説明

転てつ機の状態監視装置

【課題】駆動電力を検出対象とせずに転てつ機の復帰時間の推定が可能な転てつ機用状態監視装置を提供する。
【解決手段】スイッチアジャスタの歪みを検出する歪み検出手段aと、前記歪み検出手段による検出値を、経時的に記録する手段bと、記録された検出値変化を微分し、その微分値が所定の一定値以上となる領域とそれ以外の領域とに分け、一定値以上となる最初の領域の終端を緩速復帰開始点、前記一定値以上となる二番目の領域の終端を復帰終了点として、前記緩速復帰開始点と前記復帰終了点の2点間の時間を復帰時間として算出する演算手段cと、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転てつ機の状態監視装置、さらに詳しくは、転てつ機の転換力や復帰時間を監視する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転換鎖錠装置の一部を構成する転てつ機の故障は、列車運行に対する影響が大きいので、転てつ機の状態の監視により、適切な障害予防と保全が必要である。そのため、これまでは、電気転てつ機については、状態監視装置が開発・実用化されている(非特許文献1,2)。
【0003】
転てつ機には、電気転てつ機と発条転てつ機がある。図21は電気転てつ機の設置状態を示す斜視図、図22は発条転てつ機の構成を示す図である。
電気転てつ機は、図21に符号SMで示すものであり、電気で駆動されるモータMの回転力を図示されていないクラッチ(フリクションクラッチ又はマグネットクラッチ)、中間歯車、転換歯車、転換ローラを介して動作かん101を往動又は復動させ、その動作かん101に連結されているスイッチアジャスターロッド102及びスイッチアジャスタ103を介してトングレール104を転換させるものである(非特許文献3)。
【0004】
一方、発条転てつ機は、図22に符号SPで示すものであり、下端部にチェックバルブ201を、上端部にニードルバルブ202を備えた油圧シリンダ203とバネ204とを有し、その油圧シリンダ203のピストンロッド205と前記バネ204の上端及びそのバネの下端と前記油圧シリンダ203の下端とをそれぞれ上部クランク206及び下部クランク207で連結し、下部クランク207の回動力をアーム208を介して図21に示したスイッチアジャスタ103と同様のスイッチアジャスタ103に伝達させて、そのスイッチアジャスタ103を介してトングレールを転換させるものであり、対向列車に対しては、バネ圧でトングレールの基本レールに対する密着状態(定位)を確保し、列車が背向で通過するときは、車輪がバネ圧を圧してトングレールを割出し(転換し)、通過後はバネの力で自動的に定位側に復帰するように作用する(非特許文献4)。
【0005】
電気転てつ機SMに関わる障害の一つとして、転換動作が終了しない「転換不能」がある。転換不能の兆候の一つとして、モータに対して通常の転換とは異なる負荷等が見られる場合がある。この点に着目して、上記の実用化された状態監視装置には、モータの電流・電圧(駆動電力)を検出し、その検出した駆動電力から転換力を推定して、監視するものがある。
【0006】
発条転てつ機SPにおいても、電気転てつ機と同様の障害として、錆や傷等により、トングレールと床板の摩擦等の負荷力が増大して、復帰動作が完了しない「復帰不能」が発生する場合がある。しかし、発条転てつ機は、上記のように動作に電力を用いないので、駆動電力により転換力の推定を行う上記の実用化された状態監視装置を、発条転てつ機にそのまま適用して復帰力のモニタリングを行うことはできない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】京三サーキュラー Vol.41, No.4, pp3-13, 1990
【非特許文献2】鉄道技術研究所速報 No.A-86-102, pp1-20, 1986
【非特許文献3】鉄道技術者のための電気概論 信号シリーズ 4、転てつ装置、 pp.38−54、日本鉄道電気技術協会、1992
【非特許文献4】鉄道技術者のための電気概論 信号シリーズ 4、転てつ装置、 pp.76−82、日本鉄道電気技術協会、1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、駆動電力を検出対象とせずに転てつ機の復帰時間の推定が可能な転てつ機用状態監視装置を提供することにある。
【0009】
本発明のもう一つの課題は、転てつ機の転換力の測定と復帰時間の推定が可能な転てつ機用状態監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、転てつ機用状態監視装置を、(a)スイッチアジャスタの歪みを検出する歪み検出手段と、(b)その歪み検出手段による検出値を経時的に記録する手段と、(c)記録された検出値変化を微分し、その微分値が所定の一定値以上となる領域とそれ以外の領域とに分け、一定値以上となる最初の領域の終端を緩速復帰開始点、前記一定値以上となる二番目の領域の終端を復帰終了点として、上記緩速復帰開始点と上記復帰終了点の2点間の時間を復帰時間として算出する演算手段とを備えていることを特徴としている。
【0011】
上記もう一つの課題を解決するため、本発明は、転てつ機用状態監視装置を、(a)スイッチアジャスタの歪みを検出する歪み検出手段と、(b) その歪み検出手段による検出値を経時的に記録する手段と、(c)記録された検出値変化を微分し、その微分値が所定の一定値以上となる領域とそれ以外の領域とに分け、一定値以上となる最初の領域の終端を緩速復帰開始点、前記一定値以上となる二番目の領域の終端を復帰終了点として、上記緩速復帰開始点と上記復帰終了点の2点間の時間を復帰時間として算出する演算手段と、(d)歪み検出手段による検出値を、所定の変換率により転換力に変換する変換手段と、(e)その変換手段により変換された転換力を転換の度に記憶する手段及び/又は表示する手段とを備えていることを特徴としている。
【0012】
本発明の好ましい例では、上記転てつ機の状態監視装置の変換手段は、スイッチアジャスタの歪みと温度との相関から求めた回帰式により、転換の度に計測されるスイッチアジャスタ歪み計測値を補正するものであることが望ましい。
【0013】
上記歪み検出手段は、スイッチアジャスタに貼付される歪みゲージと、その歪みゲージに接続されたアンプと、そのアンプに接続されたローパスフィルタとからなることが好ましい。
【0014】
そして、前記アンプは、交流式アンプであることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の本発明によれば、転てつ機のスイッチアジャスタに貼付された歪み検出手段により得られる歪み検出値を記録して、現地又は管理所のいずれにおいても、その歪み検出値を解析して、転てつ機の復帰時間の推定を行うことができる。また、スイッチアジャスタの歪みを検出対象とするので、駆動電力を用いない発条転てつ機の転換力を測定することができるほか、駆動電力を用いる電気転てつ機に対しても適用して、転換力を測定することができる。
【0016】
また、請求項2の本発明によれば、一つの状態監視装置で、転てつ機の復帰時間の推定と転換力の測定とを併せて行うことができる。
【0017】
また、請求項3の本発明によれば、環境温度の変化に影響されずに、転てつ機の転換力の測定と発条転てつ機の復帰時間の推定を正確に行うことができる。
【0018】
さらに、請求項4の本発明によれば、商用周波数のノイズの影響を受けにくい転てつ機の状態監視装置を提供することができる。
【0019】
そして、請求項5の本発明によれば、商用周波数のノイズの影響を抑えることができる転てつ機の状態監視装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】請求項1に係る転てつ機の状態監視装置の基本的構成を概念的に示すブロック図である。
【図2】図1中の歪み検出手段の構成の一例を示すブロック図である。
【図3】請求項1に係る転てつ機の状態監視装置の設置例を示す模写図である。
【図4】歪みゲージのスイッチアジャスタに対する貼付位置についての説明図である。
【図5】動歪みアンプの出力波形図である。
【図6】動歪みアンプが交流式と直流式の場合の、動歪みアンプが出力するスイッチアジャスタ歪みのパワースペクトル密度分布の異同を示すグラフである。
【図7】動歪みアンプでローパスフィルタにより処理した後の波形を示す図である。
【図8】割り出し転換時の発条転てつ機の復帰動作を示す図である。
【図9】発条転てつ機の割出動作開始から復帰終了までの動作速度を示す図である。
【図10】スイッチアジャスタ歪みと復帰時間の関係を示す図である。
【図11】請求項2に係る転てつ機の状態監視装置の基本的構成を概念的に示すブロック図である。
【図12】軸力計による転換力測定結果を示す図である。
【図13】軸力計測定値とスイッチアジャスタ歪みの関係を示す図である。
【図14】車両による割出し時の歪み測定結果を示す図である。
【図15】相対復帰力の日毎の変化を示す波形図である。
【図16】密着時歪みの日毎の変化を示す波形図である。
【図17】密着時のスイッチアジャスタの歪みと温度との関係を示す図である。
【図18】復帰時間の変化を示す図である。
【図19】気温と復帰時間の関係を示す図である。
【図20】電気転てつ機の設置状態を示す図である。
【図21】発条転てつ機の構成を示す図である。
【図22】試験条件と50Hz付近のパワースペクトル密度を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
本発明の転てつ機の状態監視装置は、発条転てつ機と電気転てつ機のいずれにも適用可能であるが、以下には、発条転てつ機に適用される場合の実施の形態について説明する。
本発明の第1の実施の形態である発条転てつ機用状態監視装置Aは、スイッチアジャスタの歪みを検出対象とし、その検出値から発条転てつ機の転換時間を推定するようにしたものである。
【0023】
この実施の形態による発条転てつ機用状態監視装置Aは、図1に示すように、歪み検出手段aと、検出した歪みを記録する記録手段bと、記録された歪み測定値から復帰時間を算出する演算手段cとを有する。
【0024】
歪み検出手段aは、図2に概念的に示し、図3に設置例を示すように、歪みゲージ1と、ブリッジ回路2と、棒状変位計3と、動歪みアンプ4と、ロガ5とによって構成されている。図3の2’はブリッジ回路2を収容するブリッジボックスである。
【0025】
歪みゲージ1は、スイッチアジャスタ103に加わる力による伸縮の割合を電気抵抗の変化に変換するセンサである。歪みゲージ1は、図3に示すように、転てつ機SPから見てスイッチアジャスタ103の「押し」の方向に転換した時には転てつ機SPの下側から姿を出し、「引き」の方向に転換した時には転てつ機SPの下側に隠れる部分に貼付される。
【0026】
歪みゲージ1は、その抵抗の変化を増幅するため、ブリッジ回路2に接続されている。ブリッジ回路2の出力は、ケーブルを介して器具箱6に収容されている動歪みアンプ4に入力され、その動歪みアンプ4の出力する歪み測定値は、同じく器具箱6に収容されているロガ5に順次記録されるように構成されている。
【0027】
ブリッジ回路2及び動歪みアンプ4による歪みの増幅率は、歪みゲージの貼付形態により異なる。使用するスイッチアジャスタ103は、一例として、直径36mm、密着力・転換力は2kN(200kgf)程度であるので、スイッチアジャスタ103の軸方向の歪みは、10με程度の低い値である。そこで、好ましい実施の形態においては、歪みゲージの取付態様として、図4(a)に示すように、スイッチアジャスタ103の軸方向と周方向に2枚ずつ貼付する、比較的感度の高い「4ゲージ法」を採用した。
【0028】
図4(b)は、歪みゲージをスイッチアジャスタ103の軸方向に1枚のみ貼付した場合の「1ゲージ法」のブリッジ回路の構成を示す。「4ゲージ法」の場合は、軸方向貼付ゲージ(ε1,ε3)の伸縮による抵抗変化はΔR、周方向貼付ゲージ(ε2,ε4)の伸縮による抵抗変化はΔRv(v=0.3)となり、4ゲージと1ゲージの歪みの増幅率の比は、2.6:1となる。「4ゲージ法」が最も増幅率が高く、温度影響も小さいことが実験によっても確認された。
【0029】
棒状変位計3は、スイッチアジャスタの変位を電気抵抗の変化に変換するセンサであるが、本発明の好ましい実施の形態においては、電磁転てつ鎖錠器(図示省略)の鎖錠かんの変位から「割り出し」を検知し、転換力測定開始のトリガーとするために用いている。この棒状変位計3は、汎用の測定器で確実に測定するために設けたが、専用の歪み測定器を用意する場合は、歪みの測定波形からトリガーをかけることができるので、棒状変位計3は不要になる。
【0030】
動歪みアンプ4は、歪みゲージ1を接続したブリッジ回路2と棒状変位計3の出力を増幅し、これを直流電圧の変化に変換するためのものである。動歪みアンプ4は、ブリッジ回路2に流す電流の種類によって、直流式と交流式とがある。直流式歪みアンプは、交流式に比べて経済面で優れているが、図5に示すように、商用周波数成分を主としたノイズの影響を受けるため、直流式歪みアンプのみでは、復帰力、復帰時間を判断することが困難である。
【0031】
そこで、発明者は、電気転てつ機のスイッチアジャスタの下部における歪みを、歪みゲージ、歪みアンプ、電源系、ローパスフィルタの条件を変えて測定し、ノイズの影響を受けにくい機器構成の検討を行った。
【0032】
図22の表に試験条件と50Hz付近のパワースペクトル密度(PSD)を、図6に各構成での測定結果であるパワースペクトル密度分布を示す。図7にローパスフィルタによる処理後の波形を示す。この結果より、直流式歪みアンプを使用する場合は、電池又は絶縁アンプを使用し、これにローパスフィルタを用いることで、商用周波数のノイズの影響が抑えられることが判る。また、交流式アンプを使用し、内蔵ローパスフィルタを用いる場合は、商用周波数のノイズの影響を最も受けにくいことが判る。
【0033】
上記試験結果に基づき、実施の形態においては、動歪みアンプ4が交流式アンプとローパスフィルタの組合せからなる歪み検出手段aを用いて、スイッチアジャスタ103の歪みを測定する。増幅される歪み測定値は、ロガ5に与えられる。ロガ5は、動歪みアンプ4により増幅された歪みを記録するものである。棒状変位計2で測定している電磁転てつ鎖錠器の鎖錠かん変位が変化した時点をトリガーとして、その前後一定時間の歪みゲージによって測定される歪みを記録するように構成されている。
【0034】
歪み検出手段aにより得られ、ロガ5に記録された歪み測定値は、記録手段bに時系列的に記録される。
【0035】
発条転てつ機の保守調整項目である復帰時間は、従来は、測定者の視覚、聴覚によって復帰開始、復帰終了のタイミングを判断して、計時されている。しかし、この方法は、保守時以外に実行することができない。そこで、本発明では、スイッチアジャスタの歪みを記録手段bに時系列的に記録し、その時刻歴応答を利用して復帰時間を推定する方法を検討した。
【0036】
背向からの車両の進入によりトングレールが動かされる「割出し転換」時の発条転てつ機内のバネとシリンダの作用による復帰動作の様子は、図8に示すとおりである。発条転てつ機は、トングレールのストロークに合わせてシリンダ内部の動作油の流量面積が変化する機構により、転換速度を、図9に示すように、緩速復帰、中速復帰及び高速復帰と変化させながら、復帰力を制御している。
【0037】
スイッチアジャスタの歪みは、通常、図10に示すように、割り出し時と中速復帰時から高速復帰時に歪み量が大きく変化する。一方、転換前や復帰後の密着状態にある時や緩速復帰時には、歪み量が少ない。
【0038】
これに着目して、演算手段cでは、記録手段bから入力される歪み測定値を順次微分し、その歪み微分値が一定値以上となる領域(図10の鎖線の矩形で囲まれた領域A,B)を求め、最初に一定値以上となる領域Aの終端を緩速復帰開始点であると判定し、次に一定値以上となる領域Bの終端を復帰終了点であると判定する。続いて、演算手段fは、歪み測定値から計算される緩速復帰開始点と復帰終了点の2点間の時間を復帰時間として出力するように構成されている。
【0039】
本発明の第2の実施の形態は、歪み検出手段aにより得られ、ロガ5に記録された歪み測定値から転換力を求めるものである。図11に示すように、第2の実施の形態に係る発条転てつ機用状態監視装置Bは、歪み検出手段aと、検出した歪みを記録する記録手段bと、記録された歪み測定値から復帰時間を算出する演算手段cと、歪み検出手段aにより検出された歪みを所定の変換率に基づき転換力に変換する変換手段dと、その変換手段により変換された転換力を記憶する手段e及び/又は表示する手段fとを有する。すなわち、第1の実施の形態に、変換手段d、記憶手段e及び表示手段fを付加した構成である。
【0040】
歪み検出手段aにより得られ、ロガ5に記録された歪み測定値は、変換手段bにより、転換力に変換される。変換手段bによる歪み測定値を転換力に変換する方法には、転てつ機の実際の転換動作時の転換力と歪みとを測定し、その転換力と歪みの関係から回帰式を求め、その回帰式を用いて、各歪み測定値から転換力を求める方法がある。他の方法としては、転てつ機の実地試験による転換力と歪みの関係から変換テーブルを作成して記憶して置き、得られた歪み測定値からその変換テーブルをルックアップして、転換力を決定する方法を用いることもできる。
【0041】
実際の転てつ機のスイッチアジャスタの歪みと転換力・復帰力を関係づけるため、動作かんとスイッチアジャスタとを連結するジョーピンに代えて、既知のジョーピン形軸力計を挿入し、割り出し時の転換力と復帰力を直接的に測定した。図12はその軸力計の測定値とスイッチアジャスタの歪みの関係を示す。図8は軸力計による転換力測定結果を示す。図9は軸力計測定値とスイッチアジャスタ歪みの関係を示す。軸力計を用いた測定値から回帰直線を求めた。図13のRLは回帰直線を示す。この回帰直線から[数1]に示す回帰式が得られた。
【0042】
【数1】

【0043】
こうして、歪み検出手段aにより得られ歪み測定値は、変換手段bにより上記回帰式を用いて、転換力に変換される。変換手段dに記憶手段eが接続されている場合は、変換された転換力は、その記憶手段eに記憶される。記憶されたデータは、後にこの転換力測定器に接続される機器により読み出して、表示器又はプリンタ等に出力するために用いられる。
【0044】
また、変換手段dに記憶手段eと表示手段fが接続されている場合は、即座に又は随時、記憶されたデータを読み出して、表示器に表示させることができる。出力又は表示された転換力を、転てつ機が正常である時の事前に計測されている基準転換力と比較することにより、その転てつ機に障害が生じているか、障害発生が近いか等の状態監視を行うことができる。
【0045】
上述のように、転てつ機の状態監視装置Bは、スイッチアジャスタの歪みを検出対象とするから、発条転てつ機と電気転てつ機のいずれにも適用可能である。また、エスケープクランクにより連結された複数のスイッチアジャスタを用いる転てつ機においては、各スイッチアジャスタに対して転換力測定が行われる。
【0046】
領域A,Bの検出には、信号波形を矩形波に変換する波形成形技術を用い、最初の矩形波の末端を復帰開始点、次の矩形波の末端を復帰終了点と認識することができる。
【0047】
従って、転てつ機の状態監視装置Bは、一つで発条転てつ機の転換力の測定と復帰時間の推定を行い、状態監視を行うことができる。
【0048】
[復帰時間の長期現地測定及びその結果に基づく補正]
上記転換力の測定と転換時間の推定方法を用いて、本線上の発条転てつ機を対象に転換力・復帰時間の測定を実施した。また、発条転てつ機の状態の長期的な変化について調査を行った。
(a)スイッチアジャスタ歪み
図14に、スイッチアジャスタ歪みの転換1回分の測定結果を示す。約0s(秒)から8sまでの間にトングレールが車両(4両)によって割り出され、その後、約8sから11sまでの間で復帰していることが、その波形から読み取ることができる。また、密着状態のスイッチアジャスタ歪みと緩速復帰時の歪みの差が得られることから、密着力と復帰力の差(以下、相対復帰力とする。)を数式(1)より求めることができる。図15に転換毎の相対復帰力を示す。相対復帰力は、復帰転換時の負荷に対する発条転てつ機の能力の余裕分を示していると言われており、この差が小さいほど負荷が大きいと考えることができる。
【0049】
図16に、転換毎の密着時(図14の−2sから0sまで)のスイッチアジャスタ歪みを示す。密着時のスイッチアジャスタ歪みは、転換毎に変化することが判った。これは、密着力が実際に変化しているか、測定する歪み量が小さいことからゲージとスイッチアジャスタの線膨張係数が影響して、見掛け上の歪みが測定されたために見られる現象であると考えられる。また、定性的には晴天時に変化が大きい傾向にある。そこで、スイッチアジャスタの歪みゲージ貼付箇所付近に温度センサを貼付し、スイッチアジャスタ歪みと歪みゲージ貼付箇所付近のスイッチアジャスタ温度を同時に測定した。図17に測定結果を示す。
【0050】
この測定結果から、スイッチアジャスタ歪み測定値とスイッチアジャスタ温度に相関があることが判る。このことから、密着時の歪みが転換毎に変化する現象は温度によるものと考えられる。また、スイッチアジャスタの歪みと同時に温度を測定し、歪み測定値の温度補正を行うことができれば、密着力や転換力の絶対値を得ることができる。
【0051】
密着時のスイッチアジャスタ歪みはスイッチアジャスタ温度との間に、図17に示すように相関がある。その場合の相関係数は0.816、回帰式は[数2]の通りである。
【0052】
【数2】

【0053】
従って、歪みゲージにより現実に測定されたスイッチアジャスタ歪みが適正値か否かを判定するため、上記変換手段bでは、歪みゲージ取付位置付近に設けた温度センサから入力するその時の測定温度を上記回帰式に代入して、歪み検出手段aのロガ5よりに入力する歪み測定値を適正に補正するように構成されている。
【0054】
(b)復帰時間
図18に転換毎の復帰時間の変化を、図19に測定期間毎の平均温度と平均復帰時間の関係を示す。図18から、復帰時間は短期間で大幅に変化しないことを確認した。一方、図19から、長期的には復帰時間が変化し、平均温度が高い期間は復帰時間が短く、平均温度が低い期間は復帰時間が長くなることを確認した。
【0055】
従って、動歪みアンプからの出力波形の成形及び緩速復帰開始点と復帰終了点の間の時間計測により復帰時間を求めることができ、求められた値と適正値とを比較することにより、当該転てつ機の状態の適否を判断することができる。
【0056】
発条転てつ機の保全においては、復帰時間は4〜8秒が適正値とされている。得られた値が適正値でない場合は、発条転てつ機のニードルバルブの開閉量、つまり、緩速復帰時の流路面積を調整して、復帰時間の調整を行えばよい。
【0057】
上記本発明による状態監視装置の、スイッチアジャスタの歪み測定による転換力測定及び復帰時間のモニタリングは、発条転てつ機に限らず、電気転てつ機、新幹線用転換鎖錠装置に複数備わるエスケープクランク部での転換力測定等に広く活用することができる。
【符号の説明】
【0058】
A 転てつ機の状態監視装置
a 歪み検出手段
b 変換手段
c 記憶手段
1 歪みゲージ
2 ブリッジ回路
3 棒状変位計
4 動歪みアンプ
5 ロガ
B,AB 発条転てつ機用状態監視装置
d 表示手段
e 記録手段
f 演算手段
SP 発条転てつ機
103 スイッチアジャスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチアジャスタの歪みを検出する歪み検出手段と、
前記歪み検出手段による検出値を、経時的に記録する手段と、
記録された検出値変化を微分し、その微分値が所定の一定値以上となる領域とそれ以外の領域とに分け、一定値以上となる最初の領域の終端を緩速復帰開始点、前記一定値以上となる二番目の領域の終端を復帰終了点として、前記緩速復帰開始点と前記復帰終了点の2点間の時間を復帰時間として算出する演算手段と、
を備えていることを特徴とする転てつ機用状態監視装置。
【請求項2】
スイッチアジャスタの歪みを検出する歪み検出手段と、
前記歪み検出手段による検出値を、経時的に記録する手段と、
記録された検出値変化を微分し、その微分値が所定の一定値以上となる領域とそれ以外の領域とに分け、一定値以上となる最初の領域の終端を緩速復帰開始点、前記一定値以上となる二番目の領域の終端を復帰終了点として、前記緩速復帰開始点と前記復帰終了点の2点間の時間を復帰時間として算出する演算手段と、
前記歪み検出手段による検出値を、所定の変換率により転換力に変換する変換手段と、
前記変換手段により変換された転換力を転換の度に記憶する手段及び/又は表示する手段と、
を備えていることを特徴とする転てつ機用状態監視装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の転てつ機用状態監視装置において、前記変換手段は、スイッチアジャスタの歪みと温度との相関から求めた回帰式により、転換の度に計測されるスイッチアジャスタ歪み計測値を補正するものであることを特徴とする転てつ機用状態監視装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の転てつ機用状態監視装置において、前記歪み検出手段は、スイッチアジャスタに貼付される歪みゲージと、その歪みゲージに接続されたアンプと、そのアンプに接続されたローパスフィルタとからなることを特徴とする転てつ機の状態監視装置。
【請求項5】
請求項4に記載の転てつ機の状態監視装置において、前記アンプは、交流式アンプであることを特徴とする転てつ機の状態監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−229016(P2012−229016A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−140686(P2012−140686)
【出願日】平成24年6月22日(2012.6.22)
【分割の表示】特願2008−315218(P2008−315218)の分割
【原出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】