説明

農業ハウス及び農業ハウス用照明器具

【課題】農業ハウス及びそれに用いられる農業ハウス用照明器具において、受粉用昆虫が飛翔方向を正確に認識できるよう圃場内に紫外線を照射し、受粉用昆虫による農作物の受粉を円滑に行うようにする。
【解決手段】農業ハウス1は、受粉用昆虫Iが放散される圃場2を覆うものであって、圃場空間を形成する紫外線遮断性の被覆フィルム3と、圃場2に向けて偏光された紫外線を照射する複数の照明器具4とを備える。また、農業ハウス1は、各照明器具4による偏光された紫外線の配光状態を、任意の時刻における天空の偏光パターンが圃場2内で再現されるように制御する制御手段とを備える。圃場2内において天空の偏光パターンと同等の配光状態を実現し、受粉用昆虫Iに対して紫外線偏光を複数方向から視認させることにより、受粉用昆虫Iに方向認識を的確に行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受粉用昆虫が放散される圃場を覆う農業ハウス、及びそれに用いられる農業ハウス用照明器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の農業ハウスにおいては、圃場での害虫発生や農作物の病害発生を防止するために、太陽光に含まれる紫外線を遮蔽することが知られている。ところで、受粉用昆虫の多く(例えば、ミツバチ)は、太陽光に含まれる紫外線偏光を感知することにより、太陽の位置を認識し、飛翔する方向を決定する特性を有している。そこで、このような農業ハウスにおいて、農作物の受粉を行うときにだけ、ハウス内で紫外線発光体を発光させ、受粉用昆虫に受粉活動を行わせる構成がある(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−124534号公報
【特許文献2】特開平7−23668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来の構成では、圃場内において太陽光による天空の偏光パターンと同様の配光状態を実現できないために、受粉用昆虫は飛翔方向の認識が困難となり、農作物の受粉を効果的に行えないことがある。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、受粉用昆虫が飛翔方向を正確に認識できるよう圃場内に紫外線を照射し、受粉用昆虫による農作物の受粉を円滑に行うことができる農業ハウス、及びそれに用いられる農業ハウス用照明器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、圃場を紫外線遮断性の被覆フィルムにより覆う農業ハウスにおいて、圃場に向けて偏光された紫外線を照射する複数の照明器具と、前記照明器具による偏光された紫外線の配光状態を、任意の時刻における天空の偏光パターンが圃場内で再現されるように制御する制御手段と、を備えたものである。
【0007】
請求項2の発明は、圃場を紫外線遮断性の被覆フィルムにより覆う農業ハウスに用いられる農業ハウス用照明器具であって、紫外線を含む光を出射する光源と、前記光源からの出射光を直線偏光に変換し圃場に向けて配光する偏光子と、前記偏光子による偏光された紫外線の配光状態を、任意の時刻における天空の偏光状態が圃場内で再現されるように制御する制御手段と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、各照明器具からの偏光された紫外線を配光制御し、圃場内において天空の偏光パターンと同等の配光状態を実現するので、受粉用昆虫に対して紫外線偏光を複数方向から視認させることができ、その結果、受粉用昆虫は方向認識を的確に行い、圃場内にある農作物や巣箱に向かって正確に飛翔することができる。従って、受粉用昆虫による農作物の受粉を円滑に行うことができ、ひいては、農作物の収穫率向上を図ることができる。
【0009】
請求項2の発明によれば、偏光された紫外線を配光制御し、圃場内において天空の偏光パターンと同等の配光状態を実現するので、受粉用昆虫に対して紫外線偏光を複数方向から視認させることができ、その結果、請求項1と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る農業ハウスの斜視図。
【図2】(a)は上記農業ハウスの照明器具の斜視図、(b)は同照明器具の側断面図。
【図3】上記照明器具において光源から出射された光の、直線偏光子の透過前後での偏光状態を示す図。
【図4】(a)乃至(c)は直線偏光子の向き調整のための手順を示す図。
【図5】上記照明器具に設けられる回転駆動ユニットの側面図。
【図6】受粉用昆虫を中心とした天空の偏光パターンを示す図。
【図7】(a)は天空の偏光パターンの時間的な変化を示す図、(b)は照明器具における偏光の照射パターンの時間的な変化を示す図。
【図8】(a)は天空から照射される偏光の受粉用昆虫への配光状態を示す図、(b)は各照明器具から照射される偏光の受粉用昆虫への配光状態を示す図。
【図9】上記実施形態の変形例に係る照明器具の斜視図。
【図10】上記照明器具の発光ユニットの側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る農業ハウスについて図1乃至図8を参照して説明する。図1は本実施形態に係る農業ハウス1の構成を示す。農業ハウス1は、受粉用昆虫Iが放散される圃場2を覆うものであって、圃場空間を形成する被覆フィルム3と、圃場2に向けて偏光された紫外線を照射する複数の照明器具4とを備えている。各照明器具4は、下向きに凸となる半球状の外郭を成し、本ハウス1内の上方に配された天井部材5に互いに離間して配されている。受粉用昆虫Iは、圃場2内で栽培される農作物21の受粉を行うためのものであって、例えば、ミツバチやハルハナバチ等である。農作物21としては、例えば、果樹や野菜、花、きのこ等が挙げられる。圃場2には、受粉用昆虫Iの巣箱22が設置されている。
【0012】
被覆フィルム3は、本ハウス1の骨組となる構造部材6に張設されており、紫外線を遮断し、可視光線を透過する部材で構成される。上記のような部材としては、例えば、塩化ビニル、ポリオレフィン系の透明樹脂材料に紫外線吸収剤が添加されたものが挙げられる。構造部材6は、例えば、耐腐食性を有した亜鉛製パイプで構成される。ここで、本ハウス1には、被覆フィルム3のバタツキを防止するためのハウスバンド7が設けられている。
【0013】
図2は照明器具4の構成を示す。照明器具4は、半球板状の光透過性部材41と、光透過性部材41の内方に設けられ、近紫外線域に発光ピークを持つ光源42と、光透過性部材41を覆い、光源42からの出射光を振動面が互いに異なる直線偏光に変換する偏光部材43とを有している。光透過性部材41は、紫外線を透過する部材から成り、例えば、無色透明なガラス材や、ポリカーボネート又はアクリル等の透明樹脂により形成される。光透過性部材41の開口面側には、光源42を保持するための蓋部材44が設けられている。光源42の種類は、特に限定されるものでなく、例えば、LEDや蛍光灯、白熱灯、ハロゲンランプ、有機EL等である。偏光部材43は、光透過性部材41の外面上に所定の領域に区分けして配された複数の直線偏光子43aから成り、例えば、光吸収型の偏光フィルムや偏光板により形成される。
【0014】
図3は直線偏光子43aの偏光透過特性を示す。直線偏光子43aには、光源から出射され光透過部材を透過した光10が入射し、この光10は様々な偏光成分を有したランダム偏光となっている。直線偏光子43aは、その光透過軸と平行な偏光面11の偏光成分を透過させ、それ以外の偏光成分を遮断する。
【0015】
ここに、照明器具4による偏光された紫外線の配光状態は、任意の時刻における天空の偏光パターンが圃場2内で再現されるように制御される。本実施形態の農業ハウス1においては、圃場2内での天空の偏光パターン再現のために、偏光部材43において直線偏光子43aの向き調整がなされる。図4は直線偏光子43aの向き調整のための手順を示す。まず、図4(a)に示すように、半球状の天球Gを用いて、ある時刻における天空の偏光パターンを想定する。この天球G上の偏光パターンは、天空から天球中心Cに向かう偏光Lの振動方向を示すものであり、太陽Sを中心として同心円状に分布する。この振動方向とは、上述した偏光面(図3参照)の方向と同義である。ここで、偏光Lの配光角を天球角度座標θ、φにより示し、配光角(θ、φ)で示される偏光Lの振動方向をA(θ、φ)と定義している。例えば、配光角(θ、φ)でおける偏光Lの振動方向はA(θ、φ)となり、配光角(θ、φ)における偏光Lの振動方向はA(θ、φ)となる。
【0016】
次に、図4(b)に示すように、天球Gの地平面Pと接面して球体をなす仮想半球Hを用いて、天球中心Cに対し天球G上の偏光パターンと点対称なパターンを想定する。ここで、仮想半球H上のパターンに準じた振動方向を有し、仮想半球H外方を光出射方向とする偏光Lにおいて、配光角を(θ、φ)で示し、振動方向をB(θ、φ)と定義したとき、B(θ、φ)=A(θ、φ)の関係が成立する。つまり、偏光Lの振動方向と偏光Lの振動方向とは、任意の配光角毎に等しくなる。例えば、配光角(θ、φ)における偏光Lの振動方向B(θ、φ)は、同じ配光角の偏光Lの振動方向A(θ、φ)と等しなり、配光角(θ、φ)における偏光Lの振動方向B(θ、φ)は、同じ配光角の偏光Lの振動方向A(θ、φ)と等しくなる。
【0017】
次に、図4(c)に示すように、仮想半球H上のパターンを照明器具4における偏光の照射パターンとして設定し、該照射パターンに沿って偏光部材43の直線偏光子43aの光透過軸が平行になるように向き調整を行う。これにより、照明器具4からの照射光は、上記のような偏光Lを有した偏光状態に制御される。
【0018】
また、本実施形態の農業ハウス1は、圃場2内における天空の偏光パターン再現のための制御構成として、照明器具4を地球の自転周期と同じ周期で回転させる回転駆動ユニット(制御手段)を備えている。図5はこの回転駆動ユニット8の構成を示す。回転駆動ユニット8は、各照明器具4に設けられており、照明器具4の蓋部材44の略中央から上方に延出し天井部材5に挿通される回転軸81と、回転軸81に形成されたギア81aに係合するピニオン82aを有したモータ82と、モータ82を回転制御するマイコン83とを有している。回転軸81は、天井部材5の上面に当接する当接面81bを有し、天井部材5に対して回転自在に保持される。モータ82とマイコン83は、互いに電力線9により接続されており、天井部材5に設置される。マイコン83は、1時間当たり略15度ずつ右回りにモータ82を回転駆動させる。
【0019】
ここで、本ハウス1の作用を説明する前提として、図6を参照して受粉用昆虫Iが方向認識を行うための一般的な原理について説明する。天空においては、レイニー散乱により様々な偏光12が存在しており、これら偏光12は、天空における位置に応じて所定の方向に振動している。天空の偏光パターンは、太陽Sと天頂Zを通り地平面Pに垂直な太陽子午線13を基準に対称となっている。受粉用昆虫Iは、この偏光パターンの対称性を感知して太陽子午線13の向きを認識し、飛翔方向を決定する特性を有している。ここで、受粉用昆虫Iによる偏光感知は、偏光12に含まれる紫外線により行われる。
【0020】
上記のように構成された農業ハウス1の作用について説明する。図7(a)は天空の偏光パターンの時間的な変化を示し、図7(b)は照明器具における偏光の照射パターンの時間的な変化を示す。ここでは、天空の偏光パターンを天球Gを用いて示し、照明器具における偏光の照射パターンを仮想半球Hを用いて示し、さらに天球G及び仮想半球Hにおける各要素を上述の図4と同様に示している。図7(a)に示すように、天球Gにおいては、地球の自転作用により太陽子午線13が回転し、これに伴って天空の偏光パターンが変化する。ここで、配光角(θ、φ)で示される偏光Lにおいて、時刻tでの振動方向をA(θ、φ、t)と定義している。このとき、配光角(θ、φ)の偏光Lの振動方向は、時刻tのときA(θ、φ、t0、)となり、時刻tからΔt時間経過したときA(θ、φ、t+Δt)となる。
【0021】
図7(b)に示すように、仮想半球Hにおいては、回転駆動ユニット(図5参照)による照明器具の回転動作により偏光の照射パターンが変化する。ここで、配光角(θ、φ)で示される偏光Lにおいて、時刻tでの振動方向をB(θ、φ、t)と定義したとき、B(θ、φ、t)=A(θ、φ、t)の関係が成立する。つまり、偏光Lの振動方向と偏光Lの振動方向とは、全ての時間帯において任意の配光角毎に等しくなる。例えば、時刻tのとき、配光角(θ、φ)の偏光Lの振動方向B(θ、φ、t)は、同じ配光角の偏光Lの振動方向A(θ、φ、t)と等しくなる。また、時刻tからΔt時間経過したとき、配光角(θ、φ)の偏光Lの振動方向B(θ、φ、t+Δt)は、同じ配光角、同時刻の偏光Lの振動方向A(θ、φ、t+Δt)と等しくなる。
【0022】
図8(a)は天空から照射される偏光の受粉用昆虫への配光状態を示し、図8(b)は各照明器具4から照射される偏光の受粉用昆虫への配光状態を示す。図8(a)に示すように、天空から受粉用昆虫Iに対して照射される偏光の振動方向は、天空の偏光パターンにより決定され、上述の配光角(θ、φ、)及び時刻tを用いてA(θ、φ、t)で定義される。図8(b)に示すように、各照明器具4から受粉用昆虫Iに対して照射される偏光の振動方向は、照明器具4における偏光の照射パターンにより決定され、上述の配光角(θ、φ、)及び時刻tを用いてB(θ、φ、t)で定義される。つまり、本ハウス内に居る受粉用昆虫Iには、照明器具4の設置箇所に応じた配光角の偏光が複数の方向から照射される。ここで、地球の自転作用に応じた照明器具4の回転動作により、各照明器具4からの偏光についてB(θ、φ、t)=A(θ、φ、t)の関係が成立することから、受粉用昆虫Iの周囲には、天球の偏光パターンと同等の仮想偏光パターン14が常時生成されることになる。
【0023】
本実施形態に係る農業ハウス1によれば、各照明器具4からの偏光された紫外線を配光制御し、圃場2内において天空の偏光パターンと同等の配光状態を実現するので、受粉用昆虫Iに対して紫外線偏光を複数方向から視認させることができ、その結果、受粉用昆虫Iは方向認識を的確に行い、圃場2内にある農作物21や巣箱22に向かって正確に飛翔することができる。従って、受粉用昆虫Iによる農作物21の受粉を円滑に行うことができ、ひいては、農作物21の収穫率向上を図ることができる。
【0024】
次に、上記実施形態の農業ハウス1に用いられる照明器具4の変形例を図9及び図10を参照して説明する。図9に示す本変形例に係る照明器具4は、光出射面が半球形状となるように互いに近接して配列された複数の発光ユニット4aから成る。図10に示す発光ユニット4aは、近紫外線域に発光ピークを持つ光源42と、光源42を囲う狭角配光型のレンズ46と、レンズ46を覆い光源42からの出射光を直線偏光に変換する偏光部材43とを有している。偏光部材43は直線偏光子から成り、圃場内での天空の偏光パターン再現のために、上述の図4と同様に光透過軸の向き調整がなされる。その他の構成については、上記実施形態と同様である。これにより、本変形例の農業ハウスについても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0025】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、照明器具4による天空の偏光パターンの再現性を向上するために、地球の自転軸の傾きに合わせて照明器具4の回転軸81を傾けるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 農業ハウス
2 圃場
3 被覆フィルム
4 照明器具
42 光源
43 偏光部材
8 回転駆動ユニット(制御手段)
I 受粉用昆虫

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場を紫外線遮断性の被覆フィルムにより覆う農業ハウスにおいて、
圃場に向けて偏光された紫外線を照射する複数の照明器具と、
前記照明器具による偏光された紫外線の配光状態を、任意の時刻における天空の偏光パターンが圃場内で再現されるように制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする農業ハウス。
【請求項2】
圃場を紫外線遮断性の被覆フィルムにより覆う農業ハウスに用いられる農業ハウス用照明器具であって、
紫外線を含む光を出射する光源と、
前記光源からの出射光を直線偏光に変換し圃場に向けて配光する偏光部材と、
前記偏光部材による偏光された紫外線の配光状態を、任意の時刻における天空の偏光状態が圃場内で再現されるように制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする農業ハウス用照明器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−273551(P2010−273551A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126557(P2009−126557)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】