説明

辛味チョコレート及びその製造方法

【課題】辛味原料を固形として使用せず、辛味原料から直接チョコレート用油脂で辛味成分抽出し、その抽出に使用したチョコレート用油脂をチョコレート原料として使用し、辛味成分を均一に感じ、チョコレートと辛味成分との風味バランスが良好で、高カロリーなチョコレートであっても、脂肪吸収を抑制した風味良好な辛味チョコレート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】辛味原料から辛味成分をチョコレート用油脂で直接抽出した辛味油脂を含む辛味チョコレートの構成とした。加熱容器で、チョコレート用油脂を加熱溶解し、次に、辛味原料を投入し、さらに加温・保持し、辛味成分をチョコレート用油脂に溶出させてなる辛味油脂を作り、前記辛味油脂にチョコレート原料を投入し、撹拌混合し、ロール掛けし、型に絞り冷却固化してなる辛味チョコレート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香味成分、特に辛味成分を直接チョコレート用油脂で抽出し、辛味成分を含むチョコレート用油脂をチョコレート原料として使用した辛味チョコレート及び辛味チョコレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
嗜好品であるチョコレートは、そのカロリーの高さから、倦厭される傾向にある。そのため、以下の発明のような低カロリーチョコレートが開発されている。
【0003】
特許文献1に記載のチョコレート様食品は、特許文献1の請求項1、2にあるように、油脂分、蛋白質成分及び呈味成分を必須成分とし、糖分をほとんどまたは全く含有しない、チョコレート用食品であり、呈味成分として、香辛料が選択され得る。また、特許文献1の明細書本文中にあるように、油脂分として、ココアバターを選択することができる。
【0004】
これによりなるチョコレート様食品によれば、砂糖分を殆どまたは全く使用せず、乳成分を主として、辛味を主としたチョコレート様食品であり、糖分塩分の摂取過多を防止するとともに、従来にない素直な調味風味を呈することとなる。
【特許文献1】特開平4−58849号公報
【0005】
又、特許文献2に記載のチョコレート等の食品は、請求項1、2にあるように、カフェインやポリフェノール等を含有するココア成分とカプサイシン等を含有する辛み成分をチョコレート等の食料品に配合又は添加したことを特徴とする。又、その配合比率は、ココア成分を含むカカオ脂又はカカオマスに辛み成分を含む唐辛子を70〜95対5〜30重量%の割合であるとする。
【0006】
これによりなるチョコレート等の食料品によれば、ココア成分に含有するカフェインやポリフェノール等によって、中枢神経系、心血管系の刺激や興奮作用を起こし、穏やかな薬効を示しながら強壮、抗鬱、抗ストレス、気分の高揚、疲労の軽減、知的能力の増進、胃液の分泌の活性化、利尿作用や抗酸化作用や、コレステロール値の低下、動脈硬化の予防、ガンの発生の抑制、アレルギー疾患を抑える働きを発揮できる。また、辛み成分のカプサイシン等によって、体温を上昇させ、発汗を促し、胃腸に刺激を与えて消化運動を活発にし、その結果おなかなどの脂肪の蓄積を低下させるようにできる。
【0007】
特に、辛味成分のカプサイシン等によって、チョコレート等を食べる量を抑制できたり、たとえ過剰に食べても、唐辛子の辛味成分のカプサイシンでチョコレートによる肥満を防止することができる。特に、唐辛子の殺菌作用によりチョコレートの保存期間を長くすることもできるとされる。
【特許文献2】特開2002−272376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のチョコレート様食品は、砂糖を減じ、蛋白成分を主原料とすることで、糖分や塩分の摂取過多を避け、従来の風味より勝る調味風味を呈したチョコレート様食品等を提供することを課題としており、主に、糖原料を減じることが主体で、辛味成分等の呈味原料は、素直な風味を感じることを目的としている。
【0009】
又、特許文献2に記載のチョコレート等の食品は、段落[0017]〜0018にあるように、唐辛子の辛み成分を酢やアルコール等で抽出したり、それを蒸発させて超微粉末としたものを配合することもできる。さらに、焙焼して粒子状等とでき、燻煙によってチョコレートに風味と保存効果をつけることもできるとされる。なお、必要により、唐辛子の果実や種子を所定の粒状としてナッツ状にチョコレートに混合することもできるとされる。別に抽出した辛み成分、或いは辛味原料をチョコレートの製造工程において、配合又は添加するものである。
【0010】
従って、チョコレート様食品の製造と別に辛み成分を抽出することとなると、作業工程が増え煩雑である。また、チョコレートに添加するには、不向きな酢、アルコールで抽出していることから、最終製品の風味においてそれらの風味を感じ問題である。
【0011】
加えて、アルコールで抽出した辛み成分を添加することは、例え添加されるアルコールの量が少量であっても、子供も食するチョコレートにアルコールを添加することは好ましくない。
【0012】
また、粉末で辛み成分を添加すると、例え、微粉で、均一にチョコレート様食品に分散しているとしても、辛み成分付近の辛みが強く、辛み成分にムラが生じる。さらに、チョコレートに異物が入っているように感じ、食感も優れない。
【0013】
そこで、本発明は、香味原料、特に辛味原料を固形として使用せず、辛味原料から直接チョコレート用油脂で辛味成分抽出し、その抽出に使用したチョコレート用油脂をチョコレート原料として使用し、辛味成分を均一に感じ、チョコレートと辛味成分との風味バランスが良好で、高カロリーなチョコレートであっても、脂肪吸収を抑制した風味良好な辛味チョコレート及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、第1に辛味原料から辛味成分をチョコレート用油脂で直接抽出した辛味油脂を含む辛味チョコレートの構成とし、第2に前記辛味油脂が、辛味油脂が、チョコレート用油脂を加熱、溶解し、辛味原料を投入し、加温・保持し、香味原料を濾しとってなることを特徴とする辛味チョコレートの構成とし、第3に加熱容器で、チョコレート用油脂を加熱、溶解し、次に、辛味原料を投入し、さらに、加温・保持し、辛味成分をチョコレート用油脂に溶出させてなる辛味油脂を作り、前記辛味油脂に、チョコレート原料を投入し、撹拌混合し、ロール掛けし、型に絞り、冷却固化してなる辛味チョコレートの構成とし、第4に前記加温が、35℃〜180℃の範囲の加温であることを特徴とする辛味チョコレートの構成とし、第5に加熱容器で、チョコレート用油脂を加熱、溶解し、保持し、次に、辛味原料を投入し、さらに、35℃〜180℃に加温し、辛味成分をチョコレート用油脂に溶出させてなる辛味油脂を作り、前記辛味油脂に、チョコレート原料を投入し、撹拌混合し、ロール掛けし、型に絞り、冷却固化してなる辛味チョコレートの製造方法の構成とした。
【発明の効果】
【0015】
本発明である辛味チョコレートによれば、第1に、チョコレートの原料であるチョコレート用油脂で、直接辛味成分を抽出することで、チョコレートの粘度調整、成形性、風味安定性を損なうことがない。
【0016】
第2に、チョコレート成形に不向きな、酢、アルコール、他の液体油脂等を添加することなく、また辛味成分を固形として使用せず、辛味成分を均一に感じ、チョコレートと辛味成分との風味バランスが良好で、高カロリーなチョコレートであっても、脂肪吸収を抑制した風味良好な辛味チョコレートを提供することができる。
【0017】
第3に、辛味原料の加温温度・抽出時間・比率を適宜変更することで、辛味油脂の辛味を調整でき、焦げ臭のない、風味豊かな辛味成分が抽出され、濾すことにより、辛味原料の固形残渣がチョコレートに混入することなく、食感のよい辛味チョコレートが提供できる。
【0018】
第4に、ココアバターを含めチョコレート用油脂は、他の油脂に比して抗酸化性が高いことから、辛味成分を抽出するために、高温になっても、酸化臭の低い辛味チョコレートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明である辛味チョコレートは、加熱容器で、チョコレート用油脂を加熱、溶解し、保持し、次に、辛味原料を投入し、さらに、35℃〜180℃の範囲で、所定時間保持し、辛味成分をチョコレート用油脂に溶出させてなる辛味油脂を作り、前記辛味油脂に、チョコレート原料を投入し、撹拌混合し、ロール掛けし、型に絞り、冷却固化してなる辛味チョコレートの構成とすることによって実現した。
【0020】
以下、添付図面に基づいて、本発明である辛味チョコレートについて、詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明である辛味チョコレートに用いる辛味原料の配合組成の一例である。実施例1は、辛味成分として、乾燥した鷹の爪10重量部と、ココアバター70重量部を選択し、35℃で、1週間保持し、その後、辛味原料である鷹の爪を濾し、辛味成分が溶出した辛味油脂を作成する配合の一例である。なお、ここでは、示さないが、鷹の爪、ココアバターを同比率で、35℃で1日間、40℃で3日間、50℃で3日間また60℃で1週間加温・保持して辛味油脂を作成したが、その結果については、実施例1同様に風味・物性に優れた辛味チョコレートを製造することができた。
【実施例2】
【0022】
実施例2は、辛味原料として、鷹の爪の他、図中にある香味原料を選択した。抽出条件は、実施例1と同じである。
【0023】
比較例1は、実施例2と同一の辛味原料を使用し、ココアバターに代えて、同量の胡麻油によって、実施例2と同一の条件で辛味成分を抽出し、辛味油脂とした。
【0024】
図2は、本発明である辛味チョコレートの配合組成である。ここで、実施例、及び比較例は、図1で作成した辛味油脂に一致する。
【0025】
比較例1においては、胡麻油で辛味成分を抽出したことから、ココアバターを実施例1、2と同量になるように添加(7.0重量%)し、その量を硬化油脂から差し引いて、仕込み量を合わせた。その他辛味油脂以外の原料は、実施例1、2及び比較例1で同じにし、同一の条件でチョコレートを製造した。なお、チョコレートの製造方法は、定法に従った。
【0026】
また、辛味油脂以外のチョコレートの組成物は、ここに示した原料に限定されることなく、一般的にチョコレートに使用される原料であれば本発明である辛味チョコレートの原料として使用することができる。
【0027】
図3は、本発明と比較例との辛味成分の抽出条件と、風味、物性の比較結果である。風味は、辛さ、焦げ臭、およびチョコレートしての風味を熟練したパネラーが総合的に判断した結果である。○は良好、△は難点あり、×は不適格であることを意味する。
【0028】
物性は、チョコレートに成形し易さを熟練した技術者が目視により判定した結果、及び経時的結晶安定性を商品として成立するか否かで判定した結果である。○は良好、△は難点あり、×は不適格であることを意味する。
【0029】
比較試験の結果、実施例1、及び実施例2では、風味、物性ともに良好○であった。なお、辛さ、他の香味成分の多少は、消費者の好みであり、種々の辛さ、種々の香味原料を適宜選択し得るのは、勿論である。
【0030】
比較例1では、辛味成分の抽出に用いた油脂として、ラー油に一般に使用されている胡麻油を使用した。その結果、胡麻油の独特の香ばしさがチョコレート本来の風味を阻害してしまった。また、胡麻油が液体油であるため、チョコレートの成形性が悪くなってしまった。
【0031】
また、ここでは示さないが、さらに胡麻油の添加量を減少させていくと、当然胡麻油の風味は低減され風味が改善され、物性も改善されるが、チョコレートに辛味を付与するとする本来の目的を達し得なかった。
【0032】
比較例2は、実施例2において、辛味成分の抽出温度を70℃に設定し、1日間加温・保持したものである。風味は、油臭さが感じられ、やや問題△であった。物性は、問題なく良好○であった。なお、ここでは示さないがさらに高温(80℃)にして、長期間(1日)保持すると、ココアバターの酸化が進み、チョコレートに酸化臭が感じられ、風味が劣るものとなった。さらに、高温(100℃以上)にして、短時間で抽出することも可能であるが、焦げ臭の発生を防止するためなどの風味管理、高温での撹拌作業等、職人的な作業を要求される。
【0033】
比較例3は、実施例2において、辛味成分の抽出温度を30℃に設定し、7日間加温・保持したものである。風味は、低温であるためココアバターは固化し、当該温度で1週間保持しても、十分辛味成分が抽出されておらず、また辛味を付与する本発明の本来の目的を達成できなかったことから、不適格×であった。また抽出温度が融点以下であることから、作業性が悪かった。物性は、問題なく良好○である。なお、辛味原料を取り除くときは、一旦35℃に昇温し、ココアバターを溶解し、辛味原料を濾しとった。
【0034】
従って、抽出の油脂として使用できるチョコレート用油脂は、ココアバター、及びその代用植物油脂であって、融点20℃〜60℃で、室温で固形の油脂である。即ち、チョコレート用油脂には、ココアバター及びテンパリングタイプココアバター代用脂、ノーテンパリングタイプココアバター代用脂、ショートニングなどチョコレート原料として一般的に使用されている油脂、及びそれら2以上の混合物が含まれる。
【0035】
又、辛味原料とは、鷹の爪(唐辛子)を必須原料とし、その他、例えば、長ネギ、生姜、ニンニク、胡麻、陳皮、花椒、八角、シナモン等の香辛料であり、辛味、香りを有する主に植物であり、生、乾燥状態、粉末等の形状は特に限定されない。
【0036】
特に、鷹の爪(唐辛子)を必須とするのは、その辛味成分である、カプサイシンが脂肪の燃焼を促進するためであり、チョコレートとカプサイシンを合わせることで、チョコレートに含まれる脂肪を体内で燃焼させ、体脂肪の蓄積を抑えることができるからである。
【0037】
図4は、本発明と比較例との辛味成分の抽出温度・時間と、風味の比較結果である。なお、図中の抽出時間のwは1週間、mは分、sは秒を意味する。
【0038】
なお、風味の評価は、辛さ、焦げ臭、およびチョコレートしての風味を熟練したパネラーが総合的に判断した結果である。○は良好、×は不適格であることを意味する。
【実施例3】
【0039】
実施例3は、抽出温度180℃、抽出時間10秒とし、その他、組成、製造工程は実施例1と同一とした。
【0040】
比較例4は抽出温度180℃、抽出時間10分とし、比較例5は抽出温度30℃、抽出時間10秒とし、比較例6は抽出温度200℃、抽出時間10秒とし、それぞれその他の組成、製造工程は実施例1と原則同一とした。
【0041】
比較試験の結果、実施例1及び実施例3では、風味は良好○であった。180℃の高温であっても、短時間(10秒)であれば、辛味原料の焦げ臭を発生することがなく、良好な風味であった。他方、比較例4では、抽出温度180℃であっても10分と長時間の抽出を行ったため、焦げ臭が強く感じるチョコレートとなった。
【0042】
なお、辛さ、他の香味成分の多少は、消費者の好みであり、種々の辛さ、種々の香味原料を適宜選択し得るのは勿論である。
【0043】
比較例5では、ココアバターの融点付近の温度であるため、ペースト状で、辛味原料を濾すことが上手くできず、またそれによって作成された辛味油脂を用いても、十分辛味を満足することができるチョコレートにならなかった。
【0044】
比較例6では、例え10秒と短時間であっても、今回使用した、辛味原料においては、最終製品に焦げ臭を感じた。
【0045】
従って、辛味原料、使用油脂において、最適な抽出温度、抽出時間を適宜変更することができ、辛味成分の抽出条件は、本実施例に限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、本発明である辛味チョコレートに用いる辛味原料の配合組成の一例である。
【図2】本発明である辛味チョコレートの配合組成である。
【図3】本発明と比較例との辛味成分の抽出条件と、風味、物性の比較結果である。
【図4】本発明と比較例との辛味成分の抽出温度・時間と、風味の比較結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
辛味原料から辛味成分をチョコレート用油脂で直接抽出した辛味油脂を含む辛味チョコレート。
【請求項2】
チョコレート用油脂で直接抽出した辛味油脂が、チョコレート用油脂を加熱、溶解し、辛味原料を投入し、加温・保持し、香味原料を濾しとってなることを特徴とする請求項1に記載の辛味チョコレート。
【請求項3】
加熱容器で、チョコレート用油脂を加熱、溶解し、次に、辛味原料を投入し、さらに、加温・保持し、辛味成分をチョコレート用油脂に溶出させてなる辛味油脂を作り、前記辛味油脂に、チョコレート原料を投入し、撹拌混合し、ロール掛けし、型に絞り、冷却固化してなる辛味チョコレート。
【請求項4】
前記加温が、35℃〜180℃の範囲の加温であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の辛味チョコレート。
【請求項5】
加熱容器で、チョコレート用油脂を加熱、溶解し、保持し、次に、辛味原料を投入し、さらに、35℃〜180℃に加温し、所定時間保持し、辛味成分をチョコレート用油脂に溶出させてなる辛味油脂を作り、前記辛味油脂に、チョコレート原料を投入し、撹拌混合し、ロール掛けし、型に絞り、冷却固化してなる辛味チョコレートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−125382(P2008−125382A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311433(P2006−311433)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(391005569)東京フード株式会社 (6)
【Fターム(参考)】