説明

農薬汚染土壌の浄化方法

【課題】本発明は、農薬汚染土壌の新規浄化方法を提供することを主な課題とする。
【解決手段】本発明は、(I)マルチドラッグレジスタンスアソシエーテッドプロテイン(multidrug resistance−associated protein;MRP)をコードする遺伝子を植物細胞に導入することにより、MRP形質転換植物を得る工程、(II)工程(I)において得られたMRP形質転換植物を農薬汚染土壌で生育させる工程、及び、(III)工程(II)において生育させたMRP形質転換植物を回収する工程を包含する、農薬汚染土壌の浄化方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、マルチドラッグレジスタンスアソシエーテッドプロテイン(multidrug resistance−associated protein;MRP)形質転換植物を用いて農薬汚染土壌を浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
除草剤や駆虫剤等の農薬による環境汚染が深刻な問題となっている。農薬には、変異原性、発癌性、内分泌攪乱作用、炎症作用等の動物の生態に有害な作用を有するものが多数存在している。そのため、現在では、農薬取締法により、有害な特定の農薬の使用及び販売が規制されている。しかしながら、既に使用が禁止されている農薬であっても、分解性が低い又は脂溶性が高い場合には、長期間に渡り環境中に残留する。また、農薬取締法に違反し、国(農林水産省)に登録されていない無登録農薬が使用され、環境を汚染しているケースも報告されている。このような環境汚染の状況において、有害な農薬を効率的に除去する方法が強く求められている。
【0003】
農薬を除去する方法として、農薬分解能力をもつ微生物を利用する方法、即ちバイオリメディエーションが知られている。しかし、実際の環境中でバイオリメディエーションを行っても、農薬が十分に除去されないことが多く、また、生物が小さい場合にはその回収が困難である。
【0004】
農薬を除去する別の方法として、界面活性剤を利用する方法がある。界面活性剤の添加により、微生物による農薬の分解効率が向上することが報告されている。しかし、界面活性剤の回収が困難であるため、界面活性剤による二次汚染がもたらされる可能性がある。また、バイオサーファクタントの使用も検討されているが費用面で困難が大きい。
【0005】
農薬を除去する別の方法として、植物を利用する方法、即ち、ファイトリメディエーションが知られている。ファイトリメディエーションは、汚染環境で植物を栽培して植物に汚染物質を取り込ませることにより、環境中の汚染物質を除去する方法である。ファイトリメディエーションは、金属を蓄積する植物を利用して浄化する方法として1995年にSaltらによって提案された。バイオリメディエーションの実用化が進んでいる米国では、ファイトリメディエーションの市場が既に存在し、1999年の推定市場規模は3000〜4900万ドルとなっている(非特許文献1)。
【0006】
農薬で汚染された土壌を浄化するために、本来そこで栽培される植物体を用いて目的が達成されれば、極めて自然な方法と言える。
【0007】
一方、重金属や細胞毒性有機物質に対する耐性が高められた形質転換植物が報告されている。例えば、輸送体タンパク質の一種であるATP駆動型ABCスーパーファミリーに属するMRP1で形質転換した植物が、野生型と比べて、カドミウムや細胞毒性化合物であるダウノルビシンに対してより耐性を有することが報告されている(特許文献1)。
【0008】
ダウノルビシンは、配糖体であり、通常、環状グルコースの3位炭素におけるアミノ基が塩酸と塩を形成した塩酸ダウノルビシンとして市販されている。塩酸ダウノルビシンは、水溶性であるため、通常、水性溶媒に溶解され、抗癌剤として使用されている。
【0009】
他方、農薬として使用される有機物質は、通常、脂溶性であり、水に流されることなく土壌に留まるような分子構造を有する。一般的に、水への溶解度が低いほど、土壌への残留性が高く、除去が困難である。今まで、MRPで形質転換した植物が、土壌への残留性を示す脂溶性有機物質に対して耐性を示すことは報告されていない。
【特許文献1】特開2003−210057号公報
【非特許文献1】日経バイオビジネス2001年9月号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、農薬で汚染された土壌を浄化するための新規手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行なったところ、ATP駆動型ABCスーパーファミリーに属するMRPの遺伝子で形質転換した植物が、野生型と比べて、農薬に対して高い耐性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は以下の事項に関する。
【0013】
〔項1〕
(I)マルチドラッグレジスタンスアソシエーテッドプロテイン(multidrug resistance−associated protein;MRP)をコードする遺伝子を植物細胞に導入することにより、MRP形質転換植物を得る工程、
(II)工程(I)において得られたMRP形質転換植物を農薬汚染土壌で生育させる工程、及び、
(III)工程(II)において生育させたMRP形質転換植物を回収する工程、
を包含する、農薬汚染土壌の浄化方法。
【0014】
〔項2〕
農薬が除草剤である、請求項1に記載の浄化方法。
【0015】
〔項3〕
除草剤が、ジフェニルエーテル系除草剤、ジニトロフェノール系除草剤、トリアジン系除草剤、酸アミド系除草剤、及びカルバメート系除草剤からなる群より選択される少なくとも1種である、項2に記載の浄化方法。
【0016】
〔項4〕
ジフェニルエーテル系除草剤が、アシフルオルフェン、ニトロフェン、クロロニトロフェン、ビフェノックス、及びクロメトキシフェンから成る群より選択される少なくとも1種である、項3に記載の浄化方法。
【0017】
〔項5〕
マルチドラッグレジスタンスアソシエーテッドプロテイン(multidrug resistance−associated protein;MRP)をコードする遺伝子を植物細胞に導入する工程を包含する、植物に農薬耐性を付与する方法。
【0018】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0019】
本発明は、基本的に、(I)MRPをコードする遺伝子を植物細胞に導入することにより、MRP形質転換植物を得る工程、(II)工程(I)において得られたMRP形質転換植物を農薬汚染土壌で生育させる工程、及び、(III)工程(II)において生育させたMRP形質転換植物を回収する工程を包含する農薬汚染土壌の浄化方法を提供する。
【0020】
マルチドラッグレジスタンスアソシエーテッドプロテイン(multidrug resistance−associated protein;MRP)は、1992年にColeらによってドキソルビシン耐性を示す肺小胞癌細胞株から単離された広範な基質選択性を有する多剤耐性に関わる膜タンパク質である(Science,258,1650−1654(1992))。
【0021】
MRPにはMRP1、ABCC1等のタイプが存在するが、本発明において使用されるMRPは、いずれのタイプであってもよい。
【0022】
本発明の浄化方法では、工程(I)において、MRPをコードする遺伝子を植物細胞に導入することにより、MRP形質転換植物を得る。
【0023】
MRPをコードする遺伝子(以下、MRP遺伝子ともいう)は、PCR法などの常法により入手することができる。
【0024】
PCR法は、基本的に、鋳型となり得るポリヌクレオチド、フォワードプライマー及びリバースプライマー、DNAポリメラーゼ、dNTP mixture(デオキシヌクレオシド三リン酸の混合物)、及びPCRバッファーを含む一反応液を、温度変化を伴う(1)変性(2)アニーリング(3)伸長の3つのステップに繰り返し供することにより、フォワードプライマー及びリバースプライマーの間に挟まれた特定のポリヌクレオチドを増幅する方法である。鋳型となり得るポリヌクレオチドとしては、例えば、MRPを発現する生物から作製されたゲノムDNA、ゲノムライブラリー、cDNAライブラリー等を用いることができる。フォワードプライマー及びリバースプライマーは、例えば、MRP遺伝子の5’末端又はその周辺、及び、3’末端又はその周辺に位置する任意の約10〜30bpのヌクレオチド配列に基づき設計され得、自動合成等の常法により合成することができる。増幅される配列が開始コドンを含んでいない場合、開始コドンをin−frameで含むようフォワードプライマーを設計するか、後述の発現ベクターにin−frameで開始コドンを導入しておく。DNAポリメラーゼとしては、市販の耐熱性ポリメラーゼ、例えば、Pfu(Promega社製)、Taq(TOYOBO社製)、KOD(TOYOBO社製)、Vent(NEB社製)、ExTaq(TaKaRa社製)、PlatinumPfx(invitrogen社製)等を好適に用いることができる。dNTP mixtureとしては、市販されているdATP、dCTP、dGTP及びdTTPの混合物を好適に用いることができる。PCRバッファーは、使用するDNAポリメラーゼ等に応じて適宜選択され、市販品又はDNAポリメラーゼの付属品を好適に用いることができる。PCR反応は、慣用的な手順に従って又はDNAポリメラーゼの指示書に従って行なうことができる。また、当業者であれば、温度、時間、サイクル数、反応組成等のPCR反応条件を適宜変更することができる。
【0025】
MRP遺伝子の起源は、特に限定されず、例えば、動物(ヒトを含む)、高等植物、酵母等由来のMRP遺伝子が使用され、特に、ヒト、高等植物等由来のMRP遺伝子が好適に使用される。各種MRP遺伝子の塩基配列は、Genbank、EMBL等の遺伝子検索システムから入手できる。例えば、ヒトMRP1遺伝子の塩基配列は、GenBankのアクセッション番号:AX253082から入手するか、Zaman, G J et al, Proceedings Of The National Academy Of Sciences Of The United States Of America Volume 91, Issue 19 , September 13, 1994, Pages 8822−8826, ISSN: 0027−8424, Division of Molecular Biology, The Netherlands Cancer Institute, Amsterdamを参考にして入手するか、あるいは、GenbankのCoreNucleotideアクセッション番号:L05628から入手できる。
【0026】
MRPの植物細胞での発現は、通常、MRPのアミノ酸配列の情報に基づき、MRP遺伝子をin−frameで発現プロモーターや開始コドン等と連結させることにより達成される。各種生物に由来するMRPのアミノ酸配列は、Genbank、EMBL等のタンパク質検索システムから入手するか、或いは、遺伝子の塩基配列に基づきアミノ酸配列を推定するシステム、N末端分析、C末端分析等の常法を用いて決定することができる。
【0027】
次に、通常、PCRによって増幅されたMRP遺伝子を発現ベクターへ連結し、プラスミドを構築する。
【0028】
発現ベクターとしては、宿主において自律複製可能又は染色体中への組み込みが可能で、MRP遺伝子を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。PCRによって増幅されたポリヌクレオチドの5’末端は、直接又は適当な配列(例えば、制限酵素認識部位)を介してin−frameでプロモーターの3’末端へ連結される。発現ベクターは、さらに、植物細胞用エンハンサー(例えば、EL2エンハンサー、CaMV35Sエンハンサー等)、選択マーカー遺伝子、標識タグ等を含有してもよい。終止コドンは、必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に配置されることが好ましい。
【0029】
酵母用発現ベクターとしては、例えば、pYES、pYC、pYI、pYL、pDR196を好適に用いることができるが、これらに限定されない。高等植物用発現ベクターとしては、例えば、pBI121、pBIHyg−HSE、pBI19、pBI101、pGV3850、pABH−Hm1を好適に用いることができるが、これらに限定されない。
【0030】
プロモーターとしては、宿主の細胞中でMRPの発現を促進する限りにおいて特に限定されない。酵母における高発現には、構成的発現プロモーターであるPMA1プロモーター、ADH1プロモーター、GAL1プロモーター、PGKプロモーター、PHO5プロモーター、GAPDHプロモーター等を用いることができるが、これらに限定されない。高等植物における高発現には、構成的発現プロモーターであるEL2プロモーター、CaMV35Sプロモーター、Cabプロモーター、RuBisCoプロモーター、PR1プロモーター、ユビキチンプロモーター等を用いることができる。また、MRPが生物の特定の器官(例えば、根部)でのみ発現するプロモーターが用いられてもよい。
【0031】
次に、このように構築された発現プラスミドを植物細胞に導入する。
【0032】
植物細胞には、酵母、高等植物、コケ等のあらゆる細胞を用いることができる。酵母は、単細胞の植物であり、高等植物と同様に植物細胞としての基本機能が備わっている。
【0033】
酵母は、特に限定されないが、例えば、Saccharomyces属(例えば、Saccharomyces cerevisiae)、Schizosaccharomyces属(例えば、Schizosaccharomyces pombe)、Pichia属(例えば、Pichia pastoris)等に属する酵母が選択される。
【0034】
高等植物は、植物の適応能力、生育条件等に応じて適宜選択され、特に限定されないが、例えば、ナス科、アブラナ科、アオイ科、アカザ科、マメ科、ヒユ科、キク科、イネ科、ヤナギ科、モクレン科、ツゲ科、ミカン科又はユキノシタ科、セリ科、カヤツリグサ科、キンポウゲ科、ウリ科、バラ科、カキノキ科、ザクロ科、ブドウ科、ミカン科、モクセイ科、に属する植物が好適に選択される。具体的には、例えば、タバコ(Nicotiana tabbacum)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、ケナフ(Hibiscus cannabinus)、モミジアオイ(Hibiscus coccineus)、アメリカフヨウ(Hibiscus moscheutos)、ハマボウ(Hibiscus hamabo)、ブッソウゲ(Hibiscus rosa−sinensis)、カラシナ (Brassica juncea)、グンバイナズナ(Thlaspi rotundifolium)、オクラ(Abelmoschus esculentus)、トロロアオイ(Abelmoschus manihot)、ホウレンソウ(Spinacia oleracea)、フダンソウ(Beta vulgaris var. vulgaris)、サトウダイコン(Beta vulgaris var. rapa)、タヌキマメ(Crotalaria sessiliflora)、ガクタヌキマメ(Crotalaria calycina)、クロタラリア(Crotalaria juncea)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、イネ(Oryza sativa)、オオムギ(Hordeum vulgare)、カラスムギ(Avena fatua)、ナタネ(Brassica napus)ポプラ(Populus nigra)、ユリノキ(Liriodendron tulipifera)、ホンツゲ(Buxus microphylla)、ウンシュウミカン(Citrus unshiu)、レモン(Citrus lemon)、リンゴ(Malus)、モモ(Prunus)、ザクロ(Punica)、メロン(Cucumis)、ヘチマ(Luffa)、ブドウ(Vitis)、ミカン(Citrus)、ナス(Solanum)、アジサイ(Hydrangea macrophylla)、オウレン(Coptis japonica)、好ましくは、タバコ、ケナフ、ナタネ、イネ、ポプラ、ヤナギが選択される。
【0035】
植物は、例えば、土壌の環境(土質、温度、地形、湿度、栄養等)、農薬の濃度や分布状況、植物の回収の容易さ等に応じて、植物の形態(例えば、根部の形状、果実の大きさ)、プラントマス、生育速度等が考慮され、適当に選択され得る。例えば、浄化効率の観点から、ひげ根、枝状根、根茎を形成する植物を好適に用いることができる。土壌の表層部に存在している農薬を取除く場合、比較的短い根部を形成する植物であってもよいが、土壌の深い部分に分布している農薬を取除く場合、深い部分まで届く根部を形成する植物が好ましい。外来植物の繁殖の防止という観点から、遠方に飛ばされにくい種子を形成する植物であることが望ましい。播種及び回収の手間を軽減するには、多年生植物であることが望ましい。回収後の処理の容易さの観点から、プラントマスの大きい樹木が望ましい。プラントマスの大きい植物は、大量の農薬を取り込むことが可能であるため浄化能力が高く、また、木質バイオマスとしての利用が可能である。
【0036】
また、農薬汚染土壌の浄化を行なった後の植物体から、紙、繊維、樹脂、ゴム、油脂等の工業原料となる成分を抽出又は採取することもできる。例えば、イモ類(ジャガイモ、サツマイモ、キャッサバ等)、穀類(イネ、コムギ、トウモロコシ等)等から多量のデンプンを効率的に得ることができる。また、例えば、綿、樹木、藻類等から、多量のセルロースを効率的に得ることができる。このように、植物が含有する成分を考慮して、植物を選択することもできる。
【0037】
植物細胞は、MRP遺伝子において塩基が欠失、置換又は付加された植物細胞、MRP以外の遺伝子で形質転換された細胞、交雑により改変された植物種に由来する植物細胞であってもよい。このように改変された植物細胞を用いることにより、本発明の形質転換植物に、さらに有利な性質を付与することができる。例えば、プラントマス、器官の形状、成長速度等が調節されたMRP形質転換植物を得ることができる。
【0038】
植物細胞(宿主)に発現プラスミドを導入する方法としては、常法、例えば、酢酸リチウム法、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウム法、遺伝子銃(パーティクルガン)法、リン酸カルシウム法、プロトプラスト法、又は、Gene,17,107(1982)、Molecular & General Genetics,168,111(1979)及びMolecular Cloning 2nd ed.(Sambrook,J., Fritsch,E.F., Maniatis,T. Cold Spring Harvor Laboratory Press 1989)、Plant Molecular Biology Manual (Stanton B. Gelvin and Robert A. Schilperoort. Kluwer Academic Publishers 1988)等の文献(これらは、本書においてその全体が援用される)に記載の方法を好適に用いることができる。
【0039】
さらに、通常、発現プラスミドの導入を確認し、実際に発現プラスミドが導入されている個体を選択する。発現プラスミドの導入の確認は、常法(例えば、薬物含有培地による選択、ホルモン含有培地による選択、栄養要求性による選択)により行なうことができる。さらに、ゲノムPCR、RT−PCR、ノザンハイブリダイゼーション、ウェスタン解析等の常法を用いて、植物細胞にMRP遺伝子が導入されているか否か、或いは、植物細胞内でMRPが発現しているか否かを確認することができる。
【0040】
さらに、必要に応じて、常法により植物細胞から植物に分化・生長させる。例えば、植物ホルモンを含有した培地に植物細胞を移すことで、植物細胞から植物に分化・生長させることができる。分化・生長の方法については、本書においてその全体が援用される「Growth & Differentiation in Plants,3rd Edition by P.F.Wareing & I.D.J.Phillips, 1981,ISBN 4−7622−6365−6 [83.5刊](植物の成長と分化(上)P.F.ウェアリング・I.D.J.フィリップス 著/古谷雅樹 監訳)」及び「Growth & Differentiation in Plants,3rd Edition by P.F.Wareing & I.D.J.Phillips, 1981,ISBN 4−7622−7366−X [83.11刊](植物の成長と分化(下)、P.F.ウェアリング・I.D.J.フィリップス 著/古谷雅樹 監訳)」を参考にすることができる。
【0041】
このようにして、MRP形質転換植物を得ることができる。
【0042】
さらに、通常、MRP形質転換体について農薬耐性試験(スクリーニング)を行い、農薬耐性を示す個体を同定する。
【0043】
例えば、農薬耐性試験は、所定濃度の農薬の存在下で形質転換体を生育させ、その生育能を観察することにより行うことができる。農薬耐性試験を行う際の農薬の適当な濃度は、農薬の種類や植物の種類に依存して異なる。例えば、農薬が、ジフェニルエーテル系除草剤のニトロフェンである場合、通常、0.01〜1.0M程度、好ましくは約0.1〜0.5Mの濃度で農薬耐性試験を行うことができる。また、例えば、農薬が、クロロニトロフェンである場合、通常、0.01〜1.0M程度、好ましくは約0.1〜0.5Mの濃度で農薬耐性試験を行うことができる。また、例えば、農薬が、アシフルオルフェンである場合、通常、0.01〜1.0M程度、好ましくは約0.1〜0.5Mの濃度で農薬耐性試験を行うことができる。当業者であれば、本書の記載を参考にして、他の農薬に対する耐性試験を容易に行うことができる。
【0044】
具体的に、例えば、高等植物について、以下のような方法で農薬耐性を調べることができる:形質転換植物の種子を適当な選択培地(例えば、Linsmaier−Skoog(LS)寒天培地)上で発芽させる。約1〜5週間目の形質転換植物の芽生えを、所定濃度の農薬を含浸させたLS寒天培地の上に静置する。農薬の存在下で約5日間〜20日間、適温で生育させる。コントロールとして、MRP遺伝子を挿入していない空の発現ベクターを導入した植物の種子を用い、同様の操作を行う。コントロールに較べて、MRP遺伝子を導入した植物の方が、農薬含有寒天培地において生育が良いことで耐性を確認することができる。
【0045】
ここで形質転換とは、一般的に、ある細胞から単離したDNAが他の細胞に取り込まれ、細胞染色体と組換えを起こす遺伝現象をいうが(東京化学同人 生化学辞典 第2版、416ページ〜417ページ)、現在では、プラスミドやそれに結合した遺伝子なども含めてDNA分子を直接細胞に導入することを意味する(岩波 生物学辞典 第4版、380ページ〜381ページ)。本書において、形質転換とは、ある細胞に由来するDNAを他の細胞に導入することを意味し、このとき、DNAが細胞染色体との組換えを起こしてもよいし、起こさなくてもよい。
【0046】
MRP形質転換植物には、あらゆる生長過程の植物体が含まれ、例えば、種子、カルス、芽生え、稚苗、中苗、成苗、結実、及び、これらの一部(例えば、組織切片、根、シュート)が含まれる。
【0047】
MRP形質転換植物は、MRPで形質転換される前の植物と比べて、より高い農薬耐性を有する。ここで、MRPで形質転換される前の植物は、もともと、農薬耐性を有していてもよいし、農薬耐性を全く有していなくてもよい。
【0048】
本発明の浄化方法では、工程(II)において、このように得られたMRP形質転換植物を農薬汚染土壌で生育させる。MRP形質転換植物は、農薬耐性を示すため、農薬で汚染された土壌中でも、水分や栄養を根部から取り込みながら生育することができる。土壌中の農薬は、栄養や水分と一緒に植物体内に取り込まれると考えられる。植物体内に取り込まれた農薬は、通常、植物の細胞膜上を単純拡散により通過し、細胞の中に入る。細胞中においては、グルタチオンやファイトケラチンと抱合体を作成し、その後、液胞膜上の輸送体により液胞に輸送され蓄積されると考えられる。このように、MRP形質転換植物を農薬汚染土壌で生育させることにより、土壌中の農薬を植物に取り込ませることができ、土壌を浄化することができる。
【0049】
農薬は、農作物(樹木及び農林産物を含む)を害する菌、ウイルス、虫、小動物、雑草、その他の動植物の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤、除草剤、その他の薬剤、並びに、農作物の生理機能の増進又は抑制に用いられる成長促進剤、発芽抑制剤、その他の薬剤を広く含む。農薬の中には、発癌性、神経毒性、内分泌攪乱作用、炎症作用等の有害な作用を示すものが多数存在する。本発明の浄化方法によれば、これらの農薬を広く除去することができるが、その中でも特に、除草剤を効率的に土壌中から除去することができる。
【0050】
除草剤としては、ジフェニルエーテル系除草剤、ジニトロフェノール系除草剤、トリアジン系除草剤、酸アミド系除草剤、カルバメート系除草剤、フェノキシ系除草剤等が挙げられる。本発明の浄化方法によれば、これらの除草剤を広く除去することができるが、その中でも特に、ジフェニルエーテル系除草剤、ジニトロフェノール系除草剤を効率的に除去することができる。
【0051】
ジフェニルエーテル系除草剤としては、アシフルオルフェン(5−[2−クロロ−4−(トリフルオロメチル)フェノキシ]−2−ニトロ安息香酸)、ニトロフェン(2,4−ジクロロフェニル−4−ニトロフェニルエーテル)、クロロニトロフェン(2,4,6―トリクロロフェニル―4’―ニトロフェニルエーテル)、ビフェノックス(5−(2,4−ジクロロフェノキシ)−2−ニトロ安息香酸メチル)、クロメトキシフェン(2,4−ジクロロフェニル−3’−メトキシ−4’ニトロフェニルエ−テル)及びこれらの代謝物等が挙げられる。本発明の浄化方法によれば、これらのジフェニルエーテル系除草剤を広く浄化することができるが、その中でも特に、アシフルオルフェン、ニトロフェン等を効率的に除去することができる。
【0052】
ジフェニルエーテル系除草剤は、ポルフィリン生合成阻害作用を有し、土壌処理的除草剤が多い。クロロフィル生合成系のプロトポルフィリンIX生合成、プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼを阻害する。蓄積したプロトポルフィリノーゲンIXは、光の存在下で非酵素的にプロトポルフィリンIXに酸化され、結果として活性酸素を生成して、組織に障害を与える。
【0053】
ジフェニルエーテル系除草剤は、構造的には、ジフェニルエーテル骨格を有し、クロル基・ニトロ基などを有する。このことが、不純物としてダイオキシンを含有することとなり、発癌性・催奇形性などの深刻な毒性を生態に及ぼすこととなる。本発明により、このような毒性の高いジフェニルエーテル系除草剤を除去できることは、生態にとって非常に有益である。
【0054】
アシフルオルフェンは、主に、大豆の除草剤として用いられる。Protox阻害と活性酸素の発生により作用する。プロトポルフィリノーゲンIXの蓄積(細胞質への漏出)を起こし、プロトポルフィリンIXへの酸化(自動酸化あるいは細胞質内酸化酵素による酸化)を引き起こした後、光照射下で、酸素を還元(光増感作用)することで活性酸素を生成し、組織の損傷を来す。
【0055】
ニトロフェンは、1963年に登録されてから1982年に失効するまで、主に、水田、畑で使用されていた除草剤である。ニトロフェンからダイオキシンが検出され、ラットやマウスの実験で発癌性が認められている。
【0056】
クロロニトロフェンは、1970〜1980年代を中心に主に水田除草剤として大量に使用され、深刻な水環境汚染を引き起こした。クロロニトロフェンは、ダイオキシンを含有し、発癌性、奇形性等を示す。また、土壌残留性、生物濃縮性が高い。
【0057】
クロメトキシフェンは、1750年に承認された除草剤である。ヒトに対して発癌性・神経毒性を持つ。
【0058】
ジニトロフェノール系除草剤としては、特に限定されないが、例えば、トリフルオリンが挙げられる。
【0059】
トリアジン系除草剤としては、特に限定されないが、例えば、アトラジン、アメトリン、シアナジン、シノスルフロン、シマジン、ジメタメトリン、シメトリン、チフェンスルフロンメチル、プロメトリン、ヘキサジノン、メトスルフロンメチル、メトリブジンが挙げられる。
【0060】
酸アミド系除草剤としては、特に限定されないが、例えば、プロパニル(DCPA)、アシュラム、アラクロ−ル、ジフェナミド、ナプロパミド、ブタクロール、プレチラクロール、プロピザミド、ブロモブチド、メトラクロ−ル、メフェナセット、が挙げられる。
【0061】
カルバメート系除草剤としては、特に限定されないが、例えば、クロルプロファム(IPC)、ターブカルブ(MBPMC)、スウェップ(MCC)、アシュラム、エスプロカルブ、オルソベンカーブ、カルブチレート、ピリブチカルブ、フェンメディファム、ベンチオカーブ、モリネートが挙げられる。
【0062】
フェノキシ系除草剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4−D(2,4−PA)、MCP(MCPA)、MCPB、メコプロップ(MCPP)、キザロホップエチル、クロメプロップ、トリクロピル、ナプロアニリド、フェノキサプロップエチル、フェノチオール、フルアジホップが挙げられる。
【0063】
MRP形質転換植物を生育させる方法としては、植物の種類や生長段階、気候等に応じて適当な方法を用いることができる。例えば、MRP形質転換植物を農薬汚染土壌に播種又は移植し、水、肥料(例えば、堆肥)、汚染されていない土等を適当量補給しながら所定期間生育させる。MRP形質転換植物が生長段階の初期(例えば、種子、芽生え等)である場合には、適当な条件下においてある程度(例えば、稚苗又は中苗まで)生長させた後、農薬汚染土壌に移植することが望ましい。
【0064】
本発明の浄化方法によれば、MRP形質転換植物は、例えば、0.01〜1.0M程度、好ましくは0.3〜0.5M程度のジフェニルエーテル系除草剤を含む土壌においても良好に成長し、土壌中のジフェニルエーテル系除草剤を効率的に除去することができる。また、例えば、MRP形質転換植物は、0.01〜1.0M程度、好ましくは0.3〜0.5M程度のアシフルオルフェンを含む土壌においても良好に成長し、土壌中のアシフルオルフェンを効率的に除去することができる。
【0065】
本発明の浄化方法では、工程(III)において、このように生育させたMRP形質転換植物を回収する。回収方法としては、植物種に応じて適当な方法を用いることができる。例えば、収穫機により回収する方法を用いることができる。植物の一部のみを回収してもよいが、根部を含む植物全体を回収することが望ましい。
【0066】
必要に応じて、回収前に、土壌中の農薬濃度又は植物体内の農薬濃度を測定してもよい。そして、土壌中の農薬濃度が所望の値まで低減されている又は植物体内の農薬濃度が所望の値まで増大している場合には、植物を回収し、土壌中の農薬濃度が所望の値まで低減されていない又は植物体内の農薬濃度が所望の値まで増大していない場合には、生育を続けるか又は生育と回収を繰返し実施する。
【0067】
ここで、土壌とは、地殻の最表層部分又はこれを構成する物質(例えば、土、砂、粘土質(これらは、天然物であってもよいし、人工物であってもよい))を意味する。土壌における固体、液体、気体の成分及びバランスは、MRP形質転換植物が生育可能な限りにおいて特に限定されない。土壌には、水分を多く含む湿地(例えば、河川又は湖沼のほとり、湿原、沼地、海岸、水田、干潟等)や水分量の少ない乾燥地帯の土壌も含まれる。また、人工埋立地も、本発明の浄化方法が適用される土壌に含まれる。
【0068】
本発明の浄化方法の適用対象となる土壌は、農薬に汚染されている又は汚染されている可能性が高い土壌であり、例えば、農地、ゴルフ場、牧場、住宅地、商業用地、工業用地、その跡地又は予定地等が含まれるが、これらに限定されない。
【0069】
回収後、さらに、農薬を取り込んだMRP形質転換植物を焼却、灰回収、微生物処理等により処分することが望ましい。
【0070】
さらに、本発明は、MRPをコードする遺伝子を植物細胞に導入する工程を包含する、植物に農薬耐性を付与する方法をも提供する。本発明の方法により農薬耐性が付与された植物は、例えば、0.01〜1.0M程度、好ましくは0.3〜0.5M程度のジフェニルエーテル系除草剤存在下において良好に成長することができる。また、本発明の方法により農薬耐性が付与された植物は、例えば、0.01〜1.0M程度、好ましくは0.3〜0.5M程度のアシフルオルフェン存在下において良好に成長することができる。
【発明の効果】
【0071】
本発明の浄化方法によれば、MRP遺伝子を植物細胞に導入することにより得られたMRP形質転換植物を用いて、農薬汚染土壌を効率的に浄化することができる。
【0072】
本発明の浄化方法では、プラントマスが大きい植物を用いることができるため、微生物を利用する方法と異なり、回収が極めて容易であり、また、植物の繁殖を容易にコントロールすることができるため、外来種の異常繁殖を回避することができる。
【0073】
本発明の浄化方法を用いれば、界面活性剤等を利用する方法と異なり、薬物による土壌の二次汚染を回避することができる。
【0074】
本発明の浄化方法は、高価な設備投資やランニングコストを必要としないため、安価な浄化方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0075】
以下、本発明の実施例を示す。実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明を何ら限定するものではない。また、本書に記載の各操作については、本書においてその全体が援用されるMolecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed.,(Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989)を参照することができる。また、各操作は、適宜、改変又は省略されてもよいし、必要な操作が追加されてもよい。
【実施例1】
【0076】
hMRP1プラスミドの構成的発現用コンストラクトの作製
ヒトMRP1(hMRP1)遺伝子全長を含むプラスミドpJ3−MRP1は、京都大学大学院農学研究科の植田和光教授よりご分与いただいた(Kazumitsu Ueda et al., FEBS Letter Volume 401, Issue 1 , 13 January 1997, Pages 11−14)。pJ3−MRP1からバイナリーベクターであるpBin−El2−GUSにサブクローニングすることにした。pBin−El2−GUSは、CaMV 35S プロモーターをタンデムエンハンサーEL2でドライブし、植物選択マーカーとしてはハイグロマイシン耐性遺伝子をコードする配列を有している。このとき、前処理としてPJ3−MRP1の5’および3’側の制限酵素サイトを改変する必要があった。それぞれ制限酵素処理を行った後、5’末端にはXbaI、3’末端にはSacI配列を含むリンカーとライゲーションし、5’末端のSalIサイトをXbaIに、3’末端のNotIサイトをSacIに改変した。改変したpJ3−hMRP1とpBin−El2−GUSをそれぞれXbaI、SacIサイトで切断したのち、ライゲーションを行い、GUS遺伝子部分をhMRP1に置き換えた。こうして得られたpBin−El2−hMRP1をエレクトロポレーション(GIBCO(Invitogen),Carlsbad,CA,USA)によりAgrobacterium tumefaciens(LBA4404)に導入した。
【0077】
タバコの形質転換
タバコは、Nicotiana tabacum(cv.Samsun NN)を用いた。アグリポットにおいて無菌で約10cm程度に生育したタバコの葉を形質転換に用いた。約1cm角にメスで切ったタバコの葉(切片)を、A.tumefaciensの培養液に浸し、キムタオルで軽く脱水後、表面に濾紙をのせたカルス誘導培地(10−5M naphthaleneacetic acid、10−6M kinetinを含む1/2MS培地)に葉の裏を上にしてのせ、25℃、明所で2日間共存培養させた。その後、250μg/ml ハイグロマイシン、300μg/ml クラフォランを含む同組成の培地に移した。培地は2週間ごとに新しいものと交換した。切片の切口からカルス化もしくはシュート化がはじまってきたものについては、naphthaleneacetic acidフリーの同組成培地に移植し、発根を促した。発根したら、ホルモンフリーの培地に移し、植物体はアグリポットで育てた。植物体は実験に用いるまでハイグロマイシンを加えた培地を用いて選択圧をかけ、選抜を続けた。
【0078】
ノザン解析によるhMRP1発現解析
形質転換体タバコ植物体の葉を各0.3gずつサンプリングした。その葉を液体窒素中で急速冷凍させてから、aurintricarboxylic acid(ATA)法を用いてTotal RNAを抽出した。ノザン解析には、10μgのTotal RNAを使用した。プローブとしては、hmrp1(3.0kb)のBamHI/EcoRIフラグメントを用いた。また、発現補正用としてどの個体でも恒常的に発現している18S rDNAを用いた。
【0079】
ウェスタン解析によるhMRP1発現解析
タンパク質抽出は、すべて4℃で行った。タバコの葉(0.5g)を1.5mlのバッファー(0.1% BSA、1mM PMSF、2mM DTT、1%(w/v) PVPP、0.1mg/ml butylated hydroxytoluene、0.25M sucroseを含む50mM HEPES−KOH(pH7.5))と共に乳鉢ですりつぶした。ミラクロス(Merck)でフィルター濾過を行い、残渣を除去した。続いて、7,000gで15min遠心し上清を回収、さらに100,000gで30min超遠心(TL−100,Beckman)を行い沈殿を回収した。沈殿はバッファー50μl(2mM EDTA、250mM sucrose、1%(w/v)Triton X−100を含む5mM Tris−HCl(pH7.2))に懸濁した。タンパク質を30μgアプライし、SDS−PAGEを行った。同じゲルを2枚作成し、一方は通常のタンパク質検出法であるCBB染色を行い、一方をウェスタンブロットに使用した。ウェスタンブロット用のゲルは、Semi−dry transfer cell(Bio−Rad)を用いてPVDF膜(Millipore)に転写した。次に、その膜を一次抗体MRPr1(Nichirei、3,000倍希釈)と反応させ、続いて2次抗体Anti−rat IgG(H+L)peroxidase conjugate(Calbio、3,500倍希釈)と反応させた。最後にRenaissance western blot chemiluminescence reagent plus (NEN Life Science)によって2次抗体を発色させ、X線フィルムを用いてシグナルを検出した。
【0080】
アシフルオルフェン耐性試験
hMRP1遺伝子をタバコに導入、高発現させた。ノザン解析およびウェスタン解析によりhMRP1遺伝子の発現が確認できた固体について、アシフルオルフェン耐性を検定した。アシフルオルフェン(0M、0.2M、0.4M)を含む1/2MS 寒天プレート培地に、野生株およびhMRP1形質転換体の滅菌した種子を約30個ずつ旛種した。寒天プレート培地は、グロースチャンバーに入れ、25℃、明期16時間、暗期8時間周期の条件下で、5週間静置培養を行った。
【0081】
結果と考察
その結果、0M、0.2Mにおいては、WTとhMRP1に差はみられないが、0.4Mでは生育状態が著しく異なっている(図1)。野生株は種子のままのものが多く、シュート形成には至らなかったのに対して、hMRP1形質転換体では半数以上がシュートを形成し、アシフルオルフェンによる生育妨害はみられなかった。このことからhMRP1形質転換体は、野生株と比較して優れたアシフルオルフェン耐性を有していることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、アシフルオルフェン存在下で生育させた野生株及びhMRP1形質転換体の芽生えの写真である。左が野生株(WT)、右がhMRP1形質転換体(hMRP1)である。右端の数値はアシフルオルフェンの濃度である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)マルチドラッグレジスタンスアソシエーテッドプロテイン(multidrug resistance−associated protein;MRP)をコードする遺伝子を植物細胞に導入することにより、MRP形質転換植物を得る工程、
(II)工程(I)において得られたMRP形質転換植物を農薬汚染土壌で生育させる工程、及び、
(III)工程(II)において生育させたMRP形質転換植物を回収する工程、
を包含する、農薬汚染土壌の浄化方法。
【請求項2】
農薬が除草剤である、請求項1に記載の浄化方法。
【請求項3】
除草剤が、ジフェニルエーテル系除草剤、ジニトロフェノール系除草剤、トリアジン系除草剤、酸アミド系除草剤、及びカルバメート系除草剤からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の浄化方法。
【請求項4】
ジフェニルエーテル系除草剤が、アシフルオルフェン、ニトロフェン、クロロニトロフェン、ビフェノックス、及びクロメトキシフェンから成る群より選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の浄化方法。
【請求項5】
マルチドラッグレジスタンスアソシエーテッドプロテイン(multidrug resistance−associated protein;MRP)をコードする遺伝子を植物細胞に導入する工程を包含する、植物に農薬耐性を付与する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−319056(P2007−319056A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−151562(P2006−151562)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】