説明

軸受高さの修正量決定方法

【課題】例えば、就航船、新造船に限らず、軸受高さの修正量を容易に且つ迅速に決定し得る方法を提供する。
【解決手段】所定位置における軸受での実測軸受荷重と実測クランクデフとに基づき伝達マトリックス法を用いて少なくともエンジンにおける各軸受の高さを求める軸受高さ演算ステップと、この求められた軸受高さに基づき少なくともエンジンにおける各軸受に作用する演算軸受荷重を求める軸受荷重演算ステップと、エンジンにおける各軸受の軸受高さを基準平面上に位置させた際に各軸受に作用する基準軸受荷重を求める基準軸受荷重演算ステップと、各軸受において、演算軸受荷重と基準軸受荷重との差である荷重差を求める荷重差演算ステップと、求められた荷重差と設定範囲とを比較するとともに、設定範囲を超えた場合の軸受に対して、荷重差が許容値内となるような軸受高さの修正範囲を求める修正量決定ステップとを具備した方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば船体に設置されたエンジンにおけるクランク軸の軸受高さの修正量決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船体に主機関であるエンジンおよびプロペラ軸を据え付ける場合、エンジンのクランク軸、中間軸およびプロペラ軸からなる駆動軸系の軸心位置合せすなわち軸系アライメントを正確に行う必要がある。
【0003】
この軸系アライメントを正確に行い得るものとして、本発明者等は、伝達マトリックス法を用いた駆動軸系の位置検出方法を提案している(例えば、特許文献1参照)。
以下、この位置検出方法を簡単に説明すると、まず、クランク軸をモデル化し、初めに個々の軸受位置を仮定し、そしてクランク軸の船首側軸受における状態量(変位量および作用力)を、機関の諸元データにより既知にされた格間伝達マトリックス、格点伝達マトリックス、船首側での境界条件である境界マトリックス、および船尾側での境界マトリックスを使って船尾側へ状態を伝達していき、未知数である船首側軸受における状態量を求め、さらにその結果を用いてクランクデフを求め、その値と実測値との比較において誤差(評価値)を求める。次に、仮定された個々の軸受位置をランダムに変更させて、上記と同様の計算により、その軸受位置条件におけるクランクデフの計算値と実測値との誤差を求める作業を繰り返して行い、この誤差が小さくなる(つまり評価が高くなる)軸受位置条件を求める。これにより、据付位置を正確に推定するものであった。
【特許文献1】特開2003−19997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した駆動軸系の位置検出方法によると、現在の軸受の据付位置を正確に推定することはできるが、これら推定された軸受高さから、実際に、どのような高さに修正するかが次の課題になっている。
【0005】
そこで、本発明は、例えば就航船、新造船に限らず、軸受高さの修正量を決定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る軸受高さの修正量決定方法は、被動軸系に連結されたエンジンにおける少なくともクランク軸の軸受高さの修正量を決定する方法であって、
所定位置における軸受での実測軸受荷重と実測クランクデフとにより伝達マトリックス法を用いて少なくともエンジンにおける各軸受の高さを求める軸受高さ演算ステップと、
この軸受高さ演算ステップで求められた軸受高さに基づき少なくともエンジンにおける各軸受に作用する演算軸受荷重を求める軸受荷重演算ステップと、
上記エンジンにおける各軸受の軸受高さを基準平面上に位置させた際に各軸受に作用する基準軸受荷重を求める基準軸受荷重演算ステップと、
上記各軸受において、演算軸受荷重と基準軸受荷重との差である荷重差を求める荷重差演算ステップと、
上記荷重差演算ステップで求められた荷重差と設定範囲とを比較するとともに、設定範囲を超えた場合の軸受に対して、荷重差が許容値内となるような軸受高さの修正範囲を求める修正量決定ステップとを具備した方法である。
【0007】
また、請求項2に係る軸受高さの修正量決定方法は、請求項1に記載の修正量決定方法における設定範囲を、エンジンにおける軸受の荷重の平均値に対して、−40〜+40%となるようにする方法である。
【0008】
さらに、請求項3に係る軸受高さの修正量決定方法は、請求項1または2に記載の修正量決定方法における許容値を、エンジンにおける軸受の荷重の平均値に対して、−20〜+20%の範囲となるようにする方法である。
【発明の効果】
【0009】
上記修正量決定方法によると、実測クランクデフと所定の軸受における実測軸受荷重とに基づき、軸系全体に亘って軸受高さを求めた後、この軸受高さに基づき少なくともエンジンに配置された軸受について軸受荷重を演算により求めるとともに、この演算軸受荷重と基準平面上に位置されたすなわち初期設定状態における基準軸受荷重との荷重差を求め、この荷重差が予め設定された設定範囲を超えている場合に、当該軸受高さを変化させた際の荷重差が、予め設定された許容値内となるような範囲でもって、軸受高さの修正範囲を決定するようにしたので、例えば船体に設けられるエンジンに対しては、新造船、就航船のいずれであっても、正確に且つ迅速に軸受高さの修正量を決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態に係る軸受高さの修正量決定方法を、図1〜図9に基づき説明する。
【0011】
本発明の実施の形態に係る軸受としては、例えば船舶に搭載される舶用ディーゼルエンジン(主機関ともいう)のクランク軸を支持するものとして説明する。
まず、このエンジンの構成を概略的に説明すると、図1に示すように、例えば7個のピストン1を有しており、そのクランク軸2は、8個(#1〜#8)の軸受3および船尾側のエンジンケースの壁部に設けられた#9の軸受3により支持されている。なお、#1は船首側(Fore)のものを示し、#8は船尾側(Aft)のものを示す。勿論、クランク軸2の各ピストン1に対応する位置には、クランクアーム4を介してクランクピン5が設けられるとともに、このクランクピン5とピストン1とがそれぞれコネクティングロッド6を介して連結されている。
【0012】
そして、上記クランク軸2の後端部には、中間軸7およびプロペラ軸(船尾管ともいう)8からなる推進軸系(被動軸系の一例である)が配置されるとともに、中間軸7を支持する#10軸受3およびプロペラ軸8の前後部を支持する2つの#11軸受3および#12軸受3が設けられている。勿論、中間軸7の前端部がクランク軸2の後端部に連結されている。
【0013】
以下、上記各軸受3、特にエンジンに設けられた各軸受3の高さ、すなわち軸受高さを修正するための修正量決定方法をステップ形式にて概略的に説明し、その後、このステップ形式にて示した内容を、部分的ではあるが、より詳しく説明する。
【0014】
この修正量決定方法は、所定位置における軸受での実測軸受荷重と実測クランクデフ(正確には、クランクデフレクションという)とに基づき伝達マトリックス法を用いて少なくともエンジンにおける各軸受の高さを求める軸受高さ演算ステップと、この軸受高さ演算ステップで求められた軸受高さに基づき少なくともエンジンにおける各軸受に作用する演算軸受荷重を求める軸受荷重演算ステップと、上記エンジンにおける各軸受の軸受高さを基準平面上に位置させた際に各軸受に作用する基準軸受荷重を求める基準軸受荷重演算ステップと、上記各軸受において演算軸受荷重と基準軸受荷重との差である荷重差を求める荷重差演算ステップと、この荷重差演算ステップで求められた荷重差と設定範囲とを比較するとともに、設定範囲を超えた場合の軸受に対して、荷重差が許容値内となるような軸受高さの修正範囲を求める修正量決定ステップとから構成されている。
【0015】
上記軸受高さ演算ステップでは各軸受3の高さが求められる。この軸受高さを求めるに際し、実測によるクランクデフと同じく実測による軸受荷重とが用いられる。但し、軸受荷重について、実測できるのは、例えば#7〜#10の軸受である。
【0016】
ところで、この軸受高さを求める演算については、伝達マトリックス法を用いてクランク軸2、中間軸7、およびプロペラ軸8からなる駆動軸系における所定位置での状態量(変位および作用力)を求めるようにしたもので、その詳細は、例えば特開2003−19997号公報に開示されているが、以下、簡単に説明しておく。
【0017】
この軸受高さ演算方法は、仮据付高さを用いて駆動軸系全体に亘って状態量を求めるとともに、この状態量からクランクデフ並びに中間軸7およびプロペラ軸8からなる推進軸系での軸受荷重を演算により求め、そしてこれら求められた演算デフ値および演算軸受荷重値に対して実測クランクデフおよび実測軸受荷重を用いて評価を行い(つまり、予め用意された評価式に、演算デフ値および演算軸受荷重値と実測クランクデフおよび実測軸受荷重とを代入して評価値を求める)、この評価値が予め設けられた設定範囲(許容範囲ともいえる)に入った場合の仮据付高さを、実際の軸受高さであると推定する方法である。
【0018】
すなわち、実測が可能なクランクデフおよび軸受荷重に基づき、駆動軸系全体に亘って軸受高さがほぼ正確に求められることになる。この軸受高さについては、クランク軸がセットされない初期の軸受高さとクランク軸がセットされた荷重釣合い後の軸受高さとが求められる。なお、後で、特開2003−19997号公報に開示された伝達マトリックス法について、やや、詳しく説明する。
【0019】
次に、軸受高さ演算ステップで求められた軸受高さ(図2の実線Aにて初期の軸受高さを、実線Bにて釣合い後の軸受高さを示す)に基づき軸受荷重が演算により求められる。すなわち、軸受荷重演算ステップにて、軸受高さの変位量(クランク軸がセットされない初期の軸受高さとクランク軸がセットされた荷重釣合い後の軸受高さとの差)に軸受部におけるばね定数を掛けることにより、軸受荷重が求められる。
【0020】
そして、基準軸受荷重演算ステップにおいて、上記と同様の手順で、水平面上に設置した状態での各軸受高さ[図2の破線Cにて初期の軸受高さ(高さがゼロである)を、破線Dにて釣合い後の軸受高さを示す]の変位量に基づき、基準軸受荷重が求められる。
【0021】
例えば、各軸受3における現在の演算軸受荷重と基準軸受荷重とをグラフに示すと図3のようになる。なお、図3の実線Eは演算軸受荷重を示し、破線Fは基準軸受荷重を示す。
【0022】
次に、荷重差演算ステップにて、演算軸受荷重と基準軸受荷重との差である荷重差が求められる。この荷重差を図示すると、図4の実線Gのようになる。
次に、修正量決定ステップにおいて、上記荷重差が予め設定された設定範囲(許容範囲ということもできる)に入っているか否かが判断され、設定範囲を超えている場合には、その軸受3が修正すべきものであると決定される。
【0023】
この設定範囲は、例えば、エンジン2における軸受(両側にシリンダが位置するような軸受、具体的には、#2〜#7の軸受)3に対する軸受荷重の平均値に対して、−30%〜+30%にされている。例えば、平均値が40tonである場合には、−12〜+12tonの範囲となる。なお、上記設定範囲としては、−40〜+40%でも良いが、好ましくは、−30〜+30%である。図4から、上記許容範囲を超えている軸受3、すなわち荷重差が−20tonである軸受3は#7であることが分かる。
【0024】
そして、この#7軸受3に対して、その荷重差(−20ton)を起点(ここでは、当然に、修正量がゼロである)とする、修正量と荷重差との関係を演算式(軸受高さの変位から軸受支持部のばね定数により荷重を求める式)により求めると、図5の実線Hのようになる。なお、図5に示すグラフの横軸は修正量を示すとともに、横軸の最大目盛としては、修正可能範囲を示している。
【0025】
そして、この図5から、予め設定された荷重差の許容値に基づき修正範囲が求められる。つまり、修正量が決定される。
ここで、許容値は、上述した軸受荷重の平均値の−10〜+10%の範囲に設定されている。すなわち、平均値が40tonである場合には、−4〜+4tonの範囲となるが、余裕を見て−5〜+5ton(−12.5〜+12.5%)の範囲となるように設定されている。なお、上記許容値としては、−20〜+20%の範囲でも良いが、好ましくは、−15〜+15%、より好ましくは、−10%〜+10%の範囲である。
【0026】
図5のグラフに示す関係を求める場合、まず、#7軸受3に対して、その荷重差(−20ton)を起点として、許容値を含む修正可能範囲内にて修正量に対する荷重差を演算により求める。
なお、修正可能範囲は、0.00〜0.30mmにされている。
【0027】
この修正可能範囲は下記の演算式にて求めることができる。
【0028】
【数1】

(1)式中の「m」については、「0」および例えば「1〜5」の整数値とされ、mの値毎の解析結果から修正量と荷重差との関係を表す直線Hが得られる。なお、m=0は修正しない場合を示している。
【0029】
そして、荷重差の許容値としては、上述したように、−5〜+5tonの範囲であり、これに対応する修正範囲としては、図5から分かるように、約0.14〜0.22mmの範囲となる。
【0030】
したがって、この範囲で修正量を決定すれば、#7軸受3の荷重差を−20tonから±5tonの範囲内に収めることができる。すなわち、隣接する軸受同士における荷重差を少なく、つまり軸受に作用する軸受荷重の変動を小さくして、軸受3に作用する荷重をバランス良くすることができる。さらに、言い換えれば、軸受での摩擦力を少なくして、機械損失を少なくすることができる。因みに、図5の実線Iにて#6軸受での荷重差を、破線Jにて#8軸受での荷重差を示す。これらについても、略、許容値内に入っていることが分かる。
【0031】
このように、修正量決定ステップを、荷重差が設定範囲を超えている軸受を検出する設定範囲超過軸受検出ステップと、この検出ステップで検出された軸受の荷重差が許容値内に入る修正範囲を求める修正範囲決定ステップとから構成されているということができる。
【0032】
図6の破線Kにて演算軸受荷重を、また図6の実線Lにて修正後の軸受荷重を示しておく。この図6から、修正後の軸受荷重の変動、すなわち隣接する軸受同士の荷重差の変動が抑制されていることが分かる。
【0033】
ここで、伝達マトリックス法について説明しておく。
この伝達マトリックス法では、クランク軸全体に亘って各部の変位(状態量ともいう)を演算する際に、梁のような直線部において変位を伝える格間伝達方程式(その係数を格間伝達マトリックスという)が使用されるとともに、梁の連続性を断ち切るような支点部(軸受部または軸方向の変化点)において変位を伝える格点伝達方程式(その係数を格点伝達マトリックスという)が使用される。
【0034】
以下の説明においては、クランク軸に沿って伝達マトリックス法が適用されるが、クランク軸心(ジャーナル部軸心)に沿う方向をグローバル座標系(x,y,zで表し、絶対座標系ともいう)とするとともに、クランクアームおよびクランクピンに沿う方向をローカル座標系(x′,t,rで表し、相対座標系ともいう)とする。
【0035】
なお、図7に1クランクスローでのグローバル座標軸の取り方を示し、図8にクランクスローに作用する力をローカル座標系に分解したものを示す。
以下の説明において、特に、言及されていない記号は下記の通りである。
a:クランクアーム間の初期長さ
A:断面積
D:クランクアーム間距離
Def:クランクデフ
E:縦弾性係数
F:せん断力
G:せん断係数
I:断面二次モーメント
J:断面二次極モーメント
k:軸受部でのばね定数
L:長さ
M:曲げモーメント
T:ねじりモーメント
θ:クランク角
まず、下記の式に示すように、船首側軸受部における状態量(変位および作用力)Bを未知数とする方程式を作成する。なお、下記式中、Sは格間伝達マトリックス、Pは格点伝達マトリックス、Rは船首側での境界条件を表す境界マトリックス、R′は船尾側での境界マトリックスで、それぞれ既知である。
【0036】
R′Snsns−1ns−1・・・・・PRB=0
なお、上記式中の沿え字nsは、船首側(Fore)と船尾側(Aft)の軸端間の軸が、その間の軸受部により区切られる軸の個数を表している。
【0037】
そして、この式を解くことにより、船首側での状態量Bが求められる。この状態量Bが、以下の説明にて示す変位ベクトルqおよび力ベクトルQであり、以下、これらの状態量を初期値として、格間伝達方程式および格点伝達方程式を繰り返し用い、クランク軸の全てにおける状態量を求めることになる。
【0038】
すなわち、グローバル座標系における状態量である変位ベクトルqおよび力ベクトルQは、下記(1)式および(2)式にて表される。なお、式中におけるベクトルは、太字にて表すものとする。
【0039】
【数2】

但し、(1)式中、d、d、dは変位・たわみ等を示し、またφ、φ、φはねじれ角・たわみ角等を示し、(2)式中、T、M、Mはねじりモーメント・曲げモーメント等を示し、またF、F、Fは軸力・せん断力等を示す。
【0040】
また、ローカル座標系における状態量である変位ベクトルq′および力ベクトルQ′は、下記(3)式および(4)式にて表される。
【0041】
【数3】

同様に、(3)式中、dx′、d、dは変位・たわみ等を示し、またφx′、φ、φはねじれ角・たわみ角等を示し、(4)式中、Tx′、M、Mはねじりモーメント・曲げモーメント等を示し、またFx′、F、Fは軸力・せん断力等を示す。
【0042】
次に、伝達マトリックス法にて用いられる格間伝達方程式および格点伝達方程式について説明する。船首側(fore側で、Fの添え字にて表す)から船尾側(aft側で、Aの添え字にて表す)の状態量を求める格間伝達方程式は、下記(5)式にて表される。
【0043】
但し、(5)式中、iは軸受番号(軸受部で区切られる軸の番号)を示す。
【0044】
【数4】

次に、状態量を、グローバル座標系からローカル座標系に変換する座標変換式(伝達方程式)は、下記(6)式にて表される。
【0045】
【数5】

一方、状態量を、ローカル座標系からグローバル座標系に変換する座標変換式(伝達方程式)は、下記(7)式にて表される。
【0046】
【数6】

例えば、ジャーナル部からクランクアームへの座標変換式(伝達方程式)は、下記(8)式にて表される。
【0047】
【数7】

また、クランクアームからジャーナル部への座標変換も、上記(8)式が使用される。
【0048】
また、クランクピンからクランクアームへの座標変換式(伝達方程式)は、下記(9)式にて表され、クランクアームからクランクピンへの座標変換も、同じ下記(9)式にて表される。
【0049】
【数8】

ところで、各軸受部3における格点伝達方程式は、下記(10)式にて表される。
【0050】
【数9】

なお、上記hにおけるdz0に仮据付高さデータが代入され(但し、dy0は一定とする)、またこのdz0に、遺伝的アルゴリズムにより生成され変更された新たな据付高さデータが入力される(但し、dの添え字の0(ゼロ)は初期値を意味する)。
【0051】
次に、クランクデフの演算手順について説明する。ここで、dx1,dy1,dz1をクランクスローにおける船首側部分での変位量とし、dx2,dy2,dz2をクランクスローにおける船尾側部分での変位量とし、またaをクランクスローでの初期長さとすると、互いに隣接するクランクスロー間の距離Dは下記(11)式にて表される(但し、dの添え字の1は、後述する図9の(ロ)位置を示し、同じく、添え字の2は、図9の(チ)位置を示す)。
【0052】
【数10】

また、ピストンの上死点(TDC,0度)での距離をD0、ピストンの下死点(BDC,180度)での距離をD180とすると、クランクデフ(Def)は、下記(12)式にて表される。
【0053】
【数11】

ところで、aのオーダは10mmであり、またd,d,dのオーダは10−3mmであるため、上記(11)式は下記(13)式のように変形することができる。
【0054】
【数12】

したがって、クランクデフは、下記(14)式にて求めることができる。
【0055】
【数13】

(14)式から分かるように、クランクデフは、殆ど、クランク軸心方向での変形量に依存している。
【0056】
ここで、上記演算式に基づくクランクデフの具体的な演算手順を、図9に基づき説明する。ここでは、1クランクスローに着目して各部材ごとの演算工程として、順番に説明する。
【0057】
a工程.(イ)部の軸受部では(5)式の格間伝達方程式が用いられる。
b工程.(ロ)部の折曲部では、a工程における(5)式の左辺を、(6)式の座標変換式の右辺に代入し、その時の(6)式の左辺を、(8)式の座標変換式の右辺(ジャーナル部)に代入する。
【0058】
c工程.(ハ)部では、b工程における(8)式の左辺を、(5)式の右辺に代入する。
d工程.(ニ)部では、c工程における(5)式の左辺を、(9)式の座標変換式の右辺に代入する。
【0059】
e工程.(ホ)部では、d工程における(9)式の左辺を、(5)式の右辺に代入する。
f工程.(へ)部では、e工程における(5)式の左辺を、(9)式の左辺とする。
【0060】
g工程.(ト)部では、f工程における(9)式の右辺[q′Q′1]armを、(5)式に代入する。
h工程.(チ)部では、g工程における(5)式の左辺を、(8)式の左辺とし、そのときの(8)式の右辺の[q′Q′1]journalを、(7)式の座標変換式の右辺に代入する。
【0061】
i工程.(リ)部では、h工程における(7)式の左辺を、(5)式の右辺に代入する。また、あるクランクスロー1から隣接するクランクスロー2への[(ヌ部)に示す支点を境界とする)伝達は、(10)式の格点伝達方程式が使用され、i工程における(5)式の左辺を、(10)式の右辺に代入することにより行われる。
【0062】
このように、状態量であるqおよびQ(Q=0)が、伝達方程式の係数である各伝達マトリックスにより、船首側から船尾側に伝えられて各変位が求められていく。勿論、伝達の過程において、(5)式と(10)式のf,f,h,hにより、Qも変化していくことになる。
【0063】
上述したように、実測クランクデフと所定の軸受における実測軸受荷重とに基づき、軸系全体に亘って軸受高さを求めた後、この軸受高さに基づき少なくともエンジンに配置された各軸受について軸受荷重を演算により求めるとともに、この演算軸受荷重と軸受高さが基準平面(高さがゼロの水平面)上に在る場合の軸受にクランク軸などがセットされた初期設定状態(比較基準状態とも言える)における基準軸受荷重との荷重差を求め、この荷重差が予め設定された設定範囲を超えている場合に、当該軸受高さを変化させた際の荷重差が、予め設定された許容値内となるような範囲でもって、軸受高さの修正範囲を決定するようにしたので、例えば船体に設けられるエンジンに対しては、新造船、就航船のいずれであっても、正確に且つ迅速に軸受高さの修正量を決定することができる。通常、軸受高さを修正する方法としては、求められた軸受高さが許容範囲を超えているものについて、作業者が経験により修正量を決めているが、このような方法に比べて、正確に且つ迅速に軸受高さの修正量を決定することができる。
【0064】
ところで、上記実施の形態においては、被動軸系として、中間軸およびプロペラ軸からなる推進軸系の場合について説明したが、他の軸系でもよく、例えばポンプなどを回転させる軸系であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態に係る軸受高さの修正量決定方法を適用する船舶における駆動軸系の概略構成図である。
【図2】同修正量決定方法を説明するための軸受高さを示すグラフである。
【図3】同修正量決定方法を説明するための軸受荷重を示すグラフである。
【図4】同修正量決定方法を説明するための軸受の荷重差を示すグラフである。
【図5】同修正量決定方法における軸受の修正範囲を示すグラフである。
【図6】同修正量決定方法における演算軸受荷重と修正後の軸受荷重とを示すグラフである。
【図7】同駆動軸系のクランク軸の1クランクスローでの模式正面図である。
【図8】同クランク軸のローカル座標系を示す模式側面図である。
【図9】同クランク軸におけるクランクデフの演算手順を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0066】
1 ピストン
2 クランク軸
3 軸受
4 クランクアーム
5 クランクピン
7 中間軸
8 プロペラ軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被動軸系に連結されたエンジンにおける少なくともクランク軸の軸受高さの修正量を決定する方法であって、
所定位置における軸受での実測軸受荷重と実測クランクデフとに基づき伝達マトリックス法を用いて少なくともエンジンにおける各軸受の高さを求める軸受高さ演算ステップと、
この軸受高さ演算ステップで求められた軸受高さに基づき少なくともエンジンにおける各軸受に作用する演算軸受荷重を求める軸受荷重演算ステップと、
上記エンジンにおける各軸受の軸受高さを基準平面上に位置させた際に各軸受に作用する基準軸受荷重を求める基準軸受荷重演算ステップと、
上記各軸受において、演算軸受荷重と基準軸受荷重との差である荷重差を求める荷重差演算ステップと、
上記荷重差演算ステップで求められた荷重差と設定範囲とを比較するとともに、設定範囲を超えた場合の軸受に対して、荷重差が許容値内となるような軸受高さの修正範囲を求める修正量決定ステップと
を具備したことを特徴とする軸受高さの修正量決定方法。
【請求項2】
設定範囲を、エンジンにおける軸受の荷重の平均値に対して、−40〜+40%となるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の軸受高さの修正量決定方法。
【請求項3】
許容値を、エンジンにおける軸受の荷重の平均値に対して、−20〜+20%の範囲となるようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載の軸受高さの修正量決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−1208(P2009−1208A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165723(P2007−165723)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)