説明

輪状軟骨圧迫デバイス

【課題】介助者を必要とせず、手技者単独でも患者の気管に挿管が可能な輪状軟骨圧迫デバイスを提供する。
【解決手段】本発明に係る輪状軟骨圧迫デバイス1は、頭部を後屈させ、顎先を挙上させた状態を保持するように頸部の周囲に取付けられる筒状のプロテクター2と、プロテクター2に設けられ、加圧流体の充填により膨張するバルーン部4、及び、バルーン部4の膨張により頸部の輪状軟骨13を圧迫する突起部5を有する圧迫部材3と、から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気管内挿管時の開口性の確保、および胃内容物の逆流を予防する輪状軟骨圧迫デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、心肺機能が停止した患者や全身麻酔を行う場合には、気道を確保するために口又は鼻から喉頭を経由してチューブを挿入する手技(以下、気管挿管と称する)が行われる。
【0003】
気管挿管の際に患者の胃内部に残余物が存在する場合(この状態をFull Stomachと言う)、残余物が食道から逆流し、吐物が気管へと流入して窒息や誤嚥性肺炎などの悲惨な事態を招く恐れがある。このような事態は高齢者における噴門部(胃の中で食道につながる入口付近の部位)の筋力が低下した場合や、食道ガンによる食道摘出時、及び食道にステントが挿入された患者にも起こり得る。さらに通常の待機手術の場合においても誤って挿管チューブを食道に挿管する虞がある。
【0004】
このようなリスクを低減する方法として、現在は輪状軟骨圧迫法(別名セリック法とも呼ばれる)が行われている。輪状軟骨圧迫法は、気管挿管の際に患者の気管が視認できるように、頭部を後屈させた状態で輪状軟骨部分を人体の後方に向かって圧迫する、というものである(下記非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】近江 明文著、「麻酔科研修の素朴な疑問に答えます―10輪状軟骨圧迫の正しいやり方は?―」、株式会社 メディカル・サイエンス・インターナショナル、2006年5月1日、p29−p31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、患者の中には頸部が短く、又は下顎が落ち込んでいる者もおり、このような患者の場合、通常の患者よりも気管の開口が確保できず、目視確認を行えない場合がある。
【0007】
また、輪状軟骨圧迫法では、輪状軟骨を圧迫する手技以外に、口元から気管が視認できるように、患者の頭部を後屈させ、顎先を挙上させたいわゆるスニッフィングポジション(気管挿管時の喉頭展開時に取られるポジション)を保持する必要が生じることもある。しかし、輪状軟骨の圧迫とスニッフィングポジションの保持は手技者一人で行うことができず、介助者が患者の顎先の挙上及び頭部の後屈を行いつつ輪状軟骨を圧迫し、手技者が挿入する管を所持した状態で患者の口から気管を確認している。
【0008】
この場合、輪状軟骨の圧迫は介助者の感覚によって行われているため、介助者は圧迫力の感覚を養うトレーニングを行う必要がある。また、手技者と介助者の間でどの程度輪状軟骨を圧迫すればよいかの意思疎通は困難で正確に輪状軟骨を圧迫することができないこともある。さらに輪状軟骨圧迫法は手技者の他に介助者がいなければ実施できず、緊急時に手技者単独で行えない、という問題もある。
【0009】
そこで本発明は、介助者を必要とせず、手技者単独でも患者の気管に挿管が可能な輪状軟骨圧迫デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、以下の手段により達成される。
(1)頭部を後屈させ、顎先を挙上させた状態を保持するように頸部の周囲に取付けられる筒状のプロテクターと、前記プロテクターに設けられ、加圧流体の充填により膨張するバルーン部、及び、前記バルーン部の膨張により頸部の輪状軟骨を圧迫する突起部を有する圧迫部材と、からなる輪状軟骨圧迫デバイス。
(2)前記輪状軟骨圧迫デバイスには、前記圧迫部材による輪状軟骨圧迫時の圧力を検出する圧力検出部と、前記圧力検出部により検出した圧迫時の圧力を表示する表示部と、がさらに設けられていることを特徴とする(1)に記載の輪状軟骨圧迫デバイス。
(3)前記プロテクターは、頭部を後屈させる角度を調節する角度調節機構を有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の輪状軟骨圧迫デバイス。
(4)前記プロテクターは、一対の半割ピースからなり、当該両半割ピース相互の離間位置を調整可能な周長調節機構を介して、前記両半割ピースを連結したことを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の輪状軟骨圧迫デバイス。
(5)前記プロテクターと前記圧迫部材とを別体に構成したことを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の輪状軟骨圧迫デバイス。
(6)前記突起部は、頸部の輪状軟骨に跨座する第1突起と第2突起を有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の輪状軟骨圧迫デバイス。
(7)前記第1突起及び第2突起は、各々の高さが異なることを特徴とする(6)に記載の輪状軟骨圧迫デバイス。
(8)前記突起部は、前記プロテクターの軸線方向に沿って伸延していることを特徴とする(6)又は(7)に記載の輪状軟骨圧迫デバイス。
(9)前記バルーン部は、前記第1突起及び第2突起が外部から視認可能となるように透明体により構成したことを特徴とする(6)〜(8)のいずれか1項に記載の輪状軟骨圧迫デバイス。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、筒状のプロテクターを頸部の周囲に取付け、このプロテクターに設けられたバルーンを膨張させ、圧迫部材の突起部により輪状軟骨を圧迫するように構成したため、介助者を必要としなくても手技者のみで食道を閉塞させ、胃の内容物の逆流を防止しつつ、気管の開口性を確保することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、輪状軟骨圧迫デバイスに突起部による輪状軟骨の圧迫圧力を検出する圧力検出部と、圧力検出部により検出した圧力を表示する表示部を設けているため、輪状軟骨を過剰に圧迫して気管が閉塞することを防止できる。また、輪状軟骨を圧迫する圧力値を速やかに把握して気管挿管を行えることで、手技の作業効率を向上させることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、頭部を後屈させる角度を調節する角度調節機構が設けられているため、頸部の長さや顎の長さの個人差を吸収して様々な患者に輪状軟骨圧迫デバイスを装着させることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、プロテクターが一対の半割ピースからなり、半割ピースの左右両端部に頸部の周長調節機構を設けたため、頸部の周長差により本装置を何種類にも分けて製造する必要がなく、コストダウンに貢献し得る。また、圧迫部材は喉仏の位置に一致させる必要があるため、左右両端部に調節機構が設けられることで、周長の調節による圧迫部材と喉仏との不一致を防止できる。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、プロテクターと圧迫部材とが別体に構成されているため、輪状軟骨の形状に個人差があっても圧迫部材の交換のみで対応でき、圧迫部材を使い捨てにすることもできる。よって、輪状軟骨圧迫デバイスの交換費用を低減させることができる。
【0016】
請求項6に記載の発明によれば、圧迫部材が頸部の輪状軟骨に跨座する第1突起、第2突起を有するため、指によって圧迫している場合と同様に、喉仏を潰さずに輪状軟骨を圧迫することができ、不必要に他の部分を圧迫することがない。
【0017】
請求項7に記載の発明によれば、人間の舌の位置を考慮して輪状軟骨を舌側に寄せるように第1突起と第2突起の高さを変えているため、口元からの気管の視認性を向上させることができる。
【0018】
請求項8に記載の発明によれば、突起部が軸線方向に沿って伸延しているため、輪状軟骨の身長方向における位置の個人差を吸収することができる。
【0019】
請求項9に記載の発明によれば、バルーン部及び第1突起、第2突起以外の突起部が透明であるため、プロテクターを頸部に装着させる際に喉仏の位置を第1突起、第2突起の色により視認するのが容易になり、装着時の作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】人体の身長方向における頸部付近の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る輪状軟骨圧迫デバイスを患者に装着させた際の側面図である。
【図3】図2の平面図である。
【図4】頸部の周長調節機構部分の断面図である。
【図5】角度調節機構の変形例である。
【図6】図3の6−6線に沿う断面図である。
【図7】圧迫部材の変形例である。
【図8】本発明の一実施形態に係る突起部の斜視図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る輪状軟骨圧迫デバイスの制御系の構成について示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の記載は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0022】
一般に輪状軟骨圧迫法は、昏睡状態に陥り、心肺機能が停止した患者や、全身麻酔をかける際の気道確保に使用される。この方法では、図1に示すように、患者を仰向けに寝た状態からスニッフィングポジションを確保するために、まず頭部を後屈させて顎先を挙上させる。そして親指と人差し指で甲状軟骨14(いわゆる喉仏)の下端の輪状軟骨13を圧迫すると、輪状軟骨13に包囲された気管12は潰れず、食道11が頸椎に押し付けられることで閉塞状態となり、食道11から気管12への胃の内容物の流入が防止され、気管12の開口性が確保される。この状態で咽頭鏡15を挿入すると、喉頭の展開が確認でき、気管挿管が行われる。
【0023】
なお、一般的な圧迫圧力は覚醒時に10N(≒1kgf)であり、意識消失時に30N(≒3kgf)で行われ、妊婦・小児・肥満患者に対する麻酔等の迅速導入(Rapid Sequence Induction)の際に行われる。
【0024】
図2は本発明の一実施形態に係る輪状軟骨圧迫デバイスを患者に装着した際の側面図、図3は図2の平面図であり、図4は頸部の周長調節機構の断面図である。
【0025】
輪状軟骨圧迫デバイス1は、図2,3において、患者を仰向けの状態とし、右側に頭部H、左側に体幹Bが位置した状態で、頭部を後屈させ、顎先を挙上させた状態を保持するように頸部の周囲に取付けられる筒状のプロテクター2と、プロテクター2に設けられ、加圧流体の充填により膨張するバルーン部4及びバルーン部4の膨張により頸部の輪状軟骨13を圧迫する突起部5を有する圧迫部材3と、を含む。
【0026】
プロテクター2は、図2に示すように、上下一対の半割ピースで構成された上部プロテクター21及び下部プロテクター22とからなり、周長調節ベルト23及びストッパー24からなる周長調節機構Sと、角度調節ベルト25及びストッパー26からなる角度調節機構Kと、が設けられている。
【0027】
両プロテクター21,22が、頸部に装着した際に、顎先を人体の前方に挙上させ、頭部を後屈させることで口元から気管が視認できるように、上部プロテクター21は筒状の軸線に沿って、中央部から装着時の顎先部分にまでフレア状に伸延して形成され、下部プロテクター22は、中央部から装着時の後頭部にまでフレア状に伸延して形成されている。
【0028】
また、装着時に肩部に密着し、頭部が後屈した状態を保持できるように、上部プロテクター21は中央部から装着時の肩部前方にまでフレア状に伸延して形成され、下部プロテクター22は、中央部から装着時の肩部後方にまでフレア状に伸延して形成されている。
【0029】
このように両プロテクター21,22は、頸部に当たる中央部が人体の形状に合わせて上端部から中央部、及び下端部から中央部にかけて、窄まるように形成されているが、図2に示すように、上部プロテクター21における上部片と下部片とのなす角度R1は、例えば100度以上180度未満である。
【0030】
一方、下部プロテクター22における上部片と下部片とのなす角度R2は、75度以上145度未満である。通常の姿勢では口の部分と気管の部分は略90度程度で口元から気管が視認できないため、プロテクター2は頭部を後屈させるために角度R2が角度R1より小さく形成されている。
【0031】
プロテクター2の周長を段階的に変化させる周長調節機構Sは、図4に示すように、上部プロテクター21側の左右両端部の挿入方向に傾斜面231、着脱方向に抜けを防止する垂直面232が交互に連続して設けられた周長調節ベルト23と、下部プロテクター22側の左右両端部に、周長調節ベルト23に係合する傾斜面241及び垂直面242が設けられたストッパー24とから構成されている。
【0032】
周長調節ベルト23及びストッパー24により、頸部の周長に応じて種々のプロテクター2を製造せずに済み、製造コストの低減を図ることができる。また、圧迫部材3は後述するように、輪状軟骨13の位置に一致させる必要があるため、左右両端部に周長調節機構Sが設けられることで、調節による圧迫部材3と輪状軟骨13との不一致を防止できる。
【0033】
なお、周長調節機構Sは上記に限らず、例えばフックとループとからなるベルクロファスナーによって構成してもよい。
【0034】
下部プロテクター22には、頸部に対する頭部の後屈角度を段階的に調節できる角度調節機構Kが設けられている。角度調節機構Kは、周長調節機構Sと同様の傾斜面231、241及び垂直面232、242を有する角度調節ベルト25及びストッパー26により構成されている。
【0035】
角度調節ベルト25及びストッパー26により、頸部の長さや顎の高さの個人差に合わせて角度を調節でき、プロテクターの種類を増やさずにコストダウンを図ることができる。
【0036】
図5は角度調節機構の変形例について示す図である。角度調節機構Kは、上記以外に先端部分が金属の爪233、243により構成された係合手段を用いて、頸部の周長を調節して強固に固定してもよい。
【0037】
プロテクター2は、頭部の頸部に対する姿勢を保持することができ、かつ皮膚に対するアレルギー等を考慮して、例えば、プラスチックやポリプロピレン等のラテックスフリーの材料から構成されている。
【0038】
上部プロテクター21の正面中央部分には、図6にて後述する圧迫部材3を取り付け可能な切欠部Oが形成されている。
【0039】
図6は図3の6−6線に沿う断面図である。
【0040】
圧迫部材3は、図6に示すように、バルーン部4と突起部5とを含み、バルーン部4の膨張により突起部5を介して輪状軟骨13を圧迫するように、上部プロテクター21の中央に設けられた切欠部Oに嵌め込まれ、接着剤等により固定されている。
【0041】
バルーン部4は外皮41と内皮42とからなり、内部にクレセント(三日月)状の膨張空間43が形成されている。
【0042】
膨張空間43には、圧迫部材3が輪状軟骨13に跨座した状態で加圧する加圧流体を外部から注入するチューブ(不図示)等が連設されている。
【0043】
バルーン部4の放射方向における厚さA1は、例えばバルーン部4の非拡張時に0.1cm〜0.5cmである。圧迫部材3による輪状軟骨13の圧迫時に外皮41より内皮42の変形量が大きくなるように、内皮42は外皮41より薄肉に形成されている。また、内皮42と外皮41の厚みは同じでもよい。その場合、内皮の材料よりも、外皮の材料の剛性が高いことが好ましい。バルーン部4は、輪状軟骨13に跨座した状態で圧迫する圧迫部材3が、輪状軟骨13に一致して取り付けられたか目視で確認できるように透明体により構成されている。バルーン部4を構成する材料としては、ポリスチレン、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体、エチレンー酢酸ビニル共重合体、架橋型エチレンー酢酸ビニル共重合体など)、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリイミド、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)、ポリアリレーンサルファイド(例えば、ポリフェニレンサルファイド)などの熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等の弾性変形可能な材料を用いることが好ましい。
【0044】
図7はバルーン部の変形例について示す断面図である。このバルーン部4の他の構成として、外皮41と内皮42により形成される空間内には膨張収縮可能なゴム等からなるバルーン44が設けられている。本変形例では加圧流体がバルーン44に充填されることで外皮41と内皮42により形成される空間が膨張するように構成されている。
【0045】
図8は本発明の一実施形態に係る突起部の斜視図である。
【0046】
突起部5は、図8に示すように、輪状軟骨13を圧迫する指の形を模擬した第1突起51及び第2突起52と、バルーン部4に接着剤等で固定される固定面53とを有し、内部は中空で窒素等の気体が充填されている。第1突起51と第2突起52との間に位置する凹部は、輪状軟骨13の形状に略一致するように形成されている。第1突起51及び第2突起52には圧力検出部9を構成する圧力検出センサーが取付けられている。
【0047】
具体的には、突起部5の幅A2は0.5〜5cm、(患者の)身長方向の長さA3は0.5〜5cm、突起部5の固定面53から凹部までの高さA4は0〜10cm、及び第1突起51、第2突起52の高さの差A5は0.3〜3.0cmである。上記寸法は成人男性の場合を想定したものであるが、女性用、小児用等に関しては適宜寸法調整される。
【0048】
第1突起51,第2突起52の高さは、図8に示すように、親指と人差し指によって圧迫することを想定し、第1突起51の方が第2突起52より高く形成されている。
【0049】
各突起51,52の形状は、輪状軟骨13に沿った形状とされているため、指によって圧迫している場合と同様に、甲状軟骨14を潰さずに輪状軟骨13に跨座した状態で圧迫することができ、不必要に他の部分を圧迫することがない。
【0050】
突起部5は、患者の身長方向に沿って伸延するように形成されており、これにより輪状軟骨13の位置の個人差を吸収することができる。圧迫部材3においては、各突起51,52は視認しやすい色素等により着色され、突起51,52以外の突起部5及びバルーン部4は透明体に構成されることが好ましい。
【0051】
これにより、プロテクター2を頸部に装着させる際に輪状軟骨13の位置に対する突起51,52の位置を視認でき、装着時の作業効率を向上させることができる。突起部5を構成する材料としては、シリコーン、ウレタンまたはラテックスのゴムおよびオレフィン系またはスチレン系のエラストマー等を使用することが好ましい。
【0052】
また、プロテクター2と圧迫部材3とは別体で構成されている。このため、輪状軟骨13の形状に個人差があっても圧迫部材3の交換のみで対応でき、圧迫部材3を使い捨てにすることもできる。よって、輪状軟骨圧迫デバイス1の交換費用を低減させることができる。
【0053】
なお、バルーン部4と突起部5とは、両者の形状を合わせた一体部品として構成してもよく、また、突起部5は中実体により構成してもよい。
【0054】
図9は本発明の一実施形態に係る輪状軟骨圧迫デバイスの制御システムの構成について示すブロック図である。
【0055】
輪状軟骨圧迫デバイス1の制御システムは、図9に示すように、制御部6、操作部7、圧力発生部8、圧力検出部9、及び表示部10を含む。
【0056】
制御部6はCPUやRAM、ROM等からなり、操作部7や表示部10と同一の機器に設けられている。操作部7は手技者が輪状軟骨圧迫デバイス1を用いて圧迫する限界圧力値を指定して負荷するよう指示し、又は負荷を中止できるように、キーボードやタッチパネル等で構成されている。圧力発生部8は、所定流量の空気圧を輪状軟骨圧迫デバイス1に供給するように、ポンプ等から構成されている。圧力発生部8は、ゴム球を手動で操作し、空気を送るものでもよい。
【0057】
圧力検出部9は、例えば、空気動圧センサーからなり、上述のように突起部5の突起51,52に設けられている。圧迫圧力の検出は空気動圧センサー以外に感圧紙を使用することで視覚的に圧力値を認識してもよい。
【0058】
表示部10は、圧力検出部9により検出された輪状軟骨13への圧迫圧力値をmmHgやPa等で表記するように液晶表示ディスプレイ等から構成されている。
【0059】
このように、圧迫部材3が負荷する圧迫圧力を検出する圧力検出部9と、検出した圧力値を表示する表示部10と、を設けることで、輪状軟骨13を過剰に圧迫して気管が閉塞することを防止できる。また、輪状軟骨13を圧迫する圧力値を速やかに把握して気管挿管を行えることで、手技の作業効率を向上させることができる。
【0060】
次に本実施形態に係る輪状軟骨圧迫デバイス1による作用について説明する。
【0061】
手技者は、患者を仰向けに寝かせた状態で本実施形態に係る輪状軟骨圧迫デバイス1を患者に取付ける。当該取付けは、上部プロテクター21及び下部プロテクター22を患者の頸部に近接させ、周長調節ベルト23とストッパー24によりプロテクター2の頸部周長を調節し、角度調節ベルト25及びストッパー26により頭部の後屈角度を調節することで行う。これにより輪状軟骨圧迫デバイス1が患者に装着され、スニッフィングポジションが形成される。
【0062】
手技者は、患者の頭部側に立って咽頭鏡を用いて患者の口の中を開けて観察し、操作部7から圧迫限界圧力値を指定して昇圧を行うよう操作する。制御部6から昇圧が指示されると、チューブ等の配線を介してバルーン部4に窒素等の加圧流体が供給され、バルーン部4が膨張する。圧力発生部8によりバルーン部4を加圧すると、図6に示すバルーン部4の厚さA1は非拡張時からさらに0.3cm〜5cm程度膨張する。
【0063】
バルーン部4の膨張により圧迫部材3は輪状軟骨13を圧迫する。第1突起51が第2突起52より高いことで、圧迫時に第1突起51は第2突起52に比べて皮膚に対して滑り、第2突起52は輪状軟骨13を支配的に圧迫する。これにより、圧迫部材3は輪状軟骨13を手技者が患者の正面に向かい合った状態における右側に圧迫する。人間の舌は中央より左側、すなわち手技者が患者の正面に向かい合った状態における右側に位置するため、輪状軟骨13を舌側に圧迫して寄せることで、口元からの気管の視認性を向上させることができる。
【0064】
圧迫部材3により圧迫される圧力は、圧力検出部9により検出され、制御部6により演算処理されて圧力値が表示部10に表示される。手技者は表示部10の圧力値を参考に口元から気管の開口具合を確認し、開口が十分になったところで操作部7から昇圧を中止するよう操作し、口元から咽頭鏡を使って確認し、そして気管挿管を行う。
【0065】
バルーン部4の膨張により圧迫部材3は輪状軟骨13を圧迫するが、気管部分は環状の輪状軟骨13に包囲されているため、圧迫圧力が過大でなければ潰れることはなく、食道部分が一部閉塞され、胃からの内容物の逆流が防止される。
【0066】
なお、膨張により増加するバルーン部4の厚さはあくまで目安であり、気管挿管を行うかの最終的な判断は、手技者が口元から気管が視認できるかの目視により行う。
【0067】
本実施形態に係る輪状軟骨圧迫デバイス1によれば、プロテクター2を頸部の周囲に取付け、バルーン部4を膨張させて、突起部5の第1突起51,第2突起52により輪状軟骨13を圧迫している。このため、従来のように手技者の他に介助者を必要としなくても手技者のみで食道を閉塞させて胃の内容物の逆流を防止し、気管の開口性を確保することができる。
【0068】
本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲において種々の改変が可能である。
【0069】
上記実施形態では、突起部5の第1突起51,第2突起52が従来の親指と人差し指によって輪状軟骨13を圧迫する場合を想定して、第1突起51を第2突起52より高く形成すると記載した。しかし、突起部5の材料によっては皮膚との摩擦が起こりにくいケースも想定できるため、第1突起51と第2突起52を同一高さとしてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 輪状軟骨圧迫デバイス、
2 プロテクター、
3 圧迫部材、
4 バルーン部、
5 突起部、
6 制御部、
7 操作部、
8 圧力発生部、
9 圧力検出部、
10 表示部
11 食道、
12 気管、
13 輪状軟骨、
14 甲状軟骨、
15 咽頭鏡、
21 上部プロテクター、
22 下部プロテクター、
23 周長調節ベルト、
24 ストッパー、
25 角度調節ベルト、
26 ストッパー、
41 外皮、
42 内皮、
43 膨張空間、
44 バルーン、
51 第1突起、
52 第2突起、
53 固定面、
231 傾斜面、
232 垂直面、
233 爪、
241 傾斜面、
242 垂直面、
243 爪、
A1 バルーン部の放射方向における厚さ、
A2 突起部の幅、
A3 突起部の(患者の)身長方向の長さ、
A4 突起部の固定面から凹部までの高さ、
A5 第1突起と第2突起との高さの差、
B 体幹、
H 頭部、
O 切欠部、
R1 上部プロテクターにおける上部片と下部片とのなす角度、
R2 下部プロテクターにおいて上部片と下部片とのなす角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部を後屈させ、顎先を挙上させた状態を保持するように頸部の周囲に取付けられる筒状のプロテクターと、
前記プロテクターに設けられ、加圧流体の充填により膨張するバルーン部、及び、
前記バルーン部の膨張により頸部の輪状軟骨を圧迫する突起部を有する圧迫部材と、
からなる輪状軟骨圧迫デバイス。
【請求項2】
前記輪状軟骨圧迫デバイスには、前記圧迫部材による輪状軟骨圧迫時の圧力を検出する圧力検出部と、前記圧力検出部により検出した圧迫時の圧力を表示する表示部と、がさらに設けられていることを特徴とする請求項1に記載の輪状軟骨圧迫デバイス。
【請求項3】
前記プロテクターは、頭部を後屈させる角度を調節する角度調節機構を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の輪状軟骨圧迫デバイス。
【請求項4】
前記プロテクターは、一対の半割ピースからなり、当該両半割ピース相互の離間位置を調整可能な周長調節機構を介して、前記両半割ピースを連結したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の輪状軟骨圧迫デバイス。
【請求項5】
前記プロテクターと前記圧迫部材とを別体に構成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の輪状軟骨圧迫デバイス。
【請求項6】
前記突起部は、頸部の輪状軟骨に跨座する第1突起と第2突起を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の輪状軟骨圧迫デバイス。
【請求項7】
前記第1突起及び第2突起は、各々の高さが異なることを特徴とする請求項6に記載の輪状軟骨圧迫デバイス。
【請求項8】
前記突起部は、前記プロテクターの軸線方向に沿って伸延していることを特徴とする請求項6又は7に記載の輪状軟骨圧迫デバイス。
【請求項9】
前記バルーン部は、前記第1突起及び第2突起が外部から視認可能となるように透明体により構成したことを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の輪状軟骨圧迫デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−74987(P2013−74987A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216186(P2011−216186)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)