説明

迅速応答ガス検出素子

ガス検出素子および検出素子を製造する方法が開示される。一実施態様では、検出素子は、ゾルゲルマトリックスに埋め込まれたチトクロームCを含む。ゾルゲルマトリックスは、薄膜またはモノリスである。タンパク質濃度、ゾルゲル孔サイズ、および、モノリス態様のための表面積、ゾルゲル成分、および処理温度を含むそうした検出素子を作るためのパラメーターが開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願とのクロスリファレンス
この出願は、同時に出願継続中の2005年2月5日出願の米国特許出願第11/053、253号明細書の一部継続出願であり、そしてそれによって全ての目的のための法律的にそこから得ることができる優先権の利益を主張する。出願第11/053、253号明細書の内容は、参照によりそれらの全部を本明細書中に取り込む。
【0002】
この発明は、ガス状の物質の濃度を測定する検出素子に関する。
【背景技術】
【0003】
被験者の呼気の分析は、多くの状況での診断および管理の用途での貴重な診断ツールである。呼気中の一酸化窒素(NO)濃度の変化は、例えば、ぜんそく患者の気道中の炎症のレベルの変化を示すことができ、該炎症は次にぜんそく発作の可能性の高まりを同様に示すことができる。過剰一酸化炭素(CO)は溶血性黄疸を示すことができ、そして高レベルの水素は炭水化物の吸収不良を示すことができる。
【0004】
種々のセンサーが、異なるガス状検体の濃度を測定するために開発されてきた。これらのセンサーのいくつかは生物活性物質中の変化を検出して測定し、それ故に検体に応答する"化学変換器"と呼ぶことができる。化学変換器、または検出素子は、状態または他の特性の検出可能な変化を受けるセンサーの化学的構成部分であり、測定可能な変化とは、直接測定されることができるものである。そうしたセンサーの一つは、NOに応答してゾルゲルでカプセル化されたチトクロームCにおける光学的に定量化可能な変化を測定する。このセンサーおよび関連技術は、以下の米国特許出願公開および特許に開示され、その開示は参照により本明細書中に取り込まれる:2004年1月29日公開の米国特許出願公開第2004−0017570Al号明細書;2002年12月30日出願の出願第10/334、625号明細書);2005年3月10日公開の米国特許出願公開第2005−0053549Al号明細書(2003年9月10日に出願された出願第10/659、408号明細書);および2005年4月21日公開の米国特許出願公開第2005−0083527Al号明細書(2004年1月28日出願の出願第10/767、709号明細書) ;1998年8月18日発行の米国特許第5、795、187号明細書;および2000年1月4日発行の米国特許第6、010、459号明細書。この段落に列記された特許および特許出願のそれぞれの開示を、参照により本明細書中に取り込む。
【0005】
微量レベルのガス状検体の検出用で商業的に成長できるセンサーは、検体に迅速に応答する検出素子を有していなければならない。微量ガスへの迅速な応答は、ガスが検出素子に到達することを直ちに可能にし、素子に接触するガス分子の数に比例して大きな信号を発生し、そして検出される検体への高い特異性を示すセンサーを必要とする。検出素子は、例えば、特異的に検体に結合し、そして結合の結果として、直接検出および測定可能であるタンパク質の光学的吸収スペクトルにおける変化を受ける光学的に活性タンパク質を含んでもよい。タンパク質は、それらの並外れた特異性および効率的な変換(すなわち、光学吸収等の信号発生)によって特に有用な検出素子である。したがって、適用可能な場合、タンパク質は、多くの場合微量ガスの分析ための好ましい変換器である。
【0006】
タンパク質に基づくガスセンサーを開発する上で考慮することは以下のものを含む: a)その活性の保持(すなわち、タンパク質の変性を防ぐこと)を伴うタンパク質の固定化またはカプセル化、b)貯蔵の間にタンパク質の活性を保ち、そしてタンパク質へのサンプルガスの用意が整ったアクセスを提供するのに充分な孔を有する支持マトリックス(すなわち、母材)の選択、c)最適なタンパク質濃度の決定、すなわち、検体に強い応答をするほど充分高いが、マトリックスを通って移動するサンプルガスをタンパク質が妨げるほど高くない濃度、およびd)タンパク質が最も効率的に検出機能を果たすタンパク質の状態の決定。
【0007】
タンパク質は、折りたたみ構造の喪失またはペプチド結合の破裂による活性を失うことなく、母材(支持マトリックス)中に固定化されるのが好ましい。それぞれのタンパク質は、変性に対して異なる感受性を有し、そして多くの因子により変化する感度を有するであろう。これらは、支持マトリックスの調製の間に維持されるpH、特にマトリックスがゾルゲルである場合には、溶媒の選択および濃度、イオンおよび添加物の濃度、並びにタンパク質の固定化の間に母材中で課せられた最終的な温度を含む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
母材は(i)タンパク質と適合性があり、(ii)その表面上に適当な化学的官能性を有し、(iii)センサーへのおよびセンサーからの迅速な検体の拡散を可能にする程充分高い多孔率を有し、そして(iv)検出に使用される検出方法に好適であることが好ましい。適合するために、母材は固定化したタンパク質に悪影響を及ぼす反応が可能ななんらかの化学的官能性を有してはならず、また母材はタンパク質に悪影響を及ぼす反応をする生成物に分解してはならない。化学的活性に加えて、表面の化学的官能性(例えば親水性または疎水性)は、タンパク質に本来備わっている機能の損失を生じさせるほどの大きいタンパク質構造の変化を引き起こしてはならない。最後に、母材はガス状の検体がタンパク質に迅速に拡散することを可能にし、そして検体、またはタンパク質と反応性である検体の好ましくない反応性副生成物が母材の外に拡散することを可能にするのに充分な多孔性であるのが好ましい。さらに、母材の孔サイズは、タンパク質が当初または母材の後処理中のいずれかで変性することなく内側にとどまれる程充分大きいのが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ガス検出素子および検出素子を製造する方法にある。一実施態様では、検出素子は、ゾルゲルマトリックスに埋め込まれたチトクロームCを含む。ゾルゲルマトリックスは、薄膜またはモノリスの形をとってもよい。本発明は、微量ガス分析ために効果的な結果を与える検出素子を作るための種々のパラメーターの使用および調整にある。これらのパラメーターは、タンパク質濃度、ゾルゲル孔サイズ、および、モノリスで形成された素子のためのモノリスの表面積を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の一実施態様では、チトクロームCは、約15体積%〜約40体積%の濃度のメタノール、約0.02N 〜約0.2Nの濃度のアンモニア触媒と共にゾルゲルガラスに取り込まれ、そして約55℃以下の温度に保持される。プレポリマーは溶液中に含まれ、そしてタンパク質は、プレポリマーが重合するにつれてタンパク質の周りに形成するポリマーネットワーク内に封じ込められることによって、固定化される。
【0011】
生じたゾルゲルは、多孔性および親水性であり、充分な水を保持し、そしてタンパク質の変性温度を超える温度においてさえチトクロームCの安定性を促進する充分に制約された孔配置を有する。溶液中のタンパク質の変性温度は文献中で報告され、そして本発明に従って支持マトリックス中でカプセル化された場合、タンパク質は、この温度より15〜20℃上で機能性を保つ。ゾルゲルの孔幅(孔直径とも言われる)は、好ましくは3.0〜6.0nm、および最も好ましくは3.5〜5.8nmの範囲であり、そして表面積は、好ましくは約550m/g 〜約650m/gの範囲である。
【0012】
最適なタンパク質の濃度は、検出される微量ガスの予想濃度、センサーマトリックスのアスペクト比、マトリックスの平均孔幅、および検出方法によって決定される。検出方法の例は、光学的吸収分光法、蛍光法、および化学発光法、並びに電量法、電位差測定法、電気抵抗法、および圧電法である。
【0013】
微量ガス分析で、特に予想された検体濃度がタンパク質濃度に近いかまたは同じ桁数である場合に、マトリックスで保持可能な最大のタンパク質の濃度が、迅速且つ正確な分析の目的ために最適なタンパク質濃度であることはほとんど無い。長距離接続が浸透限界を超えていて制限される場合、多孔性媒体中の拡散は経路長に依存できるため、最適なタンパク質の濃度は母体マトリックスのアスペクト比で変化してもよい。特にタンパク質のサイズが孔幅と同じ桁数である場合には、過度のタンパク質濃度は検体の輸送を制限できる。
【0014】
最適なタンパク質濃度は、孔幅、媒体のねじれ、タンパク質のサイズ、およびポリマーネットワークの形成の間のタンパク質の束一的性質の関数である。高いタンパク質濃度はまた、バックグラウンドのレベルおよび信号対雑音比に影響できる。検出が光学的吸収スペクトルによって行われる場合、低すぎるタンパク質濃度では、例えば、非常に高いバックグラウンド光レベルと弱い信号を生じるであろうし、高すぎるタンパク質濃度では、貧弱な信号対雑音比、および(温度コントロール、光退色、検体濃度への非直線的応答ほか等の)光源出力を増加させる必要性と関係した他の潜在的な問題を生じるであろう。下記に説明するように、本発明のある態様でのチトクロームC/ゾルゲル検出素子ために好ましい最終的なキセロゲル濃度は、ほぼ20mg/cc〜27mg/ccの範囲にある。他の態様では、好ましい最終のキセロゲル濃度は、ほぼ8mg/cc〜15mg/ccの範囲内、最も好ましくはほぼ10mg/cc〜12mg/ccの範囲内、特に好ましくは約10mg/ccの値である。
【0015】
検出素子は薄膜の形であることができる、そして一実施態様ではこのフィルムは、約1mM(約12mg/cc)以下のチトクロームC濃度を有する約600nmの厚さである。直線寸法で約2.2倍のゾルゲルの収縮、およびゾルゲルの表面の法線方向だけで起こる薄膜の収縮により、タンパク質濃度は、生じたキセロゲルフィルム中で約2.2mMまたはチトクロームCの26.4mg/ccまで上昇する。
【0016】
別の態様では、ゾルゲルは、モノリスであり、好ましくは400nmで約2.8の吸光度のピーク光学密度を有する。本発明の実施において、モノリスは、200ppb以下、好ましくは100ppb以下、そして最も好ましくは50ppb以下のNOレベルで呼気中の一酸化窒素を検出する。検出限界内で、モノリスはNOが存在しないことを示すことができ、またある場合にはモノリスは5ppbまたは10ppbの下限を示すことができる。0.092mMまたは1.1mg/ccのチトクロームCを含有する溶液から調製されるモノリスは、50ppb未満の濃度の一酸化窒素に迅速に、すなわち、1分間未満で反応する。チトクロームCの溶液濃度が0.46mMまたは5.7mg/ccに高められる場合、応答速度はより低い濃度でのそれらの値の約1/10まで減速する。好ましいモノリスは、3.0nm〜6.0nm、好ましくは3.5nm〜5.8nmの孔幅、そして約550〜約650m/gの表面積を有する孔ネットワークを有する。0.092mMチトクロームC溶液からのモノリスの硬化および乾燥の間の収縮により、チトクロームCの濃度は(2.2)×0.092=0.98mMまたは(2.2)×1.1=11.71mg/ccまで上昇する。これらの濃度は、迅速な応答モノリスを可能にするチトクロームCの最大の濃度に近づくが等しくはならない。この点を考慮して、微量ガス感知センサーのための迅速応答性薄膜およびモノリス中のチトクロームCの最大許容濃度は、いずれも最終のキセロゲル状態で2mMまたは約25mg/ccに近い。"微量ガス"の語は、ppb範囲、好ましくは、上で述べたように、50ppb以下の濃度におけるガスを意味するために本明細書中で使用される。
【0017】
タンパク質濃度が減少する場合、タンパク質中の折りたたみが減少する。この状態で、モルテン・グロビュール状態として当技術分野で公知の、タンパク質のヘムコアの軸配位子の1つが鉄中心から平均してさらに除かれ、考えられる効果は、タンパク質が開放して、一酸化窒素結合へのより大きいアクセスを提供することである。本発明による発見は、タンパク質の折りたたみの程度および保持された水の量を増加させるプロセスパラメーターにおける変化がセンサーの応答性も減少させるということである。例えば、5および10倍にタンパク質濃度を増加させることが、タンパク質をさらに折りたたまれた状態にし、そして一酸化窒素への反応速度を減少させると観察される。
【0018】
要約すれば、より高い濃度でのタンパク質のより高い束一的な性質が、孔ネットワーク目詰まりを増やし、そしてタンパク質とガラスとのより低い相互作用を引き起こすので、比較的低いタンパク質濃度は、この発明の実施において有益である。目詰まりしたネットワークは、薄膜またはモノリスを通した検体ガスの移動性を減少させ、そして増加したタンパク質の込み具合と水和はチトクロームCへの一酸化窒素の結合の速度を減少させる。
【0019】
当業者は、本発明が制約の無い具体的な説明の目的のために本明細書中に存在する好ましい態様以外によって行われることが可能であることを認識するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼気のサンプル中の200ppb以下の濃度の一酸化窒素を検出するための方法であって、該方法は、
ガス相中の該呼気とポリマーのマトリックス中でカプセル化されたチトクロームCを含むキセロゲルモノリスとを接触させること、
ここで、該キセロゲルモノリスは、チトクロームC1mg/cc〜40mg/ccの濃度、3.0nm〜6.0nmの孔直径、および550m/g〜650m/gの表面積を有し;
該一酸化窒素の該チトクロームCへの結合の指標として、該モノリスの光学特性の変化を検出すること;そして
そのように検出されたあらゆる変化と、該呼気中で一酸化窒素の該濃度とを関連付けること、
を含んでなる。
【請求項2】
該呼気中の該一酸化窒素濃度が、100ppb以下である請求項1の方法。
【請求項3】
該呼気中の該一酸化窒素濃度が、50ppb以下である請求項1の方法。
【請求項4】
該孔直径が、3.5nm〜5.8nmである請求項1の方法。
【請求項5】
該チトクロームC濃度が、20mg/cc〜27mg/ccである請求項1の方法。
【請求項6】
該チトクロームC濃度が、25mg/cc以下である請求項1の方法。
【請求項7】
該チトクロームC濃度が、8mg/cc〜15mg/ccである請求項1の方法。
【請求項8】
該チトクロームC濃度が、10mg/cc〜12mg/ccである請求項1の方法。
【請求項9】
該モノリスが、400nmで約2.8の吸収単位のピーク光学密度を有する請求項1の方法。
【請求項10】
該光学特性が、吸光度である請求項1の方法。

【公表番号】特表2008−530527(P2008−530527A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−554189(P2007−554189)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【国際出願番号】PCT/US2006/003579
【国際公開番号】WO2006/086197
【国際公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(507261548)アピーロン インコーポレイティド (4)
【Fターム(参考)】