説明

転写因子を利用した植物の物質生産性の改良

【課題】
本発明は、転写因子遺伝子を利用して、植物の渇水耐性を向上させ、栄養生長を増大させまた、クロロフィル及びカロテノイド含量を増大させる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、シロイヌナズナの「MYBL転写因子」のうちのGARPファミリーに属するRGM1転写因子の遺伝子を植物に導入することにより植物の渇水耐性を向上させ、栄養生長を増大させまた、クロロフィル及びカロテノイド含量を増大させる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の転写因子遺伝子を利用した渇水に対して耐性の高い植物の作成方法、及び/又は栄養生長が増大した植物の作成方法、及び/又はクロロフィル及びカロテノイド含量の高い植物体の作成方法、及びこれを用いて得られる植物体、ならびにその利用に関し、主に植物育種分野に属する。
【背景技術】
【0002】
植物は、食料、エネルギー、原材料、生理活性物質、医薬品原料などの有用物質の生産や緑化、汚染物質の回収など様々な用途において有用であり、その機能を改良するために分子育種技術の開発が進められている。遺伝子組換え技術による転写因子の高発現は、分子育種の強力なツールとしての期待が高く、また、ゲノム情報を基にした転写因子遺伝子の同定法や転写因子の機能解析技術の進歩によって様々な機能に関わる転写因子遺伝子の利用に関する報告が成されている(非特許文献1、2)。
【0003】
渇水や灌漑水不足は、植物のバイオマス生産性を激減させるため、深刻な食糧不足や経済的損失といった問題の一因となる。植物は、乾燥に対して自身を守る機構を有しており、乾燥条件を感知するとシグナル伝達系が活性化し、乾燥への耐性に関係する遺伝子、もしくはそれらの発現を調節する遺伝子の発現が誘導されて適応する。しかし、乾燥条件が過酷であったり、長期にわたる場合には、植物の発達、生育が著しく低下する。したがって、植物の乾燥耐性の改良によって、このような制限を克服し、植物のバイオマス生産性を向上させることが可能となり、様々な栽培植物において収量の増加、栽培の省力化・省資源化、栽培地域の拡大などに有益である。
【0004】
これまでに、乾燥応答性遺伝子の植物での発現を遺伝子組み換え等の技術を用いて高め、乾燥応答や脱水耐性の能力を強化することで、植物の乾燥耐性を改良する試みがなされている(非特許文献3〜6)。近年、植物の乾燥ストレス応答や乾燥ストレス耐性に関与する様々な転写因子遺伝子の改変によって乾燥応答や脱水耐性が強化されるという事例が、数多く報告されている(非特許文献3〜6)。これらの多くは、短期間の比較的急激な乾燥ストレスに対する応答や脱水耐性を強化するという事例が多く、様々なタイミング・期間・程度の断続的な乾燥、そして同時に他のストレスに曝される実際の栽培環境での実用的な作物の生育に適用させるためのさらなる技術開発が必要とされている(非特許文献7、8)。また、このような乾燥応答や脱水耐性といった形質の強化は、生育が不良になるなど作物の生産性に対しては不利な影響を及ぼす場合が多いこと(非特許文献3、4)や、生産地の環境特性に応じた有用形質の選択が必要であるなどから、様々なタイプの乾燥適応能力に関連する遺伝子資源が必要とされている(非特許文献9)。そのため、さらなる有用遺伝子の探索と、栄養成長・花成、吸水・蒸散・光合成・水利用効率、あるいは高温や高塩など複合的ストレスへの応答など、乾燥条件下での生産性に関係する様々な複合的形質に関与する遺伝子の同定および複合的形質を統合的に改良するための育種技術の開発が進められている(非特許文献4、8、10〜12)。たとえば、乾燥条件での生産性の向上に有望な転写因子遺伝子が報告されている(非特許文献13、14)。
【0005】
植物におけるバイオマス生産性の改良など育種技術の観点からみて、花芽形成の時期すなわち栄養生長期間の制御も重要な課題である(非特許文献15)。植物のバイオマス生産は、主に栄養成長過程で行われ、その結果成長する。また、栄養成長期に生産したバイオマスは、種子・果実等へ蓄積するために貯蔵物質に転換される。したがって、多くの栽培植物において、栄養生長期間や花芽形成の時期を制御することは、植物体としてのバイオマス生産性の向上、種子・果実等の品質および生産性の向上にとって、重要な技術課題である(非特許文献15)。
いくつかの植物種において、花芽形成に関わる遺伝子が明らかにされている。特にシロイヌナズナにおいては、花芽形成の制御に関与する多くの遺伝子が明らかにされている(非特許文献15、16)。そのような遺伝子の発現を改良して、花芽形成を促進、もしくは遅延させる試みがなされてきた(非特許文献15)。たとえば、花芽形成抑制作用を有する不飽和脂肪酸誘導体を有効成分とする花芽形成調整剤(特許文献1)、花芽形成抑制活性タンパク質遺伝子又はそのアンチセンスDNAを用いる花芽形成の制御方法(特許文献2)、ERF転写因子ファミリーの花芽形成促進転写因子と機能性ペプチドとの融合タンパク質を用いた花芽形成遅延植物体生産方法(特許文献3)などが知られている。
【0006】
このような背景の下、本発明者は、植物における物質生産制御技術開発のために転写因子の機能ゲノム解析を進めて来ており、その過程でBZF1遺伝子の高発現によって、植物の栄養生長期間及びバイオマス量の増大、及び渇水条件での生存性の向上が可能となることを見出した(特許文献4)。しかし、このような機能を持つその他の転写因子は、これまでのところ知られていなかった。
高等植物の葉緑体には、光合成色素としてクロロフィルとカロテノイドが含まれている。クロロフィルは、光を捕集して光エネルギーから化学エネルギーに変換する機構で主要な役割を担っている。一方、カロテノイドは、光合成における補助色素としての機能と共に光傷害に対する保護機能も担っている。また、カロテノイドは、ビタミンAや植物ホルモンの一種であるアブシジン酸などの生合成の前駆体としても重要である。
これまで遺伝子組換え技術を用いてカロテノイドの含量や組成を改変する方法は、いくつか報告されている(非特許文献19)が、いずれも転写因子を利用する技術ではない。クロロフィル含量については、転写因子を利用した技術として唯一、GARP型のMYBファミリーのグループ1に属するGLK遺伝子を高発現させることでクロロフィル含量を増加させることについての報告がなされている(非特許文献17、18)が、渇水耐性の向上及び栄養生長の増大に関する報告はない。
【0007】
本発明者らは、以前から、植物において有用物質生産やバイオマス生産の効率化に役立つ転写因子遺伝子の探索を目的として、シロイヌナズナのMYBドメインを持つMYBL転写因子の機能解析を進めてきている。
MYBドメインを持つ転写因子は最初にトリ骨髄芽球症ウイルス(avian myeloblastosis virus)がん遺伝子として発見された(非特許文献20)が、MYBドメインを1〜3個有する転写因子は植物にも存在することが示され、遺伝子ファミリーを形成していることが知られていた(非特許文献21、22)。MYBタンパク質は、真核生物の大きな転写調節因子群を含み、様々な生物学的機能に関与する。MYBタンパク質の共通点は、動物、植物および酵母間で保存されている機能的なDNA結合ドメイン(MYBドメイン)の存在であり、一般に、MYBドメインは、R1、R2およびR3と呼ばれ、1から3個の不完全(同一ではない)反復から成る。各反復は、約50アミノ酸長であり、第2および第3のヘリックスがヘリックス・ターン・ヘリックス(HTH)DNA結合構造を形成する3つのヘリックスを含む。MYBタンパク質は、ドメイン内の反復の数及び各反復のアミノ酸配列の特徴に基づいてサブファミリーに分類される。植物におけるMYBファミリーには、R1、R2、R3を含むR1R2R3-MYB(あるいは3R-MYB)、およびR2、R3を含むR2R3-MYBという典型的なMYBドメインの反復配列を含むタイプが知られている(非特許文献29)。
MYB転写因子のうち、R2R3-MYBサブファミリーに属するMYB8(HOS10)を植物に導入することで、低温、渇水、浸透圧ストレス、アブシジン酸及び塩分に対する植物ストレス応答を高めることができることが知られ(特許文献5)、R3タイプのタバコ由来MYB転写因子(Ntmybタンパク質)遺伝子を標的とすることで細胞周期、細胞分裂の制御を行う試みも知られていた(特許文献6)。
また、近年になって、植物におけるMYBドメインを有するMYBファミリーには、R1、R2、R3という典型的な反復配列を含むタイプとは全く異なるタイプが存在することが知られるようになった(非特許文献30)。
本発明者らはこのようなR1、R2、R3といった典型的な反復配列を含まないMYBドメインを有するタイプをMYBL(MYB-like)とよび、シロイヌナズナのMYBLタンパク質の配列をデータベースでの相同性検索によって多数同定した。これまでにMYBL(MYB-like)転写因子を147個見いだし、分子系統解析および保存ドメイン・モチーフの比較解析を行ってきた。
アミノ酸配列の比較解析によって、MYBL転写因子は、いくつかのサブファミリーに分類される。中でも、MYBドメインにSHL/AQKYモチーフを含む反復を有するタイプが最も多く、シロイヌナズナゲノムデータベースからは85個見出された。これらはさらに、SHLQKYモチーフを有するGARPと呼ばれるタイプと概日リズムの制御系で中心的に機能するとされる転写因子CCA1を含むSHAQKYモチーフを有するタイプに大別される。SHL/AQKYを有するMYBファミリーは、分子系統解析によって10個のグループに分けられた(図1)。グループ1〜9は、SHL/AQKYモチーフを含む1個の反復を有する。グループ10は、2個の反復を有し、2番目の反復にSHAQKYモチーフを含む。GARPタイプは54個のメンバーが見出され、グループ1〜6に分けられた。上述のクロロフィル含量増加作用が見出されたGLK遺伝子およびBタイプARR遺伝子はグループ1に属しており、KANADI遺伝子はグループ6に、NSR1遺伝子およびAPL遺伝子はグループ4に、PHR1遺伝子はグループ5に属している。このように、MYBL転写因子に関しては、徐々にその発現パターンや機能に関しての詳細に検討が進んできている(非特許文献23〜28)。しかしながら、RGM1遺伝子も含め、グループ3に属するMYB遺伝子群の機能に関しては全く報告がなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−73209号公報
【特許文献2】特開2004−16201号公報
【特許文献3】特開2005−295878号公報
【特許文献4】特開2009−72063号公報
【特許文献5】特表2006−522608号公報
【特許文献6】特開2004−290193号公報
【0009】
【非特許文献1】Zhang, J.Z., 2003, Curr. Opin. PlantBiol. 6: 430-440
【非特許文献2】Century, K. et al., 2008, Plant Physiol.147: 20-29
【非特許文献3】Umezawa, T. et al.,2006, Curr. Opin. PlantBiol. 17:113-122
【非特許文献4】Parry, M.A.J. et al., 2005, Ann. App.Biol. 147: 211-226
【非特許文献5】Vij, S. and Tyagi, A.K., 2007, PlantBiotech. J. 5: 361-380
【非特許文献6】Bhatnagar-Mathur, P. et al., 2008, PlantCell. Rep. 27: 411-424
【非特許文献7】Passioura 2007J. Exp. Bot., 58: 113-117
【非特許文献8】Neumann, 2008, Annal. Bot., 101: 901-907
【非特許文献9】Pennisi, 2008, Science, 320: 171
【非特許文献10】Tuberosa and Salvi, 2006, Trends PlantSci., 11: 405-412
【非特許文献11】McKay et al., 2003, Mol. Eco., 12:1137-1151
【非特許文献12】Yue et al., 2006, Genetics,172: 1213-1228
【非特許文献13】Karaba et al. 2007, PNAS, 104: 15270-15275
【非特許文献14】Nelson et al. 2007PNAS, 104: 16450-16455
【非特許文献15】Jung, C. and Muller, A.E., 2009, TrendsPlant Sci. 14: 563-573
【非特許文献16】Baurle, I. and Dean, C. 2006, Cell 125:655
【非特許文献17】Waters, M.T. et al. 2008, Plant J. 56:432-444
【非特許文献18】Nakamura, H. et al., 2009, Plant CellPhysiol. 50: 1933-1949
【非特許文献19】Tanaka, Y. and Ohmiya, A., 2008, Curr.Opin. Biotech. 19: 190-197
【非特許文献20】Peter et al., 1987, EMBO J. 6: 3085-3090
【非特許文献21】Li, J. et al., 2006,Biochem. Biophys. Res. Commu. 341: 1155-1163
【非特許文献22】Yanhui, C. et al., 2006,Plant Mol. Biol. 60: 107-124
【非特許文献23】Fitter, D. W. et al.,2002, Plant J. 31: 713-727
【非特許文献24】Yokoyama, A. et al.,2007, Plant Cell Physiol. 48: 84-96
【非特許文献25】Mizuno, T.2004,Curr. Opin. Plant Biol. 7: 499-505
【非特許文献26】Kerstetter, R.A. etal., 2001, Nature 411: 706-709
【非特許文献27】Todd, C.D. et al.,2004, Planta 219: 1003-1009
【非特許文献28】Bonke, M. et al.,2003, Nature 426: 181-186
【非特許文献29】Jiang et al., 2003, Gene, 326: 13-22
【非特許文献30】Yanhui et al., 2006, Plant Mol. Biol.,60: 107-124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、転写因子遺伝子を利用して、渇水耐性を向上させる方法、及び/又は植物の栄養生長を増大させる方法、及び/又は植物のクロロフィル及びカロテノイド含量を増大させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはシロイヌナズナの「MYBL転写因子」のうちのGARPファミリーに属するRGM1転写因子遺伝子に着目してその機能を検討していく中で、RGM1遺伝子をシロイヌナズナに導入して複数のT1世代の形質転換植物を作成し、それぞれのT1植物について自家受粉による継代によってT3およびT4世代の植物体を得て、RGM1遺伝子が高レベルで発現していることを確認した。T4世代の植物の形質を野生型植物と詳細に比較することによって、RGM1遺伝子が植物に対して渇水耐性を付与する可能性、栄養生長を増大させる可能性、及びクロロフィル含量を向上させる可能性があることに気づき、渇水ストレスに対する耐性、栄養成長期間及び栄養成長量、クロロフィル及びカロテノイドの含量等の形質を詳細に検討した。その結果、形質転換植物が野生型と比較して顕著な渇水耐性を示し、栄養生長の増大を示し、さらに顕著に生重量あたりのクロロフィル及びカロテノイドの含量が高いことが確認された。複数の形質転換株のT4世代において上記の形質が確認されたことから、渇水耐性の向上、及び栄養生長の増大、クロロフィル及びカロテノイドの含量の増加という形質は、子孫にも安定して受け継がれる形質であると考えられる。
本発明者らはRGM1遺伝子を植物に遺伝子導入して発現させることにより、植物の乾燥耐性を向上させること、栄養生長を増大させること、及びクロロフィル及びカロテノイドの含量を増加させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、RGM1転写因子遺伝子の利用に関するものであり、以下に記載の発明を提供するものである。
〔1〕 RGM1をコードするDNAであって、かつ下記(a)〜(d)の少なくとも1つのDNAを含む組換えDNAを有効成分として含むことを特徴とする、植物の渇水耐性を向上させる作用、植物の栄養成長を増大させる作用、植物のクロロフィル又はカロテノイドの含量を高める作用のうち1つ以上の作用を有する薬剤;
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
〔2〕 前記組換えDNAが、植物細胞内で発現可能なベクターに組み込まれていることを特徴とする、前記〔1〕に記載の薬剤。
〔3〕 前記〔1〕又は〔2〕に記載の薬剤を用いて形質転換された形質転換植物細胞又は組織であって、かつ当該細胞又は組織から植物器官又は個体を発生又は再分化させることにより、渇水耐性が向上し、及び/又は栄養成長が増大し、及び/又は植物のクロロフィル及びカロテノイドの含量が増加した形質転換植物を得ることができる、形質転換植物細胞又は組織。
〔4〕 前記〔1〕又は〔2〕に記載の薬剤を用いて形質転換されたことを特徴とする、渇水耐性が向上し、及び/又は栄養成長が増大した、及び/又は植物のクロロフィル及びカロテノイドの含量が増加した形質転換植物又はその部分。
〔5〕 前記形質転換植物又はその部分が、植物個体、種子、植物器官、植物組織、又は植物細胞である、前記〔4〕に記載の形質転換植物又はその部分。
〔6〕 RGM1をコードするDNAであって、かつ下記(a)〜(d)の少なくとも1つのDNAを含む組換えDNAを用いて植物を形質転換する工程を含むことを特徴とする、渇水耐性が向上し、及び/又は栄養成長が増大した、及び/又は植物のクロロフィル及びカロテノイドの含量が増加した形質転換植物の製造方法;
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
〔7〕 前記組換えDNAが、植物細胞内で発現可能なベクターに組み込まれていることを特徴とする、前記〔6〕に記載の製造方法。
〔8〕 前記〔6〕又は〔7〕に記載の製造方法により製造された形質転換植物を、さらに、自家受粉、交配法、もしくは細胞融合法によりその子孫を得るか、又は当該形質転換植物の部分を用いてそのクローンを得ることを特徴とする、渇水耐性が向上し、及び/又は栄養成長が増大した、及び/又は植物のクロロフィル及びカロテノイドの含量が増加した植物の製造方法。
〔9〕前記〔8〕に記載の製造方法により得られた形質転換植物の子孫又はその部分。
〔10〕 RGM1をコードするDNAを含む組換えDNAであって、かつ下記(a)〜(d)の少なくとも1つのDNAを含む組換えDNAを用いて植物を形質転換する工程を含むことを特徴とする、植物の渇水耐性の向上、及び/又は栄養成長の増大、及び/又は植物のクロロフィル及びカロテノイドの含量の増加方法;
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
〔11〕 前記組換えDNAが、植物細胞内で発現可能なベクターに組み込まれていることを特徴とする、前記〔10〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、渇水耐性が向上した形質転換植物が提供される。また、本発明により栄養生長が増大した形質転換植物が提供される。また、クロロフィル及びカロテノイドの含量が増加した形質転換植物が提供される。さらに、本発明により、これらの形質が複合的に付与された形質転換植物が提供される。栄養生長の増大によって、植物バイオマス資源の増産が可能となる。渇水耐性の向上によって、または渇水耐性の向上と共に栄養生長が増大することによって、渇水あるいは低灌水条件下での植物生産の効率化と、栽培の省力化と節水化、栽培地域の拡大等が可能となり、また、栽培植物の植物個体、もしくはその有用部分の収率の向上あるいは収量の増加、生産コストの低減等が可能となる。また、植物の生産性が向上することで、植物体内で合成・蓄積される種々の有用物質の生産性の向上にも有効である。さらに、クロロフィル及びカロテノイドの含量の増加によって、人の健康に有益な植物や緑化のために優れた植物の開発への応用、また、植物の光エネルギーの変換あるいは光傷害の改変技術への応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、シロイヌナズナのSHL/AQKYタイプのMYBファミリーの分子系統樹を示す図である。SHLQKYもしくはSHAQKYモチーフを含む反復のアミノ酸配列を用いて作製した。この場合、グループ9と10は区別されないが、2個の反復を有するタイプをグループ10とし、10個のグループに分類された。RGM1はグループに3に属する。
【図2】図2は、配列番号1のRGM1遺伝子を植物で構成的に発現させるためのベクターの模式図である。
【図3】図3は、形質転換植物における配列番号1のRGM1遺伝子の過剰発現を示すRT-PCRの結果を示したである。野生型植物および4系統のRGM1形質転換植物(T3あるいはT4世代)における各2個体(#1および#2)についてRGM1遺伝子の発現を示す。フォワードおよびリバースプライマーを用いてPCRを行った。RGM1形質転換植物3系統でRGM1遺伝子が過剰発現している。
【図4】(A)は、RGM1遺伝子の高発現により形質転換植物のクロロフィル量が増大していることを示す写真である。植物を21日間栽培した後の植物を示した。野生型植物に比べて、RGM1形質転換植物では、クロロフィル含量の増加により緑色が増している。(B)は、RGM1遺伝子の高発現により形質転換植物のクロロフィル量及びカロテノイド量の含量が増加していることを示すグラフの図である。
【図5】図5は、RGM1遺伝子の高発現により形質転換植物の渇水耐性が向上したことを示す写真である。植物を25日間栽培した後、14日間灌水を停止し、灌水を再開した4日後の植物を示す。野生型は回復せずにそのまま枯死したが、RGM1形質転換植物は回復し、再び正常な生育を示した。
【図6】(A)は、RGM1遺伝子の発現により形質転換植物の栄養生長が増大したことを示す写真である。野生型植物及びRGM1形質転換植物を花芽形成の促進条件である長日条件下で栽培すると、播種後35日目において、野生型では花茎が抽苔しているのに対して、RGM1形質転換植物では、花芽の形成が見られない。(B)は、野生型植物、及びRGM1形質転換植物における花茎が抽苔するまでの本葉の枚数(17〜18個体平均)を示す。花芽の形成が観察され始めた時期の本葉の枚数を比較すると、野生型植物に比べてRGM1形質転換植物で多くなっていた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.本発明において「植物の渇水耐性が向上する」とは、対象植物の渇水に対する耐性を野生型の植物と比較して向上させることをいう。植物の渇水耐性は、実施例3に示したように、本発明の遺伝子を用いて形質転換した植物を野生型の植物と共に栽培した後、灌水を一定期間停止し、再度灌水を開始した後の生存率を調べることにより評価することができる。
【0016】
2.本発明において「栄養生長が増大された」とは、対象植物の栄養成長期及び/又は栄養成長量を野生型の植物と比較して増大させることをいう。本発明の栄養生長は、実施例4に示したように、花茎が抽苔するまでに要する日数あるいは花茎の抽苔が観察されたときの本葉の枚数を調べることにより評価することができる。その他に、花芽が形成された時点での生重量又は乾重量などを指標としても良い。
【0017】
3.本発明において「植物のクロロフィル及びカロテノイドの含量が増加する」とは、対象植物の緑葉部分においてクロロフィル及びカロテノイドの含量を野生型の植物と比較して増加させることをいう。植物のクロロフィル及びカロテノイドの含量の増加は、実施例2に示したように、本発明の遺伝子を用いて形質転換した植物を野生型の植物と共に栽培した後、葉の生重量あたりのクロロフィル及びカロテノイドの量を測定することにより評価することができる。
【0018】
4.本発明において、RGM1遺伝子は、典型的にはシロイヌナズナ由来の配列番号2に示したアミノ酸配列のタンパク質をコードする配列番号1のDNAをあげることができる。
また、渇水耐性を向上させる作用、栄養生長を増大させる作用、クロロフィル含量を増大させる作用を有するDNAであれば、「配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA」も含まれる。このようなDNAは、当業者にとって周知の遺伝子ライブラリーの作製及びハイブリダイゼーションにより取得でき、その際の「ストリンジェントな条件」の設定も当業者に周知である(例えば、Maniatisら(1989)Molecular Cloning, A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York)。典型的には、配列番号2のRGM1をコードする配列番号1で表された塩基配列情報を利用して適当なプライマー対を設計し、そのプライマー対を用いて植物から調製したmRNAを鋳型にPCRを行い、得られる増幅DNA断片をプローブとして用いて常套手段により調製された植物由来のcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより得ることができる。
また、形質転換植物に渇水耐性を向上させる作用、栄養生長を増大させる作用、クロロフィル含量を増大させる作用を付与するDNAであって、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAも本発明で用いられる。
したがって、本発明の「RGM1をコードするDNA」として典型的には、以下のDNAを包含する。
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
【0019】
5.形質転換植物の作出方法
本発明遺伝子を形質転換する対象となる植物は、単子葉植物および双子葉植物のいずれでもよい。特に好ましい植物としては、イネ、トウモロコシ、ダイズ、ポプラ、ハクサイ、セイヨウナタネ、ブドウが挙げられる。
上記DNAを挿入するベクターとしては、植物細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクターや外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることも可能である。上記DNAが挿入されたベクターは、例えば、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法等の当業者に公知の方法によって、植物細胞に導入することができる。本発明の実施例では、典型的なアグロバクテリウム法を用いた。
本発明は、上記DNAやベクターが導入された形質転換植物細胞から育成または再生された、乾燥耐性が向上した植物体を提供する。本発明における「乾燥耐性が向上した植物体」とは、野生型の植物体と比較して乾燥に対する耐性が人為的に向上されている植物体をいう。
【0020】
また、本発明は、花芽形成が遅延された植物体を提供する。「花芽形成が遅延された植物体」とは、野生型の植物体と比較して花芽形成が人為的に遅延されている植物体をいう。
さらに、本発明は、乾燥耐性が向上し、かつ花芽形成が遅延された植物体を提供する。
本発明は、上記DNAが導入された細胞から作出された植物体のみならず、その子孫あるいはクローンをも提供する。一旦、ゲノム内に上記DNAやベクターが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖、無性生殖、組織培養、細胞培養、細胞融合等により子孫あるいはクローンを得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、不定芽、不定胚、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。
そして、本発明は、植物の乾燥耐性を向上させるための、又は植物の花芽形成を遅延させるための、及び、植物の乾燥耐性を向上させると共に、植物の花芽形成を遅延させるための形質転換方法を提供する。当該方法は、上記DNAやベクターを植物細胞に導入する工程および上記DNAやベクターを導入された細胞から植物体を育成または再生する工程を含むものである。
上記DNAが挿入されたベクターは、当業者に公知の方法によって、植物細胞に導入することができる。形質転換植物細胞から植物体を育成または再生する工程は、植物の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。例えば、シロイヌナズナであれば(Clough et al., 1998, Plant J.16:735-743)の方法、あるいは(Akama et al., 1992, Plant Cell Reports12:7-11)の方法が挙げられる。また、イネであれば(Hiei et al.,1994, Plant J.6:271-281)あるいは(Fujimura et al., 1985,Plant Tissue Culture Lett.2:74-75)の方法を用いることができる。
そして、本発明において「形質転換植物」というとき、上記DNAを導入して作成した形質転換植物のみならず、当該植物の有性生殖によって得られた種子を生育させた子孫植物、無性生殖、組織培養、細胞培養、細胞融合等により得られた子孫植物あるいはクローン、さらにそれらを継代させて得られる子孫植物のすべてを含む概念である。本発明の実施例では、配列番号1のDNAが導入された形質転換植物を自家受粉させて得られた種子を生育させたT3世代又はT4世代を用いている。
【0021】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
なお、本発明の実験手法に関しては、特に記載のない限り、「Maniatisら(1989)Molecular Cloning, A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York」、「Gelvin及びSchilperoort編(1994)Plant Molecular Biology Manual, second edition, Kluwer Academic Publishers」、「島本ら監修(2005)モデル植物の実験プロトコール、秀潤社」などの実験書、又は実験で用いた市販キットの説明書の記載に従った。
【実施例】
【0022】
(実施例1)遺伝子の植物への導入
遺伝子の単離、遺伝子導入用の組換えベクター及び形質転換植物の作製は、公知の方法で行うことができる。本実施例においては、RGM1のcDNAをシロイヌナズナ植物から単離し、植物発現ベクターを作製して、アグロバクテリウムを用いてシロイヌナズナに形質転換し、RGM1過剰発現形質転換植物を得た。
(1−1)RGM1遺伝子のクローニング
シロイヌナズナ植物体根より全RNAを抽出し、これを鋳型にして、oligo(dT), 逆転写酵素を作用させて、1本鎖cDNAを合成した。この1本鎖cDNAを鋳型として、フォワードプライマー:5’- CACCATGATCAAGAACTTAAGTAATATG-3’(配列番号3)、リバースプライマー:5’- TTATGATATTATTTTTGCATCTTTCGT -3’(配列番号4)を用いてPCRを行い、cDNAを単離した。PCRの条件は98℃ 30秒(98℃ 10秒、58.6, 55.5℃、30秒、72℃ 1分)×30 サイクル、72℃ 10分の後、4℃で保持した。増幅した断片は、約1100(正確にはcacc含めて1078)bpであり、目的の長さであった。
【0023】
(1−2)RGM1遺伝子の植物発現ベクターの作成
RGM1遺伝子を植物で構成的に発現させるための植物発現ベクターは以下のように作製した。上記(1)で得られたRGM1遺伝子の完全長cDNAを含んだエントリークローンと、発現ベクター(デスティネーションベクターpK2GW7、(Karimi et al., 2002, Trends in Plant Science; 7(5): 193-195)を混合し、Invitrogen社のGateway PCRクローニングシステムのマニュアルに従ってLR反応によりRGM1遺伝子の完全長cDNAを含んだ発現クローンを得た。構築されたRGM1遺伝子高発現ベクター(pK2GW7-P35S::RGM1)は、図2に示すように、CaMV 35S プロモーター領域、本発明のRGM1 cDNAをコードするポリヌクレオチドおよびCaMV 35Sターミネーター領域を含む。これを以後のシロイヌナズナへの遺伝子導入に用いた。
【0024】
(1−3)RGM1遺伝子のシロイヌナズナへの導入
上記(2)にて構築した発現ベクターをfreeze-thaw法により、アグロバクテリウム・チュメファシエンスLBA4404株に導入した。なお遺伝子の導入はコロニー PCRにより確認した。形質転換用シロイヌナズナは、23℃、長日条件で栽培し、摘心を行って腋芽の数を増加させた。感染の当日には、蕾を残して、鞘と開花した花は取り除いた。
一方、形質転換したアグロバクテリウムを、100mg/Lのスペクチノマイシンと200mg/Lのストレプトマイシンを含むYEB培地を用いて、28℃で24時間程度前培養した後、27℃で24時間程度本培養を行った。得られた培養液を集菌し、形質転換用培地に懸濁した。
Floral-dip法(Clough et al., 1998, Plant J.16:735-743)に従って、蕾を懸濁液に約1分浸した。処理後の植物はラップで乾燥を防ぎ、23℃長日条件に一晩おいた後に、土に水を通して懸濁液を希釈した。同条件下でそのまま生育を行い、T1種子を得た。T1種子は、50mg/Lのカナマイシンと100mg/Lのカルベニシリンを含むMS培地を用いて、23℃、長日条件で発芽・生育させることによって選抜を行った。このT1植物からT2種子を得た。T2種子は、50mg/Lのカナマイシンを含むMS培地を用いて、23℃長日条件のもとで発芽・生育させることによって選抜を行った。このT2植物からT3種子を得た。T3種子は、上記のT2種子選抜と同様にカナマイシン選抜を行った。このT3植物からT4種子を得た。
【0025】
(1−4)形質転換植物におけるRGM1遺伝子の発現
RGM1遺伝子を導入した形質転換植物4系統および野生型植物から全RNAを抽出し、0.5ugを鋳型に用い、oligo(dT), 逆転写酵素を作用させて、1本鎖cDNAを合成した。この1本鎖cDNAを鋳型として、フォワードプライマー:5’-CTCTTTGCGTAGAGCTCGTGA-3’(配列番号5)、リバースプライマー:5’-CACTGCCACCATCGCTAGTA-3’(配列番号6)を用いてPCRを行った結果を図3に示す。この結果から、形質転換植物4系統のうち3系統が導入遺伝子を高レベルで発現していることが示された。
【0026】
(実施例2)形質転換シロイヌナズナ植物のクロロフィル及びカロテノイドの含量
RGM1遺伝子が高レベルで発現している形質転換植物のT4世代の植物を用いてクロロフィル含量を調べた。
遺伝子導入したRGM1遺伝子が高レベルで発現しているRGM1形質転換植物及び野生型植物を、人工土壌に播種後21日栽培した後、植物体葉よりクロロフィル及びカロテノイドを抽出および測定し、生重量あたりのクロロフィル量を算出した。その結果、図4のように、野生型植物と比較し、RGM1形質転換植物はいずれの葉においてもクロロフィル及びカロテノイドの含量が高いことが示された。これらの結果から、RGM1遺伝子を高レベルで発現させることによって、形質転換植物が生重量あたりのクロロフィル及びカロテノイドの含量が増加することが示された。
【0027】
(実施例3)形質転換シロイヌナズナの渇水耐性
RGM1形質転換植物(33-2-1#)、及び野生型植物(Col-0)を、長日条件のもとで、人工土壌で播種後21日栽培した後、14日間、灌水を停止して渇水させた。この後、灌水を再開し、4日後の生存率を調べた。その結果、図5のように、野生型植物 は灌水停止後12日〜14日で植物体地上部はほぼ萎れた状態となり、灌水を再開しても回復せずにそのまま枯死するが、RGM1形質転換体は灌水停止後13日では萎れず、14日後にやっと地上部が萎れはじめた。その後灌水再開すると回復し、再び正常な生育を示した。これらの結果から、RGM1遺伝子を高レベルで発現させることによって、形質転換植物が渇水耐性を獲得することが示された。また、形質転換植物は生育や形態上の大きな異常は認められないことから、RGM1遺伝子の過剰発現は植物の生育等には極端な悪影響を及ぼさないと考えられた。
すなわち、潅水を停止して渇水させると、RGM1形質転換植物は、野生型植物比べると植物体地上部の萎れが遅く、渇水に対して耐性を示す。また、野生型植物大部分が萎れる渇水状態で潅水を再開すると野生型植物は回復せずにそのまま枯死するが、RGM1形質転換体の大部分は回復し、再び正常な生育を示すようになった。
【0028】
(実施例4)形質転換シロイヌナズナ植物の栄養生長の増大
RGM1形質転換植物を、野生型植物(Col-0)と共に、長日条件で栽培した。図6の(A)は、35日後の、野生型植物、及びRGM1形質転換植物の状態を示す。RGM1形質転換植物は、野生型植物(Col-0)と比較して花芽形成が遅延し、一方、展開する本葉は厚みがあり、かつ枚数も野生型植物やコントロール形質転換植物に比べて多くなった。
図6の(B)は、それぞれの植物における、花茎が抽苔するまでの本葉の枚数を17〜18個体について調べた結果を示す。RGM1形質転換植物(33-2-1#)では、平均19.0枚であるのに対して、野生型植物では平均10.5枚であり、RGM1形質転換植物における1.8倍程度の本葉の枚数増加を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のRGM1遺伝子の発現が高められた形質転換植物では、栄養生長が増大することから農作物や各種資源植物の生産量の増大に利用できる。また、さらに渇水耐性が向上することから、渇水・低灌水条件下での農作物や資源植物の生産の効率化、栽培の省力化と節水化、栽培地域の拡大などが可能となる。伝統的な農林業における植物生産だけでなく、乾燥地域の緑化、二酸化炭素吸収量の増大、ビルの屋上や植物工場など人工気象条件における生産効率の増大、栽培の省力化・省資源化にも利用出来る。生産される植物バイオマスの利用の形態としては、伝統的な農林業の生産物の利用の仕方に加え、バイオマス燃料や原料としての利用も考えられる。また、植物体内で合成・蓄積される種々の有用物質の生産性の向上にも有効である。さらに、収穫した植物体や植物体の一部の寿命の延長や鮮度の保持の向上により、商品価値の減少の軽減、輸送や貯蔵コストの低減に利用できる。さらに、クロロフィル及びカロテノイドの含量の増大は、人の健康への有益性を増進させた植物の作製への利用が可能となる。
【配列表フリーテキスト】
【0030】
配列番号1:RGM1遺伝子の塩基配列
配列番号2:RGM1タンパク質のアミノ酸配列
配列番号3:RGM1遺伝子増幅用フォワードプライマー(1)
配列番号4:RGM1遺伝子増幅用リバースプライマー(1)
配列番号5:RGM1遺伝子増幅用フォワードプライマー(2)
配列番号6:RGM1遺伝子増幅用リバースプライマー(2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RGM1をコードするDNAであって、かつ下記(a)〜(d)の少なくとも1つのDNAを含む組換えDNAを有効成分として含むことを特徴とする、植物の渇水耐性を向上させる作用、植物の栄養成長を増大させる作用、植物のクロロフィル又はカロテノイドの含量を高める作用のうち1つ以上の作用を有する薬剤;
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
【請求項2】
前記組換えDNAが、植物細胞内で発現可能なベクターに組み込まれていることを特徴とする、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の薬剤を用いて形質転換された形質転換植物細胞又は組織であって、かつ当該細胞又は組織から植物器官又は個体を発生又は再分化させることにより、渇水耐性が向上し、及び/又は栄養成長が増大し、及び/又は植物のクロロフィル及びカロテノイドの含量が増加した形質転換植物を得ることができる、形質転換植物細胞又は組織。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の薬剤を用いて形質転換されたことを特徴とする、渇水耐性が向上し、及び/又は栄養成長が増大した、及び/又は植物のクロロフィル及びカロテノイドの含量が増加した形質転換植物又はその部分。
【請求項5】
前記形質転換植物又はその部分が、植物個体、種子、植物器官、植物組織、又は植物細胞である、請求項4に記載の形質転換植物又はその部分。
【請求項6】
RGM1をコードするDNAであって、かつ下記(a)〜(d)の少なくとも1つのDNAを含む組換えDNAを用いて植物を形質転換する工程を含むことを特徴とする、渇水耐性が向上し、及び/又は栄養成長が増大した、及び/又は植物のクロロフィル及びカロテノイドの含量が増加した形質転換植物の製造方法;
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
【請求項7】
前記組換えDNAが、植物細胞内で発現可能なベクターに組み込まれていることを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の製造方法により製造された形質転換植物を、さらに、自家受粉、交配法、もしくは細胞融合法によりその子孫を得るか、又は当該形質転換植物の部分を用いてそのクローンを得ることを特徴とする、渇水耐性が向上し、及び/又は栄養成長が増大した、及び/又は植物のクロロフィル及びカロテノイドの含量が増加した植物の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法により得られた形質転換植物の子孫又はその部分。
【請求項10】
RGM1をコードするDNAを含む組換えDNAであって、かつ下記(a)〜(d)の少なくとも1つのDNAを含む組換えDNAを用いて植物を形質転換する工程を含むことを特徴とする、植物の渇水耐性の向上、及び/又は栄養成長の増大、及び/又は植物のクロロフィル及びカロテノイドの含量の増加方法;
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
【請求項11】
前記組換えDNAが、植物細胞内で発現可能なベクターに組み込まれていることを特徴とする、請求項10に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−239684(P2011−239684A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111635(P2010−111635)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「環境安心イノベーションプログラム/植物機能を活用した高度モノづくり基盤技術開発/植物の物質生産プロセス制御基盤技術開発(植物の統括的な遺伝子発現制御機能の解析)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】