説明

軸力管理ナットアッセンブリ

【課題】 ボルト軸力管理の精度をあげることができる軸力管理ナットアッセンブリの提供。
【解決手段】座部材11と、締め付けナット12と、リングアッセンブリ13と、
を備え、リングアッセンブリ13は、弾性変形リング20と、適正軸力管理リング21と、過剰軸力管理リング22とを含み、過剰軸力管理リング22が弾性変形リング20と適正軸力管理リング21との間に配置されている、軸力管理ナットアッセンブリ10。適正軸力管理リング21が折り曲げ部21を有し、折り曲げ部21の、適正軸力管理リングの過剰軸力管理リングとの接触面からの高さH1は、過剰軸力管理リング22の高さH2より大である。過剰軸力管理リング22が周方向に1カ所切れ目のあるワイヤリングからなる。軸力管理ナットアッセンブリ10が連結部材14を有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラック、バスなどの大型車両のホイールをハブに固定するナットアッセンブリに関し、ボルト軸力をトルクではなく軸力で管理することができるナットアッセンブリ(以下、軸力管理ナットアッセンブリという)に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開WO2006/075541は、従来の単一ナットに代えて、複数部品をアッセンブリ化した軸力管理ナットアッセンブリを開示している。その軸力管理ナットアッセンブリは、座部材と、座部材に対して相対回転される締め付けナットと、座部材と締め付けナットとの間に介装されるリングアッセンブリと、座部材と締め付けナットとの間にわたって延び軸力管理ナットアッセンブリをアッセンブリ化する連結バーとを、備えている。リングアッセンブリは、締め付けナットからボルト軸力を受けて弾性変形する弾性変形リングと、ボルト軸力が適正軸力になる前は回転自在でありボルト軸力が適正軸力以上で回転が拘束される、座部材の第1の段差に配置される適正軸力管理リングと、ボルト軸力が適正軸力より大の過剰軸力になる前は回転自在でありボルト軸力が過剰軸力以上で回転が拘束される、座部材の第2の段差に配置される過剰軸力管理リングを、含む。
【特許文献1】国際公開WO2006/075541公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来(WO2006/075541)の軸力管理ナットアッセンブリにはつぎの問題がある。
(イ)リングアッセンブリでは、締め付けナットから座部材に向かって、弾性変形リング、適正軸力管理リング、過剰軸力管理リングの順で配置されているので、弾性変形リングが第1の所定量変形した時に適正軸力管理リングの回転を止めるとともに適正軸力管理リングを軸方向に変形させ、適正軸力管理リングが第2の所定量変形した時に過剰軸力管理リングの回転を止めて、ボルト軸力が過剰になったことを検知する。したがって、正確なボルト軸力管理は、弾性変形リングと適正軸力管理リングの両方のリングの厚さの精度(変形量の精度と関連する)と、座部材の適正軸力管理リングが配置される第1の段差および過剰軸力管理リングが配置される第2の段差の深さ量の精度(弾性変形リングと適正軸力管理リングと過剰軸力管理リング間の隙間の精度と関連する)等の影響を受ける。したがって、従来のボルト軸力管理は、弾性変形リングのみの変形量の精度と、座部材の適正軸力管理リングが配置される第1の段差のみの精度との影響を受ける場合に比べて、管理精度が低下する。
【0004】
(ロ)従来の単一ナットに代えて複数部品をアッセンブリ化した軸力管理ナットアッセンブリが使用されるには、従来の単一ナットに比べての軸力管理ナットアッセンブリのコストアップを抑えることが重要である。従来の軸力管理ナットアッセンブリでは、正確なボルト軸力管理を可能にするために、適正軸力管理リングと過剰軸力管理リングの厚さと、その配置座の深さの寸法を、高精度に出す必要があるため、部品コストが高くなる傾向にある。部品コストを低減するには、部品、とくに適正軸力管理リングと過剰軸力管理リングを、寸法精度を確保でき、かつ、生産コストを機械加工品に比べて抑えることができる、引抜き品や、圧延材のプレス加工品などの、材料から製作することが望まれる。
【0005】
(ハ)部品の寸法が正確に出ていない状態で締め付けナットを締めていくと、弾性変形リングの変形量が大きくなり、弾性変形リングが割れや永久変形を生じるおそれがある。弾性変形リングに割れや永久変形を生じると、ボルト軸力の管理が不正確になるため、締め付けナットの締め過ぎが生じない構造が望まれる。
【0006】
本発明の目的は、(イ)ボルト軸力管理の精度を従来に比べてあげることができる軸力管理ナットアッセンブリを提供することにある。
【0007】
本発明のもう一つの目的は、上記(イ)に加えて、(ロ)適正軸力管理リングと過剰軸力管理リングを有する軸力管理ナットアッセンブリにおいて、適正軸力管理リングと過剰軸力管理リングを、引抜き品、または圧延材のプレス加工品から製作して、部品寸法精度を低コストであげることができる軸力管理ナットアッセンブリを提供することにある。
【0008】
本発明のもう一つの目的は、上記(イ)に加えて、(ハ)弾性変形リングが割れや永久変形を生じるほどの締め付けナットの締め過ぎが起こらないようにした軸力管理ナットアッセンブリを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明はつぎの通りである。
つぎの(1)〜(5)は本発明の全実施例に共通に適用可能である。
(1)座部材と、
座部材に対して相対回転される締め付けナットと、
座部材と締め付けナットとの間に介装されるリングアッセンブリと、
を備え、
前記リングアッセンブリは複数のリングを含み、該複数のリングは、弾性変形リングと、適正軸力管理リングと、過剰軸力管理リングとを含み、
前記過剰軸力管理リングが前記弾性変形リングと前記適正軸力管理リングとの間に配置されている、
軸力管理ナットアッセンブリ。
(2)前記過剰軸力管理リングが前記適正軸力管理リングに接触しており、
前記適正軸力管理リングが締め付けナット側に折り曲げられた折り曲げ部を有し、該折り曲げ部の、適正軸力管理リングの過剰軸力管理リングとの接触面からの高さは、過剰軸力管理リングの高さより大である、(1)記載の軸力管理ナットアッセンブリ。
(3)前記適正軸力管理リングの折り曲げ部は周方向に互いに分割された複数の分割折り曲げ部を含んでおり、
前記適正軸力管理リングの前記複数の分割折り曲げ部の間の部分は、前記過剰軸力管理リングを受ける過剰軸力管理リング受け部を構成しており、
前記適正軸力管理リングの前記分割折り曲げ部と過剰軸力管理リング受け部との間には、半径方向に切り込まれた切り込み部が設けられている、(1)記載の軸力管理ナットアッセンブリ。
(4)前記適正軸力管理リングが適正軸力管理リングの弾性変形リング対向面と反対側面よりも弾性変形リングから離れる方向に突出するストッパを有している(1)記載の軸力管理ナットアッセンブリ。
(5)前記軸力管理ナットアッセンブリは、座部材と締め付けナットとの間にわたって延びて座部材と締め付けナットとを連結する連結部材を有している(1)記載の軸力管理ナットアッセンブリ。
【0010】
つぎの(6)、(7)は本発明の実施例1に係る。
(6)過剰軸力管理リングが周方向に1ケ所切れ目を有するリングからなり、該リングは半径方向外方に向かって凸の複数の凸部を有している(1)記載の軸力管理ナットアッセンブリ。
(7)過剰軸力管理リングが金属線材の曲げ加工により形成されたリングからなり、前記凸部が前記金属線材の折り曲げ角部からなる(6)記載の軸力管理ナットアッセンブリ。
【0011】
つぎの(8)は本発明の実施例2に係る。
(8)過剰軸力管理リングが周方向に全周にわたって連続した環状板材から形成されたリングからなり、前記凸部が前記環状板材に形成された半径方向に突出する複数の凸部からなる(1)記載の軸力管理ナットアッセンブリ。
つぎの(9)は本発明の実施例3に係る。
(9)前記締め付けナットが、締め付けナットの内面と外面の何れか一方の面に半径方向に凹で周方向に全周にわたって延びる第1の溝を有し、
前記座部材が、座部材の内面と外面の何れか一方の面に半径方向に凹で周方向に全周にわたって延びる第2の溝を有し、
前記連結部材が、円筒状部材であり、かつ、軸方向に延びるスリットと軸方向端に半径方向に突出する第1の係合部と第2の係合部を有し、第1の係合部が第1の溝に突入され、第2の係合部が第2の溝に突入される、(5)記載の軸力管理ナットアッセンブリ。
【発明の効果】
【0012】
つぎの(1)〜(5)は本発明の全実施例に共通に適用可能である。
上記(1)の軸力管理ナットアッセンブリによれば、過剰軸力管理リングが弾性変形リングと適正軸力管理リングとの間に配置されているので、締め付けナットが締めつけられて弾性変形リングが変形していくとき、まず弾性変形リングが適正軸力管理リングに当たって適正軸力管理リングの回転を拘束し、さらに弾性変形リングが変形していって弾性変形リングが過剰軸力管理リングに当たって過剰軸力管理リングの回転を拘束する。その後、締め付けナットを、過剰軸力管理リングの回転が拘束されず、適正軸力管理リングの回転が拘束される位置まで、若干弛み側に回転させて、ボルト軸力を適正軸力と過剰軸力との間に容易に設定し、管理することができる。
このボルト軸力管理では、従来の軸力管理ナットアッセンブリに比べて、弾性変形リングが直接過剰軸力管理リングを押し、かつ、従来の軸力管理ナットアッセンブリの第2の段差が無い。その結果、本発明のボルト軸力管理の精度は、弾性変形リングのみの変形量の精度と、座部材の適正軸力管理リングが配置される第1の段差のみの精度との影響を受け、従来の軸力管理ナットアッセンブリのボルト軸力管理精度に比べて、ボルト軸力管理精度を大幅に向上できる。
【0013】
上記(2)の軸力管理ナットアッセンブリによれば、適正軸力管理リングが締め付けナット側に折り曲げられた折り曲げ部を有し、該折り曲げ部の、適正軸力管理リングの過剰軸力管理リングとの接触面からの高さを、プレス成形で低コストで、正確に出すことができる。その結果、折り曲げ部の高さと過剰軸力管理リングの高さとの差、および適正軸力の領域の幅と、過剰軸力となる点を、低コストで、正確に出すことができ、ボルト軸力管理精度を大幅に向上できる。
【0014】
上記(3)の軸力管理ナットアッセンブリによれば、適正軸力管理リングの分割折り曲げ部と過剰軸力管理リング受け部との間に、半径方向に切り込まれた切り込み部が設けられているので、適正軸力管理リングが分割折り曲げ部で弾性変形リングから押されて変形しても、切り込み部が存在することによって過剰軸力管理リング受け部が分割折り曲げ部と同方向に変形することが抑制され、過剰軸力管理リングは弾性変形リングと接触するまでは元の位置に位置し続ける。その結果、過剰軸力管理リングの作動点が変わることが抑制され、ボルト軸力管理精度が良好に維持される。
【0015】
上記(4)の軸力管理ナットアッセンブリによれば、適正軸力管理リングが適正軸力管理リングの弾性変形リング対向面と反対側面よりも弾性変形リングから離れる方向に突出するストッパを有しているので、弾性変形リングが適正軸力管理リングを押して変形させていく時に、ストッパが該ストッパと対向する面(ディスク面)に当たった位置以上には、弾性変形リングが適正軸力管理リングを変形させることができない。したがって、弾性変形リングの過剰変形が阻止され、弾性変形リングが永久変形したり割れたりすることを防止できる。
【0016】
上記(5)の軸力管理ナットアッセンブリによれば、軸力管理ナットアッセンブリが、座部材と締め付けナットとの間にわたって延びて座部材と締め付けナットとを連結する連結部材を有しているので、連結部材が座部材と締め付けナットとを連結した後は、軸力管理ナットアッセンブリの各部品がばらばらになることはなく、取扱いが容易である。
【0017】
つぎの(6)、(7)は本発明の実施例1に係る。
上記(6)の軸力管理ナットアッセンブリによれば、過剰軸力管理リングが周方向に1ケ所切れ目を有するリングからなり、該リングは半径方向外方に向かって凸の複数の凸部を有しているので、過剰軸力管理リングをばね性を与えて適正軸力管理リングにセットすることができ、かつ凸部が適正軸力管理リングの折り曲げ部に当たることにより、過剰軸力管理リングの適正軸力管理リングに対する相対回転と相対回転した時に生じる当たり音を防止することができる。
【0018】
上記(7)の軸力管理ナットアッセンブリによれば、過剰軸力管理リングが金属線材の曲げ加工により形成されたリングからなるので、過剰軸力管理リングを金属線材の曲げ加工により、高さ(断面径)を高精度に出すことができるとともに、過剰軸力管理リングを低コストで作製することができる。また、凸部が金属線材の折り曲げ角部からなるので、凸部の形成が容易である。
【0019】
つぎの(8)は本発明の実施例2に係る。
上記(8)の軸力管理ナットアッセンブリによれば、過剰軸力管理リングが周方向に全周にわたって連続した環状板材から形成されたリングからなるので、板材のプレス打ち抜き加工により、高さ(板厚さ)を高精度に出すことができるとともに、過剰軸力管理リングを低コストで作製することができる。また、凸部が環状板材に形成された半径方向に突出する複数の凸部からなるので、板材のプレス打ち抜き加工時に同時に凸部を形成することができ、凸部の形成が容易である。
【0020】
つぎの(9)は本発明の実施例3に係る。
上記(9)の軸力管理ナットアッセンブリによれば、連結部材が、円筒状部材であり、かつ、軸方向に延びるスリットと軸方向端に半径方向に突出する第1の係合部と第2の係合部を有し、第1の係合部が締め付けナットに形成した第1の溝に突入され、第2の係合部が座部材に形成した第2の溝に突入されるので、連結部材による軸力管理ナットアッセンブリの構成部品のアッセンブリ化が容易である。連結部材にスリットが形成されているので、第1の係合部と第2の係合部が容易に変形でき、第1の溝と第2の溝への突入が、大きな荷重を必要とせず、容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の軸力管理ナットアッセンブリを、図1〜図21を参照して、説明する。
図1は、単輪をハブに取付ける場合で、座部材が平面座の場合(単輪、ISO取付け−−−SIと表示)の軸力管理ナットアッセンブリを示す。
図19は複輪をハブに取付ける場合で、座部材が平面座の場合(複輪、ISO取付け−−−DIと表示)の軸力管理ナットアッセンブリを示す。
図20は単輪をハブに取付ける場合で、座部材が球面座の場合(単輪、JIS取付け−−−SJと表示)の軸力管理ナットアッセンブリを示す。
図21は複輪をハブに取付ける場合で、座部材が球面座の場合(複輪、JIS取付け−−−DJと表示)の軸力管理ナットアッセンブリを示す。なお、JISは日本工業規格、ISOは国際規格を示す。
図2〜図18は、図1(単輪、ISO取付け)、図19(複輪、ISO取付け)〜図21(複輪、JIS取付け)の何れにも適用可能な軸力管理ナットアッセンブリの構造を示す。軸力管理ナットアッセンブリの説明は、図1の単輪、ISO取付けを例にとって説明するが、複輪、ISO取付けにも、単輪、JIS取付けにも、複輪、JIS取付けにもそのまま適用される。
【0022】
図2〜図11は本発明の実施例1(過剰軸力管理リングがワイヤからなる場合)を示し、図12は本発明の実施例2(過剰軸力管理リングが環状板材リングからなる場合)を示し、図13〜図18は本発明の実施例3(連結部材のとりうる種々の構造を含む)を示す。
本発明の全実施例に共通する構成部分には本発明の全実施例にわたって同じ符号を付してある。
【0023】
まず、本発明の全実施例(実施例1〜実施例3)に共通する構成部分とその作用効果を、図1〜図21を参照して説明する。
本発明の軸力管理ナットアッセンブリ10は、トラック、バスを含む車両の、ホイール1をハブ2に取付けるための、ハブボルト3に螺合されるハブナットとして、従来の単一部材からなるハブナットに代えて適用される。ホイール1はディスクホイールでブレーキドラム5と共にハブ2に取り付けられる。軸力管理ナットアッセンブリ10は、ハブボルト3のボルト軸芯を水平状態にして、使用される。
【0024】
本発明の軸力管理ナットアッセンブリ10は、平面座11f(図1、図19に示す)または球面座11e(図20、図21に示す)を有する座部材11と、座部材11に対して相対回転される締め付けナット12と、座部材11と締め付けナット12との間に介装されるリングアッセンブリ13と、を備えている。軸力管理ナットアッセンブリ10は、さらに、座部材11と締め付けナット12との間にわたって延びて座部材11と締め付けナット12とを連結する連結部材14を備えている。
座部材11は被締め付け製品1に対して非回転部材である。製品1は、たとえば、自動車用ホイールであるが、ホイールに限るものではない。以下、製品1として、自動車用ホイール1を例にとって説明する。座部材11はリング状で、内周には雌ねじは切られておらず、ハブボルト3に螺合されない。
締め付けナット12は回転部材で、内周に雌ねじ12aを有し、ハブボルト3の雄ネジに螺合される。締め付けナット12は外形が六角形の部分を有し、レンチ等で回転され締められて、ハブボルト3にボルト軸力を発生させ、ホイール1をハブ2に締め付ける。
【0025】
連結部材14は、たとえば樹脂製の、円筒状部材(段付き円筒状である場合を含む)である。連結部材14は、軸方向両端から軸方向中央に向かって軸方向に延びる複数のスリット14a(図15〜図18)を有し、軸方向一端に半径方向外方または内方に突出する第1の係合部14bと、軸方向他端に半径方向外方または内方に突出する第2の係合部14cを、有する。連結部材14は、第1の係合部14bで締め付けナット12と軸方向に係合し、第2の係合部14cで座部材11と軸方向に係合して、軸力管理ナットアッセンブリ10の部品がばらばらにならないようにアッセンブリ化する。連結部材14は、締め付けナット12と座部材11の内面位置にあってもよいし(図1〜図4)、あるいは締め付けナット12と座部材11の外面位置にあってもよいし(図13)、あるいは連結部材14の一部が締め付けナット12と座部材11の一方の内面位置にあり連結部材14の他部が締め付けナット12と座部材11の他方の外面位置にあってもよい(図14)。
【0026】
リングアッセンブリ13は複数のリングを含む。該複数のリングは、図1〜図4に示すように、締め付けナット12から押されて弾性変形する弾性変形リング20と、ボルト軸力が適正軸力になる前は回転自在でありボルト軸力が適正軸力以上で弾性変形リング20と接触して回転が拘束される適正軸力管理リング21と、ボルト軸力が適正軸力より大の過剰軸力になる前は回転自在でありボルト軸力が過剰軸力以上で弾性変形リング20および適正軸力管理リング21と接触して回転が拘束される過剰軸力管理リング22とを含む。弾性変形リング20は締め付けナット12の回転締め付け時にほとんど回転しない非回転部材である。
【0027】
ボルト径が24mmの場合、ボルト適正軸力は、たとえば、12tf(トン重、トンは1000Kg)であり、ボルト過剰軸力はたとえば、16tf(トン重)である。この場合、ボルト破損荷重は、たとえば25tf(トン重)である。
適正軸力管理リング21は板のプレス加工品であり、過剰軸力管理リング22がワイヤ加工品または板のプレス加工品である。
リング20、21、22は強度上望ましくは金属製である。ただし、防錆の観点から、樹脂製であってもよい。
【0028】
過剰軸力管理リング22は、弾性変形リング20と適正軸力管理リング21との間に配置されている。過剰軸力管理リング22は、適正軸力管理リング21より締め付けナット12側に位置している。過剰軸力管理リング22は、適正軸力管理リング21の締め付けナット12側の面に接触している。
【0029】
適正軸力管理リング21の内周部は、座部材11の締め付けナット12に対向する面に形成された1段からなる段差部11aに配置され段差部11aの締め付けナット12に対向する面に接触している。過剰軸力管理リング22は、適正軸力管理リング21の締め付けナット12側の面に接触しているため、座部材11には過剰軸力管理リング22を配置するための段差部はなく、段差部は適正軸力管理リング21を配置するための、1段の段差部11aのみである(従来は2段必要)。
【0030】
適正軸力管理リング21は、外周に、周方向に非連続に、締め付けナット側に折り曲げられた、複数の折り曲げ部21aを有する。折り曲げ部21aの、適正軸力管理リング21の過剰軸力管理リング22との接触面21dからの高さH1は、過剰軸力管理リング22の高さ(過剰軸力管理リング22が断面が丸の線材(ワイヤ)の場合は線材の断面径)H2より大である。折り曲げ部21aの、適正軸力管理リング21の過剰軸力管理リング22との接触面21dからの高さH1は、寸法がプレス成形で精度高く出されている。プレス成形のため、生産性がよい。
【0031】
座部材11に形成される、適正軸力管理リング21を設置するための段差部11aの深さH3は折り曲げ部21aの高さH1を含む適正軸力管理リング21の全高(H1+T、Tは適正軸力管理リング21の板厚)より大で、機械加工により寸法精度高く加工されている。
【0032】
折り曲げ部21aの高さを過剰軸力管理リング22の高さより大としたのは、締め付けナット12を回転して締め付け弾性変形リング20を弾性変形させた時に、弾性変形リング20がまず適正軸力管理リング21に接触して適正軸力管理リング21の回転を拘束し、さらに締め付けナット12を回転して締め付け弾性変形リング20を弾性変形させた時に、過剰軸力管理リング22に接触して過剰軸力管理リング22の回転を拘束するようにするためである。
【0033】
これを、図2〜図4を参照してさらに詳細に説明すると、つぎのとおりである。
上記のH1、H2、H3の高さ関係により、図2に示すように、締め付けナット12を締め込む前の、ボルト軸力が0の段階では、弾性変形リング20と適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aとの間にはH3−T−H1=G1のギャップがある。この状態では適正軸力管理リング21は回転可能で、過剰軸力管理リング22も回転可能である。
ボルト軸力が適正軸力となるまで締め付けナット12を締め込んでいくと、図3に示すように、弾性変形リング20が適正軸力管理リング21に当たり、ギャップG1が0になって、適正軸力管理リング21は回転できなくなる。この状態では弾性変形リング20と過剰軸力管理リング22との間には隙間G2があり、過剰軸力管理リング22は回転可能である。
【0034】
ボルト軸力が過剰軸力となるまで締め付けナット12を締め込んでいくと、図4に示すように、適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aの内周側にある部分が撓み(後述する、適正軸力管理リング21の過剰軸力管理リング受け部は、ほとんど撓まない)、弾性変形リング20が過剰軸力管理リング22に接触して、過剰軸力管理リング22が回転できなくなる。この状態から、若干締め付けナット12を、過剰軸力管理リング22の回転が拘束されず、適正軸力管理リング21の回転が拘束される位置まで、緩み側に回転させて、ボルト軸力を適正ボルト軸力の最低値と過剰ボルト軸力との間の値に設定する。この状態で軸力管理ナットアッセンブリ10が使用される。
【0035】
図7に示すように、適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aは、周方向に互いに分割された、複数の分割折り曲げ部21adを含んでいる。
適正軸力管理リング21の、複数の分割折り曲げ部21adの間の部分は、過剰軸力管理リング22を受ける過剰軸力管理リング受け部21eを構成している。
適正軸力管理リング21の分割折り曲げ部21adと過剰軸力管理リング受け部21eとの間には、半径方向に切り込まれた切り込み部21fが設けられている。
【0036】
この切り込み部21fが適正軸力管理リング21に形成されていることによって、適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aと過剰軸力管理リング受け部21eとが切り込み部21fによって遮断される。その結果、適正軸力管理リング21が折り曲げ部21aで弾性変形リング20から押された時に、折り曲げ部21aとその内周部が押されて変形しても、過剰軸力管理リング受け部21eはほとんど変形せず、過剰軸力管理リング受け部21eと接触している過剰軸力管理リング22もほとんど変位しない。したがって、弾性変形リング20が変形していくときに、所定の位置で、過剰軸力管理リング22と接触することができる。弾性変形リング20の過剰軸力管理リング22との接触位置が、適正軸力管理リング21の変形の影響を受けにくい。これによって、高精度のボルト軸力管理ができる。
【0037】
適正軸力管理リング21は、図5または図6に示すように、適正軸力管理リング21の弾性変形リング対向面と反対側の面から弾性変形リング20から離れる方向に突出するストッパ21bを有していてもよい。
図5は、ストッパ21bが、適正軸力管理リング21の周方向に間欠的に、プレス成形で適正軸力管理リング21を塑性変形させて形成した場合を示している。プレス成形のためストッパ21bの突出寸法は高精度に出すことができる。
図6は、ストッパ21bが、適正軸力管理リング21自体を曲げ変形させて形成した場合を示している。図6では、適正軸力管理リング21の座部材段差面11aとの接触面から半径方向外方に隔たった位置で、全周にわたって、適正軸力管理リング21自体を弾性変形リング20から離れる方向に段差させ、この段差させた面が製品1(ホイールディスク)の対向面に平行にかつ隙間をもって対向するように、プレス成形で形成してある。
【0038】
ストッパ21bは適正軸力管理リング21の一部をプレス成形することにより形成され、必要突出寸法を精度高く出している。ストッパ21bの先端面は製品ホイール1に対向している。ストッパ21bの先端面と製品1との間には、過剰軸力管理リング22が回転を拘束され始める時点では、ギャップがある。過剰軸力管理リング22が回転を拘束された後、なおも締め付けナット12を回転し締め付けて弾性変形リング20を弾性変形させた時に、弾性変形リング20の弾性変形とともに適正軸力管理リング21が弾性変形し、ストッパ21bが製品1に当たってそれ以上の適正軸力管理リング21と弾性変形リング20の変形を阻止する。これによって、弾性変形リング20が永久変形を起こしたり、割れたりするのを防止する。
ストッパ21bの必要突出寸法をプレス成形で出すのは、切削加工に比較してコストを低減するためである。
【0039】
本発明の全実施例(実施例1〜実施例3)に共通する作用効果を説明する。
軸力管理ナットアッセンブリ10が座部材11と締め付けナット12を有し、締め付けナット12が座部材11に対して相対回転できるようにしたので、座部材11を製品1(たとえば、ホイール1、ただし、ホイールに限るものではない)に対して非回転で、ハブボルト3に軸力を発生させることができる。その結果、トルク管理をハブボルト3のボルト軸力管理とすることができ、座部材11とホイール1との間の摩擦係数に影響されない、精度の高い締め付け管理を行うことができる。また、座部材11とホイール1との間の摩擦がないので、ホイール1のナット座面4の面荒れや磨耗もなく、ナット座からの亀裂発生を抑制できる。
【0040】
図2の状態から締め付けナット12が締めつけられて弾性変形リング20が変形していくとき、図3に示すように、まず弾性変形リング20が適正軸力管理リング21に当たって適正軸力管理リング21の回転を拘束する。この場合、締め付けナット12にトルクをかけてボルト3に軸力をかけていく時に適正軸力管理リング20が回転可能か否かを(手でさわるなどして)確認する。
【0041】
さらに締め付けナット12が締めつけられると、図4に示すように、弾性変形リング20がさらに変形していって弾性変形リング20が過剰軸力管理リング22に当たって過剰軸力管理リング22の回転を拘束する。この場合、締め付けナット12にトルクをかけてボルト3に軸力をかけていく時に過剰軸力管理リング22が回転可能か否かを(手でさわるなどして)確認する。過剰軸力管理リング22の回転が拘束された時、締め付けナット12を若干弛み側に回転させる。これによって、ボルト軸力を適正ボルト軸力最小値(適正軸力管理リング20の回転が拘束された時の軸力)より大で過剰ボルト軸力より小の値(適正ボルト軸力範囲内)に容易に設定し、管理することができる。
【0042】
このボルト軸力管理では、従来の軸力管理ナットアッセンブリに比べて、弾性変形リング20が直接過剰軸力管理リング22を押し、かつ、従来の軸力管理ナットアッセンブリの第2の段差が無い。その結果、本発明のボルト軸力管理の精度は、弾性変形リング20のみの変形量の精度と、座部材11の適正軸力管理リング21が配置される第1の段差11aのみの精度との影響を受け、従来の軸力管理ナットアッセンブリのボルト軸力管理精度に比べて、ボルト軸力管理精度を大幅に向上できる。
また、座部材11に形成される、適正軸力管理リング21を設置するための段部11aは切削加工またはプレス加工されるが、1段でよいため(従来は2段)切削加工またはプレス加工の寸法精度出しも2段に比べて容易であり、部品製作コスト低減上有利である。
【0043】
また、適正軸力管理リング21が締め付けナット12側に折り曲げられた折り曲げ部21aを有し、該折り曲げ部21aの、適正軸力管理リング21の過剰軸力管理リング22との接触面21dからの高さを、プレス成形で低コストで、正確に出すことができる。その結果、折り曲げ部21aの高さH1と過剰軸力管理リング22の高さH2との差、および適正軸力の領域の幅と、過剰軸力となる点を、低コストで、正確に出すことができ、ボルト軸力管理精度を大幅に向上できる。
【0044】
また、適正軸力管理リング21の分割折り曲げ部21adと過剰軸力管理リング受け部21eとの間に、半径方向に切り込まれた切り込み部21fが設けられているので、適正軸力管理リング21が分割折り曲げ部21adで弾性変形リング20から押されて変形しても、切り込み部21fが存在することによって、過剰軸力管理リング受け部21eが分割折り曲げ部21adの変形方向と同方向に引っ張られて変形することが抑制され、過剰軸力管理リング22は弾性変形リング20と接触するまでは元の位置に位置し続ける。その結果、過剰軸力管理リング22の作動点が変わることが抑制され、ボルト軸力管理精度が良好に維持される。
【0045】
また、適正軸力管理リング21が適正軸力管理リング21の弾性変形リング対向面と反対側面よりも弾性変形リング20から離れる方向に突出するストッパ21bを有しているので、弾性変形リング20が適正軸力管理リング21を押して変形させていく時に、ストッパ21bが該ストッパと対向する面(ディスク面)に当たった位置以上には、弾性変形リング20が適正軸力管理リング21を変形させることができない。したがって、弾性変形リング20の過剰変形が阻止され、弾性変形リング20が永久変形したり割れたりすることを防止できる。
【0046】
また、軸力管理ナットアッセンブリ10が、座部材11と締め付けナット12との間にわたって延びて座部材11と締め付けナット12とを連結する連結部材14を有しているので、連結部材14が座部材11と締め付けナット12とを連結した後は、軸力管理ナットアッセンブリ10の各部品がばらばらになることはなく、取扱いが容易である。
【0047】
つぎに、本発明の各実施例に特有な構成と、その作用、効果を説明する。
〔実施例1〕−−−図2〜図11
本発明の実施例1では、図8、図9に示すように、過剰軸力管理リング22が周方向に1ケ所切れ目22aを有するワイヤリング22Aからなる。ワイヤリング22Aは、たとえば金属線材(ただし、硬質のものであれば金属でなくてもよい)からなる。ワイヤリング22Aは、複数の、半径方向外方に向かって凸の折り曲げ角部22cと、折り曲げ角部22c間の、曲線部または直線部からなる、複数の折り曲げ角部間部22bを有している。折り曲げ角部22cは、適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aの内面に接触される第1の折り曲げ角部22c1 と指でつまむ部位の第2の折り曲げ角部22c2 を含む。第1の折り曲げ角部22c1 の外径の半径R1は、縮径されていない自由状態で適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aの内面の半径R0より大であって、適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aの内面に接触された時に第1の折り曲げ角部22c1 と適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aの内面との間に摩擦力が生じる。第2の折り曲げ角部22c2 の外径の半径R2は、第1の折り曲げ角部22c1 の外径の半径R1より大であり、過剰軸力管理リング22が適正軸力管理リング21に対して回転しようとするときに、第2の折り曲げ角部22c2 が適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aの周方向端部にあたって、回転が抑制される。ワイヤリング22Aの折り曲げ角部22cは、適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aの内径より径大である。
図8は折り曲げ角部間部22bが半径方向外方に凸の湾曲部からなる場合を示し、図9は折り曲げ角部間部22bが直線部からなる場合を示している。
【0048】
ワイヤリング22Aの高さ(断面径)H2は適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aの高さ(過剰軸力管理リング22との接触面21dからの高さ)H1より小である。締め付けナット12を締めていき、弾性変形リング20が適正軸力管理リング21を押して変形させ、弾性変形リング20が過剰軸力管理リング22に接触する前は、過剰軸力管理リング22は回転可能であり、ワイヤリング22Aの対向する2つの折り曲げ角部22c2 を指で挟んで手で回転させることができる。過剰軸力管理リング22が回転する間は、ナット締め付けによるボルト軸力は過剰ボルト軸力未満である。
連結部材14は締め付けナット12と座部材11の内周面位置にある。
【0049】
本発明の実施例1の作用、効果を説明する。
過剰軸力管理リング22がワイヤリング22Aからなるので、引抜きまたは押し出しあるいは精密圧延で製造された線材を曲げ加工して製造することができ、その結果、高さ(断面径)寸法H2が安定して高精度に出ている線材を、切削加工を伴わないために低コストで提供することができる。
【0050】
また、過剰軸力管理リング22が周方向に1カ所切れ目を有するので、縮径して適正軸力管理リング21内面に嵌めその後縮径を解放することにより、拡径方向に付勢されるバネ性をもたせて適正軸力管理リング21にセットすることができる。このバネ性により、ワイヤリング22Aと適正軸力管理リング21内面との間に摩擦力が生じる。その結果、車の走行中に、ワイヤリング22Aが適正軸力管理リング21に対して相対回転しようとしても、相対回転を抑制でき、騒音が生じにくくなる。
【0051】
また、ワイヤリング22Aが周方向に、複数カ所、折り曲げ角部22cを有するので、車の走行中に、ワイヤリング22Aが適正軸力管理リング21に対して相対回転しようとしても、折り曲げ角部22cが適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aに当たって回転が止まる。これによっても、車の走行中に、ワイヤリング22Aが適正軸力管理リング21に対して自在に回転し続けて当たり音(カタカタ音)が継続的に生じることを抑制できる。
【0052】
〔実施例2〕−−−図12
本発明の実施例2では、図12に示すように、過剰軸力管理リング22が、周方向に全周にわたって連続した環状板材から形成されたリング22Bからなる。環状板材リング22Bは半径方向外方に突出する複数の突起22c2 を有している。環状板材リング22Bが回転可能か否かを確認する時には、対向する突起22c2 を指で挟んで環状板材リング22Bを回転することができる。突起22c2 の外径の半径R2は適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aの内面の半径より大である。過剰軸力管理リング22が適正軸力管理リング21に対して回転しようとするときに、突起22c2 が適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aの周方向端部にあたって、回転が抑制される。また、過剰軸力管理リング22の突起22c2 間部の外径R3の半径は適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aの内面の半径R0より小さい。
【0053】
環状板材リング22Bの厚さH2は適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aの高さ(過剰軸力管理リング22との接触面21dからの高さ)H1より小である。締め付けナット12を締めていき弾性変形リング20が過剰軸力管理リング22に接触する前は、過剰軸力管理リング22は回転可能である。過剰軸力管理リング22が回転できる間はナット締め付け軸力は過剰ボルト軸力未満である。
【0054】
本発明の実施例2の作用、効果を説明する。
過剰軸力管理リング22が環状板材リング22Bからなるので、圧延材のプレス打ち抜きで環状板材リング22Bを製造することができ、その結果、高さ(厚さ)寸法H2が安定して高精度に出ている環状板材リングを、切削加工を伴わないために低コストで提供することができる。環状板材リング22Bの突起22c2 は適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aの内径より大であるが、環状板材リング22Bの突起22c2 間部分は適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aの内径より小さい。
【0055】
車の走行中に、環状板材リング22Bが適正軸力管理リング21に対して相対回転しようとしても、環状板材リング22Bの突起22c2 が適正軸力管理リング21の折り曲げ部21aに当たって回転が止まる。
【0056】
〔実施例3〕−−−図1、図13〜図18
本発明の実施例3は、締め付けナット12が、締め付けナットの内面12cと外面12dの何れか一方の面に半径方向に凹で周方向に全周にわたって延びる第1の溝12bを有する。また、座部材11が、座部材の内面11cと外面11dの何れか一方の面に半径方向に凹で周方向に全周にわたって延びる第2の溝11bを有する。
【0057】
連結部材14が、円筒状部材(図14に示すような段付き円筒状部材である場合を含む)であり、たとえば樹脂製(ただし、樹脂製に限るものではなく、金属製でもよい)である。連結部材14は、軸方向に延びるスリット14aと軸方向端に半径方向に突出する第1の係合部14bと第2の係合部14cを有し、第1の係合部14bが第1の溝12bに突入され、第2の係合部14cが第2の溝11bに突入される。スリット14aは連結部材14にばね性、弾性変形可能性を与えるために設けられる。スリット14aがあることによって、連結部材14が変形して第1の係合部14bが第1の溝12bに突入でき、第2の係合部14cが第2の溝11bに突入できる。
【0058】
第1の溝12bが締め付けナットの内面12cに形成され、第2の溝11bが座部材の内面11cに形成される場合は、図15、図17に示すように、第1の係合部14bと第2の係合部14cは連結部材14の半径方向外側に向かって突出する。
第1の溝12bが締め付けナットの外面12dに形成され、第2の溝11bが座部材の外面11dに形成される場合は、図16、図18に示すように、第1の係合部14bと第2の係合部14cは連結部材14の半径方向内側に向かって突出する。
あるいは、図14に示すように、第1の溝12bが締め付けナットの外面12dに形成され、第2の溝11bが座部材の内面11cに形成される場合は、第1の係合部14bは連結部材14の半径方向内側に向かって突出し、第2の係合部14cは連結部材14の半径方向外側に向かって突出する。
同様に、第1の溝12bが締め付けナットの内面12cに形成され、第2の溝11bが座部材の外面11dに形成される場合は、第1の係合部14bは連結部材14の半径方向外側に向かって突出し、第2の係合部14cは連結部材14の半径方向内側に向かって突出する。
【0059】
また、連結部材14の一端から軸方向に切り込まれたスリット14aと連結部材14の他端から軸方向に切り込まれたスリット14aとは、図15、図16に示すように、同一位相で設けられてもよいし、あるいは図17、図18に示すように、互いに位相をずらして設けられてもよい。
【0060】
本発明の実施例3の作用、効果を説明する。
第1の溝12bが締め付けナットの内面12cに形成され、第2の溝11bが座部材の内面11cに形成される場合は、リングアッセンブリ13を座部材11と締め付けナット12との間に配置した後でも、連結部材14を組み付けることができるので、軸力管理ナットアッセンブリの組み立てが容易である。また、連結部材14の係合部14b、14cが半径方向外側に向かって突出しているので、樹脂等を金型で成形することが容易である。
【0061】
第1の溝12bが締め付けナットの外面12dに形成され、第2の溝11bが座部材の外面11dに形成される場合は、第1に溝12b、第2の溝11bの形成のための切削刃を外面から締め付けナット12、座部材11に近づけることができるので、第1に溝12b、第2の溝11bの切削加工が容易である。
【0062】
連結部材14の一端から軸方向に切り込まれたスリット14aと連結部材14の他端から軸方向に切り込まれたスリット14aとが、図17、図18に示すように、互いに位相をずらして形成される場合、同位相の場合に比べて、連結部材14のばね性を確保しながら連結部材14の軸方向長さを短くすることができる。
【0063】
図1は、単輪でかつISO取付けの場合を示すが、本発明は、図19に示すような、複輪でかつISO取付けの場合、図20に示すような、単輪でかつJIS取付けの場合、図21に示すような、複輪でかつJIS取付けの場合にも、同様に適用される。ただし、図21の複輪、JIS取付けの場合には、締め付けナット12は図21に示すようにインナーナット12Aとアウターナット12Bに分割され、アウターナット12Bが締め付けナット12として働く。図19〜図21の例に対しては、対応構成部品に図1と同じ部品番号を付すことにより、説明を省略する。
ワイヤリング22Aの折り曲げ角部22bの形状は、図8に示すように半径方向外側に凸の曲線でも、図9に示すように直線状でもよいが、図9の折り曲げ角部22b間の一部または全部を半径方向に凹んだ曲線または「く」の字状の屈曲線としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】単輪、ISO取付けの場合における、本発明の実施例1の、軸力管理ナットアッセンブリとその近傍の半断面図である。
【図2】ナット締め込み前の軸力管理ナットアッセンブリの半断面図である。
【図3】適正軸力まで締め込んだ時の軸力管理ナットアッセンブリの半断面図である。
【図4】過剰軸力まで締め込んだ時の軸力管理ナットアッセンブリの半断面図である。
【図5】本発明の実施例1の、適正軸力管理リングのとりうる形態の第1の例とその近傍の断面図である。
【図6】本発明の実施例1の、適正軸力管理リングのとりうる形態の第2の例とその近傍の断面図である。
【図7】本発明の実施例1の、適正軸力管理リングの平面図である。
【図8】本発明の実施例1の、過剰軸力管理リングが折り曲げ角部と湾曲部とを有する線材からなる場合の平面図である。
【図9】本発明の実施例1の、過剰軸力管理リングが折り曲げ角部と直線部とを有する線材からなる場合の平面図である。
【図10】本発明の実施例1の、図8の過剰軸力管理リングと図7の適正軸力管理リングとの平面図である。
【図11】本発明の実施例1の、図9の過剰軸力管理リングと図7の適正軸力管理リングとの平面図である。
【図12】本発明の実施例2の、過剰軸力管理リングが環状板材リングからなる場合の平面図である。
【図13】本発明の実施例3の、連結部材のとりうる形態の第1の例とその近傍の断面図である。
【図14】本発明の実施例3の、連結部材のとりうる形態の第2の例とその近傍の断面図である。
【図15】本発明の実施例3の、連結部材のとりうる形態の第3の例の断面図である。
【図16】本発明の実施例3の、連結部材のとりうる形態の第4の例の断面図である。
【図17】本発明の実施例3の、連結部材のとりうる形態の第5の例の断面図である。
【図18】本発明の実施例3の、連結部材のとりうる形態の第6の例の断面図である。
【図19】複輪、ISO取付けの場合における、本発明の実施例1〜3の、軸力管理ナットアッセンブリとその近傍の半断面図である。
【図20】単輪、JIS取付けの場合における、本発明の実施例1〜3の、軸力管理ナットアッセンブリとその近傍の半断面図である。
【図21】複輪、JIS取付けの場合における、本発明の実施例1〜3の、軸力管理ナットアッセンブリとその近傍の半断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1 ホイール
2 ハブ
3 ハブボルト
4 ナット座
5 ブレーキドラム
10 管理ナットアッセンブリ
11 座部材
11a 段差部
11b 第2の溝
11c 内面
11d 外面
11e 球面座
11f 平面座
12 締め付けナット
12a 雌ねじ部
12b 第1の溝
12c 内面
12d 外面
13 リングアッセンブリ
14 連結部材
14a スリット
14b 第1の係合部
14c 第2の係合部
20 弾性変形リング
21 適正軸力管理リング
21a 折り曲げ部
21b ストッパ
21d 過剰軸力管理リングとの接触面
21e 過剰軸力管理リング受け部
21f 切り込み
22 過剰軸力管理リング
22A ワイヤリング
22a 切れ目
22b 折り曲げ角部間部
22c 折り曲げ角部
22c1 第1の折り曲げ角部
22c2 第2の折り曲げ角部
22B 環状板材リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部材と、
座部材に対して相対回転される締め付けナットと、
座部材と締め付けナットとの間に介装されるリングアッセンブリと、
を備え、
前記リングアッセンブリは複数のリングを含み、該複数のリングは、弾性変形リングと、適正軸力管理リングと、過剰軸力管理リングとを含み、
前記過剰軸力管理リングが前記弾性変形リングと前記適正軸力管理リングとの間に配置されている、
軸力管理ナットアッセンブリ。
【請求項2】
前記過剰軸力管理リングが前記適正軸力管理リングに接触しており、
前記適正軸力管理リングが締め付けナット側に折り曲げられた折り曲げ部を有し、該折り曲げ部の、適正軸力管理リングの過剰軸力管理リングとの接触面からの高さは、過剰軸力管理リングの高さより大である、請求項1記載の軸力管理ナットアッセンブリ。
【請求項3】
前記適正軸力管理リングの折り曲げ部は周方向に互いに分割された複数の分割折り曲げ部を含んでおり、
前記適正軸力管理リングの前記複数の分割折り曲げ部の間の部分は、前記過剰軸力管理リングを受ける過剰軸力管理リング受け部を構成しており、
前記適正軸力管理リングの前記分割折り曲げ部と過剰軸力管理リング受け部との間には、半径方向に切り込まれた切り込み部が設けられている、請求項1記載の軸力管理ナットアッセンブリ。
【請求項4】
前記適正軸力管理リングが適正軸力管理リングの弾性変形リング対向面と反対側面よりも弾性変形リングから離れる方向に突出するストッパを有している請求項1記載の軸力管理ナットアッセンブリ。
【請求項5】
前記軸力管理ナットアッセンブリは、座部材と締め付けナットとの間にわたって延びて座部材と締め付けナットとを連結する連結部材を有している請求項1記載の軸力管理ナットアッセンブリ。
【請求項6】
過剰軸力管理リングが周方向に1ケ所切れ目を有するリングからなり、該リングは半径方向外方に向かって凸の複数の凸部を有している請求項1記載の軸力管理ナットアッセンブリ。
【請求項7】
過剰軸力管理リングが金属線材の曲げ加工により形成されたリングからなり、前記凸部が前記金属線材の折り曲げ角部からなる請求項6記載の軸力管理ナットアッセンブリ。
【請求項8】
過剰軸力管理リングが周方向に全周にわたって連続した板材から形成された環状リングからなり、前記凸部が前記環状板材に形成された半径方向に突出する複数の凸部からなる請求項1記載の軸力管理ナットアッセンブリ。
【請求項9】
前記締め付けナットが、締め付けナットの内面と外面の何れか一方の面に半径方向に凹で周方向に全周にわたって延びる第1の溝を有し、
前記座部材が、座部材の内面と外面の何れか一方の面に半径方向に凹で周方向に全周にわたって延びる第2の溝を有し、
前記連結部材が、円筒状部材であり、かつ、軸方向に延びるスリットと軸方向端に半径方向に突出する第1の係合部と第2の係合部を有し、第1の係合部が第1の溝に突入され、第2の係合部が第2の溝に突入される、請求項5記載の軸力管理ナットアッセンブリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−14004(P2009−14004A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160003(P2007−160003)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)