説明

転写パッドの製造方法

【課題】ベースプレートの下面に柔軟なゴムでなるパッド本体が接着されてなるパッド印刷機における転写パッドを、余肉除去作業を要することなく、精度よく製造可能な方法を提供する。
【解決手段】成形型10の本体成形部11にその容積よりもゴム材料Xを多めに充填した後、貫通穴2aにパイプ部材20を装填したベースプレート2を成形型10のプレート嵌込み部13に嵌め込み、荷重Wを負荷することにより、余分なゴム材料Xをパイプ部材20内に逃がしながら、該ベースプレート2を押し込む。これにより、ベースプレート2の周辺部下面を成形型10のプレート受け面12に密着させると共に、ベースプレート2の周囲から余分なゴム材料が流出することを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッド印刷機で用いられる転写パッドの製造方法に関し、印刷機械の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品等への印刷装置として、従来よりパッド印刷機が使用されている。このパッド印刷機は、例えば特許文献1に記載されているように、表面に印刷パターンを刻設した印版と、該パターンを被印刷物に転写する転写パッドとを用い、まず、インキが塗布された印版に転写パッドを押付けることにより、該パッドの表面に印版の印刷パターン溝内からインキを写し取り、次に、これを被印刷物に押付けることにより、該被印刷物の表面に前記印刷パターンを転写するように構成されたものであり、前記転写パッドは、印刷機への取り付け用のベースプレートの下面に、略半球状或いは錐体状等のシリコンゴム等でなる柔軟なパッド本体を接着した構成である。
【0003】
この転写パッドの製造は、成形型を用いて行われ、図6に示すように、この成形型Aは、内面形状が前記パッド本体の形状とされた本体成形部A1と、その上端部周縁に設けられたプレート受け面A2と、さらにその上部に設けられ、内周面形状が前記ベースプレートの形状に対応するプレート嵌込み部A3とを有し、開放された上面の周囲はフランジ部A4とされている。
【0004】
そして、この成形型Aの本体成形部A1に流動状態のゴム材料Xを流し込んだ後、プレート嵌込み部A3にベースプレートYを嵌め込み、その後、ベースプレートYの周辺部下面がプレート受け面A2に当接するように、荷重Wを負荷して該プレートYを下方に押し込む。そして、この状態で前記ゴム材料Xを硬化させ、硬化後、成形型Aから取り出すことにより、ベースプレートYの下面にパッド本体が接着されてなる転写パッドが得られる。その場合に、必要に応じて、ベースプレートYの下面にゴム材料Xと接着させるためのプライマリ処理等が施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−347638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような製造方法においては、パッド本体の表面に肉の欠損部が発生することを回避するため、成形型Aの本体成形部A1にゴム材料Xを多めに流し込む必要がある。
【0007】
この場合、成形型Aのプレート嵌込み部A3にベースプレートYを嵌め込んで上方から荷重Wを負荷したとき、図7に示すように、前記プレート嵌込み部A3の内周面と、ベースプレートYの外周面との間の隙間を通ってゴム材料Xが外部にあふれ出し、成形型Aの外で硬化する。したがって、型出し後、外部に流出した余肉X1やベースプレートYの周囲に付着した余肉X2(図8参照)を除去する必要があり、面倒な作業を要することになる。
【0008】
また、ゴム材料Xは流動性を有するものの、その粘度はかなり高いので、余分なゴム材料Xが前記成形型Aのプレート嵌込み部A3の内周面とベースプレートYの外周面との間の隙間を通じて完全に流出しないという問題がある。
【0009】
この場合、成形型Aのプレート受け面A2とベースプレートYの周辺部の下面との間にゴム材料Xが溜まり、ベースプレートYがプレート受け面A2に完全に密着せず、浮き上がった状態となる。この状態は荷重Wを大きくしても完全に排除できない。
【0010】
その結果、図8に示すように、型出し後に、前記の外部に流出したゴム材料Xによる余肉X1やベースプレートYの周面に付着した余肉X2に加えて、ベースプレートYの周辺部下面にも余肉X3が付着した状態となり、その除去作業が一層面倒となる。
【0011】
そして、特に、ベースプレートYの周辺部下面に余肉X3が生じるときは、成形時に、ベースプレートYの周辺部下面が成形型10のプレート受け面A2に密着していなかったので、ベースプレートYの上面、即ち、印刷機への取り付け面Y’からパッド本体X’の先端までの寸法Hが所定の寸法より大きくなり、また、成形時のベースプレートYの浮き上がり方が全周で一様でないと、該ベースプレートYに対してパッド本体X’の軸心が傾くことになり、いずれも不良品となる。
【0012】
この問題に対しては、前記のように、成形時に上方から負荷する荷重Wを大きくするほか、成形型Aのプレート嵌込み部A3の内周面とベースプレートYの外周面との間の隙間を広くして、ゴム材料Xが逃げやすくすることを試みたが、この場合、ベースプレートYとパッド本体X’との中心がずれるおそれがあると共に、これによっても、ベースプレートYの周辺部下面とプレート受け面A2とを完全に密着させることはできなかった。
【0013】
また、図9に示すように、成形型A’に、プレート嵌込み部A3’からフランジ部A4’にかけて、該嵌込み部A3’の内部を部分的に外方へ連通させるゴム材料の逃がし溝A5’を形成し、実験を試みたが、これによっても、ベースプレートYの周辺部下面をプレート受け面A2’に完全に密着させることはできず、前述の問題を解決するにいたらなかった。
【0014】
そこで、本発明は、製品の寸法精度に優れ、しかも、型出し後の余肉除去作業を不要とした転写パッドの製造方法を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0016】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、ベースプレートの一方の面にゴム製のパッド本体が接着されてなるパッド印刷機用転写パッドを、内面形状が前記パッド本体の形状とされた本体成形部と、その上端部周縁に設けられたプレート受け面と、さらにその上部に設けられ、内周面形状が前記ベースプレートの形状に対応するプレート嵌込み部とを有し、上方が開放された成形型を用いて製造する転写パッドの製造方法であって、前記ベースプレートとして、該プレートのパッド本体接着位置に貫通穴が形成されているものを用い、まず、前記成形型の本体成形部に、その容積より多めに流動状態のゴム材料を充填し、次に、ベースプレートの貫通穴に、ゴム材料が充填された本体成形部を外部に連通させるようにパイプ部材を装填すると共に、該ベースプレートを前記プレート嵌込み部に嵌め込み、この状態で、ベースプレートにその周辺部下面が前記プレート受け面に密着するように荷重を負荷し、前記ゴム材料の硬化後、製品の型出しの前又は後に、前記パイプ部材をベースプレートから取り外すことを特徴とする。
【0017】
ここで、ベースプレートの貫通穴へのパイプ部材の装填は、該ベースプレートをプレート嵌込み部へ嵌め込む前であっても、嵌め込んだ後であってもよい。
【0018】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、ベースプレートの貫通穴へのパイプ部材の装填は、圧入により行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
前記の方法によれば、成形型の本体成形部に該成形部の容積により多めにゴム材料が充填され、プレート嵌込み部にベースプレートが嵌め込まれ、かつ、該プレートの貫通穴にパイプ部材が装填されている状態で、該プレートに荷重を負荷することにより、余分なゴム材料は、ベースプレートからの押圧力により、本体成形部から抵抗の少ないパイプ部材の内部に押し出されることになる。これによりベースプレートを押し込む際の反力が低減し、該ベースプレートは、成形型のプレート嵌込み部に周辺部下面がプレート受け面に密着するまで確実に押し込まれる。
【0020】
したがって、成形型の本体成形部内でゴム材料が硬化した後、型出しすれば、ベースプレートに対するパッド本体の傾きがなく、かつベースプレートの取付面からパッド本体の先端までの寸法が所定寸法とされていると共に、パッド本体表面における欠損部もなく、良好に成形された転写パッドが得られることになり、不良品の発生が防止される。
【0021】
また、ベースプレートの押し込み時に、余分なゴム材料が、該ベースプレートの周面とプレート嵌め込み部の内面との間の隙間から外部に流出することがなく、また、パイプ部材の内部に流入したゴム部材は、硬化後、該パイプ部材をベースプレートから取り外すことにより、該パイプ部材と共に除去されるから、型出し後における余肉除去作業が全く不要となり、製造工程ないし製造コストが削減されることになる。
【0022】
そして、請求項2に記載の発明によれば、ベースプレートの貫通穴へのパイプ部材の装填を圧入により行うので、該貫通穴の内径及びパイプ部材の外径を適切に設定しておくことにより、ベースプレートに荷重を負荷したときにパイプ部材が脱落することがなく、しかも、該パイプ部材の装填や取り外しを容易に行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明方法によって製造される転写パッドの一例を示す側面図である。
【図2】本発明の実施形態で用いられる部材の斜視図である。
【図3】同実施形態におけるベースプレートの押圧工程を示す断面図である。
【図4】同、パイプ部材の取り外し工程を示す断面図である。
【図5】本発明方法によって製造される転写パッドの他の例を示す斜視図である。
【図6】従来の問題点を示すベースプレート押し込み前の断面図である。
【図7】同、ベースプレーと押し込み後の斜視図である。
【図8】同、転写パッドの断面図である。
【図9】従来の方法で用いた他の成形型の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0025】
まず、図1により、転写パッド1の構成を説明すると、この転写パッド1は、パッド印刷機のアームBの下端に取り付けられるベースプレート2と、その下面に接着され、上部がほぼ円筒状で下部が略半球状ないし円錐状のパッド本体3とで構成され、ベースプレート2は、合成樹脂や合板等で形成され、パッド本体3は、シリコンゴム等の柔軟なゴムで形成されている。
【0026】
次に、この転写パッド1の製造方法を説明すると、図2に示すように、この方法で用いる成形型10は、前述の背景技術として説明した成形型Aと同様の構成で、内面形状が前記パッド本体3の形状とされた本体成形部11と、その上端部周縁に設けられたプレート受け面12と、さらにその上部に設けられ、内周面形状が前記ベースプレート2の形状に対応するプレート嵌込み部13とを有し、開放された上面の周囲はフランジ部14とされている。なお、この成形型10は、合成樹脂で形成されている。
【0027】
また、転写パッド1を構成するベースプレート2は、この実施形態では円形とされ、パッド本体3が下面に接着される中央部に、上下に貫通する貫通穴2aが形成されている。
【0028】
そして、この貫通穴2aの内径に対応する外径を有し、かつ所要の内径と長さとを有するパイプ部材20が用意される。
【0029】
そして、図3に示すように、まず、成形型10の本体成形部11にゴム材料Xを該本体成形部11の容積より多めに充填すると共に、ベースプレート2の貫通穴2aにパイプ部材20の下部を圧入することにより、該ベースプレート2にパイプ部材20を上方に立設する状態で装填し、この状態で、ベースプレート2を成形型10のプレート嵌込み部13に嵌め込む。
【0030】
ここで、プレート嵌込み部13にベースプレート2を嵌め込んだ後、パイプ部材20を貫通穴2aに圧入してもよい。また、ベースプレート2とゴム材料Xとを接着させるため、必要な場合には、ベースプレート2の下面のパッド本体3の接着範囲にプライマリ処理を施しておく。
【0031】
次に、ベースプレート2に上方から荷重Wを負荷する。このとき、成形型10の本体成形部11には多めにゴム材料Xが充填されているから、ベースプレート2が荷重Wによって下方に押圧されることにより、ゴム材料Xの一部が本体成形部11から逃げようとするが、ベースプレート2には貫通穴2aが設けられ、該貫通穴2aにパイプ部材20が圧入されて、前記本体成形部11の内部が外部に連通された状態にあるから、本体成形部11から逃げようとするゴム材料Xは、ベースプレート2の外周面とプレート嵌込み部13の内周面との間の狭い隙間からではなく、抵抗の少ないパイプ部材20の内部を通って逃げようとする。
【0032】
その場合に、ゴム材料Xの充填量、パイプ部材20の内径及び長さ等を適切に設定することにより、該パイプ部材20の内部に流入したゴム材料Xは、該パイプ部材20の先端から溢れることはなく、また、仮に溢れた場合にも、パイプ部材20の上端はベースプレート2の上面から離れているので、該ベースプレート2の上面にゴム材料Xが直接付着することはない。さらに、必要に応じて、ベースプレート2の上面をカバーしておくことにより、ゴム材料Xの付着を防止するようにしてもよい。
【0033】
そして、本体成形部11内の余分なゴム材料Xが、上記のようにしてパイプ部材20内に逃がされることにより、荷重Wによってベースプレート2を押し込む際の反力が低減され、該ベースプレート2は、周辺部下面が成形型10のプレート受け面12に密着するまで押し込まれる。
【0034】
その後、ゴム材料Xが硬化すれば、成形型10内に、ベースプレート2の下面にパッド本体3が接着されてなる転写パッド1が形成されることになり、次に、これを成形型10から型出しする。
【0035】
そして、この型出しの前又は後に、図4に示すように、ベースプレート2の貫通穴2aに圧入されているパイプ部材20を抜き取れば、該パイプ部材20内に押し出されたゴム材料Xもパッド本体3の部分から切り離され、該パイプ部材20と共に除去される。
【0036】
これにより、転写パッド1が完成することになるが、上記のように、荷重Wによりベースプレート2を成形型10のプレート嵌込み部13に押し込んだときに、該ベースプレート2の周辺部下面が成形型10のプレート受け面12に完全に密着するので、ベースプレート2の上面からパッド本体3の下端までの寸法Hが所定の寸法で、かつ、ベースプレート2とパッド本体3の軸心のずれや傾き等のない正常な転写パッドが得られることになる。
【0037】
また、余分なゴム材料Xが、前記ベースプレート2の周辺部と成形型10のプレート受け面12及びプレート嵌め込み部13との間を通って外部に流出することがないから、転写パッド1の型出し後、これらの部位の余肉を除去する必要がなくなり、前記のように、型出しの前又は後に、ベースプレート2からパイプ部材20を抜き取るだけの単純な作業だけで転写パッド1が完成することになる。
【0038】
なお、ベースプレート2の貫通穴2aにパイプ部材20を圧入する構成に代え、該貫通穴にパイプ部材の先端部をねじ込む構成としてもよい。また、大型の転写パッドの場合には、ベースプレートの押し込み時にゴム材料が確実にパイプ部材側へ逃げるように、図5に示すように、ベースプレート2’に、それぞれパイプ部材が装填される複数の貫通穴2a’を設けるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上のように、本発明によれば、パッド印刷機の転写パッドが、精度よく製造されると共に、製造工程ないし製造コストが削減されるから、この種の印刷機もしくは転写パッドを製造する産業分野において、好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0040】
1 転写パッド
2、2’ ベースプレート
2a、2a’ 貫通穴
3 パッド本体
10 成形型
11 本体成形部
12 プレート受け面
13 プレート嵌込み部
X ゴム材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースプレートの一方の面にゴム製のパッド本体が接着されてなるパッド印刷機用転写パッドを、内面形状が前記パッド本体の形状とされた本体成形部と、その上端部周縁に設けられたプレート受け面と、さらにその上部に設けられ、内周面形状が前記ベースプレートの形状に対応するプレート嵌込み部とを有し、上方が開放された成形型を用いて製造する転写パッドの製造方法であって、前記ベースプレートとして、該プレートのパッド本体接着位置に貫通穴が形成されているものを用い、まず、前記成形型の本体成形部に、その容積より多めに流動状態のゴム材料を充填し、次に、ベースプレートの貫通穴に、ゴム材料が充填された本体成形部を外部に連通させるようにパイプ部材を装填すると共に、該ベースプレートを前記プレート嵌込み部に嵌め込み、この状態で、ベースプレートにその周辺部下面が前記プレート受け面に密着するように荷重を負荷し、前記ゴム材料の硬化後、製品の型出しの前又は後に、前記パイプ部材をベースプレートから取り外すことを特徴とする転写パッドの製造方法。
【請求項2】
ベースプレートの貫通穴へのパイプ部材の装填は、圧入により行うことを特徴とする請求項1に記載の転写パッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−79275(P2011−79275A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235293(P2009−235293)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000110642)ナビタス株式会社 (15)