説明

近接場光分布伝送素子

【課題】超解像近接場をより自由度の高い波長条件下でより長距離伝送することができるようにし、また、単に像を等倍に伝送するのみならず、像を拡大して伝送することができるようにして、近接場画像の処理技術の向上を図る。
【解決手段】誘電率εが周囲媒質の誘電率εに対して「ε≦−ε」である所定の材料により少なくとも外周部位を形成された微小ロッドを、2次元平面に対して軸方向がそれぞれ所定の方向に延長するようにして、上記2次元平面上に互いに所定の間隔を開けて複数立設するように配置し、上記複数立設するように配置した微小ロッドの一方の端部側へ近接場光を入射するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接場光分布伝送素子に関し、さらに詳細には、物質のイメージングを行う際に用いて好適な近接場光分布伝送素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、光は、大気中を伝搬し、かつ、紫外から赤外まで幅広い帯域で物質情報を伝えることができ、また、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡とは異なり、大気中や水中でも物質のイメージングが可能なプローブとして知られている。
【0003】
こうした光を用いたイメージングは、例えば、生きた細胞のサブ波長レベルの観察を行うことを要求されるバイオサイエンスなどの分野においても、極めて重要な技術であると認識されている。
【0004】
しかしながら、従来の光を用いたイメージングにおいては、光の波動性に起因する解像力の限界が存在するという問題点があった。即ち、光による像の解像は、光の回折現象のため高々波長オーダーのサイズ(数百nm)が限界であった。
【0005】
このように、通常の顕微鏡的手法では、波長オーダーを超える空間分解能を得ることは困難であり、特に、近接場光が関与する物体表面近傍に局在するフォトンが担うサブ波長オーダーの微細構造情報を画像化するためには、プローブ走査に時間を要する近接場顕微鏡(NSOM)が必要であった(非特許文献1参照)。
【0006】
このNSOMは、あくまで近接場光分布のプローブ走査による画像化や分析を行うことを目的として開発されたものであり、こうした情報を伝送したり並列的な処理を加えたりするなどの用途に適するものではない。
【0007】
つまり、サブ波長オーダーの微細構造情報を画像化するための装置としては、従来よりNSOMが用いられていたが、サブ波長の近接場画像を伝送する手法は提案されておらず、こうした手法の提案が強く望まれていた。
【0008】

ところで、近年、厚さ数十nmの金属薄膜は超高解像度のレンズとして作用するという理論的提案がなされ(非特許文献2参照)、最近になって実験によりその有効性が確認されている(非特許文献3参照)。
【0009】
しかしながら、上記した非特許文献2および非特許文献3に開示された手法は、厚さ数十nm程度の極めて薄い金属膜を用いた像形成の手法であり、動作周波数や当該金属膜の膜厚条件などの制約が極めて厳しく、リソグラフィなどの実際の応用においては多くの技術的困難が存在するとともに、金属の損失による画像のぼけも避けらないという問題点があった。
【0010】
一方、金属ナノワイヤを用いて電子の波として光波を伝送する手法も提案されているが(非特許文献4参照)、この手法においてもリソグラフィなどの実際の応用において多くの技術的困難が存在するという問題点が指摘されていた。

【非特許文献1】S.Kawata et al.ed.”Nano−Optics”,Springer series in optical science(2002)
【非特許文献2】J.B.Pendry,Phys.Rev.Lett.85,3966(2000)
【非特許文献3】N.Fang,et al.Science,308,534(2005)
【非特許文献4】J.Takahara,et al.Opt.Lett.22, 475 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記したような従来の技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、超解像近接場光をより自由度の高い波長条件下でより長距離伝送することができるようにした近接場光分布伝送素子を提供しようとするものである。
【0012】
また、本発明の目的とするところは、単に像を等倍に伝送するのみならず、像を拡大して伝送することができるようにして、近接場画像の処理技術の向上を図ることができるようにした近接場光分布伝送素子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、紫外から遠赤外にわたる電磁波域において、その波長に比較し非常に小さな径の微小ロッド(例えば、金属よりなるものであるが円柱形状に限らない。)を所望のパターン(例えば、正方的または六方稠密である。)に配列したアレイを形成し、当該微小ロッドの一方側の端面と結合する近接場光を数十nmから波長オーダー以上の長さの当該微小ロッドの他方側の端面に効率よく伝搬させるようにしたものである。
【0014】
また、本発明は、微小ロッドを軸方向に分割して、微小ロッドを軸方向に複数連結したアレイ構造を形成し、短波長により長距離伝搬を可能にしたものである。
【0015】
こうした本発明の伝送モードは共鳴を用いており、本発明によれば、超高解像度のイメージングや近接場光の2次元長距離光伝送を実現することができるものであり、近接場光分布を波長オーダー以上の長さの距離に伝送することができるようになる。
【0016】
即ち、本発明は、光の回折による波長の限界を越えて、光を使いながらもナノサイズのイメージングを行うことが可能なものであり、従来とは全く異なる新規な原理に基づく手法を提供するものである。こうした本発明によれば、従来の手法では達成し得なかった伝搬距離における近接場像情報を伝送することができ、また、伝送した情報を記録することができるようになり、それによるパターニング応用や回折限界以下のサブ波長領域のイメージング、さらには微小ロッドを軸方向に複数連接する場合に、当該微小ロッドの配列が後段側が拡開するように配置することにより、伝搬した像を拡大することができるなどの作用効果が得られる。
【0017】
換言すれば、本発明は、例えば、銀よりなる直径がナノメートルオーダーの円柱などの金属ナノ構造体よりなる微小ロッドの軸方向の電子の振動(局在プラズモン)を利用して、微小ロッドにより波長を遙かに下回る分解能の画像情報を伝送することができるものであり、ナノメートル領域での光の新しい応用技術開発への重要な貢献をなすものである。
【0018】
なお、これまでナノマテリアルといえばカーボン系か半導体系あるいは有機分子材料に限られていたが、本発明により、金属ナノ構造体がナノマテリアルの有力な材料の1つであることが明らかになった。
【0019】

以下、本発明の理解を容易にするためにその原理について説明するが、本発明は、光の波動性に起因する解像力の限界を超えて、ナノメートルオーダーの画像の伝送を行うことを可能にするものであって、例えば、銀よりなる直径がナノメートルオーダーの円柱を2次元的に並べた配列(以下、「2次元金属ナノ円柱配列」と適宜に称する。)を用いて、2次元金属ナノ円柱配列の軸方向の一方側の端部から他方側の端部へ波長の限界を越えて完全に情報を伝達することができるようにしたものである。
【0020】
ここで、例えば、銀よりなる直径がナノメートルオーダーの円柱状の金属ナノ構造体に近接場光を入射すると、金属ナノ構造体の表面に局在表面プラズモンポラリトンが誘起される。近年、表面プラズモンポラリトンを利用したナノイメージング、ナノリソグラフィあるいはプラズモニック結晶などの研究が盛んに行われており、ナノプラズモニクスという新しい研究分野として注目されている。
【0021】
即ち、ナノフォトニクスにおいて、光をナノメートルオーダーの領域に閉じこめるための有望な方法の一つに表面プラズモンポラリトン(SPP:Surface Plasmon Polariton)の利用がある。表面プラズモンポラリトンは、金(Au)や銀(Ag)に代表される貴金属の内部における自由電子の集団的な振動現象であるプラズモンが、金属表面において外部の光と相互作用して表面に強く閉じこめられた状態で伝搬する波となったものである(図1参照)。もし金属が小さく閉じた形状、例えば、数〜数十nmの直径の球や円柱形状になると、この表面プラズモンポラリトンは容易に光と結合し、微小な領域に光を閉じこめることができる。これは局在表面プラズモンポラリトンと呼ばれ(図2参照)、その共鳴を介して特定の色の光を強く散乱し、ステンドグラスの発色などの原因となることが良く知られている。
【0022】
本発明は、特に、直径がナノメートルオーダーの柱状体よりなる微小ロッド、例えば、金属よりなる直径がナノメートルオーダーの円柱状の微小ロッド(以下、「金属ナノ円柱微小ロッド」と適宜に称する。)における、この現象の近接場光との相互作用に着目したものである。
【0023】
ここで、近接場光は、通常の光のように遠方に伝搬せず物体の表面にまとわりついた光であると言え、光の波長を遙かに下回るサイズの物質の微細構造に関する情報を担っている。上記した金属ナノ円柱微小ロッドにおける局在表面プラズモンポラリトンの円柱軸方向の振動は、この近接場と特に強く相互作用するので、図3を参照しながら後述するように金属ナノ円柱微小ロッドを2次元あるいは3次元的に配列することにより、配列の一方の端面側における近接場光の分布を円柱軸に沿った共鳴的な電子振動(局在表面プラズモンポラリトン)に変換して他方の端面側に送ることで、一種の並列的なイメージング法が実現できるものである。本発明は、こうした原理に基づくものである。
【0024】

即ち、本発明のうち請求項1に記載の発明は、誘電率εが周囲媒質の誘電率εに対して「ε≦−ε」である所定の材料により少なくとも外周部位を形成された微小ロッドを、2次元平面に対して軸方向がそれぞれ所定の方向に延長するようにして、上記2次元平面上に互いに所定の間隔を開けて複数立設するように配置し、上記複数立設するように配置した微小ロッドの一方の端部側へ近接場光を入射するようにしたものである。
【0025】
また、本発明のうち請求項2に記載の発明は、本発明のうち請求項1に記載の発明において、上記微小ロッドは略円柱形状であるようにしたものである。
【0026】
また、本発明のうち請求項3に記載の発明は、本発明のうち請求項2に記載の発明において、上記微小ロッドの直径は、上記微小ロッドへ入射される近接場光の波長の略1/2以下であるようにしたものである。
【0027】
また、本発明のうち請求項4に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2または3のいずれか1項に記載の発明において、上記所定の間隔は、上記微小ロッドの周囲にしみ出す電場が隣接する上記微小ロッドに結合しない距離であるようにしたものである。
【0028】
また、本発明のうち請求項5に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2、3または4のいずれか1項に記載の発明において、上記微小ロッドの長さは、10μm以下であるようにしたものである。
【0029】
また、本発明のうち請求項6に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載の発明において、上記周囲媒質は、「ε≧1」である誘電体または半導体であるようにしたものである。
【0030】
また、本発明のうち請求項7に記載の発明は、本発明のうち請求項6に記載の発明において、上記誘電体は、ガラス、SiOまたはAlであり、上記半導体は、Si、GaAs、GaNまたはAlAsであるようにしたものである。
【0031】
また、本発明のうち請求項8に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2、3、4、5、6または7のいずれか1項に記載の近接場光分布伝送素子において、上記所定の材料は、Ag、Au、Cu、Al、NiまたはPtであるようにしたものである。
【0032】
また、本発明のうち請求項9に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2、3、4、5、6、7または8のいずれか1項に記載の発明において、上記微小ロッドを所定の間隙を開けて軸方向に複数連接したものである。
【0033】
また、本発明のうち請求項10に記載の発明は、本発明のうち請求項9に記載の発明において、上記所定の間隙は、30nm以下であるようにしたものである。
【0034】
また、本発明のうち請求項11に記載の発明は、本発明のうち請求項9または10のいずれか1項に記載の発明において、上記軸方向に複数連接した上記微小ロッドは、上記2次元平面に対する軸方向が異なる方向に延長したものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、超解像近接場をより自由度の高い波長条件下でより長距離伝送することを可能にした近接場光分布伝送素子を提供することができるという優れた効果が奏される。
【0036】
また、本発明によれば、単に像を等倍に伝送するのみならず、像を拡大小して伝送することが可能になり、近接場画像の処理技術の向上を図ることのできる近接場光分布伝送素子を提供することができるという優れた効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による近接場光分布伝送素子の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0038】

まず、図3には、本発明による近接場光分布伝送素子の第1の実施の形態の概念構成斜視説明図が示されている。
【0039】
この近接場光分布伝送素子10は、誘電率εが「ε≧1」である誘電体や半導体などの周囲媒質12中に、直径dがナノメートルオーダー(例えば、20nmである。)であり、かつ、軸方向の長さ(Z方向に沿う高さ)hがナノメートルオーダー(例えば、50nmである。)である銀(Ag)よりなる中実の、例えば、円柱形状の微小ロッド14を、XYZ直交座標系における2次元平面であるXY平面に対して軸方向がそれぞれZ方向に延長するようにして、XY平面上に互いに所定の間隔g(間隔gは、微小ロッド14の周囲にしみ出す電場が隣接する微小ロッド14に結合しない距離である。例えば、周囲媒質12の屈折率が1であり、直径dが20nmである場合には、間隔gは40nm以上である。なお、この場合には、間隙gは、隣合う微小ロッド14の中心から中心までの距離である。)を開けて複数立設するように配置して構成されている。
【0040】
そして、これら複数立設するように配置した微小ロッド14の一方の端部14a側へ、近接場光を入射するように構成されている。
【0041】
この図3に示す近接場光分布伝送素子10は、上記した微小ロッド14をXY平面上に一層に配列化したものである。
【0042】

以上の構成において、近接場光分布伝送素子10においては、微小ロッド14の一方の端部14a側に近接場光が入射されると、微小ロッド14の一方の端部14a側から他方側の端部14bへ、近接場光に含まれる情報を波長の限界を越えて伝達することができる。
【0043】
ここで、本願発明者は、近接場光分布伝送素子10の微小ロッド14の直径d、微小ロッド14の長さh、間隔gおよび周囲媒質12の屈折率などの素子パラメータや光源の周波数を変化させた際のイメージ伝送効率の関係について、3次元有限差分時間領域(Finite−Difference Time−Domain:FDTD)法と呼ばれる数値計算シミュレーションを行った。
【0044】
この3次元有限差分時間領域法による数値計算シミュレーションにおいては、数百nm立方のモデル空間を1nmのメッシュに区切り、金属部分はDrudeモデルという自由電子金属を仮定して、実際の金や銀に近い条件で計算を行った。光源としては、入力側である一方の端部14a近傍に微小ロッド14の軸方向と同じ方向に振動する双極子振動子としてZ−偏光双極子(Z−polarized dipoles)を配置した。
【0045】
以下、上記した3次元有限差分時間領域法による数値計算シミュレーションの結果について説明する。
【0046】

まず、図4には、複数の微小ロッド14たる複数の銀ロッド(Ag rods)の直径dが20nmであり、微小ロッド14の長さhが50nmであり、間隔gが40nmである近接場光分布伝送素子10の数値計算シミュレーションの結果が示されている。
【0047】
なお、図4において、(a)は近接場光分布伝送素子10の構成を示している。また、図4において、(a)の下方には近接場光分布伝送素子10に対する各面の位置関係の説明図が示されており、(b)は近接場光分布を示す物体面(Object plane)を示し、(c)は微小ロッド14の一方の端部14aに位置する面を示し、(d)は微小ロッド14の長さ方向の中間に位置する面を示し、(e)は微小ロッド14の他方の端部14bに位置する面を示し、(f)は像面(Image plane)を示し、(g)は焦点はずし面(Out of focus)を示している。
【0048】
この図4に示されているように、微小ロッド14の一方の端部14aにおける近接場光の分布を微小ロッド14の軸方向に沿った共鳴的な電子振動(局在表面プラズモンポラリトン)に変換して他方の端部14b側へ送ることで、並列的なイメージング法が実現されている。
【0049】
次に、図5および図6には、微小ロッド14の軸方向に沿った縦共振現象と諸特性に関するグラフが示されているが、様々なサイズの微小ロッド14および微小ロッド14の配列について数値シミュレーションを行ってその特性を調べたところ、微小ロッド14の直径dと長さhを決めると、それに対して局在プラズモンの電子振動が最も強く出力端である他方の端部14bに現れる最適の周波数があった。
【0050】
例えば、円柱形状の微小ロッド14の直径dが20nmであり、微小ロッド14の長さhが50nmであり、間隔gが40nmである近接場光分布伝送素子10では、波長500nmの緑色の光と強く共鳴し、図5に示したように、近接場光分布伝送素子10の微小ロッド14の出力側の端部14bに強いホットスポット(図2のイメージ図において白色で示された領域である。なお、こうしたホットスポットは、他の図においても同様に白色で示す。)を生じさせ、横方向への漏れが殆ど生じない。
【0051】
また、光源の双極子振動子と微小ロッド14の端部14aとの間の距離を変化させたところ、光源と微小ロッド14との結合に強い距離依存性があった(図6参照)。このことは、近接場光分布伝送素子10が近接場光と極めて強い相互作用を持つことを示している。
【0052】
上記のようにして、様々なサイズの微小ロッド14およびその配列について、数値シミュレーションを行ってその特性を求めたところ、微小ロッド14の直径dと長さhを決めると、それに対して局在プラズモンの電子振動が最も強く出力端に現れる最適の周波数があることがわかった。
【0053】
これらの結果から、近接場光分布伝送素子10において適切な光源波長を選べば、近接場光の情報を高い空間分解能で効率よく、近接場光分布伝送素子10の入力側たる端部14a側から出力側たる端部14b端へ伝送できるものである。
【0054】
また、上記の設計パラメータでの伝送されるイメージの空間分解能は、微小ロッドを配置するピッチたる間隔gに依存して決定され、円柱形状の微小ロッド14の直径dが20nmであり、微小ロッド14の長さhが50nmであり、間隔gが40nmである近接場光分布伝送素子10では40nmとなる。
【0055】
ここで、長さhがより長い微小ロッド14を用いてイメージ伝送する際には、その長さに依存したより高い共鳴モードに対応する波長成分を使うことにより、微小ロッド14の長さh分だけイメージ伝送を行うことが可能である。
【0056】
さらに、近接場光分布伝送素子10の出力側の端部14bに蛍光色素や半導体ナノ粒子を配置することにより、出力画像を伝搬光に変換することもできる。
【0057】

以上において説明したように、近接場光分布伝送素子10は、新規なプラズモニック構造としてナノメートルオーダーの銀などの金属により形成された微小ロッド14のアレイを用いるようにしたものであり、アレイの入力面に置かれた回折限界以下の近接場2次元パターンが微小ロッド14の配列、即ち、プラズモニックナノロッドアレイを介してぼけることなく出力端に転写されるものであり、このことは3次元有限差分時間領域法による数値計算シミュレーションにより示された。
【0058】
この超解像イメージングのメカニズムには、上記した微小ロッド14固有の局在プラズモン共鳴が寄与しているものであり、そのため共鳴波長により像を高効率に伝送することができるものである。
【0059】

次に、本発明による近接場光分布伝送素子の第2の実施の形態について説明する。まず、図7には、本発明による近接場光分布伝送素子の第2の実施の形態の概念構成斜視説明図が示されており、この近接場光分布伝送素子100は、微小ロッド14を所定の間隙gapを開けて軸方向に複数(図7に示す構造においては2個である。)連接した積層構造を備えている点において、上記した第1の実施の形態による近接場光分布伝送素子10とは異なる。
【0060】
図8には、微小ロッド14たる銀ロッドの直径dが20nmであり、微小ロッド14の長さhが50nmであり、間隔gが40nmであって、間隙gapを2〜30nmに変化させた近接場光分布伝送素子100の3次元有限差分時間領域法による数値計算シミュレーションの結果が示されている。
【0061】
ここで、図8(a)には、この数値計算シミュレーションにおいて用いた近接場光分布伝送素子100の構成を示すものであり、間隙gapを開けて長さhが50nmの3個の微小ロッド14が軸方向に沿って連接された積層構造を備えている。
【0062】
こうした長さhが50nmの3個の微小ロッド14が軸方向に沿って連接した近接場光分布伝送素子100によれば、長さhが150nmの微小ロッド14を用いた場合の最適動作波長が1094.85nmであるのに対し(図8(b)参照)、動作波長が528.32nmとなり短波長化することができる(図8(c)参照)。また、出力側端部における強度についても、近接場光分布伝送素子100の方が大きくなる(図8(b)(c)参照)。
【0063】
なお、図8(d)には、間隙gapを変化させた場合のtransmittance(なお、transmittanceとは、伝送透過率(デシベル)を意味する。)およびMaxFreq@IP(なお、MaxFreq@IPとは、像面における最適伝送周波数を意味する。)の変化を示すグラフが表されている。
【0064】
そして、図9には、長さhが50nmの2個の微小ロッド14が軸方向に沿って連接した近接場光分布伝送素子100について、間隙gapを5nm、10nmおよび20nmと変化させた場合のイメージ図が示されている。なお、微小ロッド14は、直径dが20nmの銀ロッドであり、間隔gは40nmとした。
【0065】
この図9に示す例においては、間隙gapを10nmのときが最もよく近接場光を伝送していることが示されている。
【0066】
なお、図10には、図9に示す例に用いた微小ロッド14を軸方向に沿って10個連接した近接場光分布伝送素子100の数値計算シミュレーション結果のイメージ図が示されている。
【0067】
このように、微小ロッド14を軸方向に沿って10個連接した近接場光分布伝送素子100においても、近接場光の伝送が可能であることが示されている。
【0068】
即ち、複数の微小ロッド14を単層に配列したのみでは、伝送長ならびに光源波長の自由度が制限されることになるが、微小ロッド14を軸方向に積層するように構成すると、2次元近接場をより長距離伝送することが可能となり、また、波長オーダーの距離でのイメージ伝送を行うことができるようになる。
【0069】
即ち、微小ロッド14を軸方向に積層するように構成することにより、長いロッドが持つ長波長かつ高次モードの局在プラズモン共鳴を誘起することなく、可視光領域で波長オーダーの長距離光伝送が可能になる。その結果、近接場光分布伝送素子100によれば、同一の距離を伝送するに際して、その伝送効率は微小ロッド14を単層に形成した場合(近接場光分布伝送素子10を参照する。)と比較して3倍向上し、積層間距離である間隙gapを制御することで、伝送光周波数を容易に選択できることができるようになる。
【0070】

次に、図11には、伝送する像の倍率を拡大するための構成が示されている。即ち、微小ロッド14を間隙gapを開けて積層する際に、近接場光分布伝送素子100を構成する複数の微小ロッド14の束の外径方向へ出力側の端部が向くように微小ロッド14を積層すると、伝送する像の倍率を拡大して伝送することができる。
【0071】
また、上記したように、出力側の端部に蛍光色素や量子ドットを形成しておくと、伝搬光へ変換することができる。
【0072】

ここで、図12には、近接場光分布伝送素子10および近接場光分布伝送素子100の特性を制御するための各パラメータの設定範囲と特性に関する図表が示されている。
【0073】
即ち、微小ロッド14の直径dについては、その最小値はナノメーターオーダーであり、その最大値は使用波長の1/2程度の範囲である。なお、微小ロッド14の直径dが大きくなると、共鳴波長は短波長側へシフトする。
【0074】
また、隣り合う微小ロッド14同士の間隔gは、1本の微小ロッド14の周囲にしみ出す電場が隣接する微小ロッド14に結合しない距離である。この距離は周囲媒質12の屈折率により変化し、屈折率が大きくなるほど当該距離である許容間隔は小さくなる。例えば、周囲媒質12の屈折率が1であり、微小ロッド14の直径が20nmである場合には、当該距離(許容間隔)は40nm以上である。
【0075】
次に、微小ロッド14の長さhであるが、当該長さhは、例えば、数nm以上であり、原理的な限界は使用波長との兼ね合いで決まる。なお、単一のロッドについては、10μm程度まで報告がある(「R.M.Dickson and L.A.Lyon, J.Phys.Chem.B 104, 6095 (2000).」参照 )。
【0076】
また、微小ロッド14のアスペクト比(長さh/直径g)と共鳴波長との間には図13に例示する線形関係があり、周囲媒質12の屈折率を含めて、近接場光分布伝送素子10および近接場光分布伝送素子100を設計する際の自由度は大きい(「J.R.Krenn, G.schider, W.Rechberger, B.Lamprecht, A.Leitner, F.R.Aussenegg,and J.C.Weeber, Appl.Phys.Lett. 77, 3379 (2000).」参照)。
【0077】
さらに、微小ロッド14の材質については、微小ロッド14の誘電率εが、
ε≦−ε(ε:周囲媒質12の誘電率)
を満足する導電体である。具体的には、Ag、Au、Cu、Al、NiあるいはPtなどである。
【0078】
また、周囲媒質12の材料は、誘電率εが、
ε≧1
の誘電体や半導体である。具体的には、誘電体としてはガラス、SiOやAlなどが用いられ、半導体としてはSi、GaAs、GaNあるいはAlAsなどが用いられる。なお、屈折率nについては、
n=√ε
が大きいと、共鳴波長は長波長側へシフトする。
【0079】
次に、動作波長については、使用する微小ロッド14の材料で決まるプラズモンの励起波長λ以上の波長が必要である。具体的には、Auで390nm程度であり、Agで360nm程度である。なお、その限界波長以上では任意の波長で伝送は生じるが、上記のように設定すると共鳴波長で効率が高い。
【0080】
間隙gapを開けて複数の微小ロッド14を軸方向に連接して積層する場合には、間隙gapは30nm以下である。なお、間隙gapが0に近づくに従って、連続した長い単一の微小ロッド14の共鳴条件に収斂され、間隙gapが大きくなるに従って、短波長側にシフトして短い単一の微小ロッド14の共鳴条件に収斂される(図14参照)。
【0081】

なお、上記した近接場光分布伝送素子10および近接場光分布伝送素子100は、例えば、近年発展の著しい自己組織化的な化学処理により得られるナノホール配列形成のテクニックや通常の半導体プロセスにより比較的容易に作成できるものであり、具体的には、従来より周知の陽極酸化アルミナのホール配列形成による金属ロッドテンプレート法、金属との誘電体との交互電気メッキ法、反転転写法あるいは2光子吸収レーザーアブレーションによるホール形成によるテンプレート作成法などを用いて作製することができる。
【0082】

なお、上記した実施の形態は、以下の(1)〜(4)に示すように変形することができるものである。
【0083】
(1)上記した実施の形態においては、伝送用ロッドとして中実の金属ロッドを用いたが、これに限られるものではないことは勿論である。即ち、図12を参照しながら説明した材料であれば金属以外の材料を用いてもよく、こうした材料によって中実なロッドを形成して微小ロッド14として用いてもよい。
【0084】
(2)上記した実施の形態においては、伝送用ロッドとして中実の金属ロッドを用いたが、これに限られるものではないことは勿論である。即ち、図12を参照しながら説明した材料でないガラス材料や樹脂材料の表面に、図12を参照しながら説明した材料をコーティングして微小ロッド14として用いてもよく、あるいは、図12を参照しながら説明した材料を上面と下面とが閉塞された中空な筒状に成型して微小ロッド14として用いてもよい。
【0085】
(3)上記した実施の形態においては、微小ロッド14は円柱状の形状を備えるものとしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、三角柱状、四角柱状あるいは五角以上の多角柱状の形状を備えるようにしてもよい。
【0086】
(4)上記した実施の形態ならびに上記した(1)〜(3)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、集積回路製造におけるリソグラフィー、新素材の開発あるいはバイオサイエンス研究などに利用することができる。より詳細には、本発明は、新世代ナノリソグラフィや新しいバイオイメージングなどナノ領域での画像伝送用のデバイスへ利用することができる。また、単なるイメージング応用にとどまらず、従来の微小光学デバイスと電子デバイスの新しいナノインターフェースや、極めてコンパクトなプラズモン波の干渉デバイスなどへも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1は、表面プラズモンポラリトンの説明図である。
【図2】図2は、局在表面プラズモンポラリトンの説明図である。
【図3】図3は、本発明による近接場光分布伝送素子の第1の実施の形態の概念構成斜視説明図である。
【図4】図4は、本発明による近接場光分布伝送素子の3次元有限差分時間領域法による数値計算シミュレーションの説明図である。
【図5】図5は、本発明による近接場光分布伝送素子の3次元有限差分時間領域法による数値計算シミュレーションの説明図である。
【図6】図6は、本発明による近接場光分布伝送素子の3次元有限差分時間領域法による数値計算シミュレーションの説明図である。
【図7】図7は、本発明による近接場光分布伝送素子の第2の実施の形態の概念構成斜視説明図である。
【図8】図8は、本発明による近接場光分布伝送素子の3次元有限差分時間領域法による数値計算シミュレーションの説明図である。
【図9】図9は、本発明による近接場光分布伝送素子の3次元有限差分時間領域法による数値計算シミュレーションの説明図である。
【図10】図10は、本発明による近接場光分布伝送素子の3次元有限差分時間領域法による数値計算シミュレーションの説明図である。
【図11】図11は、本発明による近接場光分布伝送素子の第2の実施の形態の変形例の概念構成斜視説明図である。
【図12】図12は、本発明による近接場光分布伝送素子の特性を制御するための各パラメータの設定範囲と特性との関連性を示す図表である。
【図13】図13は、微小ロッドのアスペクト比(長さ/直径)と共鳴波長との間の関係を示すグラフである。
【図14】図14は、微小ロッドを積層する際の間隙gapと共鳴周波数との間の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0089】
10 近接場光分布伝送素子
12 周囲媒質
14 微小ロッド
14a 端部
14b 端部
100 近接場光分布伝送素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電率εが周囲媒質の誘電率εに対して
ε≦−ε
である所定の材料により少なくとも外周部位を形成された微小ロッドを、2次元平面に対して軸方向がそれぞれ所定の方向に延長するようにして、前記2次元平面上に互いに所定の間隔を開けて複数立設するように配置し、
前記複数立設するように配置した微小ロッドの一方の端部側へ近接場光を入射するようにした
ことを特徴とする近接場光分布伝送素子。
【請求項2】
請求項1に記載の近接場光分布伝送素子において、
前記微小ロッドは略円柱形状である
ことを特徴とする近接場光分布伝送素子。
【請求項3】
請求項2に記載の近接場光分布伝送素子において、
前記微小ロッドの直径は、前記微小ロッドへ入射される近接場光の波長の略1/2以下である
ことを特徴とする近接場光分布伝送素子。
【請求項4】
請求項1、2または3のいずれか1項に記載の近接場光分布伝送素子において、
前記所定の間隔は、前記微小ロッドの周囲にしみ出す電場が隣接する前記微小ロッドに結合しない距離である
ことを特徴とする近接場光分布伝送素子。
【請求項5】
請求項1、2、3または4のいずれか1項に記載の近接場光分布伝送素子において、
前記微小ロッドの長さは、10μm以下である
ことを特徴とする近接場光分布伝送素子。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5のいずれか1項に記載の近接場光分布伝送素子において、
前記周囲媒質は、
ε≧1
である誘電体または半導体である
ことを特徴とする近接場光分布伝送素子。
【請求項7】
請求項6に記載の近接場光分布伝送素子において、
前記誘電体は、ガラス、SiOまたはAlであり、
前記半導体は、Si、GaAs、GaNまたはAlAsである
ことを特徴とする近接場光分布伝送素子。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6または7のいずれか1項に記載の近接場光分布伝送素子において、
前記所定の材料は、Ag、Au、Cu、Al、NiまたはPtである
ことを特徴とする近接場光分布伝送素子。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8のいずれか1項に記載の近接場光分布伝送素子において、
前記微小ロッドを所定の間隙を開けて軸方向に複数連接した
ことを特徴とする近接場光分布伝送素子。
【請求項10】
請求項9に記載の近接場光分布伝送素子において、
前記所定の間隙は、30nm以下である
ことを特徴とする近接場光分布伝送素子。
【請求項11】
請求項9または10のいずれか1項に記載の近接場光分布伝送素子において、
前記軸方向に複数連接した前記微小ロッドは、前記2次元平面に対する軸方向が異なる方向に延長した
ことを特徴とする近接場光分布伝送素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図11】
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【図12】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−171416(P2007−171416A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−367201(P2005−367201)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】