先ずプロピレンカーボネート、オイル成分及び界面活性剤を均一に混合した後、約60℃の温度で温和に加温しながらサイクロスポリンを加えて溶解させる。次に、生成した濃縮液をそのまま、又は必要によって上述した通りの軟質カプセル剤の製造に通常に用いられる薬剤学的に許容される添加剤を添加して軟質カプセル製造器に注ぎ、可塑剤としてポリエチレングリコールとプロピレングリコールを含有するゼラチン皮膜を使用し、風冷却法により製造する。
【0036】本発明は以下の実施例によって更に詳細に説明されるが、本発明の技術範囲がこれらの実施例によって何ら制限されるのではない。
【0037】
【実施例】
(実施例1)
成 分 含量(mg/カプセル) サイクロスポリン 25 ポリエチレングリコール200 45 プロピレンカーボネート 25 ポリオキシエチレン(50)水素化ヒマシ油 35 モノラウリン酸ポリオキシ エチレン(20)ソルビタン 85 リノール酸エチル 40 カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド 5 オレイン酸モノグリセリド 35 総 295mg
【0038】
(実施例2)
成 分 含量(mg/カプセル) サイクロスポリン 25 ポリエチレングリコール200 70 ポリオキシエチレン(50)水素化ヒマシ油 35 モノラウリン酸ポリオキシ エチレン(20)ソルビタン 85 リノール酸エチル 40 カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド 5 オレイン酸モノグリセリド 35 総 295mg
【0039】
(実施例3)
成 分 含量(mg/カプセル) サイクロスポリン 25 ポリエチレングリコール200 100 プロピレンカーボネート 50 ポリオキシエチレン(50)水素化ヒマシ油 35 モノラウリン酸ポリオキシ エチレン(20)ソルビタン 85 リノール酸エチル 40 カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド 5 オレイン酸モノグリセリド 35 総 375mg
【0040】
(実施例4)
成 分 含量(mg/カプセル) サイクロスポリン 25 ポリエチレングリコール200 45 プロピレンカーボネート 25 ポリオキシエチレン(50)水素化ヒマシ油 50 モノラウリン酸ポリオキシ エチレン(20)ソルビタン 100 リノール酸エチル 40 カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド 5 オレイン酸モノグリセリド 35 総 325mg
【0041】
(実施例5)
成 分 含量(mg/カプセル) サイクロスポリン 25 ポリエチレングリコール200 45 プロピレンカーボネート 25 ポリオキシエチレン(50)水素化ヒマシ油 35 モノラウリン酸ポリオキシ エチレン(20)ソルビタン 85 リノール酸エチル 80 カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド 10 オレイン酸モノグリセリド 70 総 375mg
【0042】(実施例6)実施例1の処方による軟質カプセル剤を製造するに当たり、下記の様な皮膜処方を施し、成形時のグリセリンの流入による内容物の性状変化を目視観察した。
6−1(対照群) 成分 重量比 ゼラチン 20 精製水 16 グリセリン 9 6−2(試験群) 成分 重量比 ゼラチン 20 精製水 16 プロピレングリコール 4 ポリエチレングリコール200 1観察結果を下記表1に示す。
【0043】
【表1】


【0044】上記表1の結果から分かるように、6−1(対照群)の処方のように可塑剤としてグリセリンを使用した場合には、生産工程後のグリセリンの流入による沈殿発生などの問題が生じたのに対し、可塑剤としてポリエチレングリコールとプロピレングリコールを使用した6−2(試験群)の処方では生産工程後に継続して安定した状態を維持することができた。
【0045】(実施例7)実施例1の処方による軟質カプセル剤を製造するに当たり、上記実施例6で使用した6−2(試験群)の皮膜処方を用い、軟質カプセル剤を水冷却法(水温約12℃)と風冷却法(風量約10m3 /分)で夫々成形し、ゼラチン皮膜の冷却ドラムからの脱離性を比較した。測定結果を下記表2に示す。
【0046】
【表2】


【0047】上記表2の結果からわかるように、本発明例である風冷却法により成形した軟質カプセル剤は、水冷却法により製造した軟質カプセル剤に比べ、冷却ドラムからの脱離性が遥かに優れていた。即ち、一般的に冷却ドラムからのゼラチン皮膜バンドの脱離角度が約70°以上であれば脱離性が不良であり、約70°未満であれば脱離性が良好であると判断されるが、水冷却法により製造される軟質カプセル剤は、100°以上の角度で脱離させたとしても、冷却ドラムから十分に脱離されないのに対し、風冷却法により製造される本発明の軟質カプセル剤は50°以下の角度で容易に脱離することができるため、密封強度も遥かに良好であり、生産性も高かった。
【0048】(実施例8)試験製剤として、本発明の実施例1により製造した内容物に、実施例6−2の処方のゼラチン皮膜を施した検体を使用し、対照製剤として、エタノール含有市販製剤であるサンジムンカプセル(SANDIMMUNR CAPSULE)を使用し、両製剤間の生体利用率を比較すると共に、サイクロスポリン製剤の生体利用度及び固体差に及ぼす影響を評価した。
【0049】尚、本実施例では、対照製剤及び試験製剤は全て兎1kg当たりサイクロスポリンを300mg投与した。
【0050】兎は鉄網箱の中で同一条件下で4日間以上、通常の兎用固体飼料を定期的に与えた。尚、経口製剤の投与時には鉄材束縛箱中で48時間以上絶食させ、絶食時には水分を自由に摂取することができるようにした。直径5mmのレビン管(Levin's tube)を食道の長さ30cmまで入れた後、試験製剤及び対照製剤の内容物をそれぞれ水50mLに乳化させ、注射器に入れた。その際、摩擦を少なくするためにワセリンをレビン管の表面に塗り、連結した注射器を介して試験製剤及び対照製剤を押し込んだ。次いで、キシレンで兎の耳静脈血管を拡張させた後、ヘパリン処理した1回用注射器で耳静脈血を投薬前、投薬後0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間、6時間、10時間、24時間間隔で採取した。血液1mL当たり、飽和塩化ナトリウム水溶液0.5mL及びエーテル2mLを加えた後、5分間振蕩した。この混液を5000rpmで10分間遠心分離して上澄液(エーテル層)1mLを取り、活性化されたシリカセップ−パック(Silica sep-pakR: Waters)に展開した。展開したセップ−パックをn−ヘキサン5mLで洗浄し、メタノール2mLで溶出させた後、この液を窒素ガス中で減圧下で蒸発乾燥させ、残留物をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって分析した[HPLC条件:カラムμ−BondapakR18(Waters)、移動上CH3 CN:メタノール:H2 O=55:15:30、検出機210nm、流速1.0mL/分、カラム温度70℃、感度0.01Aufs、注入量100μL]。試験製剤と対照製剤の試験結果を下記表3に示す。
【0051】
【表3】


【0052】上記表の結果からわかるように、試験製剤は対照製剤に比べてAUCの比が約4倍以上、Cmax の比が約7倍以上増加しており、生体利用率が顕著に増加することを示した。また、個体間の偏差(CV%)もAUCでは約2倍以上、Cmaxでは約1.5倍程度減少するという著しい効果を示した。
【0053】この様に本発明法で製造される軟質カプセル剤は、エタノール含有市販製剤であるサンジムンカプセル(SANDIMMUNR CAPSULE)の対照製剤と比較すると、生体利用率が約4倍程度増加しており、偏差も軽減される等の効果を示すと共に、長期間保管しても経時変化が殆どなく維持されるので、サイクロスポリン軟質カプセル剤の製造分野での顕著な進歩性を示すものである。
【0054】
【発明の効果】本発明の軟質ゼラチンカプセル剤は上記の様に構成されているので、製剤学的に安定であるのみならず、薬物動力学的観点からも既存製品に比べて高い生体利用率を有し、血中濃度の個人差異を減少させることができる点で非常に有用である。即ち、本発明では、低沸点の揮発性溶媒であるエタノールを使用しないので経時変化が少なく貯蔵安定性に優れ、しかも生体利用率も著しく向上しており、更にグリセリンを含有しないゼラチン皮膜を使用して風冷却を行っているので、グリセリンの流入に伴うサイクロスポリンの沈殿や冷却ドラムからのカプセル皮膜の剥離を抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】(1)活性成分としてサイクロスポリン、(2)プロピレンカーボネート、(3)オイル成分として、中級脂肪酸トリグリセリドと脂肪酸モノグリセリドの混合物、並びに(4)界面活性剤として、ポリオキシエチレン水素化植物性油を含有するHLB値が8〜17の化合物を含有する医薬組成物を含むことを特徴とする軟質ゼラチンカプセル剤。
【請求項2】 前記サイクロスポリンがサイクロスポリンAである請求項1に記載のカプセル剤。
【請求項3】 プロピレンカーボネート:サイクロスポリンの比が、重量基準で(1〜5):1である請求項1または2に記載のカプセル剤。
【請求項4】 前記中級脂肪酸トリグリセリドがカプリル酸/カプリン酸トリグリセリドである請求項1〜3のいずれかに記載のカプセル剤。
【請求項5】 前記脂肪酸モノグリセリドがオレイン酸モノグリセリドである請求項1〜4のいずれかに記載のカプセル剤。
【請求項6】 オイル成分として、更に脂肪酸と第一級アルコールのエステル化合物を含有する請求項1〜5のいずれかに記載のカプセル剤。
【請求項7】 前記脂肪酸と第一級アルコールのエステル化合物がリノール酸エチルである請求項6に記載のカプセル剤。
【請求項8】 オイル成分:サイクロスポリンの比が重量基準で(2〜6):1である請求項1〜7のいずれかに記載のカプセル剤。
【請求項9】 脂肪酸モノグリセリド:脂肪酸と第一級アルコールのエステル化合物:中級脂肪酸トリグリセリドの比が、重量基準で1:(0.1〜3.0):(0.1〜3.0)である請求項6〜8のいずれかに記載のカプセル剤。
【請求項10】 前記界面活性剤として、ポリオキシエチレン水素化植物性油とポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの混合物を含有する請求項1〜9のいずれかに記載のカプセル剤。
【請求項11】 界面活性剤:サイクロスポリンの比が、重量基準で(2〜8):1である請求項1〜10のいずれかに記載のカプセル剤。
【請求項12】 前記界面活性剤は、ポリオキシエチレン(50)水素化ひまし油:モノラウリン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタンを、重量基準で1:(0.5〜4)の比で配合した混合物である請求項10または11に記載のカプセル剤。
【請求項13】 サイクロスポリン:プロピレンカーボネート:オイル成分:界面活性剤の比が、重量基準で1:(0.5〜8):(2〜6):(2〜8)である請求項1〜12のいずれかに記載のカプセル剤。
【請求項14】 エタノールを含有しない請求項1〜13のいずれかに記載のカプセル剤。
【請求項15】 前記軟質ゼラチンカプセル中には、可塑剤としてポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールを含有する請求項1〜14のいずれかに記載のカプセル剤。
【請求項16】 ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコール:ゼラチンの比が、重量基準で(0.2〜0.3):1である請求項15に記載のカプセル剤。
【請求項17】 前記可塑剤は、ポリエチレングリコール:プロピレングリコールを、重量基準で1:(3〜6)の比で配合したものである請求項15または16に記載のカプセル剤。

【特許番号】第2923503号
【登録日】平成11年(1999)4月30日
【発行日】平成11年(1999)7月26日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−194739
【分割の表示】特願平8−227156の分割
【出願日】平成8年(1996)8月28日
【公開番号】特開平11−100326
【公開日】平成11年(1999)4月13日
【審査請求日】平成10年(1998)7月9日
【早期審査対象出願】早期審査対象出願
【出願人】(598023573)ノバルティス アーゲー (1)