説明

軽量モルタル組成物

【課題】 硬化時間が短く、タレや型崩れの起こりにくいモルタル組成物を得る。
【解決手段】 セメント100重量部と磨砕方式により粉砕した表面を平滑化させた軽量気泡コンクリート粉砕物をセメント100重量部に対して20〜400重量部含んでなることを特徴とする軽量モルタル組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量モルタル組成物に関する。特に本発明の軽量モルタル組成物を用いることにより、ブロック状に形成する時は型枠保持時間が短くでき、壁面塗工仕上げに用いる時にはタレ(流れ落ち)が少ないモルタル組成物として利用できる。また、軽量気泡コンクリートの補修材としても利用できる。
【背景技術】
【0002】
一般にモルタルは、基本的には砂と水と、セメントを混練し、カルシウムと珪酸の水和反応を利用して硬化させるものである。高強度で、耐久性があり、安価な為、特に土木建築分野のさまざまな場面で使われる。しかし、原料を混練してから、硬化してハンドリング強度に達するまでの時間が長く、通常は周囲に型枠を組んでモルタルを流し込み、養生と呼ばれる静置時間を確保してハンドリング強度に達するまで待つ必要がある。
特開昭61−31371には早く硬化し、軽量気泡コンクリート骨材を含むモルタルに関しての提案がなされている。これには、硬化を早めるために硬化促進剤を用いることと、軽量気泡コンクリート骨材がモルタルの軽量化目的で用いられることが記されている。
【0003】
この方法では、エトリンガイトが形成され、所定の硬度が早期に達成される。しかし、エトリンガイトを多量に生成させると、水を結晶中に取り込み、硬化収縮を起こして亀裂を生じてしまう為、保水剤として機能するメチルセルロース(増粘剤)や、凝結調整剤を添加する必要がある。メチルセルロース(増粘剤)や凝結調整剤は他のモルタル原料に較べて高価であり、また、ここでエトリンガイトを生成させる為に加えられている明礬石(硬化促進剤)は同時にアルカリを持ち込み、白華の原因や、アルカリ骨材反応を引き起こす可能性も有している。
【0004】
一方、モルタルを早くハンドリングする為に、エトリンガイトを生成させる方向でモルタル組成を変更する事が考えられるが、エトリンガイト結晶は不安定であり、他の結晶に変化する時は硬化収縮が大きく、モルタルの流動性が失われている場合は亀裂が生じてしまう。また、モルタルは壁面塗工仕上げにも用いられ、鏝で厚塗りされる。鏝で塗り伸ばす時に流れ易い場合には、一般的に混練水量を減らして対応する。しかし、その場合はモルタルが切れやすくなり、また、粘度が上がるのでモルタルが混ぜ難くなる。更に、水を減らし過ぎると、モルタルの可使時間が著しく短くなってしまう等の問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−31371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑み、原料を混練してから、硬化してハンドリング強度に達するまでの時間が短く、しかもモルタルのチキソトロピー性を向上でき、タレ(流れ落ち)が少ない軽量モルタル組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は種々検討の結果、軽量気泡コンクリート(ALC)を磨砕により粉砕し、表面が平滑化された軽量気泡コンクリート粉砕物をモルタルに用いることで、増粘剤を使わずにモルタルのチキソトロピー性を向上でき、且つモルタルに軽量気泡コンクリート粉砕物を添加するとその吸水性で余剰の水を取り去り、モルタルの凝結を早めてハンドリングできるまでの時間が短縮されることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、セメント100重量部と磨砕方式により粉砕した表面を平滑化させた軽量気泡コンクリート粉砕物をセメント100重量部に対して20〜400重量部含んでなることを特徴とする軽量モルタル組成物である。
【0008】
磨砕方式により粉砕した表面を平滑化させた軽量気泡コンクリート粉砕物の添加量は、セメント100重量部に対して20〜400重量部である。更に用途に応じてブロック状に成型する場合は50〜200重量部、セメントにポリマー(樹脂)を加えてなるポリマーセメント系であればセメント100重量部に対して100〜300重量部、仕上げモルタルに使用するには20〜100重量部が望ましい。また、軽量気泡コンクリート(ALC)の原料モルタルとして用いるのであれば20〜50重量部が望ましい。
磨砕方式により粉砕した表面を平滑化させた軽量気泡コンクリート粉砕物をセメント100重量部に対して400重量部を超える添加量とすると、均一な混練の為に混練水を多く添加する必要が生じハンドリング強度迄に到達するまでの時間短縮効果が見られなくなってしまう。20重量部以下にすると、その他の骨材あるいは体質顔料の比率が大きくなり、チキソトロピー性向上効果が見られなくなってしまう。
【0009】
ここでいう磨砕方式により粉砕したとは、粉砕させる時に、石臼状の磨砕機やコロイドミルを用いる事で、表面が磨かれ、図1に見られるように表面が平滑化させた様な状態にして粒径を細かなものにする粉砕処理を言う。 従来は、軽量気泡コンクリートを粉砕するにあたり、最初は粗く砕いた後、微粉化させる為に、更にボールミルやジョークラッシャーで粉砕を行い用いていた。この方法では衝撃を与えて砕くだけなので、図2に見られるように表面は破断面や本来の結晶が析出した面であり、凹凸が激しい。
【0010】
両者の間の違いは軽量気泡コンクリートの粉砕方法だけである。これがチキソトロピー値(TI値)に影響を及ぼすのは、磨砕粉砕された軽量気泡コンクリート粉砕物が構造粘性を呈する様になったということである。流動性の有るモルタルスラリーでは固体粒子は水膜に覆われていて、その水膜を介した表面張力により固体粒子同士は繋ぎとめられているものと思われる。そして、この引き合う力が強いものほど構造粘性を呈し、TI値が大きくなると考えられる。通常粉砕の軽量気泡コンクリート粉砕物は、表面に起伏が多く、周囲の粒子に対して点で接しているが、磨砕粉砕された軽量気泡コンクリート粉砕物は表面が平滑であり、更に水膜が覆っていると考えられるので周囲の粒子と面で接する事になり、この面内にある水が表面張力を働かせ、双方の粒子を引き合う事になり、構造粘性を働かせる様になるためと思われる。
【0011】
軽量気泡コンクリートとしては、オートクレーブ養生された軽量気泡コンクリート(ALC)が用いられる。
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント等が使用できる。
【0012】
その他には、モルタルの骨材成分として、例えば炭酸カルシウム、珪砂等が用いられる。モルタルの骨材成分は磨砕方式により粉砕した表面を平滑化させた軽量気泡コンクリート粉砕物を含めて、好ましくはセメント100重量部に対して、100〜400重量部、更に好ましくは140〜400重量部が用いられる。
また、軽量気泡コンクリート粉砕物と一緒に用いるポリマーとしては水系樹脂を用いたアクリルラテックス、ポリビニルアルコール、酢酸ビニルラテックスが好ましく、チキソトロピー性向上が特に見られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、原料を混練してから、硬化してハンドリング強度に達するまでの時間が短く、しかもモルタルのチキソトロピー性を向上でき、タレ(流れ落ち)が少ない軽量モルタル組成物を提供することができる。
【実施例及び比較例】
【0014】
以下、実施例、比較例に基づき、説明する。
【0015】
[実施例1]
普通ポルトランドセメント100重量部、平均粒径30μmの炭酸カルシウム75重量部、磨砕により粉砕し、500μmの篩いで大きな粒径のものを除いた軽量気泡コンクリート粉砕物75重量部の粉体に対して水75重量部を加え、混練してモルタルスラリーを得た。このモルタルスラリーをブロック型に注ぎ込み室温で2時間静置した。その後、型枠を取り外して充填具合が良好であることを確認し、取り外しの際に欠損が発生しないことも確認した。
このモルタル硬化体を屋外曝露試験に供したが、2ヶ月間経過しても白華の発生は見られなかった。
【0016】
[実施例2]
ポルトランドセメント100重量部、平均粒径30μmの炭酸カルシウム75重量部、磨砕により粉砕し、500μmの篩いで大きな粒径のものを除いた軽量気泡コンクリート粉砕物75重量部、アクリルラテックス(旭化成ケミカルズ製ペトロック150)25重量部、水75重量部を混練してモルタルスラリーを得た。ALC壁面にシーラー(旭化成ケミカルズ製モルタックの2倍希釈液)を塗布し、その後、鏝によりモルタルスラリーでの仕上げ塗工を行った。鏝でのモルタルの伸びは良好で、塗工後、たれることなく壁面に固定した。乾燥後に亀裂の入る事も無かった。
【0017】
[比較例1]
原料の軽量気泡コンクリート粉砕物を、ボールミルで粉砕し500μmの篩いで大きな粒径のものを除いた粉体に切り替え、実施例2と同一組成でモルタルスラリーを作成した。ALC壁面にシーラー(旭化成ケミカルズ製モルタックの2倍希釈液)を塗布し、このモルタルスラリーを用いて、鏝によりモルタル仕上げ塗工を行った。鏝でのモルタルの伸びは良好であるが、たれが気にかかる為、薄塗りで数回に分けて塗工した。
【0018】
[比較例2]
ジェットセメント100重量部、平均粒径30μmの炭酸カルシウム150重量部、アクリルラテックス(旭化成ケミカルズ製ペトロック150)25重量部、水75重量部を混練してモルタルスラリーを得た。このモルタルスラリーをALC壁面にシーラー塗布処理した後、鏝によりモルタル仕上げ塗工を行った。鏝で延ばすモルタルは切れやすく、乾燥時に亀甲状に亀裂が入った。
なお、実施例2と比較例1のモルタルスラリーを用い、チキソトロピー性の尺度となるTI値をBH型回転粘度計の5回転/分の粘度と50回転/分の粘度の比により測定した。その結果、図3に示すように各モルタルスラリー粘度で磨砕粉砕の軽量気泡コンクリート粉砕物を用いた方が、BH型回転粘度計で測定したTI値が約0.5高い結果を得た。この為にモルタル塗工の際にタレの有無に違いが生じたものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、軽量モルタル組成物として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】磨砕方式により粉砕した表面を平滑化させた軽量気泡コンクリート粉砕物表面を示す写真である。
【図2】従来の非磨砕粉砕の軽量気泡コンクリート粉砕物表面を示す写真である。
【図3】モルタルスラリーのTI値を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント100重量部と磨砕方式により粉砕した表面を平滑化させた軽量気泡コンクリート粉砕物をセメント100重量部に対して20〜400重量部含んでなることを特徴とする軽量モルタル組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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