説明

農作物の栽培、収穫、調整方法

【課題】 ラッキョウ等の鱗茎菜の収穫・調整作業を正確且つ安全に行うことができると共に、大幅な省力化を可能とする方法を提供する。
【解決手段】
土壌中にネット20を敷設し、その上に種ラッキョウを植え付けて生育させる。このとき、鱗茎30から伸長した根31はネット20の目を通過して地中に広がるが、分球・生育した鱗茎部30はネット20の目を通過できないため、ネット20の下面にはラッキョウの根部31が、上面には鱗茎部30が位置する。生育したラッキョウは自身の根31によってネット20に固定されているため、ネット20を土壌から引き上げることで容易に収穫することができる。収穫されたラッキョウを、ネット20に固定された状態のままで調整装置に導入し、ネット面から所定の距離離れた位置に設けられた回転刃47a、42aによって鱗茎部30から茎葉部32・根部31を切除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物、特にラッキョウ等の鱗茎菜の収穫、調整作業を大幅に省力化することのできる農作物の栽培、収穫、調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鱗茎菜、中でもラッキョウの栽培期間は概ね半年に亘るが、植え付け、栽培管理、収穫、調整作業等の一連の行程において、収穫と調整作業の占める割合が全作業時間の概ね2/3を占めている。更に、この収穫・調整作業は栽培期間の最後の時期に集中するため、農家一軒当たりの生産量を制限する最大の要因になっており、旧来より収穫・調整作業の省力化が強く望まれている。
【0003】
調整作業とは、主に収穫されたラッキョウ等から根と茎葉を切除する作業であり、旧来は刃物を固定した冶具を使用し、作業者が対象物を刃物に押し当てて切除するなど、人力による作業が行われていた。
【0004】
しかし、近年農家の高齢化や作業者不足から農作業の省力化に対する要望が強くなっており、移植機、収穫機、調整機等の省力化機器が開発・販売されている。例えば、特許文献1には、「ラッキョウ移植機」に関する記載がある。また、特許文献2には「鱗茎菜類調製機」に関する記載がある。
【0005】
【特許文献1】特開平08-000012号公報
【特許文献2】特開2002-247974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような省力化機器を用いた場合であっても、最も手間の掛かる調整作業においては、処理対象物を一塊ずつ手動で調整機に供給する必要があり、習熟した作業者が手作業で調整を行う場合に比べて、同等もしくはそれよりも劣る結果しか得られなかった。また、形状の一定しない対象物を正確に固定することは困難であったため、根や茎葉の切断位置が一定せず、安定した品質が得られないという問題があった。また、更に、刃物やチェーンなどの人体に危害を与えるおそれのある機械要素が人体に近接して配置されるなどの安全上の問題も指摘されていた。このため、従来の調整装置の多くが普及するに至っておらず、殆どの農家で旧来通り人手による調整作業が行われていた。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、鱗茎菜等の農作物の生産において、最も労力を要する収穫・調整作業を正確且つ安全に行うことができると共に、大幅な省力化を可能とする農作物の栽培、収穫、調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明の第1の態様に係る農作物の栽培、収穫、調整方法は、a)土壌中にネットを敷設し、該ネット上に農作物を植え付けて生育させる栽培行程と、b)伸長した根によって前記ネットに固定された農作物を、該ネットを土壌から引き上げることによって収穫する収穫行程と、c)前記ネットに固定された状態の農作物から根部及び/又は茎葉部を切除する調整行程とを有することを特徴とする。
【0009】
ここで、上記調整行程は、収穫行程が完了した後で行うようにしてもよく、収穫行程と同時に行うようにしてもよい。また、上記調整行程の内、茎葉部の切除については収穫行程の前に行うこともできる。
【0010】
なお、本発明の農作物の栽培、収穫、調整方法は、特にラッキョウ等の鱗茎菜の栽培、収穫、調整に好適に用いることができる。
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明の第2の態様に係る農作物調整装置は、a)ネット上で栽培され、該ネットに固定された状態で収穫された農作物の根部及び/又は茎葉部を、該ネット面から所定の距離だけ離れた位置で切除する切除手段と、b)前記農作物を該ネットごと前記切除手段に連続的に導入する導入手段とを有することを特徴とする。
【0012】
ここで、上記切除手段はネット面のどちらか一方の側のみに設けてもよく、あるいはネット面の両側に設けてもよい。農作物の根部を切除する場合には、上記切除手段を農作物の根部が存在する側(即ち、栽培時に下になっていた側)に設け、茎葉部を切除する場合には、農作物本体(根部以外の部分)が存在する側(即ち、栽培時に上になっていた側)に設ける。また、茎葉部と根部の両方を切除する場合には、ネット面の両側に上記切除手段を設ける。
【発明の効果】
【0013】
上記のような本発明の第1の態様に係る農作物の栽培、収穫、調整方法によれば、これまで主に人手によって行われ、全作業時間の2/3を占めていた収穫・調整作業を容易に機械化することが可能となり、飛躍的な省力化を実現することができる。これにより、栽培面積の大幅な拡大が可能となり、ひいてはラッキョウ等の鱗茎菜を安価に提供できるようになる。
【0014】
更に、本発明の第2の態様に係る農作物の調整装置によれば、ネットに固定された農作物に対し、該ネット面から所定の距離離れた位置で根部及び/又は茎葉部の切除を行うことにより、正確に根や茎葉の切除位置を決定することができるため、品質の安定性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の農作物の栽培、収穫、調整方法においては、農作物、特にラッキョウ等の鱗茎菜を植え付ける際に、圃場の適当な深さにネットを埋設し、その上に農作物を植え付けて栽培する。ここで、埋設するネットの目を適切な大きさとすることにより、農作物の根はネットの目を通過して地中に広がるが、農作物本体(鱗茎)はネットの上側に繁殖するため、ネットを境として下方に根が、上方に収穫対象の農作物本体が生育することになる。
【0016】
このように、ネットの目を通過した根によって農作物はネットに固定された状態となるため、収穫時には畝の端からネットを引き上げるように持ち上げることで、ネットと共に農作物を収穫することができる。
【0017】
ラッキョウなどの鱗茎菜の場合、調整作業は根部の切除と茎葉部の切除とに二分されるが、茎葉部については、収穫前に鎌やエンジン式の刈払い機等によって除去する方法と、収穫時に収穫機に設けられた切除機構によって除去する方法がある。更に、収穫は茎葉部+鱗茎部+根部の全草状態で行い、収穫後に別途設けた調整装置によって根部と茎葉部とを除去するようにしてもよい。また、根部については、収穫時に収穫機に設けられた切除機構によって切除する方法と、全草状態あるいは茎葉部を除去した状態で収穫を行い、収穫後に別途設けた調整装置によって切除する方法がある。
【0018】
本発明に係る農作物の調整装置は、ネットに固定された状態の農作物から根部及び/又は茎葉部を切除するものであり、上記のように収穫機と別体に設けてもよく、収穫機と一体に構成されたものとしてもよい。本発明に係る農作物の調整装置によれば、上記いずれの方法で調整を行う場合であっても、農作物が自身の根によってネットに固定されているため、導入手段によってネットを搬送するだけで、対象物を連続して切除手段に供給することができる。従って、人手を必要とせず、更に、根部及び/又は茎葉部を切除する際に、ネット面から所定の距離離れた位置で切断を行うため、画像処理装置などの複雑で高価な設備を使用することなく、正確且つ高速な処理を行うことが可能となる。
【実施例1】
【0019】
本発明に係る農作物の栽培、収穫、調整方法をラッキョウの生産に適用した例について説明する。図1は、種ラッキョウ(鱗茎)30を植え付けた直後の畝10を示す短手方向断面図である。植え付けの際には、畝10の適当な深さに、株幅と同程度又はそれよりもやや大きな幅を有するネット20を埋設し、その上に種ラッキョウ30を植え付ける。なお、ネット20を埋設する深さは、栽培する農作物の使用目的や品種によって最適値が変化するため、農作物の品種に応じた規定の植え付け深さを基準に決定する。
【0020】
ネット20は、ラッキョウの根の通過・進展を妨げず、且つ鱗茎部が通過できない程度の大きさの編み目を有するものを使用する。更に、収穫・調整作業の応力に耐えられる強度を有するものを用いることが望ましい。例えば、複数年繰り返して使用する場合には、合成樹脂から成り、編み目の大きさが2mm〜10mm程度であって、収穫時の応力に耐えうる強度を有するネットを使用することが望ましい。一方、単年度で使い捨てる場合には、ネット20として、根が容易に通過できる程度に織り目の粗い不織布や、木綿糸を編んだネット等を用いることもできる。
【0021】
なお、図1では、圃場に畝10を設け、一つの畝10にラッキョウを2条植えした場合を示したが、畝の有無及び条数はこれに限定されるものではない。また、図1では、株幅と同程度の幅を有するネット20を使用し、該ネット20を条ごとに独立して埋設する例を示したが、複数条に相当する幅を有するネットを使用して、一枚のネットに複数条分の植え付けを行うようにしてもよい。
【0022】
図2は、図1の畝10において、ネット20上に植え付けられた種ラッキョウ30が生育した状態を示しており、当初植え付けた1球の鱗茎が5〜20球程度に分球している。また、生育過程で鱗茎30の下部から生じた根がネット20の編み目を通過して地中に伸長しており、ネット20を境界に下側に根部31、上側に収穫対象となる鱗茎部30が位置した状態となっている。また、鱗茎部30の上方からは茎葉部32が伸長している。
【0023】
本実施例においては、収穫作業を行う前に、予め、鎌やエンジン式の刈払い機などを用いて茎葉部32を除去しておく(図3)。図4は、本実施例における収穫の原理を示す図である。生育したラッキョウは、上述のように、自身の根によってネット20に固定された状態となっているため、ネット20の一端を引き上げることで、容易に収穫することができる。
【0024】
なお、ネット20として十分な引っ張り強度を有するものを使用した場合には、ネット20を上方に引き上げるだけでラッキョウを収穫することができるが、不織布や引っ張り強度の不十分なネットを使用した場合には、収穫中にネットが破損するおそれがある。そのため、このような場合には、一般に鱗茎菜や根菜類の収穫時に行われる浮かし掘りのように、対象物の下に鋤状の金具を差し入れ、振動を与えたり掘り起こしたりする動作を併用しつつネット20の引き上げを行うことで、ネット20に強い応力を与えることなく収穫することが望ましい。
【0025】
続いて、収穫後のラッキョウの調整作業について説明する。図5は、予め茎葉部32を除去した状態で収穫されたラッキョウから根部を切除し、ネット20から分離させる調整装置の一例である。該調整装置にはネット20を搬送するためのローラ41a、41bが設けられており、上記収穫作業によって圃場から引き上げられたネット20がローラ41a、41bの作用によって調整装置に導入される。
【0026】
この調整装置には、ネット20の下面から所定の距離離れた位置に設けられた回転刃42aと回転刃42aを駆動するためのモータ42b(又はエンジン)から成る根部切除機構42が設けられている。ネット20と共に畑から引き上げられたラッキョウは、上記ローラ41a、41bによって搬送される過程で、ネット面に対して略平行に配置された回転刃42aによって根部31を切除される。このとき切除された根部31は、回転刃42aの下方に設けられた根部収容箱43に収容される。
【0027】
ネット20は更に方向を変えて下方へと搬送されるが、このとき既に根部切除機構42によって根が切除されているため、ネット20と鱗茎部30とは容易に分離できる状態となっている。そのため、茎葉部32及び根部31が切除された鱗茎部30(図7)は、振動によって自然にネット20から分離して鱗茎部収容箱44に落下・収容され、ネット20はネット収容箱45に収容される。なお、鱗茎部30をより確実にネット20から分離させるため、ネット20の進行方向に棒状の分離機構46を設け、鱗茎の移動を妨げるようにすることがより望ましい。
【0028】
なお、上記鱗茎部収容箱44及び/又は根部収容箱43の代わりに、ベルトコンベア等から成る鱗茎部排出機構及び/又は根部排出機構を設け、該ベルトコンベアによって鱗茎部や根部を調整装置の外に排出する構成としてもよい。
【実施例2】
【0029】
図6は、実施例1における調整装置(図5)に茎葉部切除機構47を追加した例を示す概略構成図である。なお、実施例1のものと同一又は対応する構成については同一符号を付し適宜説明を省略する。茎葉部切除機構47はモータ47b(又はエンジン)により回転駆動される回転刃47aを有しており、該回転刃47aはネット20の上面から所定の距離離れた位置に、ネット面と略平行になるように配設されている。このような調整装置を用いる場合には、収穫前に、上述のような鎌や刈払い機などによる茎葉部32の切除作業を行う必要はなく、茎葉部32・鱗茎部30・根部31を備えた全草状態で収穫を行う。収穫されたラッキョウは、ネット20と共に調整装置に導入され、最初に茎葉部切除機構47により茎葉部32を切除される。その後は、上記実施例1と同様に、根部切除機構42により根部31が切除され、ネット20から分離された鱗茎部30(図7)が鱗茎部収容箱44に収容される。
【0030】
以上、実施例を用いて本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更が許容されるものである。例えば、上述のように複数条幅のネットを使用する方式においては、ネットの幅方向に複数の鱗茎菜が並んだ状態で収穫されるため、調整装置には根部切除機構及び/又は茎葉部切除機構を条数に合わせて複数設ける必要がある。
【0031】
また、上記実施例では、調整装置はネットを圃場から引き上げるための収穫機とは別体に設けられたものとしたが、調整装置を収穫機の一部として構築し、一台の装置で農作物の収穫・調整の両方を行うものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施例における種ラッキョウの植え付け直後の畝を示す短手方向断面図。
【図2】同実施例におけるラッキョウの収穫前の状態を示す図であり、(a)は畝の短手方向断面図、(b)は長手方向断面図である。
【図3】同実施例において収穫前に茎葉部を切除した状態を示す畝の長手方向断面図。
【図4】同実施例におけるラッキョウの収穫原理を説明する図。
【図5】同実施例における調整装置の構成を示す概略図。
【図6】本発明の第2の実施例における調整装置の構成を示す図。
【図7】調整後のラッキョウの形態を示す図。
【符号の説明】
【0033】
10…畝
20…ネット
30…鱗茎部
31…根部
32…茎葉部
41a、41b…ローラ
42…根部切除機構
42a…回転刃
42b…モータ
43…根部収容箱
44…鱗茎部収容箱
45…ネット収容箱
46…分離機構
47…茎葉部切除機構
47a…回転刃
47b…モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)土壌中にネットを敷設し、該ネット上に農作物を植え付けて生育させる栽培行程と、
b)伸長した根によって前記ネットに固定された農作物を、該ネットを土壌から引き上げることによって収穫する収穫行程と、
c)前記ネットに固定された状態の農作物から根部及び/又は茎葉部を切除する調整行程と、
を有することを特徴とする農作物の栽培、収穫、調整方法。
【請求項2】
上記農作物が鱗茎菜であることを特徴とする請求項1に記載の農作物の栽培、収穫、調整方法。
【請求項3】
a)ネット上で栽培され、該ネットに固定された状態で収穫された農作物の根部及び/又は茎葉部を、該ネット面から所定の距離だけ離れた位置で切除する切除手段と、
b)前記農作物を該ネットごと前記切除手段に連続的に導入する導入手段と、
を有することを特徴とする農作物調整装置。
【請求項4】
上記農作物が鱗茎菜であることを特徴とする請求項3に記載の農作物調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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