説明

転炉炉体の交換方法

【課題】炉体からトラニオンリング等を取り外すことなく、炉体として、転炉炉体の取替を行なうことができる、転炉炉体の交換方法を提案する。
【解決手段】炉体とトラニオンリング等を含む炉体を、移動手段に取り付けられた昇降手段を有する支持具で支持された状態で、炉体の炉底側下部をトラニオンリングの下側で切断し、切断された炉体の炉底側下部を昇降手段で下降させ、移動手段で転炉炉裏側に搬出したのち、炉底側下部を切断された炉体を、移動手段に取り付けられた昇降手段および旋回手段を有する支持具で支持した状態で、炉体の付帯設備を取り外したのち、旋回手段により所定の角度だけ旋回させ、ついで昇降手段により所定位置まで下降させ、移動手段により炉裏に引き出し搬出する。これにより、炉前の開口工事や付帯工事を行なうことなく、安価にしかも短期に、トラニオンリングから炉体を取り外すことなく、転炉炉体の取替を行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉炉体の交換方法に係り、とくにトラニオンリングを含む転炉炉体の交換方法の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉炉体を取り替える方法として、従来は、炉体を定位置に据えつけたままの状態で行なっていた。しかし、転炉炉体を据えつけたままの状態で、補修すると、生産停止期間が長期間に及ぶため、生産性を著しく低下させる欠点があった。また、転炉炉前に取替用の専用架台を設置し、付帯設備を取り外した転炉炉体を、トラニオンリング、トラニオン、トラニオン軸受とともに架台上に引き出し、架台上で解体し、新たに炉体を組み込み再び取替位置に装着する方法も行なわれていた。しかし、この方法でも、生産停止期間が長くなるうえ、生産を停止しない場合でも、炉前および炉周りの作業が多く、安全上やその他の操業に支障をきたすなどの問題があった。そこで、転炉炉体を迅速に交換する方法が要望されていた。
【0003】
このような要望に対し、例えば、特許文献1には、転炉炉体の取替方法が提案されている。特許文献1に記載された技術では、転炉炉体の付帯設備、トラニオン軸受上部ケーシング等を取り外し、転炉炉体の下に搬入された移動手段に取り付けられた昇降自在の支持具で、炉体、トラニオンリング、トラニオンを含む転炉一体物を支持し、さらに転炉一体物をトラニオン下端がトラニオン軸受下部ケーシングを超えるまで上昇せしめたのち、転炉一体物を移動手段で炉前位置まで移動し、ついで天井クレーンで所定位置に移送したのち、これに代えて新たな転炉一体物を逆の工程で所定の場所に装着することを特徴としている。
【0004】
また、特許文献2に記載された技術では、トラニオンリングを、炉体支持部材が支持可能でかつ炉体支持部材が上下方向に通過可能な構造として、転炉炉体を昇降および回転機能を備えた装置によりトラニオンリングより上昇浮上させ、トラニオンリングと干渉しない抜き出し位置まで回転させ、ついで降下させて転炉炉体をトラニオンリングの下方に抜き出すことを特徴としている。
【特許文献1】特公昭60−41684号公報
【特許文献2】特開平4−120210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された技術では、転炉一体物の炉前位置までの移送に際して障害となる、炉前の床、柱、梁等を解体、撤去するという炉前の開口工事や、その復旧工事を行なう必要がある。このため、工事が大規模となり、工事期間が長くなり、工事費用の高騰を招くとともに、炉前作業の停止や制約を生じるという問題があった。
また、特許文献2に記載された技術では、炉前の開口工事や付帯工事を大規模に行なう必要がなく、転炉の炉体のみの交換が可能である。しかし、トラニオンリングを含めた炉体を取替ることはできないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、炉前の開口工事や付帯工事を行なうことなく、小規模の既存設備や建屋の改造工事を行なうのみで、安価にかつ短期に、トラニオンリングから炉体を取り外すことなく一体として、転炉炉体の取替を行なうことができる、転炉炉体の交換方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、鋭意検討した結果、移送用台車に、昇降機構に加えて旋回機構を備えた支持具を取り付けることにより、転炉炉体のトラニオン軸受と、炉体支持架台、建屋柱、梁、床等との干渉を回避することができ、炉前の開口工事や付帯工事を行なうことなく、トラニオンリングから炉体を取り外すことなく、転炉炉体の取替を行なうことができることに想到した。
【0008】
本発明は、本発明の要旨は、次のとおりである。
(1)転炉の炉体を、移動手段に取り付けられた昇降手段を有する支持具で支持し、該支持具で支持された状態で、前記炉体の炉底側下部をトラニオンリングの下側で切断する炉体下部切断工程と、
切断された該炉体の炉底側下部を前記昇降手段で下降させ、前記移動手段で転炉炉裏側に搬出する炉体下部搬出工程と、
前記炉底側下部を切断された残りの炉体を、移動手段に取り付けられた昇降手段および旋回手段を有する支持具で支持する炉体支持工程と、
該支持具で支持された状態で、トラニオン軸受及び付帯設備を取り外したのち、該炉底側下部を切断された残りの炉体を前記旋回手段により所定の角度だけ旋回させる炉体旋回工程と、
ついで前記昇降手段により所定位置まで下降させる炉体下降工程と、
下降させられた前記炉底側下部を切断された残りの炉体を移動手段により炉裏に引き出し搬出する炉体搬出工程と、を順次行い、
ついで、これに代えて新たな炉体を、移動手段に取り付けられた昇降手段および旋回手段を有する支持具で支持した状態で、上記したとは逆の工程を順次行って所定の位置に取り付けることを特徴とする転炉炉体の交換方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、転炉の炉体をトラニオンリング等を含め一体として、炉前の開口工事や付帯工事を行なうことなく、安価にかつ短期に、交換することができ、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、転炉のトラニオンリングを含む炉体の交換工事を安全に行なうことができるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
転炉の炉体1は、図1に示すように、トラニオンリング2と、トラニオン軸3の軸受(トラニオン軸受)4を介して、炉体支持架台5上に支持され、傾動駆動装置6により揺動可能に取り付けられている。なお、炉体1のトラニオンリング2への支持は、コッターあるいはシムによる定着で行われるが、その支持装置は図示していない。本発明では、トラニオンリング2、トラニオン軸3および炉体1のトラニオンリング2への支持装置(図示せず)を転炉の炉体1から取り外すことなく、炉体と一体で交換する。なお、ここでいう「炉体」とは、必要に応じ炉体鉄皮の内部の耐火物を解体、撤去した状態をいうことは言うまでもない。
【0011】
転炉炉体の交換にあたり、本発明では、まず、炉体下部切断工程と炉体下部搬出工程を行い、炉体1の炉底側下部1bを、炉体1から切断、分離して搬出する。
また、炉体下部切断工程を行なう前に、予め、炉底側下部1bを搬出するに際して安定性の障害となる炉体1のボトム1cや、炉底側下部1bを搬出する際の干渉物となる防熱板7を撤去する。また、作業の支障となる、炉体1の周辺に配設された配管、配線等を取り除いておくことはいうまでもない。
【0012】
炉体下部切断工程では、炉体1を、移動手段10に取り付けられた昇降手段12を有する支持具11aで一旦支持する。なお、支持具11aは、炉体1を下部から安定して支持可能であればよく、とくにその形状は限定されない。そして、支持具11aで支持された状態で、炉体1の炉底側下部1bをトラニオンリング2の下側で切断し、分離する。切断・分離された炉底側下部1bは、支持具11a上に搭載・支持される。
【0013】
また、炉体下部搬出工程では、切断された炉底側下部1bを昇降手段12により、所定の搬送可能な高さまで下降する。なお、昇降手段12は、炉体を支持し昇降可能なものであればとくに限定されないが、油圧式、空圧式等のジャッキとすることが好ましい。図2に、切断された炉底側下部1bを昇降手段12により、所定の搬送可能な高さまで下降した状態で示す。そして、下降後、移動手段10により、転炉炉裏側(紙面に直交する方向)に搬出する。移動手段10としては、炉体1の炉底側下部1bを支持し移動可能で、かつ支持具11a等を積載可能な台車等の輸送手段であれば、とくに限定されない。
【0014】
ついで、本発明では、残りの炉体を支持する炉体支持工程と、炉体移動に際し、炉体支持架台5、床8bとの干渉をさけるため一旦炉体を旋回させる炉体旋回工程と、炉体下降工程と、炉体搬出工程とを順次行う。
炉体支持工程では、炉体上部1a、トラニオンリング2等を含む炉底側下部1bを撤去した残りの炉体を、移動手段10に取り付けられた昇降手段12および旋回手段13を有する支持具11bで、下方から支持する。この状態を図3に例示する。支持された状態で、炉体から、トラニオン軸受4、傾動駆動装置6を取り外す。支持具11bは、炉体1あるいはトラニオンリング2を支持可能な支持架台11b1を有し、炉体上部1a等を含む炉体が支持可能であれば、とくにその形状構造は限定されない。
【0015】
ついで、炉体旋回工程では、旋回手段13により、炉体上部1a等を含む炉体を所定の旋回角度だけ旋回させる。この状況を模式的に図4(a)、(b)に示す。図4(a)は側面図、図4(b)は平面図である。旋回手段13は、支持具11bを含め炉体を移動手段10上で所定の角度旋回可能であれば、その種類はとくに限定されないが、旋回ベアリング等が例示できる。
【0016】
なお、旋回に際しては、炉体支持架台5、建屋柱20、梁21、床8bの位置関係に応じて、トラニオン軸3が、移動に際し、炉体支持架台5、建屋柱20、梁21、床8bと干渉しないように、旋回角度を選定することが好ましい。所定の旋回角度は、炉体の移動に際して障害となる、炉体支持架台5、建屋柱20、梁21、床8bの位置関係に応じて、決定すればよいが、図4に示す例の場合には、45度とすることが好ましい。
【0017】
また、炉体下降工程では、旋回され、支持具11bで支持された状態の、炉体を、昇降手段12により、所定の搬出可能な高さまで下降する。図5に、下降した状態を示す。
ついで、炉体搬出工程では、下降した炉体を、移動手段10により、転炉炉裏側に搬出する。図6に、移動手段10により搬出途中の状態を示す。本発明では、搬出に際し、炉体と建屋柱、梁等との干渉はなく、容易に転炉炉裏に移動できる。
【0018】
搬出された、炉体上部1a、トラニオンリング2等を含む炉体は、転炉作業に支障のない場所に搬送され、解体される。
一方、新たに、炉体1に、トラニオンリング2、トラニオン軸3および炉体1のトラニオンリング2への支持装置等を取り付けた炉体を準備しておく。なお、新たに準備される炉体は、所定の位置に載置されるまでは鉄皮のみとし、内部に耐火物を積層しない状態とすることが好ましい。そして、昇降手段12および旋回手段13を有する支持具11bで支持された状態で移動手段10上に載せ、上記したとは逆の工程、すなわち、炉体の、搬入、上昇、旋回を順次行ったのち、炉体支持架台5の所定の位置に炉体を載置し、ついで取り外されていたトラニオン軸受4、傾動駆動装置6等を取付る。
【0019】
上記した本発明の方法にしたがい転炉の炉体の交換を行なった。本発明の方法は、特許文献1に記載された従来の方法に比べ、炉前側の建屋の柱、梁等を撤去する必要がなく、また既設設備および建屋の改造範囲が少なく、工事費用が30%削減でき、さらに設備の全停止期間も1/3に短縮できた。また、工事の安全性も飛躍的に向上した。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】転炉炉体の取付状況を模式的に示す側面図である。
【図2】転炉炉体から炉底側下部を切断後、所定の搬送可能な高さまで下降した状態を模式的に示す側面図である。
【図3】炉体支持工程における支持状態及びトラニオン軸受等の取り外しを模式的に示す側面図である。
【図4】(a)炉体旋回工程における旋回後の状態を模式的に示す側面図、(b)炉体旋回工程における旋回後の状態を模式的に示す平面図である。
【図5】炉体下降工程における下降後の状態を模式的に示す側面図である。
【図6】炉体搬出工程における搬出途中の状態を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 炉体(転炉炉体)
1a 炉体上部
1b 炉底側下部
1c 炉体ボトム
2 トラニオンリング
3 トラニオン軸
4 トラニオン軸受
5 炉体支持架台
6 傾動駆動装置
7 防熱板
8a、8b 床
10 移動手段
11a、11b 支持具
11b1 支持架台
12 昇降手段
13 旋回手段
20 建屋柱
21 梁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉の炉体を、移動手段に取り付けられた昇降手段を有する支持具で支持し、該支持具で支持された状態で、前記炉体の炉底側下部をトラニオンリングの下側で切断する炉体下部切断工程と、
切断された該炉体の炉底側下部を前記昇降手段で下降させ、前記移動手段で転炉炉裏側に搬出する炉体下部搬出工程と、
前記炉底側下部を切断された残りの炉体を、移動手段に取り付けられた昇降手段および旋回手段を有する支持具で支持する炉体支持工程と、
該支持具で支持された状態で、トラニオン軸受及び付帯設備を取り外したのち、該炉底側下部を切断された残りの炉体を前記旋回手段により所定の角度だけ旋回させる炉体旋回工程と、
ついで前記昇降手段により所定位置まで下降させる炉体下降工程と、
下降させられた前記炉底側下部を切断された残りの炉体を移動手段により炉裏に引き出し搬出する炉体搬出工程と、を順次行い、
ついで、これに代えて新たな炉体を、移動手段に取り付けられた昇降手段および旋回手段を有する支持具で支持した状態で、上記したとは逆の工程を順次行って所定の位置に取り付けることを特徴とする転炉炉体の交換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−262499(P2007−262499A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89656(P2006−89656)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】