説明

軸状工具

【課題】リーマのような軸状工具の工具本体軸線を正確に回転中心線と一致させて高精度の加工を行う。
【解決手段】軸線O回りに回転される軸状の工具本体1を備えて、この工具本体1の先端部に切刃6が設けられるとともに、工具本体1の後端部外周には周方向に延びる溝部10が形成されていて、この溝部10の軸線O方向に対向する一対の内壁面10Aは径方向外周側に向かうに従い漸次離間するようにされており、溝部10には、一対の内壁面10Aに当接する側面11Aを備えた調整部材11が、周方向における複数の個所で径方向の位置を調整可能に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸状の工具本体の先端部に切刃が設けられたリーマ等の軸状工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような軸状工具として、例えば特許文献1には、軸線回りに回転される円柱軸状のリーマ本体の先端部に切削インサートが着脱可能に取り付けられて切刃が設けられるとともに、リーマ本体の外周部には、被削材に予め形成された下穴が上記切刃によって仕上げられた加工穴に摺接してリーマ本体をガイドするガイドパッドが上記軸線方向に延びるように設けられたリーマが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−119796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような軸状工具によって上記加工穴を所定の真円度や真直度に仕上げるなど高精度の加工を行うには、工具本体が正確にその軸線回りに回転するようにされていなければならない。しかしながら、実際には、工具本体は、その軸線が工作機械の主軸の回転中心線に対して極僅かながらも傾いて取り付けられたりすることが多く、この取付状態のままで工具本体の軸線を主軸による回転中心線と正確に一致させることはきわめて困難である。
【0005】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のような軸状工具の工具本体軸線を正確に回転中心線と一致させて高精度の加工を行うことが可能な軸状工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに回転される軸状の工具本体を備えて、この工具本体の先端部に切刃が設けられるとともに、上記工具本体の後端部外周には周方向に延びる溝部が形成されていて、この溝部の軸線方向に対向する一対の内壁面は径方向外周側に向かうに従い漸次離間するようにされており、該溝部には、上記一対の内壁面に当接する側面を備えた調整部材が、周方向における複数の個所で径方向の位置を調整可能に取り付けられていることを特徴とする。
【0007】
このように構成された軸状工具では、工具本体の後端部外周に形成された溝部の上記一対の内壁面が径方向外周側に向かうに従い漸次離間するようにされており、これらの内壁面に当接する側面を備えて溝部に取り付けられた調整部材が、周方向における複数の個所で径方向の位置を調整可能とされているので、例えば周方向の一個所で調整部材の位置を径方向内周側に調整すると、この調整部材の側面が溝部の内壁面を押圧することにより、工具本体はその軸線が傾斜するように後端部から撓まされて弾性変形することになる。
【0008】
従って、工具本体を工作機械の主軸に取り付けた状態で、工具本体の軸線が主軸による回転中心線に対して傾いている場合には、この傾きを打ち消す方向に工具本体の軸線が傾斜するように複数の個所の調整部材の位置を調整することにより、この工具本体の軸線を回転中心線に正確に一致させることが可能となる。
【0009】
ここで、上記溝部は、工具本体の外周面を軸線回りに周回するように形成された環状溝とされるのが、形成が容易であるが、そうすると、この溝部が形成される工具本体の後端部での強度が低下してしまう。そこで、そのような場合には、上記調整部材は、この溝部に収容可能な円環を、径方向の位置調整が可能な程度の間隙をあけて周方向に複数個所で分割した円弧状とすることにより、環状溝とされた溝部の全周を略埋めつくすように調整部材を配設することができ、この調整部材の側面が溝部の内壁面に当接することによって工具本体後端部における強度の低下を防ぐことができる。
【0010】
なお、上記溝部の一対の内壁面およびこれらに当接する調整部材の側面は、上述のように径方向外周側に向かうに従い漸次離間するようにされていれば、例えば一方の内壁面および側面が工具本体の軸線に垂直な平面とされ、これに対して他方の内壁面および側面が径方向外周側に向かうに従い漸次離間するようにされていたりしてもよいが、調整部材の径方向の位置を調整して工具本体の軸線を傾斜させたときでも、溝部の双方の内壁面に調整部材の側面を均一に当接させて軸線が傾斜した状態を安定的に維持するには、これら溝部の一対の内壁面と調整部材の側面とは工具本体の軸線に垂直な平面に関して対称となるように形成されるのが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、リーマのような軸状工具において、その工具本体の軸線を工作機械の主軸による回転に中心線と正確に一致させることができ、これにより、被削材に予め形成された下穴の当該リーマ等による仕上げ加工を高精度に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態を示す一部破断側面図である。
【図2】図1におけるY部分の拡大断面図である。
【図3】図1におけるZZ拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1ないし図3は、本発明を刃先交換式リーマに適用した場合の一実施形態を示すものである。本実施形態において、工具本体1は、鋼材等により形成されて軸線Oを中心とした円柱軸状をなし、その後端部(図1において右側部分)がホルダ2に焼き嵌め等により固着されていて、このホルダ2が図示されない工作機械の主軸に取り付けられることにより、上記軸線O回りに回転されつつ該軸線O方向先端側(図1における左側)に送り出されて、被削材に予め形成された下穴を所定の内径に仕上げ加工する。
【0014】
ここで、この工具本体1の先端部には、該工具本体1の外周面を切り欠くようにしてチップポケット3とインサート取付座4とが形成されており、このインサート取付座4に、超硬合金等の硬質材料により形成された切削インサート5が着脱可能に取り付けられて、この切削インサート5の切刃6により上記下穴の仕上げ加工が行われる。また、工具本体1の内部には後端部から軸線Oに沿ってクーラント穴7が穿設されており、このクーラント穴7は先端側でインサート取付座4に向けて傾斜して開口し、切削インサート5の上記切刃6に向けてクーラントを供給するようにされている。
【0015】
さらに、工具本体1の外周面には軸線Oに平行に延びる凹溝8が周方向に間隔をあけて複数条形成されており、これらの凹溝8にはガイドパッド9がろう付け等により接合されて取り付けられている。これらのガイドパッド9は、切削インサート5と同じく超硬合金等の硬質材料により形成されていて、工具本体1に取り付けられた状態でその外周面が工具本体1の外周面から僅かに突出して軸線Oを中心とした1つの円筒面上に位置するようにされており、上記切削インサート5の切刃6によって仕上げられた加工穴の内周に摺接することにより、工具本体1を真っ直ぐ案内するようにされている。
【0016】
一方、工具本体1の後端部の外周面には、上記ホルダ2に焼き嵌めされた部分よりも僅かに先端側に、上記凹溝8やガイドパッド9が設けられていない部分が形成されており、この部分には周方向に延びる溝部10が形成されている。そして、この溝部10の軸線O方向に対向する一対の内壁面10Aは径方向外周側に向かうに従い漸次離間するように形成されるとともに、該溝部10には、これら一対の内壁面10Aに当接する側面11Aを備えた調整部材11が、周方向における複数の個所でその径方向の位置を調整可能に調整ネジ12によって取り付けられている。
【0017】
ここで、本実施形態では、上記溝部10は、工具本体1の全周に亙って連続するように軸線O回りに周回する環状溝とされている。さらに、上記一対の内壁面10Aは軸線Oに垂直な平面Pに対して対称となるように、この平面Pに対して互いに等しい一定の傾斜角で外周側に向かうに従い漸次離間する円錐面状に形成されるとともに、これらの内壁面10Aの間の溝底には軸線Oを中心とした円筒面状をなす底面10Bが形成されており、従って軸線Oに沿った溝部10の断面は、図2に示すように外周側に向けて幅広となる等脚台形状を呈することになる。
【0018】
このような溝部10に取り付けられる上記調整部材11は、工具本体1よりも硬質な鋼材等により形成されて、その取付状態において軸線Oに沿った断面が図2に示すように溝部10と同様の等脚台形状をなし、すなわち上記内壁面10Aに当接する一対の側面11Aが、軸線Oに垂直な平面Pに対して上記内壁面10Aと等しい一定の傾斜角で外周側に向かうに従い互いに漸次離間する円錐面状に形成されるとともに、これらの側面11Aの間の内外周面11B、11Cは軸線Oに平行な円筒面状をなすようにされている。ただし、上記取付状態において内周面11Bの内径は溝部10の底面10Bの径よりも大きく、また外周面11Cの外径は工具本体1の外径と等しいか、僅かに小さくされている。
【0019】
また、この調整部材11は、本実施形態では環状溝とされた上記溝部10に収容可能な円環を周方向に複数個所で分割した円弧状をなすように形成されている。具体的に、各調整部材11は、図3に示すように上記円環を周方向に等間隔に4ヶ所で分割した略1/4円弧状をなしており、この1/4円弧の周方向中央部には上記内外周面11B、11C間を貫通するように段付の取付穴11Dが1つの調整部材11に対して1つずつ穿設される一方、溝部10の底面10Bには、これら分割された調整部材11の数に応じたネジ孔10Cが上記平面P上に中心を有するようにして周方向に等間隔に形成されている。
【0020】
そして、各調整部材11は、取付穴11Dに挿通された上記調整ネジ12が溝部10のネジ孔10Cにねじ込まれることで、両側面11Aを一対の内壁面10Aにそれぞれ当接させて溝部10に取り付けられ、さらにこの調整ネジ12のねじ込み量を調整することで、溝部10内において径方向の位置が調整(微調整)可能とされている。なお、こうして溝部10に取り付けられた複数の調整部材11の間には、その径方向の位置調整が可能な程度の小さな間隙が周方向にあけられている。
【0021】
このように構成された本実施形態の軸状工具である刃先交換式リーマでは、上述のように調整部材11の側面11Aが溝部10の内壁面10Aに当接した状態から、複数の調整部材11のうちいずれかの調整部材11の調整ネジ12をねじ込んで径方向の位置を内周側に調整すると、この調整部材11の側面11Aが内壁面10Aを押圧し、これにより、該調整部材11が取り付けられた部分における溝部10が押し広げられて、工具本体1は溝部10が形成された後端部から僅かに撓んで傾斜するように弾性変形する。なお、このとき、この内周側に位置調整される調整部材11とは反対側の調整部材11を取り付けた調整ネジ12は僅かに緩めて、この反対側の調整部材11の位置が外周側に調整されるようにしてもよい。
【0022】
従って、上記ホルダ2を介して工具本体1が工作機械の主軸に取り付けられた状態で、この工具本体1の軸線Oが主軸による当該工具本体1の回転の中心線に対して傾いていても、このように調整部材11の径方向の位置を調整して主軸への取付状態における軸線Oの傾きを打ち消す方向に工具本体1を傾斜させることにより、工具本体1の軸線Oを回転中心線と正確に一致させることができる。このため、本発明の一実施形態である上記構成の刃先交換式リーマによれば、そのように工具本体1を調整して加工を行うことにより、被削材に形成された下穴を高精度に仕上げ加工することが可能となる。
【0023】
また、本実施形態では、溝部10が環状溝とされるとともに、調整部材11は上述のように円環を周方向に複数個所で分割した円弧状とされており、このような円弧が、当該調整部材11の径方向の位置調整が可能な程度の小さな間隙をあけて溝部10に収容されている。このため、溝部10を略埋め込むように調整部材11を配設することができるので、こうして溝部10が環状溝とされていても、工具本体1の強度が低下するのを避けることができ、一層高精度の加工を行うことが可能となる。
【0024】
なお、本実施形態では上述のように、調整部材11は溝部10がなす環状溝に収容可能な円環を周方向に等間隔に複数個所(4ヶ所)で分割した1/4円弧状をなし、その周方向中央部に、1つの調整部材11に対して1つずつ穿設された取付穴11Dに挿通された調整ネジ12によって径方向の位置が調整可能とされているが、例えば調整部材11を、円環を半割にした半円状に形成するとともに、この半円の両端から周方向に1/8円弧の位置にそれぞれ取付穴11Dを形成したりして、すなわち1つの調整部材11に周方向に間隔をあけて複数の取付穴11Dを形成して調整ネジ12を挿通することにより、1つの調整部材11で部分的にその径方向の位置を調整して工具本体1の軸線Oを傾斜させるようにしてもよい。
【0025】
一方、本実施形態では、溝部10および調整部材11の軸線Oに沿った断面が等脚台形状をなしていて、溝部10の一対の内壁面10Aとこれに当接する調整部材11の側面11Aが、工具本体1の軸線Oに垂直な平面Pに対して対称となるように、すなわち該平面Pに対して互いに等しい一定の傾斜角で径方向外周側に向かうに従い漸次離間するように形成されているが、調整部材11の径方向の位置を調整して工具本体1を撓ませて軸線Oを傾斜させるには、例えば溝部10の一方の内壁面およびこれに当接する調整部材11の一方の側面は軸線Oに垂直な平面とされていて、これに対して他方の内壁面および側面が径方向外周側に向かうに従い漸次離間するように傾斜させられていてもよく、すなわち軸線Oに垂直な平面Pに対して溝部10および調整部材11の断面形状が非対称とされていてもよい。
【0026】
ただし、そのような場合においては、調整ネジ12をねじ込んで調整部材11を径方向内周側に位置調整することにより工具本体1を弾性変形させて軸線Oを傾斜させた際に、この工具本体1の弾性変形に伴って溝部10の断面形状も微小変形することで、溝部10の一方の内壁面と調整部材11の側面との当接状態と、他方の内壁面と側面との当接状態とが互いに異なって変化してしまい、工具本体1の軸線Oを安定して傾斜させたまま保持し難くなるおそれが生じる。このため、これら一対の内壁面10Aと側面11Aとは、本実施形態のように軸線Oに垂直な平面Pに対して対称となるように形成されるのが望ましい。
【0027】
また、本実施形態では、本発明の軸状工具を刃先交換式のリーマに適用した場合について説明したが、リーマ以外の長尺軸状の工具本体を有する工具に適用することも可能であるし、刃先交換式ではないソリッドやろう付けの工具に適用することも可能である。さらに、工具本体も円柱軸状ではなく、例えば緩やかなテーパ角を有する円錐軸状であってもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 工具本体
2 ホルダ
5 切削インサート
6 切刃
10 溝部
10A 溝部10の内壁面
10B 溝部10の底面
10C ネジ孔
11 調整部材
11A 調整部材11の側面
11D 取付穴
12 調整ネジ
O 工具本体1の軸線
P 軸線Oに垂直な平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転される軸状の工具本体を備えて、この工具本体の先端部に切刃が設けられるとともに、上記工具本体の後端部外周には周方向に延びる溝部が形成されていて、この溝部の軸線方向に対向する一対の内壁面は径方向外周側に向かうに従い漸次離間するようにされており、該溝部には、上記一対の内壁面に当接する側面を備えた調整部材が、周方向における複数の個所で径方向の位置を調整可能に取り付けられていることを特徴とする軸状工具。
【請求項2】
上記溝部は、上記工具本体の外周面を上記軸線回りに周回するように形成された環状溝とされるとともに、上記調整部材は、この溝部に収容可能な円環を周方向に複数個所で分割した円弧状とされていることを特徴とする請求項1に記載の軸状工具。
【請求項3】
上記溝部の一対の内壁面およびこれらに当接する上記調整部材の側面は、上記工具本体の軸線に垂直な平面に関して対称に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の軸状工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−684(P2012−684A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134902(P2010−134902)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】