説明

農作業機

【課題】履帯が圃場に沈み込むことを防止して旋回性を向上させる農作業機の提供を目的とする。
【解決手段】無端帯18に複数の履板19を固定して構成される履帯17を具備する農作業機において、履板19の屈曲部材19b・19bを履帯17の回転軌跡の内側にむけて屈曲させ、履帯17の回転軌跡の内側に、履帯17に動力を伝達する伝達ケース12を配置し、履板19の一端部が伝達ケース12の近傍を通過するように構成する。このように構成することで、農作業機を旋回させることで履帯17が圃場に対して機体の左右方向に横滑りしても履板19の屈曲部材19b・19bが圃場の泥土にくい込まないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作業機の技術に関する。詳しくは、農作業機の走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンバイン等の農作業機においては、走行時に機体が圃場に沈み込んだりスリップしたりすることを防止するために、複数の履板が無端帯に連結された履帯によって圃場を走行するようにした走行装置が知られている。このような農作業機の走行装置は、機体の前後方向に離間して配置される駆動スプロケットと従動輪(アイドラ)との間に履帯が巻回され、当該履帯を介して圃場に接地するように構成される。これにより、農作業機と圃場との接地面積を増大させて走行時の機体の沈み込みやスリップの発生を抑制するものである。例えば特許文献1の如くである。
【0003】
特許文献1の技術では、農場機械を旋回させる場合、機体の左右に設けられる履帯の速度差を利用する。つまり、農業機械は、履帯を圃場に対して機体の左右方向に横滑りさせることで旋回するように構成される。このため、圃場が軟弱な場合には、履板の端部が圃場の泥土にくい込むことで履帯の沈み込みが発生し、農業機械の旋回性が低下する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−29号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の如き課題を鑑みてなされたものであり、履帯が圃場に沈み込むことを防止して旋回性を向上させる農作業機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1においては、無端帯に複数の履板を固定して構成される履帯を具備する農作業機において、前記履板の両端部を前記履帯の回転軌跡の内側にむけて屈曲させたものである。
【0007】
請求項2においては、前記履帯の回転軌跡の内側に、前記履帯に動力を伝達する伝達ケースを配置し、前記履板の一端部が前記伝達ケースの近傍を通過するように構成したものである。
【0008】
請求項3においては、前記履板の両端部は、それぞれの端に向けて幅が狭くなる台形状に形成されるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0010】
請求項1の如く構成したので、農作業機を旋回させるために履帯が圃場に対して機体の左右方向に横滑りしても履板の両端部が圃場の泥土にくい込まない。従って、履帯が圃場に沈み込むことを防止して旋回性を向上させることができる。
【0011】
請求項2の如く構成したので、履板の一端部によって伝達ケースの上部に付着した泥土が払い落とされる。従って、伝達ケースの上部に泥土が堆積することを防止することができる。
【0012】
請求項3の如く構成したので、履帯が転輪(駆動スプロケット等)の周りを周回する際に、隣接する履板同士が干渉することがない。従って、転輪の直径が小さい農作業機に使用したり履板の両端部の屈曲長さを大きくしたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一実施形態に係る農作業機を示す全体側面図。
【図2】本発明の第一実施形態に係る農作業機を示す全体正面図。
【図3】本発明の第一実施形態に係る農作業機を示す全体後面図。
【図4】本発明の第一実施形態に係る農作業機の走行装置を示す側面図。
【図5】(a)本発明の第一実施形態に係る農作業機の走行装置における履板を示す側面図(b)本発明の第一実施形態に係る農作業機の走行装置における履板を示す下面図(c)本発明の第一実施形態に係る農作業機の走行装置における履板を示す斜視図。
【図6】本発明の第一実施形態に係る農作業機の走行装置の部分断面図。
【図7】本発明の第二実施形態に係る農作業機を示す全体後面図。
【図8】本発明の第二実施形態に係る農作業機の走行装置を示す側面図。
【図9】(a)本発明の第二実施形態に係る農作業機の走行装置における履板を示す側面図(b)本発明の第二実施形態に係る農作業機の走行装置における履板を示す下面図(c)本発明の第二実施形態に係る農作業機の走行装置における履板を示す斜視図。
【図10】(a)本発明の第二実施形態に係る農作業機の走行装置において駆動スプロケットを小さくした場合の部分側面図(b)本発明の第二実施形態における他の実施形態に係る農作業機の走行装置において履板の屈曲長さを長くした場合の部分側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る農作業機の実施の一形態であるコンバイン1について、図1から図4を用いて説明する。
【0015】
以下では、コンバイン1の全体的な構成について図1から図2を用いて説明する。なお、以下の説明では矢印F方向を前方向、矢印R方向を右方向、矢印U方向を上方向としてとして前後方向、左右方向、上下方向を規定する。
【0016】
農作業機であるコンバイン1は、稲や麦や蕎麦や小豆や大豆等の種々の収穫物を収穫するための汎用型のコンバインであり、本発明に係るコンバインの実施の一形態である。コンバイン1は、機体フレーム2、走行装置10、刈取装置20、脱穀装置31を収容した筐体30、操縦部40、サンバイザ43、エンジン55を収容したエンジンルーム50、グレンタンク60、揚穀装置90、排出オーガ65、及び籾取出口71・72等を具備して構成される。
【0017】
機体フレーム2は、コンバイン1の骨格を成すものである。機体フレーム2の下部は、走行装置10により支持されている。走行装置10は、左右一対の履帯17・17等を含んで構成される。
【0018】
機体フレーム2の前部には、圃場の未刈取の穀物を刈り取るための刈取装置20が具備される。刈取装置20は、往復動する刈刃等を備えて構成される。また、刈取装置20の前部には、未刈取の穀物を掻き込むための掻込リール22が具備される。
【0019】
機体フレーム2の左右一側(本実施形態では進行方向左側)には、筐体30が具備される。筐体30は、概ね直方体形状のケースである。筐体30内には脱穀装置31及び選別装置が収容される。脱穀装置31は、筐体30内の上部に配置され、扱胴等を備えて構成される。前記扱胴の下方には、受け網(またはコーンケーブ)が配置され、該受け網の下方には、前記選別装置が配置される。該選別装置は、揺動選別装置や唐箕等を備えて構成される。
【0020】
機体フレーム2の左右他側(本実施形態では進行方向右側)の前部には、操縦部40が設けられる。操縦部40には、オペレータが着座するための座席41や、コンバイン1の操向操作及び収穫作業に用いる種々の操作具等が備えられる。座席41の上方には、サンバイザ43が配置される。
【0021】
機体フレーム2の左右他側(本実施形態では進行方向右側)の後部には、エンジン55を収容したエンジンルーム50が設けられる。エンジンルーム50は、操縦部40の後方に配置される。エンジンルーム50は、筐体30の右後側方に隣接するように、該筐体30と横並びに設けられる。
【0022】
筐体30(脱穀装置31)及びエンジンルーム50の上方には、脱穀装置31で脱穀された後の穀粒を貯溜するグレンタンク60が配置される。グレンタンク60は、筐体30及びエンジンルーム50の上方に跨るように配置される。グレンタンク60の底部には、該グレンタンク60内の穀粒を排出オーガ65に送り出すための排出コンベアが設けられる。該排出コンベアは、ラセン羽根を有するコンベアであり、その長手方向を前後方向に向けた状態で設けられる。該排出コンベアの下流側の端部(後端部)は、排出オーガ65の上流側の端部に接続される。
【0023】
グレンタンク60の前後中央部には、脱穀装置31で脱穀されて前記選別装置で選別された後の一番穀粒をグレンタンク60内に送るための揚穀装置90が立設される。揚穀装置90は、機体フレーム2の左右略中央で筐体30の右側方に立設され、その長手方向を上下方向に向けた状態で設けられる。揚穀装置90の下端部は、前記選別装置の一番コンベアに連通し、揚穀装置90の上部はグレンタンク60内に連通している。揚穀装置90の揚穀筒(外郭を成す円筒状の部材)内には、ラセン羽根を有するコンベアが備えられていて、前記一番コンベアからの穀粒を上方に向かって送り出しグレンタンク60内に搬入することができるように構成されている。
【0024】
排出オーガ65は、グレンタンク60内の穀粒を機外に排出するためのものであり、円筒状の部材の内部にラセン羽根を有するコンベアを備えて構成される。排出オーガ65は、グレンタンク60の後部と連通するように設けられ、オーガレスト67により下方から支持されている。
【0025】
籾取出口71・72は、グレンタンク60内の穀粒を、排出オーガ65を通さずに機外に排出するためのものである。籾取出口71・72の下方に籾袋A・Aをセットすることにより、該籾袋A・Aに穀粒を直接取り出すことができる。
【0026】
以上の如き構成のコンバイン1は、操縦部40での操作具の操作に応じて、エンジン55の動力を各部の装置に伝達して、走行装置10で機体を走行させながら、刈取作業及び脱穀作業を行うことができるものである。より具体的には、掻込リール22により掻きこまれて刈取装置20で刈り取られた穀物は、搬送装置25によって筐体30内に搬送される。そして、筐体30内の脱穀装置31で脱穀されて、前記選別装置で藁屑等と選別される。藁屑等と選別された一番穀粒は、揚穀装置90の前記揚穀筒内を通ってグレンタンク60内に搬入される。グレンタンク60内の穀粒は、排出オーガ65を通してダンプトラックの荷台等に排出されるか、あるいは、籾取出口71・72を通して籾袋A・Aに排出される。
【0027】
次に、図3及び図4を用いて第一実施形態に係る走行装置10について説明する。
【0028】
走行装置10は、エンジン55からの動力によってコンバイン1を走行させるものである。走行装置10は、履帯式の走行装置10であり、走行フレーム11、左右一対の伝達ケース12・12、左右一対の駆動スプロケット13・13、左右一対のアイドラ14・14、複数の上部ローラー16a・16a・・と下部ローラー16b・16b・・、左右一対の履帯17・17等を具備する。
【0029】
図3及び図4に示すように、走行フレーム11は、走行装置10の骨格を成すものである。走行フレーム11は、前後一対の連結フレーム11a・11aと左右一対の履帯フレーム11b・11bとから構成される。連結フレーム11aは、機体フレーム2の前方と後方とにそれぞれ配置される。連結フレーム11aは、長手方向を左右に向けてその中央部分が機体フレーム2に連結される。左右一対の履帯フレーム11b・11bは、機体フレーム2の左方と右方とにそれぞれ配置される。履帯フレーム11bは、長手方向を前後に向けて前後一対の連結フレーム11aの左側端と右側端とにそれぞれ連結される。
【0030】
左右一対の伝達ケース12・12は、駆動スプロケット13を回転自在に支持するとともに、エンジン55の動力を伝達するものである。左側の伝達ケース12は、後方の連結フレーム11aの左側端部に出力軸を左方に向けて配置され、右側の伝達ケース12は、後方の連結フレーム11aの右側端部に出力軸を右方に向けて配置される。左右一対の伝達ケース12・12の出力軸は、エンジン55から伝達される動力によって回転可能に構成される。左右一対の伝達ケース12・12の出力軸には、駆動スプロケット13がそれぞれ連結される。つまり、左右一対の伝達ケース12は、駆動スプロケット13を回転自在に支持するとともに、エンジン55の動力を駆動スプロケット13に伝達するように構成される。
【0031】
左右一対の駆動スプロケット13・13は、無端帯18(履帯17)を駆動するものである。左右一対の駆動スプロケット13・13は、左右一対の伝達ケース12・12の出力軸にそれぞれ連結固定されて回転可能に支持される。そして、左右一対の駆動スプロケット13・13には、後述の無端帯18がそれぞれ係合されて巻回される。これにより、左右一対の駆動スプロケット13は、左右一対の履帯フレーム11bの後端部においてエンジン55からの動力を駆動力として無端帯18に伝達するように構成される。
【0032】
左右一対のアイドラ14・14は、無端帯18(履帯17)に所定の張力を付加するものである。アイドラ14・14は、左右一対の履帯フレーム11b・11bにそれぞれ設けられるアイドラホーク15・15に回転軸を左右方向として回転自在に支持される。そして、左右一対のアイドラ14・14には、後述の無端帯18がそれぞれ巻回される。ここで、アイドラ14を支持するアイドラホーク15は、前後方向へ移動自在に構成されるとともに、図示しないばね等によって前方に付勢される。つまり、アイドラ14は、アイドラホーク15によって前方に向けて付勢されるように構成される。これにより、左右一対のアイドラ14・14は、左右一対の履帯フレーム11b・11bの前端部において無端帯18に所定の張力を付加するように構成される。
【0033】
複数の上部ローラー16a及び下部ローラー16b・16b・・は、無端帯18(履帯17)を支持及び案内するものである。上部ローラー16aは、左右一対の履帯フレーム11b・11bの上方であって、上部ローラー16aの上方の外周面(転動面)が無端帯18の通過位置(回転軌跡)と重複するようにそれぞれ配置される。下部ローラー16b・16b・・は、左右一対の履帯フレーム11b・11bの下方であって、下部ローラー16b・16b・・の下方の外周面(転動面)が無端帯18の通過位置(回転軌跡)と重複するようにそれぞれ配置される。
【0034】
上部ローラー16a及び下部ローラー16b・16b・・は、左右一対の履帯フレーム11bに回転自在に支持される。そして、上部ローラー16a及び下部ローラー16b・16b・・には、後述の無端帯18がそれぞれ係合される。これにより、上部ローラー16a及び下部ローラー16b・16b・・は、無端帯18を支持するとともに、無端帯18が駆動スプロケット13やアイドラ14から外れないように案内している。本実施形態において、上部ローラー16aは単数、下部ローラー16b・16b・・は複数としたがこれに限定されるものではなく、無端帯18を支持、案内可能な構成であればよい。
【0035】
左右一対の履帯17・17は、駆動力を圃場に伝達するものである。左右一対の履帯17・17は、主に無端帯18と複数の履板19・19・・とから構成される。無端帯18は、ローラーチェンから構成され、端部を有しない円環状に形成される。無端帯18を構成するローラーチェンの各リンク18a・18a・・には、圃場に接地される金属製の複数の履板19・19・・がボルト等によって連結される(図5参照)。つまり、履帯17は、複数の履板19・19・・が隣接するようにして無端帯18に配置されて構成される。
【0036】
左右一対の履帯17・17は、履帯フレーム11bの前方のアイドラ14と履帯フレーム11bの後方の駆動スプロケット13との間に巻回される。こうして、左右一対の履帯17・17は、駆動スプロケット13からの駆動力によってアイドラ14と駆動スプロケット13とに巻回された状態で回転可能に構成される。また、左右一対の履帯17・17は、途中部を上部ローラー16aと下部ローラー16bとに支持及び案内される。さらに、左右一対の履帯17・17は、左右一対のアイドラ14による前方への付勢力によって所定の張力が付加される。従って、左右一対の履帯17・17は、下部ローラー16bと下部ローラー16bとに支持及び案内されることよって適切に圃場と接地することができるとともに、左右一対のアイドラ14の付勢力によって駆動力が伝達されてもたるみの発生を抑制することができる。なお、本実施形態において無端帯18はローラーチェンから構成され、履板19は金属製としたが、これに限定するものでない。
【0037】
上述の通り、走行装置10は、エンジン55からの動力を左右一対の伝達ケース12・12から左右一対の駆動スプロケット13・13を介して左右一対の履帯17・17に伝達可能に構成される。また、走行装置10は、履帯17をアイドラ14や上部ローラー16a及び下部ローラー16bによって支持及び案内することで、履板19が適切に接地されるように構成されている。これにより、走行装置10は、コンバイン1が圃場において機体の沈み込みやスリップの発生を抑制して走行することができるようにしている。
【0038】
次に、図4及び図5を用いて、履板19について具体的に説明する。
【0039】
図5に示すように、履板19は、略長方形状の板状部材19a、屈曲部材19b、及びリブ19cから構成される。
【0040】
板状部材19aは、履板19の主たる構造部材である。板状部材19aは、その長辺部を左右方向にして一方の板面が無端帯18に密接するように連結される。履板19の他方の板面は、接地面として圃場との摩擦力を向上させるための突起が複数形成される。
【0041】
屈曲部材19b・19bは、履板19の圃場への沈み込みを防止するものである。板状部材19aの左右方向の両端部に溶接等によって固定される。屈曲部材19b・19bの反固定側(履板19における左右外側)は、履帯17の回転軌跡の内側にむけて圃場から屈曲部材19b・19bの先端までの高さを屈曲高さHとして屈曲される。つまり、履板19は、接地面が圃場に接地されている場合に、屈曲部材19b・19bが圃場から屈曲高さHだけ離間するように構成される。この際、屈曲高さHをおよそ20mmから35mm程度の間で設定することで湿田及び乾田を走行するために好適な形状の履板19とすることができる。板状部材19aの一方の板面(反接地面側)には、補強のためにリブ19c・19cが板状部材19aと屈曲部材19bとに渡って溶接等により左右両側に固定される。
【0042】
図4に示すように、このような履板19が複数連結されて構成される履帯17は、駆動スプロケット13に巻回されている。駆動スプロケット13は、伝達ケース12によって回転自在に支持されているため、伝達ケース12の一部は、履帯17の回転軌跡の内側に配置されている。従って、履帯17を構成する履板19の一方の屈曲部材19bは、伝達ケース12の近傍を通過する。つまり、履板19は、伝達ケース12の上部を通過する場合に、一方の屈曲部材19bが伝達ケース12に近接するように構成される。
【0043】
次に、図6を用いて、第一実施形態に係るコンバイン1の圃場における走行時の態様について説明する。
【0044】
コンバイン1が圃場を直進走行する場合、走行装置10の駆動力は、履帯17を構成する複数の履板19を介して圃場に伝達される。この際、複数の履板19が同時に圃場に接地されているので圃場と履帯17との接地面積を大きくすることができる。従って、軟弱な圃場においてもコンバイン1が圃場に沈み込むことなく走行装置10の駆動力からの駆動力を確実に圃場に伝達することができる。
【0045】
コンバイン1が圃場を旋回走行する場合、走行装置10の履帯17は、左右方向に横滑りしながら旋回する。この際、履帯17は、履板19の両端部に固定された屈曲部材19b・19bによって圃場の泥土の上に乗り上げるように横滑りする。つまり、履板19は正面視で舟底形状となるため、左右方向に横滑りする時に履板19が圃場の泥土にくい込むことを防止して履帯17の沈み込みを抑制することができる。また、履板19に付着した圃場の泥土が履帯17の回転に伴って持ち上げられて伝達ケース12の上部に付着しても、伝達ケース12の上部近傍を通過する履板19の一方の屈曲部材19bによって払い落とすことができる。
【0046】
以上の如く、無端帯18に複数の履板19を固定して構成される履帯17を具備する農作業機であるコンバイン1において、履板19の両端部である屈曲部材19b・19bを履帯17の回転軌跡の内側にむけて屈曲させたものである。
このように構成することで、農作業機を旋回させるために履帯17が圃場に対して機体の左右方向に横滑りしても、履板19の屈曲部材19b・19bが圃場の泥土にくい込まない。従って、履帯17が圃場に沈み込むことを防止して旋回性を向上させることができる。
【0047】
また、履帯17の回転軌跡の内側に、履帯17に動力を伝達する伝達ケース12を配置し、履板19の一端部である屈曲部材19bが伝達ケース12の近傍を通過するように構成したものである。
このように構成することで、履板19の一端部である屈曲部材19bによって伝達ケース12の上部に付着した泥土が払い落とされる。従って、伝達ケース12の上部に泥土が堆積することを防止することができる。
【0048】
次に、図7から図9を用いて、本発明の第二実施形態に係るコンバイン1について説明する。
以下では、第一実施形態に係るコンバイン1と異なる点についてのみ説明し、コンバイン1と略同一の構成の部材には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0049】
図7及び図8に示すように、左右一対の履帯117・117は、駆動力を圃場に伝達するものである。左右一対の履帯117は、主に無端帯18と複数の履板119・119・・とから構成される。無端帯18は、ローラーチェンから構成され、端部を有しない円環状に形成される。無端帯18を構成するローラーチェンの各リンク18a・18a・・には、圃場に接地される金属製の複数の履板119・119・・がボルト等によって連結される(図9参照)。つまり、左右一対の履帯117は、複数の履板119・119・・が隣接するようにして無端帯18に配置されて構成される。なお、本実施形態において無端帯18はローラーチェンから構成され、履板119は金属製としたが、これに限定するものでない。
【0050】
次に、図9を用いて、履板119について具体的に説明する。
【0051】
図9に示すように、履板119は、略長方形状の板状部材119a、屈曲部材119b、及びリブ119cから構成される。
【0052】
板状部材119aは、履板119の主たる構造部材である。板状部材119aは、その長辺部を左右方向にして一方の板面が無端帯18に密接するように連結される。履板119の他方の板面は、接地面として圃場との摩擦力を向上させるための突起が複数形成される。
【0053】
屈曲部材119b・119bは、履板119の圃場への沈み込みを防止するものである。板状部材119aの左右方向の両端部に溶接等によって固定される。屈曲部材119b・119bの反固定側(履板119における左右外側)は、履帯117の回転軌跡の内側にむけて圃場から屈曲部材119b・119bの先端までの高さを屈曲高さHとして屈曲される。つまり、履板119は、接地面が圃場に接地されている場合に、屈曲部材119b・119bが圃場から屈曲高さHだけ離間するように構成される(図6参照)。この際、屈曲高さHをおよそ20mmから35mm程度の間で設定することで湿田及び乾田を走行するために好適な形状の履板119とすることができる。
【0054】
さらに、履板119の右側に固定される屈曲部材119bは、右側に向けて幅が狭くなる台形状に形成される。同様に、履板119の左側に固定される屈曲部材119bは、左側に向けて幅が狭くなる台形状に形成される。つまり、履板119は、両端に向かうにつれて隣接する屈曲部材119b同士の間隔dが大きくなるように構成される。板状部材119aの一方の板面(反接地面側)には、補強のためにリブ119c・119cが板状部材119aと屈曲部材119bとに渡って溶接等により左右両側に固定される。
【0055】
次に、図10を用いて、第二実施形態に係るコンバイン1の駆動スプロケット113(又はアイドラ14)に巻回される履帯117の態様について説明する。
【0056】
図10(a)に示すように、駆動スプロケット13(又はアイドラ14)の直径Dを直径D1まで小さくした駆動スプロケット113に係合される場合、駆動スプロケット113に巻回されている履帯117の部分の曲率が大きくなる。従って、駆動スプロケット113の直径D1が小さくなるにつれて、駆動スプロケット113に巻回されている履帯117の部分において隣接する履板119の屈曲部材119b同士が近接する。しかし、隣接する履板119の屈曲部材119b・119bの間隔d1が予め大きく構成されているため隣接する履板119同士の干渉を防止することができる。
【0057】
履帯117の別実施形態として、図10(b)に示すように、無端帯18に履板119の屈曲部材119b・119bの屈曲長さL(図9参照)がより長い屈曲長さL1にされた履板119を連結する場合、駆動スプロケット13(又はアイドラ14)に巻回されている履帯117の部分において隣接する履板119の屈曲部材119b同士は近接する。しかし、屈曲部材119bは、屈曲長さL1が長くされることに伴って屈曲部材119bの端部の幅がより狭くなる。従って、隣接する履板119の屈曲部材119b同士の間隔d2が大きく構成されるため隣接する履板119同士の干渉を防止することができる。
【0058】
以上の如く、履板119の屈曲部材119b・119bは、それぞれの屈曲部材119bの端に向けて幅が狭くなる台形状に形成されるものである。
このように構成することで、履帯117が転輪である駆動スプロケット13等を周回する際に、隣接する履板119同士が干渉することがない。従って、駆動スプロケット13等の直径Dが小さい農作業機に使用したり履板119の屈曲長さLを大きくしたりすることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 農作業機
17 履帯
18 無端帯
19 履板
19b 屈曲部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端帯に複数の履板を固定して構成される履帯を具備する農作業機において、
前記履板の両端部を前記履帯の回転軌跡の内側にむけて屈曲させた農作業機。
【請求項2】
前記履帯の回転軌跡の内側に、前記履帯に動力を伝達する伝達ケースを配置し、
前記履板の一端部が前記伝達ケースの近傍を通過するように構成した請求項1に記載の農作業機。
【請求項3】
前記履板の両端部は、それぞれの端に向けて幅が狭くなる台形状に形成される請求項1または請求項2に記載の農作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−187942(P2012−187942A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50615(P2011−50615)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)