説明

農業用ハウス

【課題】フイルムを複数層に張り渡して断熱空間部を形成すると共に、ハウス内にエアーカーテンを組み合わせることにより、断熱効果を大幅に向上させて省エネルギー化を図り、夏期のみならず冬期においても作物を栽培することができる農業用ハウスを提供するものである。
【解決手段】金属製構造材料で形成されたハウスフレームの屋根や壁に、所定の間隔で複数本の下段フイルム固定レール4Aを取付け、ここに透明なフイルム5を張り渡して下段フイルム層8Aを形成し、前記フイルム固定レール4Aの上に、更に上段フイルム固定レール4Bを接合して、ここに透明なフイルム5を張り渡して上段側のフイルム層8Bを形成して、これら隣接する両フイルム層8A、8Bの間に断熱空間部11を形成すると共に、ハウス内の天井面と側壁面に沿って空気を封入したエアーカーテン14を取付けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根や壁の断熱とハウス内のエアーカーテンを組み合わせた農業用ハウスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にハウス栽培を行なうハウスは鉄骨で家形のフレームを組み、ここにたる木状にフイルム固定具を適宜の間隔で取付け、この上を透明なプラスチックフイルムで覆って農業用ハウスを組立てていた。
【0003】
しかしながら1層のフイルムで形成した農業用ハウスは、断熱性が低いため、夏期の冷房や冬期の暖房の効果が低い問題がある。例えばイチゴ栽培では、通常のイチゴが流通しない6〜10月のイチゴ輸入量は約3500トンで、同時期の国内のイチゴの出荷量は約600トン程度と推定され、夏期における栽培は極めて少ない。この原因は夏期における高温にあり、冷房機を用いて農業用ハウス内を冷房するために冷房設備や電気料をかけても採算ラインに達する生産コストで生産できないことにある。
【0004】
また寒冷地にある農業用ハウスは夜間にハウス内の温度が下がるため、夜間だけ暖房を行なっている所がある。この場合、暖房で暖められた湿度の高い空気が天井側に上昇し朝方になって外気が冷えると、天井側のフイルムに接する湿度の高い空気が冷やされて、フイルムの内面に水滴が凝縮して曇りガラスのようになり、水滴が蒸発するまで午前中は太陽光線が温室の内部に十分に照射しない問題があった。
【0005】
このため農業用ハウスの屋根面や壁面を、フイルムの2層構造として、外壁フイルムと内壁フイルムとの間に断熱空間部を形成して、ハウス内の断熱効果を高めて冷房や暖房の省エネルギー化を図った2層構造の農業用ハウスが普及してきた(特許文献1)。
【0006】
このように農業用ハウス内に暖房装置を設置し、屋根や壁をフイルムで2層構造とすることにより、冬期間の栽培を行なうことはできるが、気温の高い夏期には、断熱効果が僅かに向上するだけで、冷房機を設置してもハウス内の温度が高温になるため、イチゴやきのこ類の栽培、バラやランなど花卉栽培することが依然として行なわれていなかった。この理由は冷房装置を取付けても、2層フイルムで断熱空間部を形成した程度では、外部から熱が伝達して十分な冷房効果が得られず、大型の冷房機器を設置して冷房効果を高めても、エネルギーの価格が高騰している現状では採算が取れないからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2627761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題を改善し、フイルムを複数層に張り渡して断熱空間部を形成すると共に、ハウス内にエアーカーテンを組み合わせることにより、断熱効果を大幅に向上させて省エネルギー化を図り、夏期のみならず冬期においても作物を栽培することができる農業用ハウスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1記載の農業用ハウスは、金属製構造材料で形成されたハウスフレームの屋根や壁に、所定の間隔で複数本の下段フイルム固定レールを取付け、ここに透明なフイルムを張り渡してフイルム層を形成し、前記フイルム固定レールの上に、更に1段または2段の上段側のフイルム固定レールを接合して、ここに透明なフイルムを張り渡して上段側のフイルム層を形成して、これら隣接する両フイルム層の間に第1または第2の断熱空間部を形成すると共に、ハウス内の天井面と側壁面に沿って空気を封入したエアーカーテンを取付けたことを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項2記載の農業用ハウスは、請求項1において、エアーカーテンが、開閉自在に形成され、空気を供給するポンプに接続されていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項3記載の農業用ハウスは、請求項1において、エアーカーテンが、帯状をなす2枚の透明なプラスチックフィルムを重ねて、その縁部を熱シールして袋状に形成し、一方の透明なプラスチックフィルムに空気吹込み口を取付けて、ここから空気を封入して中空長方形状の空気層を有するエアーマットを形成し、これを複数個面状に配置して形成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る請求項1記載の農業用ハウスによれば、屋根面や壁面にフイルムを複数層に張り渡して断熱空間部を形成すると共に、ハウス内に空気を封入したエアーカーテンを設けることにより、気温の高い夏期でも断熱効果が優れており、小型の冷房機器を設置しても十分な冷房効果が得られ、また気温の低い冬期間においても、大幅に省エネルギー化を図ることができる。更に断熱空間部とエアーカーテンの組み合わせにより、フイルムの内面での結露の発生が少なくなり、太陽光線の入射が妨げられにくくなる。更に屋根面が1層フイルムの既設のハウスも容易に改造することができる。
【0013】
従って断熱空間部とエアーカーテンの二重の空気断熱構造となっているので、気温の高い夏期でも断熱効果が優れており、小型の冷房機器を設置しても十分な冷房効果が得られ、イチゴやきのこ類、バラやランなどを採算の取れる経費で栽培することが可能となった。また気温の低い冬期間においても、断熱効果が優れているので、屋根面が1層フイルムの従来の農業用ハウスに比べて使用する暖房費用も大幅に低減でき省エネルギー化を図ることができる。
【0014】
請求項2記載の農業用ハウスによれば、エアーカーテンが、開閉装置により開閉自在に形成されているので、太陽光線をハウス内に取入れる時には容易にカーテンを開閉することができる。またポンプからエアーカーテンに空気を供給して膨らますことにより空気層の厚さの調整も容易である。
【0015】
請求項3記載の農業用ハウスによれば、エアーカーテンが、空気を封入して中空長方形状の空気層を有するエアーマットを面状に配置して形成されているので、断熱効果が高く省エネルギー化を図ることができると共に、入射する太陽光線を妨げることが少ない。また一部のエアーマットが破損して空気が抜けても、それぞれ空気を封入して独立した断熱空間が形成されているので、部分的に補修や交換を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下本発明の実施の一形態を図1ないし図3を参照して詳細に説明する。先ず図1に示すように、1は農業用ハウスで、屋根フレーム2と壁フレーム3とで家形に形成されている。屋根フレーム2の上には棟側から軒側に向かって、図2に示すように所定の間隔で複数本の下段フイルム固定レール4A…がたる木状に取付けられ、ビス6で固定されている。下段フイルム固定レール4Aは、上部が開口した断面台形状にアルミニウムの押出し型材、またはスチールで形成されている。
【0017】
この隣接する下段フイルム固定レール4A、4Aの上に、透明なプラスチックで形成されたフイルム5を面状に張り渡し、下段フイルム固定レール4Aの開口部の内側に挿入して、波形のスプリング7で押えて固定し、下段フイルム層8Aを形成する。フイルム5は表面が平滑で、透明性が高く、しかも耐久性に優れた、例えばフッ素系のプラスチックフィルムで形成されている。
【0018】
次に下段フイルム層8Aを形成した各下段フイルム固定レール4Aの上に、上段フイルム固定レール4Bを重ねて図示しないビスで固定する。次に上段フイルム固定レール4Bの上に、透明なプラスチックで形成されたフイルム5を面状に張り渡し、上段フイルム固定レール4Bの開口部の内側に挿入して、波形のスプリング7で押えて固定し上段フイルム層8Bを形成する。この後、開口部にフイルム押え9を被せてビス6で固定する。
【0019】
この結果、下段フイルム層8Aと上段フイルム層8Bとの間に断熱空間部11が形成される。なお壁フレーム3にも同様に下段フイルム固定レール4Aと上段フイルム固定レール4B、およびフイルム5を取付けて壁側の断熱空間部11が形成されている。
【0020】
また農業用ハウス1内の天井側と側面には、図1に示すようにエアーカーテン14が設けられている。このエアーカーテン14は袋状に形成され、図示しない送風機に接続されて、内部に空気を供給することにより膨らむようになっている。またこのエアーカーテン14の空気を抜いた状態で、図3に示すように開閉装置15によりエアーカーテン14を巻き取るか、横方向や上方に移動させて、開放するようになっている。
【0021】
上記構成の農業用ハウス1は、図1および図2に示すように透明な下段フイルム層8Aと中段フイルム層8Bの2層のフイルム8で、断熱空間部11が形成されていると共に、農業用ハウス1内の天井側と側面には空気を供給して膨らませたエアーカーテン14とで、2重の断熱空間構造となっているので、従来の1層のフイルムで形成された農業用ハウスに比べて70%程度燃料を節約することができ、極めて断熱効果が優れている。
【0022】
また夜間に外気が冷えると、断熱空間部11の外気と接する上段フイルム層8Bの内側の空気が冷やされるが、空気層で形成された断熱空間部11の断熱効果により、外気との温度差が少なく上段フイルム層8Bの内面での結露を防止することができ、更にエアーカーテン14で断熱されているので、この上での結露も防止することができる。
【0023】
また夏期でもハウス内の温度が4℃程度低下し、同じ冷房機でも日中、外気温より低く保持することができ、使用する電力量も少なく、イチゴやきのこ類、バラやランなどを採算ラインで生産することが可能となった。
【0024】
従って断熱空間部11とエアーカーテン14の二重の空気断熱構造となっているので、気温の高い夏期でも断熱効果が優れており、小型の冷房機器を設置しても十分な冷房効果が得られ、イチゴや、花卉を採算の取れる経費で栽培することが可能である。また気温の低い冬期間においても、断熱効果が優れているので、屋根面が1層フイルムの従来の農業用ハウスに比べて使用する暖房費用も大幅に低減でき省エネルギー化を図ることができる。
【0025】
図4は本発明の他の実施の形態を示すもので、図2に示す上段フイルム層8Bを中段フイルム固定レール4Bとして、更にこの上に上段フイルム固定レール4Cを重ねて図示しないビスで固定する。次に隣接する上段フイルム固定レール4C、4Cの上に、フイルム8を面状に張り渡し、上段フイルム固定レール4Cの開口部の内側に押し込んで、波形のスプリング7で押えて固定し、上段フイルム層8Cを形成し、開口部の上からフイルム押えカバー9をビス6で固定する。
【0026】
この結果、下段フイルム層8Aと中段フイルム層8Bとの間に第1の断熱空間部11Aが形成され、この上の中段フイルム層8Bと上段フイルム層8Cの間に第2の断熱空間部11Bが形成された二重断熱空間部を形成したものである。
【0027】
図5は本発明の他の実施の形態を示すもので、帯状をなす2枚の透明なプラスチックフィルム17を重ねて、その縁部を熱シールして袋状に形成し、一方の透明なプラスチックフィルム17に空気吹込み口18を取付けて、ここから空気を封入して中空長方形状の空気層を有するエアーマット13を形成する。
【0028】
次に図6に示すように下段フイルム層8Aと上段フイルム層8Bで断熱空間部11を形成したハウス内の天井面と側壁面に沿って、ワイヤ19を蛇行して取付け、更にこのワイヤと間隔をおいて別のワイヤ19を蛇行して取付け、これら両ワイヤ間に、袋状のエアーマット13を挟持して、複数枚面状に取付けてエアーカーテン14を形成したものである。
【0029】
上記構造の農業用ハウスによれば、下段フイルム層8Aと上段フイルム層8Bで断熱空間部11を形成したハウス内の、天井面と側壁面に沿って、複数の袋状をなすエアーマット13を、面状に取付けてエアーカーテン14を形成したので、断熱効果が高く省エネルギー化を図ることができると共に、入射する太陽光線を妨げることが少ない。
【0030】
しかもワイヤ19を蛇行して取付け、更にこれと間隔をおいてワイヤ19を蛇行して取付け、これら両ワイヤ間に、独立した中空長方形状の空気層が形成された複数のエアーマット13を、順次挟持して面状に取付けてエアーカーテン14を形成するので施工が容易でコストが安い。また一部のエアーマット13が破損して空気が抜けても、それぞれ空気を封入して独立した断熱空間が形成されているので、部分的に補修や交換を行なうことができる。
【0031】
なお上記説明では、新設の場合について説明したが、既設の1層ハウスの上にフイルム固定レールを取付け、ここにフイルム層を追加して2層または3層構造としても良い。またエアーマット13の取付け方法はワイヤ19を用いずに他の方法で面状に取付けた構造でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の一形態によるハウスの屋根と壁面に断熱空間部を形成し、ハウス内にエアーカーテンを設けた農業用ハウスを示す概略構成図である。
【図2】図1の農業用ハウスの屋根面の断熱構造を拡大して示す断面図である。
【図3】図1のエアーカーテンを巻き取って開放した状態の農業用ハウスを示す概略構成図である。
【図4】本発明の他の実施の形態による屋根面の3層断熱構造を拡大して示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施の形態によるエアーマットを示す斜視図である。
【図6】本発明の他の実施の形態による図5のエアーマットでエアーカーテンを形成した農業用ハウスの概略構成図である。
【符号の説明】
【0033】
1 農業用ハウス
2 屋根フレーム
3 壁フレーム
4A〜4C フイルム固定レール
5 フイルム 6 ビス
7 スプリング
8A〜8C フイルム層
9 フイルム押え
11 断熱空間部
13 エアーマット
14 エアーカーテン
15 開閉装置
17 プラスチックフィルム
18 空気吹込み口
19 ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製構造材料で形成されたハウスフレームの屋根や壁に、所定の間隔で複数本の下段フイルム固定レールを取付け、ここに透明なフイルムを張り渡してフイルム層を形成し、前記フイルム固定レールの上に、更に1段または2段の上段側のフイルム固定レールを接合して、ここに透明なフイルムを張り渡して上段側のフイルム層を形成して、これら隣接する両フイルム層の間に第1または第2の断熱空間部を形成すると共に、ハウス内の天井面と側壁面に沿って空気を封入したエアーカーテンを取付けたことを特徴とする農業用ハウス。
【請求項2】
エアーカーテンが、開閉自在に形成され、空気を供給するポンプに接続されていることを特徴とする請求項1記載の農業用ハウス。
【請求項3】
エアーカーテンが、帯状をなす2枚の透明なプラスチックフィルムを重ねて、その縁部を熱シールして袋状に形成し、一方の透明なプラスチックフィルムに空気吹込み口を取付けて、ここから空気を封入して中空長方形状の空気層を有するエアーマットを形成し、これを複数個面状に配置して形成したことを特徴とする請求項1記載の農業用ハウス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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